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音楽科の授業記録に関する一考察 : 教授行為の記述を中心に

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Academic year: 2021

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(1)Title. 音楽科の授業記録に関する一考察 : 教授行為の記述を中心に. Author(s). 篠原, 秀夫. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 42(2): 273-284. Issue Date. 1992-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/5195. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第42巻 第2号 i i ty ofEducat t on 1 C) Vol on(Sec Jomnalof Hokkaido Universi .42 .2 , No. 平成 4年2月 Feb 1組劉γ,1992. 音楽科の授業記録に関する-考察 -- 教授行為の記述を中心に --. 篠. 1. 原. 秀. 夫. は じめ に. ここ数年, 授業研究において, 授業記録・授業記述に関わる研究 が行われるよう になっ てきた. 学校関係の研究紀要や授業研究に関する単行本・雑誌には, 毎年のように多くの授業記録 が掲載さ れる. この授業記録には, いくつかのスタイ ルがあるが, その中で最も多く見られるの が 「TーC 型授業記録」 と呼ばれているものである. 音楽科においても, このスタイ ルの授業記録が圧倒的に 多いと言える. 「T-C型授業記録」 とは 下図のように 教師の発言と児童・生徒の発言をT, Cで区別し, , , テー プレコーダーや ビデオデッキ等からベ夕おこししたタイ プの授業記録である. 発言は直接話法 の形で書かれる. 記録者によっ ては, C I C2の変わりに, 児童・生徒の名前を具体 的に記述する こ とも あ る.. 教師 )… T (. …. …. …. … .. C1(児童 1 ) … ・ C2 (児童 2)・ ・ ・ . . ・ ・. T (教師) …. …. … .・. ところが, この 「T-C型授業記録」 は読んでみるとわかりにくいもの が多い. 授業の内容が読 者になかなか見えてこないのである. 読んでいて, 授業のイメー ジを頭の中で描き続けることがで きなくなり, 途中で挫折してしまうこともある. 教育現場の先生方に, この 「TーC型授業記録」 に 関 して 聞 い て も, 「ほ と ん ど読 む こ と が な い」 あ る い は 「つ ま ら な い. お も しろ く な い」 と い う 答 え が返 っ て く る.. それは何故であろうか. 「T-C型授業記録」では, 書かれない, つまり読者に伝わっ てこない情 報 が多いからである. 明らかに, 「T-C型授業記録」は, 非生産的な授業記録と言える. にも拘わ らず, この授業記録は毎年のように多く書かれているのである. 藤岡信勝氏は, 「TーC型授業記録」の問題点を克服するもの として, 「ストッ プモー ショ ン方式」 の授業記録を提唱している. 「ストッ プモーショ ン方式」 には次の二つの意味がある 一つは ビデオを用 いた授業検討会の方 . 1 )であり もう一つは授業記録の記述のスタイ ルとしてのス トッ プモーショ ン方式である. 現在, 式( , この 「ストッ プモーショ ン方式」 は, 授業検討会と授業記述の両側面 が支えあいながら授業研究の シス テ ム と して 広 が り つ つ あ る. 273.

(3) . 篠 原 秀 夫. 本稿では, この 「T-C型授業記録」 と 「ス トッ プモーショ ン方式の授業記録」 を取り上 げなが ら, 授業記録の果たす役割を明らかにし, さらに音楽科における授業記録の問題点を明らかにして いきたい. その中でも, 特に音楽科特有の教授行為の記述に焦点をあてて考えてみる‐. 1 1. 「TーC型授業記録」 の問題点. 2 )である 小学校で見られる一般的な歌唱指導の最初 次の資料1は, 「TーC型授業記録」の、一例( ・. の部分である. 資料1 T I さ あ, 始 め ま し ょ う. (先生の伴奏に合わせて, 修礼をする) (「美 し い 声 でJ という目標を板書する). T2 この前までやってきた 「大きな歌」 を歌っ てみよう. 最初だから立うて歌おう. T3. さ て, 歌 う 姿 勢 は い い で す か.. (先生の指示に合わせて, ①足の位置と手の状態, ②重心の位置, ③背すじ, ④目線を確認 ・. す る). C T4. 「大きな歌」 を歌う) ( 猫 が多 く な っ て き た よ. こ っ ち だ よ.. T5 この前の時間にもう一曲やったよね. 何という曲. C. 「も しも コ ッ ク さ ん だ っ た な ら 」. T 6 う ん, そ う だ ね. こ れ も 歌 っ て み よ う.. C. 「もしもコックさんだったなら」 を歌う) (. T 7 そ れ で は 座 っ て く ださ い. 今 日 は声 が よ く 響 い て い て, と て も い い よ.. T8 さて, この前の時間から 「美しい声で」 という目標で勉強してきているのだけれ ど, 今日 は, 最初に ビデオを見てもらいます. どんなビデオかと言うと, 全国の合唱コンクールで優 勝した小学校の子ども達が歌っ ているものです. みんなの歌い方とどこが違うか, 口の開け 方や顔の表情に注意して鑑賞しようね.. … (以後省略) … 音楽科の授業は, その多く が音楽的活動で占められるのが一般的である. したがっ て, 教師と児 童・生徒の発言を中心に記述される 「T-C型授業記録」 では, 当然ながら記述されにくい事柄が 出てくる. そのために, 資料1にも見られるように, 音楽的な活動や児童・生徒の状態が括弧等を使っ て, 補助的に記述することが行われる. こうした補助的な記述がなければ, 「T-C型授業記録」から授 業を再現することは不可能に近いと言える. ところが, この補助的な記述すらされていない 「T- C型授業記録」 が意外に多いのである. 3 } 教師の音楽的な働きかけや音楽のどの部 次の資料2は,括弧を巧みに使っ た授業記録例である( . 分で指導言を発しているか, あるいは子 どもたちの活動状況を括弧内に明確にしかも手短にまとめ ている. 仮にこの括弧内の記述を取り除いたとしたらどう であろうか. 授業記録を読んだだけでは, 授業の内容を理解することはできないであろう. 資料2 T 274. (C D春の風はかけてゆくよ, をさえぎっ て) ノーノ. なぜ先生がノーっ て言っ たかわか.

(4) . 音楽科の授業記録に関する-考察 った人 ?. T. (子 どもの意見に) そう だ な‐ き み た ち の は, D は る の か ー ぜ は ッ. か け て ゆ ー く よ ッ.. D はる の か ー ぜ は 一 か け て ゆ ー く よ, と 流 れ る よ う に.. C Dはるのかー ぜは一かけてゆーくよ T そう, 上手だ. (Pはる だよはるだよ● の直前で) 吸っ て. D シャパ シャパ. の 直 前) こ と ば, は っ き り.. T. (二 番. T. (Dおはよう. の直後) 背中伸 ばして.. (D はる だ よ. の 直 前) プ レ ス して.. T. (三番, 一緒に歌う) Dはるのかー ぜは一かけてゆくよ (Dはるだよ の直前) しっ かり.. T. (三番まで歌い 終 わ っ て) “ は る だ よ は る だ よ (デ ィ ミヌ エ ン ド して) っ て いう 歌 じ ゃ な い.. T. D はる だ よ は る だ, よ 一 (よ を 朗々 と 歌 う) っ て い う 歌 よ. し ょ ぼ ん と な ら な い で. は い 一. 番最後, Dあそ ぼう, もうち ょっ とち ゃ んと歌っ て. 先生今晩寝られないなあ (さらっ と続 けて言う) . C Dあそぼう T. … ・・(盛り上げて歌い切る). よ しよ し, う ま い う ま い.. 確かに, この括弧を使った補助的な記述は大切である. しかし 「TーC型授業記録」 の問題点は, 括弧を使えば解決するという単純なものではない. 教師の発言 (指導言) の記述に関しても, 次のような問題が上 げられる. 教師の発言をそのまま 記述したのでは, 教師が何を意図して発言したのか, わかりにくいのである. 次は資料1の中のT 5の発言である. 猫が多くなってきたよ. こっちだよ. 上の発言は, 「背中が丸まって, 姿勢が悪くなっています. こっち (先生の方) をしっ かり見てく ださい」 という意図から発せられたものである. この例は, まだ比較的教師の意図を想像しやすい ものである. しかし, 教師が何を意図してこの発言を したのか, またその結果, 児童・生徒がどの ように変わっ たか, といっ たことに関する記述 がなければ, わかりにくいものと言える. この問題に関して藤岡信勝氏は, イ ギリスの哲学者J. L. オースチンの 「言語行為論」 をもと 4 ) に, 考 察 して い る( .. オースチンは, 言葉を用いてなされる行為を次の3つに 分けて考えている. locut ionary act ) ①発語行為 (. これは, 言葉を発する という行為である. ionary act l locut ) i ②発語 内行為 (. これは. 言葉を発する中で行われている行為である. ionary act locut ) ③ 発 語 媒 介 行 為 (per. これは, 言葉を発し, その中で何らかの行為を行うことによって, 結果的になしとげられる 行為である. オースチンの 「言語行為論」 に基づいて, T5の教師の発言を考えてみる. 教師がまず 「猫が多くなってきたよ. こっちだよ」 という言葉を発している. この行為それ自体 275.

(5) . 篠 原 秀 夫. が発語行為である. 次に, この言葉を発すると同時に, 「歌う姿勢が悪いので直しましょう」という 内容の 「注意をする」 という行為が行われることになる. この 「注意をする」 という行為が発語内 行為である. さらに, これらの行為 (発語行為, 発語内行為) から, 結果的に 「歌う姿勢を直させ る」 という行為がなしとげられる のである. これが発語媒介行為である. したがって, T5の発言の箇所は, 授業記録の中でただ単に教師の発言を書く のではなく, 次の ような内容のことが書かれるとわかりやすくなる. 教師は 「猫が多くなっ てきたよ」 と姿勢が悪くなっ ているのを指摘し、 「こっちだよ と先生の方を見ながら歌うことを指示した。 「T-C型授業記録」 では このように教師や児童・生徒の発言の発語行為のみが記録されるの , である. 授業の内容がなかなか読 み取りにくい原因がここにある.. m 授業記録における教授行為の記述 なぜ, 授業記録を書くのか. 筆者は, 教授記録の役割が, す ぐれた授業を多くの教師が共有化し ていくための一つの手段と考えている. そのためには授業記録が, 行われた授業内容を的確に伝達 するものでなければならない. これまで音楽科では, 「授業を分析し, 文章化して検討する」習慣が他の教科と比べて少なかっ た と言える. そのため, 授業記録に関しては, それほどの関心が払われてこなかっ たのである. した がって音楽科においても, 「TーC型授業記録」がそれほど問題にされないまま, 書き続けられてき たと言える. 授業記録は, 先ず第一に, 客観的な授業事実を伝えるものでなければならない. そのためには, 教師の発語行為だけでなく, 発語内行為や発語媒介行為を記述していくことが大切である. そして 第二に, 読者に読まれ授業研究に役立つようなものでなければならない. そのためには, 教師の多 様な教授行為の記述が重要なポイ ントになると考えている. 教授記録が生きたものになるか どうか は, 教授行為の具体的な記述 の善し悪しにかかっていると言える. 筆者はこの数年来, 指導言を中心に, 音楽科教育における教授行為研究の意義や重要性を述べて 5 ) ここで言う教授行為とは「発問 指示 説明から始まっ て 教具の提示や子 どもの討論の組 きた{ . , , , 織におよぶ, 現実に子 どもと向きあう場面での教師の子 どもに対する多様な働きかけとその組み合 6 )と い う 意 味 で あ る わ せ」( .. 音楽科における教授行為は多様であり, 指揮, 伴奏, 範唱, 範奏, 指導言, 学習形態の組織, 教 育機器の活用, 板書, 等がある. ところがこれまで, これらの教授行為に関して, その重要性が問われてはこなかった. 教育内容 や教材の重要性に比べれば, 付随的な問題と考えられてきたのである. その背景として, 教授行為 に関するものが, 現場の経験の中で身につければこと足りる, あるいは経験を長く つめ ば, 自然に 身につくものだと安易に考えられてきたことが上 げられる‐ しかし, この教授行為が適切でないために失敗する授業は意タ に多いのである. 経験豊富な教師 の授業であっ ても, 教師から児童・生徒 への働きかけが拙かっ たために授業が失敗 に終わることも ある. 逆に, たった一つの指導言, 一つの場面の伴奏, あるいは教材の提示の仕方であっ ても, 授 業の成否を握るくらい重要な役割を果たすことも多いのである. 276.

(6) . 音楽科の授業記録に関する-考察 授業過程に見られる 教授行為は, 教師の一貫した授業方針 (授業戦略) から導き出されるもの で あり, 大小さまざまなレベルの教授行為が階層構 造をなしている. したがっ て, 教授行為を客観的 に安定した事実として記述するのは, 困難を伴う 場合がある. しかし, す ぐれた授業を多くの 教師 が共有化していくために は, 何らかの形で記述していくことが大切である. たとえ断片的な記述で あっても, その積み重ねが大切になっ てくるのである. 授業記録は, 記録者の授業記録に関する考え方によっ て, そのスタイ ルや内容が異なっ てくると 言える. また, 記録者の授業観にも左右される. 教授行為に関心が払われていない授業記録では, 次のような記述が見られがちである. 先程の資 料1の中のT3である.. さて, 歌う姿勢はいいですか. (先生の指示に合わせて, ①背すじ, ②足の位置 と手の状態, ③重心の位置, ④目線,. を確認する) 「TーC型授業記録」 では, 授業の中の教師の発言は, ほぼすべて記述されるのが一般的である. しかし, この記述の中で は省略された形で記述されている. 教授行為に関心を持って授業記録を読 むのであれ ば, 読者は教師の具体 的な指示 (指導言) が知 りたいはずである. ところがここでは, どの部分に関して指示を出したかという 結果しか知ること ができない. この指導場 面で, 教師はそれぞれの項目に関して何らかの指示を出 したはずである. その具体的な指示こそが重要 である. 「 授業記録に限ら ず, 学習指導案でも同 じような傾向 が見られる. 例え ば, ① 情景を想像しな が 「 「 「 ら歌う」 , ④ 腹式呼吸をする」 等の記述であ , ③ 曲想を生かす」 , ② 気持ちをこめて演奏する」 る. つまり, 教師の具体的な発語行為が記述されるのではなく, 結果として 生じる発語媒介行為の みが記述されるのである. 確かに授業記録では, 省略して書かれる部分もある. 発語行為を省略し, 要約して書くこ とによ り, 授業の流れや 全体がつかみやすく なることもある. しかし, 前述の①~④等の指導に関しては, 多くの教師がその具体的な指導を知りたい場面ではないであろうか. どのような指導言や音楽 的な 働きかけをしているのか, 具体 的な教授行為を知り たい場面なのである. 教授行為は, 音楽科に限らずどの教科においても, 言葉による ものと言葉以外によるものとに大 きく分けることができる. 音楽科では, 言葉以外によるものの中で音楽による働きかけが, この教 科特有のものと言える. 例え ば伴奏, 範唱, 範奏, 等である. その他にも, 指揮, 教材の提示, 教具の操作, 板書, 等がある. さらには, 教師のしぐさ, 顔の 表情, 目の動き, 間の取り方, 立つ位置, 等も大切な教授行為である. 音楽科の授業記 録の中で問題になるのは, 言葉による働きかけ, つ まり指導言に関する記述より も, むしろ言葉以外の 教授行為ではなかろうか. 特に, 児童・生徒が音楽活動を行っている間の教 師の教授行為 が, 授業記録の中 で欠落してしまうことが多い. 教師は, 児童・生徒の音楽活 動の間 に, 指導言だけでなく, 何らかの言葉以外の働きかけを行っ ている. 例えば指揮, 伴奏, 範唱, 顔 の表 青の工夫, 手振り・身振りの工 夫, 等である. これらは, 「指示」 の機能を持つ大切な教授行為 なの で あ る.. これらの教授行為は, 言葉で説明するの が困難なものもある. 特に演奏の技術に関わることは, 277.

(7) . 篠 原 秀 夫. 記述が難しいと言える. しかし, こう した 「指示」 の機能を持つ教授行為を可能な限り記述してい くことが大切なのである. 例えば次のような例がある. ある教材曲の00の部分から, 伴奏型を次のAの型からBの型 へ変える . A .. B.. このような教授行為は, 教師の授業観, そして教材研究, 教材解釈, さらには を童・生徒の実態 (認識能力)の把握, 等に基づいて行われるものである. つまり, 「00の部分では, こんなふうに 表現させたい. そのために, 00の部分では伴奏型を変えてみよう」 , 等のような教師の意図から行 われるのである. したがって, 授業記録の中では, 省略することのできない教授行為と言える と , ころがこのような重要な 「指示」 の機能を果す教授行為が, 授業記録の中では欠落しがち なのであ る. 次のような簡単な記述の名に隠れてしまうことが多いのである. 教師の伴奏で, 教材曲00を1番~3番まで歌唱する. 同じような 「指示」 の機能を持つ教授行為をいく つか上 げてみる . ・. 教材曲の00の部分になったら, 指揮をする教師の顔 が悲しそうな表情に変わっ た. ・. 教材曲 (合唱曲) の00の部分では, 教師はアルトパ ートの前に移動して指揮 をした . 教材曲の00の部分から, 教師は指揮だけでなく, 一緒に歌 い始めた . 「もっ とこっちまで響かせてごらん と指導言を発しながら 右手を使い さらには 」 , ,. ・. 指揮をしている場所から身体を後ろに移動させた. 上の例にも見られるように, 指導言以外の教授行為 の記述が難しい理由の一つは 「指示」の機能 , が隠れている場合があるからである. いわゆる 「かくれ指示」 の存在である . 「かくれ指示」 は 教師と児童o生徒の間での暗黙の共通理解 (習慣的につくられる約束) であ , ることが多い. 教師が明確な指示 (指導言) を出さなくても, 児童・生徒は暗黙の 「かくれ指示」 によっ て動くことがある. 次の例は, 典型的な 「かくれ指示」 の指導言例である . 〔発問〕 シューベルトの音楽で何か知っ ている曲はありませんか. 〔かくれ指示〕 知っ ている人は手をあ げなさい. 手をあげた人に先生があてます . 「かくれ指示」 は 指導言だけに見られるものではない 例えば 教師の厳しい顔の表情や腕組 , , . みする姿が, 「もう一度やりなおし」を意味したり, あるいは板書したところにアンダーライ ンを引 いたり, 指さしたりすることが, 「その事に注意しながら取り組 みなさい」を意味したりすることで ある. さらに, 音楽的な働きかけに次のような 「かくれ指示」 もある 「教師がこの歌をピアノ で弾いた . ら ・ ・ ・ す る」 とい う ミ ュ ー ジ ッ ク サイ ンも そ の ひ と つ で あ る 教 師 が 「次 は . . ; し ま し ょ う」 .. という指示をする変わ りに, ピアノやキー ボー ドを巧みに使い, さまざまな音楽で児童・生徒を動 かすのである. したがってこのような授業では, 教師の指導言が少なくなると言える . 278.

(8) . 音楽科の授業記録に関する-考察 この 「かくれ指示」 に関しては, 参観者や記録者の意識や関心が別のところにある と, 見逃して しまったり, 気づかないまま進行してしまう ことが多い. また, 記録者の音楽的な力量や授業 を見 る力にも影響されると言える. これまで述べてきたように, 音楽科においては, 指導言だけではなく, 指導言以外の教授行為を いかに記述 していくかということが大きな課題と言える. 特に音楽的な働きかけや視覚 的に捉えて いかなければならない教授行為の記述が大切になる.. IV. 「ス トッ プモーショ ン方式」 の授業記録. 音楽科の授業記録において, 指導言だけでなく指導言以外の教授行為の記述を考えていく場合, 「T冊C型授業記録」 では明らかに限界 と言える 前述 したように, 藤岡信勝氏 はこの 「TーC型 . 授業記録」 に変わるもの として, 「ス トッ プモーショ ン方式」 の授業記録を提唱している. 「ストッ プモーショ ン方式」 の授業記録は 授業で生じた事実を文脈を切らずに記述することが , 目標とされる. そのために, 授業の中の教師と児童・生徒の発語行為, 発語内行為, 発語媒介行為, 言語外行為等の必要に応じた記述とともに, 発言内容の文脈的意味の記述や授業の構造連関の記述 まで行われる. また, ビデオによる授業検討会で議論した内容を簡潔に授業記録の中に 「注」 に近 い形1ストッ プモーショ ン1で記述される. コス トツ プモーショ ンコでは, 記録者のコメ ントが加えられる. その授業のす ぐれた点を取り上 げ, その意味を分析したり, 問題点の指摘と改善策を述べたり, 記録だけではわからない授業の伏 線やつながりを解説したりするのである. このコメ ントは, 授業の全体像を捉えた上で行われ なけ れ ば な ら な い.. こう した 「ス トッ プモーショ ン方式」 の授業記録には, 次のような藤岡氏の基本的な考え方 があ 「 { 7 識をすてて, より意 る) . どんな記録も完全ではない. だとすれば, 完全な記録を書こうという意 味のある記録を書こうと意識すべきである‐ どのような記録を書いても, 記録者の選択・解釈は入 り込む. だとすれば, より適切な選択, より整合的な解釈をするよう努力す べきである. そして, 授業の中の無限にある事実の中から, より意味のある事実を発見する ようにすべきである」 つまり授業記録は, すでにあるものを鏡の ように写しとるものではなく, 記録者によっ て発見さ れた事実をもとに構成される ものなのである. この方式により, 授業全体の構想が見やすくなる. また記録者は, 自らの授業観や授業理論から 独 自 の コメ ン トを 書 く こ と が で き る.. 次は, 資料1で取り上げた授業の最初の部分を 「ストッ プモーショ ン方式」 で書き表したもので ある. 授業の流れは, 単なる発言をそのまま書くの ではなく, 発言時や発言前後の状態や指導言以 外の授業行為もできる限り取り上 げた. また, 筆者なりの授業観か ら, 授業解説やコメ ントが必要 と思われる箇所で注釈を行った.. 資料3 国. 声の調子は どうかな 『さ あ は じめ ま し ょ う』 ,. 教師のオルガン伴奏で修礼をする. 〔美しい声で〕 と板書をし, ゆっくりとにこやかに子 どもたちを見回す.. 279.

(9) . 篠 原 秀 夫. ス トッ プモーショ ン ① ここ数時間取り組んでいる題材 「美しい声で」 をここでは板書するだけで, あえて言 葉 に して い な い. そ の 変 わ り に, ゆ っ く り に こ や か に 見 回 す こ と に よ っ て, 子 ども た ち. に今日の目標を改めてな げかけている のである. 明らかにこれは, 「かく れ指示」 であ る. 大津氏は, この 「かく れ指示」 を巧みに使われる. 『さ て 歌う 姿 勢 は い い で す か』 ,. 次のような発問や指示によって, また教師が実際にやっ てみせることによっ て, 姿勢の指導を行 う,. .. 『足はどのくらい開くの』. 「肩幅よりも少しせまいくらい」 「親 指」. 『足 の どこ に 力 を い れ る の』. 『肩の力を抜いて手をだらんとして ごらん 手は足の横だよ』 . 『背 中 が 曲 が っ て い る 人 い る よ』. 『重心は少し前だよ』 「前の黒板」 『 . 最後にみんなどこ見るの』 “ ” 教師の伴奏で, 大きな歌 を歌う. 歌い終わってから, 『猫が多くなってきたよ. こっちだよ』と指示して, 猫背になりかけている子 どもたちの姿勢を直させる. 『この前の時間にもう一曲やっ たよね 何という曲』 . ドもしもコックさんだったなら“」 と 子 どもたちは嬉しそうに言う , . 『うん そうだね これも歌っ てみよう』 と言って前奏を弾き始める , . . “も しも コ ク さ ん だ た な ら” を 歌 う ッ っ .. 『そ れ で は座 り ま し ょ う 今 日 は 声 が よ く 響 い て い て と て も い い よ 』 , . . ス ト ッ プモ ー シ ョ ン. ②. 演奏の後の教師の評価表現は大切である. 次の演奏への意欲づけにつながるからであ る. この場面のように, 歌唱から鑑賞へと学習活動が大きく変わるような場合は, 特に 評価表現の工夫が必要である. 一つの学習のけじめをつけ, 新たな学習へ意欲を持って 入っていけるような教師の指導言 (評価表現を含む) が大切になる. ビデオで調べよう 『さて この前の時間から 〔美しい声で〕 という目標で勉強してきているのだけれど 今日は , , , 最初に ビデオを見てもらいます. どんなビデオかと言うと, 全国の音楽コンクールで優勝した小学 図. 校の子 どもたちが歌っているものです. みんなの歌い方とどこが違うか, 特に口の開け方と顔の表 情に注意して鑑賞しようね』 続いて次のような質問をする. 『ところでみんな 低い音と高い音 どちらが歌いやすいと思う』 , , 子 ども た ち は, そ れ ぞ れ 「低 い 音」 「高 い 音」 と 口 に す る.. 『低い音だと思う人』 3~4人が手をあげる . 『高い音だと思う人』 残りの子 どもたちが手をあげる . 『実はね 高い音の方が歌いにくいのです これから ビデオを見てもらう のだけれど 高い音を , . . 280.

(10) . 音楽科の授業記録に関する-考察 出す時にはどんな口の開け方で, また顔の表情はどうか, その点に注意をして鑑賞しましょう』 東京都金竜小学校による “花と草と風と” を鑑賞する. 子 どもたちは真剣に聞き入っている. ス ト ッ プモ ー シ ョ ン. ③. この場面では, 二つの問題がある. 一つは, 『低い音と高い音, どちらが歌いやすいと思う』という発問である. 確かに 子 どもたち は, 低いか高いかを選んではいる が, 発問内容が暖昧であり, 実にわかり にく い と 言 え る. どこ を 基 準 に 低 い 高 い を 考 え た ら よ い の か が 明 らか で は な い こ と と,. 発声の技術を考えた場合, 低い音も高い音も同じように難しさが伴うと言えるからで あ る.. もう 一つは, 教材としての ビデオ の内容である. 使用 した ビデオ は, 音楽コンクー ルの演奏である. したがっ て映像は, 子 どもたち全体や指揮者が写し出される場面が 多く, 個人の口の開け方や顔の表情に注意 して鑑賞するには, 不向きな映像と言える. ” 口の開け方や顔の表情の特徴 がじっくり鑑賞できるようなテー プ, しかも教材曲 も しも コ ッ ク さ ん だ っ た な ら” を 扱 っ て い る テ ー プ が 用 意 で き れ ば, ベ ス ト で あ ろ う.. )… …( 以後省略 取り上 げたのは, 授業開始の最初の部分であり, このまま書き続けると, 授業記録はかなりの分 量になる. したがっ て, 可能な限りの省略が行われることになる. どの部分を省略するかは, 記録 者自身の選択になる. 資料3の授業記録は, 資料1の 「TーC型授業記録」 と比較して, 明らかに授業内容がイメージ 的に再現可能な授業記録と言える. しかし, 文字による授業記録には当然な がら限界がある. 筆者 なりに大切であると考える教授行為 が, 思うように伝えることができないのである. 特に, 音楽的 な働きかけや教師のさり げない身ぶりや しぐさ, 表情に関しては, 微妙なニュ アンス があり, その 記述を困難にしている. 8 } この点に関連して, 山中文氏 は, 次のよう な授業記録に関する提案を行っ ている{ . 「音楽科に特徴的な 「身ぶり」 や 「身ぶり言語」 の記述に関して, 『身ぶり言語の例 ・歌に入る時に頭をふっ て合図する , . ミる時に手を下からすくいあ げるようにしてみせる.』 ・声を盛り上ぽ ① ②. 音楽科に多く見られる 身ぶり言語による指示を, 積極的に記述する. 身ぶりや身ぶり言語の記述は, ことばだけでなく, 必要に応じて図絵を入れ, 視覚的なイメ ージを持ちやすくなるよう にする.. ③. 記録者のコメ ントには, 藤岡信勝氏の指摘による授業全体の構想をわかりやすくするための コメ ントだけでなく, 身ぶりや身ぶり言語の指示の意図のコメ ントも加える.」. 次の資料4は, 提案に基づく山中氏の授業記録の 一部である. ⑧~⑲は記録者の注釈(コメ ント) である. 資料4 ・ ・ ・(前 略)・ ・ ・ 281.

(11) . . 篠 原 秀 夫. 「いい声だ」 で歌唱指導 軽く手を下げ, すわれの指示.. 国. . 歌に入る‐ 既習曲である‐ 子どもたち は 教師 の前奏0の って歌に入ることができた・ また’ イスをうしろにひいて, 教師が見える角度に向 け, 背筋をのばしている. ①のルールができた. . I L Iこぇ ぢ L. 泰 園. そ し て, 前 歯 が 覗 い て い る こ と を 見 せ, 歯 を 指. ヵまぇのこぇは. でチ ョ ンと は じく. さ ら に, 口 の 形 を そ の ま ま. え よ うに を る 口 雛 評 議 瞥見. 覆 膨. 軽至 蓋ミ様墓 Eョ. 教 師 は, 歌 の 途 中 D お ま え の・・・D の. “お” D い い こ え だD の “しぞ で 顔 を 子 ども , , た ち の 方 へ 向 け, 意 識 して 歌 う 口 の 形 を 見 せ な. “だ一” で 口の形をしたまま 伴奏を終わる , , .. ,. (ド(. 形である .. がら伴奏している ・最後のDまだましだ→ の. 瀞 -.}ぇ 拶▲. 軽. 震ョ. い”;ぇ だ. 継E 圏 茎壮 副 みえ34 ↓えより またョL た り. この歌は, いつも発声練習のために歌っ て い る 曲 で あ る.. 教師は, 「子犬のビンゴ」 は楽しく歌わせる歌, 「いい声だ. は声づくりのための歌と, 明 確に区別している. そのため, この曲では, 先ほどと異なり, 発声のための指示が多くとん で いる.. 歌い終わったあと, 教師の顔を見て口の形を変えた子 どもが多かったため, 『これで(歌い終わ ったあとに) いくらやっ てもだめね』 と注意. そして, 次のようにいう. “だ” とい た時に 前歯2本がそのまま Pだ一D っ , , (前歯を見せて歌う). 歪め. さらに, 『つまり, こういう風に』 といっ て, 上くち びる の両端を指で軽く押し上 げてみせる . 子どもたちから 「ウフフフ」 と笑い声がもれる. このあと, D だ一Dの歌い方の指導を次のよう に動作を交えて行っ ている.. (目を開けという指示). (声がまっ すぐ通るよという意味). こうしてDかえるの声よりまだましだーPの部分を歌う. 『目 が ピ ー ッ と な っ て ま す ね い い で す よ 』 .. ほめことばに, 子 どもたちは気をよくしたよう である. すかさず, 次の注意がとぶ. 2 82.

(12) . 音楽科の授業記録に関する-考察 「でもね あまり作りす ぎないようにね Dかえるのこえよりもま だましだああD (くち びる . , に力をこめオーバーに歯を見せてひとつひとつのことばを念押しする感じで)』 . もぅ一度 『き形 次に, W)声の見本を 『かえるのこえよりまだまし 膨 ⑨ これは, ⑥でも述べた, 注目させるためのお得意の方法である. いい声の見本の 方の ”だ”をわざと歌わずに口の形と指だけで示している. 子 どもたちは, どう して も 教 師 の 方 を 見 る こ と に な る. 松 本 氏 は, さ ら に こ の あ と ニ ッ コ リ し て, 『い い で す. か』 と無声音で念を押している. もう 一度Pかえる Dの部分を歌っ たあと, 今度は輪唱に. …. 入 る.. 『前(前列) ’ ’先にでます‐うしろ’ あと』 ・ 手を軽くあげ. つ指示. 前列が先, 後列があとになっ て, 「いい声だ」 を輪唱する. 途. 導. 鱗. 夢. 中,前 列 がD い い こ え だ い い こ え だ 一 D と 歌 っ た あ と で,『う し ろ』. と, 後列の歌い出しを指示している. 歌い終わると, 教師は, 親指とひとさし指で丸を作っ てみせる. うまいぞ, という動作である. そして, 手の平をくるっ とひっ くり返す動作で, 前列と後列の歌の順番を変えることを指示. 後列が先, 前列があとになっ て歌う. もうここでは, 歌い出し の指示なしである. 終わると, またまたうまいぞ, という動作を. して みせ る.. 一プを指でさす. 子 どもたちもつられて無声音で, 歌の順番を言 い あ っ て い る.. を糎て と る q ⑩以 妙 o納あ 師 は卿ご 嫌 槻て ,出 ,教 順 番 を 確 認 した .. 。. 2 グ′ L′フo. ⑲ ここまでの授業では松本氏お得意の指示 がまだうまく伝わらなかったため, ここでは, 子 どもの様子から指示を確認した方がいいと判断したよう である‐. 以後省略) … …( 山中氏の提案や授業記録に見 られるように, 身ぶり言語を言葉や図絵を使いながら, しかも書き 表せない部分を記録者のコメ ントで補っ ていくことは, 身ぶり言語 に限らず, 音楽科の教授行為の 記述を進めていく上で大切なことであると考える.. V. 結びにかえて. 「ストッ プモーショ ン方式」 の授業記録では 「授業の事実」 の記述と それに関する記録者の批 , , 評 (ストッ プモーショ ン) が, 形式上分離されるため, 行われた授業を, 記録者自身の授業観, 授 業理論を基に独自の見解から記述していくことができる. 記述の困難な音楽的な働きかけや視覚的. 283.

(13) . 篠 原 秀 夫. に捉えなければならない教授行為の記述は,1ストッ プモーショ ン喜の部分で, 補助 約こ記述するこ とが可能である. 「授業事実」 の地の文では, 書き表せない事柄を解説するのである. その場合に念頭に置かなければならない事は, 授業過程に見られる個々の教授行為が, 教授の一 貫した授業方針 (授業戦略) から導かれていることである. つまり肝心な所では, 授業全体に流れ るその教師の授業方針に触れながら, それとの関連で解説が必要になる. このように考えると, 授業記録には, 記録者の授業観, 授業記録観が如実に現れると言える. ま た, 教授行為に関する考え方, 分析の視点が映し出される. したがっ て, 授業記録を検討したり, 実際に書いていくことは, 授業を見る力を養っ ていくことにつながると言える. 先にも述べたように, 音楽科の教授行為は, 授業全体に流れる教師の授業方針のもと, 大小さま ざまなレベルの教授行為が階層構造をなすものである. 今後の課題は, この階層構造を1つの指導 場面, 1時間の授業, 1つの教授体系, というように段階を踏みながら明らか にしていきたい. ま た, これらを授業記録の中でどのよ ・うに明確に記述していくか, 検討していきたい.. 〔注〕 ( ) ビデオを用いた授業検討会の方式としての 「ストップモーショ ン方式」 に関しては, 次の拙稿を参照. 篠原秀夫 1 「音楽科教育における授業研究--ストッ プモーショ ン方式による授業研究を中心に 」 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第4 1巻第1号 1 99 0年9月 pp 0~1 5 2 .15 ( 2 ) この授業は, 19 8 9年1 1月8日, 北海道釧路市立柏木小学校3年1組にて公開研究授業として行われたものであ る. 授業者, 記録者 (TーC型授業記録) は共に柏木小学校の大津昭仁氏である. ( 3 ) 尾見敦子 『西六郷に歌声ひびけ 鎌田典三郎の合唱教育』 音楽之友社 1 987年 pp 0~7 2 .7 ( 4 ) 藤岡信勝 「授業記録をどう書くか(2)」『授業づくりネットワーク』 学事出版 198 9年 6月号 pp 3 .99~10 ( ) 拙稿 「音楽科教育における指示語に関する研究①~⑤」 『季刊音楽教育研究 5 5 8・6 0・6 1・63・6 7号』 音楽之 友社 1 9 89~19 91年 ( ) 藤岡信勝 「教材を見直す」 『岩波講座 教育の方法3 子どもと授業』 岩波書店 19 6 87年 pp 8~17 9 .17 ( 7 ) 藤岡信勝 「授業記録をどう書くか (6)」 『授業づくりネットワーク』 学事出版 19 8 9年 10月号 P‐ 1 0 3 ( ) 山中文 「音楽科の授業の記述について-- “指示” の記述を中心に--一 日本音楽教育学会第21回大会発表資 8 料 1 9 90年9月22日 (本学助 教 授. 284. 釧 路 分校).

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参照

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