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韓国のコイン -- 長い歴史のなかの新参者 (特集 途上国とコイン)

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韓国のコイン -- 長い歴史のなかの新参者 (特集

途上国とコイン)

著者

奥田 聡

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

215

ページ

8-9

発行年

2013-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003642

(2)

●トンジョンという呼び名

  韓国ではコインのことを指すと き、改まった形としてはチュファ (鋳貨) 、より砕けた形ではチャン ド ン( 小 銭 )、 あ る い は ト ン ジ ョ ンと呼ぶ。チャンドンがどちらか というとその通用価値に注目して いるに比べ、トンジョンは通貨の 形態に注目した語感があり、日本 語で通常用いられる「コイン」の 語に近い。このトンジョンとは漢 字では「銅銭」である。銅以外の 素材のコインもすべて韓国語では トンジョンと総称される。   この「銅銭」の語は李朝時代の 幣 制 に さ か の ぼ る。 当 時 東 ア ジ ア で は、 中 国 秦 朝 以 来 の 方 孔 銭( 円 形 角 孔 の 銅 貨 ) が 使 わ れ ていた。中国では五銖銭や開元通 宝、永楽通宝などが有名で、日本 では銭形平次が投げる寛永通宝が 有名であるが、韓国で知名度ダン トツの方孔銭は一六三三年以来二 七〇年余の長きにわたり使用され た 葉 銭、 つ ま り 常 平 通 宝 で あ る (写真) 。韓国で銅銭とは元来この 銭のことを指したが、現在では転 じて金属通貨全般のことを指すよ うになっているというわけだ。

 李朝期の本位通貨だった銅

  日本でも過去のコインに関する 事柄が現代語のなかにいくつか痕 跡 と し て 残 さ れ て い る。 「 猫 に 小 判」だとか「三文判」などがそれ だ。しかし、韓国ではコインその ものの名称として使われている。 それほどまでにかつての朝鮮では 銅銭の影響力は大きかった。一九 世紀末から二〇世紀初頭の開港期 になっても、日常取引から家畜・ 不動産取引、納税などあらゆる取 引の支払いは銅銭現物によること を原則としていた。公私一切の取 引に無制限に通用する銅銭はまさ に本位通貨と呼ぶにふさわしかっ た。一方で、こうした状況に驚く 外国人の記録も残されている。一 八九四年冬に当時の朝鮮を旅行し た イ ギ リ ス 人 女 流 作 家 の イ ザ ベ ラ・バードが内陸部への旅行に際 し、日本円で一〇〇円相当の銅銭 を運搬するのに男六人もしくは馬 一頭が必要で、あまりの物量の多 さにこれらの銅銭を旅行に使う船 の バ ラ ス ト と し て 活 用 し た ほ ど だったという。

●日本が完成させた近代幣制

  開港期の朝鮮・旧韓国(大韓帝 国)では、通貨流通を巡る状況は 混乱を極めていた。開港場周辺で は円などの外国通貨が通用したほ か、首都漢城(ソウル)を中心と する西部地域一帯には一八九二年 に製造が開始された西洋式の白銅 貨が流通し、一七世紀より製造さ れてきた銅銭も依然全土で流通し ていた。一八九八年、突如当時の 韓国政府が額面の二割程度の費用 で製造できる白銅貨を本位銀貨に 代えて乱発したうえ、統治の緩み に乗じた粗悪な私鋳貨の横行が目 に余る状況となり、白銅貨の価値 は下落の一途をたどった。また、 銅銭は素材価値が比較的高く全土 で通用したが、東洋の方孔銭の常 で銅品位や量目にばらつきが大き く、また、上述のように流通に大 きな不便をともなった。   こうした混乱した通貨流通の状 況に終止符を打ったのが、第一次 日韓協約に沿って断行された一九 〇五年の貨幣整理事業であった。 韓国側の造幣局(典圜局)閉鎖、 日本のコインの無制限流通、それ と同一規格の韓国コインの大阪造 幣局への発注などを内容とし、植 民 地 幣 制 構 築 へ の 布 石 と も い え た。一方、それまで通貨流通の障 害要因となってきた白銅貨と銅銭 の回収が同年から四年間にわたっ て続けられた。こうして近代的な 李氏朝鮮の銅銭「常平通宝」 発行開始 1633 年、通用停 止 1904 年 (韓国貨幣博物館 HP)

特 集

途上国とコイン

  田

  

  聡

8

アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

(3)

※ 1972 年製造の完全未使用品のこと。 西洋式コインが韓国全域に行きわ たるようになった。一九一〇年の 日韓併合にともない、コインにつ いては日本本土のものが持ち込ま れそのまま流通するに至った。し かし、回収が終わったはずの前述 の銅銭「常平通宝」は、大正末期 になっても民衆の間で相対通用が なされていたという(朝鮮総督府 元 財 務 局 長・ 水 田 直 昌 氏 の 証 言 )。 近 代 的 コ イ ン が 行 き わ た っ たはずの日本統治期にも旧銅銭が 根強い人気を持ち、旧銅銭を「お 宝」と考える記憶が大韓民国建国 以後にも民衆の間に保持されてい たことは想像に難くない。

 イ

と「

ト」の不評

  一九四五年の解放後、インフレ に悩まされ続けた韓国ではコイン 不在の時代が続いた。一九六二年 に朴正煕が始めた経済開発政策は その後の韓国経済の進路を決定づ ける意義深いものであったが、供 給力不足による途上国型インフレ はなおも続いた。本格的なコイン 発行は一九六六年になってようや く開始された(黄銅製一、五、一 〇 ウ ォ ン の 三 種 )。 こ の う ち、 同 年銘の一〇ウォン貨は現在流通市 場で見出だせる最古参のものだ。 その後のコイン発行においては、 サイズや量目などを当初発行時の まま極力維持されている。歴代政 権は紙幣を含む通貨の形状縮小が 当局によるインフレ追認の意味に 取られ、それがさらにインフレ心 理を刺激することを恐れた節があ る。特に、朴正煕政権および後続 の軍事政権は開発独裁的色彩が強 く、その正統性は経済発展政策の 成功に負うところが大きかった。 インフレの放置、つまり経済発展 政策の失敗を想起させるような措 置は取り難く、コインの形状変更 は敬遠されてきたようだ。この間 のコインにまつわる措置等は専ら 銘価 一〇 ウォン以下の小額貨に関 するものに限られる。   現在の韓国で、流通市場で常見 するコインは五〇〇、一〇〇、五 〇、一〇ウォンの四種類で、五〇 〇、一〇〇、五〇ウォン貨はそれ ぞれ一九八二、七〇、七二年に発 行 が 開 始 さ れ た。 一 〇 〇、 五 〇 ウォン貨について途中にマイナー な図案修正が行われたことを除く と、形状、量目などは現在まで不 変である。一〇〇ウォン貨の発行 が開始された一九七〇年から二〇 一二年までの四二年間で物価は約 二〇倍上昇したが、コインは同じ ものを使っている。インフレを生 き抜いてきたコインたちも、気の 毒 な こ と に 「 ポ ケ ッ ト が 重 く な る 」 「 財 布 が 膨 ら ん で し ま う 」 な ど と 意外に不評だ。

 クレジットカードの普及と

コイン退蔵の加速

  一 九 九 七 / 九 八 年 の ア ジ ア 通 貨 危 機 の 時 に は 大 量 の 失 業 者 が 発 生 し 、 多 くの 家 計 が 危 機 に 瀕 し た 。 こ う し た と き に は 普 段 は 退 蔵 さ れ て い る コ イ ン も 家 計 の 一 助 と な っ て 日 の 目 を み る こ と が 多 い 。 ア ジ ア 通 貨 危 機 の 余 よ 燼 じん の さ め や ら ぬ 時 期 に 赴 任 し た 筆 者 も 、 五 〇 ウ ォ ン 貨 最 古 参 の 一 九 七 二 年 銘 完 未 品 ※ な ど の お 宝 を 多 数 流 通 中 か ら 拾 い 上 げ て いる 。 し か し 、 そ の 後 の 順 調 な 経 済 成 長 で 家 計 の 状 況 が 一 服 す る と 、 コ イ ン は そ の 取 扱い の 面 倒 さ や 使 い で の な さか ら 退 蔵 さ れる よ う に な る 。 コ イ ン 退 蔵 に 拍 車 を か け た の が ク レ ジ ッ ト カ ー ド や 交 通 カ ー ド の 普 及 、 そ し て 公 衆 電 話 の 衰 退 と対 に な る 携 帯 電 話 の普 及 で あ る 。 ス ー パ ー な ど の 買 い 物 の 現 場 で は ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 利 用 が 相 当 普 及 し て き た が 、 現 金 も ま だ 多 く 使 わ れ て い る 。し か し 、 客 が 払 う 現 金 は ほ と んど の 場 合 紙 幣 の み で 、 端 数 ま で コ イ ン を 併 用 し て き っ ち り 払 う 人 は 多 く な い 。 スー パ ー は 依 然 と し て コ イン の 大 き な 需 要 先 だ が 、 客 が 受 け 取 っ た コ イ ン は そ の 先 の 行 き 場 を 失 っ た の だ 。 コ イン の 退 蔵 に 最 も 頭 を 痛 め て い る の は 韓 国 銀 行 だ 。 造 幣 費 用 削 減 の た め 同 行 は 二 〇 〇 八 年 か ら 毎 年 五 月 に 「 汎 国 民 コ イ ン 交 換 運 動 」 な る も の を 展 開 す る な ど 、 退 蔵 さ れ た コ イ ン の 回 収 に 躍 起 に な っ て い る 。 二 〇 一 二 年 の 同 運 動 の 回 収 成 果 は 約 四 〇〇 億 ウ ォ ン 。 筆 者の 一 九 九 〇 年 代 中 盤 に お け る 推 計 で は 、 発 行 残 高 の う ち 日 常 取 引 で 活 発 に 動 い て い る 部 分 ( 活 動 残 高 ) に 対 す る 退 蔵 率 は 年 約 五 % で 、 こ れに よ れ ば 韓 国 の 年 間 コ イ ン 退 蔵 額 は 約 五 〇 〇 億 ウ ォ ン 程 度 。 つ ま り 、 同 運 動 に よ り 年 間 退 蔵 額 に 匹 敵 す る 額 が 日 の 目 を み た こ と に な る 。 で も 、 一 般 の 韓 国 人 に と っ て 韓 国 銀 行 と い う の は 雲 の 上 の 存 在 で 、そ こ か ら の 一 声 で こ れ だ け の 量 が 集 ま る と い う こ と は お そ ら く か つ て の 退 蔵 率 を 上回 る ペ ー ス で 蓄 積 さ れ た 膨 大 な 退 蔵 ス ト ッ ク が 背 後 に 存 在 し て い る と い う 気 が し て い る 。 現 地 に 赴 い た ら 今 度 は 改 め て 退 蔵 率 推 計 を し て み た い 。 そ の 日 を 楽 し み に し て い る 。 ( お く だ   さ と る / 細 亜 大 学 ア ジ ア 研究所教授)

韓国のコイン

―長い歴史のなかの新参者―

9

アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

参照

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