特集:主膵管損傷例に対する最近の診断・治療法
外傷性膵損傷における診断と治療
藤田保健衛生大学救命救急医学講座1), 関西医科大学附属滝井病院高度救命救急センター2) 平川昭彦1),諌山憲司2),中谷壽男2) 要旨:外傷性膵損傷は,急性期では血液検査や腹部所見だけでは困難を要し,治療方針を決定するには,損傷部 を診断するだけでなく,いかに膵管損傷の有無を確認できるかが鍵である。当センターにおける膵損傷の診断は, 搬入時の腹部 CT だけでなく,単独損傷であるなら積極的に ERP を施行,腹部他臓器損傷の合併例は開腹術を 行い,膵管損傷の有無を検索する。治療は,Ⅲ型膵体・尾部損傷の場合,膵尾側切除術を基本としつつ,Bracy 法なども考慮する。Ⅲ型膵頭部損傷の場合,膵頭十二指腸切除術が主であるが,状況によってドレナージ術を施 行する。ただし,膵損傷例の治療方針を決定するにあたり,他部位合併損傷が多いため,搬入後の循環動態を考 慮しつつ,治療の優先順位を早期に決定し,いかに合併症である縫合不全や膵液瘻を最小限に抑えるかが鍵であ る。 【索引用語】外傷性膵損傷,主膵管損傷,内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)は じ め に
腹部外傷の中でも,膵損傷は比較的まれな外傷であ り,診断が遅れると致命的となる。以前,その診断は 困難なことが多かったが,CT などの進歩により,近 頃は比較的容易に診断できるようになった。膵損傷の 治療は,出血性ショックや他臓器損傷の合併,膵組織 の挫滅などにより,術後の合併症発生率も高くなる。 予後を大きく左右するのは,縫合不全や膵液漏出に伴 う合併症であり,これをいかに克服するかが鍵となる。 近年の画像診断や内視鏡技術の向上は,診断方法,非 手術療法の拡大や全身状態を踏まえた手術術式の選択 など,多くの選択肢をもたらしたが,標準的診断およ び治療法は確立されていない。 今回,当センターにおける外傷性膵損傷の診断およ び治療法について検討したので,最近の知見も加えて 解説する。Ⅰ.対象と方法
1998 年 4 月から 2010 年 10 月まで関西医科大学附 属滝井病院高度救命救急センターに搬送された外傷性 膵損傷 23 例(搬入時心肺停止例は除く)を対象とした。 内訳は,男性 16 例,女性 7 例,年齢は 5 ~ 85 歳(平 均 42 歳)で生存 19 例,死亡 3 例であった。受傷機転 は,交通外傷が 11 例(47.8%)と最も多く,腹部刺 創 6 例,腹部打撲 5 例,転落外傷 1 例であり,鈍的損 傷が全体の 74%を占めていた。損傷の内訳であるが, 膵単独損傷 8 例(34.8%),他部位合併損傷 15 例(65.2%) であった。損傷形態としては,Ⅰ型:5 例,Ⅱ型:5 例,Ⅲb 型:13 例であった。これらの症例について, 膵損傷の診断方法,画像検査所見や治療法について検 討した。Ⅱ.結 果
1.診断 ①診断に至る経過(表 1) 膵単独損傷は 8 例であり,循環動態は,搬入時より 全例で安定していた。CT 検査で膵損傷が疑われ,8 例中 7 例(87.5%)に内視鏡的逆行性膵管造影(Endo-scopic Retrograde Pancreatography: 以 下,ERP) を施行した。残りの 1 例は,年齢が 5 歳のため ERP 検査を行わず,開腹にてⅢb 型損傷と判明した。他臓 器損傷合併例は 15 例であり,搬入時より循環動態が 安定していた症例は 12 例で,うち CT にて膵損傷と 診断した症例は 4 例(26.7%),全例に ERP を施行し, ⅡもしくはⅢ型損傷と診断した。他の 8 例は消化管損 傷など膵以外の臓器損傷として緊急開腹術が施行さ れ,膵損傷の合併が明らかとなった。残りの 3 例は搬 表 1 診断に至る経過 CT+ERP 例 CT+開腹例 開腹例 ERP 施行率 単独損傷 他臓器合併損傷 7 例4 例 1 例8 例 3 例 87.5%26.7%入時よりショック状態であったため,CT を施行せず に開腹し,膵損傷を診断した。 ②膵損傷と検査所見(表 2) CT 検査:搬入時に腹部 CT を施行した 21 例中 16 例(80%)が膵損傷と診断され,そのうちⅢ型損傷で は 11 例全例で膵損傷と診断し得た。しかし,膵管損 傷など詳細な評価は不可能であった。 ERP 検査:CT 検査で膵損傷と診断され,ERP が 施行されたのは 11 例であった。そのうち,造影剤漏洩, 途絶像など膵管損傷ありと診断し得たのは 8 例で,手 術でも全例で確認された。
Magnet Resonance Pancreatography(以下,MRP) 検査:2 例に施行した。これらの症例は,他院で保存 的加療が行われ,急性期を過ぎていたため,MRP が 施行された。1 例は,MRP にて膵管が明確に描出さ れず,ERP にてⅢb 型損傷が確認された。 2.治療(表 3) ①損傷形態と治療法 Ⅰ型損傷は 4 例で,保存療法 1 例,ドレナージ術 3 例であった。この 3 例は他の腹腔内他臓器損傷を合併 した症例であった。Ⅱ型損傷は 6 例で,保存療法 2 例, ドレナージ術 4 例(膵縫合術 1 例含む)であった。手 術例は,すべて腹腔内他臓器合併損傷例であった。Ⅲ 型損傷は 13 例で,頭部損傷 7 例,体・尾部損傷 6 例 であった。頭部損傷の治療法は膵頭・十二指腸切除術 3 例,Letton & Wilsonn 法 1 例,ドレナージ術 3 例で あった。ドレナージ術のうち 2 例は,門脈や下大静脈 などの血管損傷を認めたため,一般状態にかんがみ, 膵の修復は行わず,止血および膵周囲ドレーン留置の みに止めた症例であった。体・尾部損傷の治療法は膵 体・尾部+脾合併切除術 3 例,Bracy 法 1 例,Letton & Wilsonn 法 1 例,仮性膵囊胞・胃吻合術 1 例であった。 ②損傷形態と合併症 Ⅰ型損傷の合併症は 1 例(25%)に膵周囲血腫を認 めた。Ⅱ型損傷の合併症は 2 例(33%)で,術後膵液 瘻 1 例,保存療法例で膵囊胞 1 例を認めたが,すべて 保存的に改善した。Ⅲ型損傷のうち膵頭部損傷での合 併症は,血管損傷例を除いた 5 例中 2 例(40%)で, 1 例が膵液瘻,1 例が縫合不全および膿瘍をきたした。 膵体・尾部損傷例の合併症は 6 例中 3 例(50%)で, 膵液瘻 2 例,膵囊胞 1 例であった。 ③転帰 ⅠおよびⅡ型損傷例では,すべて軽快した。13 例 のⅢ型損傷のうち,門脈や下大静脈損傷などによる出 血にて死亡した 2 例を除けば,膵損傷が直接死因と なった症例は 1 例で,膵頭・十二指腸切除術術後縫合 不全からの敗血症・多臓器不全で死亡した症例のみで あった。 表 3 損傷形態別の治療法と転帰 損傷形態 治療法 膵関連合併症 転帰 Ⅰ型(4 例) 保存療法 1 例ドレナージ術 3 例 膵周囲血腫 1 例 生存 4 例 Ⅱ型(6 例) 保存療法 2 例ドレナージ術 3 例 膵縫合術 1 例 膵液瘻 1 例 膵囊胞 1 例 生存 6 例 Ⅲ型(7 例) 頭部 膵頭・十二指腸切除術 3 例(1) Letton & Wilson 法 1 例 ドレナージ術 3 例(2) 膵液瘻 1 例 縫合不全 1 例 生存 4 例死亡 3 例 (2 例は血管 損傷のため) Ⅲ型(6 例) 体・尾部 膵体・尾部切除+脾摘出術 3 例 Bracey 法 1 例
Letton & Wilson 法 1 例
仮性膵囊胞・胃吻合術 1 例 膵液瘻 2 例 膵囊胞 1 例 生存 6 例 表 2 損傷と検査所見 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 診断率 CT 例 ERP 例 MRCP 例 2/5 1/1 3/52/2 1/1 11/11 8/8 1/1 80% 100% 100% *:CT 例は膵損傷を診断した数 他は膵管損傷を診断した数
膵管造影などを考慮しなければならない。また,近年 の ERP は内視鏡的膵管ステント留置術や外科的主膵 管再建時のガイドとしても利用されており10),診断 だけでなく,治療選択肢の一つともされている。ただ, 狭窄などの合併症も報告11)されており,今後さらな る検討が必要である。 MRP は,施行者の熟練度を問わないため,メリッ トはあるも,急性期に腹腔内出血が合併している場合, 診断率が低下するため12),絶対的なものではない。 治療法は,Ⅰ型では保存的治療もしくは他損傷にて 開腹した場合でも,原則無処置で,ドレナージは必要 ない。Ⅱ型損傷では,膵縫合部やドレナージ術,とき に保存的治療が選択される。使用するドレーンは感染 も考慮し,閉鎖式ドレーンが好ましい13)。Ⅲ型膵損 傷の治療法は,施設体制,全身状態,損傷の重症度, 術者のスキルなどを総合的に勘案して,決定するとよ い。基本的には,主膵管損傷の確定診断,あるいは濃 厚に疑われる場合に,種々の外科手術が行われる。循 環動態が安定した体・尾部の膵管損傷では,膵体尾部 +脾合併切除術が一般である。しかし,脾摘後敗血症 などの問題があるため,若年者では可能な限り脾温存 を試みるべきである。たとえ,脾動静脈を結紮・切断 しなければならなかったとしても,短胃動脈を温存す る Warshaw 手術14)を考慮する方法もある。また, 膵離断で膵挫滅が少ない場合は,膵を温存する術式と して Letton & Wilson 法がある。当施設では,若年者 2 例で本術式を選択した。現在,1 例は術後 12 年,他 の 1 例は術後 8 年経過しているが,イレウスなどの合 併症を生じていない。しかし,膵空腸吻合部の縫合不 全などの合併症をきたすことがあるため,あまり推奨 されていない15)。Bracey 法による膵・胃吻合は,胃 内では膵液は活性化されないことや吻合の緊張がない などの理由で縫合不全が少ない16)とされている。当 施設でも Bracey 法 1 例,膵頭十二指腸切除術の再建 法で膵・空腸吻合の代わりに膵・胃吻合を 1 例施行し た。この吻合法は,簡便で迅速かつ安全確実な方法の ため,推奨されるべき術式と考える。Ⅲ型損傷で問題 となるのは膵頭部損傷であり,術式もさまざまである。 十二指腸損傷の合併,もしくは高度の膵頭部損傷があ れば,膵頭十二指腸手術が一般的である。ただし,手 術侵襲が大きいため,damage control surgery を必 要とする症例には,二期的に再建を行うことを考慮し なければならない。膵頭十二指腸手術は侵襲が大きい ため,膵周囲のドレナージ設置のみによる保存的術式 を推奨する報告もある17)。ドレナージ単独では術後 膵液瘻形成を合併する確立が極めて高いが,この方法 は,他の侵襲的術式による術後合併症に比べると,そ
Ⅲ.考 察
膵損傷の発生頻度は,欧米では腹部外傷の 2 ~ 12%とされ,銃創などの穿通性損傷が多い1)2)とされ る。一方,本邦では鈍的外傷が多く3),そのほとんど が交通外傷である。今回の検討で,膵単独損傷例は 40%と少なく,坂本ら4)の報告などと同様に腹部他 臓器合併損傷が多い結果であった。この傾向は,脾臓 などの実質臓器損傷と同様であり,診断や治療を考慮 するうえで重要な因子である5)。 外傷性膵損傷の診断の遅れは,合併症を増加させ, 予後を大きく左右する6)。当施設における外傷性膵損 傷の診断・治療に至るまでの方針を示す(図 1)。搬 入時の循環動態が fluid resuscitation に反応なく不安 定な状態で,腹腔内損傷が主因の場合は,ただちに開 腹術を施行する。一方,循環動態が安定していれば, 腹部造影 CT を施行し,low density に描出される離 断や裂傷,血腫や浮腫による部分的あるいは広範囲な 腫脹などの所見を認めたなら,5mm 以下の thin slice で腹部 CT を再撮影する。その後,積極的に ERP に よる主膵管損傷の精査を行う。たとえ所見がなくとも, 腹部所見や血清アミラーゼ値を経時的に観察し,12 ~ 24 時間後に CT 検査を施行している。なお,膵損傷 の診断と平行して他臓器損傷の有無の検索を行うのは 申すまでもない。 一般に,画像診断法としての腹部 CT は汎用されて い る。 と く に, 昨 今 の multidetector CT( 以 下, MDCT)の診断精度は向上しているが,64 ─ MDCT であっても膵管損傷の有無の情報を得ることは非常に 困難である7)と言われている。したがって,治療に 直結する主膵管損傷の有無を,確実に診断し得る検査 は ERP であり8),とくに循環動態安定例では推奨さ れている9)。本検討でも,単独損傷例で,小児例以外 は全例施行しており,診断率も 100%であった。当施 設では常時,ERP を施行できる体制にあるが,緊急 ERP を施行できない場合は,術中 ERP あるいは術中 図 1 当施設における膵損傷の診療方針 循環動態 経過観察 腹部所見および血清アミラーゼ値を 経時的に観察 12∼24 時間後に CT を CT 消化管穿孔の有無 他臓器合併損傷 手 術 安定 不安定 所見あり 所見なし (+) (ー) ERP 手 術の管理が容易であるとされている。膵組織の挫滅が軽 度の場合は,主膵管にステントを留置し,膵管吻合, 膵縫合術を行う主膵管再建膵縫合術が行われるときも ある。 現在,合意の得られた膵損傷の診断・治療法はない。 症例数には限りがあること,各施設の体制,術者のス キルなどに差があることなども考慮すると致し方がな いことかもしれない。とは言え,膵損傷は,迅速な診 断,低侵襲な術式,術後合併症を最小限に抑える工夫 など,的確な状況判断が必要とされる疾患であり,外 傷外科医の手腕が問われるところである。
お わ り に
①膵損傷に対する治療法の選択において,主膵管損傷 の有無を確認することは必須であり,可能なかぎり緊 急 ERP は行うべきである。 ②膵損傷は他部位合併損傷が多いため,全身状態を考 慮しつつ,総合的判断にて治療法を決定しなければな らない。 参 考 文 献1) Jorkovich GJ, Carrico CJ:Pancreatic trauma. Surg Clin North Am 1990;70:575─593.
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論文受付 平成 23 年 7 月 6 日 同 受理 平成 23 年 9 月 12 日
Diagnosis and Treatment of Traumatic Pancreatic Injury
Akihiko Hirakawa1), Kenji Isayama2), Toshio Nakatani2)
Department of Emergency and Critical Care Medicine, Fujita Health University1) Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kansai Medical University Takii Hospital2)
The diagnosis of traumatic pancreatic injury in the acute stage is difficult to establish blood tests and abdominal findings alone. Moreover, to determine treatment strategies, it is important not only that a pancreatic injury is diagnosed but also whether a pancreatic ductal injury can be found. At our center, to diagnose isolated pancreatic injuries, we actively perform endoscopic retrograde pancreatography(ERP)in addition to abdominal CT at the time of admission. For cases with complications such as abdominal and other organ injuries, we perform a laparotomy to ascertain whether a pancreatic duct injury is present. In regard to treatment options, for grade Ⅲ injuries to the pancreatic body and tail, we basically choose distal pancreatectomy, but we also consider the Bracy method depending on the case. As for grade Ⅲ injuries to the pancreatic head, we primarily choose pancreaticoduodenectomy, but also apply drainage if the situation calls for it. However, pancreatic injuries are often complicated by injuries of other regions of the body. Thus, diagnosis and treatment of pancreatic injury should be based on a comprehensive decision regarding early prioritization of treatment, taking hemodynamics into consideration after admission, and how to minimize complications such as anastomotic leak and pancreatic fistulas.