不正出血を契機に発見された尿膜管癌
菊名記念病院泌尿器科
大 森 圭
昭和大学医学部泌尿器科学講座
中里 武彦 深貝 隆志 小川 良雄
要約:症例は 66 歳女性.不正出血を主訴に当院婦人科を受診.経腟的超音波検査で膀胱頂部 に腫瘤性病変を指摘され当科を受診した.経尿道的に生検した膀胱腫瘍の病理学的所見は腺癌 であった.各種検査を行い尿膜管癌の膀胱浸潤と診断し,尿膜管全摘および膀胱部分切除術を 施行した.若干の文献的考察を加えて報告する.
キーワード:不正出血,尿膜管癌
尿膜管癌は比較的稀な疾患で,一般的に肉眼的血 尿を主訴とする.今回われわれは不正出血を主訴に 発見され,血清 CEA および CA19-9 高値を伴った 1 例を経験したので報告する.
症 例
患者:66 歳,女性.
主訴:不正出血.
既往歴:高血圧症,下肢静脈瘤.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:3 年前から不正出血で他院婦人科を定期 通院し,加齢によるものと診断され年 1 回内膜細胞 診・内診を行っていた.2010 年 1 月にも受診し,
内診から異常なしと診断されたが,その直後からト イレ時に陰部を拭くと少量の血液の付着が頻繁とな り,時に便器が赤くなることもあった.以前に比べ 出血の頻度が増加し,他院での診察を希望され,同 年 4 月当院婦人科を受診した.経膣的超音波検査 で,膀胱頂部に 35×21 mm の腫瘤性病変を認め,
当科紹介受診となった.
現症:身長 160 cm,体重 65 kg,表在リンパ節は 触知しなかった.
検査所見:尿検査:蛋白(2+),糖(−),RBC > 100/hpf・WBC > 100/hpf,尿細胞診 Class Ⅲ 血液生化学検査:CA19-9 182.1 ng/ml(37 以下),
CEA 65.1 ng/ml(5 以下)
膀胱鏡所見:膀胱頂部に隆起性病変を認め,周囲 表面は正常粘膜に覆われ中央部より非乳頭状腫瘍を
認めた.腫瘍は血塊の付着を認めた(図 1).
画像所見:CT では膀胱頂部から壁外にかけて不 整形腫瘤を認め,膀胱癌または尿膜管癌の膀胱浸潤 の可能性が示唆されたが,リンパ節腫大などの遠隔 転移を認めなかった.MRI(図 2)で腫瘍に隣接す る腸管や腹膜を越えた浸潤はなかった.
臨床経過:5 月,確定診断のため腰椎麻酔下に経 尿道的膀胱生検を施行した.病理結果は高分化腺 癌,免疫染色で CK20 はほとんどの細胞で陽性,
CK7 はほぼ陰性で大腸由来も考えられた.粘膜生 検では腺性膀胱炎や嚢胞性膀胱炎の所見は認めな か っ た. 転 移 性 腫 瘍 も 否 定 で き な い た め 消 化 器
(胃・大腸),女性生殖器について検索を行うも原発 巣を疑わせる所見はみられなかった.骨シンチも異 常は認めなかった.以上から尿膜管原発腺癌と診断 し,7 月に尿膜管とその周囲腹膜・脂肪組織摘除お よび膀胱部分切除術(en bloc 切除),骨盤内リンパ 節郭清を行った.
術中所見:下腹部正中切開により膀胱前腔に至り 用手的に腫瘍を確認.腹膜切開し,腹腔側から腫瘍 に連続する索状構造物を尿膜管と同定し,約 2 cm のマージンをつけて膀胱および腹膜を切開した.腹 直筋後鞘および周組織との癒着は認めなかった.
病理所見:肉眼的に腹腔側の腹膜の一部に表面 平滑で白色・硬の変化を認めたが,炎症性変化の みで腫瘍の腹膜への浸潤や露出はなかった(図 3).
腫瘍に連続する索状構造物は平滑筋組織で構成され 尿膜管遺残と思われた.腺癌,G2,INF
β,ly0,
症例報告
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380 v0,ew0,n0,Sheldon stage Ⅲ a と診断した(図 4).
術後経過:血清 CA19-9 は術後 2 週,CEA は術 後 8 週で正常化した(図 5).現在再発・転移を認 めていない.
考 察
不正出血は分娩・産褥期の出血を除けば月経以外
の性器出血はすべて不正出血である.また,子宮以 外からの性器出血はすべて不正出血である1).不正 出血は機能性出血と器質性出血に分類され,機能性 出血は思春期や更年期などの卵巣機能の移行期に多 く,老年期にはほとんどみられない.器質性出血は 図 1 膀胱鏡所見
膀胱頂部に周堤を有する隆起性病変.中央部は非乳頭状 腫瘍を認め,周囲は正常粘膜であった.
図 2 MRI(T2 強調画像矢状断)
膀胱頂部〜壁外にかけて最長径 56 mm の腫瘍を認めた(矢 印).腹膜および腸管への浸潤はインタクトと思われた.
図 3 摘出検体(腹腔側)
腹膜表面の一部に白色,表面平滑・硬の変化を認める
(矢印).病理学的に炎症性変化であった.
図 4 病理学的所見(H-E 染色)
腺管の大小不同が目立ち構造異型がみられる.腺管上皮 の多層性とクロマチン density の上昇を認める.
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381 炎症・外傷・妊娠・腫瘍のほかに老年期では性器の 萎縮性変化に伴う出血があげられる.閉経後不正出 血の原因は,機能性出血よりも器質性出血が主体で あり2),Gredmark ら3)は閉経後年数の経過ととも に不正出血の頻度は減少するが,逆に器質性出血の 割合が増加すると報告している.
本症例において,前医は加齢性の変化に伴う機能 性出血と診断したため内診のみに止まったと推測さ れる.当院では器質性出血を考慮した経膣的超音波 が非常に重要であった.同検査は膣,子宮,卵管以 外に膀胱にも有用な検査であり,本邦産婦人科ガイ ドラインでも器質性出血の鑑別には内診(双合診)・ 経膣的超音波検査が示されている.
尿 膜 管 癌 は 膀 胱 腺 癌 の 22 〜 35 %, 膀 胱 癌 の 0.5 〜 2%と稀である.男女比は 1.6 〜 1.8:1 と男 性に多く,主訴は肉眼的血尿が最も多くその他の 膀胱腫瘍と同様である4,5).尿膜管癌の病理的診断 のクライテリアは統一されたものがなく,Beck・
Wheeler と Hill・Mostofi と次第に厳密となり臨床 応用しにくい.Henly ら6)は①腫瘍が膀胱頂部ある いは前壁に存在すること.②cystitis cystica(嚢胞 性膀胱炎),cystitis glandularis(腺性膀胱炎)が存 在しないこと.③腫瘍に続く尿膜管遺残を認めるこ と. を提案した.本症例は Henly のクライテリア で診断した.組織型は腺癌 94%で稀に扁平上皮癌,
移行上皮癌,未分化癌が生じる4).腺癌の 7 割は消 化管原生腫瘍の特徴を持ち,その多くは大腸性であ り,CA19-9 や CEA が上昇した報告もある7).本症 例でも膀胱生検時の免疫染色で大腸性の可能性を示 唆され,腫瘍マーカーは高値を示し術後の重要な診 断項目となっている(図 5).術式についても臍・
尿膜管全摘+膀胱部分切除(en bloc 切除)か,臍・
尿膜管全摘+膀胱全摘で迷ったが,浅野ら8)の術式 と stage との転帰について stage Ⅲa までであれば 患者の QOL が保たれる en bloc で治療効果が得ら れるという報告から en bloc 切除を選択した.臍摘 出については臍が罹患していなければ,その効果は 疑問であるという意見があり本症例も臍から病変ま で十分離れているため行わなかった.予後について 以前は 5 年生存率 6.59)〜 1510)%と不良であったが,
近年の報告では 564)〜 61.511)%と改善してきてい る.しかし,尿膜管癌は Stage Ⅲ以上で発見される ことが多く,局所再発や遠隔転移をしている症例は すべて stage Ⅲ以上と報告している5).本症例は stage Ⅲa,手術で切除断端陰性,腫瘍マーカーも 陰転化したが,再発の可能性を十分念頭において,
腫瘍マーカー・膀胱鏡は 3 か月に 1 回,CT は 6 か 月に 1 回施行していく予定である.最後に日常診 療,特に女性において不正出血と血尿の鑑別に迷う ことに遭遇することがある.泌尿器科の主訴として 多い血尿が主訴であっても血尿ではなく,婦人・消 化管疾患の可能性があること,またその逆も存在す ることを十分に念頭におきながら診療にあたりたい と思う.
謝辞 本症例は聖隷福祉事業団聖隷横浜病院泌尿器科に 在籍中に経験した症例である.様々なご指導を頂きまし た同院泌尿器科部長 由利康裕先生に深謝いたします.
文 献
1) 高倉賢二:症状・症候から診断・治療へ 婦人 科 編 不 正 出 血. 産 婦 治 療 94( 増 刊 ):675‑
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2) 倉林 工,田中憲一:閉経後婦人の不正出血の 取扱い.日産婦会誌 48:N255‑N258,1996.
3) Gredmark T, Kvint S, Havel G, : Histopath- ological fi ndings in women with postmenopausal bleeding. 102:133‑136, 1995.
4) Chen ZF, Wang F, Qin ZK, : Clinical analy- sis of 14 cases of urachal carcinoma.
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5) Gopalan A, Sharp DS, Fine SW, : Urachal carcinoma : a clinicopathologic analysis of 24 cases with outcome correlation.
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6) Henly DR, Farrrow GM and Zincke H : Urachal cancer : role of conservative surgery.
図 5 血清 CEA,CA19-9 の変化
血清 CA19-9 は術後 2 週,CEA は術後 8 週で正常化した.
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42:635‑639, 1993.
7) 多田真浩,蓮見壽史,松崎純一,ほか:化学療 法を施行した尿膜管癌の 1 例.泌外 16:787‑
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8) 浅野晃司,三木 淳,山田裕紀,ほか:尿膜管 癌 15 例の臨床的検討 根治のために膀胱全摘は 必須か.日泌会誌 94:487‑494,2003.
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URACHAL CANCER PRESENTING WITH ABNORMAL VAGINAL BLEEDING
Kei OMORI
Department of Urology, Kikuna Memorial Hospital
Takehiko NAKAZATO, Takashi FUKAGAI and Yoshio OGAWA Department of Urology, Showa University School of Medicine
Abstract The patient was a 66-year-old woman who presented to the outpatient gynecology clin- ic of our hospital with the chief complaint of abnormal vaginal bleeding. Transvaginal sonography re- vealed a mass lesion at the top of the bladder, and the patient was referred to our department. Trans- urethral biopsy of the bladder tumor revealed the diagnosis of adenocarcinoma. After various diagnostic examinations, we made the diagnosis of urachal cancer invading the bladder wall, and performed com- plete resection of the urachus and partial resection of the urinary bladder. We report this case with a brief review of the literature.
Key words : abnormal vaginal bleeding, urachal cancer
〔受付:2 月 10 日,受理:3 月 1 日,2012〕
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