環境情報論5 井手慎司 10/25/00
表 環境ホルモンによって起こっていると疑われている野生生物の異常
ほ乳類 鳥類 は虫類・両生類 魚類 その他
海棲ほ乳類(イル カ,アザラシなど)
の大量死,カワウソ の消滅,ミンクの不
妊
ハクトウワシやセグ ロカモメの激減,セ イヨウカモメの行動
異常
*ワニのメス化,カ
メのオス化,両生類(カエルやサンショ ウウオ)の激減
*マスのメス化 *イボニシ(巻貝類)
のインポセックス,
バイ貝の減少
表 環境ホルモンによって起こると疑われている人の異常
男性 女性 両者
精子の減少と質の低下 停留睾丸 尿道下裂 ペニスの発育不全
精巣ガン 前立腺ガン 甲状腺ガン 半陰陽者 攻撃的行動
子宮内膜症(不妊)
膣ガン 子宮ガン 卵巣ガン 乳ガン
早熟
アトピー 多動症 知能障害 パーキンソン病
「どうしたらいいの? 環境ホルモン」浦野紘平編著,読売新聞社
8.産業界からの情報公開
産業界からの情報公開産業界からの情報公開産業界からの情報公開【「環境ホルモン」に揺れる日本の化学業界,後手に回る情 報公開(98/05/14 日経ビジネス)
生物の生殖機能への障害やガンの誘発などの影響が指摘され ている環境ホルモン(内分泌かく乱物質)について,国際的 なシンポジウムが 6 月末に東京で開催されることが決まっ た.欧米の専門家,経済協力開発機構(OECD)やメーカー からも代表が出席,産官学が集まった初の国際会議となる.
この会議が,日本のメーカーが欧米の同業者から非難を一手 に受ける場になりかねない状況になっている.
大手化学メーカー,三井化学の岩本公宏・環境安全部長は,
5
月初旬に米国で開催された同業者の集まりに参加した.そ こでは「日本の業界の対応はまずい.なぜ,化学業界は正し い情報を消費者に説明しないのか」と厳しい批判を受けたと いう.最近,市民団体などから激しく攻撃されているのは,食器や 建材,コンパクトディスク(CD)などに使われる合成樹脂の ポリカーボネートだ.この樹脂でつくられたほ乳ビンや食器 に熱湯などの高温の食品をいれると,環境ホルモンの一種と 疑われている物質(ビスフェノール
A)が極めて微量だが溶
出する.全国の小中学校のうち二割がこの樹脂製の食器を給 食に使っていたため,市民団体が敏感に反応し,大阪市,横 浜市,栃木県小山市など各地の自治体が調査に着手した.ところが,メーカーの対応は遅れた.当初,メーカー側は「問 題とされている化学物質の濃度は厚生省が定めた基準よりも 低く,その化学物質は体内に蓄積されないという科学的なデ ータがあるので大丈夫」(帝人化成)と考えていた.年明け から,この樹脂を購入して成型する業者などには説明を繰り 返したが,消費者への対応はなおざりだった.
そのため,4 月に入っても環境団体などからの攻撃は強まる 一方となった.樹脂メーカーのうちの一社,出光石油化学の 山路一隆・機能性樹脂部部長は「我々が甘かった.科学的に 正しいデータを需要家に示せば疑念が晴れると思っていたが,
消費者の反発がここまで広がるとは」と反省する.
<情報開示で市民の疑念除く米の業界>
これまで化学品メーカー各社は中間材料の製造・販売に専念
しており,最終消費者とは交流がなかった.現状は,どうす れば消費者に意見を伝えることができるか,その方法を模索 している状況だ.
実は日本の化学業界は,同じような失敗を半年前にも経験し ている.1997 年夏,「ゴミに含まれた塩化ビニールを燃や すと猛毒のダイオキシンが発生する」と指摘され,市民や産 業界で塩ビを排除する動きが起こった1.その結果,食品の包 装材や金融機関のキャッシュカードなどで塩ビ以外の材料が 本格的に使われ,塩ビの需要のかなりが食われてしまった.
塩ビ業界ではようやく今年 1 月に環境対策の組織を発足さ せ,「ゴミの中に含まれる塩ビの量とダイオキシンの発生量 に相関関係はない」というデータを公表した.しかし,この 組織のスタッフですら「すでに遅すぎた.一度消費者に浸透 した印象を拭うには相当の努力と費用がかかる」とこぼす.
建材で塩ビ代替品となったポリカーボネートが次の標的にな ったのは皮肉な話だが,塩ビでの経験が生かされていればこ んなに苦労はしなかっただろう.
一方で,市民の側は正確な情報に飢えている.横浜市で給食 食器の検査を実施するように運動を展開している梅野りんこ 市会議員は「本当に問題が起こってからでは遅すぎる.信頼 できる科学的データを知りたいのだが,それを入手する方法 がない」と話す.
米国では 95 年ごろから環境ホルモン問題について化学業界 が科学的な情報を公開,市民の間に疑念が広まるのを防いで きた.「情報発信の方法など,危機管理に対する意識が大き く遅れていた」と三井化学の岩本部長.新しく開発される化 学品の数は年間 1000 種類以上にのぼる.日本の化学業界は 全体として,消費者に対する情報開示を考える時にきている.
(伊藤 暢人)】
・ポリカーボネートの問題と代替フロン.
・日本の化学工業の産業構造と塩ビ.
1 四大汎用樹脂といわれるポリエチレン,ポリスチレン,ポ リプロピレン,塩化ビニルのなかでも,日本の塩ビの生産量 はきわめて高い.塩ビの国内向け出荷量は
97
年は201
万ト ンだったが,97
年7月から毎月,前年割を続けている.また 積水化学は99
年9
月,塩ビ管事業の縮小を発表している.「情報公開法がなければ民主主義はない」(ラルフ・
ネーダ)
付録
◇ダイオキシンの耐容一日摂取量の計算根拠
◇ダイオキシンの耐容一日摂取量の計算根拠◇ダイオキシンの耐容一日摂取量の計算根拠
◇ダイオキシンの耐容一日摂取量の計算根拠2◇◇◇◇ ダイオキシンの環境基準
ダイオキシンの環境基準ダイオキシンの環境基準 ダイオキシンの環境基準
ダイオキシン対策法(2000年
1
月15
日施行)環境庁 大気 0.6 pg/m3水質 1 pg/L 土壌 1000 pg/g
ダイオキシンの水道水暫定基準 ダイオキシンの水道水暫定基準ダイオキシンの水道水暫定基準
ダイオキシンの水道水暫定基準(厚生省)
水道水中
1 pg/L
3算定基準はすべて
TDI = 4 pg/kg・日(6/'99)
ダイオキシン対策法において採用された TDI = 4
pg/kg・日の(発表されている)根拠を紹介しておく.
ヒトのダイオキシンの体内負荷(蓄積)量を
x
,一日 の摂取量をα
,摂取したダイオキシンのうち体内へ吸 収される収率を50 %
,吸収されたダイオキシンが体 外へ排出される速度係数をλ
と置くと,体内負荷(蓄 積)量の変化は次式のような微分方程式で表される.dt x
dx = α − λ 2 1
上式を解くと
x t α λ
λ α − = −
2 1 2 ln 1
更に,
α
について変形すると) 1 ( 2
1 e
tx
λ
α λ
−= −
ここで
λ
と体内ダイオキシンの半減期t
12= 7 . 5 years
との間には次のような関係式2 1
2 ln
= t λ
が成り立つ.また時間無限大を考えることによって
2 1
2 ln 2 1 t
= x α
日本政府はダイオキシンの体内負荷量
x
の最小毒性量(LOAEL: Lowest Observed Adverse Effect Level)とし て 86 ng/kg を採用している.これを上式に代入する と
2 「ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について」中 央環境審議会環境保健部会,生活環境審議会,食品衛生調査 会報告書(平成11年6月)より.
http://www.eic.or.jp/eanet/dioxin/TDI-index.html
3 水道水から体内に摂取されるダイオキシン量が
1%,体重 50kg
の成人が水道水2L
を1
日に摂取するとして.全国40
の浄水場を対象にした調査では最大0.035 pg/L.
日
= ⋅
日= 43 . 5 pg/kg
) 365 ( 5 . 7
2 ln 2
1 pg/kg 000 , α 86
この値を更に不確定係数 10 で割ることによって,ダ イオキシンの耐容一日摂取量 4 pg/kg・日が得られる.
上記に対して従来の
TDI
は10 pg/kg・日('96
設定――WHO
の'90基準に準拠).ラットの無毒性量(NOAEL:No Observed Adverse Effect Level)1000 pg/ kg・日を不確
定係数100
で割ったもの.このように,動物の慢性毒 性試験によって求められたNOAEL
に基づいて,ヒト のTDI
を設定する場合には従来,不確定係数100
が用 いられてきた.これは,人間と実験動物(げっ歯類)間の不確定係数を