Negative twist knot の 5 重巡回分岐被覆空間の L 空間予想について
堀 光則(広島大学大学院教育学研究科)
概要
Negative twist knotの5重巡回分岐被覆空間がL空間であることを示す.
1
研究背景
1.1 L
空間予想について
まず,
L空間予想の定義と左不変順序の定義について紹介し,
L空間予想を紹介する.
定義
1.1(
L空間)
有理ホモロジー球面
Mに対して,
HFd(M)が階数
|H1(M :Z)|の自由アーベル群のと き,
Mを
L空間という.
例
1.2(
L空間の例)
• S3
,ポアンカレ・ホモロジー球面
•
レンズ空間
•
楕円的
3次元多様体
•
非分離交代的結び目・絡み目の
2重巡回分岐被覆空間 定義
1.3(左不変順序)
群
G̸={1}が左不変順序を許容するとは,左からの積で不変な全順序を許容することを いう.つまり,
a < b⇒ga < gb f or all a, b, g ∈G
例
1.4(左不変順序を許容する群)
結び目群,絡み目群,組み紐群,自由群,自由アーベル群など
予想
1.5(
Boyer-Gordon-Watson 2011 L空間予想)
既約な有理ホモロジー球面
Mについて,
M
が
L空間
⇔π1(M)が左不変順序を許容しない
1.2
先行研究
結び目・絡み目の巡回分岐被覆空間がどのような場合に
L空間になるのかについて,先 行研究を紹介する.
Ozsv´ath-Szab´o [2]
は擬交代的結び目・絡み目の
2重巡回分岐被覆空間について次の定 理を示している.
定理
1.6(
Ozsv´ath-Szab´o 2005)
擬交代的結び目・絡み目の
2重巡回分岐被覆空間は
L空間.
定義
1.7(擬交代的結び目・絡み目)
擬交代的結び目・絡み目は以下のように再帰的に定義される.
•
自明な結び目は,擬交代的結び目.
•
絡み目
Lについて,ある交差点で
resolutionを行い,得られた絡み目を
L∞,
L0とするとき,
(1)L∞
,
L0が擬交代的絡み目.
(2) det(L) = det(L∞) + det(L0)
ならば,
Lは擬交代的絡み目.
また,
Lが交代的ならば,
Lは擬交代的であることが知られている.
Ozsv´ath-Szab´o
は擬交代的結び目・絡み目の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間であるこ とを示したが,その証明を読むと,次の定理が成り立つことがわかる.
定理
1.8絡み目
Lについて,ある交差点で
resolutionを行い,得られた絡み目を
L∞,
L0とす るとき,
(1) L∞
,
L0の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間
(2) det(L) = det(L∞) + det(L0)ならば,
Lの
2重巡回分岐被覆空間は
L空間.
Baldwin [3]
は次の
2つの定理を示している.
定理
1.9(
Baldwin 2008)
トレフォイルに対して,
d重巡回分岐被覆空間が
L空間
⇔d≤5定理
1.10(
Baldwin 2008)
8
の字結び目に対して,すべての巡回分岐被覆空間は
L空間.
Thomas Peters [4]
は種数1の
2橋結び目の巡回分岐被覆空間について,以下のことを
証明した.
まず,種数1の
2橋結び目は,
m, n >0として,以下の
2種類がある.
• C[2m,2n]
• C[2m,−2n]
C[2,4] C[2,-4]
定理
1.11(
Thomas Peters 2009)
C[2m,2n]
に対して,すべての巡回分岐被覆空間は
L空間.
定理
1.12(
Thomas Peters 2009)
C[2m,−2n]
に対して,
3重巡回分岐被覆空間は
L空間.
寺垣内
[5]は以下の定理を証明した.
定理
1.13(寺垣内
2013)
C[2m,−2n]
に対して,
4重巡回分岐被覆空間は
L空間.
Thomas Peters
と寺垣内の結果から,
C[2m,−2n]に対して,
5重巡回分岐被覆空間は
L空間なのかが次の問題になる.
2 Negative twist knot
の
5重巡回分岐被覆空間
C[2m,−2n]
に対して,
5重巡回分岐被覆空間は
L空間かを考える.今回は
m = 1に 限定して考えることにする.
K =C[2m,−2n]
に対して,
m= 1のとき,
Kは
negative twist knotである.
以下,
n≥2とする.
left-handed n-full twist
K
K
が
negative twist knotであるとき,
Montesinos trickによって,
Kの
5重巡回分岐 被覆空間
Σ5(K)は以下の絡み目
Lの
2重巡回分岐被覆空間であることがわかる.
n n n n n
L
つまり,絡み目
Lの
2重巡回分岐被覆空間が
L空間であることを示せばよい.
ここで,
goodな交差点という言葉を定義する.
定義
2.1(
goodな交差点)
絡み目
Lの交差点
cが
goodとは,以下の条件を満たすときにいう.
絡み目
Lの交差点
cで
resolutionを行い,得られた絡み目を
L∞, L0とするとき,
det(L) = det(L∞) + det(L0)
が成り立つ.
先行研究の部分で紹介した
Ozsv´ath-Szab´oの定理から,絡み目
Lの
2重巡回分岐被覆 空間が
L空間であることを以下の方法で示すことができる.
•
絡み目
Lの
goodな交差点で
resolutionを行い,得られる2つの絡み目の
2重巡 回分岐被覆空間が
L空間か調べる.
•
得られた絡み目の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できない場合,その絡み 目の
goodな交差点でさらに,
resolutionを行い,得られる
2つの絡み目の
2重巡 回分岐被覆空間が
L空間か調べる.
最終的に得られた絡み目の
2重巡回分岐被覆空間がすべて
L空間であることがわかれ ば,絡み目
Lの
2重巡回分岐被覆空間が
L空間であることが証明できる.
以下,証明のために行った
resolutionの一部を紹介する.
n n n n n
L(n)=L
n-1 n n n n
L(n-1)
n n n n
Lz c
• L(n−1), Lz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できないので,それぞれの
good
な交差点で
resolutionを行う.
n-1 n n n n
L(n-1)
n-2 n n n n
L(n-2)
n n n n
Lz c
• L(n−2), Lz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できないので,それぞれの
good
な交差点で
resolutionを行う.
n n n n
L(2)
n n n n
L(1)=Li
n n n n
Lz c
• L(1) =Li, Lz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できないので,それぞれの
goodな交差点で
resolutionを行う.
L=L(n) L(n-1) Lz
L(n-2)
Lz Lz
… L(1)=Li
Lz
• Li, Lz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間であれば,
Lの
2重巡回分岐被覆空間は
L空間.
n n n n
Li(n)=Li
n-1 n n n
Li(n-1)
n n n
Liz c
• Li(n−1), Liz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できないので,それぞれの
goodな交差点で
resolutionを行う.
n-1 n n n
Li(n-1)
n-2 n n n
Li(n-2)
n n n
Liz c
• Li(n−2), Liz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できないので,それぞれの
goodな交差点で
resolutionを行う.
n n n
Li(2)
n n n
Li(1)=Lii
n n n
Liz c
• Li(1) =Lii, Liz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間か判断できない ので,それぞれの
goodな交差点で
resolutionを行う.
Li=Li(n) Li(n-1) Liz
Li(n-2)
Liz Liz
… Li(1)=Lii
Liz
• Lii, Liz
の
2重巡回分岐被覆空間が
L空間であれば,
Liの
2重巡回分岐被覆空間 は
L空間.
このように
goodな交差点で
resolutionを繰り返した結果,最終的に得られる絡み目は 交代的であるか,その
2重巡回分岐被覆空間が
L空間である
Montesinos絡み目である.
例
2.2 Liiiiは
Montesinos絡み目である.
n
Liiii
n
Montesinos
絡み目については,次のことが知られている.
• Montesinos
絡み目の
2重巡回分岐被覆空間はザイフェルト多様体になる.
•
ザイフェルト多様体は,元の
Montesinos絡み目の有理タングルの連分数の組に よって,
L空間かどうか判断できる.
次の定理が証明された.
定理
2.3 negative twist knotの
5重巡回分岐被覆空間は
L空間.
left-handed n-full twist
K
C[2m,−2n]
について,
5重巡回分岐被覆空間は
L空間であることを示そうとしている.
3
今後の課題
今後の課題は以下の通りである.
• C[2m,−2n]
の
5重巡回分岐被覆空間の基本群は左不変順序を許容するか?
• d≥6
のとき,
C[2m,−2n]の
d重巡回分岐被覆空間は
L空間か?
Hu [6]
は
2013年の論文で以下のことを示した.
• C[2m,−2n]
の
d重巡回分岐被覆空間の基本群は,
dがある程度大きいとき,左不
変順序を許容する.
例
3.1C[4,−4]
の
d重巡回分岐被覆空間の基本群は,
d≥13のとき,左不変順序を許容する.
また,
Tran [7]も
2013年の論文で以下の定理を示した.
定理
3.2C[2m,−2n]
について,
d > πcos−1√
1−4mn1
のとき,
d重巡回分岐被覆空間の基本群は左 不変順序を許容する.
L
空間予想が正しいと仮定すると,
C[2m,−2n]について,
dがある程度より大きいと き,
d重巡回分岐被覆空間の基本群が左不変順序を許容することから,
d重巡回分岐被覆 空間は
L空間ではないだろうと推測される.
参考文献
[1] S. Boyer, C. McA. Gordon and L. Watson, On L-spaces and left-orderable fun- damental groups, Math. Ann 356(2013), 1213-1245.
[2] P. Ozsv´ath and Z. Szab´o, On the Heegaard Floer homology of branched double- covers, Adv. Math. 194 (2005), 1–33.
[3] J. Baldwin, Heegaard Floer homology and genus one, one-boundary component open books, J. Topol. 1 (2008), 963–992.
[4] T. Peters, On L-spaces and non left-orderable 3-manifold groups, preprint [5] M. Teragaito, Four-fold cyclic branched covers of genus one two-bridge knots are
L-spaces, preprint.
[6] Y. Hu, The left-orderability and the cyclic branched coverings, preprint.
[7] A. Tran, On left-oderability and cyclic branched coverings, preprint.