• 検索結果がありません。

日産婦誌60巻6号研修コーナー

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日産婦誌60巻6号研修コーナー"

Copied!
29
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

研修コーナーについてご意見募集

現在本会機関誌に掲載中の研修コーナーは第61巻12号掲載分までを再度見直しの うえ,学会のコンセンサスを得たものとして「産婦人科研修の必修知識2011」とし て,発刊の予定です. 会員の皆様には研修コーナーをお読みいただいて,お気づきの点がございましたら, 忌憚のないご意見を学会事務局・研修コーナー編集宛お寄せ下さい. 「産婦人科研修の必修知識2011」をより一層,研修医ならびに会員の皆様のお役 にたてる書籍と致したく,会員皆様のご協力をお願い申し上げます. 日本産科婦人科学会教育委員会 研修コーナーのブラッシュアップと産婦人科研修の必修知識編纂委員会 送付先:〒113―0033 東京都文京区本郷2―3―9 ツインビュー御茶の水 3 階 (社)日本産科婦人科学会・研修コーナー編集係 FAX 03―5842―5470 E-mail: [email protected]

日本産科婦人科学会

研修コーナー

60巻

6

2008

(2)

D.産科疾患の診断・治療・管理 11.陣痛誘発 ………(113) 北里大学教授 天野 完 18.産科感染症の管理と治療 3)産褥熱 ………(117) 4)乳腺炎 ………(121) 5)尿路感染症 ………(121) 6)血栓性静脈炎 ………(122) 兵庫県立塚口病院部長 武内 享介 神戸大学教授 丸尾 猛 7)STD・HIV ………(124) 8)B 型肝炎,C 型肝炎 ………(128) 東京慈恵会医科大学教授 田中 忠夫 9)TORCH 症候群 ………(132) 北海道大学准教授 山田 秀人 10)成人 T 細胞白血病………(130) 東京慈恵会医科大学教授 田中 忠夫 研修コーナーへのご意見 ………(137) 7月号(予告) D.産科疾患の診断・治療・管理 19.新生児の管理と治療 1)新生児仮死 2)呼吸障害 3)チアノーゼ………鮫島 浩 10)分娩損傷………高橋 恒男

(3)

D.産科疾患の診断・治療・管理

Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease

11.陣痛誘発

Induction of the Labor Pains

陣痛誘発は陣痛促進薬により人工的に子宮収縮を誘発することで,陣痛発来後に微弱陣 痛のため分娩進行に問題が認められ子宮収縮の増強を図る場合が陣痛促進である.母児の 安全性の確保が前提となり,適応と要約の遵守と適切な母児監視が必須である.

1.適応と要約

医学的,産科学的適応と非医学的,社会的適応に大別されるが,経腟分娩を試みること が危険な症例には陣痛促進薬の投与は禁忌である(表 D-11-1,D-11-2). a)医学的,産科学的適応 妊娠継続により母体あるいは胎児に危険が生ずる可能性が高い場合は陣痛誘発の適応と なる.妊娠高血圧症候群など母体適応による陣痛誘発は,週数によっては胎児成熟を犠牲 にせざるを得ない場合があり,NICU との連携が不可欠となる.胎児発育停止などの胎児 適応では陣痛誘発により経腟分娩が可能となる場合もあるが,胎児機能不全の場合は帝王 切開を選択せざるを得ない. b)非医学的,社会的適応 明らかな医学的,産科学的適応がなく,社会的あるいは個人的な理由から陣痛誘発を行う 場合が選択的陣痛誘発(計画分娩)である.陣痛発来を待つことの不安,予定日超過での焦 り,仕事上の都合,家族の都合,交通事情などが理由となる.休日,夜間など医療スタッフが 少ない時間帯を避け,十分な管理体制下での分娩を目的に陣痛誘発を行う場合もありうる. c)要約 経腟分娩の要約を満たし,妊娠週数が明確であることと分娩準備状態の確認が条件とな る.排卵日が明らかでない場合は妊娠初期の超音波所見により分娩予定日を修正しておく. 分娩準備状態の確認は自発子宮収縮(Braxton Hicks 収縮,妊娠陣痛)の有無と Bishop スコアにより,Bishop スコアは7点以上であることが望ましい. 母児の状態を適切にモニターし,rapid tocolysis など速やかな子宮内胎児蘇生,帝王 切開の実施が可能で新生児蘇生の準備が整っている施設で行われるべきである.

2.インフォームドコンセント

とくに社会的適応で陣痛誘発を行う場合はリスク・べネフィットに関して本人,夫,家 族に分りやすく説明し,十分に理解を得たうえで書面によるインフォームドコンセントを 得ておく必要がある.子宮破裂,弛緩出血,羊水塞栓など有害事象の報告もあり,直接の 原因でないとしても不幸な結果となれば医療訴訟に結びつく可能性が高く,具体的な方法, 予想される効果,副作用,緊急時の対応などについての説明が必要になる.

3.方法

オキシトシンあるいはプロスタグランジン(PG)F2αの点滴静注によるが,陣痛促進薬の 副作用について十分に理解する必要がある.頸管熟化不全例(Bishop スコア4点以下)で

(4)

(表 D-11-1) 陣痛誘発もしくは促進の適応 胎児救命のために胎児外科的処置を必要とする場合 胎盤機能不全 過期妊娠 糖尿病合併妊娠 子宮内胎児死亡 Rh不適合妊娠 子宮内胎児発育遅延 絨毛膜羊膜炎 巨大児 など 胎児側の因子 によるもの 医学的適応 前期破水 妊娠高血圧症候群 羊水過多症 母体の内科的合併症 妊娠継続が母体の危険を招くおそれのあるもの 墜落分娩既往など 母体側の因子 によるもの 妊産婦側の希望 非医学的適応 (日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会 平成 18年 7月) (表 D-11-2) 陣痛促進薬の禁忌と慎重投与 慎重投与例の対応 慎重投与 禁忌 緊急帝王切開可能な状態 で行う.母体のバイタル サインを頻繁に測定し, 変化が認められる場合は 慎重に評価を行う.子宮 収縮,胎児心拍は連続的 にモニターする. 多胎妊娠 前置胎盤または前置血管 羊水過多症 胎位異常(横位) 妊娠高血圧症候群,母体心疾患 臍帯下垂 必ずしも緊急帝王切開を要さな い胎児心拍数パターン異常 古典的帝王切開既往 骨盤位 性器ヘルペスの活動期 児先進部が骨盤入口部より上部 に位置する場合 骨盤の変形,児頭骨盤不均衡 児頭骨盤不均衡が疑われる場合 進行子宮頸癌 既往帝王切開 子宮内腔に達する筋腫核出既往 (日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会 平成 18年 7月) は誘発不成功となり,帝王切開の頻度が高まるので,あらかじめ薬理的,器械的方法によ る前処置が必要になる.わが国では薬理的方法は承認されていないものが多く,器械的方 法に限られる. 1)頸管熟化法 a)薬理的方法 DHA-S はエストラジオールに転換されコラーゲナーゼ活性を高め熟化を促進するとさ れる.また頸管組織内に DHA-S 受容体が確認され局所への直接作用も期待されるが,臨 床的有用性は証明されてはいない.PGE2ゲルや PGE1アナログである misoprostol,プ

ロゲステロン拮抗薬である mifepristone(RU486)や relaxin はわが国では使用できない. b)器械的方法

ラミナリア桿,親水性ポリマーであるダイラパン,硫酸マグネシウムを含む高分子素材 であるラミセルが用いられる.Foley カテーテルやメトロイリンテルも効果的で,ミニメ

(5)

(表 D-11-3) 陣痛促進薬の主要な副作用 ①ショック…チアノーゼ 重要な副作用 ②過強陣痛,子宮破裂,頸管裂傷,微弱陣痛,弛緩出血,羊水塞栓症 ③胎児機能不全 過敏症状 過敏症 その他の副作用 新生児黄疸 新生児 不整脈,静脈内注射後の一過性血圧上昇・下降 循環器 悪心・嘔吐 消化器 水中毒症状 その他 (日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会 平成 18年 7月) (表 D-11-4) 陣痛促進薬の投与方法 プロスタグランディン E2 プロスタグランディン F2α オキシトシン 通常 1回 1錠を 1時間ごとに 6回 まで投与 0.1μg/kg/分 15~ 30分ごとに 1.5μg/分増量 1~ 2mlU/分 以後 30~ 40分ごとに 1~ 2mlU/分増量 初回投与量 ならびに増量 陣痛誘発効果・分娩進行効果が認め られたときはそれ以降の投与は行 わない.1日総量 6錠以下とする 6~ 15μg/分 安全限界 25μg/分 5~ 15mlU/分 安全限界 20mlU/分 維持量ならび に安全限界 (日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会 平成 18年 7月) トロ(40ml)はラミナリア杆に比べて挿入が容易で産婦の苦痛も少なく効果的である.あ る程度子宮口が開大していれば内診指により内子宮口付近の子宮壁から卵膜を剝離するこ とや乳頭刺激によっても熟化促進が期待できる. 2)人工破膜 人工破膜は,臍帯脱出や臍帯圧迫による胎児機能不全,子宮内感染の危険性が危惧される が,子宮口が3∼4cm 開大し,児頭が下降,固定した状態で実施する限り,問題は少ない. 陣痛誘発には極めて有効な手段であり,混濁や血液の有無など羊水の性状を確認でき,直接 法による胎児心拍数陣痛図モニタリングが可能になる.また子宮内圧測定用のオープンエ ンドカテーテルは羊水過少例などで amnioinfusion のルートとして用いることができる. 人工破膜はコッヘル鉗子や内測法モニタリングのらせん電極を用いるが,内診指で臍帯 を触れないこと,前置血管の可能性がないことに留意する. 破水後は時間経過に伴い子宮内感染のリスクが増すのでペニシリン系,あるいはセファ ロスポリン系の抗菌薬を点滴静注する. 3)陣痛促進薬(表 D-11-3,D-11-4) a)オキシトシン 子宮筋の感受性は妊娠週数,投与前の収縮の程度,頸管所見によっても異なり,個人差 が大きい.点滴静注後3∼5分で反応がみられ40分後には一定となる.投与速度の調節が 重要で必ず輸液ポンプを用いる.点滴ルートは2本確保して,点滴刺入部にできるだけ近 い部位に三方活栓を接続し,副ルートからオキシトシンを投与する.主ルートは維持輸液 のルートとし,過強陣痛となればオキシトシン投与を速やかに中止して,子宮収縮抑制薬 を主ルートから投与する. 低用量投与,高用量投与,コンピュータ制御によるパルス投与法などがあるが低用量投

(6)

与法が一般的である.5%グルコース液500ml にオキシトシン5単位を溶解し(10mU" ml),1∼2mU"分で開始して30∼40分ごとに1∼2mU"分増量する.分娩進行には150∼ 350モンテビデオ単位の子宮収縮が必要であるが通常は10mU"分までの投与で十分であ る.安全限界は20mU"分とされるが,必要最少量で有効収縮を得る様に投与量を調節する. b)PGF2α オキシトシンによる陣痛誘発では子宮内圧は急激に上昇し,間欠期の短い子宮収縮が特 徴であるが PGF2αでは不規則で弱く,持続時間の長い収縮から,次第に規則的,協調的 な収縮が得られる.子宮筋の感受性に個体差が少なく,頸管熟化作用があるため熟化不全 例の陣痛誘発に有効である. 3,000µg を5%グルコース500mlに溶解し,3µg"分から点滴静注を開始し,15∼30 分ごとに1.5µg"分ずつ増量する.6∼15µg"分で維持し,安全限界は25µg"分である. 緑内障や気管支喘息合併例には使用できない.オキシトシンとの併用は相乗効果により 過強陣痛をきたす可能性があるので禁忌である. c.PGE2 1錠(0.5mg)を1時間ごとに3∼4回経口投与する(6錠まで).調節性がなく,ときに過 強収縮となるので入院のうえ胎児心拍数陣痛図モニタリング下に投与する.腟内投与など 経口以外の投与法は認められていない.通常はオキシトシンや PGF2α点滴静注に先立っ て投与されるが同時併用は行わない.

4.胎児心拍数陣痛図モニタリングと緊急処置

胎児心拍数陣痛図による連続的モニタリングを原則とする.外測法によるモニタリング が一般的であるが外測法では子宮内圧,静止圧の評価は不可能であり,子宮収縮を的確に 評価するためには人工破膜を行い,オープンエンドカテーテルを挿入する内測法によるモ ニタリングが望ましい. 頻回,過度の子宮収縮は胎児低酸素血症から酸血症に陥る可能性があるので,10分に5 回以上(15分に7回以上),1回の子宮収縮が90秒以上持続する場合,あるいは1分ごとの 頻回の子宮収縮などで胎児心拍数所見に異常がみられる場合には速やかに陣痛促進薬の投 与を中止し,rapid tocolysis として塩酸リトドリン(500∼1,000µg)あるいはニトログ リセリン(100∼200µg)の静注により子宮収縮を抑制する必要がある. 《参考文献》

1.ACOG Practice Bulletin. Induction of labor. Clinical management guidelines for obstetrician-gynecologists 1999 ; Number 10

2. Royal College of Obstetricianss and Gynecologists. Induction of labor. Evidence-based clinical guideline 2001 ; Number 9

3.日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会.子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に 際しての留意点.平成18年7月 〈天野 完* 〉 *Kan A MANO

Department of Obstetrics and Gynecology, Center for Perinatal Medicine, Kitasato University,

School of Medicine, Kanagawa

Key words : Induction of the labor pains・Elective induction・Cervical ripening・Oxyto-cin・Prostaglandin

(7)

D.産科疾患の診断・治療・管理

Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease

18.産科感染症の管理と治療

Diagnosis and Therapy of Obstetric Infectious Disease

3)産褥熱 Puerperal fever

定義 産褥熱は分娩終了24時間以降,産褥10日以内に2日以上,38℃以上の発熱が続く場合 と定義されている.臨床的には子宮を中心とした骨盤内感染症とほぼ同義語として使用さ れる. 起炎菌 以前はブドウ球菌,連鎖球菌といった強毒菌が主体であったが,抗生物質の進歩や妊娠 分娩管理の近代化に伴い,腸内細菌や嫌気性細菌などの弱毒菌およびクラミジアが主体と なった.近年の予防的化学療法,抗菌剤の多用の反動として MRSA(methicillin resistant staphylococcus aureus),VRE(vancomycin resistant enterococcus)と い っ た 薬 剤 耐性菌が出現し臨床上問題となっている. 誘因(表 D-18-3)-1) 産褥期の子宮内感染の原因としては,糖尿病,ステロイド剤投与中の自己免疫疾患によ る免疫不全状態,易感染性疾患合併,性感染症合併,悪露の流出を妨げるような筋腫の存 在が考えられる.分娩期周辺では,PROM,産科処置,産科手術,産褥期長期臥床,胎 盤遺残が誘因となりうるが,感染原因,感染経路が不明な場合も多い. 病態 (1)産褥子宮内膜炎 最も頻度が多い産褥熱の原因疾患である.悪露滞留が長期にわたり,子宮腔内に細菌が 増殖して腐敗作用が持続することにより発症する.子宮内膜(脱落膜)は比較的深層に至る まで壊死に陥り,破壊され,その下層に強く細胞浸潤が生じる.まれには子宮全内膜がこ とごとく壊死に陥ることがある. 通常,産褥3∼5日に発症し,発熱,下腹部痛,子宮の圧痛と悪露の異常(血性であり, 悪臭を有する)がみられる.子宮内膜炎は早期に適切な化学療法を実施すれば,数日で臨 床症状の軽快と解熱を認めるが,感染が進行すると子宮内膜に限局した感染が子宮筋層へ と波及し,続いて感染が管内性あるいはリンパ行性に広がり子宮旁結合織炎へと進展する. (2)産褥子宮付属器炎 子宮内膜炎の症状で発症し,数日後に新たに高熱を発すると共に,牽引性の疼痛が下腹 部の片側あるいは両側に生じる.感染の侵入経路により,卵管炎,卵管留膿腫,卵巣膿瘍 となる.初期には内診にて,片側あるいは両側の子宮卵管角に限局した有痛性索状物を触 知する.病勢が進行し,卵管留膿腫,卵巣膿瘍を形成すると弛張熱が継続する.炎症の消 退後も極めて長期にわたって存続し,周囲臓器との癒着をきたす. (3)産褥子宮旁結合織炎 子宮旁結合組織まで及んだ炎症がさらに広間膜まで進展した状態で,硬結を触知するよ うになる.片側のことが多く,骨盤壁に広く拡大する傾向があり,子宮は反対側に圧排さ

(8)

(表 D-18-3)-1) 産褥熱の主な誘因 前期破水(24時間以上経過) 分娩前 産道に対する機械的操作,頻回の内診 細菌性腟症,絨毛膜羊膜炎 切迫早産 抗生物質の長期投与 産科手術(帝王切開,胎盤用手剥離) 分娩中 遷延分娩 早産,死産 大量出血 産道に対する機械的操作,頻回の内診 産褥期 子宮内遺残(胎盤,卵膜,ガーゼ) 低栄養状態 妊娠高血圧症候群 母体合併症 糖尿病,自己免疫疾患 免疫力低下(副腎皮質ホルモン服用,HIV感染症) 子宮筋腫(悪露滞留)

(表 D-18-3)-2) 全身性炎症性反応症候群 systemic inflammatory response syndrome (SIRS) の診断基準

1 38℃以上の発熱または 36℃以下の低体温 2 心拍数 90/ 分以上

3 呼吸数 20/ 分以上あるいは PaCO2 32 Torr以下

4 白血球数 12,000/ml以上または 4,000/mlあるいは桿状球 10%以上 上記 4項目のうち 2項目以上の所見あるもの

(ACCP/SCCP Consensus Conference Committee:Definitions forsep sis and organ failure and guidelines forthe use ofinnovative therapies in sepsis.Chest101:1644 ― 1655,1992) れ,その可動性は制限される.子宮の後方に波及すると直腸腟靱帯にも硬結を形成し子宮 頸部後方の腫瘤として触知する.産褥3∼4日に高熱を発し,ときに悪寒戦慄を伴う症状 が進行すると敗血症を併発することが多い.産褥期の発熱疾患としては子宮内膜炎以外に も乳腺炎,血栓性静脈炎,尿路感染などがあるので,それらとの鑑別が必要である. (4)産褥骨盤腹膜炎 軽症では子宮内膜炎の症状に続いて下腹部の強い疼痛,圧痛,悪心,嘔吐などを訴える 程度であるが,重症では通常産褥3∼4日から悪寒戦慄を伴う高熱を生じ,腹部全面とく に下腹部に強い疼痛を訴え,圧痛,筋性防御が著明である.また,嘔吐,便秘,鼓腸といっ た急性腹膜炎にみられるような症状を呈する.これらの症状の多くは数日で改善傾向を示 し,圧痛も下腹部に限局してくる.これはダグラス窩に膿汁が貯留するためで,やがてダ グラス窩膿瘍を形成する.ダグラス窩穿刺により排膿を行うと症状は軽快するが,腹腔内 に穿孔した場合は,汎発性腹膜炎をきたし,予後は不良となる. (5)産褥敗血症 産褥熱の中でも最も重篤な疾患で,細菌が血流内に侵入増殖し,全身感染症となったも のである.近年,敗血症の病態は菌体毒素に生体が反応し,多量のサイトカインが産生さ れ る た め に 生 じ る 全 身 性 炎 症 性 反 応 症 候 群(systemic inflammatory response

(9)

syn-(表 D-18-3)-3) Toxic shock syndrome (TSS) の診断基準 発熱:体温が 38.9℃以上 発疹:びまん性斑状性紅皮症(手掌,足蹠に 1~ 2週間後に落屑) 低血圧:収縮期血圧 90 mmHg以下, 拡張期血圧低下が 15 mmHg以上の起立性低血圧または起立性失神 多臓器障害:3つ以上の項目を示す 消化管:嘔吐または下痢 筋:激しい筋肉痛または血清 CPKが正常上限の 2倍以上の値 粘膜:腟,口腔咽頭,眼瞼結膜の充血 腎:血清 BUNまたはクレアチニンが正常上限の 2倍以上の値 肝:総ビリルビン,GOTあるいは GPTが正常上限の 2倍以上の値  末梢血:血小板数が 10万 /ml以下 中枢神経:見当識障害,意識障害

(Shands K.N.,etal.:Toxic-shock syndrome in menstruating asso-ciation with tampon use and staphylococcus aureus and clinical features in 52 cases.N EnglJ Med.303:1436 ― 1442,1980.)

(表 D-18-3)-4) Streptococcaltoxic shock syndrome (STSS) の診断基準

A群連鎖球菌の分離 Ⅰ . A.元来が無菌の部位より B.常在菌が存在している部位より 臨床所見 Ⅱ . A.低血圧:収縮期血圧が 90 mmHg以下 B.下記の 2項目以上の症状 1.腎機能障害:血清クレアチニン 2 mg/dl以上 2.凝固系:血小板 10万 /mm3以下あるいは血液凝固時間短縮 フィブリノーゲン低下,FDP陽性などによる DICの存在 3.肝機能障害:GOT,GPT,総ビリルビン値が正常値の 2倍以上 4.成人呼吸窮迫症候群(ARDS)の存在 5.全身性紅斑様皮疹 6.壊死性筋膜炎や筋炎を伴う軟部組織壊死

Ⅰ AおよびⅡ (Aと B)を満たすときは確診,Ⅰ BおよびⅡ (Aと B)を満たすときは疑診 (The Working Group on Severe StreptococcalInfections:Defining the group A strep

tococcaltoxic shock syndrome,JAMA,269:390 ― 391,1993)

drome:SIRS)と定義され,敗血症性ショック(septic shock)の病態もサイトカインに よる生体反応と考えられる(表 D-18-3)-2).すなわち敗血症は感染によって引き起こさ れた SIRS と定義される.敗血症性ショックでは,悪寒戦慄,呼吸促迫,意識低下,血圧 低下の症状と,低酸素血症,代謝性アシドーシス,末梢血管拡張,乏尿をきたす.循環動 態的には,末梢血管に循環血液のプーリングが生じ,有効循環血液量の減少と末梢血管抵 抗の減少,心拍出量の増加がみられる.さらに進行すると多臓器機能不全症候群(multiple organ dysfunction syndrome:MODS)の状態に至る.

敗血症性ショックをきたす最も代表的な起炎菌は,エンドトキシンを産生するグラム陰 性桿菌である.さらに近年注目されているものとして,グラム陽性球菌である MRSA や A 群連鎖球菌によるものがある.とくに,周産期領域における MRSA 感染症は,NICU

(10)

(図 D-18-3)-1) 産褥子宮内感染の管理指針 中等症以上の産褥子宮内感染症 入院の上,抗生物質投与 超音波検査にて子宮内遺残の有無を確認後, 子宮収縮薬の投与,子宮口開大処置,子宮内容除去, 子宮腔内の洗浄により悪露,分泌物の排泄を促進する 症状・検査所見 改善(+) 投与中止 経過観察 症状・検査所見 改善(−) 基礎疾患(−) 基礎疾患(+) 基礎疾患の治療 高次医療施設への 搬送を考慮 起炎菌,薬剤感受性の検討 抗生物質変更 膿瘍を形成している場合は切開排膿, ドレナージ,外科的切除 で顕在化したが,産科でも褥婦を中心に報告例が増加しつつある.その症状としては,39℃ 代の弛張熱と紅斑が特徴的で,紅斑は解熱とともに落屑を伴い軽快する.これらの病態は, ブドウ球菌性猩紅熱として知られていたもので,ブドウ球菌が産生するエクソトキシンに よる反応と考えられている.また,敗血症症状を呈し,MODS へ移行するものを toxic shock syndrome(TSS)と呼ぶ(表 D-18-3)-3). 一方,A 群連鎖球菌による産褥熱は抗生物質の普及とともに,激減していたが,近年い わゆる再興感染症のひとつとして劇症型 A 群連鎖球菌感染症が注目されている.敗血症 性ショック,DIC,MODS を惹起し,黄色ブドウ球菌による TSS にその臨床像が類似し ていることから,TSLS (toxic shock−like syndrome:TSLS)あるいは(streptococ-cal toxic shock syndrome:STSS)と呼ばれる(表 D-18-3)-4).前駆症状として,咽 頭炎,発熱,筋肉痛で発症し,2∼3日の経過で壊死性筋膜炎やショックに移行するとい う電撃的な経過をたどり,きわめて予後不良な感染症である.

(6)敗血症性骨盤静脈血栓症(septic pelvic thrombophlebitis)

米国での発生頻度は経腟分娩9,000に1例,帝王切開800に1例と報告されている.胎盤 剝離面の細菌感染が子宮筋層内の小さな静脈血栓の原因となる.そこで,さらに細菌が増 殖し,小静脈の血栓性静脈炎を起こす.これが卵巣静脈へ進展し,広範囲な血栓性静脈炎 となる.右卵巣静脈から下大静脈へ,左卵巣静脈から左腎静脈へ波及する.右側に多い. 産褥2∼3日目頃に下腹部痛,側腹部痛,腰痛があり,時に子宮卵管角上方に圧痛を伴う 腫瘤を触れる.抗菌剤の使用にもかかわらず悪寒を伴うスパイク状の高熱が持続する.

(11)

予防および治療 絨毛膜羊膜炎症例では帝王切開による胎児およびその付属物の除去が子宮内感染の治療 となり,術中の十分な腹腔内洗浄やドレーンの留置といった感染症に対する適切な処置を 行うことにより,術後,炎症所見は速やかに改善する.炎症所見の改善が遷延する場合は 子宮筋層創部周囲膿瘍あるいは膀胱子宮窩またはダクラス窩膿瘍の存在を念頭に置き,積 極的な原因検索・治療をすすめるべきである.一旦,膿瘍を形成した症例では,感染源に 対する処置なしに抗生物質のみの投与では解熱しない.したがって,①感染巣を除去する こと,②抗生物質の使用法の基本に忠実であることが肝要である.治療方針の概要を図に 示す(図 D-18-3)-1).

4)乳腺炎 Matitis

概念と成因 分娩後1∼2日目に初乳がみられ,3∼4日目には成乳に移行し,産褥1∼2週で乳汁分泌 は完成する.この時期の乳汁分泌量の急増に乳汁導出路が対応できないと乳汁の鬱滞が生 じる.この状態を鬱滞性乳腺炎と呼ぶ.この鬱滞に細菌感染が付加された状態を化膿性乳 腺炎と呼ぶ.その頻度は授乳女性の1%以下とされているが,全乳腺炎の80%は授乳中で あり,約半数は出産後2週間以内に発症するとされている. 鬱滞性乳腺炎 産褥期の比較的早期に乳管内に乳汁が鬱滞した状態であり,真の炎症ではない.閉鎖乳 管に一致した乳房の腫大,発赤,疼痛,局所的な熱感を訴える.ときに腋窩リンパ節の腫 脹を認め,軽度の白血球数増加や発熱を生じるが,乳汁の鬱滞を除去することにより,こ れらの所見は速やかに改善する.治療としては授乳,搾乳,マッサージなど乳汁鬱滞の解 除である. 化膿性乳腺炎 乳頭の亀裂など乳頭の損傷によって乳頭から侵入した細菌感染によって発症する.起炎 菌としては黄色ブドウ球菌が最も頻度が高い.乳房の辺縁部に初発し,乳頭を頂点として 乳房全体に広がる疼痛,発赤,腫脹,熱感を認める.悪寒戦慄を伴う高熱をきたす.患側 腋窩リンパ節は有痛性に腫大する.数日の経過で徐々に感染巣が限局し膿瘍を形成すると, 波動を触れ皮膚は光沢を帯び暗赤色を呈して菲薄化する.治療には保存的療法と観血的療 法がある.膿瘍が形成されていなければ,抗生物質の投与を行ったうえで,乳汁鬱滞の解 除を行う.膿瘍が形成された場合は,皮膚切開による排膿を行う.

Key words : Systemic inflammatory response syndrome・Septic shock・Methicillin resis-tant staphylococcus aureus ・ Toxic shock syndrome ・ Suppurative masti-tis・Puerperal breast abscess

索引語:産褥熱,全身性炎症性反応症候群,多臓器機能不全症候群,劇症型 A 群連鎖球菌感染症, 敗血症性骨盤静脈血栓症,乳腺炎,鬱滞性乳腺炎,化膿性乳腺炎

(12)

5)尿路感染症

生理的変化と尿路感染症 一般に妊娠中に尿路感染症の頻度が高くなることが知られているが,その理由として妊 娠に伴う尿路の解剖学的変化があげられる.すなわち妊娠が進行し,増大した子宮が骨盤 腔を越える妊娠4カ月以降になると,尿管は圧迫され水腎・水尿管が出現しやすくなる. このような尿路の圧迫に加えて,妊娠中に増加するプロゲステロンの尿路系平滑筋に対す る弛緩作用も要因として加わる.この現象は,右側尿管に強い傾向がある.この理由とし て,妊娠子宮は右旋・右傾すること,左側尿管は S 状結腸によって圧迫が緩衝されるこ と,さらに直接下大静脈に潅流する右側卵巣静脈は妊娠中に拡張し,右尿管を圧迫するこ とがあげられる. 一方,膀胱はプロゲステロンによる弛緩に加え,妊娠子宮による後方からの機械的圧迫 のため,機能的にも低緊張状態を呈する.そのため,残尿や膀胱尿管逆流現象を招く. 無症候性細菌尿 臨床症状を有してないにもかかわらず,尿中の細菌数が105"ml以上の状態を無症候性 細菌尿と称する.妊婦では2∼7%にみられるとされ,とくに尿路感染症の既往をもつも のに多い.急性腎盂腎炎は細菌尿を認めない妊婦の1%に発症するのに比し,無症候性細 菌尿を有する妊婦では20%と高率にみられる.したがって妊娠初期の無症候性細菌尿の スクリーニングは,周産期管理上,重要である.細菌尿が認められた場合,抗生物質治療 を行う.抗生物質としては,ペニシリン,セフェム,マクロライド系を用いる. 急性膀胱炎 急性膀胱炎は妊婦の1∼2%に合併し,排尿時痛,頻尿,尿混濁,残尿感などの症状と 血尿,膿尿,細菌尿といった尿所見により診断される.起炎菌はほとんどが大腸菌をはじ めとするグラム陰性桿菌である.治療として,水分摂取による菌の wash out,保温とと もに抗生物質の投与を行う. 腎盂腎炎 急性腎盂腎炎は,妊婦の1∼2%に発症するとされている.解剖学的位置関係より圧倒 的に右側に多い.発症時期は妊娠中期以降に多いが,無症候性細菌尿を呈している症例で は比較的初期にも罹患する.症状は38℃以上の高熱,背部痛であり,膿尿,細菌尿を認 める.腎盂腎炎は上行性感染により発症するため膀胱炎を伴なっていることがあり,この ような場合には膀胱刺激症状がみられる.治療の時期が遅れると腎機能障害や敗血症によ る多臓器機能不全が起きることがあるため,速やかな診断・治療が必要である. 起炎菌のほとんどがグラム陰性桿菌で,なかでも大腸菌の占める比率が70∼90%と高 く,急性腎盂腎炎と診断された際には入院とし安静のうえ,尿培養結果を待たずに抗生物 質の点滴静注を開始する.膿尿が消失し,尿培養が陰性化した後も定期的に検尿,沈査, 尿培養を行い再発の早期発見に努める.

6)血栓性静脈炎

概念・成因 妊娠・産褥期は血液の凝固性が亢進し,子宮による静脈圧迫や安静のために静脈血流が 停滞しやすく,さらに産褥感染症は血管内皮の障害を,帝王切開時の血管壁損傷は無菌的 炎症を惹起し,静脈内血栓が発生しやすい状態になっている.静脈内血栓は血管の狭窄や 閉塞の原因となり,これに感染が併発した状態を血栓性静脈炎という.産褥数日目から1 週間後に生じることが多く,発生部位によって表在性あるいは深部血栓性静脈炎と呼ばれ るが,妊娠・産褥期の発生頻度は前者が圧倒的に多い.

(13)

症状と診断 表在性血栓性静脈炎では静脈の怒張がみられ,圧痛に一致した静脈内血栓を索状に触知 する場合が多い.一方,深在性血栓性静脈炎では特徴的な所見に乏しく,診断が困難であ るが,産褥2∼3日目に下腹部痛,側腹部痛が存在することがある.また,産褥時に発生 し,著明な疼痛を伴い,皮膚が蒼白になる大腿静脈の血栓性静脈炎を産褥性白股腫と呼ぶ. 深部静脈血栓症の続発症としては肺動脈,冠動脈,脳での血栓塞栓症がある.診断は上記 の臨床所見と超音波検査,静脈造影,CT,MRI の組み合わせにより行う.下腿の血栓性 静脈炎では Homan 徴候(下肢を進展させた状態で足関節を強く背屈させると,下肢に疼 痛が生じる)がみられることがある. 予防・治療 予防方法としては,静脈瘤がある場合や血栓症の既往がある場合,分娩中あるいは帝王 切開中から下肢の挙上,弾力包帯の着用を行うことが必要である.また,早期離床・歩行 を開始する.治療は,まず上記の予防措置を行ったうえで,抗生物質を投与する.肺塞栓 症など続発症の可能性がある深部血栓静脈炎ではヘパリン,ワーファリンといった抗凝固 剤,ウロキナーゼなどの線維素溶解酵素を投与する. 〈武内 享介* ,丸尾 猛** 〉

Kyousuke TAKEUCHI,**Takeshi MARUO

Department of Gynecology and Obstetrics, Hyogo Prefectural Tsukaguchi Hospital, Hyogo * *Department of Obstetrics and Gynecology, Kobe University Graduate School of Medicine,

Kobe

Key words : Asymptomatic proteinuria ・ Cystitis ・ Pyelonephritis ・ Thrombophlebitis ・ Deep vein thrombosis・Pulmonary embolism

索引語:無症候性蛋白尿,膀胱炎,腎盂腎炎,血栓性静脈炎,深部静脈血栓,肺血栓塞栓,産褥 性白股腫

(14)

(表 D-18-7)-1) 感染症法に基づく医師の届出基準 届出基準 A:診断したすべての医師が保健所に届出なければならない疾患. B:定点のみ(指定届出機関)が届出を行う疾患. 疾患        届出基準 B 性器クラミジア感染症 B 淋菌感染症 B 尖圭コンジローマ A 後天性免疫不全症候群 B型および C型肝炎* A :B型および C型肝炎は急性のものだけが対象で,慢性あるいは無 症候性キャリア,ならびに急性増悪例は除く. 五類感染症 42疾患のうち本項にある疾患を抜粋したが,以下の感染 症も五類感染症に分類されており,届出基準が決められている:梅毒 (A),風疹(B),性器ヘルペスウイルス感染症(B).

D.産科疾患の診断・治療・管理

Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease

18.産科感染症の管理と治療

Diagnosis and Therapy of Obstetric Infectious Disease

ここで取りあげる感染症の多くは「感染症法」(平成15年10月に改正)の中で五類感染症 に分類されており,平成18年4月1日より,表 D-18-7)-1に示すごとき届出基準があるこ とを知っておく必要がある1)

7)STD・HIV

STD(性感染症)は性行為により伝播する疾患であり,その原因微生物は80種類以上に 及ぶとされているが,STD の詳細は他項(婦人科感染症中の性感染症)に譲る.ここでは, 次項(TORCH 症候群)にある STD(梅毒,性器ヘルペス感染症,サイトメガロウイルス感 染症)を除いたものについて述べる. 妊婦の STD の管理と治療で重要なことは,まず胎児・新生児への影響,そして妊娠に 対する影響を考慮することである.すなわち,妊婦が STD に罹患すると,経胎盤的に胎 児に,あるいは分娩時に経産道的に新生児に感染が成立する可能性があり,また,流早産 の要因となることもある.本項で述べる以下の感染症はすべて母子感染が起こり得る疾患 である.また,STD の治療は,パートナーに対しても行うことが大切である. 1.性 器 ク ラ ミ ジ ア 感 染 症(病 原 体:ク ラ ミ ジ ア ト ラ コ マ チ ス Chlamydia tra-chomatis)(図 D-18-7)-1) 性器クラミジア感染症はクラミジアが性行為により感染したもので,女性では子宮頸管 炎や骨盤内感染症を,男性では尿道炎や精巣上体炎を発症する.このように,クラミジア は主に泌尿生殖器に感染し,患者数は STD の中で最も多い.女性性器への初感染部位は 子宮頸管であり, 感染後1∼3週間で子宮頸管炎を発症する. 時に帯下の増量を訴えるが,

(15)

(図 D-18-7)-1) 性器クラミジア感染症の管理と治療 【検査・診断に際しての注意】 1.感度が高いのは拡散増幅法であるが,感染していても頸 管からは検出できないことがある. 2.症状と内診所見から感染が疑われる場合には血清抗体検 査を行い,陽性例は治療対象とする. 3.血清学的診断 1)IgG 抗体:既往感染の有無,活動性の指標(ペア血 清での抗体価の上昇)の判定 2)IgA 抗体:活動性感染の有無,治療効果(抗体価の 推移)の判定 3)IgM 抗体:新生児感染の判定に有用 4.治癒の確認は抗原あるいは DNA 検査で行い,疑陽性・ 疑陰性を避けるために,治療終了後少なくとも 3 週間あ けて検査する. 【治療と新生児管理】 1.アジスロマイシン(AZM:ジスロマック®)   経口 250mg×4 錠 1 回投与 2.クラリスロマイシン(CAM:クラリス®,クラリシッド®)   経口 200mg×2 回/日 7∼14 日間投与 3.新生児封入体角結膜炎,肺炎に対しても上記抗菌薬が有 効で,治療予後は良好である. 【妊婦管理】 妊娠初期(10 週前後)にスクリーニング検査 クラミジア DNA(PCR, LCR),あるいは抗体(IgG, IgA)検査

経過観察 DNA(+) 抗体(ー) AZM,あるいは CAM にて治療 妊娠後期(32 週頃)にスクリーニング検査 クラミジア DNA 検査 AZM あるいは CAM にて治療 経過観察 (+) (ー) DNA(ー) 抗体(+) 約50∼70%は無症状保菌者といわれており,受診機会がないと感染源となり蔓延する可 能性がある. 妊婦のクラミジア感染症は,子宮頸管からの感染が拡大すると絨毛膜羊膜炎を誘発し, 子宮収縮を来すことにより流早産・PROM の要因ともなる.クラミジア非感染妊婦と比 較すると,早産リスク1.46倍,PROM リスク1.50倍とする報告がある2) .また,主とし て産道感染により新生児封入体結膜炎や肺炎を発症させる.なお,後述する淋菌などとの 混合感染も少なくない. 分離同定法,抗原検査(EIA),核酸検出法・核酸増幅法(PCR 法など)などにより,子 宮頸管あるいは腟の分泌物・擦過検体から,クラミジアの抗原あるいは DNA を検出する ことなどにより診断されるが,核酸増幅法の感度が一番高い.ただし,子宮頸管は極めて 限られた部位であり,感染が他の部位へと拡大した場合には子宮頸管からは検出できない こともあり得るし,また,検体採取を慎重に行わないと検出率が低くなる.このようなこ とも考慮し,また妊婦では検体採取に伴う子宮頸管からの出血を避けるために,疑わしい

(16)

(表 D-18-7)-2) 淋菌感染症の管理と治療 【妊婦管理】 1. スクリーニング検査に組み込む必要はないが,粘液性膿性分泌物を認める場合は積極的に検査する. 2.クラミジアとの同時感染が多いので,淋菌とともにクラミジア検査も必ず実施する. 【検査・診断に際しての注意】 1.子宮頸管検体からのグラム染色標本の検鏡による淋菌の視認は困難で,正診率は低い. 2.多剤耐性菌の感染が疑われる場合,淋菌選択培地による培養により,薬剤感受性検査を行う. 3.検出感度の最も高い核酸増幅法によっても,検出率は 100%ではないとされる. 4.スペクチノマイシン,セフォジジム,セフトリアキソンを使用した場合,必ずしも治癒の確認は 行わなくてもよい. 【治療と新生児管理】 1.妊婦に処方可能な薬剤: スペクチノマイシン(SPCM:トロビシン®)筋注 2.0g 単回投与 セフォジジム(CDZM:ノイセフ®,ケニセフ®)静注 1.0g 単回投与 セフトリアキソン(CTRX:ロセフィン®)静注 1.0g 単回投与 セフィキシム(CFIX:セフスパン®)経口 200mg×2回 / 日 1~ 3日間投与 2.新生児には,出生時に全例コリスチンメタンスルホン酸(エコリシン®)点眼液を用いる. 3.母子感染が疑われるときは: 結膜から検体を採取し,陽性ならば SPCM 筋注 60mg/Kg 単回投与 所見・症状がある場合には血清中の特異抗体検査を行うことがある.しかし,その結果は 診断の参考にはなるが,その時点での活動性感染の存在を必ずしも反映していないので, その判定には注意を要する.いずれにしても無症状の場合が多いので,妊婦ではスクリー ニング検査として,妊娠初期と後期に積極的に検査を行うことが大切である. 妊婦に処方可能な治療薬はマクロライド系薬だけである. 治療終了2∼3週間後の核酸増幅法などによる病原体の陰転化を確認することにより, 治癒と判定する.血清抗体検査では治癒判定はできない.なお,パートナーと同時に確実 に治療していれば再発はない. 2.淋菌感染症(病原体:淋菌 Neisseria gonorrhoeae)(表 D-18-7)-2) 淋菌感染の頻度は少ないとはいえ,性器クラミジア感染症に次いで患者数の多い細菌性 STD であり,1回の性行為による感染伝達率は約30%と高い.子宮頸管に感染し,典型 例では粘液性・膿性帯下を認めるが約80%は症状を自覚しない.感染の機会後,発症は7 日以内とされるが,はっきりしないことが多い. 管内性に感染が拡大すると,絨毛膜羊膜炎により流早産・子宮内胎児死亡・IUGR の要 因ともなる.また,産道感染により新生児結膜炎・膿漏眼を来すことがある. 塗抹染色標本鏡検,分離培養同定法,非培養検出法(抗原検査,核酸検出法・核酸増幅 法)などにより淋菌を検出することにより診断される.最近,淋菌 DNA およびクラミジ ア DNA を同時に検出できる鋭敏な核酸増幅キット(アプテイマ Combo2クラミジア"ゴ ノレア R,など)が使用可能となり有用である.しかし,近年わが国では多剤耐性淋菌が 増加しており,場合により,分離培養と薬剤感受性検査を行う必要性がある.核酸増幅法 では薬剤感受性は判定できない.なお,淋菌感染症の20∼30%はクラミジア感染を合併 しているとされているので,クラミジア検査も必ず同時に行う. 第三世代経口セフェムの耐性率は地域によって高いところもあり,抗菌力の強いセフィ キシムでも無効例がある.したがって,妊婦に処方可能で,かつ確実に有効な薬剤はセフ トリアキソン,スペクチノマイシン,セフォジジムである3) .

(17)

(表 D-18-7)-3) 尖圭コンジローマの管理と治療

【妊婦管理】

1.産道感染するので,分娩前に必ず治療する.

2.発生部位と病変の大きさなどにより,帝王切開も考慮する. 【検査・診断に際しての注意】

1.Hybrid Capture法では以下の HPV型を同定できる: 1)良性型:6,11,42,43,44型 2)悪性型:16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68型 2.悪性型が検出された場合には注意深い観察を要する. 3.他の感染症を合併していることにも注意する. 【治療と新生児管理】 1.妊婦では,外科的切除,液体窒素による凍結療法,電気焼約,炭酸ガスレーザーなどで除去する. 2.新生児感染が疑われるときはには,児を 2年間フォローアップする必要がある. それら3剤は淋菌性子宮頸管炎に対して100%近い有効性があるとされており,治癒判 定を目的とした投与後の検査は必ずしも行わなくてもよい.他の薬剤を用いた場合は,投 薬終了後,3日間以上あけてから淋菌検出のための検査を行う. 3.尖 圭 コ ン ジ ロ ー マ(病 原 体:ヒ ト 乳 頭 腫 ウ イ ル ス Human papillomavirus (HPV))(表 D-18-7)-3) 尖圭コンジローマはウイルス性 STD であり,HPV の感染により外陰・腟・子宮頸部・ 肛門周囲などの性器周辺に乳頭状・鶏冠状の外観を呈する良性腫瘍である.HPV は皮膚 型と粘膜型に分類され,100種類以上が知られている.それぞれに良性型と悪性型とがあ るが,尖圭コンジローマの原因となるのは,ほとんどが粘膜・良性型の HPV6型と11型 であり,時に HPV16型の感染でも生じる.感染後,視診で観察できるまでに3週∼8カ月 (平均2.8カ月)を要し,感染期間は3カ月∼数年である. 尖圭コンジローマが癌化することはなく,自然治癒する場合もある.悪性型の HPV に 感染した場合には子宮頸部に感染し,子宮頸癌の発癌要因になる. 頻度は少ないが産道感染し,児に尖圭コンジローマや多発性咽頭乳頭腫がみられること がある.外陰部の小さい尖圭コンジローマでは帝王切開することはないが,腟内に多発性 の病変がある場合には帝王切開を考慮する. 臨床症状・所見により診断は容易であるが,確定診断は病理学的検査による. 病原体を検出するには核酸検出法があり,Hybrid Capture 法と PCR 法がある. 10%程度のポドフィリンアルコール溶液(ただし,本邦では医薬品として認可されてい ない)の外用が簡便で有効な治療法であるが,妊婦には使用しない.妊婦では種々の方法 による病変除去を行うしかない. 治療後の治癒判定は,視診,特に酢酸処理後に拡大鏡によって観察する.しかし,視診 上治癒しても潜在感染している可能性もあり,3カ月以内に約25%が再発するとされるの で,最低3カ月は再発がないことを確認する必要がある.パートナーからの再感染よりも, 再発のほうが多いとされる.

4.HIV 感染症(病原体:ヒト免疫不全ウイルス Human immunodeficiency virus type 1,2(HIV))(表 D-18-7)-4) HIV 感染症は血液・体液などを介して感染し,免疫システムが徐々に破壊されていく 進行性の疾患である.本邦では2004年末で累計9,784人の感染者,2005年末までに累計 240例の分娩があったと報告されている4) .STD 罹患者は,局所病変があると HIV の侵 入が容易となるため3∼4倍も性感染症としての HIV 感染症に罹患しやすい.また,HIV

(18)

(表 D-18-7)-4) HIV感染症の管理と治療 【診断基準】 HIVの抗体スクリーニング検査法(酵素抗体法,粒子凝集法,免疫クロマトグラフィー法など)の結 果が陽性で,以下のいずれかが陽性の場合に HIV感染症と診断する.  1.抗体確認検査(Western Blot法,蛍光抗体法など)  2.HIV抗原検査,ウイルス分離および核酸診断法などの病原体に関する検査 【妊婦管理】 1.HIV感染症妊婦に必要な特有の妊娠初期検査 CD4 %,CD8 %,HIVウイルス量,抗 CMV IgG,胸部 X-P,眼底検査(CMV感染症の検査と して)淋菌検査(必要時) 2.母子感染予防のための抗 HIV薬投与法(PACTG076,AZT療法) 1)分娩前 妊娠 14~ 34週に以下の処方を開始し,全期間を通じて継続する. AZT(レトロビルカプセル®)経口 100mg×5回 / 日,あるいは 300mg×2回 / 2)分娩中 分娩開始とともに AZT 2mg/Kgを 1時間経静脈的に投与し,引き続き出産まで 1mg/Kgを 持続的に投与する. 3)分娩後 新生児に対しては,出生後 8~ 12時間までに AZTを経口投与し(シロップ,2mg/Kg,6 時間ごと),生後 6週間まで続ける.経口投与できない場合は,1.5mg/Kgを 6時間毎に静脈 投与する.(なお,AZTの静注用およびシロップは,本邦では未承認薬である) 感染症があると易感染性となるため,他の STD に罹患しやすい. 母子感染経路は,胎内感染・産道感染・母乳感染の3つであり,妊娠のあらゆる時期に 感染するが,約70%は分娩時期周辺とされている.すなわち,妊娠末期の胎内感染およ び産道感染であり,無治療では25∼30%の母子感染率とされている.しかし,いまでは 多くの施設で妊娠中に HIV 検査が行われ,陽性妊婦に対する有効な予防対策(薬剤治療と 陣痛発来前の選択的帝王切開)がとられるようになったため,新生児への感染は1%以下 になっている4)5) . 現在の厚生労働省のサーベイランスのための診断基準を表 D-18-7)-4に示す. 治療の原則は母体血漿中ウイルス量を検出感度以下に抑え続けることである.母体血漿 中 HIV-RNA 量と児への感染率は相関しており,HIV-RNA 量が1,000コピー"ml以下の 場合には,児への感染率がゼロであったと報告されている6) .したがって,妊婦において も強力な多剤併用療法(HAART:highly active antiretroviral therapy)が行われるが, ジドブジン(AZT)単独投与により母子感染率が1"3に減少したという臨床研究(PACTG 076)もあり7) ,母子感染予防を行うにあたっては PACTG076に沿った治療が基本となっ ている4) . HIV 感染症と妊婦との係わりは以下のような場合が考えられるが,いずれにしても, 薬剤の選択,投与時期などの治療方針は専門医と連携すべきである:1)抗 HIV 薬を内服 しておらず,HIV 感染症が判明した場合,2)抗 HIV 薬を内服しており,妊娠が判明した 場合,3)分娩時に HIV 感染症が判明した場合,4)分娩後に HIV 感染が判明した場合.ど のような場合であっても,母乳哺育は避ける.

8)B 型肝炎,C 型肝炎

B 型肝炎,C 型肝炎共に経皮的(血液・精液・唾液)に感染するウイルスが原因の慢性肝 疾患であり,母体肝機能の把握と母子感染の予防が管理の要点である.病状が進行すれば

(19)

(図 D-18-8)-1) B型肝炎の母子感染防止対策 ハイリスク児群 放置した場合の出生児  感染率:100%  キャリア化率:85∼90% ローリスク児群 放置した場合の出生児  感染率:約 10%  キャリア化率:極めて稀 母子感染防止 プロトコール 1 母子感染防止 プロトコール 2 母子感染防止プロトコール 1: HBIG の接種:出生時(遅くとも出生後 48 時間以内)および生後 2 カ月 目の 2 回 HB ワクチンの接種:生後 2 カ月目、3 カ月目、5 カ月目の 3 回 母子感染防止プロトコール 2: HBIG の接種:出生時(遅くとも出生後 48 時間以内)の 1 回 HB ワクチンの接種:生後 2 カ月目、3 カ月目、5 カ月目の 3 回 妊娠の継続が困難になる場合もある.また,妊娠中はウイルス量が増加することがあり, その場合,妊娠終了後に肝機能が悪化することもあるので注意が必要である.キャリアの ほとんどは無症候性であり,肝機能が正常ならば治療の必要はなく,定期的な検査だけで よい. 母子感染のほとんどは,出生時に大量のウイルスに曝露したことによる産道感染と考え られているが,胎内感染もあり得る.分娩方法は経腟分娩でよく,母乳哺育も特に制限す る必要はない. 1.B 型肝炎(病原体:B 型肝炎ウイルス Hepatitis B virus(HBV))(図 D-18-8)-1) B 型肝炎母子感染防止事業(1985年)により,キャリア化の主因であった母子感染は予 防されてきているが,いまだに成人では性感染によるものが少なくないので,妊娠初期に 加えて末期にも検査をする必要がある. 性行為による HBV 感染では,感染機会後2∼6週間で HBs 抗原が陽性化する.針刺し や輸血による感染では,侵入するウイルス量が多く,潜伏期は数日∼数週間と短い. 妊婦では,スクリーニングとして HBs 抗原検査を行い,陽性の場合に一般肝機能検査 と HBe 抗原・抗体,HBV-DNA 量の検査を行う.HBe 抗原(+)をハイリスク児群,HBe 抗原(ー)をローリスク児群として扱う(母子感染防止プロトコール).これにより,感染性 の高い HBe 抗原陽性妊婦から生まれた児でも95%以上に感染を防止できる.また,感染 性は低いが,劇症肝炎となる可能性のある HBe 抗体陽性妊婦からの児に対しても有効で ある. 2.C 型肝炎(病原体:C 型肝炎ウイルス Hepatitis C virus(HCV)) 本邦のキャリア人口は200万人以上と推定され,妊婦の HCV 抗体保有率は0.5∼1%で ある.母子感染(胎内・産道感染)は5%前後とされ低率だが,近年漸増傾向にある. 妊婦では,スクリーニングとして HCV 抗体検査を行い,陽性の場合に一般肝機能検査 と HCV-RNA の有無と量の検査を行うことが母子感染の観点から重要である.すなわち, 母子感染のリスクは HCV-RNA 量の多寡と関連性が高いとされており,また,抗体が陽 性でも HCV-RNA が陰性ならば母子感染の報告例はない.

(20)

C 型肝炎には,B 型肝炎に対するような特異的な予防法はない.

10)成人 T 細胞白血病 Adult T cell leukemia(ATL)

(病原体:Human T lymphotropic virus type-1(HTLV-1))

ATL は九州,沖縄に多発する地域特異性がある.妊婦の HTLV-1キャリア率も同様で あり,1995年の調査では静岡,北海道が1%以下であったのに対して,それら地域では5% 前後と高かった.しかし,平成14年の報告では沖縄でも1.8%に低下している8) . HTLV-1感染者は大部分がキャリア化するが,一部は ATL を発症,現時点で確立され た治療法はなく,予後は不良である.しかし,ATL の発症年齢のほとんどが50歳以上で あるので,妊婦自身や妊娠・分娩経過あるいは胎児に対する影響はない. キャリア率の地域差があることから,妊婦に対する画一的なスクリーニング検査は必要 ないと思われるが,検査に際しては十分なインフォームドコンセントと妊婦の自由意思を 確認のもとに行う.抗 HTLV-1抗体陽性の場合,EIA 法・PA 法を行い,IF 法・WB 法な どにより確認試験を行う. 感染経路は輸血,性行為と母子感染が知られているが,ATL 発症に係わる唯一のハイ リスク因子は母子感染であり,その主な経路は母乳を介するものである.したがって,感 染予防には人工乳あるいは除感染処理母乳(凍結母乳:−20℃・12時間)での哺育が望ま しい.ただし,母乳での感染率は6∼13%とそれほど高くなく,人工乳でも3∼6%の感 染する.経産道および胎内感染はきわめて少ないが(2∼10%),胎内感染を予防すること は困難である. 《参考文献》 1.感染症法に基づく医師の届出基準.日本医師会 発行 東京:中央法規出版株式会 社,平成18年3月

2. Blas MM, Canchihuaman FA, Alva IE, Hawes SE. Pregnancy outcome in women infected with Chlamydia trachomatis : a population-based cohort study in Washington States. Sex Transm Infect 2007 ; 83 : 314―318

3.性感染 症 診 断・治 療 ガ イ ド ラ イ ン 2006.日 本 性 感 染 症 学 会 誌 2006;17 (Suppl):35―39

4.HIV 母子感染マニュアル 第4版.平成17年度厚生労働省化学研究費補助金エイズ 対策研究事業「HIV 感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する臨床的・ 疫学的研究」班(主任研究者 稲葉憲之)

5.The international Perinartal HIV Group. The mode of delivery and the risk of vertical transmission of human immunodeficiency virus type 1 ― A mata-analysis of 15 prospective cohort studies. N Engl J Med 1999 ; 340 : 977― 987

6.Garcia PM, Kalish LA, Pitt J, Minkoff H, Quinn TC, Burchett SK, Kornegay J, Jackson B, Moye J, Hanson C, Zorrilla C, Lew JF. Maternal lecels of plasma human immunodeficiendy virus type 1 RNA and the risk of perinatal transmis-sion. N Engl J Med 1999 ; 341 : 394―402

7.Pediatric AIDS Clinical Trials Group Protocol 076 Study Group. Reduction of maternal-infant transmission of human immunodeficiency virus type 1 with zi-dovudine treatment. N Engl J Med 1994 ; 331 : 1173―1180

8.Maehama T. Human T cell leukemia virus-1 in pregnancy. Int J Gynaecol Ob-stet 2004 ; 87 : 247―248

(21)

〈田中 忠夫*

Tadao T

ANAKA

Department of Obstetrics and Gynecology, The Jikei University, School of Medicine, Tokyo

Key words : STD・HIV・Hepatitis B・Hepatitis C・ATL

(22)

D.産科疾患の診断・治療・管理

Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease

18.産科感染症の管理と治療

Diagnosis and Therapy of Obstetric Infectious Disease

9)TORCH 症候群

1.トキソプラズマ Toxoplasma gondii(トキソプラズマ)のヒトへの感染経路には三つが考えられる.ネ コの糞に排出されるオーシストを摂取した場合,肉を生や不十分な加熱調理で食べシスト を摂取した場合,タキゾイトが母体から胎児へ入り感染する場合(先天性トキソプラズマ 症)である.トキソプラズマ感染では無症状であることが多く,時に頸部リンパ節腫脹や 発熱を伴う.母体の初感染により,先天性トキソプラズマ症を起こすことがある.妊娠中 後期の初感染では胎児感染率(妊娠15∼30週で約20%,31週以降で60∼70%)は高いも のの不顕性や軽症が多い.一方,妊娠初期(∼14週)の初感染では胎児感染率(10%以下) は低いが,症状がより重症(流死産,脳内石灰化,水頭症,脈絡網膜炎,精神運動障害)に なる1) .先天性トキソプラズマ症の1∼2%は知的障害ないし死亡に至り,4∼27%は脈絡 網膜炎を発症し片側性視力障害を起こすとされる. 日本では90%以上の妊婦がトキソプラズマ抗体を有していないため,妊娠中に初感染 を起こす潜在的リスクは高いと考えられる.感染のリスク因子は,加熱処理不十分な肉類 の摂取,土との接触,海外旅行,猫との接触などである. 全妊婦に対するスクリーニングは推奨されていないため,必要に応じて実施する.例と して,我々が行っている妊婦スクリーニング法2) を図 D-18-9)-1に示す.初感染(疑いを 含む)は,臨床症状出現,HA 抗体価の上昇,特異 IgM 陽性,IgG avidity 低値などで診 断される.IgM 陽性の半数以上は,偽陽性や persistent IgM 例なので注意が必要である. 出生前診断には,羊水 PCR 法が用いられる.初感染(疑いを含む)では,アセチルスピラ マイシン1.2g 分 4"日,3週間服用し2週間休薬を分娩まで行う.羊水 PCR 陽性の場合, ファンシダールTM 治療を考慮する. 先天性トキソプラズマ症疑いの新生児に対しては,特異 IgM,髄液,CT や眼底鏡検査 などを実施する.診断された場合,ピリメサミンとサルファジアジンで治療を行う.わが 国での先天性トキソプラズマ症の発生率は,2∼5"10,000出生と推定されている. 2.梅毒 先天梅毒は,経胎盤性(通常,胎盤が完成する妊娠4カ月以降)にTreponema pallidum (TP)が胎児に感染することによって起こる.流早産,子宮内胎児死亡,子宮内胎児発育 遅延をきたす.早発性先天梅毒では,生後数週∼3カ月で第2期症状を発症し,骨軟骨炎, 鼻炎,皮疹,口囲放射状瘢痕,髄膜炎などがみられる.遅発性先天梅毒(第3期症状)は, 7∼14歳より発症し,Hutchinson 3徴候(永久歯奇形,実質角膜炎,内耳神経障害), 平コンジローム,ゴム腫,中枢神経障害が現れる.口腔粘膜疹,水・膿疱などからの検体 で,パーカーインクで青黒く染まる TP が検出できる. 妊婦スクリーニングでは梅毒血清反応をみる.脂質抗原(カルジオリピン)を用いる STS (serological test for syphilis)法として,ガラス板法や RPR(rapid plasma reagin)card

(23)

(図 D-18-9)-1) トキソプラズマ感染妊婦スクリーニング 法の一案 妊娠中の初感染回避のため,加 熱処理不十分な肉類の摂食やガ ーデニングをしないように啓発 陰性 陽性 HA 再検,IgM を測定 HA 不変 かつ IgM 陰性 IgM 陽性 HA4 倍以上上昇 または IgG avidity 低値 既往感染/慢性感染 既往感染/慢性感染 IgG avidity を測定 HA 不変かつ IgG avidity 高値 トキソプラズマ初感染(疑いを含む) アセチルスピラマイシン治療 羊水 PCR 検査を考慮:PCR 陽性例 ではファンシダール治療を考慮 感染が疑われた場合, HA 再検 抗トキソプラズマ抗体(HA など) (表 D-18-9)-1) STSと TPHA結果解釈と対策 解釈と対策 TPHA STS 非梅毒 ー ー 治療後の梅毒ないし古い梅毒: FTA-ABSで確認 + ー 梅毒初期ないし生物学的偽陽性: 数週間あけて再検査,FTA-ABSで 確認,膠原病・抗リン脂質抗体精査 ー + 梅毒:治療開始,効果確認のため再 検査,FTA-ABSで確認 + +

test のいずれか1法と,TP 抗原を用いる TPHA(Treponema pallidum hemagglutina-tion)定性法を組み合わせて調べる.陽性の場合は定量法を行い,時に FTA-ABS(fluores-cence treponemal antibody absorption)定量法を行う.STS と TPHA 結果解釈と対策 を表 D-18-9)-1に示す.妊婦における梅毒血清反応陽性率は,0.1∼0.4%と推定されて いる. 第一選択薬としてペニシリン系抗生剤(AB-PC ないし AM-PC 1.2∼1.5g"日,4週間) を用いる.STS 定量法は,抗体価が病勢を反映するため,治療効果指標として用いられ る.臍帯血で IgM-TPHA 陽性の場合に胎内感染と診断され,AM-PC 50∼60mg"kg"日 を1∼2週間投与する. 3.風疹 風疹(三日ばしか)は2∼3週間の潜伏期間を経て発症し,発熱,発疹やリンパ節腫脹を きたすが,10∼20%が不顕性感染となる.妊婦が妊娠初期に風疹に初めて罹患すると, 児に先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome,CRS)を起こすことがある.難聴, 眼症状(白内障,緑内障,色素性網膜症),先天性心疾患(PDA,PS,VSD,ASD など) が CRS の主症状である.妊娠中の感染時期が早いほど CRS 発症リスクは高いが,排卵

(24)

(図 D-18-9)-2) 妊娠女性への対応指針 (風疹) 問診:妊娠中の発疹    風疹患者との濃厚な接触 なし いずれか有り 陰性∼16 以下 32∼128 なし いずれか有り HI 抗体価 16 以下の場合 分娩後早期のワクチン接種推奨 256 以上 問診:以降の妊娠経過中の発疹    風疹患者との濃厚な接触 HI 不変かつ IgM 陰性 HI 4 倍以上上昇 または IgM 陽性 風疹初感染(疑いを含む) HI 陰性 ∼16 以下 風疹 HI 抗体価測定 風疹 HI 再検と IgM 測定 既往感染 感染回避のための指導 家族へのワクチン接種推奨 分娩後のワクチン接種推奨 ペア血清(1∼2 週間あけ 2 回) で風疹 HI 抗体価,IgM を測定 日前ないし妊娠6カ月以降での初感染では CRS は認められない. 妊婦スクリーニングでは風疹 HI 抗体価を測定する.HI 抗体価256倍以上で初感染も疑 われる.その場合,風疹の既往,ワクチン接種の有無,危険因子(発熱・発疹の出現,風 疹患者との接触,周囲での流行)についての問診と HI 抗体価再検ならびに特異 IgM 測定 が行われる.特異 IgM は,感染後数カ月から数年間陽性が持続することがある.「風疹流 行にともなう毋児感染の予防対策機構に関する研究班」による診療指針(2004年8月提言) を一部改変し図 D-18-9)-2に示す. CRS は,臨床症状と病原体検査(風疹ウイルス分離陽性ないし遺伝子検出,特異 IgM 陽性,HI 抗体価高値持続)で診断される.わが国での CRS 発生数は,1980∼90年代は 年間20例程で,近年は年間0∼2例であった.2003年の局地的流行により2004年に10例 が報告され,2005年は2例とされている.HI 抗体価16以下の場合,非妊娠時にワクチン 接種を推奨し,接種後2カ月間の避妊指導を行う.授乳中でも差し支えない. 4.サイトメガロウイルス TORCH 症候群の中で,サイトメガロウイルス(CMV)は最も高頻度に胎内感染を起こ し,かつ乳幼児に神経学的な後障害を残す疾患として重要である.CMV 抗体陰性の妊婦 のうち,妊娠中に1∼4%が初感染を起こし,うち約40%が胎児感染にいたる.胎児感染 例の10∼15%が症候性に,85∼90%が無症候性で出生する.症候性の症状としては, 子宮内胎児発育遅延,胎児水腫・腔水症,肝脾腫・肝機能異常,小頭症・脳室拡大・脳内 石灰化,紫斑・血小板減少,貧血・黄疸,網膜症・白内障などがあげられる.症候性の先 天性 CMV 感染のうち90%が,無症候性の先天性 CMV 感染では10%が精神遅滞,運動 障害,感音性難聴,視力障害,てんかんなどの後障害を発症する(図 D-18-9)-3).近年 の研究によって,原因不明とされた感音性難聴のうち10∼30%は,CMV 胎内ないし分 娩時感染による可能性が指摘された. 適切な医療介入方法・指針が確立されていないため,現在,妊婦 CMV スクリーニング は一般的には実施されていない.CMV 感染では,不顕正感染が多く時に感冒様症状を呈 する.初感染(疑いを含む)は,特異 IgG・IgM 陽性,IgG avidity 低値などで診断される. 全妊婦のうち1∼3%が特異 IgM 陽性となる.IgM 陽性の半分以上は,偽陽性や persistent

(25)

(図 D-18-9)-3) サイトメガロウイルス母子感染と後障害リスク 妊婦の 30%抗体なし 妊婦の 70%抗体有 1∼4%母体初感染 10∼15%症候性 85∼90%無症候性 10%正常発達 90%後障害 85∼90%正常発達 0..2∼2%再活性化による胎児感染 数%後障害 0.5∼1%症候性 10∼15%後障害 40%胎児感染 IgM であると考えられ,IgM 陽性だけでは必ずしも初感染とは断定できない.既往感染 者であっても,再感染・再活性により,0.2∼2%が先天性 CMV 感染を起こす.その0.5∼ 1%が症候性となる.出生前診断には,羊水の PCR やウイルス分離が用いられる.新生 児尿からの CMV 同定(PCR ないしウイルス分離),臍帯血特異 IgM 陽性などにより胎内 感染が診断される.頭部 CT,エコー,聴性脳幹反応,眼底検査などを行う.先天性 CMV 感染による難聴の半数以上が生後6カ月以降の発症であり,この場合,現行の新生児聴覚 検査や1カ月検診等では検出できない.児治療は,ガンシクロビル,免疫グロブリンなど を用いる. 先天性 CMV 感染によって,日本では年間およそ1,000人の後障害を発症する児が出生 していると推定されている.妊婦の CMV 抗体保有率は,近年,70%台と低下してきた ため,妊娠中の初感染による先天性 CMV 感染児の出生数が増加することが危惧されてい る. 5.単純ヘルペス

単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus, HSV)1型,2型による母子感染症には, 胎内感染による先天性感染症と,産道感染などによる新生児ヘルペスがある.小頭症,水 頭症などの中枢神経系異常を示す先天性感染症は極めて稀であり,これまでの世界中の報 告をあわせても数十例しかない.一方,新生児ヘルペスは極めて重篤な疾患である.性器 ヘルペスは,病態から初感染,非初感染初発型,再発型(再活性による)に分類される.性 器ヘルペスを認めた妊婦が経腟分娩した場合,新生児ヘルペス発症率は,初感染で約50%, 再発型では0∼3%とされる.新生児ヘルペスは,全身型,中枢神経型,皮膚型の3病型に 分類される.全身型は最も重篤で生後1週以内に発症し,アシクロビルを投与しても多臓 器不全などによる死亡率は30∼50%とされる.中枢神経型は死亡率15%であるが,2"3 に重篤な神経学的後遺症が残る. 外陰病変部や子宮頸管からの HSV 分離により診断が確定する.母体血清中の特異 IgM と IgG を1∼2週間隔で調べ,初感染か非初感染かを鑑別する.性器ヘルペスが確認され た場合,妊娠初期では軟膏塗布,妊娠中∼後期であれば経口アシクロビルが,重症例では 点滴静注による治療が考慮される.分娩時に腟・外陰に病変が認められた場合,帝王切開 分娩とする.1カ月以内に初感染が確認された場合や,1週間以内に再発が確認された場 合には帝王切開が考慮される.臍帯血ないし新生児血で特異 IgM を測定し,皮膚,眼,

(26)

口腔,性器からウイルス分離検査を行う.

HSV による新生児ヘルペス発生数は,わが国では年間100例程度と推定されている. 《参考文献》

1.Hohlfeld P, Daffos F, Costa JM, Thulliez P, Forestier F, Vidaud M. Prenatal di-agnosis of congenital toxoplasmosis with a polymerase-chain-reaction test on amniotic fluid. N Engl J Med 1994 ; 331 : 695―699

2.西川 鑑,太田智佳子,山田 俊,菅原正樹,西川 聡,神藤已佳,山本智宏,西 平 順,水江由佳,斎藤 豪,水上尚典,山田秀人.IgG avidity と PCR 法を用い た先天性トキソプラズマ感染症の管理:Ⅲ.これまでの前方視的症例解析の結果. 産婦人科の実際 2007;56:477―481 〈山田 秀人* 〉 *Hideto Y AMADA

Department Obstetrics and Gynecology, Hokkaido University Graduate School of Medicine,

Sapporo

Key words : Toxoplasma・Syphilis・Rubella・Cytomegalovirus・Herpes simplex 索引語:トキソプラズマ,梅毒,風疹,サイトメガロウイルス,単純ヘルペス

参照

関連したドキュメント

現在、当院では妊娠 38 週 0 日以降に COVID-19 に感染した妊婦は、計画的に帝王切開術を 行っている。 2021 年 8 月から 2022 年 8 月までに当院での

感染した人が咳やくしゃみを手で抑えた後、その手でドアノブ、電気スイッチなど不特定多

普通体重 18.5 以上 25.0 未満 10~13 ㎏ 肥満(1度) 25.0 以上 30.0 未満 7~10 ㎏ 肥満(2度以上) 30.0 以上 個別対応. (上限

国内の検査検体を用いた RT-PCR 法との比較に基づく試験成績(n=124 例)は、陰性一致率 100%(100/100 例) 、陽性一致率 66.7%(16/24 例).. 2

「A 生活を支えるための感染対策」とその下の「チェックテスト」が一つのセットになってい ます。まず、「

内部に水が入るとショートや絶縁 不良で発熱し,発火・感電・故障 の原因になります。洗車や雨の

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しない こと。動物実験(ウサギ)で催奇形性及び胚・胎児死亡 が報告されている 1) 。また、動物実験(ウサギ

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配