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第2章 昭和58年改正法の形成過程

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(1)

論 説

管理費等の滞納に対して昭和58年 区分所有法改正において検討された諸方策

区分所有法7条の先取特権のあり方を 見直すための 備の一環として

大 山 和 寿

第1章 はじめに

第2章 昭和58年改正法の形成過程 第1節 改正の経緯についての概観

第2節 区分所有建物管理問題研究会での議論

第3節 法制審議会民法部会財産法小委員会における検討 1.はじめに

2.議論の出発点

3.先取特権以外の方法による対処の検討⎜⎜所有権剥奪の検討 4.先取特権の被担保債権及び特定承継人に対して請求できる債権の範

(1) 区分所有法改正要綱のとりまとめに至る過程 (2) 管理組合の社団法的性格の後退に伴う見直し 5.賃借人等に対する管理費等の請求

第3章 おわりに

第1章 はじめに

マンションが適正に維持・管理されるためには、区分所有者から管理費 等が適切に支払われる必要がある。それにもかかわらず、近時、管理費の 滞納が深刻化している。このような状況を踏まえて、別稿において、管理(1) 費等に認められる先取特権(建物区分7条)について現状のままでよいの

(2)

か、立法論的に検討を行うことを予定している。この検討をするための準 備作業として、本稿では昭和58年の区分所有法の改正(以下 58年改正」と いう)において、管理費等を確保するためにどのような方策が検討された か、を明らかにする。何故この様な作業をするかというと、1)この先取 特権の優先順位・効力を見直したり、2)被担保債権のあり方を再検討し たりする際には、58年改正においてどのようなことが検討されたかが参考 になる、と考えるからである。

すなわち、1)について詳言すれば、58年改正においては、この先取特 権の優先順位・効力を強めることが検討されたものの、このような改正は なされていない。この先取特権を強化するか否かについて検討する際に は、58年改正において優先順位・効力を強化しなかった理由が適切であっ たかをまず吟味することは、不可欠なはずだからである。

また、2)については、先取特権の優先順位や効力を強化した場合に は、先取特権のために配当額が減らされる債権者がそれだけ多くなる。そ れにもかかわらず、被担保債権の範囲が広すぎると、他の債権者への配当 額が著しく減ってしまう。そうすると、仮に先取特権の効力を強化するな らば、同時に、被担保債権の範囲が適切かについても、再検討する必要が 生じる。その際には、何故この様に被担保債権が定められているかを踏ま えて再検討をしなければならない。58年改正においては、原始規定よりも 先取特権の被担保債権が拡大され、特定承継人に対して請求できる債権

(1) 本稿の内容については、本来ならば、区分所有法7条の先取特権についての立 法論を展開するため、藤岡古稀『民法学の古典と革新』〔仮題〕〔成文堂、近刊予 定〕に寄稿すべく準備していた原稿の一部として論述すべきところ、紙数の制約そ の他諸般の事情から、やむを得ず、独立した論考とすることとした。また、原始規 定6条の制定過程についても、同様な理由から、前掲『民法学の古典と革新』に寄 稿し、立法論については青山法学論集50巻4号以下に連載する予定である。さら に、本稿とこれらの論考との間で若干叙述が重複している箇所がある。これらの点 につきご了解を求めるとともに、あわせてこれらの論考をもご参照いただければ、

幸いである。

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372

(3)

も、先取特権の被担保債権と同じ範囲に拡大されている(建物区分8条)。 そうすると、別稿においてこのような再検討をするためには、58年改正に おいて何故被担保債権の範囲を拡大したのか、その理由を予め明らかにし ておく必要がある。

このような理由から、立法論を別稿において論じる 備として、本稿で は、区分所有法7条の形成過程のうち58年改正に関する部分を取り扱う。

叙述の順序を述べておくと、本稿では、まず、第2章第1節において58 年改正の経緯について概観する。その後、同第2節において、検討の初期 の段階での議論の内容を紹介する。同第3節から第5節において、管理費 等の滞納に対する諸対策ごとにどのような案が検討されたかを、明らかに する。

本稿で用いる用語については、部会とは法制審議会民法部会のことをい い、小委員会とは、同財産法小委員会のことである。原始規定とは昭和37 年に制定された当初の区分所有法のことをいい、現行法とは現在の区分所 有法のことをいう。改正要綱試案とは昭和57年7月6日に部会で決定され た「区分所有法改正要綱試案」のことであり、改正要綱とは昭和58年2月 16日に法制審議会総会で決定された「建物の区分所有等に関する法律の一 部を改正する法律案要綱」である。

なお、本稿において主に用いる資料は、立法担当官の著作の他に、札幌 大学図書館川島文庫所蔵の諸資料及び法務省より情報公開を受けた小委員(2)

(2) この文庫の目録として、札幌大学図書館編『川島文庫目録』(札幌大学図書館、

1995年)がある。本稿で使用する資料は、この目録の諸資料の部のうち、法制審議 会関係として収められているものである。もっとも、この目録では、部会の資料で ファイルに収められているものについては、資料番号が付されているものと、ファ イルに収められているものの資料番号の付されていないものとが混在している。そ こで、資料番号の付されている資料については、資料名の後に、作成年月日等(但 し、資料に記されているとおり記載しているため、「昭五四・一・三〇民参印」の 様に漢数字であったり、「昭54・5・22民参印」の様にアラビア数字であったりする。

また、「昭」が省略されているものについては、そのまま示している)と 川島○○

○○」の様に資料番号を付記する(部会等の議事速記録のように、1つの資料番号の 373

(4)

会の資料である。川島文庫所蔵の資料について説明しておくと、川島武宜(3) 博士旧蔵の図書・資料が札幌大学図書館に寄贈されたものであり、川島博 士が法制審議会の委員として入手した資料・議事録等も川島文庫に所蔵さ れているので、私もこの資料を用いている。もっとも、川島博士は、法制 審議会総会の委員については改正要綱が審議された際も務めているもの の、部会の委員については昭和54年8月19日で退任されている。このた(4) め、部会等の議事速記録は川島文庫に所蔵されているものの、本稿に関係 する部分が小委員会で審議されていた際の資料については、川島文庫に所 蔵されていない。そこで、このような資料については、法務省から情報公 開を受けて、補っている。

第2章 昭和58年改正法の形成過程

第1節 改正の経緯についての概観(5)

川島文庫所収の資料から推測すると、昭和53年⎜⎜部会で正式に区分所(6)

中に複数の資料が存在する場合には、「川島○○○○所収」の様に記している)こ としし、資料番号の付されていない資料については、「川島『建物区分所有法改正 1979年〜』所収」のように所収されているファイルの背表紙に書かれている名称を 付記する。なお、部会の資料については、「部会資料○○」のように資料番号等も 付記する他は同様に引用する。

(3) 本稿で引用する小委員会の資料については、いわゆる情報公開法に基づき、す べて法務省より開示を受けた資料である(行政文書開示決定通知書の番号等は、平 成20年9月25日付け法務省司司第932号である)。このため、本稿において引用する 小委員会の資料については単に 資料○○」の様に資料番号を記すほか、資料名、日 付けを示すのみで引用する。

(4) 法務大臣官房司法法制調査部『法制審議会民法部会第十八回会議議事速記録』

(川島20210に所収)1頁(加藤部会長発言)。

(5) 他の改正が検討された項目も含めて、審議の流れの概略については、濱崎恭生

『建物区分所有法の改正』(法曹会、1989年)12〜76頁(初出1985〜1986年)に紹介 されている。

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(5)

有法改正を取り上げることが決定される前年⎜⎜に法務省で仮登記担保法 の後に財産法分野で何を立法の対象として取り上げるかの検討が始まり、

その候補として区分所有法改正があげられ、準備が進められていたようで ある。この段階でも、管理費や修繕積立金の確保については重要な問題だ と意識がされていたようである。すなわち、昭和53年6月20日付けの資料 で、「五 修繕・建替え╱1 修繕費の積立てを義務づけるか。(中略)

3 建替準備金の積立てを義務づけるか。」との項目が登場する。また、(7) 管理費についても、同年10月22日付けの資料において、「7 組合は、規 約の定めるところにより、組合員に管理費用を賦課することができるもの とすること」との項目が、掲げられている。(8)

そして、昭和54年1月30日に開催された民法部会第16回会議で、区分所 有法改正を取り上げることが、正式に決定された。これを受けて小委員会(9) で、区分所有法改正の検討が始まるところ、昭和54年2月20日の小委員会 の準備会で、まず登記上の問題とそのための実体法上の手当を審議し、管 理の問題はその後審議することとされた。この方針に従い、昭和54年中(10)

(6) 後掲注7及び注8で引用する資料並びに川島20337及び川島20314の諸資料を参 照。

(7) 建物の区分所有等に関する法律に関する問題点(メモ)」(昭和53年6月20日、

川島20336)(「╱」の部分で原文は改行されている〔以下、他の資料についても、

同じ〕。この資料には頁数等は振られていない)。

(8) 区分建物管理組合制度要綱試案」(53/10/22民参印、川島20315)(この資料に は頁数等は振られていない)。但し、この組合は、現行法3条の「区分所有者の団 体」とは全く異なるものである。すなわち、同試案では、過半数の持分を有する区 分所有者によりこの組合が構成され(1)、組合員となった区分所有者が、自己の 共用部分を出資し(4)、敷地を組合に信託し(11)、さらに、組合員が、何時でも 加入(8)・脱退(9)できるものだからである。

(9) 法務大臣官房司法法制調査部『法制審議会民法部会第十六回会議議事速記録』

(川島20210に所収)41頁。なお、この時の資料(部会資料17「建物の区分所有等に 関する法律に関する検討項目」〔昭五四・一・三〇民参印、川島20335、但し、目録 では「建物区分所有法改正 一九七九年〜」という背表紙のファイルに合綴とのみ 記載されているけれども、「法制審議会民法部会第一三回」との背表紙のファイル にも所収されている〕)には、先取特権に関する事柄はない。

375

(6)

は、登記や、敷地利用権の扱いについての審議が小委員会でなされてい た。本稿に関係するのは区分所有建物や敷地に関する管理に関する問題で あるところ、この問題については、昭和55年の初めから審議が小委員会で 開始された。この問題に関する審議を始めるに当たっては、管理の実情と(11) 管理上の問題点を把握するために、小委員会の構成員のうち大学関係者と 民事局関係者で区分所有建物管理問題研究会が組織され、関係者からの意 見聴取が行われている。その後、この成果を踏まえて、小委員会での審議(12) を経て、昭和57年7月6日に部会において改正要綱試案がとりまとめら

(13)

れた。その後、改正要綱試案に対して各界から寄せられた意見をもとに、

昭和57年10月26日から昭和58年1月11日まで小委員会で4回審議の上、修 正が行われ改正要綱の案が作成され、この案に基づいて改正要綱が部会及(14) び法制審議会総会により決定された。

第2節 区分所有建物管理問題研究会での議論

(1)昭和55年2月に、小委員会は、建物の管理に関して審議を始めた ようである。この際の資料において、「七 管理費、修繕積立金╱1 支 払の確保╱2 積立の強制」とあり、小委員会での審議の当初から管理費(15) の問題は意識されていた。

(10) 財産法準備会(54・2・20)審議メモ」(昭和五四、五、二二民参 印、川 島

「建物区分所有法改正 一九七九年〜」所収)12頁。

(11) 法務大臣官房司法法制調査部・前掲注(4)27頁(青山幹事発言)。

(12) 法務大臣官房司法法制調査部『法制審議会第一〇四回会議議事速記録』(川島 20001に所収)6頁(加藤委員発言)。

(13) 法務大臣官房司法法制調査部『法制審議会民法部会第一九回会議議事速記録』

(川島20210に所収)参照。

(14) 法務大臣官房司法法制調査部『法制審議会民法部会第二〇回会議議事速記録』

(川島20210に所収)4頁(加藤部会長発言)。

(15) 資料20「区分所有建物の管理に関する検討項目」(昭55・2・5民参印)2頁。

おそらく、この検討項目は、今後検討すべき問題点を拾い出したものではないか。

なお、次の注も参照。

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(7)

また、前述したように、小委員会で建物等の管理について審議が始めら れる前に、区分所有建物管理問題研究会が組織された。そして、この研究 会で7回にわたり関係者からヒアリングをした後に、問題点を整理して、

項目別の担当者を定めて、討論がなされた。そこで、まず最初にこの際の(16) 討論の内容を紹介する。

(2)最初に、担当者の平井教授からは、先取特権について現在も指摘 されている問題点が紹介される。すなわち、管理費がきわめて少額であ り、先取特権を実行しても費用対効果があわないこと、及び、先取特権を 実行しても、ほとんどすべての区分所有権に対して抵当権が登記されてい るので、抵当権の方に先に配当がなされてしまい、先取特権には実効性が ないことが紹介される。そして、少額債権の簡易取立てのために一般的な(17) 制度を作るという司法制度の問題になる旨が指摘される。さらに、修繕積(18)

立金の積立を強制して欲しい旨の要望が、ヒアリングで出されたけれど も、これについては、平井教授は、積立金について規定を設けること自体 が難しいし、まして積立を強制するのはきわめて難しいので、マンション の修繕はどうしても必要だという考えにたった社会政策的な立法や、規約 や区分所有者の自治の問題として処理すべきだ、と提言される。(19)

(16) 区分所有建物管理問題研究会編『区分所有建物の管理と法律』(商事法務研究 会、1981年)はしがき2〜3頁(加藤一郎)、本文1〜2頁(青山正明発言)、及 び、前掲注(12)参照。なお、この資料の 初 出 は、NBL210号(昭 和55年〔1980 年〕6月1日号)であり、また、1日で座談会が終わっている模様である。そうす ると、この座談会での報告及び討論議論が行われたのは、かなり早い時期(同年春 頃)ではないか。もっとも、雑誌の掲載時期からすると、前の注で引用した検討項 目について、審議がなされた後であるかもしれない。

(17) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)139頁(平井宜雄発言)。

(18) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)139〜140頁(平井宜雄発言)。

(19) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)140頁(平井宜雄発言)。なお、

修繕積立金の積立を強制することを見送ることについては、自治に委ねざるを得な いからだといわれている(濱崎恭生「区分所有法改正の方向」日本土地法学会編

『集合住宅と区分所有法・固定資産税違憲訴訟』(有斐閣、1984年)7頁参照。第98 回国会衆議院法務委員会会議録第6号20頁(中島政府委員発言)も参照)。

377

(8)

(3)(a)この平井教授の報告の後に、討議がなされている。まず、抵 当権に優先するよう先取特権の効力を強化する見解を玉田教授が述べるも(20)

のの、結論から言えば、研究会全体としては否定的な意見が多かった。こ の議論において注目すべきなのは、管理費の中に修繕費も含まれていれ ば、抵当権者も利益を受けるとの意見に対して、星野教授が管理費により(21) 抵当権者が利益を受けているか疑問だと主張されていることである。すな わち、(不動産保存・工事の先取特権に関する)民法337条、338条の趣旨は、

保存行為の結果、他の担保権者も利益を受けるから、(抵当権に優先する)

ということであるけれども、管理費についても同じことがいえるのか、と 星野教授は疑問を提示される。そのうえで、星野教授は、管理費を他の債 権に比べ特に優遇する十分な理由がないと考えている旨を述べられて、支 払確保の手段としては、後から入ってきた区分所有者にも連帯債務を負わ せる方がよい、と主張されている。(22)

(

b

)この他には、先取特権についてはほとんど議論や発言がない。例 外的に、先取特権の被担保債権の範囲について、修繕積立金については当 時の規定では被担保債権に該当しなさそうだとの議論がされている。ま(23)

(20) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)142頁(玉田弘毅発言)。但し、

玉 田 教 授 は、お そ ら く こ の 座 談 会 の 少 し 前 に 執 筆 さ れ た 論 考(初 出 が NBL205〜207号なので、この様に判断している)で、先取特権の順位をあげるこ とは、他の諸々の債権ないし優先権ある担保権との均衡上おそらくきわめて困難で ある、と述べられていた(玉田弘毅「建物区分所有法の現状と問題点」『建物区分 所有法の現代的課題』(商事法務研究会、1981年)13頁(初出1980年)〔なお、区分 所有建物管理問題研究会・前掲注(16)144頁(玉田弘毅発言)も参照〕)。

(21) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)142〜143頁(宇佐見隆男発言)。

(22) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)143頁(星野英一発言)。玉田教 授も、原始規定15条・23条(これらの規定については、後掲注27)及び注74)を参 照)、民法254条により特定承継人が管理費等の債権の存在を知らなかったとして も、特定承継人に対してこれらの債権を請求できることも、管理費等を回収するた めに実効性のある方法として検討されるべきだ、と述べていた(玉田・前掲注

(20)13〜14頁)。

(23) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)143頁(青山正明及び玉田弘毅 早法 84巻3号(2009)

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(9)

た、原始規定6条2項(現行法7条2項)により民法335条が適用されるの で、先取特権を行使するためには、まず備付動産から行使しなければなら ず、区分所有権から実行できない点については、当時も要望があったにも(24)

かかわらず、まったく議論がされていない。この点については、実務に携 わる者から要望があるものの、必要性が疑問だとされたからであろうか。(25)

すなわち、そもそも先取特権の実行が費用に見合わないから、実行されて いないし、少額債権の簡易取立ての制度を作るのが難しい以上、民法335 条により実行が制約される問題を議論する必要がない、と考えられたので あろうか。また、抵当権の被担保債権の方に売却代金のほとんどが配当さ れてしまうことが意識されていたことからすると、仮に区分所有権から実 行できるとしても、先順位の抵当権のために無剰余取消となるから意味が ないとも考えられたのであろうか。

(4)この議論がなされた後に、むしろ、滞納して管理費を払わない人 には出て行ってもらった方がよいので、売渡請求等を考えた方がよいこと が、青山正明氏より指摘された。議論においては、先取特権の実行による 競売と分けて考えられておらず、(先順位の抵当権者があって競売しても費用 の面で)引き合わなくても、競落人がきちんと管理費を払ってくれればそ の方がよいから、競売するメリットがある、と青山氏より指摘され、議論(26)

が落ち着いた。

(5)(a)紹介の順序が前後したけれども、前述の星野教授が特定承継 人に連帯責任を課した方が管理費回収には有効だとの発言されたのを受け て、管理費について特定承継人に対して行使できるかについて、議論がさ れている。すなわち、管理費には共用部分の管理だけでなく、敷地の管理

発言)。

(24) 玉田・前掲注(20)13頁が紹介している。

(25) 玉田・前掲注(20)14頁注3は、必要性に疑問を投げかけている。

(26) 以上につき、区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)145頁(青山正明 発言)。

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(10)

のための費用をも含んでいるから、原始規定15条の「共用部分につき(27) (中 略)有する債権」に該当するかが問題となるものの、民法254条もあるの で、特定承継人に対して行使できるとの結論で議論が落ち着いている。つ(28)

まり、この点については、解釈論で問題がないとされている。

(

b

)また、賃借人に管理費支払義務を負わせることができればよいこ とも議論されている。この点については、この議論の際には、立法するま でもなく、当時の規定の解釈論としてできそうだということで話が落ち着 いている。すなわち、原始規定25条で規約の効力が特定承継人に及ぶとさ(29)

れていたところ、この特定承継人に賃借人が含まれるかとの議論との関係 で、これを肯定すれば、管理費支払債務のような債権的なものも含まれる 解釈が出てくる、と指摘されている。また、賃貸人である所有者が制約を(30)

受けているから、その制約を承知して入居する賃借人はやはり同じ制約を 受けるとの考えも、示された。この点については、フランスの学説では結(31)

論として賃借人に効力が及ぶことを根拠づけるための理論構成としてこの 2とおりの説明の仕方があるものの、結論には異論がない、と星野教授に より紹介され、この議論は終わっている。この様にみてみると、この際の(32)

議論では、原始規定25条の解釈に関係して、規約の拘束力が及ぶ特定承継 人に賃借人が該当するのかにむしろ議論の焦点が合わされていて、使用方

(27) 原始規定15条 共有者が共用部分につき他の共有者に対して有する債権は、そ の特定承継人に対しても行うことができる。

(28) 以上につき、区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)144頁(青山正明 及び玉田弘毅発言)。この様に、後述(第3節4.)する問題点については、この段 階では意識されていなかった。

(29) 原始規定25条 規約は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ず る。

(30) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)148頁(吉野衛、玉田弘毅発 言)。但し、同147頁で、青山正明氏は管理費の支払義務は、原始規定25条の規約上 の義務とは少し違うのではと述べている。

(31) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)148頁(吉野衛発言)。

(32) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)148〜149頁(星野英一発言)。

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(11)

法に関する義務と金銭支払義務とで差をつけるべきかについては、言及は されているものの、まだ充分に意識されていなかったような印象を受け る。

(6)この研究会での議論をまとめておこう。まず、先取特権には実効 性がないことは認識されていたものの、被担保債権である管理費から抵当 権者が利益を受けているか疑問視され、抵当権よりも順位を高くすること には、否定的であった。また、この様に先取特権の実効性がないためか、

他の手段により管理費が確保できないか、議論がされている。まず、滞納 者に対して区分所有権の売渡を求める請求権等を認めるべきではないか、

と指摘されている。もっとも、この点については、後に検討されたこのよ うな案(第3節3.参照)とは異なり、議論においては、先取特権の実行 として滞納区分所有者を追い出すことを念頭に置かれた意見が述べられて いる。さらに、解釈論として、特定承継人に対して管理費を請求したり、

賃貸人へ管理費を請求することが議論され、当時の規定でもこれらの請求 が可能であるとされた。この様に見てみると、先取特権には期待されず に、他の手段の方が効果的だと認識されていたのであろう。

第3節 法制審議会民法部会財産法小委員会における検討

1.はじめに

この節においては、小委員会でどのような案が検討されされたかを紹介 する。この節における叙述の順序を述べると、議論の出発点及びその後検 討されることになる問題点を示すため、まず最初に小委員会で本格的に管 理費等につき検討が始められた際の資料を紹介する。その後の小委員会で は、まず、先取特権以外の他の手段が使えないかを中心に立法論が検討さ れ、次に先取特権等の問題を検討していった。このような次第で、理解を 容易にするため、その際に掲げられていた問題点ごとに、すなわち、1)

先取特権以外の方法による対処すること(3.)、2)先取特権の被担保債 権等の範囲を拡大すること(4.)、3)専有部分の賃借人等に管理費等を 381

(12)

負担させることができるか(5.)について、それぞれどのように案が変 遷していったかを紹介していく。

2.議論の出発点

小委員会が、管理費等の確保について本格的に検討を始めたのは、昭和(33)

56年10月27日付けの資料57を審議した時からである。この資料57では、

「二 管理業務等について」という項目において、次のような案が掲げら れていた。

2 管理費、修繕積立金等の支払確保 (一)先取特権以外の法的措置の可否 (二)先取特権を強化することの適否

(三)管理費及び修繕積立金は、法六条及び一五条の債権に含まれるか。

否とすれば、立法措置を講ずることの要否

(四)専有部分の賃借人に管理費債務を負わせることの当否(34)

前述したように、区分所有建物管理問題研究会で先取特権の実効性が疑 問視されていたためであろうか、この項目の最初〔二╱2╱(一)〕に、

他の手段によることがまず検討されている。後述する様に、小委員会は他 の手段により管理費等を確保できないか、まず最初に検討していくことに なる。

二╱2╱(二)では、先取特権を強化することが検討項目に掲げられて

(33) もっとも、資料43「管理組合制度に関する要綱試案」(56・1・20民参印)におい て、「14 法第十七条第二項及び第十九条の規定は組合の理事について、法第十八 条第一項、第二十条及び第二十一条の規定は組合について準用するものとするこ と。」(3〜4頁)として管理組合法人についても先取特権を認めることが提案され ていたけれども、この項目で準用される他の原始規定の諸規定と照らし合わせて考 えると、この際には、管理組合法人が管理を担うから、つまり、管理者の役割を果 たすから原始規定21条を準用したのであろう。

(34) 資料57「専用使用権等について」(56・10・27民参印)2〜3頁。

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382

(13)

いるけれども、このような内容はこの後の資料では全く出てこない。そう すると、この段階で先取特権の優先順位を上昇させたり、民法335条によ り区分所有権から実行できないことについて改正を検討することは、見送 られたようである。優先順位を高めることを見送った理由は、区分所有建 物管理問題研究会で星野教授が述べられているように、管理費により抵当 権者が利益を受けるような関係がないから、先取特権を抵当権に優先する ようにできないと考えられたからであろうか。また、民法335条の適用を 排除することについては、区分所有建物管理問題研究会の議論を紹介する 際に述べたように、適用を排除する必要性があるのか、疑問視されたから なのか、この点については推測の域を出ない。

二╱2╱(三)では、原始規定により、管理費等が先取特権の被担保債 権となり、また、特定承継人に対して行使できるか、を検討したものであ る。この問題については、本稿の中心的なテーマであるので、後に(4.) まとめて検討したい。

二╱2╱(四)では、管理費の徴収を容易にするため、専有部分の賃借(35) 人等に管理費を負担させることができないか、検討されたものである。こ の点についても、この後の推移を含め後に(5.)まとめて叙述する。

3.先取特権以外の方法による対処の検討⎜⎜所有権剥奪の検討

小委員会では、まず、管理費滞納に対処する方策として、管理費等を滞 納している区分所有者から所有権を剥奪することが、検討された。すなわ ち、昭和56年12月22日付けの資料60では、次のような案が、甲案、乙案、

及び丙案として提案されている。

二 管理業務等 (甲案)

1 区分所有者が共用部分又は建物の敷地の管理の費用その他の負担に関し (35) 法務大臣官房司法法制調査部・前掲注(13)32頁(濱崎幹事)。

383

(14)

他の区分所有者に対して負う債務を一年以内に履行しないときは、当該他 の区分所有者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履 行がされないときは、その区分所有者に対し、建物及びその敷地に関する 権利を時価で売り渡すべきことを請求することができるものとすること。

2 1は、区分所有者が共用部分又は建物の敷地の管理の費用その他の負担 に関し法人である管理組合に対して債務を負う場合に準用するものとする こと。この場合において、法人である管理組合が売渡しの請求をするに は、集会の決議を要するものとすること。(36)

(乙案)

1 区分所有者が次の一に該当するときは、集会において、他の区分所有者 及びその議決権の各○分の○以上の多数で、その区分所有者に対し建物及 び敷地に関する権利を他の区分所有者又は第三者に譲渡すべき旨の請求を すべきことを決議することができるものとすること。

一 共用部分又は建物の敷地に関する管理の費用その他の負担に関し管理 組合に対して負う債務を一年以内に履行しない場合において、管理者が 相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がされないと き。

二 法第五条第一項に規定する義務又は規約上の義務(一の債務を除く。)

に著しく違反したとき。(37) (丙案)

特に立法措置を講じないものとするこ⃞(と(38))。

まず、各案を簡単に要約すると、甲案では、区分所有者が、管理費用等 を1年以内に履行しないときには、他の区分所有者が、催告の上で、建物 及び敷地に関する権利の売渡を請求できるとするものである。この案に対

(36) 資料60「専用使用権等に関する案とその問題点」(56・12・22民参印)2頁。

(37) 資料60・前掲注(36)3〜4頁。乙案の2において、1の決議による請求がさ れたにもかかわらず、区分所有者が建物等を指定された者に譲渡しない場合には、

他の区分所有者が建物等を競売できる旨が、提案されていた。さらに、同3におい て、2の規定により競売できる日から○月以内に競売申立がなされないときには、

1の決議が効力を失う旨が記されていた。

(38) 資料60・前掲注(36)5頁。

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384

(15)

しては、民法253条2項、原始規定7条との対比から、専有部分まで売り(39)

渡し請求を認めることが妥当かが、指摘されている(40)

乙案は、現行法59条に近い案である。しかし、現行法59条では競売請求 のみを規定しているのに対し、乙案では、まず他の区分所有者または第三 者へ建物等を譲渡すべき旨が決議され、この決議に従って区分所有者が区 分所有権を譲渡しない場合にはじめて、同2により、競売請求ができると されていた。さらに、譲渡請求の要件として、管理組合に対する債務を1 年以内に履行しない場合に、管理者が催告しても、履行をしないときと提 案されており、管理費滞納が要件として明示されていた。また、甲案と違 い、管理組合に対して負う債務との表現が用いられているように、管理費 等の帰属主体が、管理組合だとされている。この案に対する問題点として は、(原始規定5条1項〔現行法6条1項〕または規約の定める)義務違反に 対する制裁として区分所有権を剥奪する性格を持つけれども、この様な制 度が妥当かが、指摘されていた。(41)

丙案は、この案の注に書かれているように、規約で違約金を定めるな ど、区分所有関係上の義務履行の確保は、自治に任せるため、立法しない とするものである。但し、問題点として、専有部分と敷地利用権との分離 処分が禁止される場合には、(〔準〕共有であるはずの)敷地利用権につい

(39) 原始規定7条 専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を有しない 区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その 区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができ る。

(40) 資料60・前掲注(36)3頁の問題点①。また、問題点の②で管理組合法人の場 合(甲案の2)については、「共用部分又は建物の敷地」とある部分を 建物又はそ の敷地若しくは附属施設」に改める提案がされている(同3頁)。すなわち、管理組 合法人が専有部分や附属施設の管理をしている場合に、専有部分等の管理のために 必要な費用を払わない場合も、同様に売渡請求ができるようにすべきか、問題点と して指摘されている。なお、この点については、先取特権の被担保債権等について の案を紹介する際に触れる。

(41) 資料60・前掲注(36)4頁の問題点①。

385

(16)

ても、民法253条2項の規定が働かずに、売渡請求ができない旨が指摘さ れていた。(42)

この様に、所有権を剥奪する点では、甲案・乙案と現行法59条とが共通 しているので、立案担当官が同条についてなしている説明を参考にする と、立案担当官は、ドイツの住居所有権及び継続的居住権に関する法律

(43)

18条の譲渡請求に倣ったと説明している。ところが、ドイツ法では、18条(44)

1項で、区分所有者が重大な義務違反をしたため、他の区分所有者がその 者と共同関係を継続することが期待できない場合には、他の区分所有者が 譲渡請求をできると定めている。そして、同条1項の要件がある場合の例 示として同条2項1号で掲げられているのは、区分所有者が警告を無視し て義務違反を繰り返すことであり、管理費等の滞納についてはその次の同 項2号で掲げられているにすぎない。そうすると、甲案はもとより、乙案 でも、その他の義務違反よりも、管理費を滞納した場合が先に掲げられて いることからしても、資料60では、管理費滞納対策としての色彩が強い。

この時の審議においては、次の資料62から判断すると、乙案が採られ、

区分所有者から所有権を剥奪する方法としては、売渡請求よりも、競売請

(42) 資料60・前掲注(36)5〜6頁。

(43) ドイツ・住居所有権及び継続的居住権に関する法律 (住居所有権の剥奪)

第18条 住居所有権者が他の住居所有権者に対して負う義務につき重大な違反を し、そのために当該住居所有権者との共同関係の継続を以後他の住居所有権者に 対して期待することができないときは、他の住居所有権者は、当該住居所有権者 に対し、その住居所有権の譲渡を請求することができる。

2 次の各号に掲げる場合は、特に前項の場合に該当するものとする。

一 住居所有権者が警告を無視し、反復して第14条の義務に著しく違反したとき。

二 住居所有権者が負担及び費用の分担義務(第16条第2項)の履行を3月を超え て遅滞し、その額が住居所有権の財産価額の100分の3を超えるとき。

(3項以下は省略。訳文は、法務省民事局参事官室訳「住居所有権及び継続的居 住権に関する法律の一部を改正する法律草案」NBL219号59頁〔1980年〕によっ た。)。

(44) 濱崎・前掲注(5)361頁注2。

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(17)

求の方がよいとの意見が多数だったようである。というのは、後述する様 に、資料62では、見出しも競売請求とされ、売渡(譲渡)請求の制度がな くなるからである。また、管理費滞納を明示することは、議論において否 定的な雰囲気だったのではないか。というのは、次の資料62では、明示す るかは問題点として示されているだけだからである。

資料62においては、「一 区分所有権の競売等」の項で、競売請求の要 件が、「区分所有者が建物の保存に有害な行為をし、警告を受けたにもか かわらずその行為を停止しないとき、規約で定める義務に著しく違反した ときその他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に著しく反 する行為をしたとき」と提案されていた。すなわち、区分所有者による義(45) 務違反の場合について資料60の乙案を受け継ぎつつも、譲渡請求ではな く、競売を裁判所に請求できるものとされた。もっとも、この案でも、義 務違反による所有権剥奪が適当かは問題点で指摘されている(問題点の

①)。さらに、競売請求や占有権原の消滅等の判決を求める制度が適当か

(同②)、競売前に区分所有者が任意に他に譲渡する余地を認めるべきか も、問題点として指摘されていた(同③)。さらに、案の本文からは管理 費滞納が明示されなくなった。前述したように、競売請求ができる要件と して、問題点の⑤で、管理費等を一定期間内に履行しない場合も、競売の 要件に加えるべきか、指摘されていたにすぎない。そして、その後の資料(46)

では、競売請求の要件において管理費等の滞納が明示されなくなるので、

この時の審議において明示することを見送ると決したのではないか。その 理由として後に立法担当官が解説するところによると、1)管理費滞納の 場合を競売請求の独立の要件とすることについては、結局、先取特権の制

(45) 以上、資料62「管理業務に関する案(その二)とその問題点」(57・1・19民参 印)1頁。競売請求をするためには、2において、区分所有者及びその議決権の○

分の○以上の多数による集会の決議を必要とされていた(同1〜2頁)。また、占 有者の義務違反の場合について、占有者の権利の消滅または専有部分の引き渡しの 請求が5に規定されていた(同2頁)。

(46) 以上、資料60・前掲注(36)3頁。

387

(18)

度と重複すること、また、2)独立の要件としなくても、現行法6条1項 に規定する行為と解することが可能である⎜⎜すなわち、管理費滞納を理 由として現行法59条による競売請求をする余地がある⎜⎜からであると

(47)

いう。

4.先取特権の被担保債権及び特定承継人に対して請求できる債権の範囲 (1) 区分所有法改正要綱のとりまとめに至る過程

(1)この問題を本格的に検討した資料57においては、前述したように、

「(三)管理費及び修繕積立金は、法六条及び一五条の債権に含まれるか。

否とすれば、立法措置を講ずることの要否」が、検討項目として掲げられ(48)

ていた。この際に具体的に何が問題とされていたか推測すると、次の資料 である資料60で問題点として示されていることと、おそらく同じことであ ろう。そうだとすると、資料60においては、(資料60における主な検討事項 であった、所有権剥奪の問題とは別の)その他の問題点として、①管理者・

管理組合の債権を特定承継人に行使できる旨の明文化が必要であるかと、

②規約等で専有部分も管理組合が管理する場合の管理費用についても、特 定承継人に行使でき、または、先取特権を認める必要があるかについて、

問題点として指摘されているので、資料57の段階でも、同じことが問題点(49)

としていわれていた可能性が高い。そこで、この2つの問題に分けて、初 期の案を紹介するとともに、その理由に触れていくこととする。

(2)まず、管理者・管理組合の債権を特定承継人に行使できるように 明文化するかにつき論述すると、管理者が区分所有者に対して有する債権 について、原始規定21条は、先取特権を定めていた同(50) 6条を準用していた(51)

(47) 濱崎・前掲注(5)361頁注2。

(48) 資料57・前掲注(34)3頁。

(49) 資料60・前掲注(36)6頁。

(50) 原始規定21条 第6条の規定は、管理者が共用部分又は建物の敷地につき区分 所有者に対して債権を有する場合に準用する。

(51) 原始規定6条 区分所有者は、共用部分又は建物の敷地につき他の区分所有者 早法 84巻3号(2009)

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(19)

ものの、当該区分所有者に対する債権をその特定承継人に対して請求する ことを認める同15条を準用していなかった。そこで、このような債権につ いても、同15条のように特定承継人に対しても請求できる様に明文化する

(ないしは同15条を準用するか)か、それとも、このような規定をおかなく ても、原始規定15条及び25条並びに民法254条の規定のみで特定承継人に 対して請求できるかが、問題となったようである。また、管理組合が区分(52)

所有者から管理費⎜⎜専有部分の管理に関係するものについては、②の問 題となる⎜⎜を徴収できない場合にも、特定承継人に対して請求できるか が、別途問題となりうる。どうして管理組合について問題とされなければ ならなかったかというと、同15条については、区分所有者間の債権債務と して処理されているので、管理組合の有する管理費等の債権についても、

同条が働くよう手当を検討する必要があったからである。(53)

資料62においては、前述したように、競売請求の認められる要件とし て、管理費を滞納した場合を明示しない方向にされるとともに、「二 先 取特権の被担保債権及び特定承継人に対して行使できる債権の範囲」にお

に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び専 有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を含む。)及び建物に備えつけた 動産の上に先取特権を有する。

(同2項及び3項は、現行法7条2項及び3項と〔3項の民法という文言の後に法 律番号が追加された点を除き〕同じである)。

(52) 参考までに資料60のその他の問題点①の原文を示すと、「①管理者又は管理組 合が共用部分又は建物の敷地につき区分所有者に対して有する債権は、その特定承 継人に対しても行うことができる旨を明文化することが必要か(法第一五条、第二 五条、民法第二五四条の規定で足りるか。法第二一条参照)。」(資料60・前掲注

(36)6頁。下線は引用者による)となっている。

(53) 濱崎恭生「区分所有建物等の管理に関する制度の改善(上)」NBL251号10頁

(1982年)。なお、1)この論考が収録されたNBL251号は、1982年(昭和57年)

2月15日号であり、2)執筆時点において小委員会で団地の問題以外について一応 の検討を終えている段階であるとの記述があり(同6頁)、また、3)団地につい ての案が資料61であることからす る と、昭 和56年12月22日 ⎜⎜ 資 料60・前 掲 注

(36)に付されている日付⎜⎜の前後に、立案担当官である濱崎氏がこの論考を執 筆していた可能性がある。

389

(20)

いて、「1 法第一五条の規定は、管理者が共用部分又は建物の敷地につ き区分所有者に対して債権を有する場合に準用するものとすること」と

(54)

の案が提案されている。そうすると、管理者の債権についても特定承継人 に対して請求できる様にする方向が、資料60を検討している際に打ち出さ れていたのであろう。この理由としては、後に改正要綱試案の説明として(55)

公にされたように、管理者が職務上区分所有者に対して有するに至った債 権については、共有者間の債権⎜⎜民法254条及び原始規定15条により特 定承継人に対する請求が認められていた⎜⎜と同様に特定承継人に対して 請求できるとするのが適当だとされたからであろう。

(3)次に、専有部分の管理費の問題に移ろう。専有部分の管理・使用 に関する事項も(管理組合の)規約で定めることができるので、このよう な定めをおくことにより、専有部分や附属施設も、管理組合による共同管 理の対象となりうる。その結果、(実質的には)管理組合が、専有部分や附 属施設に関して区分所有者に対して債権を有することがありうる。しか し、原始規定6条及び21条は、「共用部分又は建物の敷地」についての債 権のみを先取特権の被担保債権としていた。また、同15条では、民法254 条と同様に、特定承継人に対して行使できるのは、共用部分についての債 権のみとされていた。このため、専有部分等の管理に要する分について は、管理費であっても、先取特権の被担保債権とならないし、特定承継人 に対して請求できなかった。(56)

(54) 資料62・前掲注(45)4頁。

(55) 法務省民事局参事官室「区分所有法改 正 要 綱 試 案 の 説 明」NBL261号23頁

(1982年)

(56) 濱崎恭生「建物の区分所有等に関する法律及び不動産登記法の一部を改正する 法律の概要」法務省民事局参事官室編『改正区分所有法の概要』(商事法務研究会、

別冊NBL12号、1983年)13頁、濱崎・前掲注(5)127頁参照。改正要綱試案の 説明でも簡潔ながら、この趣旨が述べられている(法務省民事局参事官室・前掲注

(55)23頁)。しかし、後掲注(60)で述べるように、改正要綱試案の取り纏めの際 には部会でこのような趣旨は説明されていない(これに対して、改正要綱の取り纏 めの際には部会でもこの趣旨が述べられている〔法務大臣官房司法法制調査部・前

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390

(21)

もっとも、資料60を審議した段階では、結論が出なかった様である。と いうのは、資料62においては、管理組合が法人化されていない場合につい ては、専有部分に関する債権も先取特権の被担保債権としたり、特定承継 人に対して請求できる様にすることは、案として提案されていたのではな く、問題点の中で指摘されていたにすぎなかったからである。すなわち、

資料62の案としては、管理組合が法人化していない場合には、管理者が特 定承継人に対して請求できる債権の範囲については、「共用部分又は建物 の敷地」についての債権とされており(二╱1)、原始規定6条及び21条 と同様の範囲とされているだけであった。これに対して、管理組合が法人 化されている場合には、「建物又はその敷地若しくは附属施設」に関する債 権が先取特権の被担保債権となり、法人である管理組合は、そのような債 権を特定承継人に対しても請求できるとされていた(二

╱2)

(57) 。したがっ て、建物に関する債権であるから、法人である管理組合は、専有部分の管 理費も特定承継人に対して請求できる様に提案されていた。これらの案の 問題点として、問題点①において、法人化されている場合について原始規 定6条及び15条並びに民法254条よりも対象となる債権を拡大することが 妥当か指摘しつつも、問題点②において、管理組合が法人化されていない 場合についても、法人化されている場合と同様に、建物等に関する債権を 先取特権の被担保債権とし、かつ、管理者が特定承継人に対して請求でき る様にすべきか、指摘されていた。そして、次の資料64の内容から判断す(58)

ると、問題点②の方向を支持する意見が多かったのではないか、と推測さ れる。

(4)このような経緯を経て、資料64において、「法第六条及び第十五条

掲注(14)29頁(濱崎幹事発言)〕)。

(57) 2 1及び法第二十一条は、法人である管理組合が建物又はその敷地若しく は附属施設につき区分所有者に対して債権を有する場合に準用するものとするこ と。」と提案されていた(資料62・前掲注(45)4頁。なお、二╱1については、前 掲注(54)に対応する本文参照)。

(58) 資料62・前掲注(45)5頁。

391

(22)

の規定は、管理者又は法人である管理組合が建物又はその敷地若しくは附 属施設につき区分所有者に対して債権を有する場合に準用するものとして よいか。」とされ、その後ほぼこの文言のまま改正要綱試案に採用さ(59) れた。(60)

つまり、管理者もこのような債権を特定承継人に対し請求することが認め られるし、また、先取特権についても、専有部分等に関する債権も被担保 債権とされることとなった。

(5)なお、原始規定6条では、管理費等を他の区分所有者が立て替え た場合には被担保債権に該当するものの、立替払がなされていない状態、

すなわち、規約や集会の決議で管理費等を予納すべきと定められていなが ら、管理費等が支払われていない場合に、先取特権の被担保債権となるか 疑義があった。この問題については、この資料64とほぼ文言が同じ改正要(61)

綱試案に対する説明によると、管理者が建物等につき区分所有者に対して 有する債権には、管理費や修繕積立金のように、建物等に関して規約に基 づいて(管理組合が)有する債権が含まれる趣旨だったという。すなわち、(62)

管理組合が法人化されていない場合についても、あたかも管理組合が管理 費等を請求する債権の帰属主体となり、管理組合の事務の管理として管理 人がその債権を請求することとなるため、管理者の債権という文言に、管 理費や修繕積立金等規約に基づく債権が含まれる、と考えられていたよう である。この点については、区分所有建物管理問題研究会での議論におい ても、未納者以外の区分所有者が持分に応じて滞納者に対して債権を有す

(59) 資料64「建物の管理の制度に関する再検討事項」(昭57・3・23民参印)7頁 の六╱2。

(60) 改正要綱試案第三╱四(NBL261号12頁)。改正要綱試案の取り纏めの際には、

案の内容は部会で説明されているものの、この様にする理由は説明されていない

(法務大臣官房司法法制調査部・前掲注(13) 21頁〔濱崎幹事発言〕)。

(61) 法務大臣官房司法法制調査部・前掲注(14)29頁(濱崎幹事発言)、濱崎・前 掲注(56)13頁、濱崎・前掲注(5)127〜128頁、高柳輝雄『改正区分所有法の解 説』(ぎょうせい、1983年)38頁。

(62) 法務省民事局参事官室・前掲注(55)24頁。

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392

(23)

るのではなく、区分所有者全体が一種の団体を形成していて、この団体

(=管理組合)が未納者に対して債権を有していると考えたい、とされて

(63)

いた。また、資料64では「管理者又は法人である管理組合が(中略)有す る債権」という文言(改正要綱試案もほぼ同じ文言である)が用いられてお り、管理者と管理組合法人とを同じように債権の主体と表現しているの も、管理組合が法人化されていない場合には、実質上は管理組合の債権で あるけれども、管理者が管理組合のためにそれを行使する。法人化されれ ば、形式上も、管理組合法人が債権の帰属主体となる。だから、管理者の 債権と管理組合法人の債権とは、実質的に同じだ、と考えられていたから ではないか。(64)

(6)ここまで記述してきたことからすると、まず問題とされたのは、

特定承継人に対して請求できる債権の範囲だったようである。すなわち、

前述したように、資料60の「その他の問題点」の①は、管理者・管理組合 の債権を特定承継人に対して請求できる旨を明文化する必要があるかであ り、同②の専有部分の管理費に関しても、特定承継人への請求をできる様 にするかが先に言及され、先取特権の被担保債権とする必要性については 後回しになっている。さらに、資料62においては、二╱1で提案されてい る内容は、管理者の債権を特定承継人に行使できるようにする提案であ り、さらに、同2では、管理組合が法人化された場合にこの提案及び原始 規定21条を準用する提案である。確かに、同2で先取特権に関する原始規

(63) 区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)149〜151頁(特に、149頁の宇 佐見隆男発言、149〜150頁の加藤一郎発言、150頁及び151頁の星野英一発言。な お、管理費については、管理者が滞納者以外の他の区分所有者の代理人として請求 するのか、権利能力なき社団のような団体の代理人として請求するのかに関して、

区分所有建物管理問題研究会編・前掲注(16)149〜153頁では議論がされている)。

(64) この様に、58年改正後の7条1項後段⎜⎜区分所有者に対して管理者・管理組 合法人が職務・業務を行うにつき有する債権⎜⎜の説明として、立案担当官は費用 前払・償還請求権(現行法28条、民法649条、650条)をあげる(例えば、濱崎・前 掲注(56)13頁、濱崎・前掲注(5)133頁)けれども、似たような文言でも、改 正要綱試案の段階では意味するところが違っていた。

393

(24)

定21条が出てくるけれども、管理組合が法人化されている場合の手当のた めにこうされたのであろう。そうすると、当初の検討において比重が置か れていたのは、先取特権に関する事柄よりも、特定承継人に対して一定の 債権を請求できる様にすることである。この理由は、おそらく、先取特権 には実効性がないから、管理者等の債権を回収するために先取特権は期待 されておらず、特定承継人に対して請求することの方が、有用だと考えら れていたからであろう。

(2) 管理組合の社団法的性格の後退に伴う見直し

改正要綱試案に対しては、各界から意見が寄せられ、この意見に基づい て小委員会で再検討がなされた。この結果を受けて起草された改正要綱の 仮案(資料72)では、先取特権等についても、大きな見直しがされた。す なわち、管理者の債権に先取特権等を認める改正要綱試案第三╱四につい ては、基本的にはほぼそのまま第三╱二に引き継がれている。しかし、こ(65)

れとは別に次のような新たな項目が追加される。

第六 先取特権等

1 区分所有者は、規約又は集会の決議に基づき建物又はその敷地若しく は附属施設の管理又は使用に関し他の区分所有者に対して有する債権に ついては、法第六条第一項に規定する債権以外の債権についても、債務 者の区分所有権及び建物に備えつけた動産の上に先取特権を有するもの とすること。

2 区分所有者が規約又は集会の決議に基づき建物又はその敷地若しくは 附属施設の管理又は使用に関し他の区分所有者に対して有する債権は、

(65) 資料72「建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律要綱案(仮案)」

(昭57・12・14民参印)3〜4頁。但し、管理組合が法人化されている場合について は、第三╱2の対象からは除かれて、第八╱六╱1で第三╱二を準用することに改 められている。また、改正要綱試案では、管理者等が「建物又はその敷地若しくは 附属施設に関し(中略)債権を有する場合」とされていたのが、資料72の第三╱二 では、管理者が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関し(中 略)債権を有する場合」(下線は引用者による)に改められている。

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(25)

法第十五条又は民法第二百五十四条に規定する債権以外の債権であつて も、その特定承継人に対しても行うことができるものとすること。

注 試案第三の四参照(66)

この箇所につけられている注から分かるように、この第六という項目 は、改正要綱試案第三╱四と関連したものとして、提案されている。前述 したように、同第三╱四は、ほぼそのまま資料72で第三╱二に引き継がれ ているにもかかわらず、資料72でこの第六⎜⎜債権の帰属主体は区分所有 者とされている⎜⎜という項目を同第三╱四と関連したものとして新設す る必要が何故あったのであろうか。その理由は、おそらく改正要綱試案か ら改正要綱に変更される際に、管理組合の社団法的色彩が後退していった ことに関係があるのだろう。すなわち、改正要綱試案に対しては、管理組 合が法人格を有しないのに、権利義務の主体であるかのような規定を設け るのは、法制上矛盾があるとの趣旨の意見があり、改正要綱へ修正される 過程で、管理組合の社団的法的色彩が後退していく。したがって、規約に(67)

基づいて徴収される管理費等の債権についても、管理費等はいわば団体的 に管理組合に帰属している債権ではあるけれども、管理組合が法人化され ていない限り、管理組合がこのような債権の帰属主体であるかのような表 現は採り得ない。つまり、債権の帰属主体については原始規定6条等のよ うに、(滞納者以外の)区分所有者とせざるを得ないのである。そこで、区 分所有者が他の区分所有者に対して有する債権と表現せざるを得なか

(68)

った。ただ、このままでは、原始規定6条等と同じであり、前述したよう に同条等については、管理費のように規約等によって共同の経費として予 納すべきとされる債権が、先取特権の被担保債権とされるか、また、特定 承継人に対して請求できるかについては疑問視されていた。このような次(69)

(66) 資料72・前掲注(65)7頁。

(67) 濱崎・前掲注(5)61〜62頁参照。

(68) 濱崎・前掲注(5)129頁。

(69) 前掲注(61)に対応する本文を参照。

395

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