( 東 女 医 大 誌 第53巻 第7
号 )
頁 665‑669 昭和58年7月
特別掲載
担癌マウスにおけるマクロファージ機能の解析
キッセイ薬品工業株式会社中央研究所
九州大学医学部附属癌研究所 細胞性免疫部門(指導・野本亀久雄教授〉
宮 田 広 志
( 受 付 昭 和58年5月2日〕
Analysis of Macrophage Function in Tumor‑bearing Mice Hiroshi MIY A T A
Central Research Laboratories, Kissei Pharmaceutical Co., Ltd Institute for Cancer Research, Kyushu University School of Medicine
Alteration of Macrophage‑mediated antibacterial resistance in tumor‑bearing mice were compared with that in normal or nude mice injected repeatedly with a culture supernatant of tumor cells. Sub‑ cutaneous injection of tumor cells into mice I1rst resulted in strictly suppressed resistance, but this was replaced by a contrasting state of enhanced antibacterial resistance as the tumor grew up. The similar alteration of resistance was observed also in non‑tumor‑bearing normal or nude mice when injected repeatedly with a culture supernatant of tumor cells. These results suggested that the macrophage function in mice was I1rst suppressed by a factor released from tumor cells but soon conversely enhanced if they were continued to contact with the factor.
緒 言
担癌動物におけるマクロファージ機能,特にそ の遊走能は,正常動物にくらべ著しく抑制されて いることが広く知られているlト3) そしてこの現 象は腫虜細胞が放出するマクロファージ機能抑制 因子によるものであり, このような因子は,担癌 動物の血清中ベさらには腫虜細胞の培養上清中5)
に認められることが報告されている.腫場細胞は この因子により, scavenger cellとしての宿主マ クロファージによる監視機構から逃れ得るものと 理解されている6) しかしながらNorthら7)は,マ ウスに同系腫蕩細胞を皮下移植した場合,直後に マグロファージ機能は著しく抑制されるものの,
腫蕩の増殖にともない逆に著しく允進してくるこ とを報告している.
今回我々は,マウスに腫蕩細胞を移植する替わ
りに,腫虜細胞培養上清を連投しても同様なマク ロファージ機能の変動が生じることを認めたので 報告する.なお,本研究では,マクロファージ機 能の指標として,細胞内寄生性細菌であるリステ リアに対する初期感染抵抗性を調べることにより 検討した.
実験材料および方法 1.動物
静岡実験動物農業協同組合より購入した8週齢 の近交系マウスBALB/c雄,ならびにBALB/c 由来ヌードマウス雄を使用した.
2 .
腫蕩BALB/c由来 3メ チ ル コ ラ ン ト レ ン 誘 発 腺 維肉腫MethA, C57BL/6由来,白血病細胞EL4' DBA/2由来,白血病細胞L1210および肥満細胞腫 P815を使用した.これらの腫蕩はすべて腹水型 665ー
で,それぞれ同系マウスの腹腔内に継代移植維持 しTこ
3 .
腫蕩細胞培養上清の調製各腫場細胞を牛胎児血清無添加RPMI.1640培 養液に1Q
6 /
mlの濃度で浮遊さぜ,プラスティック ディッシュに入れ5%炭酸ガス培養器にて24時間 培養した.培養終了後,細胞を1,000rpmVこて遠心 分離し上清を採集し,さらにミリポアフィルター (0.45μ〉で、ろ過して, 3 mlずつクリグラ管に分注 し,使用するまで 700Cに保存した.4. Listeria togenes)
monocytogenes (L. monocy.
Listeria monocytogenes, EGD株,約1X103を BALB/cマウスの静脈内に投与して 2日目に取 り出した感染牌をすりつぶし,普通寒天平板域地 に接種して ,3TC20時間の培養後のコロニーをさ らに0.5%ブドウ糖加トリプトソイブロスに接種 して, 20時間振量培養した.この生菌液をリン酸 緩衝液 (PBS)にて3回洗浄し,約1X109/ml Vこ 調整した後,クリグラ管に2mlずつ分注して,使 用するまで一700Cに保存した.マウスのリステリ
ア感染に際して,凍結保存菌液を室温にて融解し,
必要菌数に応じてPBSで希釈した後, 0.2mlを 尾静脈内に接種した.正確な菌数は実験の都度,
定量培養法により算定した.
5.肝臓内菌数測定
マウスをエーテル麻酔後,脱血屠殺し,無菌的 に取りだした肝臓内生菌数を測定した.取りだし た臓器は10mlのPBSを 加 え て テ フ ロ ン ホ モ ゲ ナイザーを用いてホモゲナイズし, PBS ~こて 10倍
希釈系列をつくり,各布釈段階のものO.lmlをブ ドウ糖0.4%加えた普通寒天平板培地にコンラジ 棒を用いて塗り拡げた.培養は3TCの培養室で20
時間行ない,数えうるコロニー数より原液あたり の生菌数を算定し,その対数値を臓器あたりの生 菌数として表わした.
結 果
1.担癌マウスにおける腫蕩増殖にともなうリ ステリア感染抵抗性の変動
BALB/cマウスに2X 106のMethAを皮下移 植し,移植5時間, 1, 2, 3, 7, 14, 21日後
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Fig. 1 Changes in resistance to Listeria infection during growth of Meth A tumor in BALB/ c mice
に2X 103のリステリア生菌を静注感染させ,各々 の時期における感染3日後の肝内菌数を調べた (Fig. 1).正常BALB/cマウスに同量のリステリ ア生菌を静注感染させた場合 3日後の肝内菌数 は,およそ105‑ 5 X 105の値を示したのに対し,
Meth A細胞移植5時間後にリステリア感染させ たマウスでは, 3日後の肝内菌数は108を越え,著 しい感染抵抗性の抑制が認められた.しかし,腫 蕩の増殖にともない, リステリア感染抵抗性はし だし、に回復し,移植3日後には正常マウスと同程 度であった.移植7日後になるとリステリア感染 抵抗性は逆に著しく允進し,感染3日後の肝内菌 数はおよそ2X 103であった.さらに,移植14日, 21日後においてもリステリア感染抵抗性は著しく 克進された状態で、あることが観察された.
2 .
腫蕩細胞培養上清連投にともなうリステリ ア感染抵抗性の変動担癌初期に認められたマクロファージ機能の指 標としてのリステリア感染抵抗性の抑制は,腫虜 細胞より放出されるマグロファージ機能抑制因子 によるものであることが証明されている.しかし,
それ以後のリステリア感染抵抗性の促進現象の出 現には,担癌状態であることが必要なのか,また はこの抑制因子によるなんらかの影響が必要なの か明らかでない.そこで, BALB/cマウスに,
Meth A細胞を移植するかわりに, Meth A細胞 の培養上清を毎日 1回O.lmlず つ 腹 腔 内 に 連 投 し,連投開始後のリステリア感染抵抗性を経時的
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Fig. 2 Changes in resistance to Lisferia infection according to repeated injection of culture super‑ natant of Meth A cells in BALB/c mice.
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Fig. 3 Changes in resistance to Lis伝riainfection according to repeated injection of culture super‑ natant of allo‑tumor cells in BALB/c mICe.
に観察したCFig.2).培養上清連投マウスにおい ても, リステリア感染抵抗性の変動の経過は,担 癌マウスにおけるそれとほぼ同様であり,連投初 期に著しく抑制され,それ以後は逆に著しく促進 された.さらに, BALB/cマウスに,異系腫蕩細 胞であるEL4'L1210,およびP815細胞の培養上 清を連投しても, Meth A細胞培養上清を連投し た場合と全く同様なリステリア感染抵抗性の変動 が認められた CFig.3).
次に,培養上清連投にともない出現してくるリ ステリア感染抵抗性の促進現象が,
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細胞依存性であるのか否かを確認するため,ヌードマウスに Meth A細胞培養上清を連投し,同様にリステリ
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Fig. 4 Changes in resistance to Lisferia infection according to repeated injection of culture super‑ natant of Meth A cells in nude mice
ア感染抵抗性の変動を経時的に観察した CFig. 4).ヌードマウスにおいても,培養上清連投にと もなうリステリア感染抵抗性の促進現象の出現が 観察された.
考 察
マウスにおけるリステリア感染抵抗性の経過 は,その感染防御機構によって,感染3日目まで の非免疫マクロファージ相と,感染4日目以降の 細胞性免疫マクロファージ相の2つの相にわける ことができる8) 従ってリステリア感染3日目ま での臓器内菌数の増殖程度を調べることにより,
その個体のマクロファージ機能の非特異的活性程 度を推定することができる.Northら7)は,マウス に腫蕩細胞を移植し,その後のリステリア感染抵 抗性の変化を観察し,腫蕩細胞移植直後に著しい 感染抵抗性の抑制が認められるが,数日後より逆 に著しく促進されてくることを報告した.彼らは,
担癌マウス血清を正常マウスに移入しても同様な 著しいリステリア感染抵抗性の抑制が認められた ことから,担癌初期に認められるリステリア感染 抵抗性の低下は,腫蕩細胞より放出されるマクロ ファージ機能抑制因子によるものであると考えて いる叫.彼らはまた,腫蕩増殖にともなってリステ リア感染抵抗性が逆に充進してくる時期が,腫虜 に対する宿主免疫応答の成立の時期と一致してい ることから,腫虜移植数日後より認められるリス テリア感染抵抗性の著しい充進は,宿主の抗腫蕩
免疫応答の成立にともなうマクロファージの活性 化によるものであると考えている7)
しかしながら,本実験結果より,担癌マウスに 認められるリステリア感染抵抗性の著しい後期克 進は,宿主の腫虜に対する免疫応答の成立とは無 関係であることが強く示唆された.すなわち,腫 蕩細胞を移植する替わりに,正常マウスに上記抑 制因子を含む腫虜細胞培養上清を投与し続けても リステリア感染抵抗性は,元進してくることが認 められた (Fig. 2). しかもT細胞機能の欠損し たヌードマウスに同様な処置をしてもやはりリス テリア感染抵抗性は尤進してくることが確認され た(Fig.4).このようにして,腫蕩移植後のマウ スのマグロファージは,抑制因子によりまずその 機能が著しく抑制されるが,この抑制因子と接し 続けることにより逆に著しく非特異的に活性化さ れてくることがわかった.また,系の異なるマウ スの腫虜細胞培養上清によってもリステリア感染 抵抗性の抑制および克進が同様に引き起こされた ことから(Fig. 3),マウスにおける腫湯細胞より 放出されるマグロファージ機能抑制因子は,系を 越えて共通に作用することができるものと考えら れる.
リステリア感染3日以前の非免疫マクロファー ジ依存性の感染抵抗性は,マクロファージによる 菌の食機能および感染部位への遊走能との両機能 により成立する8) 本実験において,腫蕩細胞培養 上清の連投がどちらのマクロファージ機能を抑制 または充進させたのか現段階では明らかでない.
Otuら9)は,担癌マウスにおいて,マクロファージ の食機能を示すカーボンクリアランス能も担癌初 期に抑制され以後逆に充進してくることを報告し ている.また,担癌動物において,マグロファー ジの遊走能は,腫壌の増殖過程を通じて常に抑制 されているとL、う報告もある10) しかし,担癌動物 におけるマグロファージ機能を調べる上で,腫蕩 細胞より放出されるマクロファージ機能抑制因子 の同定は言うまでもなく,その作用動態に関する さらに詳しい研究が必要であると思われる.
総 括
担癌マウスにおける腫蕩増殖にともなうリステ
リア感染抵抗性の変動を,腫蕩細胞培養上清連投 にともなう正常およびヌードマウスにおけるそれ と比較検討した.
1)マウスに腫虜細胞を移植した場合,直後より 著しいリステリア感染抵抗性の抑制が認められた が,数日後より逆に著しい充進が観察された.
2)腫蕩細胞を移植する替わりに,腫湯細胞培養 上清を正常またはヌードマウスに連投しても同様 な経過のリステリア感染抵抗性の変動が認めら れ,連投初期に著しく抑制され,それ以後は逆に 著しく促進された.
こ れ ら の 結 果 よ り , マ ウ ス に お け る マ ク ロ ファージ機能は,腫虜細胞より放出される抑制因 子により,まず著しく抑制されるが,これと接し 続けることにより,逆に著しく活性化されること が示唆される.
文 献
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