• 検索結果がありません。

中国における弁護士の草の根の法律扶助への参加動機

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国における弁護士の草の根の法律扶助への参加動機"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

中国における弁護士の草の根の法律扶助への参加動機

―北京市の出稼ぎ者向け法律支援ネットワーク

「小小鳥打工互助熱線」で活動する若手弁護士にたいする聞き取りをもとにして

Why Do Chinese Lawyers Participate in Grassroots Legal Aid?

―A Case Study Based on Interview for Young Lawyers in “Little Bird Hotline”, a Grassroots Legal Aid Network for Migrant Workers in Beijing

Nao SATO 佐藤 奈緒

In recent China, many young lawyers have begun to take legal aid matters in spite of its little allowance. Why do young lawyers, who have little practical experience, willingly participate in legal aid? According to preceding research, one of the reasons is that they got distressed because of the oversupply of lawyers in the coastal big cities, such as Beijing and Shanghai, then, they have drifted toward legal aid matters in order to get “economic rewords” such as accumulating practical experience.

On this paper, the author describes why Chinese lawyers participate in grassroots legal aid, based on the interview for eight lawyers in “Little Bird Hotline”, a grassroots legal aid network for migrant workers in Beijing. The eight lawyers can be divided into two groups, which are (A)interning lawyers and (B)lawyers who have more than five years practical experience. The interview was conducted by the author on March and September of 2010.

By standing on narrative contexts of lawyers, the author describes (1) almost of all the lawyers, especially interning lawyers, indeed tend to be motivated from “economic reword” to some extent.

However, at the same time, “mental satisfaction”, which is mainly gotten through supporting clients by lawyers themselves, has also been observed as strong motives among them, (2) both of

“economic reword” and “mental satisfaction” have been observed on the remarks of both group of lawyers.

Those results indicate that lawyers are motivated to grassroots legal aid, not only from

“economic rewords” but also from “mental satisfaction”. The “mental satisfaction” should be one of the most important elements for Chinese lawyers to keep the legal aid services’ permanence and expansion as a social contribution.

Abstract

(2)

はじめに

 中華人民共和国政府は2000年代半ば以来、法律扶 助制度を強化している。政府が推進する法律扶助とは、

民事事件にかぎって端的にいえば1、貧困層にたいし て弁護士などによる法律サービスの提供を、地元政府 が保障する制度である。案件を遂行した弁護士には、

わずかな手当が地元政府から支払われる。他方、この 制度の外で、弁護士や法律知識をそなえた素人が自発 的におこなう法律支援もあり、それを本稿では「草の 根の法律扶助」と呼ぶ(2−1で詳述する)。

 近年の中央政府の文献には、法律扶助制度の拡充 が重点政策のひとつとして登場している。たとえば 2006年には温家宝首相(当時)が、全国人民代表大 会の「国務院政府工作報告」で、法律扶助について

「しっかりおこなわなくてはならない」と言及した(温

2006)。2012年の「工作報告」では、法律扶助を「強

化しなければならない」と強調した(温2012)。こう

した発言は口先だけのものではない。実際、中央政府 は2005年にはじめて5,000万元の使途限定補助金を 地方政府にたいして拠出し(司法部法律援助中心〈編〉

2007, 4)、2010年にはその金額が1億元に及んでいる

ことからも(司法部法律援助中心〈編〉2010, 197)、中 央政府の法律扶助への力のいれようを見てとれる。

 法律扶助の対象となる案件は、民事事件の場合、当 初は国にたいする損害賠償の請求、社会保険や最低生 活保障金の給付請求、労働賃金の支払い請求などに限 られていたが、現在では、労働災害、交通事故、医療 事故による損害の問題などにも拡大されつつあり、貧 困層の生活維持を直接的に脅かしうるリスクを配慮し たものとなっている。全国の民事事件の扶助件数の推 移を見ると、2000年の6万2,671件から2010年の61 万198件へと約10倍の伸びである(司法部法律援助 中心〈編〉2006, 98, 中国法律年鑑編輯部2011, 1069)。

 この法律扶助の増強にたいしては、中央政府が貧困 者救済を強化したと、真正面から肯定的に捉えること もできる。しかし裏をかえせば、貧困層が抱えたリス クをできるかぎり既存の司法システム内に回収するこ とによって、共産党による統治の継続にとって支障と なりうる貧困層の不満暴発を未然に防ぐための緩衝壁 を補強した、と見ることもできよう。現在の中央政府 の最大の課題のひとつは、改革開放以降の急速な経済 発展にともなって生じた所得格差などの社会矛盾にた いする民衆の不満を、その場その場で解消しながら社 会的安定を維持していくことであるから、法律扶助制 度の拡充は、結果的には共産党にとってのメリットに もなる。

 では、当事者(被扶助者)にとってはどうか。当然、

法律扶助の拡充によって、法的に救済される機会が増 えたことは、好ましくないはずはなかろう。だがそう 断ずることに筆者は躊躇する。というのも、被扶助者 数が増えたというその数値からは、案件の遂行と結果、

およびそのありかたにたいして当事者がどれほど満足 しているかはあきらかにはならないからである。法律 扶助の拡充が好ましいか否かという評価は、本来なら こうした部分をも含めてなされるべきではなかろうか。

<目次>

はじめに

1 先行研究 ―弁護士の法律扶助への参加動機をめ ぐって

 1−1 社会運動の観点から  1−2 経済的動機の観点から

2 草の根の法律支援ネットワーク「小小鳥打工互助 熱線」

 2−1 草の根の法律扶助  2−2 小小鳥の法律扶助

 2−3 小小鳥における弁護士の役割 3 小小鳥への弁護士の参加動機

 3−1 弁護士のバックグラウンド ―小小鳥の活動 外の状況

 3−2 ふたつの動機 ―「経済的報酬の獲得」と「精 神的充足感の獲得」

 3−3 考察 ―新人・中堅弁護士、双方に見られた ふたつの動機

むすび

(3)

それらを切り落として、法律扶助の数値的拡充を評価 するのには限界がともなうだろう。とはいえ、こうし た限界を承知しつつもなお、救済される当事者の増加 という側面から法律扶助の数値的拡充を積極的に評価 する立場を、本稿では貫いていきたい、と筆者は考え ている。

 さて、法律扶助の担い手たる弁護士のあいだでは、

従来から、法律扶助は「割に合わない」といわれてき た。法律扶助を遂行した弁護士に支払われる手当の金 額が、市場価格に比してあまりにも低すぎるからであ る。たとえば2010年時点の北京市の手当は、民事事 件の場合は800元、刑事事件の場合は500元である。

この金額は通常の報酬額には遠く及ばず、案件遂行に かかる交通費ていどにすぎない2。そのため中国政府 は、テレビや新聞といった情報媒体での美談の紹介や、

法律扶助に貢献した弁護士への表彰をつうじて、弁護 士の職業倫理や良心に訴えかけ、かれらの積極的な協 力を求めてきた。それでもやはり手当の低さから、弁 護士から積極性を引き出すことは困難であった(劉 2011, 314 , 李2004, 285)。

 ところがここ数年、沿海大都市ではあらたな現象が あらわれはじめた。2008年7月28日付『上海法治報』

は、法律扶助に参加する若い弁護士が増えたことを報 じている。同記事によれば、近年の弁護士の急増に よって実務経験の乏しい新人弁護士たちが仕事を見つ けられなくなったため、法律扶助案件を受任すること によって、実務経験を積んだり、わずかな手当を生活 の足しにしている、という(陳2008)。さらに注目す べきなのは、糊口をしのぐ必要から法律扶助に参入す る若手弁護士の増加を、法律扶助の拡充という側面か ら肯定的に評価する言説が、中国研究者や実務家のあ いだにあらわれてきたことである。

 筆者がこうした言説の広がりを注視する理由は、も し現実に弁護士に経済的動機が強くあったとして、そ のことを否定的に捉えるからではない。むしろ筆者は、

弁護士に経済的動機の存在があることで法律扶助の数 値的拡充にプラスに働くのなら、それには肯定的な側 面もあると捉えている。ここで問いたいのは、果たし

て、若手弁護士は経済的動機のみに突き動かされて法 律扶助の受任へと向かうのか、ということである。

 弁護士がいかなる動機で法律扶助に関わっているの か、その内実を理解することは重要な問題である、と 筆者は考えている。それはなぜか。ひとつには、弁護 士が法的手段をつうじて現体制に対抗しうる存在だと いう意味での重要性がある。たとえば1980年代以降 に台湾や韓国の弁護士がリベラルな政治体制への移行 を主導したという事例(Ginsburg2007)が示唆するよ うに、弁護士は民主化の前衛として、反体制に動くこ ともある。もし中国の弁護士にその傾向が強くあるな ら、共産党が弁護士に寄せている期待(法律扶助の実 施をつうじた社会的安定)とは真逆の結果をもたらす かもしれない。

 しかし筆者が弁護士の動機を見ることが重要だと考 える理由は、それよりもむしろ、当事者との日常的な かかわりに関連している。その理由は、弁護士の動機 がいかなるものかによって、弁護士が案件遂行に臨む 姿勢、当事者とのあいだにとりむすぶ関係、ひいては 当事者が求めている正義が実現される可能性、そして その実現のありかたが、大きく変わりうるからである。

こうしたことは冒頭にあげた法律扶助件数や被扶助者 数といった数値にはあらわれてこない。関係者の声を 聞いてはじめてあきらかになるものだろう。

 本稿の目的は、中国の弁護士が草の根の法律扶助に 参加する動機の一端を明らかにすることである。その 方法として筆者は、2010年3月と9月に、北京にお いて農村からの出稼ぎ者(以下、「農民工」という)

向けに法律支援を展開する草の根ネットワーク「小3 小鳥打工互助熱戦(以下、「小小鳥」と略す)」に参加 している8名の弁護士にたいして聞き取りをおこなっ た。本稿では、この聞き取りにもとづき、どのような 弁護士が小小鳥での活動に参加しているのか、なぜ参 加しているのかを、個別の事例からあきらかにしてい く。

 たったひとつのネットワークを調査の舞台としたた め、サンプルとしての代表性に限界があることは否め ない。たとえば2−2で紹介するように小小鳥は政府

(4)

との協調関係を維持しているため、そこに参与する弁 護士もその枠内で活動している可能性、つまりあから さまな反体制運動をおこなう弁護士はここにはあまり 含まれない可能性が高い。だがその反面、中国の大多 数を占めると思われる4、いわゆる「穏健」な弁護士 の動機の考察としては好例と考えた。聞き取りという 手法を用いたのは、内面的動機に迫るにあたって、単 に表層的な回答を集めるのではなく、弁護士の動機が かれら自身のどのような価値観、どのような日常生活 に根ざしているのか、といった地点まで掘り下げて把 握し、それらを包括的に理解したいと考えたからであ る。

 結論を先に述べれば、弁護士には2種類の動機が強 くあることが確認された。ひとつめは、「経済的報酬 の獲得」である。これには実務経験の蓄積や、弁護士 としての知名度の上昇といった動機が含まれる。将来 的に弁護士の収入増加につながりうることから、「経 済的報酬の獲得」(あるいは 「経済的動機」)という言 葉で括ることにする。もうひとつの動機は、「精神的 充足感の獲得」である。ここには当事者である農民工 への共感と善意、スタッフとの仲間意識などにもとづ いておこなう支援をつうじて得られる心理的な充足感 が含まれる。ここでいう「精神的充足感」とは、たと えば農民工への共感の文脈でいえば、「じぶんの隣に 困っている人がいるから助けたい」という、やむにや まれずほとばしりでてくる内発的な善意から支援をお こなうことによって得られる充足感である。このよう な内発的善意は、決して弁護士のひとりよがりなもの ではなく、弁護士が当事者の意向や心情に十分配慮し たうえで、当事者にとってより好ましい結果をもたら すため力を尽くそうとするものである。したがってそ の結果得られる「精神的充足感」とは、当事者の意向 や心情を無視した支援を提供することによって得られ る自己満足や自己陶酔ではない。また当事者に謝意を 強いるような押しつけがましさ5を経由して獲得され る満足感でもない。さらにここで強調しておきたいの だが、筆者はこのような内発的善意の存在を、たとえ ば「弁護士の利他精神はこれほど高い」、「弁護士は、

よき市民である」 などと賛美の対象として描くつもり はない。ただ、いかにしようとも「経済的報酬の獲得」

に含められないと筆者が判断した動機のうち、結果的 に弁護士が精神的充足感を得ることにつながっている 動機を表現する必要性から、「精神的充足感の獲得」

という言葉を用いる。

 以下、第1節では先行研究にもとづいて弁護士の動 機についての仮説を整理する。第2節では、小小鳥の 概要とそこで弁護士が果たす役割を紹介する。第3節 では、弁護士の発言にもとづき、参加動機を考察する。

1 先行研究 ―弁護士の法律扶助への参加  動機をめぐって

 本節では、弁護士が法律扶助に参加する動機をめ ぐって、先行研究を概観し、そこから得られた示唆を 紹介する。

1-1 社会運動の観点から

 海外の先行研究からは、法律扶助がたんなる当事者 救済の手段としてではなく、社会運動の手段のひとつ として用いられることもある、との示唆を得られる。

その代表例は、サラットとシャインゴールドが提起し た「コーズ・ローヤリング(Cause Lawyering)」である。

コーズ・ローヤリングとは、1960年代初頭の米国で 展開された社会運動の高まりのなかで生まれてきた法 律扶助の一類型で、弁護士が特定の主義および主張

(コーズ)にもとづいておこなう弁護活動を指す。コー ズ・ローヤリングをおこなう弁護士は、社会、経済、

政治の現状を変革することをつねに目標に掲げ、当事 者にたいする法律扶助の提供を、弁護士自身が掲げる コーズを実現するための手段として捉える、という

(Sarat and Sheingold 1998, 3-4)6

 中国の弁護士も社会変革の手段として法律扶助を用 いている、という可能性が考えられなくもない。こう したコーズ・ローヤリングの枠組を現在の中国の弁護 士 に 援 用 し た 代 表 的 研 究 と し て は、Fu and Cullen

(5)

(2008)がある。しかしフーらの結論では、中国での 弁護士にとって、共産党による一党支配体制を真っ向 から否定する急進的7な活動は現実的に容易でないこ とが示される。弁護士たちは、既存の法制度や世論を 動員して政治改革を要求することも多いが、結局は現 体制の政策方針によりそって展開される活動にとどま らざるをえないという(Fu and Cullen 2008, 125-127)。

 同じくMichelson and Liu(2010)も中国の弁護士の 社会変革に着目しているが、前掲のフーらの研究が制 度的問題に焦点を絞っていたのとは異なり、弁護士の 主観に関心を寄せている。マイケルソンらは、弁護士 がみずからの所属階級を中層または下層のどちらに位 置づけているかに注目し、各階層の弁護士が民主化お よび政治権利の強化にたいしてどれほど高い要求を もっているかを、約1,500名のサンプルを用いた回帰 分析によって考察した。その結果、全体的にみれば弁 護士の民主化と政治権利などへの情熱は一般民衆に 比して高いこと、下層に属すると自認している弁護 士ほど高い傾向が見られることがあきらかにされた

(Michelson and Liu2010, 316-319)。だが、そうした情 熱は、当事者(クライアント)の救済には向かっては いない。むしろ弁護士自身が置かれている、収入の低 さや不安定さ、弁護士事務所との不安定な関係といっ た経済的脆弱性、あるいは弁護活動にたいする公的機 関からの干渉といった政治的脆弱性に由来して生じ る不満の解消に向かっているのだという(Michelson and Liu2010, 319-327)。したがって弁護士が抱えるこ うした不満が解消されれば、弁護士の政治的要求の度 合いは低くなるだろうと、マイケルソンらは予測する

(Michelson and Liu2010, 328)。この予測にもとづけば、

収入が低い弁護士は自身の「不満」の表出として社会 変革に乗りだす可能性は高いが、その弁護士が中産階 級に上昇移動したと自認した時点でその可能性は低く なる、と考えられる。

 1-2 経済的動機の観点から

 法律扶助に参加する理由として、もうひとつは経済

的動機が考えられる。実際に先進国では、法律扶助の 遂行から得られる報酬が弁護士の生計の手段にもなっ ていた、との事例がある。1950年代から80年代にか けての英国である。法律扶助に潤沢な予算が割かれた 英国では、この予算に依存して高額報酬を得て、生活 の糧とする弁護士も存在した(吉川2011, 204)。しか しこうした弁護士は1980年代のサッチャー政権以降 に太った猫(fat cat)と呼ばれて世論の批判の的となり、

そののち法律扶助予算が大幅に削減される主因のひと つとなった(吉川2010, 16-17)。

 中国の場合、法律扶助の手当の金額はわずかである ことから、こういった英国のケースのように、弁護士 の直接的な経済的動機となる可能性は、一見すると考 えにくいだろう。しかし「はじめに」で見たように、

近年、「若手弁護士が法律扶助の手当を生活の足しに している」との報道が登場し、さらに中国研究者のあ いだでも、こうした現状をふまえて、「若手弁護士に 法律扶助を担当させるのが好ましい」との言説があら われはじめた。たとえば祁(2011)は、若手弁護士に 法律扶助案件を受任させることは社会正義への実現に もつながり、かつ新人弁護士の経験を蓄積できる、と 主張する(祁2011, 166-167)。曹(2011)も実務家の 立場から、法律扶助に参加することが、若手弁護士に とって将来の案件開拓につながる、と肯定的に捉える

(曹2011, 66)。さらに地方レベルの司法部門でも、「法

律扶助は若手弁護士の案件獲得の手段となる」という 言説が散見されるようになった(『武漢江岸司法行政』

2011, 『新安晩報』2011)。

 弁護士のなかでも、「若手」に法律扶助を担当させ るのが好ましいとの言説があらわれたのはなぜか。そ の理由は、とりわけ若手の困窮が深刻で、これを問題 視する研究者と実務家が増えたことが大きい、と理解 してよいだろう。若手弁護士の困窮が世に知られるよ うになったきっかけのひとつは、上海市弁護士協会が 2007年に30歳以下の弁護士49名にたいして実施し た調査であった。同調査の結果からは、51.2%の弁護 士の年収がわずか1〜5万元にとどまっていることが あきらかになった(喬〈整理〉2007, 47)。

(6)

 なぜ弁護士のなかでも「若手」が困窮しやすいのか。

北京の現状を分析した祁(2011)は、その原因として、

中国の弁護士事務所の独特な報酬体系、実習制度、オ ン・ザ・ジョブトレーニング(OJT)の問題をあげて いる。

 報酬体系の問題とは、大部分の弁護士事務所が歩合 給与制を適用していることである8。歩合給与制のも とでは、弁護士は自分が稼いできた収入の一部を、そ れぞれ弁護士と事務所とのあいだでとりきめた歩合に 応じて事務所にさしださなければならない。若手弁護 士の歩合は低く設定されることが多いことから、自身 の手元にのこる実収入はわずかとなる。新人弁護士は 顧客数も少ないため、案件の数を増やすことによって 収入を増やすことも難しい。高額報酬を得られる案件 を集中的に受任するという手も考えられるが、そうし た案件は実務経験の多い弁護士の手に渡るだろう。そ のため新人弁護士は労働案件などの、いわゆる「儲け が悪い」案件を受任せざるを得ない。

 次に実習制度である9。司法試験に通過すると弁護 士資格を取得できるが、これだけでは弁護士業務をお こなうことはできない。「弁護士法10」は、この弁護士 資格を得たのちに、弁護士事務所での実習を連続して 一年間おこなわなくてはならない旨を規定しているか らである(陳2004, 127-129)。だがこの実習期間中の 弁護士にたいする給料の支給が法律で明文化されてい ないため(祁2011, 163)、無給で働く者も少なくない

11。この期間に生活困窮から弁護士になることをあき らめる者さえいるという(祁2011, 163)。

 最後に、事務所内でのOJTの不備である(祁2011, 164-166)。実習を終え、弁護士免許を取得したばかり の新人弁護士は、まだ実務経験の蓄積が十分ではない。

これを補う手段としてはOJTが有効である。しかし 中国では、新人が先輩弁護士からの指導を受ける機会 はあまりない12。一部の大規模な渉外事務所をのぞき、

弁護士は各自で仕事を引き受け、各自で対応するとい う慣習が普遍化しているからである。ひとつの案件に たいして複数の弁護士が協力してとりくむということ もあまりない。

 このように従来から、多くの若手弁護士は、経済的 に困窮しながらも自力で実務経験を積んでいかざるを 得ない状況下にあった。これにくわえて、2000年代 後半以降に沿海大都市で弁護士が供給過剰になったこ とが、若手弁護士のさらなる困窮を招いたと考えられ る。全国でもっとも熾烈な競争が展開されている北京 市の弁護士(専業弁護士)数は、2003年の7,286名 から2010年の2万1,434名へと、7年間で3倍近く 増加した(北京市統計局, 2003-2010年版)。また2004 年から2008年にかけての弁護士(専業弁護士)数の 伸び率は全国では7.1%であったが(中国国家統計局,

2004-2008年版)、北京市だけで見ると18.8%にも達

する(北京市統計局2004-2008年版)。これらのデー タからも、沿海大都市の若手弁護士が、競争の激化に ともなっていっそう顧客を獲得しづらくなったことが 推察される。

 こうしたことから、「若手弁護士は経済的動機から 法律扶助に参入する」 という仮説にはそれなりの説得 力がある。しかし実際に弁護士の声を聞いてみなけれ ば、経済的動機のみが理由である、と断定することは できない。次節以降では、「小小鳥」の事例をとりあ げてこの点を見てみよう。

2 草の根の法律支援ネットワーク   「小小鳥打工互助熱線」

13

 本節では、草の根の法律支援ネットワーク「小小鳥」

の概要と、そこで弁護士が果たす役割について、紹介 する。

2-1 草の根の法律扶助

 本稿が事例にとりあげる小小鳥は、中国政府が推進 する「法律扶助制度」の外で展開される法律扶助であ る。それゆえ「はじめに」でも述べたように、本稿で は「草の根」法律扶助と呼ぶ。ここでは政府による「法 律扶助制度」と、「草の根の法律扶助」との関係につ いて整理しておきたい。

(7)

 中国政府が推進する法律扶助制度は、貧困層の法律 サービスへの需要に対応するために、司法部14の主導 で1994年から整備されてきた。その特徴のひとつは、

法律で弁護士にたいして法律扶助案件の受任を義務づ けていることである。たとえば、1996年施行の「弁 護士法15」第42条は、法律扶助を提供することは弁護 士の義務である旨を規定した。また2003年に国務院 が施行した「法律扶助条例」第6条も、法律扶助の履 行を弁護士の義務だと規定している。

 「法律扶助条例」は、法律扶助は政府の責任である ことを明記し、県レベル以上の政府にたいして積極的 に財政補助をおこなうなどの措置をとることを義務づ けている。当事者は、その地域の法律扶助センターが 掲げる申請条件に適合すれば、無償で弁護士などの法 律専門家から訴訟代理といったサービスを受けられる。

案件の遂行後、弁護士には法律扶助センターからわず かな手当が支払われる。

 法律扶助制度をめぐる近年の重要な動きとしては、

農民工向けの法律扶助制度の拡充があげられる。法律 扶助制度は従来、地元貧困層にたいする法律サービス を地元の政府が保障するべく設計された制度であった。

だが胡錦濤政権は農民工の権益擁護政策のひとつとし て2004年以降、農民工を法律扶助の対象として強化 した。農民工が直面しやすい労働災害、賃金不払いと いった問題については申請条件を緩和し、手続を簡略 化した16

 それでは草の根の法律扶助は法的にはどのように位 置づけられるのか。「法律扶助条例」第8条は、社会 組織が独自の財源を利用して法律扶助を提供すること を奨励している。草の根で法律扶助をおこなう小小鳥 は、法律的にはこの「社会組織」に位置づけられる。

小小鳥のように農民工をおもな被扶助対象として活動 を展開するネットワークは、ほかにも多数存在し、そ のネットワークが掲げる理念にもとづき、多彩な方法 で法律扶助を提供している17

 こうした草の根ネットワークによる法律扶助にたい しての学術界からの評価は、二律背反的である。草の 根の法律扶助が、政府の法律扶助制度を数量的に補完

する役割を果たしうるという側面からは、肯定的に評 価される。しかしそのいっぽうで、草の根レベルで弁 護士資格を保有せずに有償の弁護活動をおこなうヤミ 弁護士が跋扈する可能性があるとの側面からは、否定 的に評価されることもある(姜・孫2008, 岳・屈2007)。

 2-2 小小鳥の法律扶助

 小小鳥は、1999年に河南省出身の元農民工である 魏偉が北京で設立した組織である。農民工が直面した 賃金不払いや労働災害などへの相談に対応し、調停に よって解決を図る。北京のほか、瀋陽、深圳にも事 務所を設置し、2011年には上海にも拠点をかまえた。

2010年時点の専従スタッフは、魏偉をふくめて全体 で14名、北京だけでは4名である。

 小小鳥はみずからをNGOと称しているが、法律上 は企業として登録している18。活動資金はおもに海外 から調達している19。企業登録という法的地位を得る、

海外から資金調達する、という手法は、ほかの農民工 向け支援をおこなうネットワークにもよく見られる。

だが支援対象が農民工という政治的に敏感な存在であ ることから、政府は草の根ネットワークの存在をつね に黙認しているわけではない。政府の体制に真っ向か ら反抗する組織にたいしては閉鎖に追い込むケースも ある20

 しかし小小鳥は2004年に北京市東城区司法局とと もに「小小鳥調停委員会」を設立したことで政府との 協調関係を維持しており、この協調関係が小小鳥の存 続にとって大きな意味をもっている。この調停委員会 の設立は、地方紙『北京晩報』で小小鳥についての記 事を目にした東城区司法局の担当者が、小小鳥を訪問 したことがきっかけであった。小小鳥が海外から資金 調達していたことをあとで知った司法局は小小鳥との 協力関係を見直そうとしたが、北京市政府を交えて検 討した結果、調停委員会を存続させることにしたとい う。このような調停委員会を設置した事例は、ほかの 草の根ネットワークではもちろん、小小鳥の北京以外 の事務所にさえ見られない。このことから公的機関と

(8)

の協力関係の構築がいかに困難であるかが分かるだろ う21

2-3 小小鳥における弁護士の役割

 小小鳥で法律相談や調停をおこなうのは、専従ス タッフと弁護士たちである。小小鳥には2009年時点 で約300名の弁護士が「ボランティア22」として登録 している。2009年時点では、北京事務所だけで約200 名もの弁護士が登録しているという23。こうした弁護 士たちは小小鳥に常勤しているのではなく、民間の弁 護士としての仕事をほかにもちながら、小小鳥の活動 に参加している。魏偉によれば、小小鳥に登録してい る弁護士の年齢層は20〜30代がもっとも多く、農村 出身者が多いという。

 雇用主との交渉にはコミュニケーションにおける忍 耐力が不可欠で、それには専門的な法律知識のみでは 太刀打ちできない。そのため魏偉ら専従スタッフが長 年のあいだに蓄積してきた調停に必要なノウハウを弁 護士に教え込む。小小鳥にもちこまれる案件全体の7 割が電話による調停で、2割が現場での調停で解決さ れるという。調停で解決されずにのこった1割のうち 仲裁や訴訟に移行する案件もある。調停は無料でおこ なわれるが、このように仲裁や訴訟に移行する場合は、

小小鳥に登録している弁護士が個別に対応することに なる。これにたいして弁護士は無報酬で対応すること もあるが、当事者と相談のうえで、正当な報酬や交通 費として当事者から金銭を受けとることもあるという。

 この点について、魏偉は、弁護士に当事者への誠意 があることを認めつつも、「弁護士が小小鳥に参加し てくれる最大の動機は、調停で解決されずにのこった、

全体の1割の案件にあると思う」と述べる。つまり弁 護士と当事者とのあいだで金銭の授受がおこなわれる 余地があることを魏偉自身が承知している。魏偉によ れば、小小鳥は非営利を理念に掲げたネットワークで あるが、じっさいに弁護士を動員するうえでこうした 営利性が弁護士にとっての魅力にもなっている、とい う。このように弁護士と当事者とのあいだで授受され

る金額が全体としてどれほどであるのかを把握するこ とは、筆者にはできなかった。しかし今回聞き取りを おこなった弁護士にかぎっていえば、当事者が貧しい ことに配慮して、交通費分のみを受けとる、市場価格 よりも安く設定した報酬を受けとる(その弁護士の所 属先事務所に一部上納)といったケースが見られた。

当事者に同情してまったく受けとらないという弁護士 もいた。

3 小小鳥への弁護士の参加動機

 本節では、弁護士が小小鳥に参加する動機について 見る。小小鳥に参加するほとんどの弁護士は、自らの 本業を継続しつつ小小鳥の活動に参加している。その ため小小鳥での活動状況を辿るのみならず、かれらの 本業と生活の状況にも注意をはらいたい。以下3−1 では、弁護士の本業と生活の状況を紹介し、3−2で 弁護士の個別の事例から法律扶助への関与を描写して いく。3−3では、調査結果にもとづき考察をおこなう。

 3-1 弁護士のバックグラウンド     ―小小鳥の活動外の状況

 筆者が聞き取りをおこなったのは、小小鳥のスタッ フから紹介を受けた8名の弁護士である(詳細は表1)。

8名の弁護士には20〜30代という若い年齢層に属す るという共通点があるが、このうち4名が実習中の新 人弁護士、のこりの4名が5年以上の実務経験を積ん だ中堅弁護士という差異もある。実務年数が弁護士の 収入を左右するため、わずかな差ではあるがこの年数 の差異に注意をはらわなくてはならない。以下、新人 弁護士、中堅弁護士の2つのグループに分けて、本業 と生活の基本状況を見ていく。なお、ここに登場する 弁護士の名前は、いずれも仮名を採用した。

① 4 名の新人弁護士

 このグループには、柳佳英(1986年河南省S市農 村生まれ、女性)、董菊華(1984年新疆ウィグル自治

(9)

表1:8名の弁護士のキャリア形成と小小鳥への参加時期

(出所:2010年の聞き取りにもとづき筆者作成)

(10)

区U市生まれ、女性)、湯杰凱(1984年河南省N市 農村生まれ、男性)、荘耀平(1983年黒竜江省M市 生まれ、男性)が含まれる。調査時点では、荘のみが 既婚で、ほかの3名は独身、一人暮らしであった。

 柳と湯は農村出身で、両親は農民である。柳は 2007年の大学進学を機に北京に移動した。2009年か ら実習を開始したもっとも若い弁護士である。湯は地 元河南省で大学を卒業後、2007年に単身北京に移動 し、自力でパラリーガルの仕事に就いた。司法試験合 格後、同じ職場で実習弁護士として登録している。湯 の所属先事務所の所長は従来から小小鳥代表の魏偉と コネクションを持っており、小小鳥の支援をおこなっ てきた。そのため湯も小小鳥からの依頼を頻繁に受け ている。

 董と荘は都市部出身である。董は国有企業に勤務す る両親にともない転居を繰り返してきたが、農村での 生活体験はない。董は北京の大学を卒業後、いったん 広州で就職したが、弁護士になりたいと考えたため、

北京に戻って司法試験を受験した。合格後、前掲の湯 と同じ弁護士事務所で実習をおこなっている。董と同 じように、荘にも農村での生活体験はない。地元黒竜 江省の大学を卒業後、大学院受験のために2005年に 北京に移動し、パラリーガルとして働きながら受験に 備えた。2度の大学院受験には失敗したが、2009年に 司法試験に合格した。

 この4名の新人弁護士に共通する特徴のひとつには、

収入の低さがある。とりわけ実習を開始してまもない 時期には、柳、董、湯のいずれも困窮し、実家からの 仕送りを受けていたという24。現在の収入の状況を見 ると、実務年数がもっとも短い柳の月収は約1,500元 である。家賃500元を含む生活費を引くと、わずかし か手元にのこらない。しかし柳よりも実務年数が上の 弁護士を見ると、年数が増えるにつれて収入も高くな ることが分かる。パラリーガル期間を含め2007年か ら実務経験を積んだ湯の月収は5,000元である。董の

月収は3,000元である。

 もうひとつの特徴は、個人の顧客が大部分を占め、

労働紛争、離婚、遺産相続といった雑多な案件を受任

しているということである。董と荘もそういった案件 を受けているが、この2名にはいずれは渉外事務所に 所属し、外国企業を顧客とした案件を専門的に手がけ たいという夢がある。他方、柳と湯は、あまりそういっ た専門性にたいしてはこだわりをもっていない。湯は むしろ今後も積極的に雑多な案件を受けて業務の幅を 広げ、将来的には故郷の河南省に戻って弁護士業をつ づけるつもりだという25

② 4 名の中堅弁護士

 もういっぽうの4名の弁護士は、年齢は30代半ば、

弁護士としても5年以上の実務経験をもつ。小小鳥に おいては中堅弁護士といってよいだろう。ここには、

汪永恒(1977年河南省A市農村生まれ、男性)、趙海 斗(1975年安徽省F市農村生まれ、男性)、黄才発(1978 年江蘇省S市農村生まれ、男性)、巨玉静(1975年内 モンゴル自治区生まれ、女性)がふくまれる。いずれ も既婚で、配偶者と子供がいる。

 このうちほとんどの者が弁護士以外の職務経験を もっている。汪は地元河南省でスーパーマーケットの 法務部に勤務した。その後、法律事務所に勤務したが、

マーケットの大きさに惹かれて2003年に北京に移動 した。趙は地元の短大を卒業後、1998年に北京に移 動、X区の法律サービス員として経験を積んだ。司法 試験合格後、弁護士に転身した。黄は大学進学を機に 1996年に北京に移動した。農村出身とはいうものの、

父親は医者で、本人は北京大学卒というエリートであ る。卒業後は北京市内の鎮政府の司法科で調停業務に 従事した。黄は、汪や趙より若く実務経験も短いが、

常時20〜30件の案件を抱える売れっ子弁護士で、ビ ジネス案件と刑事弁護を専門としている。有名企業の 法律顧問も担当している。おそらく収入も格段に多い。

最後に、唯一の女性で都市部出身者である巨は、1998 年に北京に移動した。2008年に出産してから育児に 専念しているため、現在は仕事をあまり受けていない という。

 中堅弁護士は新人弁護士とは異なり、生活が維持 できるていどの収入を得ている。趙の月収は7,000元、

(11)

汪の月収は1万元だという。

 顧客についても、新人弁護士のように雑多な案件を 受任するのではなく、企業顧問を引き受けたり、専門 性の高いビジネス案件を受任する弁護士がほとんどで ある。地方から出てきた弁護士が、初期から顧客が獲 得できた理由としては、汪のように地元河南省ですで に弁護士としての実務経験を有していたこと、また趙 と黄のように北京で司法業務に従事して人脈を形成し ていたことも大きいだろう。あるいは、黄がそう自己 評価するように、社交的な性格が人脈形成に役立って いる、ということもあろう。

 3-2 ふたつの動機 ―「経済的報酬の     獲得」と「精神的充足感の獲得」

 以上、弁護士のバックグラウンドを見てきた。新人 弁護士が低収入で経済的に不安定であること、それが 柳のようにキャリア形成初期にはとくに顕著であるこ とが分かる。そのいっぽうで、中堅弁護士はすでに十 分に生計が成り立つ収入を得ている。もし参加の理由 として、経済的動機が強いのであれば、新人弁護士が 参加を継続することは理解できるが、中堅弁護士はい ずれ参加を離脱していくことが考えられなくもない。

すでに実務経験も顧客ももっているのだから、わざわ ざ本業の時間を割いて参加する経済的メリットもない からである。だが小小鳥には、すでに顧客をもち、あ るていどの安定収入も得ている中堅弁護士も参加を継 続している。これはなぜなのか。

 以下では個別の弁護士の発言にそくして、「経済的 報酬の獲得」と「精神的充足感の獲得」というふたつ 動機を見ていく。弁護士の発言を引用した部分には、

引用文の末尾に調査対象と調査日を(  )内に示し た。また、発言内における[  ]は筆者による補足、

(  )は筆者の説明である。筆者の発言(質問)には、

文の直前に「 ― 」を付した。

①経済的報酬の獲得

 まず、「経済的報酬の獲得」という動機が、弁護士

自身から明確に語られた。1−2でも見てきたように、

新人弁護士にとってはこれが主要な動機のひとつと なっていることは、容易に予測できた。しかしそのいっ ぽうで、こうした新人弁護士だけではなく、安定収入 を得ている中堅弁護士からも、経済的報酬の獲得が動 機としてあることが語られた。

<実務経験の蓄積>

 董(新人弁護士)は、農村での生活経験はない。農 村文化への理解もあまりないという。小小鳥への参加 の契機も、けっして自発的なものではなかった。彼女 は所属先事務所の主任が魏偉の知人であったため、そ の手伝いを命じられて参加しはじめた。しかし現在は 主任から指示された業務日以外にも、自発的に、小小 鳥の活動に頻繁に参加するようになったという。その 最大の目的のひとつは、実務経験の蓄積にある、と彼 女はいう。国際貿易案件を手掛けたいという夢をもつ 彼女にとっては、小小鳥での実務経験の蓄積が、キャ リアの形成に大きな意味をもつ、という。

―あなたは公益活動に興味があるのですか、それと も農民工にも興味があるのですか?

 「私は、正直言って、農民工にはそれほど興味 はありません。私は(中略)当事者には興味はあ りません。私は興味があるのは、案件それじたい です」(2010年3月16日、董菊華)

―[今手がけている]案件それじたいと、あなたの 理想…つまり韓国26だとか、国際貿易案件だとか とのあいだには、大きなちがいがありますよね。

  「ぜんぜんちがいますよ!でも私はこれで生活 しています。今やっている仕事で生活しているわ けですからね。だから私にできるのは、今自分の 手元にあることをしっかりやることだけ。そうす ることでしっかりキャリアを伸ばしていけるのだ と思います」(2010年3月16日、董菊華)

―小小鳥での経験は、あなたの将来のキャリアに役

(12)

立つことはありますか?

 「あります。なぜなら、人は一気に高みに達す ることはできないものだと思っているからです。

人は、階段をのぼるように、下から一歩ずつ高い ところへと登っていくしかできないのです。だか ら、私はここ数年間の経験は、まだ階段の低いと ころなのだと思います。(中略)[国際貿易案件の 顧客は]高レベルの顧客です。私がいつも接して いるのは、こういう人たち(農民工)なのです。(中 略)もしかしたら一生こういうことをすることに なるかもしれません。それも分かりません。で も、将来は高いレベルの顧客を相手にして、国際 貿易っていう高いレベルの業務をやりたいと思っ ています。今やっている仕事は国際貿易案件とは まったく関係ありませんが、それでもこれは基礎 なのだと思っています。ゆっくり[基礎を]固め ているところなのです」(2010年3月16日、董 菊華)

 董は農民工への同情もあるとは述べていたものの、

董にとって、小小鳥で接する農民工の案件は、「レベ ルが低い」案件であり、そういった案件は「階段の低 い」ところにいる弁護士が担うものだ、と述べる。董 の理想は国際貿易案件に携わることであり、そうした 案件は「階段の高い」ところにある。董にとっての小 小鳥への参加は、その高みに達するための布石として 位置づけられている。

<知名度の上昇>

 いっぽう中堅弁護士にも、「経済的報酬の獲得」が 動機として存在することが語られた。高収入を得てい ると思われる黄(中堅弁護士)は、農民工への同情を 直接の動機としてあげながらも、自身の知名度の上昇 も動機のひとつとしてあげている。黄は2005年以降、

マスメディアに報道される機会が増え、顧客が増えつ づけている。黄は、全国各地に頻繁に出張するなど多 忙をきわめているが、その合間をぬって、小小鳥の活 動に積極的かつ継続的に参加している。彼はその活動

の過程で現場に赴くさい、地元紙の記者を連れていく ことも少なくない。そうした報道によって、潜在的な 顧客を獲得することが可能であるという。

 「ある当事者がね、[最初は]人の紹介でおれの ことを知ったみたいなんだけど。その[依頼の]

前におれのことを知りたかったみたい。インター ネットで弁護士を検索したらね…これは実話なん だけどね…おれ[の記事]を見つけて…当事者は インターネットのやりかたが分からないから、[実 際に]調べたのは当事者の子供だったんだけどね

…その子供が両親にね、つまり当事者にね、『黄 弁護士なら大丈夫だ』って言ったんだって。『こ の弁護士なら大丈夫。だって、メディアのインタ ビューまで受けてるし、公益[活動]をやってい るから』って言ったんだって。こういうことが、

弁護士にたいする社会的認可を高めてくれるわけ。

これはやっぱり[顧客を獲得するうえで]役立つ よ。おれはそう思う。実際におれはこういう状況 に直面したことがあった。[ある当事者が]『お願 いしよう、この弁護士はよさそう。かれは公益やっ てるし、とても熱心に弱者を助けてるから』って

[依頼してくれた]。[公益活動をおこなっている と]弁護士のイメージはよくなるよね」(2010年 3月22日、黄才発)

②精神的充足感の獲得

 以下では、もうひとつの動機である「精神的充足感 の獲得」を見ていく。注目されるのは、経済的に安定 した中堅弁護士のみならず、経済的に困窮した新人弁 護士にも、「精神的充足感の獲得」が動機として強く あったことである。具体的な事例を見ていこう。

<農村体験、農民工への共感>

 農村で生まれ育った弁護士からは、農民工への共感 が動機として語られることが多い。典型例のひとつと して、趙(中堅弁護士)の発言をあげる。

(13)

 「[小小鳥に参加しようと思ったのは]実際のと ころ、私が農村出身だからです。私は農村の基本 的な情況を理解しています。以前そこ(農村)で 何年も生活していました。ですから、農民には出 稼ぎが多いということも知っていました。(中略)

だから、かれらが故郷を離れて出稼ぎに出て、そ れで一年間ほど苦労して働いて、それでも賃金を 受けとれない。これはあまりにも悲惨だと思いま す。そうでしょう?(中略)[小小鳥への参加は]

素朴な意識を追求したところから、ですね。もし 能力があるならかれらを助けたいと思ったので す。[参加]当時はこのように思いました。それ に、かれらのようなこういう組織(小小鳥)をつ うじてできるだけ自分の力をかれらのために役立 てたいと思ったのです。最初はこういうものでし た」(2010年3月22日、趙海斗)

 趙と同じく農村出身の柳(新人弁護士)は、支援の 提供はあくまでも相互扶助だと語る。以下の柳の発言 からは、彼女自身が、支援対象である農民工と同じ地 平に立っていると認識していることがうかがえる。

 「[私が共感している小小鳥の理念のひとつ]は、

相互扶助の理念です。北京にはたくさんの出稼ぎ 者がいます。故郷から出てきて外で出稼ぎをして いる、という人たちです。自分がよりよい生活が できるように、あるいは家族のために[かれらは 出稼ぎをするの]でしょう。それで、[私は]か れらとお互いに助け合うことができる [と思うの です]。もし私がいつか困難に直面したら、かれ らが助けてくれるだろうという、そういうもので す」(2010年3月19日、柳佳英)

 「…結局北京で出稼ぎすることはとても大変な ことだと思います。私は弁護士ですが[それと同 時に]出稼ぎ者でもあるのです。でも出稼ぎ者の ためにサービス提供できるなら、それはとてもう れしいことです」(2010年3月19日、柳佳英)

 柳は故郷で、出稼ぎに出て苦労する農民たちを間近 で見ていた。彼女の家族や親類が実際に賃金未払いな どに遭ったことはないが、帰省するたびにそういった 農民の状況を実際に見聞きしてきたという。柳は「雇 用主には本当に理不尽なことをされるから腹立たし い」と述べ、次のように言う。

「私は、[支援対象である]出稼ぎ者を普通の出稼 ぎ者だとは見なしません。私はかれらを自分の想 像のなかで、自分の隣人だとかに見立てるのです。

そうすることで、かれらの意識をより高める手助 けをできるのではないかと思っています」(2010 年3月19日、柳佳英)

 いっぽう都会出身の弁護士も、農村出身の弁護士と 同様に、農民への同情を参加動機としてあげる。荘(新 人弁護士)もそのような動機をもっている。ただ、柳 が農民工を「自分の隣人に見立て」ようとしているの とは異なり、農民工は「支援されるべき対象」だと認 識している。荘からは以下のように、弁護士としての 自負や責任感が語られる。

 「農民工は全体的にいって文化水準が高くあり ません。法律[知識]の基礎と意識がかなり悪い のです。そして、専門性のある人(弁護士)が、

かれらのために法律支援を提供することが必要で す」(2010年9月2日、荘耀平)

<プレッシャーからの解放、スタッフとの仲間意識>

 聞き取りからは、農民工への共感とは異なる動機も 確認できた。たとえば小小鳥とのスタッフとの交流か ら得られる、「精神的充足感」がある。柳(新人弁護士)

は、小小鳥が非営利を理念として掲げていることに強 い共感を寄せている。その背後には、「利益に目がく らんだ」弁護士への反感があるという。

 「それに弁護士事務所っていうところは…私は もともとこういうふうに思っていたんですけれど

(14)

…弁護士事務所に長いこといると、あなたにも分 かるでしょうが、そこに長いこといると、きっと 人から利益に目がくらんでいると思われてしまう。

それが怖いんです」

―利益に目がくらんでいる?

 「そうです。弁護士事務所は利益を重んじると ころでしょう?利益だけが大きい。(中略)だから、

兼職というか、もうひとつ[弁護士事務所とは]

(中略)別の仕事を探して…利益から離れられる ような仕事がほしかったのです」(2010年3月19 日、柳佳英)

 このように柳は、彼女自身が弁護士事務所に所属し ていることで「人から利益に目がくらんでいる」と思 われているのではないか、という不安を抱えている。

そうした不安を抱えて日々仕事をすることからもたら される、精神的プレッシャーも大きいという。小小鳥 でのスタッフとの交流は、柳にとって、そのようなプ レッシャーを緩和する役割も果たしていると、柳はい う。

 「ここ(小小鳥)で仕事をすると…ここに来る のは土日なんですけれど、一日か二日[小小鳥で]

仕事をすると、本当に気分がよくなるのです。プ レッシャーが少なくなるように感じます。平日に もときどきここにやってきくるのですが、ここで スタッフ一人ひとりや、何人かの先輩(仲間)に 会うと(中略)本当にプレッシャーがなくなるん です。心が軽くなるんです」(2010年3月19日、

柳佳英)

<子孫のために徳を積む>

 3−2−①で見たように董は、「経済的報酬の獲得(実 務経験の蓄積)」を動機としてあげていたが、そのこ とについて彼女自身が後ろめたさや恥ずかしさを語る ことはほとんどなかった。すくなくとも、筆者の前で 彼女はそのような言葉を発しなかった。むしろ董の 口からは、「自分は『善いこと』をしている」という、

肯定的な言葉が発せられた。

 この董による「善いこと」との自己評価は、「結局 これは当事者の心情を無視した弁護士の自己満足では ないか」といった印象を、読者に与えてしまうかもし れない。そうした面が完全にないとは、もちろん筆者 にはいえない。しかしすくなくとも、ここで董がいう

「善いこと」は、当事者である農民工や小小鳥スタッ フにたいしてなんらかの謝意を要求するといった、押 しつけがましさを顕わにするような文脈で語られたの ではなかった。董がいう「善いこと」は、以下のよう に「徳を積む」という文脈で語られた。

 「…私は善いことを多くおこないたいと思って います。じぶんの子孫にちょっとした福をのこし たいからです」

―そのような考えをおもちなのですね。

 「はい。私は前世と因果応報を信じています。

私はこれらのものを信じています。(中略)私は 善いことを多くしたいと思います。徳を積んで、

子孫末裔に善いものを残したいのです」(2010年 3月16日、董菊華)

③参加中止の理由

 これまで参加継続の動機を見てきたが、今回聞き取 りをおこなった弁護士のなかには、現時点で参加をと りやめた弁護士が2名いる。また、実際に参加をとり やめたわけではないが、参加を中止する条件を明確に 述べた弁護士も少なくない。弁護士自身が保有してい る時間などの資源をどれほどさしだして活動に参加し うるのかを見るため、これらの理由についても触れて おきたい。

 まず、実際に参加を中止した弁護士の1名は、巨弁 護士である。育児の必要から、家庭生活に支障が出ぬ よう参加をとりやめた事例であった。

 もう1名実際に参加をとりやめたのは、趙弁護士で ある。趙は3−2−②の冒頭であげたように、農民工 への共感から参加していたが、小小鳥の活動を離脱し た。2009年12月以降は、北京市S区の公的機関が設

(15)

立した労働紛争調停委員会の当番弁護士として活動し ている。趙自身は、こうした公的機関がおこなう法律 扶助は、人材や財源の面での優位性があるので社会に とっても有意義であるし、より大きな影響力をもった 社会貢献ができる、と考えているという。このように、

草の根から公的機関へと活動拠点を移した趙の足跡だ けを見れば、「体制側にすりよっていった」と、否定 的な評価をくだすことも可能ではある。しかし趙自身 にとっては、「体制寄りか否か」という問題はなんら 重要ではない。むしろ彼自身が重要だと考えているの は、当事者にとってよりよい社会貢献をすることなの である。趙の選択の背後にそうした弁護士としての主 体性があることも、見逃してはならないだろう。

 また実際に参加をとりやめてはいないが、本業が忙 しくなったら参加しない、と述べる弁護士もいる。た とえば湯(新人弁護士)は、活動参加について、「[小 小鳥以外の]仕事量によって調整します。(中略)な ぜなら当事者(農民工)にたいして責任を負わなけれ ばなりませんから。時間がなければ、案件を代理して も、しっかりやることはできません」(2010年9月3日、

湯杰凱)と述べる27

 また、余暇を割いてまで参加をすることはない、と 述べた弁護士も多い。実際に参加の中止はしていない が、週末は妻子と過ごすという汪(中堅弁護士)に とっては、「弁護士がたくさん登録しているから、時 間があれば参加する」という参加スタイルが、魅力の ひとつとなっているという。いっぽう新人弁護士にも 同様の傾向が強く見られた。董は週末に友人と過ごす 時間や読書の時間を大切にしており、こうした余暇を 割いてまで、参加を継続するつもりはないと述べてい た。新人弁護士には経済的報酬の獲得という動機は強 いものの、だからといって自身の余暇を犠牲にしてま では参加しない、というスタンスがうかがえる。

 3-3 考察 ―新人・中堅弁護士、双方に     見られたふたつの動機

 聞き取りから明らかになったことを整理してみよう。

 第一に、小小鳥の参加者は20〜30代の若い弁護士 が中心ではある。しかし若手とひとくくりにいっても、

細かく見れば実務年数にちがいがあり、この年数差が 収入差をもたらしている。経済的に困窮した新人弁護 士だけではなく、経済基盤が安定した中堅弁護士まで もが、幅広く参加していることが、あきらかとなった。

 第二に、動機を「経済的報酬の獲得」と「精神的充 足感の獲得」に分けて見た場合、これらふたつの動 機が、新人弁護士と中堅弁護士のいずれにも見られ た。収入が十分でない新人弁護士4名にとっては、現 在は実務経験の蓄積が不可欠な時期である。それゆえ 参加の動機に「経済的報酬の獲得」が強く見られるの は、容易に予測できた。しかし動機はそれだけではな かった。ここで見逃せないのは、柳の発言に見られた ように、新人弁護士にも、農民工への共感に端を発し て支援をおこなうことによって得られる「精神的充足 感」、あるいは、スタッフとの仲間意識から得られる「精 神的充足感」を獲得することも、動機として強く存在 したことである。

 他方、すでに安定的収入を得た中堅弁護士にも、「精 神的充足感の獲得」とならんで「経済的報酬の獲得」

が動機として見られたことも注目される。たとえば黄 のように、本業だけで十分に生活がなりたつ中堅弁護 士でも、さらなる知名度上昇のためという「経済的報 酬の獲得」を動機としてあげる者もいた。

 第三に、弁護士がどこまで自分自身の資源をさしだ して参加を継続しうるか、という点である。ほとんど の弁護士が、あくまでも余暇の一部を利用することが 参加の前提だと捉えている。本業や家庭生活の現状が 変化すれば、活動からは遠のくこともある。逆に余暇 をすべて犠牲にするていどまで参加を継続する強い積 極性は、新人弁護士にも中堅弁護士にも見られない。

まして、本業で最低限の生活費を稼いで法律扶助に労 力の大部分を注ぐ、ということもない。

むすび

 本稿では、北京の出稼ぎ者向け法律支援ネットワー

(16)

ク「小小鳥打工互助熱戦」の事例をとりあげ、そこで 活動をおこなう弁護士8名への聞き取りにもとづき、

なぜ若手弁護士が草の根の法律扶助に参加するのかを 考察した。

 現在の中国では、実務経験の乏しい若手弁護士が、

弁護士急増を要因とした熾烈な競争に直面し、経済的 困窮に陥っている。こうしたなかで、従来は弁護士に とって「割に合わない」と考えられていた法律扶助案 件を、若手弁護士が積極的に受任しはじめた、という あらたな現象が生じている。いっぽう研究者や実務家 のあいだでは「若手弁護士に法律扶助案件を担わせる ことが好ましい」との言説が広がりを見せている。そ の理由のひとつは、実務経験を積むことで若手弁護士 の困窮を解消できる、との論拠による。こうしたこと から一見すると、若手弁護士は経済的動機から、法律 扶助案件を受任する傾向が強まった、と捉えられてい るように見受けられる。

 しかし本稿では、実務経験の蓄積といった「経済的 報酬の獲得」だけではなく、弁護士自身が「精神的充 足感」を得るためとの動機も、参加を継続する動機と して強くあることが理解できた。注目すべきは、経済 的に困窮した新人弁護士と、十分な収入を得ている中 堅弁護士の2つのグループに、これら「経済的報酬の 獲得」と「精神的充足感の獲得」という2種類の動機 が見られたことであった。

 本稿でとりあげた新人弁護士も経済的に困窮した状 態にあることから、参加動機に「経済的報酬の獲得」

があることは、容易に予測できた。実際、そうした動 機は強く存在した。しかし新人弁護士の動機には「経 済的報酬の獲得」だけではなく、同時に「精神的充足 感の獲得」も強く見られたことは、重要な発見であっ た。この結果は、弁護士は、かならずしも、自分自 身が置かれている経済的境遇への「不満」(Michelson and Liu 2010)に突き動かされて参加するのではない、

ということを示唆しているからである。

 経済的動機だけによって参加するのであれば、十分 な安定した収入を得られるようになれば弁護士は活動 を離脱するはずである。しかし小小鳥には、5年以上

の実務経験をもち安定的な収入を得た中堅弁護士も、

参加を継続していた。その動機のひとつは、「精神的 充足感の獲得」にあった。自分自身の経済的基盤が満 たされたからといって、弁護士は活動を離脱するとは かぎらない。しかしそのいっぽうで、「経済的報酬の 獲得」(たとえば黄のいう知名度の上昇)も、参加継 続の動機として作用していることも、同じように重要 な事実であった。

 何らかの「不満」から発せられた支援は、その不満 が解消されれば、その支援は持続しない可能性が高い。

1−1で見たMichelson and Liu(2010)の指摘からも、

そう予測できる。しかし、やむにやまれずほとばしり 出てくる内発的善意から発した支援であればもちろん のこと、もし何らかの不満に端を発した支援であって もそこに「精神的充足感」を求めて参加する動機も強 くあるならば、たとえその不満が解消されたとしても、

支援じたいは継続していくだろう。たとえば本稿で見 てきたような「精神的充足感」は、「不満」が解消さ れればなくなってしまうのとは対照的に、満たされて なくなってしまうものではない。「精神的充足感の獲 得」という動機こそが、支援の長期的持続を可能にす る原動力のひとつであるように筆者には思われる。ま たそこに「経済的報酬の獲得」という動機の存在を同 時に認めて幅をもたせることで、小小鳥は大量の弁護 士の動員を可能にしたと考えられる。これは支援の広 がりと継続という面で肯定的に捉えることができるだ ろう。

 弁護士はしばしば、現状にたいする異議申し立てを おこなう、「対抗する」弁護士として―中国の場合は とりわけ民主化や政治改革を要求すべく現体制に「対 抗する」弁護士として―捉えられる。しかし本稿で描 写してきた「精神的充足感」を得る弁護士像というの は、こうした「対抗する」弁護士像とは大きく異なる。

支援をつうじて「精神的充足感」を得る弁護士は、従 来の「対抗する」弁護士像の型にあてはめられてしま うとき、その姿は頼りなく、消極的で、体制側にすり よっている、とすら見なされてしまうかもしれない。

しかし「精神的充足感の獲得」を動機とする弁護士は、

表 1:8 名の弁護士のキャリア形成と小小鳥への参加時期

参照

関連したドキュメント

This is a joint exhibition with KAKENHI Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area) “Rice Farming and Chinese

 Following some incidents of abuse of power, including allegations of custodial death, inhuman treatment 35 and torture 36 , Bangladesh Legal Aid and Services Trust (BLAST),

ベクトル計算と解析幾何 移動,移動の加法 移動と実数との乗法 ベクトル空間の概念 平面における基底と座標系

Our guiding philosophy will now be to prove refined Kato inequalities for sections lying in the kernels of natural first-order elliptic operators on E, with the constants given in

In addition, we prove a (quasi-compact) base change theorem for rigid etale cohomology and a comparison theorem comparing rigid and algebraic etale cohomology of algebraic

これに対し,わが国における会社法規部の歴史は,社内弁護士抜きの歴史

区の歳出の推移をみると、人件費、公債費が減少しているのに対し、扶助費が増加しています。扶助費

社内弁護士の会社内部の立場と役割, 社内弁護 士の外的役割』