• 検索結果がありません。

合衆国北部における農場経営の均質性と差異性―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "合衆国北部における農場経営の均質性と差異性―"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

合衆国北部における農場経営の均質性と差異性―

1860年の耕地規模と資産規模を中心に―

著者 角井 正幸

雑誌名 經濟學論叢

巻 57

号 1

ページ 17‑38

発行年 2005‑07‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007600

(2)

【論 説】

合衆国北部における農場経営の均質性と差異性

―1860年の耕地規模と資産規模を中心に―

角 井 正 幸

1

は じ め に

近年,合衆国における経済史分析において,格差の問題を取り扱う研究が進 んでいる.合衆国は経済格差の拡大に対して寛容な社会であると言われている.

とくに,1970 年以降の合衆国では貧困率の上昇が顕著である1).そのような背 景の中で,計量経済史分析の問題意識が現在の経済問題を歴史的観点から考察 するために行われるべきであるという方向に変化してきたことから(Goldin, 1997, pp. 396-397. およびHeckman, 1997, p. 405),経済格差についての分析が活性化 したと考えられる.このような経済格差に関する研究の成果として,合衆国に

おいて 19 世紀が経済格差拡大期であることが明らかにされた(Williamson and

Lindert, 1980, Chapter 3,およびウィリアムソン,2003,pp. 13-14).19 世紀の合衆国 の経済格差拡大に関しては,経済発展過程における「クズネッツの逆U 字仮 説」の前半期であるという見解(ウィリアムソン, 2003, pp. 25-28)や,とくに格差 是正を目指した政策が見られず(上坂,1993,pp. 124-126),1870 年代以降に関 しては社会ダーウィニズムの隆盛によって格差是正が非効率的であり,不必要 なものであるとの認識が普及したこと(有賀,2002,p. 21)を要因とする見解が 一般的であろう.

1)南他編(2000)p. 190,図8-3.近年の状況に関しては,1990 年代の好況を反映して一時貧困率

が低下したが,2001 年の貧困線以下人口比率は11.7%(朝日新聞,2002 年10 月3 日付),2003 年 には12.5%(日本経済新聞,2004 年11 月6 日付)に上昇した.

(3)

しかし,これらの分析は,工業化の進展するこの時期に関して農工間の格差 を中心に取り扱っている.その一方で,西漸運動によってフロンティアが前進 し,西部開拓が進展していた農業部門に関しては背景となる事情が異なる.タ ーナーがフロンティア学説においてフロンティアを民主主義実践の場と認識し,

フロンティア地域において各人が平等な一票を有する普通選挙がいち早く取り 入れられたことを指摘したことは周知の通りである(Turner, 1920, p. 293).この ような社会的側面に限らず,公有地分配政策の変遷が重要な意味を有している.

合衆国における公有地分配法の変遷については,以前,若干の敷衍を行ったの で詳細を省略するが(角井,2001,pp. 26-27),最低販売価格,販売方法,最小分 割規模の変遷をたどれば,より多くの入植者により安く公有地を分配する方向 へと変更してきたことは明らかであろう.最低販売価格に関してみれば,1 エ ーカーあたり1 ドルで始まった公有地分配は,1862 年のホームステッド法にお いて最終的に無償供与となった.また,販売方法に関しては,入札(public auc-

tion)による販売を基本としていたが,1841 年の将来的先買権法において1 エ

ーカーあたり1.25 ドルでの優先的販売が認められるに至った.さらに,最小分 割規模に関しては,建国直後の北西部条例において640 エーカーと定められて いたが,1862 年のホームステッド法では,その1/4 の規模である160 エーカ ーに縮小された.これは,現実の入植者を優遇し,農業生産の拡大を通じて国 富の増大を目指したトマス・ジェファソンに代表される反連邦主義者の主張が 採用された結果である.

しかしながら,農業部門における格差について分析することには一定の制限 が存在する.一般に農家の経済格差を捉えるとき,所得(収益)格差,資産格 差,経営規模格差が考えられるが,農家の所得に関する情報は入手困難であり,

農家の収益の推計には様々な前提条件を課す必要がある2).そこで本稿において は,公有地分配政策の意義に鑑み,農場の経営規模格差と資産格差を中心に議

2)Bateman and Atack(1979)において西部地域農業の収益率についての分析が行われているが,価 格データに関する出所が不明である.

(4)

論を進めていく.

広大な領土を有し,独立自営農民(自作)の大量創出を目的とした公有地分 配法を整備してきた合衆国においては,小作の存在が注目されてこなかった.

反連邦主義者の主張に自営農民の創出が含まれていたのは,小作が非効率的で 生産性の劣る存在であるとする,いわゆる「マーシャルの非効率性」が信じら れており,ヨーロッパで見られたような地主・小作関係という階級差を持たな い社会の建設が目指されたためである.その結果,合衆国には自営農民を中心 とする均質的な農村社会が存在し,社会階層の分離が存在していなかったと認 識されてきた.この観点から,北部地域において大量生産される標準的商品の 市場が存在し,工業部門の発展にも大きな役割を担ったという経済的意義が導 き出されるという点において注目に値する(岡田,2000,pp. 100-101).

その一方で,周知の通り,1880 年のセンサスにおいて初めて経営形態につい ての調査が行われた結果,中西部においても20%程度の小作が存在することが 明らかとなった(岡田,1963,p. 29).以前,農業階梯論に関する簡単な展望を 行ったが(角井,2002,pp. 76-77),そこに共通してみられるのは小作が自作の下 位に位置するという考え方である.一般的な農業階梯論を批判することを主眼 としたゲイツでさえも,小作が自作の下位に位置するという構造は否定してい ない.なぜなら,彼の議論は,自作になったとしても農場開設の際に多額の借 入金を抱えることとなり,ひとたび不作に見舞われれば担保である農場を手放 さざるを得ず,小作に「転落」する者が後を絶たなかったとしているからであ る.実際,ヨーロッパで土地を持つことができなかった移民たちにとって,自 営農民となることが夢であり,社会的なステイタス・シンボルであり,アメリ カン・ドリームの典型として描かれていた.したがって,小作にとどまるより も自作になることがより好まれたことは否定できないであろう.さらに,全体 として小作の平均耕地面積が,自作や自小作に対して有意に小さいことも実証 可能である(角井,2001,p. 40).

そこで本稿においては,19 世紀合衆国の農村社会における同質性,もしくは

(5)

差異性について分析することを目的とする.これは,合衆国特有の公有地分配 法の意味を考える上でも大きな意義を有していると考えられる.そのために注 目するのは,経営形態の違いによって農場経営の規模に差が生じていたか否か についてであり,実際の耕作に用いている耕地面積を対象として分析を進める.

本稿は,以上の問題意識のもとに,以下の通りに構成される.第2 章では,

分析の前段階として,経営形態の分割方法について示した上で,分析の対象と する標本の抽出を行う.第3 章では,経営形態別の平均不動産所有額,平均耕 地面積を導出し,自作を基準としたときに,他の経営形態との差が生じている か否かについての検定を行う.また,西部における小作の意味についても考察 を行っている.最後の第4 章は,結果のまとめである.

2

経営形態の分割と分布

2. 1 経営形態の分割

今回取り上げるデータは,ベイトマンとフォウストが1973 年に作成した

「1860 年北部農村家計の農業及び人口記録」である3).1860 年センサスから抽 出したこのデータセットに関しては,角井(2001)において詳細を表したので省 略するが,先述の通り,センサスにおいて経営形態が調査されるようになった

のは1880 年が最初であり,このセンサスにはそのような記載が存在しない.し

たがって,本稿の目的のためには利用可能なデータから経営形態を分割する作 業が必要となる.この作業に関しては,アタックとベイトマンが試みている4). その方法は,農業センサスにおいて「家計の農業的地位(agricultural status of the

household)」が「農家家計(farming household)」となっている家計を,次のよう

3)本データはICPSR に所蔵されている(No. 7420).本データの利用に関して,同志社大学アメリ

カ研究所の協力を受けた.

4)Atack and Bateman(1987)第7 章.この他に,折原(1999)pp. 131-134において,ゲイツ,ボ ウグ,カーティーが行った小作の検出方法に関する詳細が示されている.その結論としては,「……

小作農とは農業センサスにおいて農場経営者(カーティーの農民についての三条件を満たしている こと)として報告されている者で,かつ人口センサスにおいて不動産を所有していない者というこ とができる」と規定していることから,少なくとも小作に関してはAtack and Bateman の分析方法 と相違がない.

(6)

に3 者に分割するものである.

小 作:不動産所有額=0 かつ 経営面積(総土地面積)>0 自 作:不動産所有額>0 かつ 不動産所有額≧経営農場価値額 自小作:不動産所有額>0 かつ 不動産所有額<経営農場価値額 これはセンサスにおける調査が,農場に関しては経営を基礎として記載され,

資産に関しては所有を基礎にして記載されるという特徴を利用したものである

(角井,2001,pp. 35-36).しかし,「農家家計」とされている家計には,経営面

積=0 の家計が存在する.経営面積=0 の家計は,不動産所有額=0 の場合は

この分割方法によって標本から除外される.また,不動産所有額>0 の場合は 自作もしくは自小作に分類されるが,この範疇においても経営面積=0 となる 家計の意味について考える必要がある5)

そこで,本稿では,すべての「農家家計」がいずれかの範疇に入る経営形態 の分割方法を採用することとした.その方法は以下の通りである.

まず,不動産所有額=0 の場合,少なくとも土地を所有していないのである から,小作もしくは農業労働者に分類されるべきであろう.そこで,土地を所 有していないにもかかわらず農場を経営している(経営面積が正である)場合を小 作,経営している農場がない(経営面積=0 である)場合を農業労働者とした6)

5)実際のデータでは,自小作に分類される農家家計に経営面積=0 の家計は存在しなかったので,

すべて自作に含まれている.

6)人口センサスの職業欄には農業労働者という項目がないので,この分類における農業労働者が正 確に農業労働者を表しているか否かについては判断ができない.そこで,この分類で農業労働者と

なった189 戸の職業を付表 1 にまとめた.その結果,およそ68%が農民,4%が労働者と記載して

いることがわかった.したがって,ここで農業労働者と分類された7 割が実際に農業労働者である 可能性がある.

経営形態  不動産所有額 

0  0 

+(=農場経営価値額) 

+(=農場経営価値額) 

+(>農場経営価値額) 

+(<農場経営価値額) 

経営面積  小作 

農業労働者  自作  地主  手作地主  自小作 

+  0 

+  0 

+ 

+  第 1 表 経営形態の分割方法 

(7)

ただし,この農業労働者という分類に関しては若干の考慮が必要である.なぜ なら,入植直後で経営している農場を手に入れていないなどの理由によって,

この年に農場経営を行っていない農家家計が存在していたことを否定できない からである.本データからは,このような農家と農業労働者家計とは分割でき ないが,後述するようにここに分類される家計は非常に少なく,分析から省く ことにする.

次に,アタックとベイトマンの分類において自作に含まれていた農家家計を,

不動産所有額が経営している農場価値額に一致する家計と,一致しない(不動 産所有額が農場経営価値額を上回る)家計とに分割した.前者に関しては,経営面 積=0 が,不動産(土地)を所有しているにもかかわらず,自らが経営してい る農場が存在しないことを意味していることから地主とした7).また,それ以外 の家計(経営面積>0)を「純粋な」自作とした(以下,自作と表記).自作は,

自らが所有する不動産がまさに自ら経営している農場となっている家計を指し ている.

さらに,後者である不動産所有額が農場経営価値額を上回っている家計を手 作地主とした.ここに分類される家計は,経営している農場が所有している不 動産よりも小さいことから,その差にあたる部分を他に貸し出している存在で あると考えられる.したがって,所有している不動産の一部を自らが経営する 自作としての部分と,残りの部分を貸し出し,地主となっている部分の双方の 特徴を有する.

最後に,自小作は,経営している農場の規模(農場経営価値額)が,自ら所有

7)農業労働者の場合と同様に,この分類で地主とされた34 戸の職業を付表 2 にまとめた.その結

果,半数以上が農民となっている.その一方で,人口センサスの職業欄に地主(land load)と記載さ れている家計が12 戸存在する.これらのうち半数の6 戸が家計の農業的地位が非農業(non-farming household)となっており,これらが地主に含まれなければならない.

なお,付表 3 に示すとおり,第1 表の分類で地主となり,職業欄に地主と記載されている家計は

1 戸のみであり,残りの5 戸に関しては,手作地主が3 戸,自小作が1 戸,自作が1 戸となってい

る.したがって,本稿の分割で用いた地主はそれほど的確でない可能性がある.しかし,農業労働 者の場合と同様に地主の割合は小さく,分析から省くことにする.

(8)

している不動産額を上回っていることから,一部の土地を借りて農場経営を行 っている存在であると考えられるので自小作といってよいであろう.

2. 2 経営形態別の分布

本データは,合衆国北部の20 州(実際に抽出された標本は16州に分布)に含まれる 102 タウンシップ(東部:29 タウンシップ,西部:73タウンシップ)を対象としている8). そして標本は,これら102 タウンシップに含まれる全家計であり,標本総数は21,118 戸,そのうち「農家家計」となっているのが11,940 戸である.

「農家家計」11,940 戸を,上で述べた方法によって分割した経営形態別の戸 数を第 2  表に,その戸数の割合を第 3  表に示した.第3 表を中心に考察する と,もっとも多い経営形態が自作であることは明らかである.自作は,西部で

約6 割,東部で約7 割に達する.東部よりも西部の自作が約1 割少なくなって

いるのは,ほぼ手作地主と小作が西部において多いことによって説明される.

これは,おそらく開拓途上の地域を含む西部の方が,土地貸借を通じた農場経 営が盛んであったことに起因すると思われるが,その点についての詳細の分析 は本稿では扱わないことにする.ここで注目したいのは,地主と農業労働者の 割合の低さである.この分類においては,土地の貸し出し側が地主と手作地主,

貸し出された土地を利用するのは自小作,小作,農業労働者である.貸し出し 側において地主の割合は小さく,土地の貸し出しが手作地主を中心に行われて いたと判断できる9).そして,貸し出された土地を農業労働者が利用したのでは

8)このタウンシップ数の割合は,当時の総タウンシップ数から導き出されたものであり(Bateman

and Foust, 1974),本データは合衆国北部における東部と西部を代表している.したがって,本稿に

おける今後の分析において東部と西部を分割していることは本データの特徴から妥当である.

ここでいう東部とは,ニューハンプシャー州,バーモント州,コネティカット州,ニューヨーク 州,ペンシルヴェニア州,ニュージャージー州,メリーランド州であり,西部とは,オハイオ州,

インディアナ州,イリノイ州,ミシガン州,ウィスコンシン州,ミネソタ州,アイオワ州,ミズー リ州,カンザス州である.

9)手作地主が土地の一部分だけを貸し出し,地主が全土地を貸し出していると考えられることから,

地主の貸出分を過小評価している可能性がある.そこで,地主34戸の「総不動産所有額」(=貸出 分)と手作地主1920 戸の「不動産所有額が経営農場価値額を上回る部分の合計」(=貸出分)を導 出した.地主の総貸出分は42,240 ドル,手作地主の総貸出分は3,816,511 ドルであり,地主が貸し 出している部分は約1%にすぎない.なお,脚注7 に示したように,この分類には含まれない地主

6 戸存在する.これらの不動産所有額の合計は,16,900 ドルである.したがって,これを合計し

ても地主の貸出分は59,140 ドルであるから,手作地主貸出分の1.5%に過ぎない.ただし,この値 が貸し出している土地面積を表していないことに注意が必要である.

(9)

なく,自小作(相対度数5.5%),小作(相対度数13.5%)を中心に貸し出されてい たことも明らかである.すなわち,合衆国における土地貸借市場は,地主の土 地に対して多数の農業労働者が投入されるような構造ではなく,自らが農場経 営を行っている農家の土地の一部が,農場経営の主体である自小作,小作に対 して貸し出されているという特有の構造を有していたことが示される.

2. 3 標本の限定

前節において,合衆国の農村における経営形態が自作中心であり,土地貸借 を行う存在として手作地主,自小作,小作が存在することが明らかとなった.

また,本稿の主題は農場経営の規模が経営形態の違いによって差異を有するか 否かという点であるので,経営面積=0 と定義されている地主と農業労働者に 関しては分析が不可能である.以上の理由から手作地主,自小作,自作,小作 のみを取り上げて分析を進めていくことにする.

経営規模を扱う場合,経営面積と耕地面積の違いに注意しなければならない.

センサスにおいては耕地面積(improved acres of farmland)と並んで,総土地面積

(耕地面積+未耕地面積:acres of farmland:以下,経営面積と表記)が記載されてい る.これら2 者は,とくに耕地化が進展していない西部においては大きく異な

東 部  西 部  全標本 

手作地主  542  1378  1920

地 主  14  20  34

自小作  237  426  663

自 作  3054  4413  7467

小 作  515  1152  1667

合 計  4391  7549  11940 農業労働者 

29  160  189 第 2 表 経営形態別戸数 

出所)ICPSR 7420より作成 

東 部  西 部  全標本 

手作地主  12.3% 

18.3% 

15.3% 

地 主  0.3% 

0.3% 

0.3% 

自小作  5.4% 

5.6% 

5.5% 

自 作  69.6% 

58.5% 

64.0% 

小 作  11.7% 

15.3% 

13.5% 

合 計  100.0% 

100.0% 

100.0% 

農業労働者  0.7% 

2.1% 

1.4% 

第 3 表 経営形態別戸数の割合 

出所)ICPSR 7420より作成 

(10)

っている場合もあるが,本稿においては,実際の耕作規模を対象とする上で耕 地面積が適していると考えられることから,耕地面積を中心に議論を進める.

さらに,合衆国における農場経営の中心は家族経営であるといわれている.

試みに,経営形態別の平均家族人数を第 4 表に示した.いずれの経営形態にお いても,およそ4 〜6 人の範疇に収まっており,平均的には農場経営が家族規 模を中心に行われていたことが示される.しかし,実際のデータには家族経営 で行うことが不可能であると考えられるような巨大な経営規模を有する農家が 存在する.この点については,第 5  表に各経営形態の最大耕地面積を示した.

東部の自小作および小作を除いて最大の農家は1,000 エーカー前後の規模であ る.したがって,非常に大きな耕地規模を持つ農家を分析に含めることは,平 均耕地面積を考える上で偏りをもたらしてしまう可能性がある.

そこで,比較的大規模な農場を耕地面積161 エーカー以上と設定し,その家 計を省いた標本について考えてみる.この基準は,耕地面積160 エーカー以下 の農家家計が11,013 戸であり,全標本(11,940戸)の92.2%を占めることから,

合衆国北部における農場規模の中心を構成していると考えられるからである10). そこで,耕地面積161 エーカー以上の家計の割合を第 6 表に示した.また,第 7  表に全標本を用いた経営形態別の平均耕地面積を示している.確かに,全標 本を用いた場合,平均耕地面積は,手作地主,自小作,自作,小作の順に大き いが,耕地面積 161 エーカー以上層の割合も同じ順序で大きくなっており(第 6 表),大規模な農家が平均耕地面積をより大きく見せている可能性がある.し たがって,本稿においては耕地面積160 エーカー以下の層だけを対象として分 析を行うことにする.なお,耕地面積160 エーカー以下に関する経営形態別の 標本数は第 8 表の通りである.

10)また,1862 年のホームステッド法における分配面積が160 エーカーに設定されたことから,この

大きさが当時の一般的な農場経営の基準として考えられていたことが示唆される.ただし,ここで 取り上げている耕地規模は経営面積ではないので,概念として一致しているわけではない.

(11)

東 部  西 部 

手作地主  5.7  6.0

地 主  4.6  5.9

自小作  5.2  5.6

自 作  5.2  5.8

小 作  4.2  3.8

農業労働者  3.6  4.7 第 4 表 経営形態別平均家族数 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)人 

東 部  西 部 

手作地主  870  920

地 主 

− 

− 

自小作  400  1500

自 作  1141  1140

小 作  400  1000

農業労働者 

− 

−  第 5 表 経営形態別最大経営面積 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)エーカー 

東 部  西 部  全 体 

手作地主  11.3% 

9.1% 

9.7% 

自小作  8.9% 

8.0% 

8.3% 

自 作  7.7% 

4.0% 

5.5% 

小 作  3.7% 

3.0% 

3.2% 

第 6 表 耕地面積161エーカー以上層の占める割合 

出所)ICPSR 7420より作成 

東 部  西 部  平 均 

手作地主  87.7  76.5  82.1

自小作  84.4  72.9  78.6

自 作  78.4  62.6  70.5

小 作  72.3  52.5  62.4 第 7 表 経営形態別平均耕地面積(全標本) 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)エーカー 

東 部  西 部  合 計 

手作地主  481  1253  1734

自小作  216  392  608

自 作  2819  4238  7057

小 作  496  1118  1614

合 計  4012  7001  11013 第 8 表 経営形態別戸数(耕地面積160エーカー以下) 

出所)ICPSR 7420より作成 

 

(12)

3

不動産所有と経営規模の差異

3. 1 平均不動産所有額の差異

耕地規模の分析に移る前に,経営形態別に見た不動産所有額(real property

hold)の差異について分析する.ただし,小作に関しては不動産所有額=0 と

定義しているので,この分析には含まれない.経営形態別にみた平均不動産所 有額は第 9 表に示されている.平均不動産所有額は,手作地主が最大で,次い で自作であり,もっとも不動産所有額が小さいのが自小作である.その差は,

東部においては手作地主の不動産所有額が自作の2 倍近くになり,西部におい

ても1.63 倍である.一方,自小作の不動産所有額は,東部・西部とも自作の

2/3 程度である.そこで,経営形態の中心である自作の平均不動産所有額を基 準とし,手作地主,自小作の平均不動産所有額との間で差を生じているか否か について検定を行った.その結果は,第 10 表に示されているが11),手作地主の 不動産所有額は,有意水準1%で自作よりも有意に大きく,自小作は有意に小 さい.

不動産所有額は「所有」している農場規模を表しているのであるから,当時 の合衆国北部において,経営形態の違いによって不動産所有に明確な差異が存 在していたといえる12).以上の結果から,農場所有に関してみた場合,標準的

11)分析の手順は,まず分散比の検定を行い,分散に差がない場合には通常のt 検定を行っている.

また,分散に差があると判断された場合にはWelch の検定を行っている.t 検定についてのp 値が 1%よりも大きければ,自作との間に有意な差がないと判断される.この方法は,平均値の差の検定 を行っている以下の分析においてすべて同様である.なお,本稿の統計的分析には,すべてSAS 8.02 を用いている.

12)なお,付表 4 に示すように,総資産(all property hold)の平均所有額でも同様の傾向が見られ,

手作地主の総資産は,自作に対して東部で2 倍弱,西部で1.66 倍である.また,自小作の総資産 は,東部・西部ともに3/4 程度で,若干その差が縮小する(自作と自小作の間に動産所有額(per-

sonal property hold)の差がない).平均値の差の検定では,いずれの場合も有意水準1%で有意に

差があるという結果を得た.

なお,総資産に関しては小作についても記載されているが,不動産を含まない動産のみが総資産 として計上されており,手作地主,自小作,自作とは異なる状況にあると判断し,ここでも分析に は含まなかった.

(13)

な自作よりも富裕な手作地主が存在する一方で,若干所有資産の少ない自小作 が存在するという階層差が形成されていたことが明らかとなった13)

3. 2 平均耕地面積の差異

次いで,実際の農場経営の規模に関して考察を行う.平均耕地面積を経営形 態別に表したのが第 11  表である.この表によれば,東部の平均耕地面積は各 経営形態とも65 エーカー前後であり,西部では小作を除いて55 エーカー前後 である.基本的に西部の平均耕地面積が東部よりも小さいのは,西部において

13)経営形態の違いによって所有不動産額に差が存在し,階層間格差が生じていたと結論するのは,

当然の帰結である可能性が残る.なぜなら,大きな不動産を所有し,他に貸し出すことができる状 況であるからこそ手作地主となっており,所有する不動産が小さいがために他から借り入れている 者が自小作となっているとも考えられるからである.しかし,本稿における経営形態の分割におい ては,恣意性をもって不動産所有額が大きい農家を手作地主に,不動産所有額が小さい農家を自小 作に含んだわけではないので,経営形態の違いによって階層差が形成されていたとする結論は妥当 であろう.

 自作との差   指数   自作との差   指数 

手作地主  5803.9

3450.6 2779.4 

191.9 1328.2 

162.6

2064.2

1390.9

−960.2  68.3

−731.5  65.5

3024.4

2122.4 0.0  100.0

0.0  100.0

− 

− 

− 

− 

− 

− 

自小作  自 作  小 作 

第 9 表 経営形態別平均不動産所有額(耕地面積160エーカー以下) 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)ドル 

東 部 

西 部 

手作地主  F 値 

p 値 

8.01  0.0% 

1.15  0.1% 

− 

−  t  値 

p 値 

9.29  0.0% 

−7.03  0.0% 

− 

−  自小作  小 作 

第 10 表  平均不動産所有額の差の検定 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)有意水準 1 % 

東 部  手作地主 

F 値  p 値 

4.34  0.0% 

1.28  0.1% 

− 

−  t  値 

p 値 

12.97  0.0% 

−9.21  0.0% 

− 

−  自小作  小 作  西 部 

(14)

開墾が進展していないためであり,経営面積では西部の方が大きくなる傾向が ある.

東部に関しては,自作の平均耕地面積に対して,手作地主の平均耕地面積が 若干小さく,自小作,小作が若干大きい.小作の平均耕地面積が自作よりも大 きいことに関しては,やや不自然さが見られる.そこで,詳細に分析するため に州別の平均耕地面積を導出した.その結果,ペンシルヴェニア州において小 作の平均耕地面積が自作よりも有意に大きいことが明らかとなった14).この点 については明確な理由を見つけ出すことができなかったが,後に見るように,

東部全体で見るとこの差は統計的に有意ではない.一方,西部に関しては,同 じく自作の平均耕地面積に対して,手作地主の耕地面積が若干大きく,自小作 はわずかな差で大きい.対して小作の平均耕地面積は自作よりも小さい.

そこで,これらの平均耕地面積に関して,差が生じているか否かの検定を行 った.経営形態の中心である自作の平均耕地面積を基準とし,手作地主,自小 作,小作の平均耕地面積との比較を行った.その結果は第 12  表に示したとお りである.

14)ペンシルヴェニア州では,自作の平均耕地面積が58.9 エーカー,小作の平均耕地面積が68.9 エ

ーカーであり,10エーカーの差が見られる.平均値の差の検定は,通常のt 検定においてt 値=3.32

(p 値=0.0009)であり,有意に小作の平均耕地面積が大きい.なお,その他の州に関しては,有意

水準1%で有意な差が生じていない.

 自作との差   指数   自作との差   指数 

手作地主  63.7

58.4

−1.1  98.2

3.8  107.1

67.2

54.8 2.3  103.5

0.3  100.5

64.9

54.6 0.0  100.0

0.0  100.0

66.3

44.4 1.4  102.2

−10.2  81.3

自小作  自 作  小 作 

第 11 表  経営形態別平均経営面積(耕地面積160エーカー以下) 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)エーカー 

東 部 

西 部 

(15)

まず,東部に関して考察すると,自作の平均耕地規模に対して,手作地主,

自小作,小作とも有意な差が生じていない.すなわち,東部における実際の農 場経営の規模は,いずれの経営形態においてもほぼ同程度であるといえる.先 に見たとおり,手作地主は自作の2 倍,自小作は地主の2/3 の平均不動産額 を所有しており,有意な差を生じていた.その状況に鑑みると,実際の農場経 営が均質的な規模に収斂していると理解できる15)

一方,西部に関しては,手作地主の平均耕地面積が有意に大きく,小作の平 均耕地面積は有意に小さい.また,自作と自小作との間には有意な差はなく,

ほとんど同程度の規模であるといってよい.したがって,西部に関しては,東 部で見られたようにいずれの経営形態においてもほぼ同程度の耕地面積を有し,

農場経営を行っていたと単純に結論づけることはできない.しかし,先に第9 表で見た不動産所有額の差と比較すると,西部について手作地主が自作よりも

60%以上大きな不動産を所有していたにもかかわらず,耕地面積の差は7%に

過ぎない.

以上の分析から,19 世紀中葉の合衆国北部を対象として考察したとき,不動 産を多く所有する手作地主が土地を貸し出し,不動産所有額に関してはやや劣 る自小作や不動産を所有しない小作がこれを借り入れることを通じて,実際の

手作地主  F 値 

p 値 

1.13  6.4% 

1.01  90.3% 

1.01  91.1% 

t  値  p 値 

−0.62  53.5% 

0.86  39.0% 

0.78  43.4% 

自小作  小 作 

第 12 表  平均耕地面積の差の検定 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)有意水準 1 % 

東 部  手作地主 

F 値  p 値 

1.17  0.1% 

1.00  99.2% 

1.22  0.0% 

t  値  p 値 

3.14  0.2% 

0.15  88.1% 

−9.14  0.0% 

自小作  小 作  西 部 

15)なお,小作に関しては,不動産所有額の差についての分析が不可能であったので,同様の結論を 導くことはできない.しかし,小作の平均耕地面積が自作と相違ないという結果から,実際の農場 経営が均質的な規模で行われていたとする結論に変わりはない.

(16)

耕地規模が均等化していることが明らかとなった.これは,農場の所有に関し て経営形態による差が生じていたとしても,実際の農場経営に関しては,自ら とその家族によって耕作できる規模に収斂していく傾向が見られることを表し ている.ただし,西部の小作が自作よりも小さいことに関しては,不動産所有 額の差についての分析が不可能であるので,自作・手作地主間についてと同様 の考察はできない.この点について,次節において考察を行うことにする.

3. 3 西部における自作と小作の耕地面積の差異

前節までの分析で,西部における小作の平均耕地面積が自作よりも有意に小 さいという点に関して明確な意味を見いだすことができなかった.そこで,州 別に検討することによって,その構造を明らかにする.第 13  表に示している とおり,西部を各州に分けて平均耕地面積を比較すると,インディアナ州,イ リノイ州,アイオワ州,カンザス州において小作の耕地規模が自作よりも10 エ ーカー以上小さく,有意な差が生じている.当時のインディアナ州,イリノイ 州,アイオワ州は,第 14  表に示すように,すでに穀物生産の中心地としての 地位を確立していた16).それに対して,

カンザス州は,当時のフロンティアラ インの外側に位置し17),開拓が進展し ていない状況にあった. したがって,

第13 表において,自作よりも小作の平

均耕地面積が有意に小さいと判断され た4 州のうち,カンザス州に関しては 状況が異なっている.カンザス州では,

経営面積自体は自作と小作との間に有 意な差が存在せず18),開拓の進展によ

16)とくに,小麦,とうもろこしの生産について顕著である.

17)1860 年当時のフロンティアラインの位置は,Cochrane(1979)を参照した.

18)カンザス州における平均経営面積は,自作:184.9 エーカー,小作:155.6 エーカーであり,

Welch の検定によるt 値=1.24(p 値=0.217)で,有意な差が生じていない.

自作  小作  検定  差  第 13 表  西部の平均耕地面積 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)エーカー 

注) 検定欄において,*は 1%水準で有意な差     が生じている 

オハイオ  インディアナ  イリノイ  ミシガン  ウィスコンシン  ミネソタ  アイオワ  ミズーリ  カンザス 

66.5  57.8  72.0  31.4  46.3  28.3  52.3  59.2  45.3 

67.4  43.3  53.6  36.4  56.1  24.6  36.5  54.2  33.8 

 

* 

*       

*   

* 

−0.9  14.5  18.4 

−5.0 

−9.8  3.7  15.8  5.1  11.6

(17)

って自作との差が縮小する可能性が残る.

そこで,残るインディアナ州,イリノイ州,アイオワ州について,小作の平 均耕地面積が自作よりも小さい意味について考察する.これら3 州については,

経営面積自体にも有意な差があり,カンザス州とは違った状況である19).これ ら3 州については,先述したように,西部において穀物生産の中心地としての 地位を確立していたという状況から,この地域の特殊性について考えなければ

順位  ジャガイモ  1000bu.

第 14 表 1867 年の主要品目生産量順位 

出所)Bureau of Statistics, Statistical Abstract of the United States, 1890 ニューヨーク 

ペンシルヴェニア  オハイオ  ミシガン  バーモント  ウィスコンシン  イリノイ  メイン  アイオワ  ミネソタ 

24925  11727  7238  5750  4297  4097  3673  3503  3361  3150 1 

2  3  4  5  6  7  8  9  10

(以下省略) 

順位  干し草  1000t

ニューヨーク  イリノイ  ペンシルヴェニア  オハイオ  ミシガン  ウィスコンシン  アイオワ  インディアナ  メイン 

マサチューセッツ 

5330  2667  2424  2219  1377  1370  1250  1208  1050  1032 1 

2  3  4  5  6  7  8  9  10

(以下省略) 

順位  とうもろこし  1000bu.

イリノイ  インディアナ  オハイオ  アイオワ  ミズーリ  テネシー  ケンタッキー  アラバマ  ペンシルヴェニア  ジョージア 

109091  80757  64000  53333  50437  50250  46550  35500  30457  29037 1 

2  3  4  5  6  7  8  9  10

(以下省略) 

順位  小麦  1000bu.

イリノイ  ウィスコンシン  カリフォルニア  オハイオ  インディアナ  アイオワ  ミシガン  ペンシルヴェニア  ミネソタ  ニューヨーク 

28000  22000  21000  18000  16861  16300  15250  15000  10000  8250 1 

2  3  4  5  6  7  8  9  10

(以下省略) 

19)結果を示していないが,西部の他の5 州(オハイオ州,ミシガン州,ウィスコンシン州,ミネソ

タ州,ミズーリ州)については,経営面積には有意な差がない.

(18)

ならない.岡田(1963)によると,当時のイリノイ州で小作が用いられたのは,

小作に開墾させることによって生じる地価上昇を狙ったものであったとされて いる20).同様のことは,Winters(1974)のアイオワ州を対象とした分析におい ても,小作契約の1 年目に開墾,耕耘,囲柵・家屋建設などが義務とされ,小 作料の支払いが2 年目以降となること が示されており,1860 年当時のこの地 域における小作の意味として,開墾作 業を行うことが一般的であったことが 裏付けられる.実際,第 15  表に示し たように,これら3 州においては,小 作の開墾率が自作のそれよりも10%ポ イント以上高くなっており,他の州と 比較して圧倒的に小作によって開墾が 進められていることがわかる.

このように,小作契約の重要な要素に開墾作業が含まれている場合,農場経 営の標準的な規模よりも,より小規模に分割した上で小作を導入し,より早く 開墾を完了させた方が,地主が目標とする地価上昇に有利である.したがって,

小作が小規模になることは合理的であり,東部において小作が自作と同規模の 耕地面積を有していることから考えると,開拓の進展を通じて自作と小作との 差が縮小する可能性が見える.

4

お わ り に

本稿の分析を通じて,以下の3 点が明らかとなった.第1 点は,経営形態に よって所有している不動産額に明確な差が生じているという点である.第2 点

自作  小作  第 15 表  西部の平均開墾率 

出所)ICPSR 7420より作成  オハイオ 

インディアナ  イリノイ  ミシガン  ウィスコンシン  ミネソタ  アイオワ  ミズーリ  カンザス 

71.1% 

54.5% 

67.7% 

42.8% 

41.7% 

21.2% 

40.1% 

39.1% 

30.5% 

70.1% 

67.8% 

79.1% 

40.2% 

51.1% 

24.9% 

55.8% 

44.6% 

29.0% 

20)小作の立場からすれば,小作として農場経営に参入することによって,農場経営に必要な知識を 獲得することや(岡田,1963),小作料が契約年次において徐々に上昇していく小作契約が存在して いたことや,ある程度のリスクを地主が負担するシステムが採用されていたことなど(Winters, 1974)

の有利性があったと考えられる.

(19)

は,実際の農場経営(耕地面積)に関しては,土地貸借を通じて家族農場として 経営できる規模に収斂しているという点である.そして,第3 点として,開墾 を行う主体として期待されている西部の小作にとって,相対的に小規模な農場 経営を行うことが合理的であるという点である.

以前,同じデータを用いた分析において,小作の生産性が自作よりも劣ると いう「マーシャルの非効率性」の存在は,少なくとも19 世紀中葉の合衆国北 部の主要農産物生産に関して明確には現れていないという結果を示した(角井,

2001,pp.45-46).この結論と本稿で導いた経営規模の差異が存在しないという結

論とを綜合して考察すれば,開墾を義務づけられている西部の小作を除いて,

実際の農場経営に関して経営形態の違いによる差異を見いだすことは困難であ るといえるであろう.

一方,この結論から得られる別の側面にも注目する必要がある.たしかに,

合衆国北部における農業の経営形態は自作が主流であり,また,本来,小規模 かつ大量に自営農民(自作)を創出することを目的とした公有地分配のシステム は,実際の農場経営が均質化したという意味においてある程度の目標を達した と考えられる.しかし,上の結論として示した第1 点,および第2 点の経営規 模においてその差異が解消された背景には土地貸借が存在していたという分析 結果からすれば,「小規模家族経営の自営農民」という合衆国北部農業のイメー ジをそのまま受け入れることはできない.

ただし,本稿においては合衆国北部における土地貸借市場の実情についての 分析を捨象している.したがって,その点について今後の分析によって明らか にすることが必要である.

(20)

地 位  農 家  非農家  非農家  農 家  農 家  農 家  農 家  非農家  非農家  非農家  非農家  農 家 

  1 

2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12

2900  400  500  10000  2000  1800  6300  2000  2000  6000  6000  4000 不動産 

400      0  600  2000  6000          4000 農場価値 

手作地主      地  主  手作地主  自 小 作  手作地主 

        自  作  本稿での分類   付表 3  職業欄「地主」の本稿における分類 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)不動産,農場価値:ドル 

 自作との差   指数   自作との差   指数 

手作地主  7742.7

4581.9 3785.1 

194.3 1816.5 

165.7

3125.9

2017.4

−858.7  78.4

−748.0  73.0

3984.6

2765.4 0.0  100.0

0.0  100.0

− 

− 

− 

− 

− 

− 

自小作  自 作  小 作 

付表 4  経営形態別平均総資産所有額(耕地面積160エーカー以下) 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)ドル 

東 部 

西 部 

戸数  割合 

付表 1  農業労働者と分類された家計の職業 

出所)ICPSR 7420より作成  単位)戸 

農民  労働者  その他  不明  合計 

128  7  21  33  189

67.7% 

3.7% 

11.1% 

17.5% 

100.0% 

戸数  割合 

付表 2  地主と分類された家計の職業  

出所)ICPSR 7420より作成  単位)戸 

農民  その他  不明  合計 

18  12  4  34

52.9% 

35.3% 

11.8% 

100.0% 

(21)

【参考文献】

Atack, J., and F. Bateman, (1987) To Their Own Soil: Agriculture in the Antebellum North, Iowa University Press.

Bateman, F., and J. Atack, (1979) The Profitability of Northern Agriculture in 1860, Research in Economic History, Vol.4, JAI Press, Inc., pp.87-152.

Bateman, F., and D. Foust, (1973) Agricultural and Demographic Records for Rural Household in the North, 1860, ICPSR 7420.

―, (1974) A Sample of Rural Households Selected from the 1860 Manuscript Censuses, Agricultural History, Vol.48, pp.75-93.

Bureau of Statistics, Statistical Abstract of the United States, 1890.

Cochrane, W. W., (1979) The Development of American Agriculture:A Historical Analysis, University of Minnesota Press.

Goldin, C., (1997) Exploring the Present through the Past :Career and Family across the Last Century, The American Economic Review, Vol.87, pp.396-399.

Heckman, J., (1997) The Value of Quantitative Evidence on the Effect of the Past on the Present, The American Economic Review, Vol.87, pp.404-408.

Turner, F. J., (1920) The Frontier in American History, Robert E. Krieger Publishing Co., Inc.

Williamson, J. G., and P. H. Lindert, (1980) American Inequality: A Macroeconomic History, Academic Press, Inc.

Winters, D. L., (1974) Tenant Farming in Iowa, 1860-1900:A Study of the Terms of Rental Leases, Agricultural History, Vol.48, No.1, pp.130-154.

有賀夏紀(2002)『アメリカの20世紀(上)』中央公論社.

上坂昇(1993)『アメリカの貧困と不平等』明石書店.

南亮進,クワン・S・キム,マルコム・ファルカス編(牧野文夫他訳)(2000)『所得不平 等の政治経済学』東洋経済新報社.

岡田泰男(1963)「アメリカ中西部における小作制−19 世紀後半・イリノイ州の例−」

『三田學會雑誌』(慶應義塾大学)第56 巻 第1 号,pp. 23-43.

―,(1994)『フロンティアと開拓者−アメリカ西漸運動の研究−』東京大学出版会.

(22)

―,(2000)『アメリカ経済史』慶應大学出版会.

折原卓美(1999)『19 世紀アメリカの法と経済』慶應義塾大学出版会.

角井正幸(2001)「合衆国北部の小作と土地生産性−1860 年経営形態別・耕地規模別推 計−」『経済学論叢』(同志社大学)第53 巻 第3 号,pp. 24-51.

―,(2002)「合衆国における自小作農の意味−農業階梯論による接近−」『経済学論 叢』(同志社大学)第53 巻 第4 号,pp. 75-100.

ウィリアムソン・J・G(安場保吉,水原正亨訳)(2003)『不平等,貧困と歴史』ミネル ヴァ書房.

(23)

The Doshisha University Economic Review Vol.57 No.1

Abstract

Masayuki TSUNOI, Equality or Inequality on farm operation in the North, United States, 1860: An Empirical Analysis on Improved Acres and Real Property Holding

In nineteenth century, the economic differences expanded in the United States. On the other hand, rural economies had the base of equalization through the public land policy. The object of this article is to investigate the existing or not-existing of the real property holding differences and improved acres differ- ences among farm operating types.

This research has reached the following conclusion: although there was an obvious difference in the average real property holding among farm operating types, average improved acres were equally held except for the western tenant farmers. It is also showed why the smaller improved acres of western tenants’

help quick reclamation.

参照

関連したドキュメント

 この論文の構成は次のようになっている。第2章では銅酸化物超伝導体に対する今までの研

び3の光学活`性体を合成したところ,2は光学異`性体間でほとんど活'性差が認め

An analogous dense graph theorem, but with respect to the space of differentiable vectors of an arbitrary Banach representation, was already derived by Langlands in [6], while

Our guiding philosophy will now be to prove refined Kato inequalities for sections lying in the kernels of natural first-order elliptic operators on E, with the constants given in

As a special case of that general result, we obtain new fractional inequalities involving fractional integrals and derivatives of Riemann-Liouville type1. Consequently, we get

Equality on the left hand side of the double inequality (2.1) is valid if and only if triangle ABC is an isosceles triangle with top-angle greater than or equal to π 3 , and equality

In fact, one could quite easily establish stickiness at every scale δ ≤ σ ≤ 1 from the Minkowski dimension hypothesis, but we shall not need to do so here.. We also remark that

また、2007 年 12 月の運賃改定によりタクシー市場における Total loss は、1900 円/分ほど拡大した。運賃