枠組みづけの内的構造 : 『言語と呪術』を読む

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枠組みづけの内的構造――『言語と呪術』を読む

小 野 純 一

1 はじめに  言語の発生を呪術・宗教との同時発生に見る仮説は,これまでも考古学・ 人 類 学・ 哲 学 な ど に お い て 提 出 さ れ て き た(Donovan 1891–1892, Langer 1942)。しかし井筒俊彦(1914–1993)は自身初の英文著作『言語と呪術』(1956 年)においてその見解を批判的に継承し,より根源的な水準における発生を 見極めようとする1。井筒の批判によれば,彼以前の研究では標準化された 形式の呪術しか前提にされていない(井筒 2018: 178)。そのように形式へと 伝統的に固定された儀式ではなく,あらゆる形式を真に主体的な体験にして いる究極的な源泉まで辿ったマリノフスキーは言語の発生を熱狂的な体験に まで遡った(同上 179)。それをこの人類学者は「自発的な儀礼」と呼び,そ こに意味の発生を見たのである(同上 92, Malinowski 1923)。井筒もまたこ の意味の発生の場を「自発的な儀礼」としての呪術と考え,言語の呪術的な 働きを解き明かして行く。井筒の独創性は,言語あるいは意味の発生を言語 自体に内在する枠組み,あるいは構造と捉えた点である。その意義はこれま で指摘されることはなかった。そこで本稿は,井筒が見出す言語的枠組みと いう構造が何かを明らかにする。  先行研究に関しては,井筒の『言語と呪術』を主、題的として研究対象にし、 、 、 、 、

1 本稿では原著の新しい校訂版(Izutsu, Toshihiko , Language and Magic: Studies in the

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とした現実の体験を喚起することで,感情や態度に生じる効果を強調する(同 上 139–140)。この働きかけは,適切な言葉,強い感情表現だけでなく,ど の言葉でも声の調子の変化によってその言葉が強調されることで達成される (同上 143–145)。  強調するのに適した言葉や強い感情表現の選択,声の調子による強調は, 第7 章の後半が扱う情緒゠感情的要素に対応している。言葉の情緒゠感情的 要素は,これら内包の指示的および直観的要素による記述がもたらす。感情 的な意味の大部分は記述的意味に由来する(同上 139)。構造的要素がもたら す枠組み,およびこれに加えてさらに別の外的枠組みと内的枠組みの成立を 通して,内包の情緒゠感情的要素はそれに固有の情緒゠感情喚起機能を真に 発揮する。したがって,この要素は外的および内的枠組みの構成を扱う第10 章と枠組みづけられた言語を扱う第11 章とともに,内的世界の表出という 観点からまとめて取り上げることにしたい。  第8 章は内包の構造的構成要素を扱う。そしてこれもまた非実在的区分を 実体化させる意味体験という点で,井筒にとっては呪術的機能である。内包 的な構造とは,言語に内在する構造であり,それは実在構造からは自律的に 働いて構造的意味を生み出す(同上 148–150)。つまり,言葉を組み立てる諸 パターンとしての統辞構造はあくまで言語の構造であり,それはそのまま言 語のパターンを表す場合もあれば,思考のパターンを表す場合もある8。言 語の構造は,思考形式からも実在構造からも自律的であり,それ自身の仕方 で機能している(同上 164)。それを井筒は意味構成に内在する構造的喚起と 呼ぶ。構造的喚起は言語的区分としての品詞を確定しており,品詞分類は度 が過ぎなければ,構造的意味をすぐれて反映する(同上 152)。  ジャバウォック文の用例からもわかるように言語的区分(品詞)は与えら れた文によって構造的に確定される(同上 151)。その意味で,構造性は言語

8 例えばI see a tiger と I kick a tiger とは,これらの表現が表す思想は異なるが,言語

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