淀川水系における化学成分の広域分布に関する調査報告
※中口 譲
*・益田晴恵
**・中条武司
***・山中康平
*・里口保文
****・
大阪市立自然史博物館淀川水系調査グループ水質班
***・ 滋賀県立琵琶湖博物館みずはしかけ
****Survey report of regional distributions of chemical component in the Yodo River System
Yuzuru N AKAGUCHI*, Harue M ASUDA**, Takeshi N AKAJO***, Kohei Y AMANAKA*, Yasufumi S ATOGUCHI****, Analysis Team of Yodo River Research Group (Project Y, Osaka Museum of Natural History )
*** and Mizuhashikake ( Lake Biwa Museum )
****
, Takeshi N AKAJO***, Kohei Y AMANAKA*, Yasufumi S ATOGUCHI****, Analysis Team of Yodo River Research Group (Project Y, Osaka Museum of Natural History )
*** and Mizuhashikake ( Lake Biwa Museum )
****
, Yasufumi S ATOGUCHI****, Analysis Team of Yodo River Research Group (Project Y, Osaka Museum of Natural History )
*** and Mizuhashikake ( Lake Biwa Museum )
****
Abstract: The concentrations of major and minor chemical components
(Na, K, Ca, Mg, Cl−, SO
42−, NO
3−, PO
43−, F
−, Br
−, SiO
2, total nitrogen, total phosphorus, alkalinity), trace heavy metals
(Al,Fe, Mn, Cr, Ni, Cu, Pb, Zn, As, Cd) were determined in the river water samples collected from 103 sampling stations from 2007 to 2009. River waters were characterized by tri-linear diagram. The Na- Cl type river waters were found at brackish water and urban area. Sodium and chloride ions might be supplied from domestic wastewater. The Ca-HCO
3type river waters were found at mountainous area.
The source of trace heavy metal in river water was discussed from the correlation matrix of trace metal concentrations. The highly significant correlation coefficient was recognized between aluminum and iron, iron and manganese. Iron and manganese might be supplied from dissolution of rock-forming mineral such as aluminosilicate.
抄録:2007年〜2009年にかけて淀川水系の河川103ヶ所において採取した河川水試料中の主 要および微量化学成分(Na, K, Ca, Mg, Cl−
, SO
42−, NO
3−, PO
43−, F
−, Br
−, SiO
2, 全窒素, 全
リン, アルカリ度)および微量金属(Al, Fe, Mn, Cr, Ni, Cu, Pb, Zn, As, Cd)の定量を行った.
トリリニアダイアグラムにより河川水を化学的特徴により分類した.Na-Clタイプの河川水 は汽水域および都市部で見出すことができた.NaとClは生活排水から供給されているよう である.Ca-HCO3タイプの河川水は山間部で見出すことができた.河川水中の微量金属の起 源を元素濃度間の相関関係より考察した.有意な正の相関関係がアルミニウムと鉄,鉄とマ ンガンの間に認められた.鉄とマンガンはアルミノケイ酸など造岩鉱物の溶解によりもたら されるものと考えられた.
Key Words: Yodo River; Ina River; Lake Biwa; chemical components; Project Y.
※ 大阪市立自然史博物館業績第440号(2013年2月9日受理)
*近畿大学理工学部理学科 〒577-8502 大阪府東大阪市小若江 3-4-1
Kinki University, Faculty of Science and Engineering 3-4-1 Kowakae, Higashiosaka City, Osaka 577-8502, Japan E-mail: [email protected]
**大阪市立大学理学研究科地球科学科 〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138
Osaka City University, Graduate School of Science, Department of Geosciences 3-3-138 Sugimoto, Sumiyoshi, Osaka 558-8585, Japan
***大阪市立自然史博物館(水質班参加者名は本文末) 〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1−23 Osaka Museum of Natural History Nagai Park 1-23, Higashi-sumiyoshi, Osaka 546-0034, Japan
****滋賀県立琵琶湖博物館(みずはしかけ参加者名は本文末) 〒525-0001 滋賀県草津市下物町1091 Lake Biwa Museum 1091 Oroshimo, Kusatsu, Shiga 525-0001, Japan
大阪平野を流れる河川は大きく分けて,淀川水系と大和川水系に分類される.大和川水系の河川 水は奈良県から大阪南部を流れており,そのBOD値が高く,国土交通省より公表される 全国一級 河川の水質状況 では,関東地方の鶴見川と並び日本で最も有機汚濁の進んだ川といわれてきた.
この河川については一般市民が参加した広域調査 プロジェクトY・大和川編 が大阪市立大学と 大阪市立自然史博物館が中心となり,2002年から2005年にかけて実施された.このプロジェクトは 水質調査のみならず,この川の周辺に生息する昆虫や動・植物などを含めた環境生態学的研究が幅 広く行われ,数多くの成果が展示,公表された(大阪市立自然史博物館,2007).
一方,淀川水系の中で特に猪名川は大和川と並び,全国的にみれば
BOD
値は比較的高いものの,その数値は年々低下する傾向にあり,有機汚濁は改善されている(大阪府,
2008).一級河川である
淀川については,国の水資源の観点から,国土交通省は定点における水質監視が行われており,淀 川水系の河川では,大阪府内7ヶ所,京都府内5ヶ所,京都市内5ヶ所において水質分析が実施され,分析結果はホームページ上で公表されている.大阪府においても定点観測が実施されており,淀川 水域では13河川21ヶ所,神崎川水域では19河川29ヶ所,寝屋川水域では11河川21ヶ所,大阪市内河 川水域では12河川12ヶ所において,生活環境項目,健康項目に加え,特殊項目,特定項目,要監視 項目の分析が行われ,分析結果が公表されている.
大和川と同様に,淀川の自然が私たちの生活とどのようにかかわっているのかを知る目的で,淀 川を研究対象とした新たな広域調査 プロジェクトY・淀川編 が2007年に新たにスタートし,水 質分析を含めた環境生態学的研究が実施された.淀川水系の水は山間部,市街地,住宅密集域,商 業地区,工業地区等様々な土地利用区域を流下するため,河川水の化学的特徴はそれぞれの区域の 特徴を反映すると考えられる.例えば,山間部では河川底が自然状態にあるため,河川底を構成す る造岩鉱物や湧き出でる地下水の影響を受ける.また,周辺に田畑がある場合は肥料の,市街地で は生活排水や下水処理水の,また河口域では海水流入の影響をそれぞれ強く受けると考えられる.
本研究では2007年から2009年にかけて,淀川水系約100ヶ所において定期的に河川水試料を採取 し,主要溶存成分でも特に,ナトリウム(Na),カリウム(K),カルシウム(Ca),マグネシウム
(Mg),塩化物イオン(Cl−),硫酸イオン(SO42−)を,微量イオン成分であるフッ化物イオン(F
−),臭化物イオン(Br−)を,富栄養化関連物質であるケイ酸,全窒素,全リン,そして,アルカ リ度の分析を行った.また2009年の採水においては重金属類(Al,Fe,Mn,Cr,Ni,Cu,Pb,Zn,
As, Cd)の分析も合わせて行い,淀川水系における化学成分の広域分布調査結果をまとめ,化学成
分の分析結果から淀川水系河川水の健康状態を診断した.
淀川水系の概況:淀川水系とは淀川,猪名川,神崎川とその河川への流入河川,琵琶湖およびこ の湖への流入河川全体を指し,その流域面積は8249km2,幹線流路延長は75.1kmである(琵琶湖・
淀川水質保全機構,
2008).琵琶湖南湖より瀬田川として流出した琵琶湖水は京都府内で宇治川と名
前を変え,京都府下を流下した桂川,奈良県を流下した木津川と合流し淀川となり,大小合わせて7 本の支流と合流しながら大阪府北部を南西に流れ,大阪湾に注ぎ込む.猪名川は兵庫県川辺郡猪名 川町を水源とし,渓谷を南流して,屏風岩の狭窄部を通って,流下し,大小合わせて42本の支流と 合流しながら大阪府・兵庫県を流下して神崎川と合流した後,大阪湾に注ぎ込む.神崎川は大阪府 北部から兵庫県東南部に流れる一級河川である.琵琶湖へは119本の河川が流入している.淀川水系 に居住する住民は淀川水系の河川水を上水道として利用する一方で,下水処理した水を放流してい る(Fig 1).Fi g. 1. S am pl in g st at io ns .
方 法 1)試料採取
試料採取点を
Fig.1に示した.河川水試料は2007年11月(第1回),2008年2月(第2回),5月(第3
回),8月(第4回),11月(第5回),2009年2月(第6回),5月(第7回),8月(第8回)に淀川水系 全体から採取した.また,試料採取点の河川名,地質,河底の構造,実際の底質,護岸の種類は付 表1に示した.またFig.1の試料番号0101から2301は淀川−猪名川水系水,2400から3002は琵琶湖流
入河川水とする.2)現地での観察と分析作業
河川水試料の採取は,通常,流央で行うことが原則であるが,流央での採水が困難な場合は岸か ら採取可能な範囲でバケツにより採取した.なお,岸に近い採水では,停滞による流れや,採取地 点の土地利用などの影響を受けやすので,試料採取位置は河川の右岸,左岸,中央か,また,土地 利用状況,底質についても記載した.試料採取現場においては,気温,水温,pH(pH試験紙によ る分析)を測定し,採取後の試料は50mlのシリンジに吸引し
GF/Fフィルター(平均孔径0.7μm:
Whatman
社製)でろ過して,100mlのポリエチレンビンに冷蔵保存して研究室に持ち帰った.この作業によって,バクテリアの活動に伴う試料の劣化を遅らせることができる.また,ろ過に用いた 後のフィルターは色相をカラーチャートにより識別し記載した.
3)室内での分析
室内に持ち帰った試料の分析項目と分析方法は以下の通りである.
Na
およびK:フレーム原子吸光法により行った.なお分析にはSEIKO
社製AAS7000型原子吸光光
度計を用いた.Ca
およびMg:Caはヒドロキシナフトールブルー(HNB)を指示薬としたエチレンジアミン四酢 酸(EDTA)によるキレート滴定により行った.またMg
はBT指示薬を用いたEDTAによるキレー ト滴定により行った.Cl
−,F−,Br−,NO3−,PO43−,SO42−の各イオン:イオンクロマトグラフ法により定量を行った.なお,分析には
Dionex 社製 IC-2000型イオンクロマトグラフ装置を用いた.
アルカリ度:ブロムクレゾールグリーン―メチルレッド(BCG-MR)を指示薬とし,塩酸による 中和滴定により求めた.
上記の分析は大阪市立大学大学院理学研究科と基礎教育実験棟の施設を用いて行った.
総窒素(TN)および総リン(TP):総窒素の分析は試料水5mlを50ml容量のガラス製耐圧瓶に移 し,混合試薬(水酸化ナトリウム1.5g,ペルオキシ二硫酸カリウム5g,四ホウ酸二ナトリウム3gを
500ml
の純水に溶解したもの)を5ml添加し,恒温電気乾燥器内で120℃,30分間加熱した.分解後の溶液は自動分析装置(BRAN+LUEBBE社製 AACS-II)にて分析した.総リンの分析は試料水
5ml
を50ml容量のガラス製耐圧瓶に移し,混合試薬(ペルオキシ二硫酸カリウム5gを5%-硫酸100ml に溶解したもの)を0.4ml添加し,恒温電気乾燥器内で120℃,30分間加熱した.分解後の溶液は自 動分析装置(BRAN+LUEBBE社製 AACS-II)にて分析した.SiO
2:試料水にモリブデン酸ナトリウム加え生成したケイモリブデン酸を塩化スズにより還元 し,生じる青色のケイモリブデン錯体を吸光光度法で測定した.なお分析には自動分析装置(BRAN+LUEBBE社製 AACS-II)を用いた.
重金属類(Al,Fe,Mn,Cr,Ni,Cu,Pb,Zn,As,Cd)の分析は島津製作所製
ICPM-8500型誘
導結合プラズマ−質量分析装置(ICP-MS)により分析を行った.なお,塩分濃度の比較的高い試料 については,日立ハイテクノロジーズ社製キレート樹脂カラム(ノビアスPA-1)により脱塩・濃縮
を行い,分析を行った(中口譲,藤田昭紀,
2009).上記の分析は近畿大学理工学部理学科地球化学
研究室ならびに近畿大学共同利用センターの施設を用いて行った.4)トリリニアダイアグラムの作成
トリリニアダイアグラムはインターネット上
Catch My Earth.com
に公開されているトリリニアダ イアグラム(パイパープロット)自動作成プログラムを使用した(濱田洋平,2003).結果と考察
2007年11月〜2009年8月(第1〜8回)の試料採取時に実施した現場での観察・分析データおよび室
内分析の結果を付表2〜9に,また,2009年5月および8月に採取した試料中の重金属(Al,Fe,Mn,Cr, Ni, Cu,Pb, Zn,As,Cd)の分析結果を付表10にそれぞれ示した.これらの結果から淀川水系
の水質の特徴を説明する.なお,各種イオン成分,富栄養化関連物質の濃度については2008年に採 取した4回(2, 5, 8, 11月)の平均値を用いて考察した.また重金属類については,2009年5,8月の分 析結果の平均値から考察した.
1)トリリニアダイアグラムによる河川水の分類
河川水や地下水の水質特性は化学成分の濃度の大小や化学成分の当量値の大小によって示され,
それを図式化することにより把握しやすくすることができる.その一つの手法としてトリリニアダ イアグラムがあげられる.トリリニアダイアグラムをFig.2に示したが,トリリニアダイアグラムと は主要溶存化学成分である陽イオン(Na,K,Ca ,Mgの当量値)と陰イオン(アルカリ度≒HCO3
−,
Cl
−,SO
42−の当量値)の当量%割合を左右の三角座標に示し,さらに,その結果を中央のひし形 ダイアグラムにも投影するものである.このダイアグラムにはNa+K ,Ca+Mg,Cl+ SO
4,HCO3の 当量値をプロットしており,日本地下水学会による分類(日本地下水学会編2009)に従えば,試料 水の水質を,Ⅰ:アルカリ土類非炭酸塩型(Ca-SO4,Mg-SO4,Ca-Clタイプ:熱水,化石水起源),Ⅱ:アルカリ土類炭酸塩型(Ca-HCO3タイプ:浅層地下水起源),Ⅲ:アルカリ非炭酸塩型(Na-Cl タイプ:海水起源),Ⅳ:アルカリ炭酸塩型(Na-HCO3タイプ:深層停滞地下水起源)に分類するこ とができる.なお,これ以外の領域に分類される河川水は混合領域型(Mixタイプ:M1
,M
2)とする.2008年に採取した全河川水試料をトリリニアダイアグラムにより分類した.淀川−猪名川水系の河
川水の分類結果をFig.2(A)に示したが,河川水は,Ⅱ:アルカリ土類炭酸塩型(以後 Ca-HCO
3タ イプと表記),Ⅲ:アルカリ非炭酸塩型(Na-Clタイプと表記),混合領域(M1およびM2.以降Mix タイプと表記)に分類された.琵琶湖流入河川の結果をFig.2(B)に示したが,琵琶湖流入河川は,Ⅱ:
Ca-HCO
3タイプ,Ⅲ:Na-Cl
タイプ,混合領域(Mixタイプ:M1)に分類された.トリリニアダ イアグラムにより各試料採取点のタイプ別分類結果をFig.1
(試料採取点上に重ねて表示した)と付 表1にそれぞれ示した.分類の結果,Ca-HCO3タイプに分類されたのは桂川・鴨川(0202〜0206),宇治川・瀬田川・大戸川
(0301〜0307),天野川(0501〜0504),保谷川(0602),舟橋川(0701),大谷川(0801, 0802),寝屋 川(0905),第二寝屋川(0907)恩智川(0908),猪名川上流(1102〜1107),千里川(1201,1202),
箕面川(1301〜1303),余野川(1401〜1403),大路川(1501〜1503),初谷川(1601),田尻川
(1701, 1702),川辺川(1801, 1802),安威川(1902〜1904),東掛川(1905),栢川(1906),勝尾寺 川(2001)芥川・田能川・出灰川(2101〜2107),桧尾川(2201),水瀬川(2301)であり,これら 試料採取点の多くは山間部に位置しており,河川の底質もほとんどが自然底である(付表1).特に 猪名川,余野川,芥川の上流の地質は花崗岩,角閃石,流紋岩で構成されており,これらの地質を
構成している造岩鉱物の風化分解の結果を反映しているものと考えられる.また,
Na-Clタイプに分
類されたのは,淀川河口付近(0101, 0102, 0103),神崎川(1001, 1002, 1004),堂島川(0901),寝 屋川(0903, 0904),猪名川(1101)である.河口に近い採取点は大阪湾海水の流入による影響が強 いと考えられるが,寝屋川はNaやCl濃度は海水レベルにはなく,海水流入の可能性は極めて低い.従ってこの河川の
NaやCl
は生活排水に由来するものと考えられる.また,淀川(0104〜0107),桂 川(0201),木津川(0401〜0404),舟橋川(0702),寝屋川(0902),神崎川(1003)そして安威川(1901)は
Mixタイプに分類された.Mixタイプの水質は上流において風化により溶解した地質構成
成分に,生活排水や農業排水などから供給されたNaやCl
が負荷されたものと考えられる.琵琶湖流入河川水のほとんどは
Ca-HCO
3タイプに分類された.琵琶湖への流入河川の試料採取点 の地質はそのほとんどが礫・砂及び泥であり,これらを構成している鉱物の化学的風化作用の影響 と考えられる.草津川(2400)はMixタイプ,野洲川河口(2401)はNa-Clタイプに分類された.草
津川ならびに野洲川流域は人口が密集した地域であり,生活排水など人為的影響が大きいと考えら れる.Fig.2. Trilinear diagram.
2)河川水中のアルカリ金属濃度の広域分布
①淀川水系・猪名川水系の
Na
濃度先の河川水の分類においてタイプ別に分類した河川水中の
Na
濃度の平均値と変動係数をTable 1 に示した.各試料採取点のNaの平均値,標準偏差と変動係数をTable 2にそれぞれ示した.
河川水中のNaはCa-HCO3タイプに分類される山間部における平均濃度は13.1 mg/L,
Mixタイプに
分類される河川では18.0 mg/L,Na-Cl
タイプでは約1.4 g/Lであり,Na-Clタイプに分類された河川で はNaのみならず,K,Ca,Mg,Cl−,SO42−,F−,Br−が相対的に高い値を示した.各採水地点の平均値をみると,淀川河口,神崎川河口は大阪湾の海水が流入するため
Naの平均濃
度は淀川河口(0101〜0103)で3360〜5217 mg/L,神崎川河口(1001,1002)で1804〜2259 mg/Lと高
く,大阪湾海水の影響を強く受ける.一方,河口域では採水時間により潮位が変動するため,淡水 による希釈の影響を受けるため濃度の変動は大きい.特に堂島川(0901)はNaの平均濃度は745mg/L
と比較的高く,しかも濃度の変動も大きく,海水の影響を強く受けている.それに対し,寝屋川(0902)や猪名川(1101)の平均濃度はそれぞれ30.0,59.0mg/Lと,汽水域に比べて低いものの,山 間部に比べると高い.寝屋川や猪名川は住宅密集地域にあり,比較的高濃度を示した原因は海水の 流入とは異なるもの,例えば,食卓塩など調味料に含まれるNaが生活排水とともに付加された結果 と考えられる.淀川大堰より上流の淀川本流(0104〜0107)の
Na
濃度の平均値は14.5〜15.1 mg/L,河口域や大阪都市部に比べると低い.桂川(0201, 0202)ではNa濃度の平均値は15.6〜18.1 mg/Lで あり,その上流(0203〜0206)での値6.76〜7.59 mg/Lに比べると高く,京都市内を流下する過程で 人為的な負荷があったものと考えられる.木津川(0401〜0404)の
Naの平均値は8.36〜11.4 mg/Lで
あり,上流から下流にいくに従い濃度は増加する傾向を示し,桂川と同様に奈良県を流下する過程 で人為的負荷があったものと考えられる.寝屋川(0903, 0904, 0909),平野川(0906),第二寝屋川(0907)もMixタイプに分類されるが,平均値は32.3〜47.9 mg/Lであり比較的Na濃度は高い,この 試料採取点は住宅密集地にあり,
Naの起源は様々な生活排水に由来するものと考えられる.神崎川
(1003,1004)はそれぞれ27.9,
50.1 mg/L である.淀川水系において Na
濃度が増加する原因の一つに 下水処理水の寄与が考えられる.桂川(0201)や木津川(0401),猪名川(1101),寝屋川(0909)の上流には下水処理場があり,下水処理の最終工程に塩素殺菌が行われている.塩素殺菌には様々 な化学薬品が用いられるが,一般的には次亜塩素酸ナトリウムが用いられており,下水処理場の下 流に位置する採水点において
Naが増加する原因の一つに殺菌処理後の下水処理水の放流が考えら
れる.特に,神崎川(1004,1101)が高い値を示した理由としては,上流の下水処理場(高槻水み らいセンターと原田水みらいセンター)の下水処理水の影響と考えられる.NaやCl−濃度が比較的 高い河口域や都市域においては,K,Ca,Mg,SO42−,Br−は良く似た分布傾向を示した.②琵琶湖流入河川水中の
Na濃度
琵琶湖流入河川水のほとんどが
Ca-HCO
3タイプを示し,このタイプのNaの平均値は6.75mg/Lで
あった.野洲川(2401)はNa-Clタイプに分類されたが Naの平均値は28.9 mg/L
であり,草津川(2400)はMixタイプに分類されたが,Naの平均値は19.0mg/Lであった.Na-Cl,Mixタイプ河川水 のNa濃度は高い.その他の各採水地点の平均値をみると,野洲川(2402),日野川(2501)の河口
域の
Na濃度が比較的高く,それぞれ,15.3, 12.6mg/L
であった.これら河川はいずれも都市化が進行し,住宅地や工業が発展している地域の下流域にあたり,生活排水などの汚染負荷量が多い地域 と考えられる.従って,これら水域のNa濃度の増加は人為起源によるものと考えられる.
3)河川水中の富栄養化関連物質濃度
Table 1. Average concentrations of ions and compounds in the Yodo River system.
Na
+13.1 ± 8.03 1359 ± 2222 18.0 ± 13.0 6.75 ± 4.34 28.9 ± 10.6 19.0 ± 4.24 K
+2.43 ± 1.62 64.3 ± 94.7 3.86 ± 2.48 1.46 ± 0.97 3.00 ± 0.43 3.40 ± 0.68 Ca
2+24.7 ± 12.1 80.2 ± 99.0 23.3 ± 20.2 15.4 ± 5.81 22.4 ± 4.73 22.7 ± 3.12 Mg
2+3.26 ± 2.34 223 ± 398 2.76 ± 1.59 2.39 ± 1.30 3.69 ± 2.98 4.68 ± 0.77 Cl- 12.0 ± 7.70 2481 ± 4194 23.6 ± 33.8 7.44 ± 6.38 44.5 ± 24.7 22.2 ± 6.23 SO
43-16.7 ± 12.6 347 ± 548 17.5 ± 9.3 10.0 ± 5.32 19.9 ± 3.41 23.8 ± 5.39
F
-0.19 ± 0.14 1.91 ± 5.04 0.12 ± 0.04 Br
-0.01 ± 0.03 8.14 ± 14.7 0.04 ± 0.10
SiO
26.76 ± 2.55 4.67 ± 2.06 5.07 ± 1.99 5.06 ± 1.40 6.39 ± 0.53 7.30 ± 2.62 Total N 1.38 ± 1.09 5.10 ± 4.99 2.74 ± 3.52 0.81 ± 0.41 0.81 ± 0.16 0.86 ± 0.16 Total P 0.08 ± 0.12 0.48 ± 0.48 0.17 ± 0.23 0.01 ± 0.01 0.02 ± 0.01 0.01 ± 0.01
unit: mg/L
― ― ―
CaHCO
3-type (52) NaCl-type (4) The river around the Lake Biwa (n) Mix-type (3)
― ― ―
Ion or
compoun The Yodo River and the Ina River (n) CaHCO
3- type (231) NaCl-type (51) Mix-type (63)
Table 2. Average concentrations of sodium ion in the Yodo River system.
C.V.(%) C.V.(%) C.V.(%)
0101 5217 ± 3632 69.6 0902 30.0 ± 13.4 44.8 1801 7.76 ± 1.32 17.1 0102 3816 ± 2666 69.9 0903 38.9 ± 8.82 22.7 1802 6.43 ± 0.86 13.4 0103 3360 ± 2331 69.4 0904 53.2 ± 6.54 12.3 1901 49.2 ± 28.0 56.9 0104 15.1 ± 3.56 23.6 0905 13.8 ± 3.00 21.8 1902 11.6 ± 2.38 20.5 0105 14.9 ± 3.88 26.0 0906 50.9 ± 17.8 35.0 1903 10.8 ± 0.65 6.0 0106 14.5 ± 3.81 26.2 0907 28.7 ± 6.50 22.6 1904 9.68 ± 0.69 7.2 0107 14.6 ± 3.60 24.6 0908 37.8 ± 7.88 20.9 1905 8.66 ± 3.74 43.2 0201 19.8 ± 6.64 33.6 0909 43.4 ± 17.6 40.6 1906 13.0 ± 10.3 79.3 0202 17.8 ± 8.67 48.7 1001 1804 ± 910 50.4 2001 13.1 ± 1.77 13.5 0203 7.75 ± 2.01 25.9 1002 2259 ± 2018 89.3 2101 9.10 ± 1.83 20.1 0204 7.55 ± 1.78 23.5 1003 25.7 ± 6.50 25.3 2102 6.93 ± 1.07 15.5 0205 8.51 ± 1.72 20.1 1004 49.9 ± 24.4 49.0 2103 9.03 ± 2.54 28.2 0206 7.38 ± 2.09 28.4 1101 59.0 ± 26.0 44.2 2104 9.06 ± 4.55 50.2 0301 13.4 ± 2.07 15.4 1102 15.7 ± 4.43 28.3 2105 4.87 ± 1.04 21.4 0302 13.5 ± 2.92 21.5 1103 11.7 ± 1.45 12.4 2106 5.45 ± 1.49 27.3 0303 12.2 ± 0.93 7.6 1104 10.1 ± 2.47 24.5 2107 4.30 ± 0.59 13.8 0304 12.3 ± 1.30 10.5 1105 9.36 ± 2.59 27.7 2201 15.3 ± 10.1 65.8 0305 13.3 ± 1.53 11.6 1106 9.88 ± 1.73 17.5 2301 9.00 ± 2.51 27.9 0306 7.00 ± 1.27 18.2 1107 7.01 ± 2.32 33.1 2400 19.0 ± 4.24 22.4 0307 8.43 ± 2.36 28.1 1201 22.9 ± 3.25 14.2 2401 28.9 ± 10.6 36.5 0401 12.5 ± 4.27 34.1 1202 29.7 ± 3.73 12.6 2402 15.3 ± 8.06 52.8 0402 11.4 ± 2.84 25.0 1301 16.4 ± 2.85 17.4 2501 12.6 ± 4.39 34.8 0403 10.2 ± 1.88 18.4 1302 23.9 ± 11.6 48.7 2502 8.55 ± 3.82 44.7 0404 8.22 ± 1.65 20.0 1303 6.97 ± 0.91 13.0 2601 7.43 ± 2.66 35.8 0501 29.1 ± 6.21 21.4 1401 14.7 ± 6.57 44.6 2602 4.11 ± 0.53 12.9 0502 22.0 ± 5.27 23.9 1402 9.04 ± 1.18 13.1 2701 4.47 ± 0.92 20.6 0503 17.9 ± 4.51 25.2 1403 8.31 ± 1.22 14.7 2702 3.81 ± 0.49 13.0 0504 14.1 ± 3.54 25.2 1501 9.56 ± 0.91 9.5 2801 5.03 ± 0.48 9.55 0601 25.9 ± 4.77 18.4 1502 10.1 ± 3.39 33.6 2802 4.77 ± 0.71 14.9 0602 27.6 ± 12.9 46.8 1503 8.54 ± 1.38 16.1 2803 4.11 ± 1.26 30.5 0701 19.8 ± 8.74 44.2 1504 8.21 ± 1.26 15.3 2901 7.39 ± 2.13 28.8 0702 23.7 ± 10.5 44.4 1601 9.25 ± 1.13 12.2 2902 6.60 ± 0.83 12.5 0801 15.9 ± 2.51 15.8 1701 9.56 ± 1.76 18.4 3001 6.16 ± 0.52 8.44 0802 16.6 ± 2.96 17.8 1702 17.3 ± 13.3 77.2 3002 3.24 ± 0.15 4.69
0901 745 ± 954 128
Sampling
station Na (mg/L) Sampling
station Na (mg/L) Sampling
station Na (mg/L)
Average ± STD Average ± STD Average ± STD
Table 3. Average concentrations of total nitrogen in the Yodo River system.
C.V.(%) C.V.(%) C.V.(%)
0101 1.61 ± 1.50 93.2 0902 3.33 ± 1.62 48.6 1801 0.82 ± 0.31 37.1 0102 1.04 ± 0.23 22.1 0903 6.02 ± 1.99 33.0 1802 0.52 ± 0.21 40.8 0103 1.07 ± 0.27 24.9 0904 8.74 ± 2.11 24.2 1901 5.74 ± 3.03 52.9 0104 1.77 ± 1.22 68.9 0905 1.40 ± 0.42 30.3 1902 1.37 ± 1.18 86.4 0105 1.47 ± 0.80 54.1 0906 6.17 ± 2.49 40.3 1903 1.77 ± 1.38 78.1 0106 1.25 ± 0.41 33.0 0907 2.80 ± 0.32 11.5 1904 1.59 ± 1.24 78.4 0107 1.57 ± 0.48 30.5 0908 5.47 ± 2.70 49.4 1905 0.76 ± 0.17 22.6 0201 2.77 ± 1.18 42.5 0909 7.59 ± 4.32 57.0 1906 1.41 ± 1.26 89.0 0202 2.58 ± 0.72 28.1 1001 3.02 ± 0.83 27.6 2001 1.16 ± 0.32 27.5 0203 0.91 ± 0.12 12.9 1002 2.98 ± 0.69 23.0 2101 1.38 ± 0.90 65.1 0204 0.82 ± 0.19 23.8 1003 2.19 ± 0.32 14.6 2102 0.92 ± 0.26 28.1 0205 0.76 ± 0.10 12.9 1004 6.91 ± 3.91 56.5 2103 1.17 ± 1.04 88.8 0206 1.43 ± 0.51 35.6 1101 13.8 ± 12.2 88.4 2104 1.49 ± 1.18 79.2 0301 0.97 ± 0.73 75.2 1102 1.10 ± 0.26 23.7 2105 1.05 ± 0.65 61.5 0302 0.94 ± 0.42 44.1 1103 1.21 ± 0.70 57.7 2106 1.03 ± 0.25 24.6 0303 0.65 ± 0.08 12.5 1104 0.92 ± 0.42 45.6 2107 1.14 ± 0.49 42.9 0304 0.84 ± 0.44 52.8 1105 0.81 ± 0.60 74.4 2201 1.02 ± 0.57 55.8 0305 0.94 ± 0.68 71.9 1106 0.60 ± 0.08 13.8 2301 1.86 ± 1.16 62.2 0306 0.76 ± 0.26 34.5 1107 0.70 ± 0.40 57.6 2400 0.86 ± 0.16 18.2 0307 0.83 ± 0.31 37.8 1201 1.19 ± 0.71 59.7 2401 0.81 ± 0.16 19.4 0401 1.90 ± 0.76 40.0 1202 1.17 ± 0.83 70.9 2402 0.88 ± 0.14 15.6 0402 2.53 ± 1.03 40.7 1301 3.04 ± 1.17 38.5 2501 1.39 ± 0.79 56.9 0403 2.22 ± 1.24 56.0 1302 1.16 ± 0.43 37.4 2502 0.97 ± 0.26 26.5 0404 2.21 ± 1.47 66.3 1303 1.47 ± 0.43 29.6 2601 0.44 ± 0.09 20.1 0501 2.32 ± 0.79 34.1 1401 1.28 ± 0.28 22.0 2602 0.67 ± 0.27 40.2 0502 2.13 ± 0.92 43.1 1402 1.27 ± 0.43 33.9 2701 0.78 ± 0.20 26.0 0503 1.74 ± 0.53 30.4 1403 1.55 ± 1.31 84.6 2702 0.44 ± 0.09 21.4 0504 1.71 ± 0.33 19.3 1501 1.00 ± 0.18 17.6 2801 0.68 ± 0.22 32.7 0601 5.03 ± 3.74 74.3 1502 1.02 ± 0.29 27.9 2802 0.78 ± 0.50 64.7 0602 3.91 ± 2.84 72.7 1503 0.92 ± 0.23 25.2 2803 0.48 ± 0.22 44.9 0701 1.81 ± 1.00 55.1 1504 0.77 ± 0.24 31.9 2901 0.73 ± 0.17 23.4 0702 8.61 ± 11.71 136 1601 1.62 ± 1.03 63.4 2902 0.80 ± 0.19 23.7 0801 1.44 ± 0.26 18.0 1701 1.31 ± 0.83 63.5 3001 1.49 ± 0.55 36.5 0802 1.41 ± 0.37 26.0 1702 1.26 ± 0.42 33.0 3002 0.80 ± 0.28 35.0 0901 4.44 ± 0.78 17.6
Sampling station
Total nitrogen (mg/L) Sampling station
Total nitrogen (mg/L) Sampling station
Total nitrogen (mg/L)
Average ± STD Average ± STD Average ± STD
富栄養化を示す物質には窒素とリンの化合物があげられる.ここでは,全窒素と全リンの分布傾 向を示す.
①淀川水系・猪名川水系の全窒素,全リン濃度
河川水中の全窒素(TN),全リン(TP)については生活環境の保全に関する環境基準が定められ ており,I類(自然探勝等の環境保全)では全窒素が0.1 mg/L以下,全リンが0.005 mg/L以下,V類
(工業・農業用水)ではそれぞれ1mg/L以下,0.1 mg/L以下と定められている.また,水質汚濁防止 法に基づく排水規制では,日平均排水量50m3以上の特定事業場について,窒素含有量の許容限度を
120mg/L(日間平均値60mg/L),リン含有量については16mg/L(日間平均値8mg/L)と定めている.
タイプ別に分類した河川水中の
TN,TP
濃度の平均値と変動係数をTable 1示した.また,各試料
採取点の
TNの平均値,標準偏差と変動係数(2008年)を Table 3に示した.タイプ別に分類した河川
水中のTNの平均濃度は,
Ca-HCO
3タイプに分類される山間部における平均濃度は1.38 mg/L,Mixタ
イプに分類される河川では2.74mg/L, Na-Clタイプでは5.10mg/Lであり,山間部から住宅の密集する 都市域に向かって濃度は増加した.また,各試料採取点の平均値をみると,淀川・猪名川水系の採 水点の中でTNの平均値が1mg/L
を超えた地点は67ヶ所あり,猪名川(1101),寝屋川(0903, 0904,0909,),平野川(0906),恩智川(0908),保谷川(0601)舟橋川(0702),安威川(1901)神崎川
(1004)は5mg/Lを超えていた.これら採水点のほとんどがNa-Clタイプまたは
Mixタイプに分類され
た河川であり,都市の住宅地や工場が密集した地域にあるため,
TN
の主な起源は生活排水と考えら れる.最も高い濃度を示した猪名川(1101)についてみると,TN濃度はその地点より1つ上流に位 置する採水点(1102)の約12倍高い値となっている.この採水点で全窒素濃度が急激に増加した最 大の原因は,下水処理場である.本プロジェクト研究の一環として,淀川水系の下水処理場19ヶ所 から下水処理水(26試料)の提供を受け,TNの分析を行った.その結果,TN
濃度は3.98〜12.1 mg/L
で,その平均値は8.09±2.07 mg/Lであった.この値は排水基準を十分に下回っているものの,猪名 川では下水処理場からの放流水量に比べて河川水量が少ないため,高濃度を示したと考えられる.タイプ別に分類した河川水中の
TP
の平均値をみると(Table 1),Ca-HCO3タイプに分類される山 間部における平均濃度は0.08 mg/L,Mixタイプに分類される河川では0.17mg/L, Na-Clタイプでは0.48mg/Lであり, TN
と同様に,山間部から住宅の密集する都市域に行くに従い濃度は上昇した.また,各試料採取点のTPの平均値,標準偏差と変動係数(2008年)をTable 4に示したが,淀川・猪 名川水系の採水点の中で平均値が0.1 mg/Lを超えた地点は31ヶ所あった.その中でも寝屋川(0903,
0904),猪名川(1101),平野川(0906),安威川(1901),舟橋川(0702)は0.5 mg/Lを超えていた.
TPが高濃度を示した地点は,先の TN
と同様にNa-Clタイプまたは Mixタイプに分類された河川が多
く,高濃度の原因はTNと同様に生活排水や下水処理場からの放流水の影響と考えられる.下水処 理水中の
TPの分析を行った結果, TP濃度は0.08〜1.54 mg/L
で,その平均値は0.56±0.51 mg/Lであっ た.この値は排水基準を大きく下回っているが,全窒素と同様に下水処理場からの放流水が河川水 量に比べて大きいため,比較的高濃度となったものと考えられる.②琵琶湖流入河川中の
TN,TP濃度
タイプ別に分類した河川の
TN
濃度の平均値については,Ca-HCO
3タイプに分類された河川水の平 均値は0.81mg/Lであり,Na-Clタイプ(野洲川2401)は0.81 mg/L,はMixタイプ(草津川2400)は
0.86mg/Lであり,琵琶湖流入河川の TN
の3つのタイプの平均値に差は認められなかった.各採水地点別にみると,日野川(2501)と相模川(3001)の平均値は1mg/Lを超えていた.
タイプ別に分類した河川の
TP
濃度の平均値については,Ca-HCO3タイプに分類された河川水は0.01mg/Lであり, Na-Cl
タイプ(野洲川2401)は0.02 mg/L,Mixタイプ(草津川2400)は0.01mg/Lで
あった.各採水点別にみると,最も高濃度を示したのは日野川(2501)で,0.03mg/Lであった.4)河川水のケイ酸濃度
タイプ別に分類した河川水中のケイ酸(SiO2)の平均値をみると(Table 1),
Ca-HCO
3タイプに分 類される山間部におけるSiO2の平均濃度は6.76 mg/Lであり,それに対しMixタイプに分類される河
川では5.07 mg/L, Na-Clタイプでは4.67 mg/Lであった.SiO
2はその起源がアルミノケイ酸塩など造岩 鉱物の風化溶解によるものと考えられるため,山間部では濃度は高く,下流に行くに従い濃度は低 くなる傾向にある.また,各試料採取点のSiO
2の平均値,標準偏差と変動係数(2008年)をTable 5 に示した.淀川本流のSiO
2の平均値についてみると,河口域(0101〜0103)では1.81〜1.94mg/Lと 低い値を示しており,淀川大堰より上流(0104〜0107)では2.57〜3.80 mg/Lで,河口付近に比べる と高い値を示すものの,全体的に見ると濃度は低い.淀川本流の水は,宇治川,木津川,桂川の水 から成っており,一年間の総流量から合流3河川の淀川水への寄与率を見積もることができる.例え ば2001年1月〜12月の年間総流量から見積もられた3河川の寄与率は宇治川65.8%,木津川18.5%そし て桂川は15.7%であり(中口譲ら,2005),宇治川が淀川河川水に最も影響を及ぼすことが予想され
る.宇治川の水はそのほとんどが瀬田川すなわち琵琶湖水を起源としている.琵琶湖におけるSiO2の濃度は周期的に変動することが知られており,
5月が最も濃度が低く, 10月が最も高く琵琶湖南湖
Table 4. Average concentrations of total phosphorous in the Yodo River system.
C.V.(%) C.V.(%) C.V.(%)
0101 0.12 ± 0.06 53.5 0902 0.26 ± 0.21 78.9 1801 0.07 ± 0.05 75.2 0102 0.12 ± 0.11 91.7 0903 0.75 ± 0.30 40.1 1802 0.01 ± 0.01 43.1 0103 0.12 ± 0.09 75.2 0904 1.41 ± 0.39 27.8 1901 0.68 ± 0.35 51.4 0104 0.12 ± 0.07 54.9 0905 0.04 ± 0.03 69.3 1902 0.04 ± 0.02 59.2 0105 0.07 ± 0.01 10.9 0906 0.85 ± 0.45 53.1 1903 0.10 ± 0.12 114 0106 0.07 ± 0.02 33.0 0907 0.26 ± 0.01 3.75 1904 0.04 ± 0.02 40.6 0107 0.08 ± 0.03 33.6 0908 0.34 ± 0.06 18.9 1905 0.05 ± 0.03 55.6 0201 0.21 ± 0.15 70.6 0909 0.44 ± 0.15 33.2 1906 0.04 ± 0.01 21.4 0202 0.11 ± 0.08 70.4 1001 0.28 ± 0.08 27.2 2001 0.03 ± 0.02 55.9 0203 0.03 ± 0.01 38.0 1002 0.22 ± 0.05 21.8 2101 0.05 ± 0.01 20.1 0204 0.03 ± 0.01 29.6 1003 0.17 ± 0.02 9.43 2102 0.05 ± 0.02 35.2 0205 0.03 ± 0.01 36.6 1004 0.38 ± 0.10 26.5 2103 0.04 ± 0.02 50.9 0206 0.03 ± 0.00 13.7 1101 0.98 ± 0.82 83.4 2104 0.22 ± 0.20 89.1 0301 0.04 ± 0.01 39.4 1102 0.04 ± 0.02 43.3 2105 0.02 ± 0.00 15.0 0302 0.02 ± 0.00 19.2 1103 0.04 ± 0.01 33.3 2106 0.04 ± 0.02 69.3 0303 0.03 ± 0.02 59.3 1104 0.04 ± 0.02 44.2 2107 0.04 ± 0.02 45.1
0304 0.04 ± 0.05 117 1105 0.03 ± 0.02 57.3 2201 0.07 ± 0.04 52.8
0305 0.01 ± 0.01 61.1 1106 0.02 ± 0.01 55.7 2301 0.06 ± 0.07 110
0306 0.03 ± 0.01 44.0 1107 0.06 ± 0.06 100 2400 0.01 ± 0.01 69.3
0307 0.02 ± 0.00 12.1 1201 0.08 ± 0.06 79.6 2401 0.02 ± 0.01 51.4
0401 0.07 ± 0.02 32.2 1202 0.05 ± 0.06 112 2402 0.01 ± 0.00 30.5
0402 0.11 ± 0.08 71.7 1301 0.04 ± 0.00 9.56 2501 0.03 ± 0.02 66.2 0403 0.05 ± 0.03 63.4 1302 0.04 ± 0.01 35.6 2502 0.02 ± 0.01 54.4 0404 0.06 ± 0.02 30.3 1303 0.07 ± 0.04 49.4 2601 0.01 ± 0.01 102 0501 0.25 ± 0.06 22.4 1401 0.05 ± 0.01 19.9 2602 0.02 ± 0.02 105 0502 0.18 ± 0.05 26.7 1402 0.05 ± 0.01 16.7 2701 0.01 ± 0.00 36.6 0503 0.12 ± 0.04 31.9 1403 0.05 ± 0.03 52.2 2702 0.01 ± 0.01 78.0 0504 0.09 ± 0.04 42.7 1501 0.04 ± 0.01 33.9 2801 0.01 ± 0.00 71.5 0601 0.27 ± 0.11 38.7 1502 0.05 ± 0.01 27.9 2802 0.01 ± 0.01 80.9 0602 0.22 ± 0.09 40.4 1503 0.03 ± 0.01 37.5 2803 0.02 ± 0.02 104 0701 0.17 ± 0.07 41.0 1504 0.02 ± 0.01 23.6 2901 0.02 ± 0.01 69.1 0702 0.52 ± 0.42 80.5 1601 0.05 ± 0.01 17.2 2902 0.01 ± 0.01 57.3 0801 0.08 ± 0.03 31.9 1701 0.07 ± 0.03 44.0 3001 0.02 ± 0.02 111
0802 0.03 ± 0.01 45.1 1702 0.51 ± 0.69 134 3002 0.01 ± 0.01 107
0901 0.32 ± 0.08 26.0 Sampling
station Total phosphorus Sampling
station Total phosphorus Sampling
station Total phosphorus
Average ± STD Average ± STD Average ± STD
の最高値は3.8 mg/Lで平均値は2.0 mg/Lである(藤永太一郎,堀智孝,1982).琵琶湖水は南湖から 瀬田川水として流出した後,天ケ瀬ダムに蓄えられる.湖やダムにおいては
SiO
2濃度が河川水に比 べて低くなると言われているが,その原因の一つに,晩秋から初冬にかけて繁殖する珪藻による取 り込み(根来健一郎ら,1966)があげられる.また河口付近で砂質泥によるSiO2の吸着除掃(堀太 郎ら,1969)も原因と考えられている.このようにSiO
2濃度が低くなった琵琶湖水や天ケ瀬ダム貯 留水の淀川への流入が淀川本流のケイ酸の低濃度の原因と考えられる.5)河川水中のフッ化物イオン濃度
タイプ別に分類した河川水中のフッ化物イオン(F−)の平均値をみると(Table 1),Ca-HCO3タ イプに分類される山間部におけるF−の平均濃度は0.19 mg/Lであり,それに対しMixタイプに分類 される河川では0.12 mg/L, Na-Clタイプでは1.91 mg/Lであった.F−は人の健康の保護する環境基準 が定められており,その基準値は0.8mg/L以下と定められている.なお,F−は海水中では自然状態 でも基準値を上回っているため,海水流入域は環境基準値の適用を受けない.
淀川,神崎川水系の河川水において,汽水域を除いた水域で環境基準値を超えていたのは,千里 川(1202)で 0.76〜1.11mg/L(平均0.90 ±0.17mg/L)であり,次に高い値を示したのが箕面川(1302)
で0.22〜1.04mg/L(平均0.66 ±0.35mg/L)であった(付表を参照).これら河川の流れる河川底はと
もに自然底であり,造岩鉱物による風化による影響と考えられる.同様の理由でF−については,海 水のみならず,温泉水中で高濃度を示すことが報告されており,箕面川(1302)については,採水 点付近にある箕面温泉水からの寄与が考えられる.
琵琶湖流入河川中の
F
−濃度については,0.06〜0.19 mg/Lであり,環境基準を上回る河川は認めら
れなかった.6)河川水中の重金属元素濃度
淀川および猪名川水系の河川水中の重金属(Al, Cr, Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, As, Cd, Pb)の分析結果は付 表10に示した.また全河川,Ca-HCO3タイプ,Mixタイプ およびNa-Clタイプに分類した河川中の 微量重金属の平均値と標準偏差をTable 5に示した.
淀川,猪名川水系の
Al
の平均濃度は,Ca-HCO3タイプは25.4μg/L,Mixタイプは36.1μg/L,そし
てNa-Clタイプは23.5μg/Lであり,山間部と汽水域を含む都市部ではほぼ同じくらいで,混合領域
では約10μg/L高い値を示した.Feの全平均濃度は,Ca-HCO
3タイプは35.3μg/L, Mixタイプは31.2
μg/LそしてNa-Clタイプは39.1μg/Lであり,汽水域を含む都市部がやや高い値を示した.Mnの全 平均濃度は,Ca-HCO3タイプは16.6μg/L,Mixタイプは27.7μg/Lそして Na-Clタイプは24.9μg/L
であった.山間部では比較的濃度は低く,混合領域で高い値を示した.Crの平均濃度は,Ca-HCO3タイプは2.42μ
g/L,Mixタイプは2.72μ g/Lそして Na-Clタイプは1.91μ g/L
であった.Niの平均濃 度は,Ca-HCO3タイプは3.55μg/L,Mixタイプは4.13μg/L,そして Na-Clタイプは5.93μg/Lであっ
た.
Niは山間部から混合領域そして汽水を含む都市部にかけて濃度が増加する傾向を示した. Cuの
平均濃度は,Ca-HCO3タイプは2.65μg/L,Mixタイプは3.34μg/L,そして
Na-Clタイプは3.04μg/L
であった.Cuは混合領域の濃度が比較的高い.Pbの平均濃度は,Ca-HCO
3タイプは1.61μg/L,Mix
タイプは1.68μg/LそしてNa-Clタイプは1.54μg/Lであり,山間部から混合領域にかけて大きな濃度 差は認められなかった.Znの平均濃度は,Ca-HCO
3タイプは33.5μg/L,Mix
タイプは33.1μg/Lそし てNa-Clタイプは27.5μg/Lであり, Zn
は山間部から混合領域にかけて濃度差はなく,汽水域で濃度 が低くなる傾向を示した.Asの平均濃度は,Ca-HCO3タイプは1.83μg/L,Mixタイプは0.99μg/L そしてNa-Clタイプは2.09μg/Lであり,As
は山間部の濃度が混合領域に比べて約2倍高い値を示し,汽水域を含む都市部においても高い値となった.山間部の
As
の起源についてはAsを含む泥岩中の 黄鉄鉱の風化により供給されていると考えられる.Cdの平均濃度は,Ca-HCO3タイプは0.29μg/L,Mixタイプは0.39μg/L,そしてNa-Cl
タイプは0.53μg/Lとなり,山間部から混合領域そして汽水域Table 5. Average concentrations of trace metal ions for three categorized river waters in the Yodo River system.
Mix-type (1) NaCl-type (1) Al 25.4 ± 39.3 36.1 ± 49.0 23.5 ± 29.6 13.8 ± 4.04 12.1 9.74
Fe 35.3 ± 63.8 31.2 ± 30.9 39.1 ± 52.3 48.7 ± 63.1 250 27.5
Mn 16.6 ± 24.3 27.7 ± 23.0 24.9 ± 21.4 25.7 ± 30.0 272 9.22
Cr 2.42 ± 0.73 2.72 ± 1.18 1.91 ± 0.90 4.10 ± 0.44 4.26 4.22 Ni 3.55 ± 2.74 4.13 ± 3.21 5.93 ± 9.24 4.53 ± 2.29 7.59 3.37 Cu 2.65 ± 1.58 3.34 ± 1.56 3.04 ± 2.11 2.88 ± 1.08 2.71 3.41 Pb 1.61 ± 0.28 1.68 ± 0.34 1.54 ± 0.60 0.65 ± 0.40 0.43 0.48 Zn 33.5 ± 22.0 33.1 ± 17.2 27.5 ± 26.4 41.7 ± 16.4 46.9 19.1 As 1.83 ± 1.34 0.99 ± 0.78 2.09 ± 1.02 0.93 ± 0.46 0.57 0.32 Cd 0.29 ± 0.16 0.39 ± 0.21 0.53 ± 0.34 0.25 ± 0.00 0.26 0.25
unit:mg/L
Element CaHCO3- type(58)The Yodo River and the Ina River (n) The river around the Lake Biwa (n) NaCl-type (13)
Mix-type (16) CaHCO3- type(14)
を含む都市部にかけて濃度は少しずつ増加する傾向を示した.山間部から混合領域にかけて濃度が
増加する
Al,Mn,Cr,Ni,Cu,Pb,Cd
については人為的にこれら元素が供給されたものと考えられる.
一方,環境基準が定められている
Cd,Cr,As,Pb(環境基準値Cd:0.01mg/L以下;Cr:Cr
6+と して0.05 mg/L以下;As:0.01mg/L以下;Pb:0.01mg/L以下)について今回の分析結果(第7,8回 採水の平均値)で最も高濃度を示した河川は,Cdは第二寝屋川(0907)で1.00μg/L,Crは木津川(0403)で6.11μg/L,Asは山辺川(1802)の6.95μg/L,そして,Pbは寝屋川(0903)で2.65μg/L であった.山辺川(1802)の第8回採水における
As濃度は12.8μ g/Lであり,環境基準値を上回って
いた.この採水点は河川の上流に位置しており,人為的な供給の可能性は小さく,自然起源による 寄与と考えられる.7)重金属濃度間の相関関係と起源の推定
河川水中の微量重金属の濃度間における相関係数を
Table 6に示した.なお,有意性(p
<0.01)が 認められた相関係数の下には二重線を引いた.一方,大気中の元素の起源を推定する試みとして
EF(地殻)値が用いられてきた.EF(地殻)は
以下の式に示されるように,大気中と地殻中の目的元素濃度とアルミニウム濃度比により求められ る.EF
値が1に近ければ,目的元素Xは地殻(岩石)起源と評価することができる.そこで,河川水中の
Alが造岩鉱物からの風化溶解によりもたらされると仮定し,以下の式によりCa-HCO
3タイプ,Mixタイプ,Na-Cl
タイプ,それぞれのEF(地殻)値を求めた.なお地殻中の元素濃度は Masonの
値(松井義人,一国雅巳訳,1970)を用いた.
EF
値をTable 7に示したが,海水の流入が認められる淀川河口(0101〜0103),堂島川(0901),神 崎川河口(1001,1002)のデータは除外した.Al
と高い正の相関を示す元素としてはFe(0.77),Mn(0.67)があげられる.この2つの元素のEF
値をみると,Feは2〜3, Mnは75〜188と他の元素に比べると明らかに小さく, FeやMn
については岩 石の溶解によりもたらされる可能性が最も高い元素と考えられる.Mnについては山間部(Ca-HCO3タイプ)に比べて,山間部の河川に都市排水が付加された(Mixタイプ)のEF値が高くなっている ことから,生活排水からの寄与も考えられる.次にAlと高い正の相関を示すのがCr(0.63)である.
Table 6. Correlation matrices of trace metal concentration in the Yodo and Ina River.
Al Fe Mn Cr Ni Cu Pb Zn As Cd
Al 1
Fe 0.770 1
Mn 0.673 0.769 1
Cr 0.628 0.314 0.337 1
Ni 0.324 0.350 0.367 0.339 1
Cu 0.569 0.491 0.502 0.430 0.436 1
Pb 0.310 0.453 0.382 0.172 0.217 0.327 1
Zn 0.444 0.353 0.216 0.364 0.365 0.468 0.267 1
As 0.050 0.169 0.094 0.159 0.044 0.028 0.271 0.184 1
Cd 0.577 0.653 0.596 0.297 0.480 0.504 0.308 0.326 0.123 1
Double under line:significant level, p < 0.01.Table 7. Crustal enrichment factors of trace metals for three categorized river waters in the Yodo River system.
Element
Fe 3 ± 2 2 ± 2 3 ± 1
Mn 75 ± 95 188 ± 316 113 ± 73
Cr 165 ± 165 152 ± 127 131 ± 135
Ni 297 ± 295 231 ± 163 305 ± 218
Cu 296 ± 268 317 ± 242 393 ± 380
Pb 915 ± 946 931 ± 906 904 ± 1011
Zn 2746 ± 2221 2402 ± 2250 1973 ± 984 As 8275 ± 11466 4087 ± 5883 7347 ± 6991 Cd 9295 ± 8171 10026 ± 8144 12664 ± 8436 CaHCO
3-type Mix-type NaCl-type
EF値は131〜165と比較的小さく,試料のタイプによる差はあまり認められなかった.Cr
についてもその起源は岩石の風化分解や生活排水の付加が考えられた.CdとCuの相関係数はそれぞれ0.58,
0.57であり,有意性は認められている.Cd
のEF値は山間部のCa-HCO3タイプが9295,生活排水が付加された
Na-Clタイプでは12664と比較的高い. Cd
については生活排水の寄与が大きいものと思われるが,起源については不明である.CuのEF値は
Ca-HCO
3タイプが296,Mixタイプが317,Na-Clタ イプが393であり,山間部から生活排水の影響を受ける流域に移行するに従い大きくなる傾向を示し た.Cuについても生活排水の寄与が大きいものと考えられる.AlとNiの相関係数は0.324と低い値 であるが有意性は認められている.EF値はCa-HCO3タイプが297,Na-Clタイプが305とほぼ同じ数 値であり,この元素については岩石の風化以外の起源からの寄与が考えられるが,生活排水からの 寄与は小さいものと考えられる.結 語
2008年から2009年にかけて実施した淀川水系広域調査 プロジェクト Y
の一端として,淀川水系の河川約100ヵ所において試料採取を年4回実施し主要化学成分の分析を行った.その結果をまと めると以下のようになる.
1)主要イオン成分により河川水試料を分類した結果,淀川および神崎川淀川−猪名川水系および 琵琶湖に流入する河川水は,Ⅱ:アルカリ土類炭酸塩型(Ca-HCO3タイプ),Ⅲ:アルカリ非炭酸 塩型(Na-Clタイプ),混合領域型(Mixタイプ)に分類された.淀川−猪名川水系の河川では
Ca- HCO
3タイプに分類された河川が最も多く,57ヶ所,次に Mixタイプで16ヶ所, Na-Clタイプは13ヶ所
であった.琵琶湖流入河川ではそのほとんどがCa-HCO3タイプに分類され,14ヶ所であった.Na-Cl
タイプと
Mixタイプはそれぞれ1ヶ所ずつであった.
2)河川水中のNa濃度については,大阪湾の海水が流入する汽水域の他,海水の流入が認められな い都市域の河川水において高濃度を示した.この原因の一つに生活排水の影響が考えられた.
3)河川水の
TNについては,淀川−猪名川水系の河川水で TN
が1mg/Lを超えた地点は67ヶ所あり,そのほとんどがNa-ClタイプやMixタイプに分類された河川水であった.猪名川水系でTNが急激に 増加する原因として下水処理水の寄与が考えられた.TPも
TNと同様の傾向が認められた.
4)河川水中のSiO2については,上流すなわち
Ca-HCO
3タイプに分類される山間部から,下流すなわち
MixタイプそしてNa-Cl
タイプに代表される都市域および汽水域に行くに従い濃度が減少する傾向を示した.淀川本流で
SiO
2濃度が低くなる原因の一つに琵琶湖および天ケ瀬ダムに繁殖する珪 藻類による摂取や河口付近の砂質泥によりSiO2の吸着除掃が考えられた.5)山間部から混合領域にかけて濃度が増加する
Al,Mn,Cr,Ni,Cu,Pb,Cd
については人為的 起源による供給が考えられた.また環境基準が定められているCd, Cr, As, Pb
については,今回の 分析結果(第7,8回採水の平均値)で最も高濃度を示したのは, Cd
が1.00μg/L(第二寝屋川0907),Crは6.11μg/L(木津川0403), As
は6.95μg/L(山辺川1802),そして,Pb
は2.65μg/L(寝屋川0903)であった.なお第8回採水のAs(山辺川1802)は環境基準値を上回っていた.
6)河川水中の微量金属濃度間の相関関係と濃縮係数
EF(地殻)値から起源の類似性を考察した.
その結果
AlとFeに高い正の相関関係が認められた.EF値を求めた結果,Fe
は2〜3,Mnは75〜188と他の元素に比べると小さく,これら元素が鉱物の風化溶解により供給さえている可能性が示唆さ れた.CdのEF値は山間部のCa-HCO3タイプより,下流の生活排水が付加された
Na-Cl
タイプのほう が高く,Cdについては生活排水に寄与が大きいものと思われた.謝 辞
この研究を実施するに当たり,淀川河川水の試料採取に協力していただいた,大阪市立自然史博 物館友の会ならびに琵琶湖博物館・みずかけはしのメンバーの方々に,謝意を表します.
またこの研究は科学研究費補助金(平成20年〜22年度基盤研究
C,課題番号20605021「市民参加
による淀川水系生物環境総合調査とその博物館学的意義(研究代表者:大阪市立自然史博物館・中 条武司)」,日本生命財団学術的総合研究助成(平成19〜21年度)「環境保全と地盤防災のための大 阪平野の地下水資源の健全な活用法の構築(研究代表者:大阪市立大学・益田晴恵)の助成を受け
て行われた.本研究の一部は,日本地球化学会第55回年会(2008年9月17日)および日本地球化学会 第56回年会(2009年9月16日)にて発表した.引用文献
中口 譲・藤田昭紀 2009.日本海の溶存態生体活性微量金属の分布と挙動.日本海水学会誌 63
(4): 253-268.
中口 譲・山口善敬・西村 崇・秦野善行・今中麻幸代・有井康博 2005.淀川水系における富栄 養化関連物質の挙動とその季節変化.地球化学 39: 173-182.
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大阪市立自然史博物館 2007.大和川の自然.東海大学出版会,神奈川,
132p.(大阪市立自然史博
物館叢書1)日本地下水学会(編)2009.新・名水を科学する 水質データからみた環境.技報堂出版,東京,
p. 7-12.
藤永太一郎・堀 智孝 1982.琵琶湖の環境化学.日本学術振興会,丸善,p. 61-93.
根来健一郎・岩井寿夫・渡辺仁治 1966.基礎生産と分解:植物プランクトン.びわ湖生物資源調 査団中間報告(一般調査の部),271-312.
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琵琶湖・淀川水質保全機構(編)2008.第1章琵琶湖・淀川流域の概要,BYQ水環境レポート―琵 琶湖・淀川の水環境の現状―平成20年度,p. 2-3.
大阪府 2008.大阪府域河川等水質調査結果,水質測定計画に基づく調査結果.http://www.epcc.pref.
osaka.jp/center_etc/water/
濱田洋平 2003.http://homepage3.nifty.com/catchmyearth/jp/ download.html
大阪市立自然史博物館淀川水系調査グループ水質班参加者および滋賀県立琵琶湖博物館みずはしか け参加者(敬称略、五十音順)
石井久夫,石川兼彦,石田惣,内貴章世,宇根山綾香,川辺宣子,川辺允志,里口保文,真田敏和,
志賀隆,高松葉子,滝川真矢,田中多美子,田村芙美子,永井敦子,中尾匡伸,中川裕美,中口譲,
中条武司,中屋眞司,長谷川徹,波戸岡清峰,藤井真理,益田晴恵,松浦博之,松崎志保,松崎妙 子,松崎優仁,松本興平,三島嘉浩,六車恭子,矢田部典子,山崎恵美子,山中康平,和田岳,他,
匿名希望11名