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インターネット・バンキング,金融仲介および市場 分断

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著者 中井 教雄

雑誌名 社会科学

巻 41

号 4

ページ 21‑52

発行年 2012‑02‑24

権利 同志社大学人文科学研究所

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012701

(2)

インターネット・バンキング,金融仲介および市場分断

中 井 教 雄

本稿では,預金者と借り手が,インターネット・バンキングの利用に対して抵抗が あるために,ネット専業銀行および非ネット専業銀行がそれぞれ提供する預金利子率 および貸出利子率が一致しないことを理論的に示す。また,日本の預金市場および貸 出市場がそれぞれ,実際にネット専業銀行と非ネット専業銀行に分断されているのか について検証する。

本稿の主な結論として,次の 3 点が挙げられる。第 1 に,理論分析では,預金者お よび借り手がネット専業銀行と非ネット専業銀行の利用を内生的に決定するモデルを 構築し,預金市場および貸出市場にそれぞれ 2 つの均衡が存在することを理論的に示 した。このような計 4 つの均衡を比較すると,ネット専業銀行の方が相対的に高い預 金利子率と,低い貸出利子率を提示することができるにもかかわらず,均衡時におけ る預金量および貸出量は共に,非ネット専業銀行の方が多くなる。

第 2 に,この理論分析により,インターネット・バンキングに必要なスキルを習得 するコストが中程度に高い場合,ネット専業銀行に預金の一部が貸出に利用されずに 滞留し,コール市場を介して非ネット専業銀行に余剰資金がシフトされることにより,

相対的に高い利子率で貸出が行われる。そのため,ネット専業銀行の預金調達費用お よび非ネット専業銀行の貸出費用の増大が生じ,結果として社会余剰は相対的に低く なる。さらに,このような状況下において,ネット専業銀行が事前に提示した預金利 子率は需給均衡時の利子率よりも高い一方で,貸出利子率は需給均衡時の利子率より も低く設定されている。その結果,ネット専業銀行から預金者および借り手にその分 の利潤が移転されることになる。

最後に,日本の預金市場および貸出市場におけるネット専業銀行と非ネット専業銀 行による市場分断の有無について検証を行った結果,少なくとも預金市場において,

ネット専業銀行部門と非ネット専業銀行部門で独立した市場を形成していることが実 証的に確認された。すなわち,ネット専業銀行および非ネット専業銀行がそれぞれ独 立した預金市場で競争的に預金調達を行っているのに対し,貸出市場においては,必 ずしも預金市場と同様に市場分断が生じているとは限らないということが結論付けら れる。

(3)

1 はじめに

1990 年代後半以降,インターネット利用率の上昇に伴い,様々な金融取引がオンライ ンで行えるようになった1)。2000 年代には,金融機関を取り巻く環境の情報化および親会 社の業務との補完・相乗効果の発揮などを背景として,多くのインターネット専業の新規 銀行が金融市場に参入した2)。一方,既存の店舗型銀行においても,営業チャネルの多様 化,顧客サービスの改善や,インターネット・バンキング専用の商品の展開などを行い,

収益性の向上や顧客サービスの充実を図っている3)

Furst, Lang, and Nolle(2000)によれば,インターネットで残高照会機能以上のサー ビスを提供する銀行を「インターネット銀行」と呼び,その中でも特に,店舗を持たず インターネット上でのみ業務を行う銀行を「インターネット専業銀行」と定義される。

本稿では,上記の業務をオンライン上でのみ行う銀行を「インターネット専業銀行」

(以下,ネット専業銀行)と称し,ネット専業銀行を含むすべての銀行がインターネット 上で提供している金融サービスをインターネット・バンキングと表現する。また,ネッ ト専業銀行以外の既存の銀行を非ネット専業銀行として表す。

図 1 で示されるように,ネット専業銀行の預金残高は増加傾向にあり,それに伴い貸 出量も増えている。また,図 2 より,ネット専業銀行の利用者そのものも拡大の一途を 辿っている。このように,近年ネット専業銀行がその存在感を増している理由について,

その費用収益構造から説明することができる。

費用面からみたネット専業銀行の最大の特徴は,無店舗業務によるコスト・リーダー

(出所)各行財務諸表より作成

図 1 ネット専業銀行の預金額および資金運用手段の推移

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 㡸㔠

㈚ฟ ᅜമ ᆅ᪉മ

♫മ

ᰴᘧ

億 

(4)

シップである。これは,ネット専業銀行が既存の店舗銀行よりも間接費が高いため,規 模の経済が働きやすいことに起因する(Delgado, Hernando, and Nieto(2007))。ネット 専業銀行は,コストの高い店舗や多くの行員を持つ必要がないため,主要固定費である 地代や主要変動費である人件費を相当抑えることができる。さらに,ネット専業銀行は,

店舗費用および人件費等の営業費用だけでなく設立費用においても既存の店舗型銀行よ りも優位な立場にある4)。このような費用構造によるネット専業銀行の優位性は,顧客や 決済量が増加するにつれて,より一層顕著に表れることが期待される(ネットワーク効 果)5)

一方,ネット専業銀行の収益源は,決済手数料,市場での資金運用益および貸出業務 から得られる利鞘である6)。各ネット専業銀行は,自行の強みを生かした貸出業務を行っ ている。例えば,日本において,住信SBIネット銀行は,住宅ローンを軸に貸出業務を 重視しているのに対し,楽天銀行は,カードローン事業を中心として貸出に注力してい

7),8)。また,ソニー銀行は,住宅ローンだけでなく,顧客の目的に応じた個別の貸出

(目的別ローン)を中心に展開している9),10)

このような費用収益構造により,ネット専業銀行は,預金者に対して普通銀行(店舗を 持つ都市銀行および地方銀行)よりも高い預金利子率を提供することができ,資金需要 者に対して普通銀行よりも低利で貸出を行うことができる。その結果,理論的には,コ スト・リーダーシップを有するネット専業銀行は,預金市場およびリテール貸出のシェ アを拡大させることができるだろう。

しかし,すべてのネット専業銀行が既存の店舗型銀行よりも良好な業績を上げている 0

100 200 300 400 500 600 700 800 900

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

(出所)各行IR資料より作成

図 2 ネット専業銀行の口座数の推移

万 

(5)

訳ではなく,決算期によってはネット専業銀行の中で二極化した時期も存在する。例え ば,2001 年度決算において,アイワイバンク銀行およびソニー銀行の初年度決算は,最 終損益ベースで赤字になった11),12)。この理由として,DeYoung(2002)の研究を例とし て挙げることができる。DeYoung(2002)は,設立後間もないネット専業銀行では,規 模の経済が発揮されないため,経営効率性は既存の店舗銀行よりも低くなるが,ネット 専業銀行の急速な成長傾向により,収益性の格差が縮小するということを示している。

また,ネット専業銀行の設立が顕著であった 2000 年代前半において,当時,ネット専 業銀行が,非ネット専業銀行よりもはるかに高い預金金利を提示していたにもかかわら ず,家計による預金シフトがそれほど生じなかったことも,ネット専業銀行の拡大の足 枷となった。この理由として,インターネット・バンキングにおいて,取引に必要なID,

パスワードおよび暗証番号の盗取による不正な預金引き出しやマネーロンダリングへの 不正利用などが発生しており,このリスクがインターネット・バンキングの利用促進の 妨げとなっていることが挙げられる13)。さらに,情報技術の飛躍的な革新に伴うオープ ン・ネットワーク化により,金融機関内におけるシステム障害のリスクがより意識され るようなった。特に,ネット専業銀行のシステム障害は,すべての取引が不可能になる ことを意味するため,このリスクは既存銀行よりも深刻に評価される14)

このようなネット専業銀行と非ネット専業銀行が共存した金融仲介の現状を踏まえる と,以下の 2 つの疑問が指摘される。第 1 の問題は,ネット専業銀行と非ネット専業銀行 の間において,依然として金利格差が存在しているということである。預金市場および貸 出市場において競争原理が働いているならば,それぞれの市場で 2 つの均衡利子率が存在 することはないはずである。なぜならば,市場が効率的であり,同時に家計が合理的で ある限り,価格競争が促されることにより,両銀行の預金利子率(貸出利子率)は等し くなるはずである。第 2 の問題は,1 つの市場(預金市場もしくは貸出市場)において 2 つの均衡利子率が存在するのであれば,預金・貸出市場がそれぞれネット専業銀行部門の 市場と非ネット専業銀行部門の市場に分断されている可能性があるということである。

本稿は,これら 2 つの問題を明確にするために,以下の 2 つの分析を目的とする。第 1 に,預金者および借り手がネット専業銀行と非ネット専業銀行の利用を内生的に決定す るモデルを構築し,預金市場および貸出市場にそれぞれ 2 つの均衡が存在することを理 論的に示す。第 2 に,日本の預金市場および貸出市場がそれぞれ,ネット専業銀行の市 場と非ネット専業銀行の市場に分断されているか否かを実証的に明らかにする。

本稿の構成は以下の通りである。第 2 節では,先行研究と本稿の関係について述べる。

(6)

第 3 節では,貸し手および借り手によるネット専業銀行の利用率を内生的に決定するモデ ルを構築し,ネット専業銀行・非ネット専業銀行間における金融仲介の競合について理論 的に分析する。第 4 節では,日本の預金市場および貸出(住宅ローン)市場がそれぞれ,

ネット専業銀行部門と非ネット専業銀行部門に分断されているか否かについて実証的に 検証する。最後に,本稿で得られた結論および今後の課題について述べる。

2 先行研究と本稿の位置付け

本稿と先行研究との関係は,以下の通りである。第 1 に,ネット専業銀行と非ネット 専業銀行との収益性の比較について本稿と関連しているものとして,以下の文献が挙げ られる。

飯野(2001)は,ドイツにおけるインターネット・バンキングの普及による銀行業に 対する影響について検証し,既存銀行によるIT投資が必ずしも期待通りに費用削減効果 を持つとは限らないということを示している。一方,村井(2003)は,消費者ローンや住 宅ローン等の貸出において,ネット専業銀行の情報収集能力が既存銀行のそれとほとん ど差がないため,コスト面で有利なネット専業銀行の方が,既存銀行よりも収益性が高 くなるということを主張している。特に,Malhotra and Singh(2009)は,大手ネット 専業銀行が,既存の店舗銀行に比べて良好な経営効率と収益性を持ち,インターネット・

バンキングと銀行のリスク・プロファイルとの間に有意な負の関係があることを実証的 に示している。

また,飯野(2001)は,インターネット・バンキングの構築に伴い,大手銀行と小規模 地域金融機関との競争力格差が拡大した一方で,「オープン・ファイナンス」という従来 とは異なる競争力要因が生じたことを明らかにしている15)。さらに,宮村(2002)は,米 国のネット専業銀行の戦略について考察し,ネット専業銀行の特性である低コストに依 存した預金調達を中心として業務展開を行った銀行が淘汰された一方で,インターネッ ト上での総合サービスの体系的な提供を目標とする銀行が支持されていることを明らか にしている。それに対し,岩佐(2003)は,2001 年度末時点において,日本のネット専 業銀行がナローバンク的な性格を保持しているということを比較財務分析によって確認 している。

これまで挙げた文献は,ネット専業銀行と非ネット専業銀行が独立して各々のサービ スを提供しているものとして分析しているが,以下の文献は,既存銀行によるインター

(7)

ネット・バンキングへの参入について検証している。

高濱(2010)は,ネット専業銀行,その利用者および資金流入の増加により,ネット専 業銀行の手数料の低下が加速し,ネット専業銀行の優位性が高まると同時に,従来型の既 存銀行においてもインターネット・バンキングを重視する傾向があることを示している。

また,Hays, DeLurgio, and Gilbert(2010)は,銀行部門における市場集中度よりもむし ろインターネットへのアクセスが米国商業銀行の資金調達コストと収益性資産の収入に 対して有意に正の影響を及ぼすことを実証的に明らかにしている16)。さらに,Wamalwa

(2006)は,インターネット・バンキングの導入と中核的なリテール・バンキング業務へ の影響について実証分析を行い,既存の店舗銀行によるインターネット・バンキングの 導入が,従来のリテール・バンキングに悪影響を与えないと結論付けている。

これらの先行研究の多くは,ネット専業銀行の収益性および費用削減効果について非 ネット専業銀行と対比して検証している。それに対し,本稿では,インターネット・バ ンキングの普及を背景としたネット専業銀行の台頭が,非ネット専業銀行に与える影響 だけでなく,預金市場および貸出市場全体に与える影響について理論的に分析した上で,

その理論的な結果を実証的に確認している。

第 2 に,インターネット・バンキングの利用について本稿と関連しているものとして,

以下の文献が挙げられる。Menoz-Gallejo and Cruz(2005)は,米国において,インター ネット・バンキングの利用者が若年男性に多く,全体として教育水準の高い就労者が大 多数を占めているということを示している。同様に,Katarina et al.(2006)は,教育・

所得水準の低い若年層がインターネット・バンキングのサービスを十分活用できない一 方で,教育・所得水準の高い顧客(特に若年層)はあらゆる銀行サービスの価値を正確に 評価することができるため,インターネット・バンキングを提供する銀行にとって,より 収益性の高い後者の顧客を目標としたサービスの改善が有効であると結論付けている。

それに対し,Brady(2007)は,インターネット・バンキングの利用が,外部の支援 または指導なしに効率的に習得されている個別の技能スキルであると述べている。また,

Alsajjan and Dennis(2009)は,IBAM(Internet Banking Acceptance Model)を用い て,英国とサウジアラビアにおいて,インターネット・バンキングの利用態度がほぼ同 程度であるということ示している17)

また,Ayadi(2006)は,インターネット・バンキングの普及の遅れ(あるいは失敗)

の原因として,データ中心型アーキテクチャ,分化されたインターネット・システム,

組織の硬直性および利用者への関与の無視を挙げている18)。その点を踏まえ,Banerjee

(8)

(2009)は,複数の(販売・取引)チャネルの利用を背景とした長期的な金融サービスの 維持のためのインターネット・バンキングの利用に焦点を当て,インターネット・バンキ ングのような仮想的かつ遠隔的なチャネルの潜在性が,銀行と顧客の関係を拡張させる 上で,銀行組織を戦略的なものにするということを示している。さらに,Menoz-Gallejo and Cruz(2005)は,ネット専業銀行にとって,情報提供サービスの発展(差別化)が 顧客満足度を改善させる上で重要となるだけでなく,当該銀行の顧客が中程度の便益性 または信頼性の改善よりもそのような発展を選好するということを主張している。同様 に,Callaway(2011)は,インターネットの普及率とネット専業銀行部門全体の預金量 との間に正の相関があり,さらに,トラフィック・ランクと純収益および非金利収入と の間にも正の相関があることを示している19)

本稿では,これらの先行研究で示された事実を踏まえ,顧客(預金者または借り手)が インターネット・バンキングの利用に対して,非ネット専業銀行の利用時には伴わない リスクを被るものと考え,そのリスクを費用として理論モデルに組み込むことにより,顧 客がネット専業銀行と非ネット専業銀行の利用を内生的に決定する預金・貸出市場につ いて分析している。

最後に,預金者が銀行のリスクに応じて合理的に預金をシフトさせるのか否かについ て検証しているものとして,以下の文献が挙げられる。青沼・木島(1998)は,定期預金 のプリペイメント・リスクの評価モデルを構築することにより,数値計算例の結果から,

預金者が定期預金のリスクを過小評価することを示している。また,永田(2011)は,潜 在的な預金流出の可能性を介した預金市場の市場規律が,銀行のリストラを促進させる のに対し,不良債権処理を促進させるほどの影響力がないことを実証的に明らかにして いる。

これらの先行研究では,預金者の合理性が完全ではないことを示しているのに対し,本 稿では,次節で解説するように,理論研究において,顧客の非合理性が,インターネッ ト・バンキングの利用に掛かる費用(抵抗)に起因するものとしている。

3 モデル

3.1 モデルのセット・アップ

t=0, 1, 2 の 2 期間モデルを考える。経済には,預金者,借り手,ネット専業銀行およ び非ネット専業銀行が存在する。各部門はリスク中立的であり,代表的な単一の経済主

(9)

体から構成されていると仮定する20)

t=0 において,預金者は,ネット専業銀行および非ネット専業銀行から,それぞれの

預金利子率の提示を受ける。預金者は,1 に標準化された資産を保有し,t=2 での利潤 を最大化するように,t=1 に資産を各銀行に配分する。単純化のために,預金者は,t=

2 でのみ消費を行うものと仮定する。

一方,借り手は,t=0 において資産を保有しておらず,ネット専業銀行および非ネッ ト専業銀行から,それぞれの貸出利子率の提示を受ける。t=1 において,借り手は,1 に 標準化された資金を需要すると同時にそれを消費し,t=2 に所得を得て元利合計を返済 する。このとき,借り手は,t=2 での利潤を最大化するように,ネット専業銀行および 非ネット専業銀行から合計で 1 の借入を行う。

ネット専業銀行および非ネット専業銀行は,預金者から預入された資金をすべて受け 入れ,借り手から申請されたすべての借入に対して貸出を行う。これは,本モデルにお いて,銀行と借り手の間に情報の非対称性がなく,借り手のデフォルトが存在しないも のと仮定しているためである21)。また,これらの銀行は共に,資本を保有しない(株式 発行を行わない)ため,貸出に必要な預金が不足する場合,もう一方の銀行からコール 市場で不足資金を調達する。

本稿では,ネット専業銀行および非ネット専業銀行が共存する預金市場および貸出市 場の特性に焦点を当てるため,預金保険制度および自己資本比率規制は存在しないもの とする。このような環境下において,ネット専業銀行および非ネット専業銀行はそれぞ

れ,t=0 期に預金者および借り手の行動(すなわち,各行に対する預金量および貸出量)

を予測し,その予測の下で利潤を最大化するように,預金利子率および貸出利子率を設 定する。ただし,コールレートは所与とする。

以上,ゲームの意思決定の順序を図示したものが,図 3 である。

図 3 ゲームのタイミング

時間

t=0 t=1 t=2

銀行による預金金利およ び貸出金利の決定

・銀行による貸出の実行

・預金者による預入

・借り手による借入の申請

・借り手による借入の返済

・銀行による預金の払い戻し

(10)

3.2 市場の均衡:各銀行が完全予見であるケース 3.2.1 預金者

預金者は,資産 1 のうちDspをネット専業銀行に預け入れ,D(=1−Dsq ps)を非ネット専 業銀行に預け入れる22)。ただし,ネット専業銀行を利用するには,インターネット・バン キングに必要なスキルを習得する費用を支払わなければならない。その費用関数がDpsに 依存すると仮定し,z(Dps2⁄2 とする(z侒0)。ここで,zは限界費用であり,預金者およ び借り手によるインターネット・バンキングの利用に対する抵抗の度合いを表している。

ネット専業銀行および非ネット専業銀行の預金利子率をそれぞれrDpおよびrDqとすると,

預金者の最適化問題は,以下のように表される。

max rDp Dsp+rDq Dsqz 2(Dqs2

  s.t. Dps+Dqs=1 (P1)

     0侑Dps侑1 and 0侑Dqs侑1

ここで,目的関数の第 1 項は,ネット専業銀行から得られる預金利息であり,第 2 項 は,非ネット専業銀行から得られる預金利息であり,第 3 項は,ネット専業銀行を利用す る際に要する費用である。また,第 1 の制約式は,預金者の予算制約式である。第 2 お よび第 3 の制約式は,預金者の資産が必ずいずれかの銀行に預入されるだけであること を意味している。すなわち,これら 2 つの制約式は,個々の預金者が別の預金者から非 ネット専業銀行の預金利子率で借入を行い,ネット専業銀行に預け入れることで利潤を 得ることができないことを示している。

この最適化問題を解くと,ネット専業銀行および非ネット専業銀行に対する預金供給 関数(DS)は,それぞれ以下のように導出される23)

DSp:DsprDp

zrDq

z (1)

DSq:Dsq=1−rDp

zrDq

z (2)

3.2.2 借り手

借り手は,合計で 1 の借入を需要する。そのうち,Ldpをネット専業銀行から借り入れ,

Dsp,Dqs

(11)

L(=1−Ldq dp)を非ネット専業銀行から借り入れる。預金者と同様に,ネット専業銀行を利 用するには,z(Ldp2⁄2 の費用を要するものと仮定する24)。ネット専業銀行および非ネッ ト専業銀行の貸出利子率をそれぞれrLpおよびrLqとすると,借り手の最適化問題は,以下 のように表される25)

max Y−(1+rLpLdp−(1+rLqLdqz 2(Ldp2

  s.t. Ldp+Ldq=1   (P2)

     0侑Ldp侑1 and 0侑Ldq侑1

ここで,Yは,t=2 における借り手の所得であり,所与とする26)。また,目的関数の 第 2 項は,t=2 におけるネット専業銀行に返済する元利合計であり,第 3 項は,t=2 に おける非ネット専業銀行に返済する元利合計であり,第 4 項は,ネット専業銀行を利用す る際に要する費用である。さらに,第 1 の制約式は,借り手の資金需要における予算制 約式である。第 2 および第 3 の制約式は,借り手による借入が必ずいずれかの銀行から 行われることを意味している。すなわち,これら 2 つの制約式は,個々の借り手がネッ ト専業銀行から借入を行い,別の借り手に非ネット専業銀行の貸出利子率で貸出を行う ことで利潤を得ることができないことを示している。

この最適化問題を解くと,ネット専業銀行および非ネット専業銀行に対する資金需要 関数(LD)は,それぞれ以下のように導出される。

LDp:LdprLq

zrLp

z (3)

LDq:Ldq=1−rLq

zrLp

z (4)

3.2.3 ネット専業銀行および非ネット専業銀行

ネット専業銀行および非ネット専業銀行は,預金者から預入された資金をすべて受け 入れ,借り手から申請されたすべての借入に対して貸出を行う。また,これらの銀行は 共に,資本を保有しない(株式発行を行わない)ため,貸出に必要な預金が不足する場 合,もう一方の銀行からコール市場で不足資金を調達する27)。コールローンをC,コー ルレートをrCとすると,各銀行の最適化問題は,以下のようになる28)

Ldp,Ldq

(12)

ネット専業銀行:

max rLp LSp+rC Cp−rDp Ddpαp

2(LSp2βp 2(Ddp2

  s.t. LSp+Cp=Ddp   (P3)

非ネット専業銀行:

max rLq LSq+rC Cq−rDq Ddqαq

2(LSq2βq 2(Ddq2

  s.t. Lsq+Cq=Ddq  (P4)

ここで,上記 2 つの最適化問題において,目的関数の第 1 項は,各銀行が貸出から得 る利子収入である。第 2 項は,コール市場で調達(運用)した際の利息費用(収入)で ある。第 3 項は,預金の利払い費用である。第 4 項は貸出費用(αはそのパラメータであ る)であり,第 5 項は(利息を除いた)預金調達費用(βはそのパラメータである)であ る。ただし,βp<βq≪αp<αqとする。また,最適化問題(P3)および(P4)における制約 式は,銀行のバランスシート制約式であり,Cp+Cq=0 となる。これは,預金者からの資 金流入の合計と,借り手への資金供給の合計が共に 1 に等しいので,銀行部門全体にお いて,一方の銀行の資金不足は,もう一方の銀行の資金余剰に対応しているためである。

ここで,各利子率の大小関係をrDi<rc<rLi(i=p, q)とする。

これら 2 つの最適化問題を解くと,以下のような各行の預金需要関数(DD)および資 金供給関数(LS)が導出される。

DDp:rDp=rC−βp Ddp (5)

LSp:rLp=rC+αp LSp (6)

DDq:rDq=rC−βq Ddq (7)

LSq:rLq=rC+αq LSq (8)

3.2.4 市場均衡

以上により,(1)式から(8)式で示された連立方程式を(rDp, rLp rDq, rLq, Dp, Lp, Dq, LSp,Ddp

LSq,Ddq

(13)

Lq)について解くと,ネット専業銀行における預金者および借り手との均衡利子率(rD*p, rL*p),非ネット専業銀行における預金者および借り手との均衡利子率(rD*q, rL*q)およびそ の均衡利子率における預金量と貸出量(Dp*, L*p, D*q, L*q)が導出される29)

ネット専業銀行における預金者および借り手との均衡利子率(rD*p, rL*p)は,以下のよう になる。

rD*p=rCβp βq

βp+βq+z (9)

rL*p=rCαp αq

αp+αq+z (10)

また,この均衡利子率の下における預金量と貸出量(Dp*, L*p)はそれぞれ,次式のよう に示される。

D*pβq

βp+βq+z (11)

L*pαq

αp+αq+z (12)

一方,非ネット専業銀行における預金者および借り手との均衡利子率(rD*q, rL*q)は,以 下のようになる。

rD*q=rCβp βq+βq z

βp+βq+z (13)

rL*q=rCαp αq+αq z

αp+αq+z (14)

また,この均衡利子率の下における預金量と貸出量(D*q, L*q)はそれぞれ,次式のよう に示される。

D*qβp+z

βp+βq+z (15)

L*qαp+z

αp+αq+z  (16)

(14)

ここで,各最適値について,ネット専業銀行と非ネット専業銀行で比較すると,以下 のように表される。

rL*p<rL*q, L*p<L*q, rD*p>rD*q, D*p<D*q (17)

このように,預金者および借り手にとって,ネット専業銀行を利用した方が相対的に高 金利で資金運用でき,低金利で資金調達できるにもかかわらず,預金量および貸出量は 共に非ネット専業銀行の方が多くなる。これは,預金者と借り手の非合理性(インター ネット・バンキングの利用に対する抵抗)により,預金・貸出市場に非効率性が生じて いることが原因である。

ここでの非合理性の例としては,預金者と借り手のインターネット・バンキングの利用 に伴うリスクに対する過剰反応(リスク感応度の増大),店舗銀行(非ネット専業銀行)

からネット専業銀行へのスイッチング・コストの増加,インターネット・バンキングの 利用のためのスキル習得に要する費用の増大およびデジタル・デバイドの存在などが挙 げられる。

この結果は,実際の日本の預金市場および貸出市場の現状と整合的である。表 1 および 表 2 により,ネット専業銀行の預金金利の方が相対的に高いにもかかわらず,(定期性)

預金のシェアは,非ネット専業銀行の方が圧倒的に大きい。これは,本モデルで示され たように,(特に,デジタル・デバイドに起因する)預金者の非合理性により,預金市場 で最適な資金配分が行われていないことを示唆している。

また,社会余剰(W)をt=2 における各経済主体の利潤と純資産の総計と定義すると,

次式のように表される30)

表 2 家計の定期性預金におけるネット専業銀行と非ネット専業銀行のシェア推移

2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年

ネット専業銀行 0.92% 1.49% 1.68% 2.00% 2.52%

非ネット専業銀行 99.08% 98.51% 98.32% 98.00% 97.48%

(出所)日本銀行「資金循環勘定」および各行IR資料より作成

表 1 定期性預金金利の比較(1 年物定期預金金利(年平均))

2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年

ネット専業銀行 0.529% 0.772% 0.769% 0.563% 0.458%

非ネット専業銀行 0.257% 0.448% 0.443% 0.307% 0.169%

ゆうちょ銀行 0.106% 0.350% 0.350% 0.120% 0.062%

(出所)日本銀行「資金循環勘定」および各行IR資料より作成

(15)

W={rD*p D*p+rD*q D*qz

2(D*p2}+{Y−(1+rL*pL*p−(1+rL*qL*qz

2(L*p2}+{rL*p L*p

  rc C*p−rD*p D*pαp

2(Lp*2βp

2(D*p2}+{rL*q L*q+rc Cq*−rD*q Dq*αq 2(L*q2

  −βq

2(D*q2

 =Y+ α2q

2(αp+αq+z)+ β2q

2(βp+βq+z)− αq+βq

2  (18)

上式をzについて偏微分すると,∂W⁄∂z<0 となる。この結果からも,インターネッ ト・バンキングに要する費用が増大するにつれ,預金・貸出市場の効率性が低下し,社 会余剰が減少することは明らかである。

このとき,本モデルにおいて,コールレートが預金利子率よりも高く,貸出利子率より も低いと仮定されているので,各銀行がコールローンを利用しない場合,すなわち各銀 行において,預金流入量と資金供給量が一致する場合,顧客(預金者および借り手)の 総利潤は最大となる。

これは,例えば,非ネット専業銀行において,預金量が貸出量を超過している場合,貸 出に利用されない預金がコール市場を通じてネット専業銀行に供給され,ネット専業銀 行による貸出が行われることになり,本来,預金者がネット専業銀行に(より多く)預 け入れていれば得られる預金利息を機会的に喪失していることになるためである。逆に,

ネット専業銀行において,預金量が貸出量を超過している場合,貸出に利用されない預金 がコール市場を通じてネット専業銀行に供給され,非ネット専業銀行による貸出が行わ れることになり,本来,借り手がネット専業銀行に(より多く)借入を申請していれば,

支払い利息を低減させることができることになる。

このような社会余剰Wを求めるために,ネット専業銀行の預金量と貸出量が一致する

ようなz(これをz*とする)を求める。これは,仮定により,預金・貸出市場において,

預金者と借り手の資金供給量と資金調達量が 1 に標準化されているため,ネット専業銀 行の預金量と貸出量が一致するようなz(これをz*とする)を求めると,z*は非ネット専 業銀行の預金量と貸出量も一致させるものとなるからである。(11)式と(12)式におい て,D*pL*pとすると,z*は次式のように表される31)

(16)

z*αp βq−αq βp

αq−βq (19)

よって,z*の下で達成される(すなわち,顧客の利潤を最大化する)社会余剰W とすると,W˜ は以下のように示される。

=Y−(αq+βq{1+(β) p+βq)−(αp+αq)}

2{(βp+βq)−(αp+αq)} (20)

以下の 3.3 節では,zが,上式の を達成するz*であるケースをベンチマーク・ケー スとし,預金者および借り手のzz*から乖離する場合において,各市場の均衡がどの ように変化するのかについて検証する。

3.3 市場の均衡:各銀行が完全予見ではないケース

3.2 節では,ネット専業銀行および非ネット専業銀行が,事前に預金者および借り手の 行動を完全に予測することができるような経済における各銀行の最適利子率(預金利子 率・貸出利子率),最適預金量および最適貸出量を導出した。

ここでは,t=1 に預金者および借り手が,銀行の予測と異なる行動をするケースにつ いて考察する。このとき,各銀行は,t=0 においてインターネット・バンキングに要す る費用のパラメータzを観察することができないため,このパラメータのベンチマーク をz*とし,預金者および借り手の持つzz*の状態にあると予想して,前述の均衡利子 率((rD*p, rL*p)および(rD*q, rL*q))を預金者および借り手に提示すると仮定する。

まず,費用のパラメータzによる各銀行の預金量及び貸出量に対する影響について考察 する。(11)式,(12)式,(15)式および(16)式をzについて偏微分すると,それぞれ 以下のようになる。

∂D*p

∂z = −βq

(βp+βq+z)2<0  (21)     ∂D*q

∂zβq

(βp+βq+z)2>0  (23)

∂L*P

∂z = −αq

(αp+αq+z)2<0  (22)     ∂L*q

∂zαq

(αp+αq+z)2>0  (24)

これら 4 つの式により,この影響は,以下のように説明される。パラメータzが,銀行 の想定以上に高い場合,ネット専業銀行の預金・貸出量が想定よりも少なくなるのに対

(17)

し,非ネット専業銀行の預金・貸出量は予想以上に多くなる。ただし,各銀行の預金流 入量の誤差と資金供給量の誤差は必ずしも一致しない。以降では,このような誤差の不 一致が,(18)式で定義された社会余剰Wに与える影響について考察する。

ここで,(21)式と(23)式および(22)式と(24)式をそれぞれ対比すると,変化量 が同じで正反対の動きを示している。これは,預金・貸出市場において,預金者の資金 供給量と借り手の資金調達量が 1 に標準化されていることにより,一方の資金量の増大 はもう一方の資金量の減少に対応するためである。よって,以降の分析では,ネット専 業銀行における預金量および貸出量の変化にのみ着目する。

3.3.1 0<z<z*の場合

(21)式から(24)式により,インターネット・バンキングの利用に要する費用のパラ メータzが相対的に小さい(0<z<z*)場合,ネット専業銀行に想定以上の預金量の流入 と資金需要が生じるのに対し,非ネット専業銀行には想定よりも少ない預金量の流入と 資金需要が生じる。その結果,ネット専業銀行がt=0 に提示した預金利子率は相対的に 高く,貸出利子率は相対的に低く設定されていることになる(非ネット専業銀行では,逆 の現象が生じている)。

ここで,ネット専業銀行において,資金余剰もしくは資金不足のどちらが生じている のかについて検証する。(21)式と(23)式の変化量を比較すると,以下のようになる。

|

∂L∂z*p

|

|

∂D∂z*p

|

−α(β(αq pp+β+αqq+z)+z)2(α2+βp(β+αq pq+β+z)q+z)2 2>0  (25)

よって,(21)式,(23)式および(25)式により,ネット専業銀行において,増加量 は預金量よりも貸出量の方が大きいため,資金不足が生じる。そのため,ネット専業銀 行は,逆に資金余剰となっている非ネット専業銀行からコール市場を通じて資金調達を 行う。

このように,インターネット・バンキングの利用に要する費用のパラメータzが相対的 に小さい(0<z<z*)場合,非ネット専業銀行に預金が滞留し,余剰資金がコール市場を 介してネット専業銀行にシフトするため,非ネット専業銀行の預金調達費用の増大が生 じ,結果として社会余剰Wは,W˜ よりも低くなる。

(18)

3.3.2 z*<zの場合

(21)式から(24)式により,インターネット・バンキングの利用に要する費用のパラ メータzが相対的に大きい(z*<z)場合,ネット専業銀行に想定よりも少ない預金量の 流入と資金需要が生じるのに対し,非ネット専業銀行には想定以上の預金量の流入と資 金需要が生じる。その結果,ネット専業銀行がt=0 に提示した預金利子率は相対的に低 く,貸出利子率は相対的に高く設定されていることになる(非ネット専業銀行では,逆 の現象が生じている)。

ここで,ネット専業銀行において,資金余剰もしくは資金不足のどちらが生じている のかについて検証する。(21)式および(23)式により,以下の式が成り立つ32)

|

∂L∂z*p

|

|

∂D∂z*p

|

>0  If z*<z<z** (26a)

|

∂L∂z*p

|

|

∂D∂z*p

|

<0  If z**<z (26b)

(21)式,(23)式および(26a)式により,ネット専業銀行において,減少量は預金量 よりも貸出量の方が大きいため,資金余剰が生じる。そのため,ネット専業銀行は,逆 に資金不足の非ネット専業銀行に対し,コール市場を通じて資金供給を行う。このよう に,インターネット・バンキングの利用に要する費用のパラメータzが中程度(z*<z<

z**)の場合,ネット専業銀行に預金が滞留し,コール市場を介して非ネット専業銀行に 余剰資金がシフトし,相対的に高い利子率で貸し出されているため,ネット専業銀行の 預金調達費用および非ネット専業銀行の貸出費用の増大が生じ,結果として社会余剰W は,W˜ よりも低くなる。

一方,(21)式,(23)式および(26b)式により,ネット専業銀行において,減少量は 預金量よりも貸出量の方が大きいため,資金不足が生じる。そのため,ネット専業銀行 は,逆に資金余剰の非ネット専業銀行からコール市場を通じて資金調達を行う。このよ うに,インターネット・バンキングの利用に要する費用のパラメータzが相対的に大きい

(z**<z)場合,非ネット専業銀行に預金が滞留し,余剰資金がコール市場を介してネッ ト専業銀行にシフトするため,非ネット専業銀行の預金調達費用の増大が生じ,結果と して社会余剰Wは,W˜ よりも低くなる。

(19)

3.4 インプリケーション

本節のモデルは,預金者および借り手がネット専業銀行と非ネット専業銀行の利用を 内生的に決定するモデルを構築し,預金市場および貸出市場にそれぞれ 2 つの均衡が存在 することを理論的に示した。このような計 4 つの均衡を比較すると,ネット専業銀行の方 が相対的に高い預金利子率と,低い貸出利子率を提示することができるにもかかわらず,

均衡時における預金量および貸出量は共に,非ネット専業銀行の方が多くなることが明 らかにされた。これは,預金者と借り手による(インターネット・バンキングの利用に 関する)非合理性により,預金・貸出市場に非効率性が生じているためである。

また,ネット専業銀行と非ネット専業銀行が,預金者および借り手の行動を完全に予 測することができる場合,各銀行における均衡利子率は,これら 4 つすべての経済主体 の利潤を最大化させることができる。

一方,各銀行が預金者および借り手の行動を観察することができない場合,各銀行が 事前に提示した利子率が必ずしも預金者または借り手の行動を最適化させるものではな いため,社会余剰を低下させる。

特に,インターネット・バンキングに必要なスキルを習得する費用を表すパラメータz が中程度に高い(z*<z<z**)場合,ネット専業銀行に預金の一部が貸出に利用されずに 滞留し,コール市場を介して非ネット専業銀行に余剰資金がシフトし,相対的に高い利子 率で貸出が行われるため,ネット専業銀行の預金調達費用および非ネット専業銀行の貸 出費用の増大が生じ,結果として社会余剰は相対的に低くなる。さらに,このような状況 下において,ネット専業銀行が事前に提示した預金利子率は,需給均衡時の利子率より も高い一方で,貸出利子率は需給均衡時の利子率よりも低く設定されている。そのため,

ネット専業銀行から預金者および借り手にその分の利潤が移転されていることになる。

この結果は,日本におけるネット専業銀行の利用状況に整合している。表 1 および表 2 より,預金利子率は,非ネット専業銀行よりもネット専業銀行の方が相対的に高いにも かかわらず,日本国内における預金シェアは,非ネット専業銀行が圧倒している。この ような現象は,本モデルのインプリケーションに従って説明すると,以下のように説明 される。

預金者および借り手の(心理的またはスキル上の)非合理性により,インターネット・

バンキングを利用するための費用は高位水準にある。そのため,ネット専業銀行は,競争 原理が働く場合の均衡利子率よりも高い預金利子率を提示することにより,預金者から 資金を調達する。一方,借り手に対しては,競争原理が働く場合の均衡利子率よりも低い

(20)

貸出利子率を提示することにより,(住宅ローンまたはカードローンの)貸出を行う。そ の結果,図 1 で示されるように,ネット専業銀行では貸出量よりも預金量の方が多くな り,余剰資金の一部をコール市場で非ネット専業銀行に貸し出す33)。そのため,図 4 の ように,預貸率は,非ネット専業銀行の方が高位に推移している34)

以上により,預金者および借り手のインターネット・バンキングの利用状況により,

ネット専業銀行と非ネット専業銀行で均衡利子率および均衡量が異なることを理論的に 示した。次節では,日本の預金市場および貸出市場がそれぞれ,ネット専業銀行と非ネッ ト専業銀行の市場に分断されているのかについて実証的に検証する。

4 預金市場および貸出市場における市場分断仮説の検証

4.1 データおよび分析方法

本稿による預金市場および貸出市場における市場分断仮説の検証方法は,家森・近藤

(2005)に倣い,以下の 3 つの方法で行われる35)。第 1 に,金利水準そのものを比較する 方法である。預金市場および貸出市場がそれぞれ 1 つの市場であれば,一物一価の法則 により,預金金利および貸出金利について,それぞれ 1 つの(均衡)利子率が存在する はずである。本稿では,預金金利および貸出金利それぞれについて,ネット専業銀行お よび非ネット専業銀行の平均金利が統計学的に有意に異なるのかについて検証する。

第 2 に,同一の市場であっても,非金銭的なサービスあるいは手数料等の違い等の理由 により,金利差が存在する可能性があることから,利子率の連動性に着目する方法を採用 する。これは,理論上 2 つの市場間で金利裁定が行われているのであれば,1 つの市場と みなす方法である。本稿では,預金利子率および貸出利子率それぞれについて,時系列的

(出所)各行財務諸表より作成

図 4 銀行の預貸率

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

2002ᖺ2003ᖺ2004ᖺ2005ᖺ2006ᖺ2007ᖺ2008ᖺ2009ᖺ2010ᖺ

඲㖟⾜ᖹᆒ 䝛䝑䝖ᑓᴗ㖟⾜

(21)

な相関が,ネット専業銀行および非ネット専業銀行で異なるのか否かについて分析する。

第 3 に,(マクロレベルでの)共通ショックに対する利子率の調整速度を計測し,その 調整速度の差が市場分断を反映していると判断する方法である。本稿では,無担保コール 翌日物金利,5 年物国債利回りおよび 10 年物国債利回りが共通ショックを反映する指標 であると考え,預金金利として各行の 1 年物定期預金金利,2 年物定期預金金利および 5 年物定期預金金利を採用し,貸出金利として各行の変動金利,5 年固定金利および 10 年 固定金利を採用する36)

本稿の実証分析において,無担保コール翌日物金利は,日本銀行が公表するデータを使 用した。5 年物国債利回りおよび 10 年物国債利回りは,財務省が公表する応募者利回り を採用した。各行の預金金利は,「Yahoo!ファイナンス」の金利情報の月次データ(月平 均値)を使用した。各行の貸出金利は,情報量が豊富な住宅ローンに着目し,住宅ロー ン金利「住宅ローン比較ナビ」の金利情報の月次データ(月平均値)を使用した。サン プル期間は,2009 年 6 月から 2011 年 9 月までとする37)

本稿の分析で採用するネット専業銀行は,ジャパンネット銀行,セブン銀行,ソニー銀 行,楽天銀行(旧イーバンク銀行)および住信SBIネット銀行である38)。また,非ネッ ト専業銀行として,都市銀行(みずほ銀行,三菱東京UFJ銀行,三井住友銀行),信託銀 行(みずほ信託銀行,三菱UFJ信託銀行,中央三井信託銀行および住友信託銀行),新 生銀行および,あおぞら銀行を採用している。なお,地域の固有ショックおよび地域特 性の影響を受ける地方銀行は,サンプルから除外している。

4.2 金利水準の比較

この検証では,Welch検定を利用し,預金金利および貸出金利について,ネット専業 銀行のグループと非ネット専業銀行のグループの平均値が等しいか否かを確認すること により,預金市場および貸出市場におけるネット専業銀行部門と非ネット専業銀行部門 による市場分断の有無について検証する。

図 5 より,預金金利の分析において,2009 年 9 月以降,いずれの定期預金についても,

ネット専業銀行と非ネット専業銀行のグループの平均値は,5%水準で有意に異なる。特 に,1 年物定期預金および 2 年物定期預金については,すべてのサンプル期間において,

ネット専業銀行と非ネット専業銀行のグループの平均値が 5%水準で有意に異なる。

一方,図 6 より,貸出金利は,サンプル期間全体において,いずれの住宅ローン金利 についてもネット専業銀行と非ネット専業銀行で有意に異ならない。

(22)

以上の結果から,金利水準の比較の点において,ネット専業銀行と非ネット専業銀行に よる預金市場および貸出市場における市場分断の有無は,預金市場においてのみ,ネット 専業銀行部門と非ネット専業銀行部門ごとに形成されていると判断することができる。

4.3 金利変動の相関の分析

この検証では,家森・近藤(2005)に倣い,サンプル期間における上記の銀行を対象 に,すべての組み合わせ(預金金利については各種定期預金に対して 105 通り,貸出金 利については各種住宅ローン金利に対して 21 通り)について相関係数を求め,その単純 平均を基準として各銀行の相関関係を比較することにより,預金市場および貸出市場に おけるネット専業銀行部門と非ネット専業銀行部門による市場分断の有無について検証 する39)

表 3 より,預金金利について,非ネット専業銀行間の相関係数の平均値が,いずれの種 類の定期預金おいても全銀行間の相関係数の平均値を上回っているのに対し,ネット専 業銀行間の相関係数の平均値は,いずれの種類の預金金利についても全銀行間の相関係

図 5 Welch 検定による預金金利の 値

図 6 Welch 検定による住宅ローン金利の 値 0

0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08

0.09 1ᖺ≀ᐃᮇ㡸㔠

2ᖺ≀ᐃᮇ㡸㔠 5ᖺ≀ᐃᮇ㡸㔠

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7

ኚື

5ᖺᅛᐃ 10ᖺᅛᐃ

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