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GDP 短期循環の連動性に関する実証分析 : タイと主要貿易相手国の二国間関係

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的周期変動が収束するとは限らない。

このように貿易が経路となって外生的ショックが他国の景気循環に伝わり,どのような影響が生

じたかを検証する研究が多数行われている。代表的な例が Frankel and Rose(1998)であり,それ

以降多くの実証分析がそのモデルを基礎としている。Frankel and Rose(199)のモデルは二国間

の景気循環シンクロナイゼーションと貿易の関連性を以下のように示した。まず両国(自国,外国) の経済成長率を次式のように表す。 ⊿Y=Σiαiuit+ vt+ g ⊿Y* =Σiαi*uit+ vt*+ g* σi2=産業 i に限定的なショック,σv,v*=自国と外国に各々限定的なショックの共分散

⊿ Y=実質経済成長率,ui=i 産業のみに関わるショック(i 産業の成長と当該国の平均成長率( vt)

との乖離),αi=総生産に占める産業 i の比重(期間を通して一定),vt=経済全体の平均成長率,g =経済成長率の趨勢値,*は外国を表す。uiは産業 i において発生したショックの影響を表してお り,他の産業および全体の平均成長率 vtとは独立の,特定産業のみに関わるショックと仮定する。 また,該当する産業であれば,自国,外国を問わず共通のショックであるとする。一方 vt,vt*は, 各々自国と外国において一国のみに関わるショックが発生した場合の影響を反映する。ただし両国 の経済的結びつきが強ければ,外国に限定されるショックであったとしても,影響は外国から自国 へとスピルオーバーしうる。なお各産業に限定的なショックと各国特有のショックとは独立であり, 成長率の趨勢 g および g* は期間を通じて一定との仮定をおく。両国の経済成長率の連動性は共分散

Cov(⊿Y,⊿Y*

)で表すものとし,上記の仮定を以下のように表す

Cov(Σiαiuit,vt*)=0,Cov(vt,Σiαi*uit)=0,,Cov(Σiαiuit,g*)=0,

Cov(g,Σiαi*uit)=0,Cov(vt,g*)=0,Cov(g,vt*)=0

以上を用いて書き換えると以下のように表される。

Cov(⊿Y,⊿Y*

)=Cov(Σiαiuit+ vt+ g ,Σiαi*uit + vt*+ g*) =Cov(Σiαiuit,Σiαi*uit)+Cov(vt,vt*) =Σiαiαi*σi2+σv,v* 右辺二項は各々,特定産業と特定国に限定的なショックと経済成長の同調性との関連性を示す。 特定産業に限定的なショックが経済成長率の同調性に及ぼす影響は両国の産業構造を示すαi の値 に左右される。特定産業に大きなショックが発生し,かつ当該産業の比重が両国ともに高い場合, 経済成長の同調化が進む。しかし,両国の産業構造が類似していなくても,貿易による経済的結び つきが強く両国で特化が進んでいると,外国の主要輸出産業に限定的なショックが経済全体に広が り,自国までスピルオーバーしてくる可能性はある。すなわち二国間貿易が発展して分業,特化が 進めば,産業特定型のショックが一国特定型のショックとなってスピルオーバーし,両国の短期的 成長率変動の共分散,そして経済成長の同調性も高まる9) 。

以上に基づき Frankel and Rose(1998)は二国間の景気循環の同調と貿易の二国間集中度の関連

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ータでモデル推計がおこなわれた。その結果,二国間貿易の集中度と景気循環の同調に正の関係が 認められることが示された10) 。クルグマンは上述のように特定産業限定的なショックがもたらす影 響は貿易が産業間貿易であるか産業内貿易であるかによって異なることを指摘していたが,Frankel and Rose(1998)の実証分析は両者を識別せずネットの影響を推計した。より最近の研究では,二 国間貿易における産業内貿易の比重をモデルに導入して分析が行われている。さらに,当該二国の 総輸出入に占める同二国間貿易の比重―貿易集中度を用い,貿易による相互依存度が高いほど ショックが伝わりやすく景気循環の同調性が増すといえるか,検証が行われている。二国間で産業 内貿易の比重が高いほど景気循環の相関が高まることを検証の結果として示したものに,以下があ

る。Kose and Yi(2001),Fidrmuc(2001),Loyaza,Lopez and Ubide(2001)。一方,Fidrmuc(2001),

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金融財政政策は負のショックの影響を減殺するために実施される場合があり,その結果,短期の 景気循環局面が相手国と非対称になる可能性がある。つまり両国がともに緩和政策あるいは引き締 め政策を実施していれば二国の景気循環は対称的になるが,両国の政策が相反する場合は非対称的 な景気循環になりやすいと考えられる。そこで,二国の金融財政政策の相対的規模の格差を示す指

標等を使い,モデル推計を行う方法も試みられている。その例に Inklaar et.al.(2008),Shin and

Wang(2003)がある。それぞれが工業諸国,アジア諸国を対象に分析をおこない,協調的な政策 が実施されていると景気循環は対称的になることを示した。 2‐2 GDP 短期循環指標と2国間連動性 ・GDP の短期循環指標 先述のとおりアジア途上諸国は1960年代以来長期にわたり経済成長を維持しており,実質 GDP は上昇トレンドを示している。しかし GDP 統計値は短期的に山と谷をくり返す景気循環成分を含 んでいる。経済の短期的変動の分析においては,GDP 統計値からトレンド成分を除去した循環成 分を用いることが多い。循環成分の抽出方法は何通りもあるが,小論のテーマと同じ分野で多くの 実証研究が採用しているのはホドリック=プレスコット(HP)・フィルターである15) 。この手法で は,GDP(Yt)から,次式が最小になるトレンド成分(Y S t)を求め,それを Ytから引いた値を循 環成分 YC t )とする。 !T

t=1(Yt−YSt)2+λ!T−1t=2( YtS+ 1− YSt)−( YSt−Yt−1S ))2

HP フィルターで推計されるトレンドは非線形トレンドであり,図示するとトレンド成分は原デ ータのグラフに近接した平滑な曲線となる。小論では HP フィルターを用いて推計した実質 GDP の循環成分を景気循環指標とする。そして,二国間の経済活動の動向とともに両国の景気循環の連 動性はどのように変化するかを分析する。対象国はタイと同国の貿易相手国7か国(マレーシア, シンガポール,フィリピン,インドネシア,米国,中国,日本)とする。以下ではタイと相手国の 2国について,両国の景気循環指標の同調性を測り指標化する方法について述べる。 ・GDP 短期循環の連動性指標 本テーマに関する実証分析の多くは,2国の景気循環指標の相関係数を同調性の指標として用い ている。時系列データ分析の場合,移動平均,分散を用いて二国間の相関が推計されている。小論

も同じ方法をとるが,通常の相関係数と,Abid et.al.(2013),Duval(2014)の quasi correlation を

用い,モデルの推計結果を比較する。また,Harding and Pagan(2003)の concordance index を

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実証分析 二国間の景気循環連動性と貿易・金融・政策 3‐1 指標とデータ 小論では IMF,世界銀行,国連,タイ中央銀行から得られる時系列データを利用して景気循環 指標,二国間の貿易,金融市場統合化,同じく産業構造の共通性等の指標を作り,短期的経済循環 の二国間連動性に関するモデルを推計する。なお小論ではタイと同国の主要貿易相手国の一国とを 一組とする二国間のみに限定して上記の分析を行う(タイの主要貿易相手国として7か国を選んだ シンガポール,マレーシア,インドネシア,フィリピン,中国,日本,米国)。しかし必要なデー タが入手不能の場合は分析の対象から外すか期間を短縮する。 ・景気循環の二国間連動性指標 経済の短期的循環変動の指標としては,各国通貨建て実質 GDP の時系列データからトレンド 成分を差し引いた残差を用いる。トレンド成分の推計には HP フィルタを用いる。この実質 GDP 循環変動指標 YC Tt(添え字の T は国を表す)を各国について作り,それらの二国間連動性指標を3 通り作成する。 1)標本相関係数 Cor..Tj(cor10YRhpTJ) 移動平均,標準偏差を用いて各期(t 期)に対応する短期循環指標の2国間相関係数を求める。t 期からラグのみ(t 期から{ t−k }期まで)をとって計算するものと,t 期からのリード,ラグの両 方をとって({ t+j }期から{ t−k }期まで)計算する2通りを使う(k の値は4または5,j の値は 4と設定した)。 2)quasi correlation17) QuascorTi 短期循環指標の二国間相関係数を求める式の分子を,下記のように各々の国の当該期の値 YTtc と標本平均 YTcとの差の積に置き換えて求める。分母は標本標準偏差σYTを用いる。相関係数と異 なり指標値の範囲は―1から1の間に制限されない。

QuascorTit=(Y

C Tt−Y C T)(Y C US t−Y C US)/σYTσYUS 添え字の T はタイ,US は米国を表す

3)concordance index ConcrdTi

各々の国の短期循環指標の値が5期間続けて前期より上昇した場合に1,他は0となるダミー変

数 DY

tを作る。そしてタイと米国の組合せであれば,次式を使い,各々の国の上記ダミー変数 DYTt,

DY

UStの値が1および0で一致するとき1,その他は0となるダミー変数を作成する。

concordance index=ConTit=DYT tDYUS t+(1−DYT t)(1−DYUS t)

上記 concordance 指標はタイと米国の短期循環指標が5期間にわたりそろって上昇,下降してい れば1,そうでなければ0となる。なお,景気循環指標の二国間連動性を示す指標を計算する際, ラグ,リード等の値は指標の算出結果を見て設定する。

ここで経済成長及び経済の短期循環変動の推移を概観しておく。長田・平塚(1992)は74,80,84

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(14)

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▷ᮇᚠ⎔ᣦᶆ䛾 ᅜ㛫䜾䝺䞁䝆䝱䞊ᅉᯝ㛵ಀ

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た値を合計し,その二国平均をとった。

金融市場開放度指標 ((FdiIN

T+FdiOUTT )/ YT+(FdiINj +FdiOUTj )/ Yj)/2 3)産業構造と財政政策の類似性 二国の産業構造が類似しているほど,特定産業限定型ショックが両国共通の対称的なショックに なりやすいと考えられる。また,二国の産業構造が異なる場合は産業間貿易の比重が大きくなり, 貿易の二国間集中度が高いとしても景気循環は非対称的になると考えられる。二国間の産業構造共 通性は,各産業の生産高と GDP の比を二国間で比較しその差の絶対値を用いて指標化する方法が 一般的である。本指標を作るさい,産業分類は上記の貿易指標にそろえるべきであるが,データが 得られなかったため小論では世銀による大分類の統計を用いた。なお,産業構造を詳細に分類する ために,産業分類を細分化したうえ,生産高に加え,労働者数,付加価値生産を用いた指標を用い ている研究例もある24) 。 外生的ショックが生じた際に財政政策が動員されるとすれば,そのねらいはショックの緩和であ ると考えられる。したがって一方だけが財政出動する場合は,ショックが2国間で非対称的になり, 景気循環も同様になる可能性がある。そして両国が経済政策協調を実行するなら,結果は逆になる と考えられる。2国間の財政支出政策の共通性を示す指標として下記を用いる。 産業構造共通性=1/ΣN k=1|skT−skj|,skjは j 国の産業 k の生産額が GDP に占める比重

財政政策の共通性=1/|(G/ Y)T−(G/ Y)j|,(G/ Y)jは j 国の政府支出額が GDP に占める比重

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(20)
(21)

表5

GDP

(22)

表5

続き)

GDP

(23)
(24)
(25)
(26)

表6

二値の

GDP

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(29)
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(32)

と解釈しうる。そして二国間の金融市場インテグレーション指標に関しては,一部に統計的に有意 でない場合があるが,誤差修正モデルにおける長期関係式の係数符号とほぼ一致した。なお誤差修 正モデルを構成する階差変数の推計係数については個別に解釈する代わりにインパルス反応を用い た。使用する変数の順位付けによる変化はあるが,二国間貿易集中度と産業内貿易の高まりが両方 とも短期循環連動に正の影響を及ぼすことを示したのはタイ・日本の組合せだけであった。米国と フィリピンが相手国である場合,産業内貿易が短期循環連動性に対して正の影響を及ぼす結果とな り,マレーシアと中国が貿易相手の場合,二国間貿易集中度が短期循環連動性に対し正の影響を示 す結果になった。一方,金融市場に関しては,市場の開放度と二国間インテグレーションの両方が GDP 短期循環連動性に正の影響を及ぼすことを示したのは米国とタイの組合せであった。そして シンガポール,フィリピン,日本,中国が相手国の場合,金融市場開放度が GDP 短期循環連関性 に正の影響を及ぼし,シンガポールとマレーシアが相手国の場合,二国間金融市場インテグレーショ ンが短期循環の連動性に正の影響を及ぼす結果となった。ただし,米国・タイの組合せと比べ,他 国とタイの組合せの場合,金融市場指標の変化が景気循環連動性に及ぼす影響は小さいと言える。 以上のように,タイと主な貿易相手国の二国間景気循環連動性について時系列データを用いて 関係式の推計を行ったが,貿易,資本移動,政府支出,産業構造の各要因について,貿易相手国に よる差異がみられた。その要因を探るためにもさらに検討すべき課題が残されている。それらのう ち指標について言うと,ここで用いた指標はほとんどが代理変数であり,他に考えられる指標も比 較検討するべきである。景気循環指標についてはトレンドを推計する他の手法があることに加え, GDP の構成要素を個別に指標化して比較する必要もある。貿易,産業構造指標については,より 細かい分類に基づく指標を使って検証結果を比較すべきだと言える。一方,外生的ショック要因に 関して,グローバル・コモン,相手国からのマクロ・スピルオーバー,特定産業型を識別して推計 式に導入する方法を検討すべきである。また交易条件,特にタイの場合は一次産品価格変動の影響 も考慮すべきであろう。

1)例として以下を参照。Artis(1997), Barrios(2003),Harding(2001),Montoya Haar(2007), Anagnostou(2012) 2)Mundel(1961)を参照。

3)Bems et.al.(2010)“Demand spillovers and collapse of trade in the global recession” IMF Working Paper wp/10/142 参照。

4)Dal(2014)を参照。

5)Canova and Dellas(1993)を参照。

6)詳しくは次を参照 Mundell(1961),(2001),McKinnon(1963),(2005). 7)Kenen(1969),Kenen(2000)を参照。

8)Krugman(1991),(1993),Eichengreen(1992)を参照。 9)Grigoli(2011)Frankel and Rose(1997)

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13)Duval et.al.(2014)を参照。

14)代表例として以下を参照:Calvo and Reinhart(1996)“Capital flows to Latin America : is there evidence of contagion effect?“ in Calvo et.al. eds., Private Capital Flows to Emerging Markets after the Mexican Crisis, Kose et.al.(2003) “”How does globalization affect the synchronization of business cycles” American Economic Review,93,2.

15)景気循環の分析に HP フィルタを用いることの問題点については次を参照。Meyer y and Winker(2004)

Using HP Filtered Data for Econometric Analysis : Some Evidence from Monte Carlo Simulations ¤, January30,2004 16)Harding and Pagan(2016)ch.6, Harding and Pagan(1999), Harding and Pagan(2003), Harding and Pagan(2004)

を参照。

17)Abid et.al(2013),Duval et.al(2014)を参照。

18)実質 GDP の循環成分の上昇が続いた期間の長さは1期から試行的に7期間までとった。 19)各国(下記)の GDP の循環成分指標は,水準値の場合は単位根を持つとの帰無仮説が5%または1%水準では棄却 されず,階差の場合はすべて1%で棄却された。また,各国の同指標の間に,共和分関係の数に関する検定の結果,少 なくとも2つの共和分関係があることが示された。対象国はタイ,マレーシア,シンガポール,フィリピン,日本,米 国の6か国とした。 20)Dal(2014)を参照。

21)例外は米国,日本である。IMF Direction of Trade の四半期データを参照。

22)二国間貿易の集中度を示す指標として,本文中の指標の分母を GDP としたものも多くの実証研究で用いられている。 Pontines(2010),Frankel(1997,1998), Imbs(2004) 23)途上国における産業内分業は垂直型が一般的であるといえるが,時系列データを使う場合,年代が進むにつれて貿易 構造が変化しても産業内貿易指標の値に反映されないという問題もある。 24)Ruiz(2008), Inklaar(2005),Pontines(2010)等を参照 25)Ruiz(2008)を参照。 26)なお,2度の金融危機直後の期間のみを1,それ以外は0とするダミー変数(D9708=1997.Q3以降1998.Q2まで, 及び2008.Q3以降2009.Q1までの期間を1とし,他の期間は0とする)を用いて推計を行ったが,統計的に有意な結 果にならなかった。 27)Dal(2014)参照。 28)二国の各々について求めた直接投資流出入総額の対 GDP 比の平均をとり,金融市場の開放度指標とした。 29)Li(2016)の Appendix を参照。 30)Harding(1998)参照。 参考文献 開発壮平,古賀麻衣子,坂田智哉,原尚子(2017)「景気循環と経済成長の連関」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ17, J−8 高橋克秀(2007)『アジア経済動態論−景気サイクルの連関と地域経済統合』 長田博,平塚大祐 編(1992)『アジアの成長循環』アジア経済研究所 研究双書 413

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Documentos de Trabajo No0810

参照

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