ヘモグロビンのアロステリック効果
著者 森本 英樹, 今井 清博, 梶田 昭彦, 北川 禎三, 郷 信広, 高橋 征三, 松川 茂, 馬渡 一浩, 小西 康子 , 根矢 三郎, 今泉 和彦, 浅井 博
雑誌名 昭和62(1987)年度 科学研究費補助金 総合研究(A) 研究成果報告書
巻 1985‑1987
ページ 50p.
発行年 1988‑03‑01
URL http://doi.org/10.24517/00034923
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
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8
ヘ モ グ ロ ビ ン の 研 究 の 歴 史 は 長 い 。 あ ら ゆ る 手 段 が 動 員 さ れ つ く し て い る と い っ て よ い 。 そ れ に も か か わ ら ず 、 今 、 研 究 班 を 組 織 し 、 協 力 し て 研 究 を 進 め て き た の は な ぜ か ? そ れ は 、 ア ロ ス テ リ ッ ク 効 果 の メ カ ニ ズ ム を タ ン パ ク 質 分 子 の 構 造 の レ ベ ル で 解 明 し た い か ら で あ る が 、 そ れ と と も に ア ロ ス テ リ ッ ク 効 果 の メ カ ニ ズ ム の 研 究 を 2 状 態 モ デ ル の 上 に 積 み 上 げ て よ い の か ど う か 、 全 く は っ き り し
て い な い の が 実 情 だ か ら で あ る 。 こ の 研 究 班 の 活 動 の 主 要 な 目 標 は2 状 態 モ デ ル の 当 否 に つ い て 答 え る こ と で あ っ た 。 厳 密 な 意 味 で の 2 状 態 モ デ ル が 成 立 っ て い な い こ と は も と も と わ か っ て い る の で 2
状 態 モ デ ル の 修 正 で ま か な う か 、 別 の モ デ ル が 必 要 か と い う 風 に 問題 を 設 定 し た 。 そ し て 、 現 象 が 2 状 態 モ デ ル と ど の よ う に は ず れ る の か 、 具 体 的 に で き た ら 定 量 的 に 表 現 し よ う と 試 み た 。
以 下 に こ の 約 4 年 間 ヘ モ グ ロ ビ ン の ア ロ ス テ リ ッ ク 効 果 の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る た め に お こ な っ て き た 研 究 を 9 項 目 に わ た っ て 報 告 し 、 最 後 に 2 状 態 モ デ ル を め ぐ る 私 共 の 認 識 を ま と め て お き た い。
17
2 コ 、 3 コ 結 合 し た ヘ モ グ ロ ビ ン ) の 濃 度 は 低 い た め 、 ど の よ う な
変 化 量 も 酸 素 結 合 量 と 比 例 す る 関 係 に 近 い こ と が 期 待 さ れ る 。 当 然 酸 素 結 合 の 中 間 段 階 の 分 子 の み か ら 出 る シ グ ナ ル を 検 出 で き れ ば よい の で あ る が 、 構 造 上 の 解 釈 ま で 含 め て 受 け 入 れ ら れ て い る デ ー タ
は な い 。 こ こ に 酸 素 結 合 の 中 間 段 階 を モ デ ル で 実 現 す る 方 法 が と ら れ る 理 由 が あ る 。 こ れ に つ い て は 、 デ オ キ シ ヘ ム の モ デ ル の 項 で 述べる。
酸 素 飽 和 度 を 変 化 す る 諸 量 を 比 較 す る 軸 に 使 え な い の で 、 考 え た の が デ オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン の 構 造 が 色 々 な 化 学 修 飾 し た ヘ モ グ ロ ビ
ン や 、 異 常 ヘ モ グ ロ ビ ン で ど う 変 化 す る か を デ オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン
に 1 コ 目 の 酸 素 が 結 合 す る 親 和 性 ( 酸 素 平 衡 定 数 ) の 変 化 を 軸 に 整 理 す る と い う 方 法 で あ る 。 次 の よ う な 量 に つ い て 定 量 的 デ ー タ が 得られた。
( 1 ) ヘ ム の 吸 収 ス ペ ク ト ル と 光 学 活 性
( 2 ) 近 位 ヒ ス チ ジ ン と F e の 伸 縮 振 動 の 共 鳴 ラ マ ン 線
( 3 ) 近 位 ヒ ス チ ジ ン の N H 基 の プ ロ ト ン N M R
( 4 ) α 1 B 2 界 面 の デ オ キ シ 構 造 の 時 に 存 在 す る 水 素 結 合 の プ ロ ト ン N M R
( 5 ) β 9 3 シ ス テ イ ン の 反 応 性
( 6 ) ト リ チ ユ ー ム 交 換 速 度 法
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( 7 ) ア ロ マ テ ィ ッ ク ア ミ ノ 酸 に 由 来 す る 紫 外 の 差 ス ペ ク ト ル 、 光
学活性。
構 造 変 化 を 示 す パ ラ メ ー タ を 比 較 す る の だ か ら ( イ ) 同 じ 条 件 下
で の デ ー タ が ほ し い 。 ( 口 ) 変 化 の 中 間 段 階 の デ ー タ が ほ し い 。
( ハ ) 測 定 さ れ た パ ラ メ ー タ と 構 造 と の 関 係 が ほ し い 。 と い う 要 求
が あ る 。 し ら べ る 前 か ら 予 期 し て い た こ と で は あ る が こ の 条 件 を す べ て み た す デ ー タ の 組 み 合 せ は ほ と ん ど な い の で 、 に か よ っ た 条 件 下 で デ ー タ を 比 較 し 、 変 化 の 中 間 段 階 を 推 定 し た り す る 。 ( ハ ) に つ い て の あ る 程 度 の あ い ま い さ は 許 す ( た と え ば ( 6 ) ト リ チ ュ ー ム 交 換 反 応 の よ う に 反 応 速 度 が あ ま り に 大 き く 変 化 し て い る も の で は 、 解 釈 の 仕 方 で 、 ど の よ う な デ ー タ に も な っ て し ま う 。 〉 こ と ま で し て 、 次 の よ う な 一 応 の 結 論 を 得 た 。 ( A ) ヘ ム 近 傍 の 変 化 を 表 す も の ( 前 記 ( 1 ) 、 ( 2 ) 、 ( 3 ) ) は お お む ね 同 期 し て 変 化 す る 。 ( B ) ヘ ム 近 傍 以 外 の タ ン パ ク 部 分 の 構 造 変 化 を 示 す パ ラ メ ー タ に は へ ム 近 傍 の 変 化 と 同 期 し な い も の が あ る 。
以 上 の よ う な 状 況 の 中 で 、 今 ま で 行 わ れ て き た 測 定 法 も 含 め て 条 件 を 揃 え て 実 験 を 進 め る 必 要 が あ っ た 。 松 川 、 馬 渡 は 異 常 へ モ グ ロ
ビンと原子価混成へモグロビンを使って、この線に沿った実験を進めた。そして、β93システインヘの4・PDS(4,4'‑Dithio
‑phyridine)の結合のみかけの速度定数Kappとデオキシヘモグロ
20
ビンヘの1コ目の酸素結合の平衡定数K1との関係がInKappと│n
K1とがほぼ直線関係にあることを示した10,15)。α1B2界面の
状態を示す288nm付近の差スペクトルの大きさも、InK1とほぼ 直線関係にあることも示した , 3)。一方、北川の協力によって測
定されたFe−近位ヒスチジンの伸縮振動の変化はInK1とは直線関
係 か ら は ず れ て 、 酸 素 親 和 性 の 高 い と こ ろ で 変 化 が 大 き く な っ て い
る9,10,12,16,19)。同じFe‑ヒスチジンの伸縮振動数の変化を柴山、
森 本 、 北 川 が F e ‑ N i 混 成 ヘ モ グ ロ ビ ン を 使 っ て α 鎖 の F e に つ い て だ け 測 定 し た 結 果 酸 素 親 和 性 の 高 い 型 と 低 い 型 の 2 状 態 的 変 化 を 示
すことが明らかとなった。2)(金属置換混成へモグロビンについて
は 、 後 ほ ど 更 に 詳 し く 論 ず る 。 ) こ れ ら の デ ー タ と 文 献 上 の デ ー タ
と 合 せ て 考 え る と 「 デ オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン に お い て 1 コ 目 の 酸 素 結
合の親和性が0.0,mmHo‑'から0.,mmH9‑'位までの変化の時は、ヘ
ム 近 傍 の パ ラ メ ー タ は あ ま り 変 化 せ ず タ ン パ ク 質 部 分 の パ ラ メ ー タ の み 変 化 す る 。 」 と 結 論 す る こ と が で き る 。
21
( I I ) 2 状 態 モ デ ル の パ ラ メ ー タ
2 状 態 モ デ ル は 3 つ の パ ラ メ ー タ を 使 っ て 酸 素 平 衡 曲 線 を 表 わ す 。
6)(KT:低酸素親和性であるT状態の酸素平衡定数、KR:高酸
素 親 和 性 で あ る R 状 態 の 酸 素 平 衡 定 数 、 L : デ オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン
に お け る T 状 態 と R 状 態 の 濃 度 比 ) 比 較 的 以 前 か ら 、 ヒ ト の ヘ モ グ 口 ピ ン の 酸 素 親 和 性 に は 、 そ れ 以 上 高 く は な れ な い と い う 上 限 が あ
り、それがKRとなると考えられて来た6)。単離したα鎖やβ鎖の
酸 素 親 和 性 も こ れ に 近 い 。 し か し 今 ま で は 、 2 1 3 の 酸 素 親 和 性 の
低 い 異 常 ヘ モ グ ロ ビ ン の 例 だ け だ っ た 酸 素 親 和 性 低 い 方 の 側 に つ い て も 、 金 属 置 換 混 成 ヘ モ グ ロ ビ ン の 中 で 低 い 親 和 性 を 示 す も の が み な 同 じ 位 の { 直 に 収 散 し て い く こ と か ら 上 限 と 同 じ よ う に 下 限 も 存 在
していることが明らかになった4)。
一方で松川と協力者,0,,2,15)、今井によって6)、酸素平衡曲線 を2状態モデルで解析すると、KRがあまり変化せず、KTとLの
間 に も 関 係 が あ っ て 、 実 質 1 個 の パ ラ メ ー タ で 酸 素 平 衡 曲 線 が 表 現
できる場合が多いことが示された。たしかにKRが溶液の条件によ
っ て だ ん だ ん と 変 化 す る よ う な 条 件 の 範 囲 が あ る よ う に は み え な い 。 そ れ は 酸 素 平 衡 曲 線 の ヒ ル プ ロ ッ ト が 、 上 側 の 漸 近 線 に 近 づ く の は 、 飽 和 度 で 9 9 % を こ え る 位 か ら で あ り 、 酸 素 親 和 性 が 下 が る と 、 純
2 2
酸 素 を 使 っ て も 測 定 で き な い 範 囲 に 入 っ て し ま う こ と に よ る 見 か け 上 の 問 題 か も し れ な い 。 も し 、 そ う だ と す れ ば 、 こ れ は 酸 素 平 衡 曲 線 の 最 大 勾 配 の 点 が 5 0 % 飽 和 よ り 上 に あ る と い う 、 い わ ゆ る 酸 素 平衡曲線の非対称性の問題と関連することになる。また金属置換混 成 ヘ モ グ ロ ビ ン の 中 で も 、 あ る 程 度 以 上 酸 素 親 和 性 が 低 く な る と
KTも条件に依存しなくなるわけで4)、上記のLとKTの間の関係
も成立たなくなる。このようにKRがKTに比べて変化しないよう
に み え る こ と 、 L と K 〒 が 一 定 の 関 係 を も っ て い る こ と 、 ど ち ら ににみえること、LとKTが一定の関係をもって↓
つ い て も 今 の と こ ろ そ の 意 味 は あ き ら か で な い 。
2 3
( I I I ) デ オ キ シ ヘ ム ( 酸 素 の 結 合 し て い な い ヘ ム ) の モ デ ル
森 本 と 協 力 者 に よ っ て 、 α 鎖 か β 鎖 の F e の み を 他 の 金 属 イ オ ン
に置き変えた金属置換混成ヘモグロビンの研究がすすめられた4)。
こ れ は 、 大 き く わ け て 2 つ の 意 味 が あ る 。 1 つ は 、 こ の 研 究 が へ ム
の 中 心 金 属 の 電 子 状 態 と グ ロ ビ ン の 構 造 と の 相 互 作 用 を 研 究 す る 有 力 な 手 段 と な っ て い る こ と で あ る 。 こ の 点 に つ い て は 、 ( V ) で と り あ げ る 。 も う 1 つ は 、 金 属 置 換 混 成 ヘ モ グ ロ ビ ン の 研 究 か ら 金 属プ ロ ト ポ ル フ ィ リ ン の 中 に は 、 デ オ キ シ ヘ ム の よ い モ デ ル に な る も
の が わ か っ て き た こ と で あ る 。 ( I ) で も 述 べ た が 、 ヘ モ グ ロ ビ ン の 酸 素 結 合 の 中 間 段 階 の モ デ ル が 必 要 で あ る が 、 そ の た め に は 、 酸 素 の 脱 着 が な く 、 か つ 構 造 上 デ オ キ シ ヘ ム と 等 価 で あ る よ う な デ オ キ シ ヘ ム の モ デ ル や 、 酸 素 の 脱 着 が な く 、 か つ 構 造 上 酸 素 の 結 合 して い る オ キ シ ヘ ム と 等 価 で あ る よ う な オ キ シ ヘ ム の モ デ ル が 必 要 と
なる。従来からオキシヘムのモデルとしてはFe3+CN‑一プロトポ
ル フ ィ リ ン が 使 わ れ て 来 た が 、 デ オ キ シ ヘ ム の よ い モ デ ル は み つ か
っていなかった。鉄属遷移金属イオンをZn2+、Cu2+、Ni2+、
Mn3+、Co3+、Cr3+、VO2+、Mg2+(Ca2+のかわり)と研 究は進んでいるがZn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+のプロポルフ
イ リ ン 錯 休 は 酸 素 親 和 性 の 低 い 構 造 を 安 定 化 し 、 パ ー ト ナ ー の ヘ ム
2 4
の 酸 素 親 和 性 は 非 常 に 低 く な り 、 デ オ キ シ ヘ ム の モ デ ル と し て 使 え
ることがわかった。その中でもNi2+−プロトポルフィリンが特にく わしく調べられた 2'3)。よいデオキシヘムのモデルという規準は、
そ の モ デ ル を 使 っ た こ と の 分 子 内 の 酸 素 結 合 機 能 へ の 影 響 が デ オ キ
シヘムそれ自身にどれだけ近いかで判断する。この規準でNi2+−プ ロトポルフイリンは、通常の正常ヘモグロビン中だけでなく )、化
学 修 飾 を ほ ど こ し た ヘ モ グ ロ ビ ン の 中 で も 、 デ オ キ シ ヘ ム と し て ふ
るまうことが明らかとなった2)。
α鎖中のNi2+̲プロトポルフイリンは、タンパク部分がデオキシ
ヘ モ グ ロ ビ ン 型 構 造 の 時 は 、 近 位 ヒ ス ト ジ ン と の 結 合 が き れ て 4 配 位構造となり、タンパク部分がオキシヘモグロビン型構造の時は、
4 配 位 構 造 と 5 配 位 構 造 の ま ざ り と な る 。 こ の 変 化 は 、 吸 収 ス ペ ク
トルの大きな変化を伴うので、Ni2+̲プロトポルフィリンは、よい
デ オ キ シ ヘ ム の モ デ ル で あ る ば か り か 、 α 鎖 へ ム ポ ケ ッ ト の 使 い や す い 状 態 識 別 の マ ー カ ー と な っ て い る 。
2 5
(IV)Ni‑fe混成ヘモグロビン
デオキシヘムのモデルとしてのNi2+一プロトポルフイリンを使つ
た ヘ モ グ ロ ビ ン の 酸 素 結 合 の 中 間 段 階 の 研 究 が 進 め ら れ た 。 そ し て 、
Q(2(Ni2+)B2(Fe2+)において2状態モデルでは全く解釈する
ことができない現象がみつかった。このヘモグロビンではβ(Fe2+
)ヘの酸素の結合はもう,.のβ(Fe2+)の酸素の結合の親和性を
変 え な い 。 ( B − B 間 の ヘ ム 間 相 互 作 用 が な い 。 ) し か し 、 一 方 で
Q(Ni2+)の状態を示す吸収スペクトルは、β鎖への酸素の結合量 にほぼ比例して変化する')。NMRで、α1B2界面の状態をみる
とα1B2界面も変化する3)。このことはα2(Ni2+)82(Fe2+
̲O2)という状態が測定手段によって全く違った状態にみえると
い う こ と で あ り 、 ま た 、 サ ブ ユ ニ ッ ト 間 の 相 互 作 用 と し て 、 相 互 作 用 の あ る 組 み 合 せ や 、 な い 組 み 合 せ を 考 え る 必 要 が あ り 、 と て も 2 状 態 モ デ ル の 修 正 . で 説 明 で き る 現 象 で は な い 。
cY2(Fe2+)B2(Ni2+)については、酸素平衡曲線が条件によ っては、ヘム間相互作用を示すので)、α2(Ni2+)B2(Fe2+)
の 場 合 ほ ど に は 2 状 態 モ デ ル と の 矛 盾 が あ ら わ で は な い 。 し か し 、 p H 6 . 5 で は 酸 素 平 衡 曲 線 は ヘ ム 間 相 互 作 用 が な い の に 、 α 1 B 2 界 面 の N M R シ グ ナ ル は 変 化 す る こ と や 、 一 酸 化 炭 素 が 結 合 し た 後 、
26
界 面 の N M R シ グ ナ ル は 変 化 し な い の に 、 β 鎖 の 近 位 ヒ ス チ ジ ン の
シグナルは変化することなど、α2(Ni2+)B2(Fe2+)の場合と
同じである3)。Ni‑Fe混成へモグロビンを化学修飾してデオキシ
ヘ モ グ ロ ビ ン の ま ま で 構 造 変 化 さ せ 、 1 コ 目 の 酸 素 結 合 の 平 衡 定 数
K1パラメータの関係を出すこともおこなわれた2)。α2(Fe2+) B2(Ni2+)を使ったFe‑近位ヒスチジンの共鳴ラマンスペクトル の変化については、(I)ですでに述べた。α2(Ni2+)B2(Ni
2+)の吸光スペクトルの変化の場合も、他の例と同じように、変化
は 、 酸 素 結 合 の 親 和 性 の 高 い 所 で 主 に お こ る 。 デ オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン の 酸 素 結 合 の 親 和 性 の 低 い 状 態 か ら 親 和 性 を 高 く し て い く と き 、 は じ め の う ち は 変 化 が お こ ら な い と い う こ と で あ り 、 酸 素 の 結 合 を
構造変化させる手段とした場合(酸素親和性は変化せずにa(Ni2+)
の 吸 収 ス ペ ク ト ル は 変 化 し た ) と き わ だ っ た 対 比 と な っ て い る 。
2 7
金属ポルフィリンのX線結晶解析のデータから、金属イオンに配位 する塩基までの距離を調べてこの仮説が金属置換混成ヘモグロビン の酸素平衡曲線を説明するか検討してみると、多くの場合妥当であ
ることがわかる。しかし、Co2+の場合あまり塩基とポルフィリン の距離が長くないが、β鎖Co2+のα鎖ヘムの酸素結合の親和性は
低いこと、β鎖プロトポルフィリンのα鎖ヘムの酸素結合の親和性
は高いこと、β鎖Ni2+は5配位であるが、Ni2+̲ポルフィリンの
X線のデータは(5配位のものがないので、6配位のデータで代用 す れ ば ) 塩 基 と の 距 離 は 長 く な い の に α 鎖 ヘ ム の 酸 素 結 合 の 親 和 性 は低いことなど、β鎖を置換した混成ヘモグロビンをめぐって矛盾 が め だ つ 。 α 鎖 と β 鎖 に つ い て あ る 程 度 別 の メ カ ニ ズ ム を 考 え る こ とが必要なのであろう。又、α鎖、β鎖どちらかにはヘムが入って いない混成ヘモグロビンであるセミヘモグロビンの場合も近位ヒス チ ジ ン が 最 も 束 縛 さ れ て い な い 状 態 で あ る の に 、 酸 素 結 合 の 親 和 性 は 高 い と い う 問 題 点 も あ る 。
金属ポルフィリンと塩の結合の安定性(平衡定数)と逆側のサブ ユ ニ ッ ト の へ ム の 酸 素 結 合 の 親 和 性 に は 直 接 の 相 関 を み つ け る こ と は で き な か っ た 。 英 国 ケ ン ブ リ ッ ジ の X 線 結 晶 解 析 の グ ル ー プ に よ り、森本の協力者達の作った混成ヘモグロビンのX線結晶解析が進 行中であり、その結果が次の見通しを出すものと期待している。
29
( V I I ) q l 8 1 相 互 作 用
酸素、一酸化炭素を結合したヘモグロビンでは1O‑6M位の濃度 で4塁体α2B2の2量体αβヘの解離がみられる。a2e2の
α β ヘ の 解 離 は 、 立 体 構 造 上 2 通 り 可 能 で あ る が 、 実 際 は そ の う ち
片 方 の み お こ る 。 そ の 2 量 体 の α 鎖 と β 鎖 の 組 み 合 せ を a 1 B 1 と
呼 び 、 も う 一 方 を α 1 B 2 、 と か a 2 B 1 と か 呼 ぶ 。ヘ モ グ ロ ビ ン は 、 4 量 体 全 体 が 機 能 上 の 最 小 単 位 で あ り 、 a 1 B 1 2 量 体 に は ヘ ム 間 相 互 作 用 は な い と さ れ て い る 。 ヘ ム か ら へ ム
ヘ の 相 互 作 用 の 筋 道 と い う 意 味 で は 、 4 量 体 中 で も 、 α 1 B 2 、 a
2 B 1 の 組 み 合 わ せ が 強 調 さ れ て 、 α 1 α 2 , B 1 B 2 の 相 互 作 用 が こ れ を 補 い 、 a 1 B 1 の 間 に は 直 接 の 相 互 作 用 は ほ と ん ど な い と い う 考 え が 大 勢 を し め て い る 。
α 1 G 1 2 量 体 の 酸 素 結 合 機 能 に ヘ ム 間 相 互 作 用 の な い こ と は 、 オ キ シ ヘ モ グ ロ ビ ン の 2 晶 休 へ の 解 離 と 、 2 量 休 の 4 量 休 へ の 結 合 の 双 方 の 速 度 定 数 の 測 定 、 ヘ モ グ ロ ビ ン 、 単 離 α 鎖 、 単 離 β 鎖 の 酸 素 平 衡 l l h 線 、 フ ラ ッ シ ュ 法 に よ り 作 ら れ た デ オ キ シ 2 量 体 の 一 酸 化 炭 素 結 合 の 速 度 論 的 研 究 等 か ら 導 き 出 さ れ て い る 結 論 で あ り 、 実 際
に 2 騒 休 に つ い て の 酸 素 平 衡 曲 線 の 測 定 は 化 学 修 飾 し た ヘ モ グ ロ ビン を イ オ ン 強 度 の 強 い 溶 液 中 で 測 定 し た 例 が あ る の み で あ る 。 又 、
32
( V I I I ) ヒ ト の ヘ モ グ ロ ビ ン と ち が っ た 構 造 を も つ 酸 素 運 搬 体
の酸素平衡機能24)
無 脊 椎 動 物 に は 哺 乳 類 の へ モ グ ロ ビ ン と は 全 く 異 な っ た 分 子 状 酸 素 の 運 搬 体 タ ン パ ク 質 を も つ も の が あ る 。
Fe2+一プロトポルフィリンを使っており、進化の起源も共通では
あ る が 、 集 合 し て い る サ プ ユ ニ ツ ト の 数 が 百 以 上 に ま で な る 分 子 量
の非常に大きい巨大ヘモグロビン22,23,25)、ポルフイリンなしの Feの鎖体をもつへムエリスリン5)、銅の鎖体をもつへモシアニン
等 で あ る 。 こ れ ら の 酸 素 運 搬 体 の 酸 素 結 合 機 能 の 研 究 が 梶 田 と 協 力
者 、 今 井 と 協 力 者 に よ っ て お こ な わ れ た 。 ヒ ト の ヘ モ グ ロ ビ ン の と き と 同 様 に 2 状 態 モ デ ル が 適 用 可 能 か ど う か 検 討 さ れ た 。 い ず れ の 場 合 も 厳 密 な 意 味 で の 2 状 態 モ デ ル は 適 用 で き な い こ と 、 ヒ ト ヘ
モグロビンとちがってCa2+が共通して酸素結合機能に影響するが、