【研究ノート】
ドイツにおける住居使用賃借権の存続保護 に関する最近の法改正について
田中英司
目次
I はじめに
Ⅱ1990年5月17日の法律による法改正
Ⅲ1990年7月20日の法律による法改正
Ⅳ 結び
I はじめに
周知のように,ドイツにおいては,わが国 の居住を目的とする借家権に対応する住居使 用賃借権の存続保護をめぐり,まさに目まぐ るしいほどの立法の展開の歴史がある。そし て,現行法のもとにおける住居使用賃借権の 存続保護に関心をより絞るならば,まず第一 に,1960年以降における立法の展開過程を考 察することが必要となる。というのは,住居 使用賃貸借に関する現行の規定のうち,存続 保護の基本的な仕組みを構成している中心的 な三つの規定,すなわち,ドイツ民法典(以 下,BGB)564b条,556a条および564C条 2項は,1960年以降の立法の展開過程における 歴史的な所産として生じたものだからである。
これに関して,筆者は,かつて,住居使用 賃借権の存続保護の基本的な仕組みを把握し たうえで,さきの三つの規定が生じた1960年
(1)
以降における立法の展開過程を分析した。そ こにおいては,1982年12月20日に公布された
「賃貸住居の供給の増大に関する法律」まで
を対象とすれば十分であったが,その後,
1990年5月17日と7月20日に公布された二つ の法律により,住居使用賃借権の存続保護に 関して,若干の法改正が行われた。本稿にお いては,この法改正について,その背景と目 的,内容,ならびに,基本的な性格等を,法 案の提案理由を素材として明らかにしてみた
い。
(1)拙稿「ドイツにおける住居使用賃借権の存続保護
(1)(2)(3完)」法時64巻6号(1992)62頁以下,64 巻7号(1992)79頁以下,64巻9号(1992)47頁以 下。
Ⅱ1990年5月17日の法律による法 改正
1背景と目的
まず,1990年5月17日に公布され1990年 6月1日に施行された「計画・建設法におけ る住居建設の容易化ならびに賃貸借法の規定 の改正に関する法律」(Gesetz zur Erleich−
t e r u n g d e s W ohnungsbau im P l a n u n g s ‑und B a u r e c h t s o w i e z u r Anderung m i e t r e c h t 1 i c h e r V o r s c h r i f t e n )
による法改正から取り上げることにする。
この法律の草案は,キリスト教民主・社会 同盟と自由民主党の議員および会派によって 提出されたものであるが,法案提出の背景に は,次のような状況があるとされている。す なわち,現在の住居市場においては,住居の 需要が激しく増大し供給がそれに歩調を合 わせることはできないという状況である。需 要の増大の原因としては,経済の卓越した発 展により,数年前から国民の実質所得が再び 上昇した結果,国民がより一層住居を求める ことが可能となったこと,出生率の高い年代 が世帯を構えるのと重なったこと,および,
単身世帯数の増加,ならびに,連邦の領域に 予期しないほど著しい数の移住者・強制移住 者が流れ込んだことが指摘されている。最後 の点は,周知のように,
1 9 8 9
年のいわゆる「東 欧革命」に起因して移住者の数が急速に増加したことを指すと思われる。
さて,以上のような住居市場の窮境にかん がみて,この法律は,住居の需要の増大を克 服することを目的とし,計画‑建設法,およ び賃貸借法についての立法措置を意図するも のである。このうち,賃貸借法の改正の目的 は,現存する建物をよりよく利用しうること を達成することとされている。すなわち,立 法者は,現行の賃貸借法の規定が,現存する 建物の利用の強化を妨げているとみなしそ れを改正することにより,ストックされてい る住居が利用の状態へと供給されうるとして いる。
( 2 ) BGB 1 . , 1 9 9 0 , 1 S . 9 2 6 . ( 3 ) BT‑Drucksache 1 1 / 5 9 7 2 , S . l f f . ( 4 ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . , l 9 .
( 5 ) たとえば,坪郷買『統一ドイツのゆくえ.s (岩波 書庖, 1 9 9 1 ) 1 8 頁以下。
( 6 ) この法律の目的については, Drucksache ( F n . 3 ) , S . , l 9 .
( 7 ) なお,計画・建設法についての立法措置の目的は,
居住用建物の用地を迅速かつ十分に指定し,住居建 設の許可を容易にすることとされている。
2
内 容それでは,住居使用賃借権の存続保護に関 する法改正の具体的な内容についてみていく
ことにするが,その前に,存続保護の基本的 な仕組みについて,簡単に確認しておきた
L 。 、
住居使用賃借権の存続保護の基本的な仕組 みは,まず第一に,期間の定めのない住居使 用賃借権においても,期間の定めのあるそれ においても,
I
二重の存続保護」がなされる のが原則である。「二重の存続保護」とは,住居使用賃貸借関係が終了するためには,第 一に,
BGB 5 6 4 b
条における賃貸人の「正当 な利益」が肯定され,第二に,BGB 556a
条 における賃借入にとっての「苛酷さ」が否定 されなければならないということである。「二 重の存続保護」において中核的な役割を担っ ているのはBGB5 6 4 b
条であり,BGB556a
条は,今日,補充的な機能のみを有している。そして,原則である「二重の存続保護」に対 する例外として,
BGB 564c
条2
項は5
年 を超えない期間で,存続保護を受けない「定 期賃貸借契約J
を認めているが,その要件は 重畳的かつ厳格である。以上のような存続保護の基本的な仕組みに 対して,法改正の内容は,以下の三つのレベ ルに分けることができる。
( 8 ) 詳しくは,拙稿・前掲注( 1 ) 6 4 巻 6 号 6 3 頁以下。
( 1 )
賃貸人の「正当な利益」が認められるケー スについての新たな例示賃貸人は,
BGB 5 6 4 b
条1
項により,賃貸 借関係の終了につき「正当な利益」を有する ときにのみ,住居使用賃貸借関係の解約を告 知することができ,同条2
項は,賃貸人の「正 当な利益J
が認められるケースを例示的に規 定している。法改正前においては,例示されているケー スは三つであったが,
1 9 9 0
年5
月17
日の法律 により,BGB5 6 4 b
条2
項に4
号が挿入され,新たな例示が,さらにひとつ加えられたので ある。
この新たに例示されたケースとは,賃貸 人が,建物の付属非居住空間
( n i c h t zum Wohnen b e s t i m m t e Nebenraume)
を,許容しうる方法で,賃貸目的の住居に改修しよう とし,告知を,その空間に限定し,かつ,
1 9 9 5
年6
月1
日前に賃借人に通知した場合である(BGB564 b
条2
項4
号1
文)。この場合にも,賃貸人の「正当な利益」が認められることに なったのである。
これまでの現行法によると,付属非居住空 間は,すでにあわせて賃借人に委譲されてい るため,それを住居に改修しようとして告知 の対象とすることは,原則としてできなかっ た。そこで,そのような賃貸借法上の障害を 取り除くために,
BGB 5 6 4 b
条2
項に新たに4
号が挿入され,同規定は,付属非居住空間 を告知の対象としうることを保障することに なったのである。なお,付属非居住空間の例 としては,たとえば,屋階,すなわち屋根裏 部屋,地下室,洗濯部屋,乾燥室,あるいは,物を保管したり,自転車をしまうため等に利 用される空間などが挙げられている(11)
時間的な点では,この付属非居住空間につ いて可能とされる告知は,期限づけられてい て,この法律の施行後,かつ,
1 9 9 5
年6
月1
目前に賃借人に到達していなければならな
し 、 。
さて,付属非居住空間についての告知が,
BGB 5 6 4 b
条2
項4
号1
文のケースにあたる ときには,賃貸借関係の終了についての賃貸 人の「正当な利益」が認められるのであるが,この告知は,
BGB 5 6 4 b
条2
項に列挙されて いる他のケースにおけると同様に,さらに,BGB 556a
条の適用を受けるのである了すな わち,賃借人は,契約に従った賃貸借関係の 終了が賃借人またはその家族にとって賃貸人 の「正当な利益」を酪酌しでも正当化するこ とができない「苛酷さ」を意味することにな るときには,住居使用賃貸借関係の告知に異 議を述べ,賃貸人に賃貸借関係の継続を請求 することができるのである(BGB5 5 6 a
条1
項 1文)。賃借人と賃貸人の利益の比較衡量に際しては,賃借人が,告知された付属非居 住空間を必要とするかどうか,また,どの程 度必要であるかが重要となる。
ところで,付属非居住空間について告知が なされる場合,賃借人は,賃料の相当な減 額込請求することができる
(BGB5 6 4 b
条2
項4
号2
文)。ただし,賃貸人が,賃料の減 額を,告知に際して,あるいは,その後に,自ら申し出ること,さらには,その減額が相 当であることが告知の要件ではない。減額の 相当性は,まず第一に,告知された付属非居 住空間の利用価値にもとづいて見積もられる
ことになる。
なお,改修作業の開始が遅滞するときには,
賃借人は,それに相応する期間だけ賃貸借関 係の延長を請求することができる
(BGB5 6 4
b
条2
項4
号3
文)。このことは,r
定期賃貸借契約」に関する
BGB564 c
条2
項2
文に おけると同様である。したがって,改修作業 の開始が具体的に間近であるときにはじめ て,付属非居住空間についての告知が認められることになるのである。
( 9 ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . l 1 f . ; Bemhard G r a m l i c h , G e s e t z e s a n d e r u n g e n im M i e t r e c h t " , N]W , 1 9 9 0 , S . 2 6 1 1 ; E g o n Johann , Z u r a n g e m e s s e n e n H e r a b ‑ s e t z u n g d e r M i e t e b e i d e r T e i l k u n d i g u n g g e m . ~ 5 6 4 bIINr . 4 BGB
ぺNJW , 1 9 9 , 1 S . 1 1 0 0 .
( 1 0 ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 2 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 1 ; J o h a n n ( F n . 9 ) , S . 1 1 0 0 .
。 ) 1 D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 7 .
制 G r a m l i c h( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 . (
1 3 ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 7 . (
1 4 ) なお,賃借入には,さらに,明渡に対する保護(民 事訴訟法 7 2 1 条)も与えられる。 G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
制 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 7 . (
1 ! y これについては, vg l . z . B . J o h a n n ( F n . 9 ) , S . 1 1 0 0 f .
0
方 D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 7 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
(1~ D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 7 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
~9) G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
( 2 )
賃貸人の「正当な利益」を必要としない 告知が妥当するケースの拡張すでに法改正前の
BGB564 b
条4
項によ り,賃貸人は,自ら居住する,たかだか二つ の住居を持つ( m i t n i c h t mehr a l s z w e i Wohnungen)
居住用建物における住居使用賃 貸借関係において,賃貸借関係の終了につい ての「正当な利益」をもって告知を基礎づけ る必要なしに,三か月だけ延長された告知期 間をともなって,告知することができた。こ の賃貸人の「正当な利益」を必要としない告 知は,1 9 9 0
年5
月17
日の法律によって改正さ れたBGB5 6 4 b
条4
項1
文により,ひとつ,あるいは二つの住居を持つ居住用建物が改修
されて三つの住居を持つ居住用建物が造られ た場合においても維持されることになり,こ のような告知が妥当するケースが拡張された のである。
このいわば簡易化された告知は,三つの住 居を持つ居住用建物における住居使用賃貸借 関係については,それらの住居の少なくとも ひとつが,
1 9 9 0
年5
月31
日後で,かつ,1 9 9 5
年6
月1日前に完成され,さらに,完成後の
使用賃貸借契約の締結の際に,賃貸人が賃借 人に告知の可能性を指示した場合にのみ認められる
(BGB5 6 4 b
条4
項1
文)。ところで,新たな
BGB564 b
条4
項l
文 においても,r
居住用建物」という概念は変 更されずに残されているので,営業用建物に おける住居は考慮されないことになるケま た,賃貸人は,三つの住居を持つ居住用建物 に改修される前に,すでにその建物に居住し ていたのでなければならなし、以上の
BGB564 b
条4
項1
文の改正は,立法者によると,現存するひとつ,あるいは 二つの住居を持つ居住用建物の改修を賃借人 保護規定によって妨げないことを目的とする とされているが,確かに,この改正により,
改修作業が刺激されざ上も考えられる。
なお,この簡易化された告知は,賃貸借関 係の終了についての賃貸人の「正当な利益
J
は必要としないが,BGB 556a
条の適用を受 けることはいうまでもない。制 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 2 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
~1) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . 1 2 , 1 7 .
仰 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 7 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
制 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 7 .
例 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 7 .
伺 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , S . 1 7 .
。~ G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
的 このことは, BGB556a 条 8 項の反対解釈による。
なお, vg l . G r a m l i c h ( F n . 9 ) , S . 2 6 1 2 .
( 3 ) I
二重の存続保護」の適用が除外される ケースの拡張BGB 5 6 4 c
条2
項は,原則である「二重の 存続保護」に対する例外として,I
定期賃貸 借契約」を認めているのであるが,それとと もに,いわば二次的な例外として,すでに法 改正前のBGB5 6 4 b
条7
項および556a条8
項により,I
二重の存続保護J
の適用が除外 されるケースが規定されていた。この「二重 の存続保護J
の適用が除外されるケースは,1 9 9 0
年5
月1 7
日の法律によって,さらに二つ だけ拡張されたのである。( i ) BGB 5 6 4 b
条7
項4
号のケースまず,休暇用家屋地域 (F
erienhausge b i e t )
の中の休暇用家屋ないし休暇用住宅における 住居使用賃貸借関係(BGB5 6 4 b
条7
項4
号 のケース)が,I
二重の存続保護」の適用から除外されることになった。
休暇用家屋ないし休暇用住宅の所有権者が 自己の住居を一時的に賃貸しようとする場 合,法改正前の賃貸借法の規定によると,所 有権者は,契約により確定された一定の賃貸
a借期間の終了において,あるいは,賃貸借関 係の告知によって,その住居を再び自己の意 のままにしうることを当てにすることはでき なかった。そこで,
1 9 9 0
年5
月1 7
日の法律に より,休暇用家屋ないし休暇用住宅が「二重 の存続保護」の適用から除外され,それを一 時的に住居を求める者に賃貸するための賃貸 借法上の基礎が作り出されることになったの である。より詳しくみていくと,まず,新たに挿入 された
BGB564 b
条7
項4
号は,休暇用家 屋地域の中の休暇用家屋ないし休暇用住宅における住居使用賃貸借関係について,
BGB 5 6 4 b
条の規定が妥当しないことを定めてい るが,BGB 5 6 4 b
条の適用が除外されるため には,BGB 5 6 4 b
条7
項4
号に規定されてい る次の要件が満たされなければならない。第一に,対象となるのは,休暇用家屋地域 の中の休暇用家屋ないし休暇用住宅における 住居であり,休暇用家屋地域において,例外 的に,ファーストハウスやセカンドハウスと
して建てられた住宅は対象とならない。
第二に,時間的な点では,休暇用家屋ない し休暇用住宅における住居が,
1 9 9 5
年6
月1
日に,賃借人に委譲されたことである。第三に,賃貸人が,契約締結の際,賃借人 に,その住居の目的が定められていること,
および,
BGB 5 6 4 b
条l
項ないし6
項の例外 であることを指示した場合である。以上の要件が満たされたならば,休暇用家 屋ないし休暇用住宅における住居使用賃貸借 関係は,期間の定めのない場合にも,期間の 定めのある場合にも,
BGB 5 6 4 b
条の適用を 受けないのである。次に,改正された
BGB556 a
条8
項は,休暇用家屋ないし休暇用住宅における住居使 用賃貸借関係について,
BGB 556a
条の規定 が妥当しないことを定めている。したがって,賃借人は,その住居使用賃貸借関係の終了が 賃借人またはその家族にとって「苛酷さ
J
を 意味することになるときにも,その継続を請 求することはできないことになる。このこと は,期間の定めのない場合にも,期間の定め のある場合にも,同様に当てはまるのであ る。制 D r u c k s a c h e ( F n . 3 ), S . 1 1 . 帥 D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , S . l 1 .
例 休暇用家匡地域,休暇用家匡・休暇用住宅の定義
は,建築利用令と建設法典の規定に従っている。
D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , 5 . 1 8 . O l ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , 5 . 1 8 . 倒 Vg l . D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , 5 . 1 8 . 例 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , 5 . 1 6 .
ø~ D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) , 5 . 1 6 . なお,賃借入は,さら に,明渡に対する保護も受けないことになる(民事 訴訟法 7 2 1 条 7 項 ) 0 G r a m l i c h ( F n . 9 ) , 5 . 2 6 1 2 .
( i i )
BGB5 6 4 b
条7
項5
号のケース次に,公法上の法人が転貸するために賃借 した住居に関する使用賃貸借関係
(BGB5 6 4 b
条7
項5
号のケース)も,r
二重の存続保護」の適用から除外されることになった。
現在の判例によると,公法上の法人が転貸 する目的で住居を賃借し,第三者に転貸した 場合,住居の所有権者と法人との使用賃貸借 関係は「二重の存続保護」の適用を受けない のに対して,法人と最終の賃借人(転借人) との使用賃貸借関係には「二重の存続保護
j
が妥当するとされている。したがって,公法 上の法人もまた,所有権者が住居の返還を欲 する時点において,転借入がそれを明け渡す ことを保障することはできず,その結果,所 有権者は,しばしば,住居を自己のもとに引 き留めることになるケそこで,立法者は,1 9 9 0
年5
月17
日の法律により,公法上の法人 に中間賃貸するという方法で空き家となって いる住居を住居市場に供給するために,法人 と転借入との使用賃貸借関係についても,r
二重の存続保護」の適用を除外することにした のである。
さて, (i)におけると同様に,より詳しくみ ていくことにする。
まず,新たに挿入された
BGB5 6 4 b
条7
項5
号は,公法上の法人が転貸するために賃 借した住居に関する使用賃貸借関係について,BGB 5 6 4 b
条の適用が除外されることを規定 しているが ,BGB5 6 4 b
条7
項5
号に規定されている次の要件に留意しなければならな
し 、 。
第一に,転貸人にかかわる要件であるが,
公法上の法人が,法律によって指定された任 務の範囲において,転貸するために賃借した 住居に関する使用賃貸借関係である。
「公法上の法人」にあたるも
d
ミしては,特に,市町村や市町村連合,地方郡(Lan
d k r e i s )
, その他の地域法人( G e b i e t s k o r p e r s c h a f t )
, ならびに,教会や教会の組織体のような地域 的な管轄のない団体が挙げられている。さら に,公法上の施設,たとえば,大学の学生相 互扶助会(Studentenwerk)
も該当するとさ れている。しかし地域法人の経済企業,たとえば,市町村の住宅企業は除外される。
第二に,転借人の範囲は,緊急的な居住の 必要をともなう人々,あるいは,専門教育を 受けている人々に限定される。
第三に,時間的な点では,公法上の法人が,
1 9 9 5
年6
月1
日前に,その住居を転借人に委 譲したときである。第四に,公法上の法人が,契約締結の際,
転借人に,その住居の目的が定められている こと,および,BGB
5 6 4 b
条1
項ないし6
項 の例外であることを指示した場合である。次に,改正された
BGB5 5 6 a
条8
項は,公法上の法人が転貸するために賃借した住居 に関する使用賃貸借関係について,
BGB 5 5 6
a
条の規定が妥当しないことを定めているの である。なお,以上のことは,当該住居に関する使 用賃貸借関係が,期間の定めのない場合にも,
期間の定めのある場合にも,同様に妥当す る。
的 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , 5 . 1 1 ; G r a m l i c h ( F n . 9 ) , 5 . 2 6 1 2 .
例 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) , 5 . 1 1 .
的 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) . S . 1 8 .
{ l P } D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) . S . l1.なお,民事訴訟法によ る明渡期間の付与も排除される。 D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) . S . l 1 .
s 9 ) D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) . S . 1 8 . 帥 Vg l . D r u c k s a c h e ( F n . 3 ) . S . 1 6 .
3
基本的な性格以上のように,
1 9 9 0
年5
月17
日の法律によ る法改正は,賃貸人の「正当な利益J
が認め られるケースについての新たな例示を加え,賃貸人の「正当な利益」を必要としない告知 が妥当するケースを拡張し,さらに,
I
二重 の存続保護」の適用が除外されるケースも拡 張した。しかし,概観してきたことから理解 しうるように,いずれの改正点においても,要件は厳格であり,適用範囲はきわめて狭く 限定されている。立法者自身も,
I
現存する 建物の利用の強化を妨げている賃貸借法の規 定につき,厳格に限定された改正が行われ る」と述べ,このことを認めている。したが って,住居使用賃借権の存続保護を若干弛緩 させたことは事実であるが,存続保護の基本 的な仕組みには何らの変化も認められない。このように,
1 9 9 0
年5
月17
日の法律は,存 続保護の基本的な仕組みを維持しながら,厳 格な要件にもとづき,きわめて限定された改 正を行うものであり,また,現行賃貸借法の 規定が現存する建物の利用の強化を妨げてい るという認識の点でも,まさしく,1 9 8 2
年1 2
月20
日の「賃貸住居の供給の増大に関する法 律j
の系譜に属するものといえる。そして,このことは,この法律の草案が,
1982
年1 2
月2 0
日の法律と同様に,キリスト教民主・社会 同盟を中心として提出されたことからしても,容易に理解しうるのである。
。 ) 1 G r a m l i c h ( F n . 9 ) . S . 2 6 1 1 ; J o h a n n ( F n . 9 ) . S . 1 1 0 0 .
帥 D r u c k s a c h e( F n . 3 ) . S . 9 .
制 拙 稿 ・ 前 掲 注 ( 1 ) 6 4 巻 9 号 5 0 頁以下を参照。
m 1 9 9 0 年 7月2 0 日の法律による法 改正
1
背景と目的次に.
1 9 9 0
年5
月17
日の法律と時間的に緊 密につながって,1 9 9 0
年7
月20
日に公布され,1 9 9 0
年8
月1日に施行された「賃貸された住
居についての住居所有権の設定に際して賃借 入の法的地位を改善することに関する法律J (Gesetz zur Verbesserung der Rechts‑
stellung des Mieters bei Begrundung von W ohnungseigentum an vermieteten Wohnungen)
による法改正について概観する。
ここでも,まず,法改正の背景と目的から みていくことにしたい。
この法律の草案は,社会民主党が多数を占 める連邦参議院によって提出されたものであ るが,法案提出の背景には,次のような状況 があるとされている。すなわち,法案の名称 からも推察しうるように,近時,人口が集中 している都市の魅力的な居住地域において,
大規模な範囲にわたり,使用賃貸借契約が締 結され住居が賃借人に委譲された後,その賃 貸された住居につき住居所有権が設定され,
さらに,その住居所有権が譲渡されるに至っ ている。その原因としては,一方において,
住居所有権の取得に対する渇望があること,
他方において,都市の居住地域において新築 住居の供給が乏しいことが挙げられている。
そして,その場合,住居所有権の取得者は,
非常にしばしば,その使用賃貸借関係を,自 己必要を理由として告知するようである。と いうのは,取得者は, しばしば,自己の居住 の必要を満たすために,その住居所有権を取
得したからである。
確かに,このようなケースにつき,これま で,
BGB 5 6 4 b
条2
項2
号2
文によると,取 得者は,その住居所有権が自己に譲渡されて から3
年が経過する前には,自己必要を理由 として,その使用賃貸借関係を告知すること はできないとされていた。しかし,この規定 によって与えられている保護は,賃貸された 住居が住居所有権に変更される現象が増加し たことに条件づけられて,賃借人が賃貸住居 の供給があまりに乏しいために相当な代替住 居を求めることが非常に困難な地域に居住し ているときには,不十分なものとなっている といわれている。というのは,取得者の自己 必要を理由として,その住居を明け渡さなけ ればならない多数の賃借人は 3年という法 律上の保護期間の範囲内でも,相当な代替住 居を求めうる状況にはないからである。そこで,この法律は,以上のような状況に 対処することを目的とし,取得者の自己必要 を理由とする告知についての
3
年の停止期間 を,相当な期間,延長し,賃借人にとっての 存続保護をより強化しようとするものであ る。告知停止期間の相当な延長は,それに加 えて,住居所有権への投機的な変更を阻止す ることも目的とする。というのは,自己利用 の可能性が制限される結果として,住居所有 権に変更された住居の取得に関心を抱く人々 の範囲が縮小されるからであるとされてい る。o 4 ) BGB . , 1 1 9 9 0 , 1 S . 1 4 5 6 . 制 BT‑Drucksache1 1 / 6 3 7 4 , S . l f f . 帥 D r u c k s a c h e(Fn . 4 5 ) , S . , 1 5 .
的 D r u c k s a c h e(Fn . 4 5 ) , S . , l 5 . なお,この法律は,
告知停止期間の延長のみならず,告知停止期間が妥 当するケースの拡張をも意図するものであるが,そ の点については,国の 2 で述べる。
制 D r u c k s a c h e( F n . 4 5 ) , S . 5 . 倒 D r u c k s a c h e( F n . 4 5 ) , S . 5 .
2
内 容それでは,住居使用賃借権の存続保護に関 する法改正の内容を,より詳しくみていくこ とにするが,法改正の内容は,以下の二つの 点にわたっている。
(1) 告知停止期間の相当な延長
既述 ( I I I
の1
)したように,1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律による法改正前においても,BGB 5 6 4 b
条2
項2
号2
文によると,賃貸された 住居につき,賃借人への委譲後に,住居所有 権が設定され,その住居所有権が譲渡された 場合,取得者は,自己への譲渡後3
年が経過 する前には,自己必要を理由とする「正当な 利益」を援用することはできないとされてい た。これに対して,1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律に より,新たに,BGB 5 6 4 b
条2
項2
号3
文が 挿入されたのである。この規定によると3
年の告知停止期間は,相当な条件の賃貸住居 を住民に十分に供給することが,ある地域,あるいは,ある地域の一部において,特に危 機的であるときには
5
年に延長されること になったのである。すなわち,告知停止期間 が延長されるという形で,住居使用賃借権の 存続保護が若干強化されたわけである。なお,この
5
年という延長された告知停止 期間については,当初の連邦参議院の法案に おいては7
年とされていd
弘,法務委員会に おいて7
年という期間は所有権者の権限に 対するあまりに強い介入を意味するという理 由で5
年に修正され,最終的に,そのように なったものである。延長された告知停止期間の適用は,相当な 条件の賃貸住居を住民に十分に供給すること が特に危機的であるという要件を、満たす地域 に限定されるが,そのような地域は,ラント
政府の法令により,最大限
5
年の期間で定め られるのである(BGB5 6 4 b
条2
項2
号4
文)。制 D r u c k s a c h e( F n . 4 5 ) , S . 1 . 制 B T ‑ D r u c k s a c h e1 1 1 7 2 5 8 , S . 1 .
~~ V g l . D r u c k s a c h e ( F n . 4 5 ) , S . 6 .
( 2 )
告知停止期間が妥当するケースの拡張BGB 5 6 4 b
条2
項3 号 l
文によると,賃貸 人の「正当な利益」として,賃貸人が,使用 賃貸借関係の継続によって,その不動産の相 当な経済的利用を妨げられ,それにより著し い不利益を被るであろう場合が挙げられてい る。そして,賃貸された住居につき,賃借人 への委譲後に,住居所有権が設定され,その 住居所有権が譲渡された場合,所得者は,法 改正前には,BGB 5 6 4 b
条2
項3
号1
文にお ける「正当な利益」を援用することができるとされていた。
これに対して,
1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律によ り,新たに,BGB 5 6 4 b
条2
項3
号4
文が挿 入され,この場合,住居所有権に変更された 住居の賃借人は,譲渡の意図を理由とする取 得者の告知に対して,自己必要についての告 知に対するのと同様の保護を与えられること になった。すなわち,取得者は,ラント政府 がBGB5 6 4 b
条2
項2
号4
文にもとづいて 定めた地域においては,自己への譲渡後5
年 が経過する前には,賃貸借されている空間を 譲渡することを援用することはできないとさ れたのである。ここでは5
年の告知停止期 間が妥当するケースが拡張されるという形 で,住居使用賃借権の存続保護が若干強化さ れたことになる。~3) D r u c k s a c h e ( F n . 4 5 ) , S . 7 . 帥 D r u c k s a c h e( F n . 4 5 ) , S . 7 .
3
基本的な性格以上のように,
1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律によ る法改正は,告知停止期間の相当な延長,お よび,告知停止期間が妥当するケースの拡張 を行うものである。しかし概観してきたこ とから理解しうるように,新たに挿入された 規定は,いずれも,適用範囲がきわめて狭く 限定されている了)すなわち,それらの規定の 適用範囲は,賃貸された住居につき,貸借人 への委譲後に,住居所有権が設定され,その 住居所有権が譲渡された場合における取得者 の告知に限定され,かつ,相当な条件の賃貸 住居を住民に十分に供給することが特に危機 的であるという要件を満たす地域に限られて いる。したがって,住居使用賃借権の存続保 護は,限定的に,若干強化されたが,もとよ り,存続保護の基本的な仕組みにかかわる法 改正ではないといえる。この点は,1 9 9 0
年5
月1 7
日の法律による法改正と同様である。しかし,
1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律は,その草 案が社会民主党が多数を占める連邦参議院に よって提出されたことからも理解しうるよう に,BGB 5 6 4 b
条を維持し,限定的ではあれ,発展させようとする性格のものであり,
1 9 9 0
年5
月1 7
日の法律とは正反対の志向をもって いることには留意しなければならない。6 事 G r a m l i c h( F n . 9 , ) S . 2 6 1 1 .
N 結 び
以上,
1 9 9 0
年5
月1 7
日の法律による法改正,および,
1 9 9 0
年7
月2 0
日の法律による法改正 について,法案の提案理由を素材として,概 観してきた。結論的にいうと,両者の法改正 は,基本的に正反対の志向性を有しているが,いずれも,現在のドイツにおける住居をめぐ る厳しい社会・経済情勢に対処するための限
定的な法改正であり,住居使用賃借権の存続 保護の基本的な仕組みは変化していないとい
えるD
しかし,今回の法改正により,住居使用賃 貸借に関する現行法は,マ層,複雑かつ詳細 となり,メーディクスの「法学者にとってさ えわかりにくい継ぎはぎ細工」との批判は,
なお,正鵠を得て,妥当し続けるといえよう。
また,それにともない,新たな解釈問題も生 じてくるものと思われる。
このように,今回の法改正もまた,基本的
な問題点を苧んでいるのであるが,今後も,
住居使用賃借権の存続保護をめぐり,新たな 立法が展開されていくであろう。特に, ドイ ツ統一の実現により,新たな社会‑経済情勢,
ならびに,政治情勢が生じていることにかん がみると,ますます,その感を深くするので ある。