修 士 学 位 論 文
二次元検出器による
陽子線線量計算アルゴリズム評価
に関する研究
平成 25年 1 月
11
日 提出首都大学東京大学院
人間健康科学研究科 博士前期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域 学修番号: 11897617
氏 名: 宮阪 遼平
(
指導教員名: 齋藤 秀敏 )要旨
現在、陽子線治療において数多くの線量計算アルゴリズムが開発され臨床で用いられて いる。線量計算アルゴリズムによって計算された線量分布の確かさを検証することは放射 線治療を施行する上で必要不可欠である。
現在、陽子線治療で用いられている評価点線量検証法はある評価点における吸収線量を 計測および計算で求め、比較することで、計測と計算の間にどの程度誤差が生じているか を評価する手法である。しかし、評価点線量検証法は点線量による評価であり、線量分布 が一致しているかは評価できないという問題点がある。また計測線量と計算線量の線量差 のみが着目されており、位置誤差は考慮されていない。そこで本研究は二次元検出器を用 いた陽子線治療における線量検証法および解析法の構築を目的とする。
評価する線量計算アルゴリズムは国立がん研究センター東病院で開発した簡易モンテカ
ルロ法 ( SMC ) と、従来から陽子線治療において用いられているペンジルビーム法 ( PBA )
の亜種であるRange Modulated PBA ( RMPBA )を用いた。
本研究では、患者ごとに計画した治療ビームに対して深さを変化させ、二次元検出器を用 いて線量分布を計測した。さらに、得られた線量分布とRMPBAおよびSMCで計算した線量 分布をガンマ解析を用いて比較し、評価した。
臨床条件において検証を行うため、国立がん研究センター東病院において実際に陽子線 治療が施行した前立腺および頭頚部の治療計画パラメータを利用し、症例ごとに線量検証 および解析を行い、線量計算アルゴリズムの特性を評価した。
一方、計測によって得られる線量分布はスラブ状のポリエチレンファントムと二次元検 出器を用いて、一定の深さごとに計測した。
Lowの提案したガンマ解析法はxおよびyの二次元座標において、Γ(rm,rc) が最小とな る計算点を求める手法であった。本研究ではガンマ解析に z 座標を加えることで深さ方向 に対しても評価点を探す三次元解析を採用した。また、Low のガンマ解析法は評価点が合 格もしくは不合格であることしか判断できない。そこで本研究ではγ(rm)に符号を付けた指 標としてγ'(rm)を用いた。γ'(rm)はガンマ解析の性質を残しつつ、評価点が基準点に対し 線量が過大もしくは過小であるかを表現できる解析法である。
本研究で提案した検証法および解析法を用いることで、従来の評価点線量検証からでは 評価することのできなかった側方線量分布の評価を可能とし、線量差および位置誤差をガ ンマ解析法を用いることで、より定量的にグラフ化すことができた。
以上の通り、二次元検出器を用いた線量検証法および解析法を提案し、具体的な症例群 で陽子線線量計算アルゴリズムの評価を行った。
i
目次
要旨
1 章 序論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1 陽子線治療
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 線量計算法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1.3 線量検証法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1.4 研究の主題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2 章 陽子線と物質の物理的相互作用
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2.1 多重クーロン散乱
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2.2 ビーム輸送方程式
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3 章 実験装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 3.1 国立がんセンター東病院の陽子線照射装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3.1.1 国立がん研究センター東病院の施設概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3.1.2 二重リング二重散乱体による照射野形成法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 3.1.3 Beam delivery system ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
3.1.4 補償フィルタおよびコリメータ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 3.2 計測機器
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 3.2.1 2D Array seven29® ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
3.2.2 ポリエチレンファントム
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
ii 4 章 線量計算アルゴリズムの評価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.1 目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.2 理論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4.2.1 有効線源点モデル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 4.2.2 水等価厚モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 4.2.3 Pencil Beam Algorithm ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 4.2.4 Simplified Monte Carlo Method ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
4.2.5 ガンマ解析
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4.3 方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
4.3.1 対象
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
4.3.2 線量計算条件
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
4.3.3 線量計測条件
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4.3.4 解析方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 4.4 結果および考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 4.4.1 前立腺ガンマ解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
4.4.2 前立腺線量検証における考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
4.4.3 頭頸部ガンマ解析
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
4.4.4 頭頚部線量検証における考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
4.5 結論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75 5 章 総括
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79
1
1
章 序論1.1 陽子線治療
高エネルギー陽子線の医療への応用は1946年にアメリカの物理学者Robert Wilsonにより 提唱され
1 )
、1954 年にアメリカのローレンス・バークレイ研究所で陽子線の治療への応用 が開始された。
陽子線治療は、水素イオンをサイクロトロンやシンクロトロンなどの加速器を用いて加 速し、人体に照射することで深部に存在する腫瘍に対して局所的制御を行う。高エネルギ ー陽子線の深部線量分布を図 1.1 に示す。高エネルギーに加速された陽子はエネルギーに 応じた飛程を持ち、体内浅部においては付与する線量は少なく、飛程末端付近で付与線量 は最大となる。これをBragg peakと呼ぶ。Bragg peak直後に線量は急激に減少し、線量はゼ ロとなる。この物理特性を利用し、Bragg peakと腫瘍の位置を合わせることで、深部腫瘍に 対して集中的な治療が可能となる。
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 100 200 300
relative dose
depth in water (mm)
150 M eV 190 MeV 235 MeV
図1.1 高エネルギー陽子線の深部線量分布
2 1.2 線量計算法
現在広く用いられているペンシルビーム法
2) ( Pencil Beam Algorithm; PBA ) はLina Hong らによって開発された。PBA は実測データに基づいて計算したカーネルを足し合わせるこ とで線量分布を計算する。PBA は計算時間の短縮化を実現した計算アルゴリズムであり、
主流のアルゴリズムとして臨床で用いられている。しかし、PBA は一本のペンシルビーム がその発生点から拡がるカーネルを代表しており、カーネルのエネルギー損失および散乱 強度はカーネル中心軸上の物質によって決定されてしまう。よって人体のような不均質媒 質中では計算結果が大きく異なる可能性がある
3,4 )
。PBAの計算原理については4章で詳し く述べる。
不均質媒質における線量分布を正確に計算する手段として、Geant45,6)やPHITS7)を用いた モンテカルロ法が挙げられる。モンテカルロ法は物理モデルを用い、個々の粒子を追跡す ることで、より信頼性の高い計算結果が期待できる。しかし、膨大な計算時間を要するた め患者毎の治療計画にモンテカルロ法を用いることは難しいとされている。
不均質媒質における計算の正確度を補償しつつ、短時間で計算が可能な計算アルゴリズ ム と し て Sakae ら に よ り 開 発 さ れ た 簡 易 モ ン テ カ ル ロ 法
8-10)
( Simplified Monte Carlo
algorithm; SMC ) が挙げられる。SMCは、粒子の多重散乱の計算には確率的な物理モデルを
採用し、吸収線量の計算には実測データを用いる。SMC はモンテカルロ法と同様に個々の 粒子の軌跡を追跡するため、不均質媒質中での相互作用や散乱をより正確に計算すること が可能である。人体と同程度の不均質ファントムにおけるSMCの計算線量の正確度の検証
はKohnoらにより報告されている
11)
。 1.3 線量検証法
線量計算アルゴリズムで計算した線量分布の確かさを確認することは必要不可欠である。
現在、陽子線治療で行われている線量検証法はアイソセンタ一点における評価点線量検証 法である。評価点線量検証法は、一点のみで評価しているため線量分布全体を評価するこ とは不可能であり、深さ方向に対する評価は行われていない。また評価点の吸収線量差は 明確になっても位置誤差は考慮されていない。
評価点線量検証法の欠点を補うため、本研究では計測に二次元検出器の2D Array seven29 を用いて二次元線量分布を取得し、3Dガンマ解析により計算線量と比較し、評価した。3D ガンマ解析については4章で詳しく説明する。
深さの変化が線量計算精度に影響するかを評価するため、本研究ではアイソセンタ面に 加え、体表面から順次深さを変更し、二次元線量分布を取得した。
線 量 計 算 ア ル ゴ リ ズ ム に は従 来か ら 陽 子 線 治 療 で 用 い ら れ て い る PBA の亜 種で あ る
Range Modulated PBA ( RMPBA ) 12)と臨床運用を目的としたSMCを用いた。線量検証の対象
は、実際に陽子線治療を施行した患者の治療計画パラメータを用いた。治療計画パラメー タには治療に用いたエネルギー、SOBP幅、ファインディグレーダ厚、スノート位置、補償 フィルタサイズおよび補償フィルタ厚を使用し、線量計算アルゴリズムにより計算した線 量と実際にその条件で照射し、計測した線量を比較し、計算線量が計測線量を再現してい るかを評価した。
3 1.4 研究の主題
現在、陽子線治療で用いられている評価点線量検証法はある評価点における吸収線量を 計測および計算で求め、比較することで、計測と計算の間にどの程度誤差が生じているか を評価する手法である。しかし、評価点線量検証法は点線量による評価であり、線量分布 が一致しているかは評価できないという問題点がある。また計測線量と計算線量の線量差 のみが着目されており、位置誤差は考慮されていない。そこで本研究は二次元検出器を用 いた陽子線治療における線量検証法および解析法の構築を目的とする。
また、研究対象として実際に前立腺および頭頚部の陽子線治療を施行した患者の治療計 画パラメータを用いることで、二次元検出器を使用した線量検証法が臨床においても有用 であるかを評価し、臨床運用していくことを目的とする。
4
2 章 陽子線と物質の物理的相互作用
陽子線が物質に入射後、引き起こす物理的相互作用は主に ( 1 ) 電子および原子核との衝
突、 ( 2 ) 原子核壊砕反応、( 3 ) 制動放射である。荷電粒子が単位長さdl当たりに失うエ
ネルギーdEは線阻止能linear stopping power , Sと定義され、( 2.1 ) に示す。単位はMeV/m とする。
線阻止能を密度ρで除した量を質量阻止能mass stopping power , S/ρと定義され、( 2.2 ) に 示す。単位は MeVg-1cm2とする。陽子の場合、質量阻止能は質量衝突阻止能mass collision stopping power , ( S/ρ) col ( 電子質量衝突阻止能electronic mass stopping power , (S/ρ) el およ び原子核質量衝突阻止能nuclear mass stopping power , (S/ρ) nuc ) および放射阻止能radiative stopping power , (S/ρ) radの和であり、式 ( 2.3 )で定義される。
d d S E
= l ( 2.1 )
1 d d
S E
ρ ρ= l ( 2.2 )
col rad
el nuc rad
S S S
ρ ρ ρ
S S S
ρ ρ ρ
= +
= + +
( 2.3 )
陽子はこれらの過程を繰り返し経験することで徐々にエネルギーを損失していく。第二 章では本研究において使用した物理的相互作用に関する理論式を簡単に説明する。
2.1 多重クーロン散乱
陽子が物質中を通過する際に、原子核のクーロン力の影響を受けて軌道がわずかに変化 する。この軌道の変化が多数繰り返され陽子は入射方向とは異なった方向に進行する。こ れを多重クーロン散乱という。
多重クーロン散乱の計算理論はMoliereにより確立されており、その角度分布は小角散乱
の部分はGauss分布でよく近似され、それに大角散乱成分の裾を引いたような分布となる。
しかし、Moliereの理論は線量計算に用いる上では複雑であり、高エネルギー陽子線の散乱
は小角散乱が主であり、大角散乱の確率が低いことから、実用的に多重クーロン散乱を計 算する上ではガウス分布近似で十分である。1941年にRossiは、Rutherfordの理論式より多 重クーロン散乱のGauss分布の分散を計算し、物質の放射長を用いて近似する簡易式を与え た。
5
Rossiの理論式に補正を加えて正確度を高めた簡易式が式 ( 2.8 ) に示すHighlandの式
13,14 )
である。Highlandの簡易式は粒子が厚さL ( g cm-2 ) の物質を通過した場合の、入射方
向に垂直な方向への射影角 ( projection angle ) θproj ( rad ) の二乗平均平方根を求める。
+
=
R 10 R
2
proj log
9 1 1 1
. 14
L L L
L c p
θ β ( 2.4 )
pは陽子の運動量MeV/cであり、LRは物質の放射長である。LRは以下の式 ( 2.9 ) より求 める。
) 183 ( log ) 1 (
1 4 2 1/3
e R
+ −
= Z Z r Z
A N L
α A ( 2.5 )
αは微細構造定数 ( α = 1/137 ) 、NAはアボガドロ数、reは古典電子半径、Aは物質の質量 数、Zは物質の原子番号である。
2.2 ビーム輸送方程式
陽子は物質を通過すると多重クーロン散乱を受け、角度分布や位置が複雑に変化する。
ビーム中心軸からの位置と角度に対する個々の粒子の頻度分布は位相空間分布といい、ガ ウス分布で近似できる。またこの位相空間における等値面は楕円で近似でき、個々の粒子 の位相空間ベクトルをx
r
としたとき、陽子全体の性質はσ行列 ( Beam Matrix ) を用いて以 下の式 ( 2.11 ) により表せる。
=
=
=
−
x
t x
x x
x σ σ θ
σ σ σ
σ r r
r 1, ,
22 21
12 11
1 ( 2.7 )
σ11は位置分布の分散、σ22は角度分布の分散、σ12/ σ11 σ22 は位置と角度の相関係数で ある。
また、物質を通過することによる位相空間の変化を、Transfer Matrix Rを用いて表す。こ れは陽子がビーム光学要素を通過したときの位相空間内のベクトル変化を生じさせる1次 変換を表す行列のことである。位置0における楕円の式を ( 2.12 ) で示す。
0 1
1 0
0 − x =
txr r
σ ( 2.8 )
6
このベクトルは磁場のない空間 ( ドリフト空間 ) を通過すると変化していくが、ドリフ ト空間で進んだ距離をLとすると、その変化は
= 1 0
1 L
R を使って以下のように表される。
x0
R
xr = r ( 2.9 )
式 ( 2.13 ) をxr R 1xr
0 = − と変形させ、式 ( 2.12 ) に代入すると、式 ( 2.14 ) のようになる。
R Rσ0t
σ = ( 2.10 )
式 ( 2.14 ) を解けば、陽子群が距離L進んだ時のBeam matrixを位置0でのσ行列とLを
使って式 ( 2.15)のように表せる。
+
+
=
0 0
0 2
0
2 2 22,0
0 , 22
0 , 22 0 , 12 0
, 22 0 , 12
0 , 12 0 ,
11 σ
σ σ σ σ
σ σ
σ σ L L ( 2.11 )
0 ,
σ11 、σ12,0、σ22,0は入射ビームのビーム構成要素である。
式 ( 2.15 ) は散乱のないドリフト空間を考えたが、次にこの空間に散乱体が存在する場合
は以下のようになる。
s s z
z
d d ) d
(
0 2 0
, 22
22 =σ +
∫
<θ >σ ( 2.12 )
(
z s)
s sz z
z
d d ) d
(
0
2 0
, 22 0 , 12
12 =σ +σ +
∫
− <θ >σ ( 2.13 )
(
z s)
s sz z
z
z
d d 2 d
) (
0
2 2 2
0 , 22 0 , 12 0 , 11
11 =σ + σ +σ +
∫
− <θ >σ ( 2.14 )
これらは、散乱体中をz進んだときのσ行列の各要素σ22(z)、σ12(z)、σ11(z)を示してい る。また、
ds d<θ2 >
は微小な厚さds当たりの散乱射影角の分散を表す。これを式 ( 2.8 ) の
Highlandの簡易式を用いて表し、補正項を積分の外に出して計算すると、式 ( 2.19 ) のよう
になる。
c s p
s z L
z z L
z
z log z d
9 1 1 1 . 2 14
) (
0 2 2
R 10 R
2 2 0 , 22 0 , 12 0 , 11
11 =σ + σ +σ + + ×
∫
β− σ ( 2.15 )
7
3 章 実験装置
本研究は国立がん研究センター東病院 ( NCCHE:National Cancer Center Hospital
East ) の陽子ビームラインで行った。NCCHEの陽子線照射装置
15,16 )
、照射野形成装置、
および計測機器の性能と特性について以下に説明する。
3.1 国立がんセンター東病院の陽子線照射装置
3.1.1 国立がん研究センター東病院の施設概要
NCCHEは図3.1に示す常伝導AVFサイクロトロンを利用し、陽子線治療を行っている。
NCCHEのサイクロトロンは最大磁場が2.8 Teslaと高く、陽子線加速器としては非常に小型
かつ軽量である ( 外径4.3 m × 高さ2.1 m、重さ220 ton ) 。陽子は235 MeVまで加速さ れ、加速器から連続的に取り出された陽子のエネルギーは235 MeVに固定される。より低 いエネルギーを用いたい場合は、ビームライン上流に設置されたエネルギー選択システム
( ESS:Energy Selector System ) 内でカーボンディグレーダが挿入され、エネルギーを減弱さ
せて使用する。NCCHEで選択可能なエネルギーは150、190、235 MeVであり、エネルギー を減弱させるほど、ディグレーダによる散乱が伴うため、ビームの位置・角度分布の拡が りが増加する。散乱に伴い発生する大角散乱の影響を無くすためコリメータを用いて散乱 成分を除去し、ビームは輸送される。またカーボンディグレーダの挿入により、ビーム強 度の低下が起こり、線量率が減少する。加速器からの出力電流が大きいため、線量率は患 者照射位置で200 cGy/min以上は確保できる。ビーム強度の調整はイオン源のフィラメント に流す電流値の調整により行い、治療時には200 cGy/minを超える線量率が得られるように 調整される。
図3.1 NCCHEの常伝導サイクロトロン外観
8
治療室の俯瞰図を図3.2に示す。NCCHEは回転ガントリー2部屋 ( Gantry-1,2 ) と水平固
定ポート1部屋 ( Gantry-3 ) を有し、本研究はG2ポートを利用して行われた。回転ガント
リーはアイソセンタを中心に360度どの方向からでも照射が可能である。図3.3に回転ガ ントリーの外観を示す。
図3.2 国立がん研究センター東病院粒子線棟の俯瞰図
図3.3 回転ガントリーの外観
9 3.1.2 二重リング二重散乱体による照射野形成法
本研究は Gantry-2 を利用しており、照射野形成には二重リング二重散乱体法を用いてい
る。二重リング二重散乱体法
17,18 )
はTakadaが開発した拡大ビーム法の1つである ( 図3.4 ) 。
Beam delivery system上流に設置した散乱体を用いて十分に大きな照射野を形成する手法で、
散乱体には高原子番号の硬質鉛により構成された第一散乱体と、内ディスクに硬質鉛、外 リングに低原子番号のアルミニウムにより構成した第二散乱体によって構成され、ビーム 利用効率を約50 %と高く保ちつつ、照射野の平坦化を成立させた照射野形成法である。
二重リング二重散乱体法は、第一散乱体を通過したビームが散乱により横方向に拡大さ れ第二散乱体に入射する。第二散乱体は内ディスクと外リングで等しいエネルギー損失を 与えるように設計されており、内ディスクでは大きな散乱が起こり、外リングでは小さな 散乱が起こるため、粒子群が形成する線量分布が重なり、照射野の線量分布を均一にして
いる。NCCHEにおいて、第一散乱体はバイナリになっており、任意の厚みに変更が可能で
ある。また第二散乱体はエネルギーに対応して1組ずつ用意されている。表3.1にNCCHE における散乱体の配置パラメータを示す。また図3.5に二重リング二重散乱体法のビーム拡 大法を示す。
図3.4 二重散乱体法のBeam delivery system概要
10
表3.1 散乱体の配置パラメータ エネルギー
( MeV )
第一散乱体厚さ ( mm )
第二散乱体
内側ディスク 外側リング 厚さ
(mm)
直径 (mm)
厚さ (mm)
直径 (mm)
150 1.5 2.982 54.96 7.997 120.0
190 2.3 4.038 51.16 11.087 120.0
235 3.5 5.314 48.00 14.760 120.0
図3.5 二重リング二重散乱体法の原理
11 3.1.3 Beam delivery system
図3.4より、Beam delivery systemはリッジフィルタ、ファインディグレーダおよびモニタ
線量計により構成されている。リッジフィルタおよびファインディグレーダは治療計画に 合わせて変更し、拡大ブラッグピーク
19 )
( Spread out Bragg peak; 以下SOBP ) および飛程を 最適な大きさに調整する。図3.6 ( a ) にリッジファイルタの外観を示す。また、リッジフィ
ルタは図1.4 ( b ) に示すように多数のリッジバーを有しており、リッジバーはさらに多段に
分かれたリッジエレメントの集合体である。リッジエレメントのアルミ厚tはピークのシフ ト量に対応する。また横幅Δxは粒子のフルエンスを決定するため線量、つまりピークの高 さに対応する。単一エネルギーの陽子線がリッジフィルタを通過すると、リッジエレメン トのアルミ厚に依存してBragg peakがシフトする。Bragg peakがシフトすることで単一エネ ルギーだったビームがリッジエレメントの本数分のエネルギーを持ったビームに変わる。
決められたSOBP幅を形成する割合でBragg peakを分散させるようにリッジフィルタは設 計される。
(a) リッジフィルタ外観 (b) リッジバーの構造 図3.6 リッジフィルタと構造
NCCHEのG2ポートに設置されているリッジフィルタはSOBP幅30 mmから100 mmま
で10 mmごと変更可能で、Beam delivery systemには8つのリッジフィルタが用意されてい
る。
NCCHEで使用可能なエネルギー150、190および235 MeVにおいて、ファインディグレ
ーダに到達した際の水中残飛程は114 mm、180 mmおよび266 mmである。これらの水中残 飛程は離散的であるため、アクリル製のファインディグレーダを挿入することで残飛程の 補間が行われている。ファインディグレーダの厚さは0.5、1.0、2.0、4.0、8.0、16.0、32.0、
64.0 mmのアクリル製ブロックを組み合わせることで、0 mmから127.5 mmまでの厚さを
0.5 mm間隔で任意の厚さに変更することが可能である。
12 3.1.4 補償フィルタおよびコリメータ
補償フィルタはターゲットの輪郭に近い形状に彫り込み作成することで、よりターゲッ トにフィッテングした線量分布を形成することができる。NCCHEでは材質にポリエチレン を使用し、専用のドリルを用いて補償フィルタを作成している。また補償フィルタ作成時 の位置の不確かさは0.3 %程度である。
セットアップエラーによる患者中での陽子の停止位置の変化、および散乱による照射野 端の線量低下を考慮し、ターゲット形状よりも大きめに補償フィルタは彫り込まれる。こ れをスメアリングと呼び、頭頸部で直径9 mm、肺、肝臓および前立腺で直径15 mmと大き めのドリルを使用することで行われている。
コリメータは厚さ60 mm ( 20 mm×3 ) の真鍮ブロックをターゲット形状に合わせて加工 することで、照射野形成装置によって大きく広げられた照射野をターゲット形状に限定す るデバイスである。60 mmの真鍮を使用する理由は235 MeVの陽子を完全に停止するのに 十分な厚さを持つためである。
13 3.2 計測機器
3.2.1 2D Array seven29®
RTW社製2D Array seven29® ( 以下、2D Array ) は、729個 ( 27×27 ) の小型電離箱が10 mm間隔で2次元配列されている。電離箱の大きさは5 mm×5 mm×5mm、電極間距離は5 mmである。図3.7に2D Array sevenの外観を示す。
図3.7 2D Arrayの 外 観
検出器表面から電離箱の実効中心までの物質は水等価厚で8 mmである。これは2D Array を用いて深部線量分布を測定したとき、円筒形線量計の深部線量分布に対し水等価厚8 mm 表面側に分布が移動していたことから決定した値である。
本研究で用いた2D Arrayの性能 ( 再現性、直線性、チャンネル間のバラツキ ) について 以下に記載する。再現性の測定は表3.2の条件で5回測定を行い算出した。
照射野内には19×19 ( 361 ) channelが含まれ、照射野中心および辺縁において0.0005 % の再現性を示した。再現性の許容値とされている0.5 %を大きく下回ることから再現性の良 い装置であると考えられる。
直線性の測定にはモニタ値以外は表3.2の条件を用い、各MUで3回測定を行った。モニ
タ値は100、200、300、500 MUと変更し、100 MUを基準として直線性を算出した。直線性
は最大で0.6 %であったため、直線性の許容値とされる±2 %下回る結果となった。
表3.2 2D Arrayの再現性測定条件
エネルギー ( MeV )
SOBP幅
( mm-WEL ) MU ビーム強度
( nA )
上積みポリエチレン厚 ( mm )
190 80 300 10 130
14
2D Array の各電離箱はそれぞれに校正値を持っており、チャンネル間の相対的な誤差を
評価することは重要である。表3.2の条件で測定を行ったところ、361 channelの電離箱にお いて各電離箱の校正値の誤差は0.6 %以内に抑えられていた。
以上より、本研究で用いた2D Arrayは再現性、直線性、チャンネル間のバラツキは良好 であり、二次元線量分布の計測に支障をきたすような有害事象はないと考えられる。
3.2.2 ポリエチレンファントム
本研究では2D Arrayを用いて計測を行う際、上積み固体ファントムとしてスラブ状のポ リエチレンファントムを用いた。計測に用いたポリエチレン ( CH2CH2 )n の元素構成重量比 および物質量
20 )
を表3.3および表3.4に示す。これらの値は公称値ではなく、NCCHEで用 いられているポリエチレンの元素構成重量比より算出した値である。
表3.3 ポリエチレンの元素構成重量比 元 素構成 重量比
( CH2CH2 )n
H 0.144
C 0.855
表3.4 ポリエチレンの物質量 物 質量
密度 ρ ( g cm-3 )
電子密度 ρe ( ×1023 g-1 )
相対電子密度 ( ρe ) pl,w
電子濃度 ρe* ( ×1023 cm-3)
相対電子密度 ( ρe*) pl,w
実 効原子 番号 Z ( m = 3.5 )
0.949 3.432 1.027 3.257 0.977 5.526
15
4 章 線量計算アルゴリズムの評価
4.1 目的
NCCHEでは簡易モンテカルロ法 ( Simplified Monte Carlo Method; SMC ) 8-10 )を開発し、臨 床使用に向けて検証が進められている。本研究では比較対象として従来から幅広く用いら れているペンジルビーム法( Pencil Beam Algorithm; PBA ) の亜種であるRange Modulated
PBA ( RMPBA ) 12) を用いた。SMCおよびRMPBAによって得られる計算線量を比較し、線量
計算アルゴリズムの評価を行っている。
本研究の目的は、二次元検出器を用いた線量検証法および解析法を構築することであるた め、4章では実際に患者ごとに計画した治療ビームを用いて、線量検証を行う。
さらに、得られた線量分布とSMCおよびPBAで計算した線量分布を3Dガンマ解析を用い て比較し、評価した。
4.2 理論
3.2.1 有効線源点モデル
高エネルギーに加速された陽子線はビーム輸送システムおよび散乱体、リッジフィルタ、
ファインディグレーダなどの照射野形成システムを通過することで特定の照射野を形成す る。ビームライン上流からそれらの相互作用を順次計算すると計算時間が膨大なものとな ってしまうため、ビームはある大きさを持った線源から照射されているものと等価なもの として考え、計算を簡易化する。この計算モデルを有効線源点モデルと呼ぶ SMC および
RMPBAにおいて、ビームライン上流の散乱によるビームの拡がりを有効線源モデルにより
計算し、コリメータの直上からビームを発生させることで計算時間を短縮している。有効 線源点モデルの概念図を図4.1に示す。
図4.1 有効線源点モデルの概念図
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有効線源点モデルのパラメータは以下のような計算により算出される。
ビームライン上の複数の散乱体を通過したビームが、ある位置z = 0 (ビームの進行方向で zは正の値をとる。) で位相空間内に形成するビーム楕円を表すビーム行列は式 (4.1 )とな る。
22 21
12 11
a a
a
a ( 4.1 )
ビームが発散した状態でz = 0の位置に到達すれば、a12 > 0となり有効線源点位置はz = 0 の位置よりもマイナス側に位置する。有効線源点位置はビーム行列の各成分がゼロになる 場所として定義され、ビーム形状が極小となる位置に相当する。有効線源点位置を算出す るために、2章のビーム輸送方程式で述べた輸送行列Rの成分Lに対して有効線源点位置の z座標 ( zeff ) を代入すると、式 ( 2.10) は式 ( 4.2 ) のようになる。この時、有効線源位置 でビーム行列の非対角成分がゼロである条件を使うと、有効線源点を決定する成分zeff、
22 , ff 11
,
eff σe
σ および を求めることができる。
=
22 , eff 11 , eff eff
22 21
12 11 eff
0
0 1
0 1 1
0 1
σ σ
σ σ
σ σ
z
z ( 4.2 )
この方程式を解くと、zeff、
22 , ff 11
,
eff σe
σ および は以下のようになる。
22 12
eff σ
−σ
=
z ( 4.3 )
22 2 12 11 22 2 eff 12 eff 11 11 ,
eff 2
σ σ σ σ σ
σ
σ = + z +z = ( 4.4 )
22 22 ,
eff σ
σ = ( 4.5 )
zeff はビームライン上の有効線源点位置を、有効線源点サイズσeff,11はビームの側方への 拡がりの分散を、σeff,22は角度拡がりの分散を表す。このモデルを用いることで位置zにお ける、ある一点を通るビームの角度分布の標準偏差σθ (z)を求めることができる。
eff 11 , ff 2
eff 22
, eff 11 , ff
22 , eff 11 , ff
) (
)
(z z z z ez
e e
≅ −
−
= + σ
σ σ
σ
σθ σ ( 4.6 )
17
有効線源点パラメータは測定でも求めることができ、その測定方法を図4.2に示す。ビー ムラインから照射条件で変化する機器 ( リッジフィルタ、ファインディグレーダ、補償フ ィルタ、患者専用コリメータ ) を取り除いたオープンビーム条件で、ビームライン下流に 置いた開口が矩形のコリメータ-ビームをカットし、位置zにおける側方線量分布を測定し、
その80 – 20 %のペナンブラ幅P 80-20 ( z )と50 %線量幅W50 ( z )を求める。
有効線源から当方的に出射したビームがコリメータを通過後に作る側方線量分布は、ビ ームライン上の位置zにおいてF(x,z:µ,w) で表される。
2 0 p 2 0
/ 2 p /
d ) ( 2
) exp (
) ( 2 ) 1 , : ,
( x
z x x z
w z x F
w x
w
x
−
−
= πσ
∫
−− −+ σµ µ
µ ( 4.7 )
µは分布の中心位置を表し、分布の中心がビームライン上にある場合はµ = 0となる。w
およびσp (z )は位置zにおける50 %線量幅およびペナンブラの拡がりを表す関数である。
式( 4.7 )より80 – 20 %のペナンブラ幅を求めることで、P 80-20 ( z )は以下のように近似でき る。
) ( 683 . 1 )
( p
20
80 z z
P − ≅ ×σ ( 4.8 )
有効線源より出射したビームはファンビーム上に拡大することから、P 80-20 ( z )、σp ( z )
およびW50 (z )と有効線源点距離z eff および有効線源点サイズ
11 ,
σeff には次式の関係がある。
図4.2 有効線源点パラメータの測定方法
18 z
z - ) z
( 683 . 1 / ) (
eff col
eff 11
, eff p
20
80 z z z
P − ≅σ = σ × − ( 4.9 )
eff col
eff col
50 z
z - ) z
(z W z
W = × − ( 4.10 )
式( 4.9 )および( 4.10 )を用いて有効線源点パラメータを求めるために、コリメータ開口幅
をW col = 100 mm、コリメータ位置をアイソセンタ ( z = 0 mm ) から300 mm上流の位置に 設定し、測定位置z = 0から435 mmの2箇所で2D Arrayを用いて側方の線量分布を祖規定 した。得られた線量分布よりP 80-20 ( z )とW50 ( z )を求め、式( 4.9 )および( 4.10 )を用いて有 効線源点パラメータを得た。NCCHEで用いられているエネルギー ( 150、190および235
MeV ) の有効線源点パラメータを表4.1に示す。
表4.1 NCCHEにおける有効線源点パラメータ
エネルギー ( MeV )
zeff
( mm )
11 ,
σeff
( mm )
σθ ( mrad )
150 -2687 29.8 12.8
190 -2697 24.0 10.3
235 -2674 25.1 10.8
19 4.2.2 水等価厚モデル
人体は様々な組織により構成された不均質物質であるが、治療計画を行うとき人体は異 なる密度の水から構成される物質とみなし、水で測定した線量分布を使って人体中での線 量分布を計算する方法が用いられている。この手法を水等価厚モデルという。
水等価厚モデルは、ある物質Mにおけるエネルギー損失を考えたとき、物質M中のエネ ルギー損失と同じエネルギー損失を与える水の厚さを算出するという理論である。
陽子が厚さlM cmで密度がρMの物質Mを通過した際のエネルギー損失 (−dE/dx)Mが 厚さlwcmの水を通過した際のエネルギー損失(−dE/dx)wと等しいとき、物質Aの水等価 厚比WELRM (Water Equivalent Length Ratio)は式 (4.11 ) で定義される。
w M M
M ( d /d )
) d / d WELR (
x E
x E
−
× −
= ρ ( 4.11 )
物質Mの厚さlMと水の厚さlwの間には式 ( 4.12 )の関係が成立する。
M w
M l / WELR
l = ( 4.12 )
図4.4に陽子線治療装置のビームライン上に設置されうる物質の水等価厚比のエネルギ ー依存性を表すグラフを示す。図4.4より水等価厚比は物質のみに依存し、エネルギーに依 存しないことがわかる。よって線量計算時に用いる水等価厚比はエネルギーの変化に関係 なく一定とする。
補償フィルタおよび線量検証時に固体ファントムとして利用するポリエチレンのWELR は1.02とし、コリメータ材質に用いられる真鍮のWELRは5.64とする。
図4.4 各物質におけるWELRのエネルギー依存性
20 4.2.3 Pencil Beam Algorithm
ペンシルビーム法 ( Pencil Beam Algorithm ; PBA ) は1996年にHongにより提案された線 量計算アルゴリズムであり、陽子群 ( カーネル ) の相互作用をカーネル中心のパス ( ペ ンシルビーム ) に代表させ、ペンシルビームが物質を通過する際に起こすエネルギー損失 および散乱をカーネル全体の相互作用として近似し、計算する実測ベースのアルゴリズム である。コリメータ上流面で発生させた複数のカーネルによる吸収線量をたし合わせるこ とで全体の線量分布を計算する。
アイソセンタを原点とした座標系において、位置 ( z ) のx ,y 平面におけるペンシルビー ムの線量分布 は以下の手順で算出する。座標 ( x’ , y’ ) を中心とするペンシルビームが座標 ( x , y , z ) のVoxelに付与する線量D ( x , y , z ) は、側方線量分布関数OARと深部線量分布 関数ddを用いて式 ( 4,13 )のように表される。
) (
) ' , ' , ) , ' , ' (
; , ( OAR ) , ,
(x y z x y tot x y z x y dd r0 r
D = σ × − ( 4.13 )
式 ( 4.13 ) について、σtot(x',y',z )はペンシルビームの線量分布の点(x',y',z)における横 方向の位置の広がり、r0 はビームの初期水中残余飛程、r は座標(x',y',z) におけるペンシ ルビームの水中残余飛程である。補償フィルタ上流面においてコリメータ開口部全域にペ ンシルビームを発生させた。
ある深さdにおける深部線量分布関数をdd ( d ) とする。dd ( d ) は測定により求めた水 中の深部線量分布dd meas ( d ) に対し距離の逆自乗補正を行ったものであり、その関係式を 式 ( 4.14 ) に示す。
2
eff 0
eff 0 meas( )
)
(
+
−
× −
= z z d
z d z
d d d d
d ( 4.14 )
z0 は水面位置、 zeff は表4.1にも示した有効線源点位置である。つまりz0−zeff は線源表 面間距離SSDを意味する。
式 ( 4.13 ) において側方分布関数OAR(x,y;σtot(x',y',z ),x',y') は2次元ガウス分布で
あり、式 ( 4.15 )により表される。
− + −
=
2 tot
2 2
2 tot
tot
} ) , ' , ' ( { 2
) ' ( ) ' exp (
} ) , ' , ' ( { 2
1 ) ' , ' , ) , ' , ' (
; , (
z y x
y y x
x z
y x
y x z y x y
x OAR
σ π σ
π σ
( 4.15 )
) , ' , '
tot(x y z
σ はコリメータよりも上流に挿入されたデバイスによる散乱成分σline、補償 フィルタでの散乱成分σcomp および患者体内での散乱成分σpatient の二乗和である。
21 )