接 触 節 の
指 導武 居 正太郎 木 場 岩 毅
Teaching of the Contact Clause MASATARO TAKESUE IWAKI KOBA
授業の成否の鍵のひとつはK:R情報の与え方にあると言われる。そして効果的なKRを 与えるためには,生徒の反応を的確に把握することが必要になってくる。しかしながら,
授業中の瞬間的な場面においては,ややもすれば,生徒の反応のよってきたる根拠を正し く把握できないが故に,誤ったKRを与えてしまう場合が少くない。生徒の反応が教師の 期待するものと異なる場合には,その場で,あるいは,事後に面接などをして,その誤り の原因をつきとめることは比較的に容易であるが,生徒の反応が教師の期待するものと同 じである場合には,特に,注意が必要である。「まぐれ当たり」の要素がはいり込むこと があるからである。そして,その「見せかけ」を見破るのはなかなか困難で,鋭い観察眼 と経験が要求されるところである。また,たとい生徒の反応が誤っていたとしても,それ は不注意による間違いとして処理され,効果的なブイードバックがなされないまま授業が
り り り り
終わってしまうこともよくあることである。以下は,この誤反応の取り扱いの失敗例とそ の誤反応の原因について考察をくわえたものである。
1.事 例
1.1
教師,:
生徒A:
教師 : 生徒B:
教師 : 生徒B:
教師 :
生徒B
Did she read the paper Akio wroteP Yes, she did.
Anyone else?
No, he didn t.
No, he didn t?
あっ,そうか! No, she didn t.
Good!Did§詮…?と 麗で質問したのだから, she で答えな ければならないね。
(うなずく)
これは,昭和50年1月,長崎大学教育学部附属中学校第2学年A組の授業の一場面であ る。教材は,昭和49年度版:NEW H:ORIZO:N English Course BK2, Lesson 14 Silence Is Not Always Gold(2)。新構文の導入が終わり,新語の発音練習と読みの練習を教 師と録音テープを使って行ない,さらに,内容について質問をするので各自注意しながら 読むようにとの指示を与えて黙読させたあと,教科書は閉じさせて口頭で行なった一連の 話劇言忌のうちのひとこまである。参考までに,教科書の本文をつぎにあげておく。
Mike went up to Nancy s room. She was still sleeping. He took out a piece of paper and wrote:
Get up,:Nancy!Helen is going to go for a drive with her father. She has illvited us alld Akio, too. Iam going to leave at eight, Ihope that you wiU come, too.
Mike
He put the paper on the table beside her bed。 He shut the door slowly.
It was eight thirty when Nancy got up. She found the paper and read it.
She went out of her room quickly.
上の英問英答は,普通ならば,full answerで答えさせたり,答えられない場合には問 いの文の意味を日本語で言わせたり,教科書を開かせて問題の箇所を指摘させたりするこ ともあるが,問いの文に未習のContact Clauseを用いたため,それは行なわなかった。
この段階の生徒は,後置修飾構造としては,前置詞句(the table beside her bedな ど)を学習しているだけである。未習のContact Clauseを問いの文の中に用いたのは,
文字としては出していないが,教室英語として教師が使ってきており,また,後置修飾の 前置詞旬などから意味を類推できるであろうという安易な気持ちからと,文字としてそれ を学習する際のレディネスを知る手がかりをつかむことができれば,という淡い期待から でもあった。
上記の授業は,生徒Bがうなずいたところで,一応,終わった。A, Bの誤りは,最初 のうちは,よくありがちな,緊張のため,あるいは,不注意から, she を he と言い まちがえたのだろうと軽く考えていたが,A,Bとも中位の学力の持ち主であり,しかも,
問題の問答中の他の生徒の中には,納得がいかぬ顔をしているものがいたことが気がかり であった。不注意による,単なる she he の取りちがえとばかりは言えそうにない。
英文の主語や修飾関係の把握の仕方に問題があるのではないか,としだいに思われてき
た。
1.2
そこで,この点を確かめるために,前述の面縛英答の問いの文を印刷して,つぎのよう な筆答法に変え,さらに,問題の問いの文を和訳させてみた。
教科書本文を読んで,その内容に合うように, ( )の中に適語をひとつずつ 書き入れて答えを完成しなさい。さらに,6番については,その問いの文の意味を
日本語で書きなさい。
1.( )When Mike went up to Nancy s room, what was she doing?
( ) ( ) sti11 ( ) .
6. ( )Did she read the paper Akio wroteP ( ),( ) ( ).
(問いの文の意味)
1.3
第1回目(1.2)のテストに現われた問題点の傾向を確かめるために,同じ生徒が3年 になってContact Clauseを学習したあとで(昭和50年9月),同一のテストをもう一度 実施した。この時は解説や説明は行なわなかった。
2.2
とつぎのとおり
(A型):「かの女は,明雄の(が)書いた手紙を読みましたか」 (Aユ),「明雄の (が)書いた手紙をかの女は読みましたか」(A.2)などのように,英文の修飾関 係を正しくとらえているもの。
(B型):「かの女が読んだ手紙は明雄が書いたのですか」 (Bユ),「かの女が読ん だものは明雄が書いたものですか」 (B.2)のように,英文そのものの修飾関係を 正しくとらえて,それを日本語に表わしていないもの。
(C型):「かの女が書いたものを明雄は読みましたか」 (C.1),「かの女は手紙を 明雄のところへ持っていきましたか」 (C.2)などの誤りの文。
2.結 果
2.1 (問6)の英問に対する答えはつぎのとおり (1) No, she didn t. (2) Yes, she did.
(3) No, she did. (4) No, he didn t.
(5) Yes, he did. (6) No, it didn t.
(7)無 答
(備考):No, Mike did.という答えもあったが,これは, No, he(=Akio)didn t write the letter. Mike did.と考え,(4)に入れた。
問いの文の和訳については,バラエティーに富んだ解答がみられたが,大別する
テストに現われた,問い対する答え方と闘いの英文の和訳の型は上のとおりであるが,
それらの関連を表にまとめたのがく表1>である。第1回目の結果は上段に,第2回目の 結果は下段に示している(これは,以下すべての表について同じ)。調査対象の生徒は,
第1回目は233名,第2回目は185名。忌中の数字は人数を示す。
〈表ユ〉
\ 答\え
ゼq旧
ゼ昭
も●▼一層
がq℃
づ●H
がq
\ ℃ ℃ ・F璽 ℃ ℃ (
\方
t\
Φ甥δ寓 男の6Φ卜
名のδ客
℃£6寓 名6Φ卜
竜鵡6寓 麺ロ
ヲ)
計
量\
ε 箪 ㊥ ヨ ㊥ § ε113 21 2 20 0 } 0 157
A 型 _F_}P鱒戸一一一鼎曹檜一__一一_一一一一一一一一一一曽一一一一一一一一一一需F一曹曽曽一一一一一一一一一一一卿彌,一一一一曽 一一一一一需一一一一P一一一一一一一曹一一一一回暫一___一咽駒一一
146 9 0 5 0 2 0 162
25 2 2 30 0 1 0 60
B 型 ___}一_一一一需一一一r胃一需曽日謄一一一一一一曽一一曽一国曹一 一一一一一一r 一 一 一 胃 需帰需需一凹凹 一一一一 一 一 一 r 一 一 盟一 曽 一 一一 一一 一胃 曹 暫 一 一 一 一 r 一 一 一 一 一 一 p 一一 _ 一 _ 一日 曹 曽 一 一 一
6 0 0 9 0 3 0 18
7 0 2 2 ユ 0 4 16
C 型 一 一 一 一
@ 2 1
oi し 0
雫 一 胴 憎 檜 塵 一 一 一 一 一 一 一
@ ユ
11 0} 一
ユl I
冊 一 一 一 A 一 一 一
@ 5
145 23 6 52 1 2 4 233
計 一 一 一 一 一 一 r P 需 − 一 一 一 一 一 一 r r 擢 一 刷 曹 一 一 一 一 一
154 10 0 14 1 5 1 185
3.考 察
データが少なく,断定的なことは言えないが,2回のテストの結果から,おおよそ,つ ぎのことは言えそうである。
3.1
英文の問いに対する答えは,当然のことであろうが,2回目では正解者が:増してはいる が,1,2回とも,答え方の分布はあまり変わっていない。
(2)Yes, she did.としたものは,中以上のものがほとんどで, MikeとAkioの読み ちがいと考えられるが,本文全体の内容を理解できなかったとみられる下位の生徒もはい っていた。しかし,これも,絵を用いて,人物や手紙などを指し示しながら問答を行なう と,この数は減っていたであろうと思われる。
(1)No, she didn t.と答えたものの中にも,問いの意味を正しく受けとめていないも のがいること。これは,学問正答の技術の初歩ではあるが,Yes, she did.とか:No, she didn tといった short answer で事足れりとすることに対する危険性を思いしらせて
くれるものである。
3.2
2回のテストを通じて,約22%,8%のものが,(4)No, he didn t.と答えているこ と,さらに,英文の問いの意味として(B型)にしたものが,第1回目におよそ26%,第 2回目およそ10%いることに注意したい。
B型の和文は,必ずしも誤りとは言えないかも知れないが,いま,和文の型と正答との 関係をみると,やはり,A型のものの正答率が高い。これに対してB型としたものの正答 率は2回とも50%以下で,どちらかと言うと,(4)のNo, he didn t.とする傾向が大と 言えよう。
さらに,和文の型と問いに対する答えの文の主語の選択状況をみると,A型の中にも,
Contact Clauseとしたために,主語をshe(=:Nancy)とすべきか, he(=Akio)とす べきか,あるいは,it(=paper)とすべきかとの迷いがみられるが,<表2>によって もわかるように,主語に he , it を選んだものの比率は, B型のものの方がA型のも のより大と言える。
〈表2>
主 語
a文
she he it 無解答 計
A 型
・3612・1 ・i ・i1ユ57一 一 一 一 一 幽 膚 彌 旧 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一 印 一 一 齢 一 一 一 一 一 曽一 一 幽 陶 鱒 一 得 一 一 一 一 一 一 一 一 一 旧 曽 謄 一 静 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 糟 F r P −
@1S5} 51 21 ・1}ユ62
B 型
29}3・1 ・i ・116・曽 一 一 一 憎 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 顧 檜 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − 需 一 一 一 一 一 一 一 一 } 一 一 一 一 噌 騨 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 鴨 腔 鴨 } r P
@ 61 91 31 ・1{・8
C 型
1
91 31 ・1 41[・6一 一 一 皿 『 一 一 一 一 一 一 一 闇 停 哨 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 噌 噌 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 曽 r r 一 一 一 一 一 一 一 一 一 冒 一 , 弾
@ 3i ll ・{ ・ll 5
B型のものは,与えられた英文の問いそのものからでなく,頭の中で訳した日本語に即 して主語を選んでいると思われる。なぜなら,例えば, (B.1)「かの女が読んだ手紙は 明雄が書いたのですか」において,「かの女」は,「明雄」ほどには強く意識されず,印 象も強くない。これを裏をかえせば,「マイクが書いた手紙であって,明雄が書いたので はない」,つまり No, he(Akio)didn t(write) という意識の現われから(4)No,
he didガt.としたと考えられる。
ちなみに,2回目のテストで問いの文の意味をB型としたものに,英文の問いおよび自 分の書いた日本文におけるそれぞれの主語を指摘させてみた。〈表3>は,問いの文の主 語として,それぞれ,she, paper, Akioを選んだものが,自分の書いた和文の主語とし て何を選んだかを示したものである。この場合,正しい選択は, she と「手紙」である が,ともに正しい主語を選んだものは,18名中,わずかに3名だけであった。英文,和 文ともに paper ,「手紙」を選んだものが7幽いたが,これは前にも述べたとおり,和 文の主語をまず選んで,そのあとで,和文の主語に合う英文の主語を選んだものと思われ る。B型の生徒の中には,学力の比較的高い生徒も含まれているが,日英両語における主
<表3>
和文
p文
か の 女 手 紙 明 雄 計she 4 3 1 8
paper 0 7 0 7
Akio 0 0 3 3
語,ひいては,修飾関係の把握の仕方が不安定で不確実であると言わざるを得ない。した がって,これらB型は,和文としては,必ずしも,誤りとは言えまいが,指導にあたって は十分注意してかかる必要があると思われる。
一我々は,かつて,関係代名詞の導入後,それを含む英文とその日本語訳における,修飾 関係の把握の仕方を調べたことがあるが,その結果は,やはり,英文における関係把握が まちがっているものの多くは,日本語における関係把握もまちがっていた。文法機能の把 握は,英語科,国語科ともに,言語教育の両翼をになう教科として,密接な連携をたもち ながら指導に当たらねばならないことを痛感していたが,いま,また,その感を強くした ものである。
3.3
第1回目のテストの結果から,Contact Clauseを導入する過程にきめの細かいステッ プを置く必要を感じたので,つぎのような4つの毅階を復習課題(プリント教材)として 用意した。すなわち,
(SteP l) 既習の形容詞,形容詞用法の現在分詞・過去分詞,不定詞,前置詞句を含 む名詞修飾語群の和文英訳(学習の目標を知らせ,課題解決の意欲を湧かせるため の作業)
(Step 2) The book is on the desk./The boy is swimrning in the river.
/The letter was written by Torn.から,それぞれ, the book on the desk/
the boy swimming in the river/the Ietter written by Tomのように後置 修飾表現をつくる練:習
(Step 3) 後置修飾語群を含む和文英訳
(Step 4)「現在分詞」と「過去分詞」を使って,身近なことを表現する練習 また,Contact Clauseの練習には,つぎの5つのステップを置いた。すなわち,
(Step l)Iknow the boy.からthe boy I knowのように後置修飾表現をつく る練習
(Step 2)Step 1の表現の修飾関係を示す練習
(例) the boy I knOW I 下一:=:=「
(Step 3)Step 1の表現にThis is(These are)・・・…をつけて文としての練習
(SteP 4)Contact Clauseを使ったつぎのような対話練習 (例)A:What is the country you want to visitP B:The country I want to visit is Switzerland.
(Step 5)主語と動詞の数の一致の練習
(例) The man you saw yesterday was my friend.(men)
……The men you saw yesterday were rny friends.
以上のようなステップを踏んで指導したのであるが,第2回目のテストの結果は,
<表1>に示したとおりである。今後,文中での語の機能を把握する訓練をいっそう行な うとともに,用いる例文にも,もっと細かな配慮をすべきであろう。例えば,
Does M氷e know the girl Torn and Dick met yesterdayPのような問答練習によ り,また,その問いの文においても,主語,目的語,修飾節中の主語などの数,性などが 重なり合わないようなくふうをしながら問題解決にせまりたいと思う。特に,絵や実物,
身近な体験などを用い,実際の場面に即した練習をもっと行なうことの必要性を感じた。
3.4
今回の小論で考察することができなかったのは,いわゆる(B型)の日本文の取り扱い である。
教室での英文和訳の作業としては,教師は,(B型)は誤りとし, (A型)を;期待する のが普通であろう。しかし,これはあくまでも,英語の論理に即した取り扱いである。日 本語の論理からすると,果たしてどうなのか。翻訳ということも含めて中学生段階におけ
る読解ということについては,さらに,課題として残るものがあると言えよう。
最:初は, Did迦…? に対して No,鯉didn t・ と答えるか・または No・詮 didガt. と答えるか,という,一見,単純な問題であるかのように思えた。しかし,生 徒の反応の分析結果は興味深い指導法上の問題を提供してくれた。まさしく, To teach
is to learn. である。
参 考 文 献
楳垣 実 「日英比較語学入門」大修館書店(昭和46年)
外山滋比古 「日本語の論理」中央公論社(昭和49年)
石井正之助編 「読む領域の指導」(講座・英語教授法,第5巻)研究社(昭和45年)