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共同研究「成年後見法制の実務的・理論的検証」定 期借地権終了時の契約調整の可能性

著者 大野 武

雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

巻 29

ページ 147‑157

発行年 2013‑07‑31

URL http://hdl.handle.net/10723/2070

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定期借地権終了時の契約調整の可能性

大 野   武 1.問題の所在

⑴ 定期借地権の成立要件(借地借家法22条)

 ・存続期間を50年以上として借地権を設定する場合において、法9条および16条の借地権者等 に不利な特約を無効とする規定にかかわらず、次の3つの規定の適用がない旨の特約を公正 証書による等書面によってすることができる

   ①契約の更新に関する規定(法4条、5条および6条)

   ②建物再築による存続期間の延長に関する規定(法7条)

   ③建物買取請求権に関する規定(法13条)

 →これらの特約により、約定の存続期間が経過すると、建物は取り壊されて、借地は更地にし て土地所有者に返還されることになる。

⑵ 期間満了時の問題点

⒜ 居住利益との調整問題(松井宏興)

 →借地権者がその住宅での生活を希望している場合において、新たな土地の有効利用を図ろう とする借地権設定者が50年以上前の特約の効果を貫徹しようとすると、相当に荒っぽい強制 執行を行わざるを得ず、その場合、裁判所は、信義則や権利濫用の禁止等の一般条項の適用 によって具体的妥当性を図らざるを得ない場合もあり得る。また、結局は合意更新を余儀な くされる結果、更新拒絶に正当事由が要求されるのと限りなく近いものになってしまう展開 もあり得る(永田真三郎)。

 →とりわけマンションの場合には、多数の借地権者のほか、多数の借家権者もいることが考え られるが、これらの居住者全員を立ち退かせ、建物収去土地明渡を行うことは事実上不可能 である。また、期間満了以前に新たな立法により、借地権設定者の返還請求は制限されるで あろうことは、わが国の借地法の変遷や諸外国の立法例をみても、相当の蓋然性をもって予 測できる(澤野順彦)。

⒝ 建物のスラム化問題(田山輝明)

 →一般的に建物は次第に老朽化するが、やがて数年ないし数十年後に取り壊さなければならな い建物に借地権者があえて費用をかけて維持管理や修繕を行うことは通常期待することはで

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きないはずである(澤野順彦)。

 →とりわけマンションの場合には、多くの区分所有者が維持管理や修繕への意欲を失い、管理 費や修繕積立金の滞納が相次ぐことも予想されるので、管理組合の活動が機能しなくなり、

スラム化は戸建て住宅以上に進行するおそれがある。

⑶ 定期借地権の最近の展開

 ⇒ 広場、道路、駐車場などの共用スペースを設け、地域の景観を重視した住宅地開発に定期 借地権が活用されるケース

  ①共用スペースは土地所有者が所有権を留保し、自ら直接管理できるようにする。

  ②住宅地部分については、土地賃借権での定期借地権設定契約が締結されるが、一般的な借 地に関する約定に加えて、「住環境管理協定」も締結する。

  ③借地権設定者と借地権者は住環境管理協定に基づき管理組合を設立し、共用スペースを含 めた住環境を借地権設定者と借地権者とで共同で管理する。

  ④定期借地権の特定承継人に対しては、住環境管理協定を譲渡承諾の際の条件とすることで、

管理義務が及ぶようにし、管理の継続性を確保するようにする。

 ⇒ このような手法は、従来のように、借地権設定者と借地権者とを対立的構図として描くも のではなく、両者による共同事業としての土地の合理的利用であると考えることができ(大 西泰博)、この新たな展開をも踏まえて、問題解決の方法を検討する必要がある。

2.建物存続のための既存の学説

⑴ 当事者の合意により居住利益を保護する見解

⒜ 建物買取請求権排除特約のない定期借地権設定契約を肯定する見解

 →3つの特約のうち③の特約をしなくても定期借地権設定契約が有効に認められると解するこ とで、存続期間の満了時に、借地権者は、借地権設定者に対し、時価で建物を買い取るべき ことを請求することができることになるので、建物の存続が図られると同時に借地権者の投 下資本の回収も図られる(山野目章夫、吉田克己、田山輝明、藤井俊二、大西泰博)。

 →立法担当者、登記実務担当者は否定。

⒝ 民法上の特約による借地権設定者の建物譲渡請求権を肯定する見解

 →借地権設定時に3つの特約をあわせて締結して定期借地権を有効に成立させた後に、借地権 設定者が期間満了に際し、建物を自己に譲渡するように請求できるとする民法上の特約をす ることによって、建物の存続が図られる(山野目章夫、藤井俊二、大西泰博、立法担当者も 肯定)。

 →定期借地権設定契約において無償譲渡特約のあるものが67.5%となっている。

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⒞ 期間延長の合意および再契約を肯定する見解(藤井俊二、山岸洋、吉田克己、大西泰博)

⑵ 当事者の合意によらずに居住利益を保護する見解

⒜ 民法619条の適用による契約の更新を肯定する見解

 →期間満了後に借地権設定者が直ちに土地の返還を請求せずに放置する場合、期間満了後でも 借地権者が土地の使用または収益を継続する場合において、借地権設定者がこれを知りなが ら異議を述べないとき、民法619条の適用により、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借 をしたものと推定される(山野目章夫)。

 →実務上は民法619条の規定を適用しないことを予め約定で明記する取扱いが多い(山岸洋)。

⒝ 期間満了後の建物取壊しが権利濫用に該当し得るとする見解

 →期間満了後に存在する建物を取り壊すことは、とりわけ借地上の建物に賃借人が多数居住し ている場合には、法35条の規定にかかわらず複雑な事態になる可能性がある。このような場 合に、借地権設定者が建物の取壊しを請求することは、権利濫用に当たることもあり得ない ことではない(大西泰博)。

⒞ 事情変更を根拠に存続期間の延長を認めるべきとする見解

 →借地権設定者が契約終了後に当該不動産を使用する必要性が乏しい場合などにおいて、定期 借地権の契約の効力―存続期間満了による借地関係の終了―をそのまま認めると、借地権者 が居住の基盤を完全に失ってしまうなど、生活空間を主体的に形成する借地権者の自由が著 しく侵害されることもあり得る。そのような場合に、借地権設定者に対する過剰な負担とな らない範囲で、借地権者が上記自由への予期せぬ侵害を回避あるいは最小限に留めるための 猶予期間として、定期借地権の存続期間の延長を認めるべきである(秋山靖浩)。

⑶ 小括

⒜ 当事者の合意による存続保障論

 →⑴⒜ないし⒞の各学説は、基本的に当事者の合意に基づくものであり、定期借地権の趣旨に 反しないので、いずれも契約自由の原則により許容されるものである。これらの各学説は、

借地および借地上建物で営まれてきた居住・事業等の存続に一定の範囲で配慮するという共 通の意義を見出すことができ、このような存続への配慮は、契約の継続性を前提としつつ、

借地および借地上建物を起点として自分の生活空間を主体的に形成する借地権者の自由を、

契約当事者間の合意によって確保しようするものである(秋山靖浩)。

⒝ 当事者の合意の限界

 ①仮に当事者で無償譲渡の合意が成立し、存続した建物に旧借地権者が今後借家権者として居

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住を継続することができるようになったとしても、これまでの借地権者としての地位から借 家権者としての地位へと変更されることになるので、借家権者が支払う賃料は、これまでの 土地の価値相当分から、土地と建物の価値相当分へと増額されることになる。

 ②再契約交渉の場面では、「貸地人側には無条件の更新拒否権というエースカードが与えられ ているから、再契約一時金(事実上の更新料)等を含む再契約条件について対等当事者間の 交渉が実現されることは困難」(田山輝明)。

 ③借地上の建物がマンションの場合、複数の区分所有者が借地権を準共有しており、区分所有 者全員が建物取壊し・更地返還義務を負っている状態にある。このとき、もし借地権設定者 が借地権者全員と再契約を締結できなかった場合、建物取壊し・更地返還義務を負う借地権 者が残されることになる。結果的に、建物の存続を図るためには、借地権設定者は借地権者 全員と再契約を締結する必要があるので、その実現は実際上ほとんど不可能である。

⒞ 当事者の合意不成立の場合の措置の必要性

 ①より問題となるのは当事者の合意が成立しない場合であり、(2)(a)ないし(c)の各学説は、借 地権者の一時的保護を検討するが根本的な解決につながるものではない。

 ②期間満了時の建物取壊し・更地返還という前提条件の下で、これらの問題を回避しようとす るには、立法的介入によって強制的に借地権者の居住利益と建物の存続を図ることを検討す ることも必要。

3.立法的介入の是非

⑴ イギリスの長期不動産賃借権の問題点

⒜ 土地建物一体の原則と存続期間の満了

 ・長期不動産賃借権には存続期間の定めがあるので、その期間が満了すると、賃借人は不動産 賃借権を喪失することになる。ただし、建物は土地に附合するので、建物取壊し・更地返還 をする必要はなく、自動的に賃貸人が不動産についての不動産賃借権の負担のない自由土地 保有権(日本の所有権に相当)を回復することになり、建物は存続することになる。

⒝ 賃借人の財産権の喪失問題

 ・長期不動産賃借権の存続期間が満了すると、賃借人が自らの出捐によって不動産を取得し、

その不動産に改良投資をしてきたにもかかわらず、賃貸人から何ら経済的に補償されること なしに賃貸人に不動産を没収され、賃借人は財産権を喪失することになる。

  →賃借人が契約の更新を希望する場合、更新には賃貸人の同意が必要とされ、仮に更新が認 められたとしても、更新後の賃料は土地と建物は賃貸人の所有物であるという前提に立つ ので、土地の価値に限られていた地代から、土地と建物の価値とを合わせた賃料へと変化 する。

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  →賃貸人は更新請求に同意しないこともできるので、再交渉に際し有利な交渉力を有してい る。そのため、更新の条件として、賃借人から高額の更新料または賃料増額を得ることが できた。

⒞ 公共的利益の損失問題

 ・長期不動産賃借権の存続期間の満了時が近づくと、建物の荒廃が著しくなり、衛生上・道徳 上の見地から極端に有害な状況に陥ることとなった。

⑵ 問題解決のための立法的介入

⒜ 賃借人への法定賃借権の付与

 ・1954年不動産賃貸借法は、存続期間が満了した賃借人の居住権を保障するために法定賃借権 を規定した。

  →1954年法は、期間満了時において、土地と建物は賃貸人のもとにいったん復帰したという 前提に立って、改めて賃借人に借家権が付与されるというものであり、その結果、賃借人 の投下資本は保護されず、また借家権の賃料が土地と建物の価値を合わせた賃料に増額さ れた。

⒝ 賃借人への不動産賃借権解放権または延長賃借権の付与

 ・1967年不動産賃借権改革法は、一定の資格要件を満たした賃借人に、住宅その他の不動産の 不動産賃借権解放権または延長賃借権を付与することが規定された。

  →不動産賃借権解放権とは、賃借人が、賃貸人との合意を要することなく、住宅その他の不 動産に対する自由土地保有権を賃貸人から買い取ることができるという権利であり、その 買取価格は土地の価格相当分であるとされた。

  →延長賃借権とは、賃借人が、賃貸人との合意を要することなく、期間満了後50年間の新賃 借権を設定することができるという権利であり、その地代は土地の価値に限られた。

⒞ 賃貸人の優越的権利

 ①再開発権に基づく延長賃借権の排除

  →賃借人からの延長賃借権の行使に対して、賃貸人は再開発目的での住宅の取壊しまたは再 建築を理由に不動産の占有回復を裁判所に申し立てることができる。

  →その申立てが裁判所の命令により認められると、賃貸人は住宅の占有回復の権限が付与さ れ、賃借人は住宅の損失に対して補償金が支払われる権限が付与される。

 ②居住権に基づく不動産賃借権または延長賃借権の排除

  →賃借人が不動産賃借権または延長賃借権の資格要件を満たしている場合、賃貸人は住宅の 全部または一部が自己または家族の唯一または主たる住居として占有することが必要であ ることを理由に不動産の占有回復を裁判所に申し立てることができる。

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 ③近隣の全体的利益のための賃貸人による管理権の保持

  →1人の賃貸人によって設定された賃借権に基づいて占有されている地域で、地域の外観と アメニティの適切な水準を維持し、賃借人が賃貸人から取得した住宅の再開発を制限する ために、賃貸人が住宅に対する管理権を保持すべきであることの証明書を担当大臣が交付 したときは、高等法院は賃貸人にそのような権限を付与する計画を承認することができる。

⒟ 不動産賃借権解放権の正当性

 ・不動産賃借権解放権は、賃借人が賃貸人との合意を要することなく行使できる権利であるこ とから、この権利が欧州人権条約の第一議定書が保障した財産権の不可侵性に関する規定を 侵害するものであるかが争われた。

 ・第一議定書第1条本文第2文において「何人も、公益のために、かつ、法律及び国際法の一 般原則で定める条件に従う場合を除くほか、その財産を奪われない」と規定されているとこ ろ、不動産賃借権解放権は、「公益」を目的としない「私益」を目的とした財産権の移転に 関するものであるので、同規定に違反するとしてヨーロッパ人権裁判所に提訴された。

 ・同裁判所は、国家が「社会的不正義」を除去することを目的として立法したのであれば、私 人間の財産的の強制的移転を内容とする不動産賃借権解放権も明らかに不合理ではないとし て第1議定書第1条の規定に違反しないとした。

  →「社会的不正義」=「賃借人の財産権の喪失問題」と「公共的利益の損失問題」

  →日本の「居住利益との調整問題」と「建物のスラム化問題」との類似性   →日本でも不動産賃借権解放権に類する権利を立法化することはできるか?

⑶ イギリス法の立法的介入の意義

 ①不動産賃借権の期間満了時には「賃借人の財債権の喪失問題」と「公共的利益の損失問題」

が実際に生じ、社会問題化したこと

 ②これらの問題を解決するためには、強制的に賃借人が賃貸人から自由土地保有権を取得する か、不動産賃借権を延長することでしか、他に方法がなかったこと

 ③これらの権利は、賃貸人の財産権に対する大きな制約ではあるが、「社会的不正義」を除去 するものとして正当化されるものであること

 ④ただし、これらの権利は、賃借人の財産的利益や居住利益の保護のみを目的としたものでは なく、「賃貸人の再開発利益や居住利益との調整」や個々の住宅や地域全体の健全性の確保 をも目的とした「公共的な観点からの契約調整」という意味を見出すことができること

⑷ イギリスと日本の社会的前提の相違

 ・イギリスでは、かつては大土地所有制のもと自由土地保有権が売却されることはほとんどな かったため、戸建て建物やテラス式建物を取得するには長期不動産賃借権によらざるを得な

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かった。したがって、住宅の取得を希望する人々にとって(自由土地保有権の譲渡が普及し 始めた比較的最近の状況を除けば)長期不動産賃借権以外はほとんど選択の余地のないもの であったのであり、またその問題は多くの人々に共通する問題であった。

 ・日本では、1941(昭和16)年の借地法改正によって「正当事由」という一般条項が導入され て以来、借地権者の居住利益と建物の存続が図られていった。その間に、「借地権の亜所有 権化」が進むが、イギリスの立法の状況はまさにこのときのわが国の状況とパラレルにみる のが適切である。

 ・日本では、借地権の保護が確立した後の1991(平成3)年に停滞していた借地供給を促進す るためにあえて定期借地権が導入された。このとき、住宅の取得を希望する人々は、自由に 土地所有権を選択することも、また定期借地権を選択することもできたのであり、そして定 期借地権を選択した者は、定期借地権のメリットとデメリットを合理的に判断して選択した 者であるといえる。

 ⇒このように、日本の事例は、イギリスの事例とは前提となる社会条件が大きく異なっている ので、イギリス法が行ったような土地所有権の取得権や借地契約の延長権を借地権者に付与 する立法は、法的には可能であるにしても、そのままの形での実現可能性は極めて厳しいと いわざるを得ない。

 ⇒しかしながら、合理的に判断して定期借地権を選択した者であったとしても、何十年も先に

「居住利益との調整問題」や「建物のスラム化問題」が生じる可能性を細部まで明確に認識 していた者はそれほど多くないはずである。また、実際に将来このような問題が顕在化した ときに、問題をそのまま放置することもまた適切でない。

 ⇒これらの問題は、当事者の任意の合意に委ねるだけでなく、また外国の立法例を単純に当て はめるのでもなく、これらの知見を踏まえつつ、日本の実態に即した解決策が探求される必 要がある。

4.契約調整または契約解消の可能性

⑴ 民法理論への回帰

 ・定期借地権は、正当事由制度から解放され、かつ時間的に明確に限定された賃借権であるの で、実質的に民法上の賃借権に回帰したものとみることができる。

 ・民法上の賃借権は、長期の継続的債権関係を形成し、一時的な債権関係よりも相互信頼性が 強くあらわれることから、「事情変更の原則」やその延長としての「再交渉義務論」に親し みやすい。

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⑵ 再交渉義務による再契約の可能性

⒜ 再交渉義務とは

 ・再交渉義務とは、契約を合意により事情の変化に適応させるという目的のために互いに交渉 を行う義務であり、契約当事者にこの義務を課すことによって、契約条項の修正に向けた意 思表示を各当事者者に促そうとする「交渉促進規範」としての意義がある(山本顯治)。

⒝ 再交渉義務の成立要件(以下、松井和彦、石川博康の見解による)

 ①再交渉を申入れる当事者において再交渉が必要であること(必要性)

 ②相手方において再交渉に応じることが容認し得ること(容認可能性)

⒞ 再交渉義務の内容  ①再交渉を申入れる義務

 ②申入れに応じる義務および誠実に対応する義務  ③再交渉を申入れた当事者は具体的な提案をする義務

 ④提案を受けた当事者はその提案に誠実に対応し交渉に協力する義務

 →定期借地権の期間満了時に借地権者から借地契約の再契約の申入れがなされると、借地権設 定者はその申入れに応じる義務および誠実に対応する義務を負うことになり、借地権者から 具体的な提案がなされると、借地権設定者はその提案に誠実に対応し交渉に協力する義務を 負うことになる。

⒟ 義務違反に対する法的制裁

 ①③の義務違反の場合は、当該義務者が行った訴訟上の改訂請求や契約の解消は認められない。

 ②の義務違反の場合は、当該義務の相手方が行った訴訟上の改訂請求または契約の解消が認め られる

 ④の義務違反の場合は、契約を望んでいる者がこの義務に違反した場合は、この者が行った訴 訟上の改訂請求や契約の解消は認められず、相手方がこの義務に違反した場合は、契約調整を 望む者が行った訴訟上の改訂請求や契約の解消が認められる。

 →借地権設定者がそれらの義務に違反した場合(②④の義務違反の場合)、裁判所により借地 権者が行った訴訟上の改訂請求または契約の解消が認められることになるので、借地権者が 求める再契約が成立するという法的制裁が課されることになる。

⒠ 借地権設定者に再交渉義務を課すことの妥当性

 ・借地権設定者は借地権者との間で明示の特約をもって建物取壊し・更地返還を可能とする定 期借地権設定契約を締結したのであるから、借地権設定者には建物取壊し・更地返還の合理 的期待がある。

 →このような事情の下で、借地権設定者に再交渉義務を課すことが妥当であるか。

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 →仮にこの義務を課すことが妥当であるとしても、再交渉義務違反に対して裁判官に契約改訂 および契約解消の権限を与える根拠が現行法上存在しない以上、法規範としての意義は乏し い。

⑶ 契約解消の可能性

⒜ 契約解消の意義

 ①建物のスラム化の原因が借地権者にある場合、借地権設定者が契約解除をすることが可能で あれば、借地権設定者は土地の返還を通じて問題を解決することもできるし、契約解除の威 嚇効果を通じて借地権者にスラム化防止措置を促すことができる。

 ②建物のスラム化の原因がやむを得ない事情による場合や借地権者の非協力による場合、借地 権者が中途解約をすることが認められれば、借地権者にとって不合理な状況は解消されるし、

あるいは借地権設定者にスラム化防止の協力を促すことができる。

⒝ 借地権設定者からの契約解除

 ・借地権者は、借地権設定者に対して、土地の使用に関しては契約上の義務を負うが、建物の 使用に関しては、建物は自らの所有物であるので、契約上の義務を負わないのが原則である。

しかし、借地権者に住環境維持義務や建物保存義務を課す特約が存在するとき、これらの義 務に借地権者が違反した場合に、借地権設定者は借地契約を解除することができるか。

 →借地権設定者から借地権者に義務の履行を求める催告を重ねたにも関わらず、借地権者によ る義務の履行がなされず、その結果、当事者間の信頼関係が破壊されるに至った場合には、

借地権設定者は借地契約を解除することができると解してよい。

⒞ 借地権者からの中途解約

 ①定期借地権の存続期間満了前に建物が滅失したが、残存期間がわずかしかないとき、借地権 者は建物を再築することが実質上できないまま地代支払義務だけを負い続けることになるか。

 →土地賃貸借の定期借地権の場合は、借地権者が期間満了前に解約申入れをするには解約権を 留保する約定をしておく必要がある(民法618条)。

 →解約権を留保する約定がなされていない場合は、解約申入れはできないか。

 →期間満了前の解約申入れが認められると、借地権設定者の地代請求権が消滅し、保証金が授 受されている場合にはその返還義務が生じるなどの不利益が借地権設定者に生じる。しかし、

このような事情を考慮しても、借地権者による建物の再築が著しく合理性に欠け、借地関係 の継続が実質的意義を欠くに至ったときにまで、借地権者に地代支払義務を強いるのは妥当 ではない。このような場合には、借地権者が解約申入れをなし得る旨の黙示の約定が含まれ ていると解することができるので、解約申入れは可能である(山野目章夫)。

 →ただし、借地権者からの土地賃貸借の解約申入れは、実質的には賃借権の放棄であるので、

建物の担保権者や借家権者の同意があることが条件になる。

(11)

 ②当事者双方が住環境管理協定を締結することで地域全体の住環境を維持する義務を負ってい る場合に、借地権設定者が管理に非協力的であるために地域全体が荒廃してきたとき、借地 権者はそのような状況が改善されることがないままその住宅に住み続けざるを得ないか。

 →当事者双方が締結した住環境管理協定に基づいて借地権設定者に住環境管理義務が課せられ ている場合、住環境の維持は当事者双方の協力のもとで行われるべきものであるので、住宅 地全体の荒廃という問題は、借地権設定者の義務の不履行だけが原因で生じるものではない。

 →しかし、借地権設定者が住環境管理協定において主導的な立場に位置づけられ、大きな影響 力を有している場合で、借地権者からの義務の履行を求める催告が重ねられたにも関わらず、

義務が履行さなかった結果、住宅地全体が荒廃した場合には、当事者間の信頼関係が破壊さ れたとして、借地権設定者は借地契約を解除することができると解してよい。

5.結論―再交渉規定の立法化

⑴ 法解釈論の限界

 ①借地契約の再契約に向けた再交渉義務論は、「居住利益の調整問題」や「建物のスラム化問題」

に対して当事者の再交渉による解決の道筋を得ることを可能とするが、借地権設定者の建物 取壊し・更地返還の合理的期待への配慮や法規範としての実効性の確保が問題となった。

 ②借地契約の解消は、「建物のスラム化問題」に対する解決策とはなり得るが、そもそも解消 が可能となる場面が非常に限られていたこと、また仮に解消が認められたとしても、借地権 者の居住利益は全く考慮されないということが問題となった。

⑵ 再交渉規定の立法化の必要性

 ①借地権設定者の建物取壊し・更地返還の合理的期待との調整

  →実際に問題が顕在化し、その問題解決の必要性が高い場合には、当事者に契約改訂ないし 契約解消の再交渉義務を課しても著しく妥当性を欠くとはいえない。

 ②法規範としての実効性の確保

  →法解釈論のレベルで再交渉義務が認められるとしても、現行法では再交渉義務違反に対す る法的制裁を導くことが困難であることから、法規範としての実効性が確保できない。

  →しかし、再交渉義務は、再契約を強制するものではなく、再交渉義務に違反した者に対し てのみ不利益な契約が課されるという法的制裁に留まるので、借地権設定者の合理的期待 を一方的に奪うことなく、「私的自治の範囲内で契約調整」が図られるものであるから、

このような立法的介入であるならば、社会的に許容されるものであると考えられる。

  →現在、債権法改正中間試案で「事情変更の原則」の立法化が検討されているが、再交渉義 務はその延長線上に位置づけられるものであるから、立法化を行うことも不可能ではない と考えられるので、将来的に借地借家法の特別法として立法化されることが検討されてよ

(12)

いと考える。

【付記】本報告レジュメは、2013年2月26日に開催された共同研究「成年後見法制の実務的・理 論的検証研究会」での原稿を加筆修正したものである。本報告は、「分譲住宅・分譲マンション の定期借地権の再検討―存続期間満了時の契約調整の可能性―」(マンション学45号126-142頁)

として公表した。

参照

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