発達障害者への安全に配慮した実験実習指導の模索
○神田尚弘
**
津山工業高等専門学校 技術部 第二技術班 技術専門員
【
要旨】 現在,発達障害またはそれが疑われる学生が増加している.実験実習には危険を伴うものが多いが,特性に配慮し,安全に作業を行わせる必要がある.そのためには指導者側が発達障害に対してある程度の知識 を持つことが必要である.そのために,技術職員向けのマニュアルの作成や安全教育用のビデオの制作を行っ た.実際の実験実習の現場では,該当学生への対応方法について議論がされているところである.
1.概要
現在,学生の多様化と共に「発達障害」がク ローズアップされてきている.「落ち着きがな い」「うまく会話ができない」等の学生は昔か ら存在したが,それが「発達障害」であり,特 別な配慮が必要であることがわかってきた.ま た,こういった学生が近年明らかに増加してい る.
平成16年に発達障害者支援法が制定され,
第八条二項において「大学及び高等専門学校は,
個々の発達障害者の特性に応じ,適切な教育上 の配慮をするものとする.」とされており,法 的にも適切な対応が義務づけられている.また,
平成28年4月施行の障害者差別解消法でも 差別の禁止や合理的配慮を行う必要があるこ とが明記されている.
工作機械や様々な実験装置を扱う実験実習 授業においては,作業に危険を伴うものが大変 多く,発達障害またはそれが疑われる学生に対 しては,座学以上に適切な対応が必要である.
発表者は平成23年ごろより,この「発達障 害」に対する知識を深め,適切な実験実習指導 について模索し,また他の技術職員へもある程 度以上の知識を持ってもらうための方法を検 討・実施してきた.
2.発達障害かもしれない学生
実験実習指導を行っている際,少数ではある が「違和感」を感じる学生がいる.「そわそわ してじっとしていられない」とか「説明しても 聞いているようで聞いていない」「視線が合わ
ない」「こだわりが強く,言うことをなかなか 聞かない」など,言葉にすればどこにでもいそ うだけれども,うまく説明できないが何か「違 和感」のある学生である.こういった,我々が
「違和感」を持ってしまう学生は,もしかした ら発達障害かもしれない.
3.発達障害とその種類
発達障害とは,何らかの理由で,脳の発達が 通常と異なることにより社会性やコミュニケ ーションなどに障害が生じているもののこと である.知的障害を伴わないものは,学力も低 くない.その問題行動は,基本的に本人のやる 気や育った環境のせいではない.その種類には 広汎性発達障害(高機能自閉症・アスペルガー 症候群など),注意欠如・多動性障害(ADH D) ,学習障害(LD)などがある.
図-1 のように,定型発達者から発達障害者ま では連続(スペクトラム)しており,どこから が障害とはっきり定義できてはいない.
図-1 発達障害についての考え方
定型発達 発達障害
普通 個性的
奇異
─ 14 ─ ─ 15 ─
また,複数の発達障害が重複している場合も 多く,簡単に判別できるものではない.
発達障害を持った学生は,考え方やものの理 解の仕方が独特であるため,通常の指導や注意 ではうまくいかないことも多い.遠回しな言い 方では伝わらなかったり,一度に多くの指示を 出すと混乱したりする.座学ではまじめで優秀 な学生が,実験実習では理解が遅く,説明した ことがなかなかできないといったこともめず らしくない.
4.マニュアルの作成
我々技術職員は,発達障害やそれが疑われる 学生に対しても,安全を考慮しながら技術指導 を行なっていかなければならない.そのために はこの「発達障害」に対してある程度の知識を 持つ必要がある.そこで,障害の基本的な知識 や,具体的な事例・実験実習指導時の注意点な どをまとめた「発達障害者特別支援教育マニュ アル」を作成した.概要は以下の通りである.
Ⅰ.発達障害の基礎知識
Ⅱ.発達障害の種類と特徴
Ⅲ.合併症・二次障害
Ⅳ.特別支援教育とは
Ⅴ.発達障害への行政の対応
Ⅵ.事例集 Ⅶ.雑学
Ⅷ.発達障害学生への対応
5.勉強会の開催
この「発達障害者特別支援教育マニュアル」
を用いて,本校技術部で勉強会を開催した.そ こで,発達障害についての学習をすると同時に,
様々な事例を挙げながら意見交換を行った.
図-2 発達障害者特別支援教育マニュアル
6.教育用ビデオ制作
発達障害者は,想像力の弱さから言葉での説 明では理解が難しく,絵・画像・映像を用いる ことが有効とされている.そこで,旋盤やフラ イス盤・卓上ボール盤での作業をビデオ撮影し して安全教育に使用した.ただし,画像・映像 も背景にいらないものがあるとそちらに気を 取られるので,図-3 のようにパーティション等 を用いてなるべく他の物が写り込まないよう にした.このビデオは一般学生にも有効である.
7.実際の実験実習での問題
発達障害の診断を受けている学生の多くは,
入学時の調査書で様々な特性が記入してある そうであるが,特別支援関係組織(本校では総 合支援センター)の見解としては,実際どの程 度の配慮を必要としているのかはやってみな いとわからないとのことである.一方,実験実 習指導を行っている立場としては,事前に配慮 の方法を示してもらわなければ,事故を防ぐの は困難であるとの考えが大勢である.そこに,
総合支援センターと現場との不協和があるよ うに考えられる.
8.おわりに
発達障害者への配慮は当然行われるべきで あり,かかわるすべての関係者がある程度以上 の知識を持ち,理解を示す必要がある.そのた めには,発達障害について積極的に学習してい く必要がある.これは学生教育の一端を担う 我々技術職員には避けて通れない課題である.
なお,本研究は日本学術振興会 平成23年 度科学研究費補助金(奨励研究)の助成を受け,
研究を開始し,現在に至る.
図-3 普通旋盤(背景による違い)
─ 16 ─ ─ 17 ─