「南」の思想―Blue & Black Note―
著者 勝俣 誠
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
巻 17
ページ 101‑105
発行年 2014‑10‑01
その他のタイトル My Last Lecture at Shirokane Campus: "Thought of the South ―Blue & Black Note"
URL http://hdl.handle.net/10723/2163
2014年3月23日(日)、勝俣 誠国際学部教授の最終講義が行われた。同講義は白金キャンパス1201教室で行 われ、遠方からも多くの方が駆けつけ200名超が聴講した。
明治学院大学 勝俣 誠教授 退任記念 最終講義「ありがとう、コクサイ」
主催:勝俣ゼミおよび周辺一同 後援:明治学院大学国際学部 :明治学院大学国際平和研究所
【日時】2014年3月23日(日)
第一部 講義&パネルディスカッション:15:30-17:40 第二部 懇親会:18:00-20:00
【会場】明治学院大学白金キャンパス
第一部:本館2階1201教室 第二部:本館10階大会議室
【プログラム】総合司会:蝶谷 綾子さん 15:30-16:30 最終講義
『「南」の思想-国際学の輪郭』
勝俣 誠さん(明治学院大学国際学部教授)
16:30-16:40 コーヒーブレイク 16:40-17:40 パネルディスカッション
「コクサイで学んだことの豊かさ-ゼミOB・OGからの報告-」
パネリスト:竹中 佳生子さん(丸共味噌醤油醸造女将)
コーディネーター:小口 広太さん(日本農業経営大学校専任講師)
コメント:勝俣 誠さん
18:00-20:00 懇親会
【登壇者プロフィール】
勝俣 誠さん
1946 年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、パリ第一大学博士課程修了(開発経済学博 士)。ダカール大学法経学部、モントリオール大学客員教員等を経て、現職。専門は国際政 治経済学、アフリカ地域研究。主な著書は「現代アフリカ入門」(岩波新書)、「アフリカは 本当に貧しいのか-西アフリカで考えたこと-」(朝日選書)、「グローバル化と人間の安全 保障-行動する市民社会-」(編著、日本経済評論社)、「脱成長の道-分かち合いの社会を 創る-」(共編著、コモンズ)、「新・現代アフリカ入門-人々が変える大陸-」(岩波新書)
など。
竹中 佳生子さん
高知県須崎市生まれ。10年前にUターンし、須崎の醤油屋で4代目女将として日々奮闘中。
中高短大と女子校で過ごしたことに気づき、四大への編入学を目指したときには既に、勝俣 ゼミに入ることしか考えていなかった。明治学院大学 97K のゼミ生。ガーナでの校外実習 が人生観の岐路である。出逢いは必然と信じている。
木全 史さん
原点は、ゼミでの田んぼ体験です。OL を経て、エコロジーショップに転職。有機野菜の販 売をする傍ら、自身でも野菜づくりを始める。その後、有機農家に師事、三年の修行の後、
夫婦で筑波山麓へ移住。現在、石油資源や畜糞に頼らないエコロジカルでピースフルな農業 に奮闘中。ベジタリアンです。
大津 祐嗣さん
1973年生まれ。1998年、ナイロビ大学人文学部卒業。2007年、明治学院大学大学院国際学 研究科博士前期過程修了。2000 年より、NGO のブリッジエーシアジャパンで、ミャンマー、
ベトナム、スリランカ等での支援活動に従事。2013 年からは、日本財団でミャンマー少数 民族支援・平和構築支援を行っている。
小口 広太さん
1983 年生まれ。明治学院大学に学部、大学院と足かけ 7 年間お世話になった後、明治大学 大学院博士課程を経て現職。専門は農村社会学、有機農業研究。研究の傍ら、長野県塩尻市 で小さな有機農業を家族で営んでいる。
「南」の思想 ―
Blue & Black Note―
“Potente e giovanile anche nella morte”白金さよなら授業2014年3月23日
勝 俣 誠 “国際学の輪郭”
1.ヨコハマに戻った1988年
私が明治学院大学の国際学部に着任したのは 1988 年でした。国際学部が新設された横浜キャ ンパスという名がとても気に入っていました。
なぜなら、私は幼年期からヨコハマは何か新しい行ったことのない遠い世界への想像力をかき 立てる地名だったからです。
2.オキナワから ― 私が出会った「南」の人々
「南」の思想として捉えようと思ったのはここ数年ですが、「南」、より正確には「南の人々」
に出会ったのはいつでしょうか。
まずはオキナワから考えたいと思います。というのは 1988 年にヨコハマ・キャンパスに着任 して、初めての校外実習はオキナワだったからです。
この島々は、私が国際学部で出会った最初の「南」でした。確かに私は以前に「南」にこだわ っていましたが、この学部で改めて日本ないし本土に最も近い「南」を考えることになりました。
中国研究者の竹内好の有名な言葉を引用しておきましょう。「自分の方に問題なく、ただ行っ たって何も見えるものではない。(・・・)ご馳走になって良い気持ちになったかも知れないけ ど、それで中国を見たとは言えない。なぜ見えないかというと、自分に問題がないからです。」
オキナワをどう自分の問題としてより深く提起できるのか。私はいつもオキナワだけでなく、
「南」の地域を訪ね、人々と話し合うなかで考えてきました。
それは、一つは「北」の自分が知らず知らずのうちに身につけてきた外皮を剥がしていくこと だと今思っています。「南」の地域で起きてしまったこと、遣ってしまったことと向き合おうと することです。
一つの事例。このシマジマの海のブルー、空のブルー。これを見つめるのです。このブルーが 真っ黒になるくらいまで深く見つめようとすることです。その時、ブルーはブルーだが、ブルー でなくなるのです。この海、この空のもとで己ならざるものの因果で死んだ人々の記憶と少しで も向かい合うことが出来る世界の発見です。
3.絶望から希望が ― 逃亡奴隷の歌
Afro-son のジャンルで、Bruca Managuá というタイトルで、今は亡きキューバン・アフリカン のイブラヒマ・フェレールです。西アフリカのギニア湾から裸のまま強制連行され、キューバ島 の砂糖プランテーションでドレイとして働かされるアフリカ人のストーリーです。彼は海から逃 げるには船が必要となるので、山に向かって逃げまくります。山にこそ自由という答えがあると 歌っています。
4.「要らない」というガンディーの思想
では3人の「南」の思想家から「南」を考えてみましょう。まずは、インドの独立の父と言わ れるマハトマ・ガンディー(1869-1948)の思想です。
「君たち欲しいだろう」という物欲文明に対し「いいえ、それは私たちの欲しいモノやコトで はありません。今で充分です。それが自分たちの生き方だし、豊かさの源泉です。」という異次 元の世界をガンディーは明快なコトバと行動で全世界に示しました。
5.抑圧者の救済 ― マンデラの「南」の思想
もう一つの「南」の思想の原点として、今度は、2013年12月に他界したネルソン・ホリシャ シャ・マンデラの思想について語らなければなりません。マンデラのこの加害者・抑圧者救済の 思想は、これまた、自分たちの人間の尊厳を数世紀にわたり踏みにじってきた加害者を救済の対 象とする人間に対する深い信頼の上に立っています。差別と抑圧を当然視する白人を人間に引き 戻してあげ、誰もが平等に暮らせる南アフリカにする、これがマンデラの夢であり、牢屋から 1990年2月17日以降、彼がはっきりと世界に訴えたことでした。
6.アルジェリア人になった黒人奴隷の末裔 ファノン ― 普遍性はともっとも抑圧されている 人々の存在の認知とその尊厳への戦いからしか生まれない。
ファノンの思想の核心は、たまたま生まれついた肌の黒さに人間発見の根拠を求めなかったこ とです。「健常者の、健常者による、健常者のための世界」という大数的世界ではなく、何より もまず、現代世界でもっとも居場所や尊厳を奪われた人々の声に耳を傾けろ、というメッセージ です。その被抑圧者の身体を発見し、どうしたらこれらの人々と共に歩めるのかを考えることに よって初めて、人間を普遍性の名において語れるのだと、彼は死の直前の病床で叫びました。最 後の作品「地に呪われたる者」とはまさに、この人間の普遍性を発見するための道程において私 たちの前に立ち現れ、闖入してくる人々である。(他者に出会うとは自分の都合でない:Levinas)
7.「南」とは未完の「北」ではない。世界を自然と小さき人々に返す。
だが、また「南」の思想にはまだまだやり残しがあります。それは「南」からもう一度人間の 世界を回復する知的作業です。「南」は明日の「北」ではありません。
世界を自然とそこでくらす小さき人々に返すことはできるのでしょうか?
「南」の思想への作業は続きます。今言えること: ボクたちは権力を取らずして世界を変え ることができるかもしれない。しかし、今の生活スタイルを変えることなしには世界は変えられ ないだろう。
<参考文献>
-石垣金星、勝俣誠などが寄稿、『「沖縄問題」とは何か、「琉球処分」から基地問題まで』、藤原書店、2011年
-屋嘉比収、『<近代沖縄>の知識人 島袋全発の軌跡』、吉川弘文館、2010年
-M.K. ガンディー、Mohandas Karamchand Gandhi、田中 敏雄 訳、『真の独立への道―ヒンド・スワラージ』 岩波文庫
-マンデラの思想については「ただ、Ubuntuのために―マンデラと南アフリカの長い道のり」、津山直子+勝俣誠、
対談、『現代思想』3月臨時増刊号、青土社、2014年
-フランツ・ファノン、/鈴木道彦・浦野衣子訳『地に呪われたる者』 みすず書房、1968年
-ファノンの『知に呪われたる者』の勝俣誠の解説は、『平和を考えるための100冊+α』、法律文化社、2013年
<勝俣 誠 関連著書その他>
・勝俣誠『新・現代アフリカ入門―人々が変える大陸』(岩波新書)、2013年。
・『飢餓を考えるヒント』、2009年以来毎年発行、No. 1~No. 5 http://www.worldfoodday-japan.net/join/download/
・勝俣誠「『国際学』入門オススメ6冊」、『国際学研究』41号、明治学院大学国際学研究会、2012年。
http://repository.meijigakuin.ac.jp/dspace/handle/10723/1139
・勝俣誠『現代アフリカ入門』(岩波新書)、1992年。
―『アフリカは本当に貧しいのか』(朝日選書)、1993年。
朝日新聞出版、デジタルパブリッシングサービス、オンデマンド版
―『グローバル化と人間の安全保障』(編著、日本経済評論社)、2001年。
―『脱成長の道-分かち合い社会を創る』(共編著、コモンズ)、2013年。
<参考画像>
最終講義で使用したアフリカのマッチ箱のデザイン