ものづくりを支える人材をめぐる現状についてみる と、景気が持ち直してきているものの、雇用情勢は依然 として厳しい状況ある。また、製造業への新規学卒入 職者数は過去最低であった 2003 年と比べると増加して きているが、1990 年代初頭の半数程度の水準にあり、 就業者の高齢化の進展も続いている。こうした中にあっ て、我が国製造業は、今後とも雇用を創出していく役割 を期待されている。そのため、いくつかの解決すべき課 題がある。 本節においては、雇用情勢と雇用対策、雇用・就業者 の年齢構成の変化や賃金・労働時間・労働災害の状況な どを概観する。
(
1)労働市場の動向
完全失業率(季節調整値)は、2009 年7月に 5.6% と過去最高を記録した後、徐々に低下し、2010 年3月 には 5.0%となっている。また、有効求人倍率(季節調 整値)は、2009 年8月には 0.42 倍と過去最低を記録 した後、2010 年3月には 0.49 倍に上昇するなど雇用 情勢は持ち直しの動きが見られるものの、依然として低 い状況にある(図 121-1)。ものづくり労働者の雇用・労働の現状
第
2
節
雇用情勢と雇用対策
1
資料:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」図 121-1完全失業率及び有効求人倍率の推移(季節調整値)
全産業の新規求人数は、2001 年末以降の増加傾向か ら、2006 年中頃以降は減少に転じているが、2009 年 6 月以降は緩やかに反転しつつある(図 121-2)。製造 業における新規求人数はこのところ緩やかに増加してい る(図 121-3)。第2節
ものづくり労働者の雇用・労働の現状
職業別に有効求人倍率をみると、2009 年はサービス の職業、専門的・技術的職業、運輸・通信の職業等の職 業で低下が顕著であった(図 121-4)。また、生産工程・ 労務の職業の内訳をみると、2008 年後半以降の低下が 顕著であった職業を中心にこのところ緩やかに上昇して いる(図 121-5)。 備考:新規学卒者を除きパートタイムを含む。 資料:厚生労働省「職業安定業務統計」図 121-3製造業における新規求人数の推移(2007 年 10 月= 100、原数値)
備考:新規学卒者を除きパートタイムを含む。 資料:厚生労働省「職業安定業務統計」図 121-2全産業における新規求人数の推移(季節調整値)
備考:新規学卒者を除きパートタイムを含む。 資料:厚生労働省「職業安定業務統計」
図 121-4職業別有効求人倍率の推移
図 121-5生産工程・労務の職業の有効求人倍率の推移(原数値)
備考:新規学卒者を除きパートタイムを含む。 資料:厚生労働省「職業安定業務統計」第2節
ものづくり労働者の雇用・労働の現状
図 121-6雇用人員判断 D.I. の推移
図 121-7雇用調整実施事業所割合の推移
備考:2004 年 3 月調査より調査対象企業の見直し等が行われたため、数値は接続しない。 資料:日本銀行「全国短期経済観測調査」 資料:厚生労働省「労働経済動向調査」 (2009 年 10 ~ 12 月期の製造業における雇用調整の方法(複数回答、単位は%)) 計 雇用調整実施 (実施したまた は予定がある) 雇 用 調 整 の 方 法 残業 規制 休日の振 替、夏季 休暇等の 休日・休 暇の増加 中途採用 の削減・ 停止 配置 転換 一時休業 (一時帰 休) 出 向 臨時、 パートタイム 労働者の再契 約停止・解雇 希望退職者の 募集、解雇 100 55 37 11 15 16 20 8 4 3(2)雇用調整の状況
雇用過不足感の推移をみると、2009 年前半に製造業 を中心に急速に高まった過剰感は、その後徐々に縮小し ている(図 121-6)。 何らかの雇用調整を実施した事業所の割合は 2009 年 第2四半期には5割に迫り、特に製造業においては7割 に達したが、その後減少傾向にある(図 121-7)。また、 雇用調整の内訳をみると、残業規制が最も多く、実施事 業所割合は 37% となっているが、一部で一時休業(一 時帰休)、臨時、パートタイム労働者の再契約停止・解 雇等のより厳しい雇用調整が実施されている。図 121-8雇用調整助成金等に係る休業等実施計画届け受理状況(速報値)
備考:2008 年 12 月分より中小企業緊急安定助成金(2008 年 12 月 1 日創設)の休業等実施計画届けの受理件数を含む。 資料:厚生労働省調べ 雇用調整助成金等の対象者数をみると、2008 年末 頃から急速に増加し始め、2009 年後半からは減少傾 向にあるものの依然として高い水準となっている(図 121-8)。(3)厳しい雇用情勢への対策
既にみたように、景気は持ち直しきているものの、企 業を巡る環境は厳しく、解雇等の雇用調整の事例もみら れるなど、雇用情勢も依然として厳しい。 このような状況等を踏まえ、政府として 2009 年 10 月に「緊急雇用対策」を、2009 年 12 月に「明日の安 心と成長のための緊急経済対策」を策定したところであ る。厚生労働省としての住宅・生活対策を含む雇用状況 の改善のための対策は次のとおりである(図 121-10)。 ①雇用維持・創出対策 (ア)…雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金の 要件緩和 …休業・教育訓練・出向による企業の雇用維持努力 への支援を強化するため、雇用調整助成金や中小 企業緊急雇用安定助成金の要件緩和(「生産量要 件」の追加)を実施。 (イ)…雇用保険を受給できない方を対象とした無料の職 業訓練の実施及び訓練期間中の訓練・生活支援給 付の支給(図 121-9)図 121-9緊急人材育成支援事業の概要
第2節
ものづくり労働者の雇用・労働の現状
※…[表の見方]…前内閣の対策との比較 ◎:新規施策、○:要件緩和・拡充等施策 ※…本文中の予算額は、平成 21 年度第2次補正予算案のもの図 121-10経済・雇用対策(雇用対策関係・概要)
(ウ)緊急雇用創造の拡充 成長分野を中心とした雇用創造を推進するため、介 護、医療、農林業、環境等成長分野として期待される分 野における雇用機会等の創出、地域ニーズに応じた人材 育成を推進。 ②貧困・困窮者支援の強化 (ア)「ワンストップ・サービス・デイ」の試行実施 … 求職中の貧困・困窮者が、再び「派遣村」を必 要とすることなく、安心して生活が送れるように するため、2009 年 11 月と 12 月の2度にわた る「ワンストップ・サービス・デイ」の試行実施。 (イ)「住居・生活支援アドバイザー」の設置 … 「住居・生活支援アドバイザー」を全国の主要 なハローワークに配置し第2のセーフティネット の各種支援制度についてのワンストップサービス を実施。 (ウ)「住まい対策」の拡充 … 「住宅手当」の継続支給や、空き社員寮等の借 上げによる「緊急一時宿泊施設」の設置等の継続 的支援等。 ③新規学校卒業者支援の強化 (ア)「高卒・大卒就職ジョブサポーター」の倍増配備 … ハローワークに就職支援の専門職である「高 卒・大卒就職ジョブサポーター」を倍増配備する 等、就職支援を実施。 (イ)新卒者体験雇用事業の創設 … 未就職卒業者の体験雇用を受け入れる企業に助 成する制度を創設。 (ウ)…「未就職卒業者向け」職業訓練の実施及び訓練・生 活支援給付の拡充世界経済が混迷する中、景気に持ち直しの動きが見られるものの、我が国産業における雇用情勢は厳しい状 況が継続している。このような環境下にあって、中堅・中小企業の中には、むしろ今を人材確保のチャンスと とらえ、更なる競争力向上に向けて、採用に積極的な企業も少なくはない。 経済産業省は、農林水産省、厚生労働省及び各種機関と連携し、ものづくりやサービス業、農業等の分野に おいて、採用意欲があり、かつ人材育成に力を入れている企業について 1,417 社を選定の上、2009 年2月に「雇 用創出企業 1,400 社」として公表し、全国の学校、ハローワーク、ジョブカフェなどの機関に配布するとともに、 ホームページ上でも紹介した。この「雇用創出企業 1,400 社」について、公表後の採用状況を把握するため、 フォローアップ調査を実施(2009 年7月)したところ、中小企業を中心とした 637 社に、約 7,000 人(うち、 中途採用者約 2,000 人)の採用が行われており、多数の企業において今後も採用を予定していくという前向 きな姿勢を示していることが把握された。 さらに、2009 年 12 月に取りまとめられた「明日の安心と成長のための緊急経済対策」を踏まえ、引き続 き厳しい求人情勢が見込まれる新卒予定の学生・生徒の就職支援等を目的として、「雇用創出企業」の新たな リストを作成した。2010 年1月には、これら雇用創出企業 1,443 社の魅力を発信するためのウェブサイトを 公表し、雇用のミスマッチの解消を図った。 また、経済産業省において、全国の求職者、学生を対象に、ものづくりや農業、介護サービスといった雇用 ミスマッチの生じている個別産業の魅力に触れる機会を提供することで、雇用の促進を目指す取組として、「地 域魅力発見バスツアー(ちいバス)」を実施している。この取組においては、地域において活躍している企業 の魅力を発見するため、1日のものから最大5泊のものまで多様なプログラムを組み、働く現場を参加者自身 の目で見たり、直接経営者の話を聞くことができるのが特徴となっている。ツアー参加者が実際に訪問した企 業への就職が決まった例もあり、求職者と採用意欲のある企業の出会いの場となっている。 ホームページ:http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/kigyogaiyosyu.html