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勝俣誠『娘と話す 世界の貧困と格差ってなに?』 (2016 現代企画室)

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勝俣誠『娘と話す 世界の貧困と格差ってなに?』

(2016 現代企画室)

著者 孫 占坤

雑誌名 PRIME = プライム

巻 41

ページ 91‑93

発行年 2018‑03‑31

その他のタイトル KATSUMATA, Makoto, What is World Poverty and

Disparities?: Dialogue between Father and his

Daughter, Gendaikikakushitsu, November 2016

URL http://hdl.handle.net/10723/00003384

(2)

―91― 書評

勝俣誠

『娘と話す 

世界の貧困と格差

ってなに?』

(2016 現代企画室)

孫   占 坤

(PRIME 所員)

本書の内容はごくかいつまんで言うならば、書 名の大文字で表わされる通り、今日の国際社会が 直面する貧困や格差問題の原因、背景、また問題 への取り組みについて語る一冊である。しかし、

その語り方はユニークである。本書は現代企画室 出版社の「子どもと話すシリーズ」の一冊として、

単なる著者の「学問論」ではなく、貧困と格差と いった深刻なテーマについて「高校生の娘」との

「対話」を通して書かれた分かりやすい書となっ ている。著者は、国際政治経済学、アフリカ地域 研究、平和研究などの分野をはじめ、多くの学問 領域や社会的イッシューに対して積極的に発信、

発言をしてこられた大変パワフルな研究者であ り、明治学院大学国際学部に長らく勤務した後、

現在、「半農半読」の日々を送られている(本書 最後の「著者紹介」参照)。

本書の内容は大きく分けると二部構成となって いる。貧困、格差を語る「本体部分」は「はじめ に」から「最終章」まで計11章で構成され、「資 料部分」は(三つの)「掲示板」や「付録」、「参 考資料」などで構成されている。「本体部分」で の著者の考えについては、以下でより詳細に紹介 させていただくが、その前に、本書の「資料部分」

の内容も大変ユニークで、貴重であるので、先に 簡潔に紹介する。

まず、本書最後の「参考資料」として、チャッ

プリンの「独裁者」(1940年)のラストシーンの 演説の一部の英語オリジナル版と日本語訳が掲載 されているほか、日本国憲法前文についても日本 語、英語だけではなく、中国語、アラビア語の訳 まで掲載されている。これらの資料は本書の「本 体部分」を読む時だけではなく、独立した資料と して使用するのも良いであろう。それから、本書 には(三つの)「掲示板」が掲げられており、そ こには、日本に長期ホームステイしたアフリカの 高校生による日本・アフリカ比較、アフリカの青 年が参加した欧州の貧困撲滅会議の感想、更に本 書のもう一人の主役である高校生「F子」による 3 ・11当日の記録や、彼女と同級生が 5 年も経過 した後の原発など現代テクノロジーに対して抱い た疑問が掲載されている。これらの「掲示板」は、

本書「本体部分」の内容を理解する際に参考にな るだけではなく、「アフリカ地域研究」の教材、

または日本・アフリカ若者比較論の素材としても 有意義であろうと考える。

以下、本書の「本体部分」を中心に紹介し、最 後に若干の感想を申し上げ、評者としての務めを 果たしたい。

貧困・格差問題発生の歴史的、グローバルな文脈 本書において、著者はまず世界の貧困、格差問 題の歴史的、グローバルな発生、展開を分かりや

(3)

―92― 勝俣誠『娘と話す 世界の貧困と格差ってなに?』

すく説明している。著者によれば、今日の世界レ ベルの貧困、格差のルーツは過去の日本を含めた

「北」側の国にあった「植民地モンダイ」に遡る。

この「モンダイ」は第二次世界大戦後の非植民地 化運動を通じた「南」側の政治的独立の達成によっ て、「北」側各国の「内政問題」から「南北問題」

という「国際問題」へ浮上することになったので ある。植民地支配時代に作り出された貧困と差別 をなくすことの本質は、「人間の尊厳」をどのよ うに確保するのか、ということである。著者はこ のような世界史的な、グローバルなパースペク ティブを持ちつつ、中国やインドなど近年の発展 途上国の勢いに対しても決して目を背けていな い。中国は既に世界第二の経済大国となっており、

同国やインドなども「南」へ援助しているといっ た状況を考えると、著者も今日、「南」が既に多 様化し、「南」と「北」の区分がある意味で曖昧 になっていることを認めている。しかし、今日の

「地球規模の格差」を考える場合、「南北格差」と 呼ぶ以外にリアルな「コトバ」がなく、やはり「南」

という区分を大切にする必要があると著者は強調 する。

貧困・格差問題への取り組み方

上記のような歴史的、グローバルな捉え方の下 で、いかに貧困・格差問題に取り組むかについて、

著者は「本体部分」の半分以上の章を使い、丁寧 に説明している。著者曰く、貧困や格差を考える 場合、それを生む「仕組み」を考えることは大事 である。なぜ、同じ地球の中でこれだけ不平等が 生じるのかという疑問を抱くことと、その不平等 をどのようになくしていくのかという取り組みを 考えることの両方が大事であると。これらをこな すため、まず、様々な現象や問題領域を「つなげ て考える」ことが重要である。というのは、その ような方法の下、はじめて問題の「意味」が見え てくるからである。その上で、不平等をなくすた

めの具体的戦略として、著者は「南」側の国が自 国の経済発展に見合うような国際ルールの確立 と、そのための「南南協力」が重要であると強調 する。

このような基本的な見方を示した後、著者は貧 困・格差問題を考える上で特に重要と思われる幾 つかの問題、即ち、資源問題、金融ビジネス、税 金、国際協力・国際貢献、食問題について更に切 り込んでいく。まず、著者は資源をめぐる争いが、

今日、「南」側の貧困・格差をより深刻化させる 重要な原因の一つであると指摘し、これを解決す るために次の二点の重要性を強調する。一つは、

「北」側の市民団体や自由なメディアの監視など の協力も含め、「南」側における民主的政府や公 正で、透明なチェック体制の確立が不可欠である。

同時に、大量に手に入れなくても立派に生きてい けるという省資源型の生活スタイルを見つけるこ とが必要である。

続いて、著者は貧困・格差を考える上で、もう 一つの重要な現象である金融ビジネスの意義と問 題点を指摘する。今日、株価の変動や操作も大き な格差を作り出す要因になっているが、株が決し て経済全体の良し悪しを説明することにならない と著者は警告し、「人びとが生活するためのモノ やサービスの提供」という本来の経済学の大切さ を強調する。そこで、著者はアメリカの経済学が 強調しがちである「損得勘定」や「フリーランチ」

といった概念を批判し、社会における「あげるこ と」、「もらうこと」、「お返しすること」の大切さ、

また、お金を使わなくても投票という権利を使っ て、世の中の仕組みを変えられることの重要さを 強調している。金融ビジネスに続いて、著者は税 金制度の重要さを強調する。著者曰く、市場は競 争を通して勝ち組と負け組を生むが、税金は互い を引き離すのではなく、むしろ接着剤のような役 割を果たす。著者は市場と社会の違いという明確 な認識の下、税金制度の活用、例えば、国際連帯

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―93―

勝俣誠『娘と話す 世界の貧困と格差ってなに?』

税のような形による地球規模の貧困・格差問題の 解決に示唆を示している。

資源、金融、税金といった「経済的」ファクター を論じた後、著者は地球規模の貧困・格差撲滅に おける「国際協力・国際貢献」の意義を説き、特 に次の二点を強調している。一つは、国際協力・

国際貢献は戦争をしない世界をつくる強力な手段 の一つであり、本質的に日本国憲法が表明してい る「不戦」の理念と合致し、かつそれを具体的に 実践していくことである。同時に、それは、「北」

側の人々が地球に負担をかけないよう、より質素 な生活スタイルを形成していくこと、いわば、「進 歩に継ぐ進歩」という近代的生き方、それ自体を 改めることでもある。

この「絶えず進歩、際限なく便利」さを追求す る、という近代的な生き方を改める具体的領域と して、著者は最後に「食」問題に切り込んでいる。

著者は食問題の改善を通じて、貧困・格差問題を 解決していく重要性を説いているが、その指摘は、

貧困・格差問題を超え、「近代批判の哲学」を示 唆するものでもあるように思える。著者によれば、

今日、コンビニの普及によって台所で調理する必 要がなくなり、人々は火や包丁との接触がなくな り、果ては家族が一緒に食事を取る機会が少なく なった。これは単なる「食べる」ことの危機では なく、「リアルなソーシャル・ネットワークの確 認の機会」の消失を意味するものである。かかる 認識の下、著者は食料が普通の商品ではなく、国 全体の「生命財」であると捉え、グローバル化に なじむのか、との疑問を呈している。食の持つこ のような重要性を踏まえ、著者は、飢えが常に戦 争とつながっていたという世界史から、「南」側 にとって耕す者に農地を与えることと国規模の地 産地消を実現することの重要性を力説し、そのた めに「北」の国やNGO、また国際機関の技術や 資金サポートの必要性を強調して、本書をしめく くっている。

評者の若干の意見

以上は本書に対する大まかな紹介であるが、最 後に、若干評者の感想を述べておきたい。

まず、本書は難解な経済学などの用語を使わず、

高校生などの若者達が理解できるやさしい言葉で 語っているが、問題に対する指摘の深さ、鋭さは 少しも鈍っていない。本書は書名の表わす通り、

世界の貧困・格差について論じた一冊だが、全編 を通読して、著者の着眼点が貧困・格差に留まら ず、より根源的、哲学的であり、いわば「近代批 判の哲学」を提示したようにも思える。このよう な読みやすい「哲学の書」は高校生だけではなく、

大学の「基礎演習」や「基礎ゼミナール」にとっ ても大変適切な教材の一冊であると思う。

上記の通り、評者は本書を高く評価しつつ、次 の二点において、著者の考えを更に聞きたい。第 一に、本書は貧困・格差を扱う一冊であり、その 意味で「経済」について議論しているが、(中東 やアフリカなど)近年の破綻国家(failed state)

状態について、国際社会はどのような役割が果た せるのか。いわば、「安全保障」領域、また「人 間の安全保障」というファクターをも同次元・同 時進行状態として考えた場合、どのような貧困・

格差問題論が展開可能なのか。第二に、言うまで もなく、貧困・格差問題は単なる「モノ」や「お 金」の問題ではなく、環境問題や人権・差別問題、

文化など、様々な社会的イッシューとも複雑に絡 む複合的なテーマである。恐らく現代企画室の全 体の企画との関係で、本書では省いているのだろ うが、「貧困・格差と環境」や「貧困・格差と人権」、

「貧困・格差と文化」などについても著者の意見 を詳しく聞きたい(確かに、シリーズの一冊とし て、池内了『娘と話す 地球環境問題ってなに?』

などがある)。これらのイッシューを貧困・格差 問題とどのように「つなげて考える」のか、今後、

著者の更なる一冊を待ちたい。

参照

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