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ポルトガル語とスペイン語における 指示詞の対照研究

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(1)

ポルトガル語とスペイン語における 指示詞の対照研究

言 語 教 育 的 観 点 か ら

柿 原 武 史

1.

はじめに

ポルトガル語とスペイン語はラテン語を起源とするロマンス語であるため、

文法や語彙において類似点が多い。そのため、スペイン語を学習した者が新た にポルトガル語を学習する場合や、反対にポルトガル語の知識を習得した者が 新たにスペイン語を学習する場合、既習言語の知識を応用できるため、比較的 容易に入門できるといわれている。しかし、実際に学習を始めると、文法に関 しては類似点が多いものの、発音や日常生活レベルで用いる表現が異なるなど、

入門期に直面する問題点が多いことに気付かされる。例えば、語彙に関しては、

全く同じ語や形態が酷似した語がポルトガル語とスペイン語でそれぞれ異なる 意味で用いられる場合があり、一方の言語の知識を有する学習者はかえって混 乱することがある。このように複数の言語間で形態が酷似しているにもかかわ らず意味的な差異を有する語は「偽りの友(falsos amigos)」と呼ばれている。

本稿では、ポルトガル語かスペイン語のいずれかの言語を先に学習した者が、

新たにもう一方の言語を学習する際に注意すべき項目として、指示詞を取り上

福岡大学人文学部外国語講師

(2)

げ、それぞれの言語における使われ方の違いについて考察する。そして、指示 詞を「偽りの友(falsos amigos)」の一種として捉えることにより、学習者に 注意を喚起することを目的とする。

2.

ポルトガル語とスペイン語の「偽りの友(falsos amigos)

Sabino(2006)によると、「偽りの友(falsos amigos/faux-amis)」という用

語を初めて使用したのは

Koessler y Derocquigny(1928) であり、 一般的に

「偽りの友(falsos amigos)」と呼ばれるものには「偽同族語(falsos cognados)」

と「欺瞞的同族語(cognados enga osos)」があるという。

Sabino(2006)の定義によると、「偽同族語(falsos cognados)」は 2

つ以上 の言語間に存在し、異なる語源から派生したものの、音声変化の過程で同一ま たは類似した発音や綴りになっている一連の語彙のことである。例えば、英語

bravo

という語はイタリア語から入った語彙であるが「よくやった、いいぞ」

という意味で用いられる。これに対し、ポルトガル語やスペイン語では

bravo

は「勇敢な、荒々しい」という意味である1。これは、ラテン語の

barbaru

から 派生したものである(256)。一方、「欺瞞的同義語(cognados enga osos)」は、

2

つ以上の言語間に存在し、同じ語源から派生し、形態上は同じまたは類似形 になっているが、発展過程で異なる意味を持つに至った一連の語彙のことであ る。例えば、英語の

fabric

とポルトガル語やスペイン語の

f brica

はいずれも ラテン語の

fabrica

から派生したものである。しかし、英語の

fabric

は「布地、

織物」という意味であるのに対し、f bricaはポルトガル語やスペイン語では

「工場」という意味である(256)

「偽りの友」や「偽同族語」、「欺瞞的同族語」という用語は明確に区別され ずに使われることが多く、 研究者の間でも混乱がみられる。 例えば

R nai

(1983)は「偽同族語」という語を同一の語源に基づいたものとして定義して

1 イタリア語からの影響で「よくやった、いいぞ」という意味もある。

(3)

いるのに対し、Xantara e Oliveira(1995)は、共通の語源を持つものも、持た ないものも同様に「偽同族語」として定義している。

スペイン語とポルトガル語における「偽りの友(falsos amigos)」として有 名なものは、 スペイン語の

embarazada「妊娠している」 とポルトガル語の

embara ada「混乱した」、スペイン語の borracha「酒に酔った」とポルトガル

語の

borracha「ゴム」、スペイン語の exquisito「上品な、美味な」とポルトガ

ル語の

esquisito「変な、奇妙な」などがある。しかし、Humbl

(2006)が指

摘するように、このようなわかりやすい例のみを提示し、矮小化した見方をす ることで、 より微妙で重要な問題が隠れてしまう危険性がある。 また、

Humbl

(2006)は、「偽りの友」に関するサイト2や辞書も多数存在するが、

いずれも「間違えやすいものは、同様の形を有するが意味が異なる単語のみで あるという出発点に立っている点で批判の余地がある」 と指摘している。

Humbl

(2006)はブラジル人のスペイン語学習者について論じているが、彼

らが学習する際に本当に困難な「偽りの友」は両言語において同様の音、綴り、

意味を有するが、異なった使われ方をするものであると指摘し、いくつかの例 を挙げて考察している3。これは、いずれかの言語を先に習得し、新たにもう一 方の言語を学ぼうとしている日本人学習者にも当てはまる指摘ではないだろうか。

本稿では、

Humbl

(2006)の指摘を受け、「偽りの友」の定義を拡大し、

「偽同族語」と「欺瞞的同族語」だけに限らず、複数言語に存在し、共通の語 源を有し、形態が酷似しており、同様の意味を有するにも関わらず、言語によっ て使われ方が異なる語彙についても含む用語として使用する。

2

Humbl

(2006)が紹介するサイトはすでに存在しないが、欧州委員会のスペイン語翻

訳部局が作成したポルトガル語とスペイン語の

falsos cognados

の一覧表(Puntoycoma

1997, 2006)などがある。

3

aclarar

esclarecer、指示詞、l stima、 decir/hablar

dizer/falar

を例に挙げて考察し ている。

(4)

3.

本研究の対象

本研究では、前節で示した「偽りの友」の定義に従って、ポルトガル語とス ペイン語の両言語に存在する、共通の語源から派生し酷似した形態と意味を有 する語彙の一例として指示詞に焦点を当てる。それぞれの言語において同義語 と考えられている指示詞がどのように使われているのかを調査し、両言語間で 比較することにより、どのような差異があるのかを明らかにする。

3.1.

「偽りの友」としての指示詞

指示詞はこれまで「偽りの友」とは見なされず、それぞれの言語における同 義語として扱われてきた。Humbl (2006)は、スペイン語とポルトガル語の 指示詞の使われ方を比較すべく、コーパスによる調査を実施した4。この調査 の結果、スペイン語の方が全般的に指示詞を頻繁に使う傾向があることが明ら かになったという(201)。例えば、「これ/これら」に相当するスペイン語の 指示代名詞

ste, sta, stos, stas(以下 ste

系)はポルトガル語の同様の指 示代名詞5

15

倍多く出現し、「それ/それら」に相当する

se, sa, sos, sas

se

系)は

1.59

倍、「あれ/あれら」aqu l, aqu lla, aqu llos, aqu llas(aqu l 系)は

1.75

倍それぞれスペイン語の方が多く出現していたのである。特にス ペイン語において

ste

系の出現頻度が高く、ポルトガル語では「それ/それ ら」を意味する指示代名詞

esse

系が使われるような文脈においてもスペイン 語では

ste

系が使われていたことから、スペイン語では

este

系と

ese系

6の区 別が重要であると指摘している。そして、ポルトガル語では

este

系と

esse

4 スペイン語

1300

万語、同規模のポルトガル語新聞のコーパス+350万語の口語コーパ ス、検索エンジン

google

などにより調査。

5 ポルトガル語では、「これ/これら」に相当する指示代名詞は、este, esta, estes, estas、

「それ/それら」は

esse, essa, esses, essas、「あれ/あれら」は aquele, aquela, aqueles, aquelas

である。

6

Humbl

(2006) は

pronombre demostrativo

という用語を

1

度使っているが、 後は

demostrativo

のみを使用し、スペイン語の指示詞を表記する際、este, ese, aquelのように

アクセント符号を付けていないため、指示代名詞と指示形容詞の区別が明確でない。

(5)

はほぼ交換可能であり、esse系が頻繁に使われるとも指摘している7。これら を踏まえ、ポルトガル語話者のスペイン語学習者には「(ポルトガル語で

esse

系を使う場合でも)スペイン語では

ste

8を使わなければいけない場合があ る」(202)と教えるべきとの結論に達している。

ただし、Humbl (2006)が使用したコーパスはスペイン語とポルトガル語 で規模や性質が異なるため、同じ文脈で異なる指示詞が使用される場合にどの ような違いがあるのかは明確にはわからない。また、指示代名詞と指示形容詞 を明確に区別せずに論じている。本稿では、指示代名詞と指示形容詞の区分を 明確にした上で、同じ文脈での指示詞の用法にどのような差異が見られるのか を詳しく調査し、Humbl (2006)の指摘を検証してみたい。

3.2.

スペイン語とポルトガル語の辞書における指示詞の定義

本研究で対象とする「指示詞」とはポルトガル語では

demonstrativo、スペ

イン語では

demostrativo

である。『現代ポルトガル語辞典』(白水社)9は、形容 詞として「1. 論証する、論証的な

2.

感情をあらわにする

3.

指示の」、名詞 として「指示代名詞」という語義を挙げている。一方、『現代スペイン語辞典』

(白水社)10は、形容詞として「1. 論証に役立つ、明示する

2.(文法用語)指

示の」、名詞として「指示詞」という語義を挙げている。いずれの辞書もほぼ 同様の語義を挙げているが、名詞として『現代ポルトガル語辞典』は「指示代 名詞」『現代スペイン語辞典』は「指示詞」という語義を挙げている点が異なっ ている。ポルトガル語圏で発行されている代表的な辞書には、以下のような記 述がある。

7

Humbl

(2006)は、ポルトガル語話者のスペイン語学習者が近くにある電話機を

ese

tel fono

というのを頻繁に耳にすると指摘。またポルトガル語では

esse aqui

este

代わ

りに使用することがあると指摘している。

8

Humbl

(2006)は単に

este

と表記している。

9 池上岑夫他編(2005)『現代ポルトガル語辞典 改訂版』白水社

10 宮城昇、山田善郎監修(1999)『現代スペイン語辞典 改訂版』白水社

(6)

Aur rio

11

adj. 1. demonstrador 2. Proprio para demonstrador. Pronome - e silogismo -. s.m. 3. Ling. Pronome demonstrativo.

形容詞:1. 明示する。2. 明示するのに適した。名詞:3.(言語学)指 示代名詞

Houaiss

12

adj.s.m. 1.

(o)que demonstra

2.

(pronome)

que localiza a coisa ou pessoa de que se fala

形容詞、名詞:1. 明示する(もの)。

2.

話題になっている物または人の位置を示す(代名詞)。

Universal

13

adj. que demonstra; que prova; Gram., diz-se dos pronomes que indicam a ordem ou situa o dos objectos.

形容詞:明示する、証明する。文法用語:対象の順序や位置を示す代名 詞。

一方、スペイン語圏で発行されている代表的な辞書には、以下のような記述 がある。

DRAE

14

adj. d cese de lo que muestra. Gram. pronombre demostrativo.

形容詞:明示する。文法用語:指示代名詞。

11

Novo Dici nario Aur lio da Lingua Portuguesa, Positivo, 2004.

12

Dicionario Houaiss da lingua portuguesa, Objetiva, 2001.

13

Dicior rio Universal da Lingua Portuguesa on Line, http://www.priberam.pt/dlpo/

14

Diccionario de la Lengua Espa ola, 22

a

edici n, Real Academia Espa ola, 2001.

(7)

CLAVE

15

adj. que demuestra o pone de manifiesto. s.m. pronombre demostrativo.

形容詞:明示する。名詞:指示代名詞。

Salamanca

16

adj. que demuestra o sirve para demostrar.

adj. /s.m. gram

(pronombre, adjetivo)

que sirve para se alar personas, animales o cosas.

形容詞:明示する、明示するのに役立つ。

形容詞/名詞 文法用語:人や動物、物を示す(代名詞、形容詞)。

ポルトガル語の辞書には、demonstrativoという語が名詞として使われると、

「指示代名詞」であるとの記述しかないのに対し、スペイン語の辞書には名詞

としての

demostrativo

の語義を「指示代名詞」とするものと「指示代名詞」

および「指示形容詞」とするものがある。また、スペイン語の文法書には次の ように記述されている。

限定詞の一種。中性形(esto, eso, aquello)以外は指示形容詞にも指示代 名詞にもなりうる。(曖昧さを避けるために

ste, se, aqu l

のように書か れることも。)(Alarcos Llorach, 1994: 108)

やはりスペイン語の

demostrativo

には、「指示代名詞」という意味と「指示 形容詞」という意味を包含した「指示詞」という意味があるようである。ここ で紹介したのは一部の辞書の記述のみであるため、確実なことはいえないが、

ポルトガル語の場合、ここで見たように

demonstrativo

という用語を名詞とし

15

Clave Diccionario de uso del espa ol actual, Sexta edici n, 2003.

16

Diccionario Salamanca de la Lengua Espa ola, Editorial Santillana y la Universidad de

Salamanca, 2006.

(8)

て用いると「指示代名詞」という意味として捉えられることが多いのに対し、

スペイン語では

demostrativo

は「指示代名詞」と「指示形容詞」の意味で捉 えられるようである。そのため、ブラジルの研究者である

Humbl

が用語を明 確に区別しなかった原因は、ポルトガル語とスペイン語の

demo

(n)

strativo

という用語の定義の違いに起因するものと考えられる。

一方、それぞれの指示代名詞と指示形容詞について個別に辞書の記述を比較 したところ、ポルトガル語の辞書とスペイン語の辞書における定義にはそれほ ど大きな差異はなかった。

4.

翻訳作品における指示詞の扱い

本研究では、同じ文脈においてポルトガル語とスペイン語では指示詞の用法 にどのような差異が見られるのかを考察する。そのため、同一の文学作品の翻 訳を利用することにした。但し、原著がいずれか一方の言語で書かれた作品で あれば、一方の言語はネイティブの感覚で書かれ、もう一方が翻訳となるため、

平等な条件にはならない。そこで、他言語からポルトガル語とスペイン語に翻 訳された同一作品における指示詞(指示代名詞、指示形容詞)を対象とした17

4.1.

調査対象とした作品

上記のような条件を満たす作品として、アントワーヌ・ド・サン=テグジュ ペリ著『星の王子さま』(Saint-Exup r 1943)を採用した。また、ポルトガル 語訳は

Barbosa(2001)

、スペイン語訳は

Del Carril

(2003)が代表的であるが、

今回は電子版資料として

Barbosa(不明)および Ben tez(不明)を使用する

ことにした。

17 本稿では、指示詞を指示代名詞と指示形容詞を含む意味で用いる。指示副詞については 含めないこととする。

(9)

4.2.

調査結果

全ての指示形容詞と指示代名詞の出現数を表

1

にまとめた。ポルトガル語 は指示形容詞と指示代名詞が同形であるため、指示代名詞の場合は(pro)と 表記し、スペイン語はアクセント符号を付して区別した。また、ポルトガル語 とスペイン語で同義語とされる指示詞の出現数を比較し、多い方の表中の数字 を太字で示した。

4.2.1. Humbl

(2006)の検証

1

を見ると、指示詞の出現総数はポルトガル語訳(131例)よりもスペイ ン語訳(152例)の方が多いことがわかる。また、指示代名詞に限ってみても ポルトガル語訳の

66

例に対し、スペイン語訳は

73

例出現しており、スペイ ン語訳の方が多いことがわかる。これらは、Humbl (2006)の指摘を裏付け るものといえる。

Humbl

(2006)が行った調査では、スペイン語の指示代名詞

ste

系はポル

トガル語の指示代名詞

este

系に比べて

15

倍、スペイン語の指示代名詞

se

はポルトガル語の

esse

系に比べて

1.59

倍、スペイン語の

aqu l

系はポルトガ

ル語の

aquele

系に比べて

1.75

倍の頻度で出現したという18。表

1

でこれらの

指示代名詞の出現数を比較すると、「これ/これら」(ポルトガル語:este

6

例)<スペイン語:

ste

系(10例))はポルトガル語訳に比べてスペイン 語訳の方が

1.67

倍多く出現していた。また、「それ/それら」(esse系(

7

例)

se

系(

9

例))もスペイン語訳の方が

1.29

倍多く出現していた。これらは

Humbl

(2006)の結果と同じ傾向を示している。つまり、スペイン語はポル

トガル語に比べて

ste

系と

ese

系の区別を明確にし、

ste

系をより多く使用す

18 先にも述べたように、Humbl (2006)は

demostrativo(「指示詞」)という用語を用い

ており、指示代名詞と指示形容詞の区別を明確にしていないが、ここでは、「指示代名詞」

のことと解釈した。

(10)

表 1 『星の王子さま』ポルトガル語訳とスペイン語訳における指示詞の出現数比較 ポルトガル語訳(合計

131)

スペイン語訳(合計

152)

este 4 12 18 30 este 16 33 43 46

esta 8 esta 14

estes 0 estos 2

estas 0 estas 1

este(pro) 3 6 ste 6 10

esta(pro) 3 sta 4

estes(pro) 0 18 stos 0 13

estas(pro) 0 stas 0

isto 12 12 12 esto 3 3 3

esse 18 46 53 84 ese 14 41 50 97

essa 17 esa 18

esses 2 esos 3

essas 9 esas 6

esse(pro) 5 7 se 8 9

essa(pro) 1 sa 1

esses(pro) 1 38 sos 0 56

essas(pro) 0 sas 0

isso 31 31 31 eso 47 47 47

aquele 4 7 14 17 aquel 1 5 9 9

aquela 3 aquella 4

aqueles 0 aquellos 0

aquelas 0 aquellas 0

aquele(pro) 3 7 aqu l 1 4

aquela(pro) 3 aqu lla 3

aqueles(pro) 1 10 aqu llos 0 4

aquelas(pro) 0 aqu llas 0

aquilo 3 3 3 aquello 0 0 0

(11)

るという

Humbl

(2006)の指摘を支持する結果といえそうである。ただし、

「これ/これら」に関しては、15倍という

Humbl

(2006)の調査結果ほど極 端な差は無かった。一方、「あれ/あれら」(aquele系(

7

例)>aqu l系(

4

例))は、ポルトガル語訳の方が

1.75

倍多く出現していた。これは、Humbl

(2006)の調査結果とは反対の結果である。

4.2.2.

指示代名詞中性形と指示形容詞の出現数

Humbl

(2006)の調査結果には指示代名詞中性形についての言及はない。

そこで、本調査の結果から中性形の出現数を比較すると、「これ」(isto(12例)

>esto(3例))は、ポルトガル語訳の方が

4

倍多く出現しており、「それ」

(isso(31例)<eso(47例))は、スペイン語訳の方が

1.52

倍多く出現してい た。これらを含めた全てを指示代名詞として比較すると、「これ/これら」は、

スペイン語訳(13例)に比べてポルトガル語訳(18例)の方が

1.38

倍多く出 現していることになる。これは、「これ/これら」に相当するスペイン語の

ste

系の指示代名詞がポルトガル語の

este

系指示代名詞に比べて

15

倍の頻度 で出現するという

Humbl

(2006)の結論とは反する結果である。一方、「そ れ/それら」に関しても中性形を含めて比較すると、ポルトガル語訳(38例)

に比べスペイン語訳(56例)の方が

1.47

倍多く出現していた。これは、スペ イン語の

se

系がポルトガル語の

esse

系に比べて

1.59

倍多く出現するという

Humbl

(2006)のデータと同じ傾向を示している。これらをまとめると、指

示代名詞中性形を含めると、ポルトガル語の方が「これ/これら」をよく使う 傾向があり、ポルトガル語の中性形

isto

の多用は注目に値するといえる。

また、3.1.で見たように、Humbl (2006)は指示代名詞と指示形容詞を明確 に区別しておらず、調査の対象に指示形容詞が含まれているかどうかも明確で はない。そこで、本調査の結果を用いて指示形容詞の出現数を比較すると、

「この~/これらの~」(este系(12例)<este系(33例))は、スペイン語

(12)

訳の方が

2.75

倍多く出現していた。 一方、「その~/それらの~」(esse

(46例)>ese系(41例))は、ポルトガル語訳の方が

1.12

倍多く出現してい た。そして、指示代名詞(中性形を含む)と指示形容詞をまとめて指示詞とし て出現総数を比較すると、「これ、この」(este系19)に関しては、ポルトガル 語訳(30例)に比べてスペイン語訳(46例)の方が

1.53

倍多く出現していた。

同様に、「それ、その」(esse/ese系)もポルトガル語訳(84例)に比べてス ペイン語訳(97例)の方が

1.15

倍程度多く出現していた。つまり、指示詞全 体で比較すると、「これ、この」と「それ、その」は、スペイン語訳の方が高 い頻度で出現しているといえる。

「これ、この」(este系)と「それ、その」(esse/ese系)を比較すると、

este

系は

1.53

倍、ese/esse系は

1.15

倍それぞれスペイン語訳において多く 出現していたことから、「これ、この」(este系)の方がスペイン語訳とポル トガル語訳の間の差異が若干大きいといえる。これは、スペイン語では

este

系と

ese

系の区別が明確であり、スペイン語はポルトガル語に比べて

este

の方をよく使う傾向があるという

Humbl

(2006)の指摘と一致する。しかし、

esse/ese

系の

1.59

倍に対し、este系が

15

倍もスペイン語において多く出現

していたという

Humbl

(2006)の調査結果に比べて、本調査結果の差異は非 常に小さいため、この指摘を支持する結果とはいいにくい。

また、「あれ」「あの」(aquele/aquel系)についても同様に比較してみたと ころ、指示代名詞、指示形容詞ともにポルトガル語訳の方が多く出現してい 20

19 本稿ではスペイン語の指示代名詞は

ste

系、指示形容詞は

este

系と表記するが、ここ では両者とポルトガル語の指示代名詞および指示形容詞をまとめて

este

系と表記する。

20 指示代名詞は

aquele

系(

7

例)>aqu l系(

4

例)、指示代名詞中性形は

aquilo( 3

例)

>aquello(

0

例)、指示形容詞は

aquele

系(

7

例)>aquel系(

5

例)で、ポルトガル語 訳の方が多く出現していた。

(13)

4.2.3.

ポルトガル語訳とスペイン語訳で異なる表現が用いられたケース このように、同じ作品の翻訳であっても、ポルトガル語訳とスペイン語訳と で異なる指示詞や表現が用いられることがあることがわかった。次に、ポルト ガル語訳とスペイン語訳で異なる指示詞や表現が用いられた例を取り上げ、そ れぞれもう一方の言語訳においてどの指示詞(表現)が対応しているのかがわ かるように分類して、表

2

3

にまとめてみた。いずれの表もポルトガル語 訳を基準にしており、表

2

はポルトガル語訳で指示代名詞が使われていた場 合を、表

3

は指示形容詞が使われていた場合をまとめたものである。

2

を見ると、ポルトガル語訳で指示代名詞中性形の

isso

が使用されてい る箇所のスペイン語訳が指示詞以外の表現で表されているケースが

13

例、反 対にスペイン語訳で中性形の

eso

が使われている箇所のポルトガル語訳で指示 詞以外の表現が使われているケースが

21

例と非常に多いことがわかる。次に 多いのは、ポルトガル語訳で

isto

が使われている箇所のスペイン語訳で

eso

使われているケースの

7

例である。

表2 ポルトガル語訳とスペイン語訳で異なる指示詞・表現が使用されていた ケース(ポルトガル語訳で指示代名詞が使用されていたもの)

ポルトガル語訳 スペイン語訳 用例数

これ

este(-a,-es,-as)

se(-a,-os,-as)

それ

1 8

isto

eso 7

isto

指示詞以外の表現

4

それ

esse(-a,-es,-as)

ste(-a,-os,-as)

これ

2

esse

ese(adj.)

その

1

esse

指示詞以外の表現

1

isso

esto

これ

2

isso

ese(adj.)

その

2

isso

指示詞以外の表現

13

あれ

aquele

ese(adj.)

その

1

aquele

指示詞以外の表現

3

aquilo

eso

それ

2

aquilo

指示詞以外の表現

1

(14)

これらから、ポルトガル語でもスペイン語でも中性形の

isso/eso

は多く使 用され、その場合、もう一方の言語では指示詞以外の表現でも言い表せる箇所 での用法が多いことがわかる。特にスペイン語の

eso

は、ポルトガル語では指 示詞以外の表現が用いられる箇所で使用されることが多いようである。また、

スペイン語の

eso

がポルトガル語の

isto

に対応する例が多いだけでなく、ポル トガル語の

aquilo

に対応する例も

2

例あることから、スペイン語ではポルトガ ル語以上に

eso

が多用され、そのカバーする範囲は非常に広いと指摘すること ができる。一方、ポルトガル語訳の

aquilo

はスペイン語訳の指示詞以外の表現 に対応している例も

1

例あり、スペイン語訳の

aquello

に比べて幅広い用法が あると考えられる。

中性形以外の指示代名詞について見ると、ポルトガル語訳の

este

系がスペ イン語訳の

se

系に対応する場合は

1

例なのに対し、ポルトガル語訳の

esse

系がスペイン語訳の

ste

系に対応するケースは

2

例あった。また、スペイン 語訳で

ste

系が使われていた箇所のポルトガル語訳で指示詞以外の表現が使

指示詞以外の表現

ste(-a,-os,-as)

これ

3

指示詞以外の表現

se(-a,-os,-as)

それ

4 25

指示詞以外の表現

eso

それ

21

表3 ポルトガル語訳とスペイン語訳で異なる指示詞・表現が使用されていた ケース(ポルトガル語訳で指示形容詞が使用されていたもの)

ポルトガル語訳 スペイン語訳 用例数

この

este

(-a,-es,-as)

ese

(-a,-os,-as) その

1

その

esse

(-a,-es,-as)

este

(-a,-os,-as) この

18

esse

(-a,-es,-as)

aquel

(-lla,-llos,-llas) あの

2 esse

(-a,-es,-as) 指示詞以外の表現

6

あの

aquele

(-a,-es,-as)

este

(-a,-os,-as) この

1

aquele

(-a,-es,-as)

ese

(-a,-os,-as) その

4

指示詞以外の表現

este

(-a,-os,-as) この

3

指示詞以外の表現

ese

(-a,-os,-as) その

13

指示詞以外の表現

aquel

(-lla,-llos,-llas) あの

2

(15)

われていた箇所は

3

例あったのに対し、ポルトガル語訳の

este

系がスペイン 語訳の指示詞以外の表現に対応する例はなかった。これらが、スペイン語訳の

ste

系の出現数がポルトガル語訳における

este

系の出現数より

4

例多い内訳 である。次に、ポルトガル語訳における

aquele

系だが、スペイン語訳の対応 する箇所で指示詞以外の表現が使われている箇所が

3

例あり、指示形容詞

ese

系が使われている箇所が

1

例あった。一方、スペイン語訳における

aqu l

系が ポルトガル語訳の他の指示詞や表現と対応する例はなかった。このことから、

ポルトガル語の方が

aquele

系指示代名詞をよく使う傾向があり、ポルトガル

語の

aquele

系の指示範囲はより広いと考えられる。

3

を見ると、ポルトガル語訳の指示形容詞

esse

系がスペイン語訳の指示 形容詞

este

系に対応するケースが

18

例と多いことが目につく。反対にスペイ ン語訳の

ese

系がポルトガル語訳の

este

系に対応する例は

1

例と少ない。こ のことから、ポルトガル語の

esse

系指示形容詞の指示範囲はスペイン語の

este

系指示形容詞の指示範囲と重なる部分が多いことがわかる。これは

4.2.2.

で見たように、スペイン語訳において

este

系指示形容詞がポルトガル語訳に 比べて

2.75

倍多く出現していたことの最大の原因である。ポルトガル語訳の

esse

系指示形容詞はスペイン語訳の

aquel

系指示形容詞と対応する例も

2

例あ り、スペイン語訳の指示詞以外の表現が用いられている箇所と対応する例も

6

例あった。つまり、ポルトガル語の

esse

系指示形容詞の指示範囲は広範に及 ぶのである。

次に多いのは、スペイン語訳の

ese

系がポルトガル語訳では指示詞以外の表 現に対応している場合の

13

例である。また

ese

系指示形容詞がポルトガル語

este

系(

1

例)や

aquele

系(

4

例)の指示形容詞と対応する例もあった。

このことから、スペイン語の

ese

系指示形容詞も指示範囲が広いことがわかる。

これらから、いずれの言語の

esse/ese

系指示形容詞も指示範囲は広いが、異 なる部分があると考えられる。

(16)

ポルトガル語訳の

quele

系指示形容詞の中には、スペイン語訳の

este

系指 示形容詞と対応するものが

1

例あり、ese系と対応するものも

4

例あった。一 方、スペイン語の

aquel

系指示形容詞はポルトガル語の

esse

系指示形容詞と 対応するものが

2

例あるのみであった。このことから、ポルトガル語の

aquele

系指示形容詞の指示範囲の方がより広いといえる。

4.3.

実際の用例についての考察

前節でポルトガル語訳とスペイン語訳において異なる指示詞や表現が用いら れたケースについて概観した結果、主に次のような特徴が明らかになった。

1.スペイン語の指示代名詞中性形 eso

の指示範囲が広いこと。2.スペイン語の

ste

系指示代名詞がポルトガル語の

este

系指示代名詞よりも多く出現した主 な原因として、スペイン語の

ste

系がポルトガル語の指示詞以外の表現と対 応する箇所があったこと。3.ポルトガル語の

aquele

系指示代名詞はスペイン語

ese

系指示形容詞と対応するなど指示範囲が広いこと。4.ポルトガル語の

esse

系指示形容詞とスペイン語の

ese

系指示形容詞の指示範囲はともに広い が、異なる部分があること。5.ポルトガル語の

aquele

系指示形容詞の指示範囲 が広いこと。

以下では、これらについて具体例を取り上げ、それぞれの指示詞にどのよう な特徴があり、ポルトガル語とスペイン語の指示詞の使い方にどのような違い があるのかを考察していく。

4.3.1.

スペイン語指示代名詞中性形

eso

の指示範囲の広さ

ここでは、スペイン語訳において

eso

が使われているが、ポルトガル語訳で は別の指示詞や表現が使われていた例を具体的に考察する。スペイン語訳の

eso

に対応するものとして、ポルトガル語訳では、指示詞以外の表現や指示代 名詞中性形

isto、aquilo

が使われていた。

(17)

4.3.1.1.

ポルトガル語訳において指示詞以外の表現が用いられていた例 スペイン語訳の

eso

に対応するポルトガル語訳の指示詞以外の表現として最 も多かったのは、指示詞の省略で

18

例あった。また、副詞が使われていた箇 所が

1

例、動詞を使った表現が用いられていた箇所が

2

例あった。

ポルトガル語訳で指示詞が省略されていたものとしては、次のようなものが あった。なお、以下の例文はスペイン語訳、ポルトガル語訳、日本語訳の順で 挙げる。

(1)

Si ellos viajan un d a, me dec a l, eso podr servirles.

(2)

Se algum dia tiverem de viajar, explicou-me, poder ser til para elas.

きみの国の子どもたちがいつか旅行するとき、役に立つかもしれないから 21

5

章、43行目22

(3)

Hab a aprendido as una segunda cosa importante: !

su planeta de origen era apenas m s grande que una casa! Eso no pod a asombrarme mucho.

(4)

Eu aprendera, pois, uma segunda coisa, important ssima: o seu planeta de origem era pouco maior que uma casa! N o era surpresa para mim.

ぼくは、こうして、もう一つ、たいそうだいじそうなことを知りました。

王子さまのふるさとの星が、やっと家くらいの大きさだということでした。

といったって、ぼくはたいしておどろきません。

4

章、

3

行目)

スペイン語の例文(1)も(3)も

eso

は前文の内容を受けて「そのこと」を 意味する文脈指示の前方照応である。18例中

16

例が同様の用法であった。次 の(5)の

eso

も文法的には

eso

は中性形であるため、前の文を受けた「その

21 日本語訳は内藤濯訳(1953)『星の王子さま』を使用する。

22 電子資料であるため、ページ数を表記することはできないので、スペイン語版の章番号 と行数を表記する。

(18)

こと」と解釈すべきだが、意味的には直前の女性名詞

las mariposas

を指して いると考えた方が自然である。

(5)

Parece que eso es realmente bello. Si no, ?

qui n vendr a visitarme?

(6)

Dizem que s o t o belas! Do contr rio, quem vir visitar-me?

(チョウチョウって)なんだか、たいそう美しいそうですわ。チョウチョ ウでなくて、だれが、あたくしをたずねにきてくれるんでしょう。

9

章、

31

行目)

次の(7)の

eso

は前置詞

por

とともに

por eso「従って、だから」という成

句表現を形成している。これも前の文の内容を指示していると解釈できるため、

(1)や(3)と同様の用法と考えることも可能である。

(7)

Por eso, no solamente era un monarca absoluto sino que adem s era un monarca universal.

(8)

Pois ele n o era apenas um monarca absoluto, era tamb m um monarca universal.

それは、王様が、国のワンマンであるばかりでなく、宇宙のワンマンだか らでした。(10章、49行目)

このように、スペイン語訳で

eso

が使われているのに対し、ポルトガル語訳 で指示詞が省略されていた場合は、esoが具体的なものを指す直示用法ではな く、前文の内容を受けて「そのこと」を意味する文脈指示の前方照応の用法が ほとんどであった。

次に、ポルトガル語訳において副詞が用いられていた

2

例について考察す る。(9)の

eso

は前文の内容を受ける前方照応の用法である。(10)のポルト

(19)

ガル語訳では「このように」という意味の副詞

assim

が使われている。

(9)

- Podr parecer que sufro... podr parecer que me muero. Es eso. No lo vengas a ver, no vale la pena.

(10)- Eu parecerei sofrer... eu parecerei morrer.

assim. N o venhas ver. N o vale a pena...

「ぼく、病気になってるような顔しそうだよ……なんだか、生きていない ような顔しそうだよ。うん、そうなんだ。だから、そんなようす、見にき たってしょうがないじゃないか……」(26章、101行目)

次に、ポルトガル語訳において動詞を用いた表現が用いられていた例につい て考察する。

(11)-

!

Eso no es nada, es realmente peque o mi lugar!

(12)- N o faz mal,

t o pequeno onde moro!

「だいじょうぶなんだよ。ぼくんとこ、とってもちっぽけなんだもの。」

3

章、39行目)

(11)の

eso

は前の文の内容を指示しているが、(12)のポルトガル語訳では

N o faz mal

という動詞

fazer

を使った表現が用いられている。これは「かまわ

ない、気にしないで下さい」という意味の成句表現である。

(13)Eso no es nada. Dib jame un cordero.

(14)N o tem import ncia. Desenha-me um carneiro.

そんなこと、かまいやしないよ。ヒツジの絵をかいて。

2

章、38行目)

(20)

この場合もやはり、スペイン語訳の(13)では文脈を指示する前方照応の 用法で

eso

が用いられている。そして、対応するポルトガル語訳では存在を表 す動詞

ter

が用いられている。

このように、スペイン語訳で指示代名詞中性形

eso

が用いられ、ポルトガル 語訳では指示詞が用いられていない場合は、指示詞が省略されている場合が最 も多いことがわかった。また、副詞や動詞を用いた表現が対応している場合も あったが、いずれの場合も、スペイン語の

eso

は直示的に指示物を指し示すの ではなく、前の文の内容を受けて「そのこと」を意味していることがわかった。

4.3.1.2.

ポルトガル語訳で

isto

が用いられていた例

スペイン語訳で

eso

が用いられている箇所のポルトガル語訳で指示代名詞中 性形

isto

が用いられていたケースは

7

例あった。次の(15)も(17)も、ス ペイン語訳における

eso

は具体的なものを指示する直示的用法である。

(15)- F jate bien ... eso no es un cordero, es un carnero. Tiene cuernos.

(16)- Bem v s que isto n o

um carneiro. um bode... Olha os chifres...

「そうだな…これ、あたりまえのヒツジじゃなくって、ツノが生えてるも の…」

2

章、49行目)

(17)- Es verdad que, con eso, no puedes venir de muy lejos.

(18)-

verdade que, nisto a

23

, n o podes ter vindo de longe...

「そうか、じゃ、そう遠くからきたわけでもないな…」(

3

章、20行目)

(18)は

isto「これ」に「そこ」を意味する a

が伴っており、興味深い例で ある。

23

Nisto

は前置詞

em

isto

の縮約形である。

(21)

一方、次の(19)の

eso

をはじめ、残り

5

例はいずれも前の文の内容を指示 する前方照応の用法であった。

(19)

!

Pero si el cordero se come la flor, es para l como si, de golpe, todas las estrellas se apagaran! !

Y eso no es importante !

(20)Mas se o carneiro come a flor,

para ele, bruscamente, como se todas as estrelas se apagassem! E isto n o tem import ncia!

それで、ヒツジが花をくうのは、その人の星という星が、とつぜん消えて なくなるようなものなんだけど、それもきみは、たいしたことじゃないっ ていうんだ。

7

章、58行目)

これらから、スペイン語訳の

eso

とポルトガル語訳の

isto

が対応している場 合、多くは前方照応の用法であるが、一部には具体的な対象を指示する直示用 法も見られるといえる。

4.3.1.3.

ポルトガル語訳で

aquilo

が用いられていた例

スペイン語訳における

eso

にポルトガル語訳で中性形

aquilo

が対応していた ケースは以下の

2

例であった。(21)の

eso

は飛行機を指す直示用法であり、

(23)の

eso

は前方照応の用法であった。

(21)- Eso no es una cosa. Vuela. Es un avi n. Mi avi n.

(22)- N o

uma coisa. Aquilo voa. um avi o. O meu avi o.

「しなものじゃないよ。これ、飛ぶんだ。飛行機なんだ。僕の飛行機なん だ。」(

3

章、7行目)

(22)

(23)Por absurdo que eso me parec a a mil millas de todos los lugares habitados

y en peligro de muerte, saqu de mi bolsillo una hoja de papel y una lapicera.

(24)Por mais absurdo que aquilo me parecesse a mil milhas de todos os lugares

habitados e em perigo de morte, tirei do bolso uma folha de papel e uma caneta.

人が住んでいる、どんなところからも、千マイルもはなれていて、それに、

いつ死ぬかもしれないところで、ヒツジの絵をかくなんて、とてもばかば かしい気もしましたが、ぼくは、ポケットから、一まいの紙と、万年筆を とりだしました。

2

章、32行目)

これらをまとめると、スペイン語訳の

eso

がポルトガル語訳の指示詞の省略 や指示詞以外の表現に対応している場合は、ほぼ全てが前方照応の用法であり、

他の指示詞と対応している場合も、多くが前方照応の用法であるが、具体的な 対象を指示する直示的用法も見られることがわかった。

4.3.2.

スペイン語訳の

ste

系指示代名詞とポルトガル語訳の指示詞以外の表

現との対応例

スペイン語訳において「これ/これら」を意味する

ste

系指示代名詞がポ ルトガル語訳における

este

系指示代名詞よりも多く出現した主な原因として、

スペイン語訳の

ste

系がポルトガル語訳の指示詞以外の表現と対応する箇所

3

例あった。それぞれポルトガル語訳ではどのような表現が使われていた のだろうか。また、スペイン語訳の

ste

系指示代名詞はどのような用法で用 いられていたのだろうか。

(23)

(25)"Desde una monta a como

sta - se dijo - divisar de un golpe todo el planeta y todos los hombres..."

(26)"De montanha t o alta, pensava ele, verei todo o planeta e todos os

homens..."

「こんな高い山からなら、この星の全体と、住んでいる人が、みな、一目 で見えるだろう」と、考えました。(19章、

3

行目)

(25)の

sta

は発話者がいる場所である

monta a「山」を指示対象としてい

る。つまり直示的な用法である。一方、(26)のポルトガル語訳では

t o alta

「これほど高い」という程度を表す副詞

t o

を用いた表現が使われている。

(27)

ste es el desierto. No hay nadie en los desiertos.

(28)Aqui

o deserto. N o h ningu m nos desertos.

ここは砂漠だよ。砂漠にゃあ、だれもいないさ。(17章、22行目)

(27)の

ste

も発話者がいる場所を指して、「ここ」という意味で使われて いる。これも直示的用法である。そして(28)のポルトガル語訳では場所を 表す副詞

aqui

が使われている。もう

1

例も直示的用法の

ste

に対して場所を 表す副詞が用いられていた。

このようにスペイン語訳の

ste

系指示代名詞がポルトガル語訳の指示詞以 外の表現と対応する場合は、直示的な用法であり、全て副詞を用いた表現と対 応していることがわかった。

4.3.3.

ポルトガル語の

aquele

系指示代名詞の指示範囲の広さ

ポルトガル語訳の

aquele

系指示代名詞はスペイン語訳の

ese

系指示形容詞な ど様々な表現と対応していたが、それぞれどのような文脈で用いられていたのだ

(24)

ろうか。以下、例文はポルトガル語訳、スペイン語訳、日本語訳の順で挙げる。

(29)- Aquele que eu toco, eu o devolvo

terra de onde veio, continuou a serpente.

(30)- A quien toco lo devuelvo a la tierra de donde sali - agreg . -

そして、またいいました。「おれがさわったやつぁ、そいつが出てきた地 面に戻してやるんだ。」(17章、42行目)

ポルトガル語訳(29)で指示代名詞

aquele

が使われている箇所は、スペイ ン語訳(30)では「~するところの人」という意味の

quien

という関係代名詞 が用いられている。残りの

2

例もスペイン語訳では人称代名詞か関係代名詞 が用いられていた。つまり、ポルトガル語訳における

aquele

系指示代名詞が、

スペイン語訳の指示詞以外の表現と対応する場合は、関係代名詞の

que

を伴っ て、「~するところの人」という意味で用いられていたのである。

また、ポルトガル語訳の

aquele

系指示代名詞がスペイン語訳の

ese

系指示 形容詞と対応している箇所が

1

例あった。

(31)- Que coisa

aquela?

(32)-

?

Qu es esa cosa?

「それ、なあに?そのしなもの?」(

3

章、6行目)

ポルトガル語訳(31)の指示代名詞

aquela

は、飛行機という具体的な指示 対象を指しており、現場指示の直示的用法である。

つまり、ポルトガル語の

aquele

系指示代名詞は、スペイン語では人称代名 詞や関係代名詞で表され、「~するところの人」という意味の箇所で用いられ ることが多いようである。また、直示的用法の場合、スペイン語ではより近く

(25)

を指す指示詞と対応することもあるといえる。

4.3.4.

ポルトガル語の

esse

系とスペイン語の

ese

系指示形容詞の指示範囲の

広さと異なり

「その/それらの」を意味するポルトガル語の

esse

系指示形容詞が「これ/

これらの」を意味するスペイン語の

este

系指示形容詞と対応する箇所が

18

あり、スペイン語の

ese

系指示形容詞がポルトガル語の指示詞以外の表現と対 応する箇所が

13

例あることから、両言語の

esse

系と

ese

系指示形容詞はと もに指示範囲は広いが、その指示対象は異なることが予想される。

4.3.4.1.

ポルトガル語の

esse

系指示形容詞とスペイン語の

este

系指示形容詞

の対応

まずは、ポルトガル語訳において

esse

系指示形容詞が使われているのに、

スペイン語訳では

este

系指示形容詞が使われていた箇所について考察する。

(33)D -me tristeza narrar essas lembran as!

(34)Experiment tanta nostalgia al contar estos recuerdos.

「ぼくは、王子さまとの思い出を話すのが、ほんとうにかなしいのです。」

4

章、45行目)

ポルトガル語訳(33)の

essas lembran as

はスペイン語訳(34)では

estos

recuerdos

となっている。この箇所は、具体的な事物を指してはおらず、文脈

指示の前方照応の用法である。

(35)E agora, certamente, j se v o seis anos... Jamais contara essa hist ria.

(36)Y ahora, por cierto, ya pasaron seis a os... Nunca he contado esta historia

(26)

todav a.

「さて、いまとなってみると、もう、たしかに六年まえのことです…。ぼく は、この話を、まだ、だれにもしたことがありません。」(27章、1行目)

(35)も同様に、essa hist ria

essa

は前方照応の用法であり、スペイン語 訳では

esta

が対応している。これらと同様の用例が合計

10

例あった。一方、

次の例のように、ポルトガル語訳の

esse

系指示形容詞とスペイン語訳の

este

系指示形容詞とが対応しており、その指示対象が具体的なものを指す現場指示 の直示的用法も

8

例見られた。

(37)N o respondi. Naquele instante eu pensava: "Se esse parafuso ainda resiste,

vou faz -lo saltar a martelo".

(38)Yo no respond nada. En ese instante me dije: "Si este perno resiste todav a,

lo har saltar de un golpe de martillo".

ぼくは、なにも答えませんでした。ぼくは、そのとき、<このボールトが、

いうことをきかなけりゃあ、カナヅチでぶっとばそう>と考えていました。

7

章、22行目)

4.3.4.2.

スペイン語の

ese

系指示形容詞とポルトガル語の指示詞以外の表現と

の対応

スペイン語訳の

ese

系指示形容詞がポルトガル語訳の指示詞以外の表現に対 応している場合は

13

例と非常に多いため、スペイン語の

ese

系指示形容詞の 用法は幅広いと考えられる。以下、ポルトガル語のどのような表現と対応して いるのか具体例を検討する。ここでは例文は、スペイン語訳、ポルトガル語訳、

日本語訳の順で挙げる。

(27)

(39)Si le dices a las personas mayores: "Vi una bella casa de ladrillos rosa, con

geranios en las ventanas y palomas sobre el techo..." Ellas no alcanzan a imaginarse esa casa.

(40)Se dizemos s pessoas grandes: "Vi uma bela casa de tijolos cor-de-rosa, ger

nios na janela, pombas no telhado..." elas n o conseguem, de modo nenhum, fazer uma id ia da casa.

おとなの人たちに、<桃色のレンガでできていて、窓にジェラニウムの鉢 がおいてあって、屋根の上にハトのいる、きれいな家を見たよ…>といっ たところで、どうもピンとこないでしょう。

4

章、29行目)

スペイン語訳(39)の

esa casa「その家」の esa

は前方照応の用法である。

ポルトガル語訳(40)においてこれに対応するのは

da casa

24の定冠詞

a

である。

このようにスペイン語訳の

ese

形指示形容詞が前方照応で、それに対応するポ ルトガル語訳の表現が定冠詞の場合は全部で

6

例あった。

(41)Procura ser feliz... Deja ese globo tranquilo. Ya no lo quiero.

(42)Trata de ser feliz... Mas pode deixar em paz a redoma. N o preciso mais

dela.

おしあわせでね…もう、その覆いガラスなんか、いりませんわ。(

9

章、

25

行目)

また(41)と(42)のように、スペイン語訳における

ese

系指示形容詞が

ese globo「そのガラス覆い」のように直示的用法で、それがポルトガル語訳

では

a redoma

のように定冠詞で表されている場合は

4

例あった。

24

da casa

da

は前置詞

de

と定冠詞

a

の縮約形である。

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