KONAN UNIVERSITY
「飯くわぬ女」の分析心理学的考察と摂食障害栄子 の儚き実存と死
著者 横山 博
雑誌名 甲南大學紀要.文学編
巻 152
ページ 17‑40
発行年 2008‑03‑15
URL http://doi.org/10.14990/00000905
一七﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死 はじめに
﹁
食 す る こ と
﹂と い う 人 間 の 自 己 保 存 本 能 な し に は
︑人 間 は 生 き て は い け な い
︒﹁食 す る こ と
﹂を 中 心 と し て
︑人 間 の 喜怒哀楽 があり
︑団欒 を 囲 むことは
︑それこそ 旧石器時代以 来
︑人間 の 身体 を 滋養 し
︑かつ 獲物 を 獲 て
︑ともに 味合 うと いう 共同体 の 重要 な 要件 を 構成 して 来 た
︒この 人間 の 基本的 な 営 み が
︑病 と し て 多 く 記 載 さ れ る よ う に な っ た の は
︑一九七
〇年代頃
︑有名 なシンガーグループ
︑カーペンターズ のカレンが 拒食症 で 死亡 して 以来 であろうか
︒第二次世界大 戦 の 敗北 で
︑日本 は 困窮 を 極 め
︑復興 を 遂 げて 行 き
︑七
〇年 安保 を 経 るなかで
︑混乱 と 少 しの 生活 の 余裕 が 混在 する 時代 であった
︒世界史的 にも
︑ベトナム 戦争 が 泥沼化 し
︑アメリ カでも 富 みの 遍在
︑黒人問題 を 中心 として
︑全世界的 にカウ ンターカルチャー 運動 が 吹 き 荒 れる 時代 でもあった
︒こうし た
︑文明 の 転換点 の 危機 として
﹁食 すること
﹂の 病 いがある と 同時 に
︑遠 い 昔話 の 世界 にもこのモチーフがあることにも 興味 をそそられる
︒このことについて 少 し 論 じてみよう
︒一︑食することの心理学的意味
﹁
食 す る こ と
﹂の 心 理 学 的 意 味 で
︑我 々 が す ぐ に 思 い つ く こ と は
︑フ ロ イ ト
︵Freud, S.︶の 口 唇 愛 期 で あ る
︵oral phase︶︒フ ロ イ ト は 乳 児 の 口 唇 部 に 備 給 さ れ た 性 的 リ ビ ド ーが
︑母親 の 乳房 から 滋養 としてのお 乳 を 得 ることののみな らず
︑母親 の 温 かさ
︑心音 も 含 め
︑安心感 も 手 に 入 れること を 論 じ
︑人間 の 基礎的安心感 の 基本 であると 考 えた
︒フロイ ﹁ 飯 く わ ぬ 女 ﹂ の 分 析 心 理 学 的 考 察 と 摂 食 障 害 栄 子 の 儚 き 実 存 と 死
横 山 博
一八
トはこの 時期 を 一次 ナルチシズムとし
︑オウトエロティシズ ムで 赤 ち ゃ んがまだ 対象 に 開 かれない 段階 と 考 えたが
︑この 問題 は 対象関係論 を 中心 として
︑論議 のあるところであり
︑深入 りは 止 めよう
︒とまれこの 段階 で
︑オウトエロティシズ ムが 充分満足 させられない 時
︑長 じて 統合失調症 になるとフ ロイトは 考 えた
︒またお 乳 を 口腔内 に 取 り 入 れることは
︑心 理学的 には
︑自分 にとっては 異物 であるものを 体内 に 取 り 入 れ
︑自分 を 滋養 し
︑体内化 していくことの 基本 であり
︑取 り 入 れ
︵introjection ︶︑体 内 化
︵incorporation ︶の プ ロ ト タ イ プである
︒幼児 の 指 し ゃ ぶりはその 代償行為 であることは 周 知 の 事実 である
︒フロイト 的意味 でオウトエロティシズムの 時期 はまだ
︑母 子 一 体 感 の 意 味 合 い 強 く
︑そ れ が 男 根 愛 期
︵エ デ ィ プ ス 期
︶を 経 るなかで
︑母親 と 子 どもは 分離 しつつ
︑子 どもは 母親 と 違 った
︑父 なるものや
︑社会 すなわち 共同性 を 自分 のなかに 取 り 入 れ
︑子 どもなりの 自我 を 形成 していく
︒母子一体感 の 強 い 時期 においては
︑母 と 子 の 区別 も 曖昧 である
︒つまり 自 分 の 身体 と 自分 なるものの 萌芽 との 区別 も 明確 でなく
︑さら に 母親 の 心身 とも 分離 はさほどしていない
︒しかし
︑子 ども は 成長 するに 従 って
︑自分 なるものの 中心 として
︑共同性 な るものとの 関 わりを 持 ちつつ
︑幼児 の 心身一体 となった 原初 的 なレベルから 離 れ
︑身体性 そのものから 疎外 された 形 での 自我 というものを 持 つに 至 る
︒ユング
︵Jung, C.G.︶によれ ば
︑自我 とは 意識 の 中心 を 占 めるもので
︑比較的安定 し
︑恒常性 を 持 ったコンプレックスに 過 ぎない
︒心 とはもっと 広 く
︑個 人的無意識 と
︑人類 が 有史以来
︑持 ち 続 け
︑時 には 極 めて 創 造的 であり
︑時 は 極 めて 破壊的 となる 集合的無意識
︑さらに は 身体 へと 繋 がる
︑広大 な 領域 なのである
︒相対的 に 普通 の 状態 においては
︑自我
︑心
︑身体 は 安定 し たバランスを 保 ち
︑人生 の 節目節目 を 乗 り 切 っていく
︒とこ ろがそれが 様々 な 要因 と 巡 り 合 わせ
︵布置
︶でうまくいかな いことが 起 きる
︒身体
︑こころの 病 であり
︑その 双方 にまた がるものとしての 摂食障害 がある
︒例 え ば
DSM│ Ⅳ では 以下 のように 定義 す る
Б︒神経性無食欲症
︵Anorexia Nervosa︶A︑
年齢 と 身長 に 対 する 正常体重 の 最低限
︑またはそれ 以 上 を 維持 することの 拒否
︒B︑体重 が 不足 している 場合 でも
︑体重 が 増 えること
︑または 肥満 することに 対 する 強 い 恐怖
︒C︑自分 の 体 の 重 さまたは 体形 を 感 じる 感 じ 方 の 障害│自己 評価 に 対 する 体重 や 体型 の 過剰 な 影響
︑または 現在 の 低体重
一九﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
の 重大 さの 否認
︒D︑初潮後 の 女性 の 場合 は
︑無月経
︑つま り
︑月経周期 が 連続 して 少 なくとも 三回 は 欠如 する
︒神経性大食症
︵Bulimia Nervosa︶A︑
むち ゃ 喰 いのエピソードの 繰 り 返 し
︒むち ゃ 喰 いのエ ピ ソ ー ド は 以 下 の 二 つ に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る
︒︵一
︶他 と はっきりと 区別 される 時間 の 間 に
︑ほとんどの 人 が 同 じよう な 環 境 で 食 べ る 量 よ り 明 ら か に 多 い 食 べ 物 を 食 べ る こ と
︒︵二
︶そ の エ ピ ソ ー ド の 間 は 食 べ る こ と を 制 御 出 来 な い と い う 感覚
︒B︑体重 の 増加 を 防 ぐために 不適切 な 代償行動 を 繰 り 返 す
︒例 え ば 自己誘発性嘔吐
・下剤
︑利尿剤
︑浣腸 または その 他 の 薬物 の 過 った 使用
・絶食
・または 過剰 な 運動
︒C︑むち ゃ 喰 いおよび 不適切 な 代償行動 はともに
︑平均 して
︑少 なくとも 三 ヶ 月 にわたって 週二回起 こっている
︒D︑自己評 価 は
︑体型 および 体重 の 影響 を 過剰 に 受 けている
︒E︑障害 は
︑神経性無食欲症 のエピソード 期間中 のみに 起 こるもので はない
︒記述的症候 の 特徴 はこの 様 なものであり
︑昨今 では
︑無食 欲症
︵拒食症
︶と 大食症
︵過食症
︶が 交互 に 来 る 摂食障害 と 呼 ば れ る も の が 多 い
︒先 述 し た よ う に
︑﹁食 す る こ と
﹂は 人 間 にとって 個人 としても
︑家族 としても
︑また 共同体 として も
︑楽 しみと 満足
︑安定感 の 源泉 である
︒しから ば そのよう な 人間 の 基本的 な 営 みが 何故障害 されるのであろうか
︒西欧文化 においては
︑デカルト 以来心身二元論 が 取 られ
︑身体 を 客体化 し
︑ほぼ 同時 に 出現 して 来 る
︑自然科学主義 に よって
︑こころは 身体 から 疎外 され
︑身体 の 自然科学的探索 は 現代 の 医学 の 発展 をもたらした
︒こころの 方 はフロイトの 登 場 に よ り
︑﹁エ ス あ る と こ ろ に 自 我 あ ら し め よ
﹂と い う 形 で 自我 の 優位性 の 文化 が 成立 し
︑近代 は 自我 と 意識 の 優位性
︑意識 の 整合性
︑科学主義 の 世界 となった
︒一方
︑それを 超 え たこころもあると 無意識 の 存在 を 主張 したのもフロイトなの であるが
︒この 無意識 の 概念 をさらに 拡 げていったのはユン グであることは 先 に 述 べた
︒一方西欧文化 はキリスト 教精神 に 裏付 けられ
︑垂直方向 へどこまでも 高 く
︑父 なる 神 へと 伸 び
︑一神教的世界 を 形成 する
︒とすると
︑身体 を 形成 する 大 地 性 よ り 天 へ と 伸 び る 精 神 性
︵spirituality︶が よ り 重 要 な も のとなり
︑身体
︑大地
︑そしてそれに 属 する 食 べることは
︑精神性 に 従属 したものとなっていく
︒もっとも 儀式 としての
︑キリストを 血肉化 する 聖餐式 はあるとしても
︒ここに 自我
・意識 による 身体 のコントロールのひとつの 根 がある
︒食 べる こと
︑身体
︑大地性 は 暗闇 への 通路 なのである
︒二〇
日本神話 においても
︑イザナミの 腐敗
︑解体 する 姿 を 見 た イザナキは
︑黄泉 の 国 の 死
︑醜悪 さ
︑破壊性
︑暗闇性
︑疫病 なる 災 いを 体現 するイザナミを 閉 じ 込 めて
︑アマテラスなる 清 浄 の 女 神 を 産 み 出 す
︒一 方 で
︑ス サ ノ オ
︵古 事 記
︶︑ツ ク ヨミ
︵日本書記
︶では
︑自 ら 所望 しておきながら
︑オオゲツ 姫 が 汚 い 身体 の 穴 から 食 べ 物 を 出 したという 理由 で 女神 を 殺 す
︒神 話 は こ の 姫 に よ っ て
︑五 穀 が も た ら さ れ た と 述 べ る
︒またアマテラスは 清浄 さを 体現 する 一方 で
︑天 の 岩屋戸 でア マテラスを 洞窟 から 引 き 出 すために 裸踊 りをしたアメノウズ メは
︑清浄 さと 対極 にある
︑猥雑性
︑暗闇性 を 示 す
︒またこ の 女神 は 五穀豊饒 を 祈 るシャーマニスティックな 儀礼 の 中心 を 担 い
︑食 べ 物 と 深 いつながりを 持 つ
︒そしてニニギノミコ トが 天孫降臨 をする 時
︑その 前 に 降 りたアメノウズメは
︑自 らの 性器 を 見 せて 勝負 して 打 ち 負 かした
︑地 の 神 サルタヒコ と 一緒 に
︑清浄 さと 対極 の
︑暗闇 さらにはイザナミにまで 通 ずる
︑大地性
︑性 を 体現 する
︒サルタヒコも
︑眼光鋭 く
︑場 を 開 く 神 としてトリックスターのような 役割 を 日本 の 神話 の なかで 果 たしている
︒さらに 不思議 なことに
︑アマテラスの 希望 で
︑伊勢 の 地 に アマテラスを 祭 る 神社 が 移 されるのであるが
︑その 地 は
︑ア メノウズメの 生誕地 なのである
︒そしてそこに 出来 た 伊勢神 宮 は 内宮 と 外宮 からなり
︑内宮 は 天皇 の 皇女 が 務 める 斎宮 が 守 り
︑斎宮 は 男性 を 近 づけることを 禁止 された 処女 でなけれ ば ならない
︒一方
︑外宮 の 方 は
︑斎宮 の 食 べ 物 の 世話 をする ために 豊受大神
︵トヨウケノオオカミ
︶を 移 して 来 て
︑成立 し て い く
︒中 沢 新 一 は こ う 述 べ る
︒﹁外 宮 の 豊 受 大 神 は 食 物 神 として
︑天照大神 の 背後 の 立 つような 関係 にある
︒太陽 の 神 にも 食物 の 供儀 が 必要 で
︑自然 に 内在 する 力 を 形而上学的 な 活 力 に 転 換 す る こ の 供 儀 を 通 し て
︑太 陽 の 神 は 力 を 得 る
︒この 転換 は 外宮 における 豊受大神 のもとでおこなわれる
︒そ の 意味 で 豊受大神 はみずからのうちに 闇 を 抱 えこむことにな る
В︒﹂こ う し て 太 陽 神
︑光 の 神 と 豊 受 大 神
︑食 物 神 で 闇 へ と 通 ずるものという 対極 が 形成 される
︒日本文化 とはこのバラ ンスのもとに 成 り 立 っていると 言 えよう
︒こうして 西欧 においては 心身二元論 から
︑身体 を 客体化 し
︑意識 が 精神性 へ 伸 びること
︑日本 においては
︑イザナミを 黄 泉 の 国 に 閉 じ 込 め
︑﹁食 す る
﹂こ と と 対 極 の 方 向 の 清 浄 さ を 求 める 文化 の 構造 が 分 かった
︒摂食障害 になっていく 人 たちは 女性 に 圧倒的 に 多 いことは 周知 の 事実 である
︒この 病 に 陥 る 人 たちは 先述 の 文化 のあり
二一﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
方 のなかで
︑思春期
︑前青年期 に
︑身体性 という 暗闇 に 属 す ることをうまく 扱 うことが 出来 ず
︑精神性
︑清浄性 の 方 に 一 面的 に 傾 いていった 人 たちと 見 てさほど 間違 いはないであろ う
︒その 病理性 のあり 方 は 統合失調症 に 近 いものから 神経症 までさまざまであり
︑これはかって 筆者 は 論 じたことが あ
Гる
Д女性性 の 成熟拒否 という 観点 からは
︑この 病 の 研究 の 第一人 者 である
︑下坂幸三 が 詳細 に 論 じてい る
Е︒ここではそのこと に 深 く 立 ち 入 らない
︒ここで 論 じた 視点 からは
︑無食症 では
︑本来自然 である 身体 から 切 り 離 されて
︑精神性
︑清浄性 の 方 に 一面的 になり 過 ぎた 自我
・意識 が 身体 をコントロールしよ うとして
︑身体性 から 切 り 離 される 事態 として 理解 されよう
︒これはユング 的 に 言 え ば
︑アニムスに 憑依 された 状態 で
︑取 り 入 れるべき 性的内容 や
︑エロスと 結 びついた 感情的色彩 は 無意識 へと 沈 められていると 言 えよう
︒また 大食症 では 同 じ ように 狭隘化 された 自我
・意識 によって 分化 を 阻 まれた 意味 内 容 が 衝 動 と な っ て 過 食 の 表 現 と し て 現 れ て い る と 言 え る
︒過食
・嘔吐 という 大食症 によくあるパターンでは
︑過食 によ って
︑さまざまな 意味内容 を 未分化 のまま 取 り 入 れ
︑無意識 の 慾動 を 満足 させ
︑嘔吐 によってすべてを 取 り 消 し
︑自我
・意 識 の 欲 動 を 満 足 さ せ る と い う 強 迫 性 防 衛 機 制 も 働 い て い る
︒次 に 日本 の 昔話 ではいかに 現 れているか 見 てみよう
︒二︑日本昔話﹁飯くわぬ女﹂ ―
広島県安芸郡
―昔
︑あるところに
︑ひとりの 男 がありました
︒いつまでも ひとり 者 でいるので
︑友達 が 心配 して
﹁もうええかげんにし て
︑嫁 でももろたらどうだい
﹂といって
︑嫁 を 貰 うようにす すめました
︒けれども
︑その 男 は
﹁いつまでまってもええが
︑物 を 食 わない 嫁 があったら 世話 してくれ
﹂といいました
︒そういっていると
︑ある 日 の 夕方
︑その 男 の 家 へきれいな 女 が 来 て
︑﹁わ た し は 旅 の 者 で す が
︑日 が く れ て な ん ぎ を し ておりますから
︑どうかひと 晩 とめてたもれ
﹂と
︑宿 をたの みました
︒男 は
﹁宿 はかしてもええが
︑うちには 食 べるもの がないよ
﹂といって
︑ことわりました
︒けれども
︑女 は
﹁わ たしはなんにも 食 べません
︒ものを 食 わん 女 です
︒泊 まるだ けでええです
﹂といって
︑たのみました
︒男 はたまげたけれ ども
︑その 女 をとめることにしました
︒女 はあくる 朝 になっても
︑出 ていこうとしません
︒いろい ろ 用事 をしてくれるので
︑男 はいつまでもとめておきました
︒なによりもよいことは
︑なにも 食 べないで 仕事 ば かりしてい ることだ
︒けれども
︑いつまでたっても 何 も 食 わないので
︑二二
男 は 少 したべてみいというてみたが
︑女 は 匂 いだけかいどれ ば ええといって
︑どうしてもたべなかった
︒男 は
︑世 の 中 にこんなええ 女房 はないと 思 うて
︑友 だちに 自慢 していました
︒けれども
︑誰 もほんとうにするものはな かった
︒そのうちに
︑いち ば ん 仲 のよい 友 だちがやって 来 て
︑﹁お い
︑お 前 は ど う し た ん や
︑ま だ 気 が つ か ん の か
︒お 前 の 女房 は 人間 じ ゃ ないよ
︒しっかりせにゃ いかんよ
﹂とおしえ てくれました
︒けれどもその 男 は
︑﹁そんなことがあるものか
﹂といって
︑とりあわなかった
︒﹁
知 ら ん の は お 前 だ け じ ゃ
︒村 じ ゃ 大 き な 評 判 じ ゃ よ
︒世 の 中 に 物 くわん 人間 があるものか
︒うそじ ゃ と 思 うなら
︑ど こかよそへいくふりをして
︑女房 に 気 づかれんように 天井 に 上 がって
︑何 をするかみてみろよ
﹂といいました
︒あ る 日
︑男 は 町 へ い く と き
︑﹁夜 に な ら ん と 戻 ら な い よ
﹂といって
︑家 を 出 ていきました
︒一町 ば かり 行 ってからもど って 来 て
︑女房 に 知 られないようにそっと 天井 へのぼってい ました
︒女 は 一人 になると
︑米 をとぎはじめました
︒火 をど んどん 焚 いて
︑飯 を 炊 きはじめました
︒飯 が 出来 るとにぎり 飯 を 三十三 こしらえて
︑台所 から 鯖 を 三匹 とって 来 て 火 にあ ぶりました
︒それから 立膝 をして
︑髪 の 毛 を ば ら ば らほどい た
︒どうするか 見 ていると
︑頭 のまん 中 の 大 きな 口 の 中 にに ぎり 飯 やら
︑あぶった 鯖 やらどんどん 投 げこんで
︑食 ってし まいました
︒男 はこれを 見 て
︑肝 をつぶして 天井 からそっと 降 りて
︑友 だちのところへ 逃 げて 行 きました
︒﹁
そ れ み た こ と か
︑い わ ん こ つ じ ゃ な い
︒だ が な
︑今 日 は 知 らん 顔 して 家 へいぬるがええ
﹂といったんで
︑男 は 知 らん 顔 をして 家 に 帰 りました
︒いってみると
︑女房 は 頭 がいたい と い っ て
︑寝 て い ま し た
︒ど う し た の か と た ず ね る と
︑﹁ど うもせんが
︑気持 が 悪 うてねとる
﹂と
︑ねこなで 声 で 答 えま し た
︒﹁そ り ゃ い か ん
︒薬 で も の ん で み る か
︑祈 祷 で も し て も ろ う て み る か
﹂と い っ た ら
︑﹁わ た し ゃ
︑ど う す り ゃ え え かわからん
﹂といって
︑いまにも 飛 びつきそうなようすをし ました
︒﹁
そ れ じ ゃ
︑お れ が い ま 祈 祷 師 を た の ん で き ち ゃ る
﹂と い っ て
︑友 だ ち の と こ ろ へ と ん で い っ て つ れ て 来 ま し た
︒﹁何 の た た り だ あ
︒三 升 飯 の た た り だ あ
︒鯖 三 匹 の た た り だ あ
﹂と 友 だちがいうと
︑女 はそれを 聞 いて 飛 びおき
﹁うーん
︑お 前 たち ゃ
︑見 ていたのう
﹂といって
︑友 だちを 頭 からがしが し 食 いだしました
︒二三﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
男 はひどくびっくりして 逃 げようとすると
︑女 は 友 だちを 食 ってしまうとその 男 をとらえて
︑子猫 のようにぶらさげて 頭 の 上 にのせて
︑さっさと 山 の 方 へ 逃 げて 行 ってしまいまし た
︒そうして
︑野 をこえ
︑山 をこえて
︑うさぎのようにかけ て 行 きました
︒森 の 中 にかかったとき
︑目 の 前 に 木 の 枝 がつ き 出 ていたので
︑男 はしめたと 思 って 枝 に ぶらさがりました
︒飯食 わぬ 女房 の 鬼 はそれとも 気 づかないで
︑どん ば んかけて 行 きました
︒男 は 木 からおりて
︑そこのよもぎとしょうぶのくさむらの 中 に
︑そっとかくれていました
︒すると 鬼女 は 男 のかくれて い る と こ ろ に 引 き 返 し て 来 て
︑﹁お 前 が ど こ に か く れ て い て も
︑逃 がすものか
﹂といって
︑とびかかろうとしました
︒け れ ど も
︑も う 少 し と い う と こ ろ で と び の い て
︑﹁あ あ
︑う ら めしい
︒よもぎとしょうぶぐらい
︑このからだに 毒 なものは ない
︒この 草 にふれたらからだがくさるんじ ゃ
︒その 草 がな かったら
︑お 前 も 食 ってしまうのになあ
﹂といって
︑たいそ う 残念 がりました
︒男 はこれで 大丈夫 だと 思 って 鬼 に 投 げつ けました
︒さすがの 鬼 も 毒 にかかって 死 んでしもうたそうで す
Ё︒ 三︑﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的解釈飯 くわぬ 女 の 物語 は 相当幅広 く 日本中 に 広 まって 採取 され ている
︒このことは
︑先 に 論 じたとおり
︑人間 にとっての 食 べることの 重要性 を 示 しているし
︑物語 の 採取 された 時代 に おける 窮乏 の 問題 がよりいっそう 食 べることの 重要性 を 際立 たせている
︒ここでは 分析心理学的 に 視 たこころの 問題 とし て
︑この 物語 を 心理学的 に 見 てみよう
︒作者不明 であり
︑あ ちこちで 語 り 継 がれていることは
︑ユングの 概念 に 従 え ば
︑こころの 骨格 としての 心的 パターンすなわち 元型的 イメージ
︵archetypal image︶を 示 しているからである
︒物 語 の 出 だ し は
︑﹁昔
︑あ る と こ ろ に ひ と り の 男 が あ り ま した
﹂とある
︒どうも 寒村 であり
︑森 からさほど 遠 くなく
︑む し ろ 町 へ 行 く と き
︑﹁夜 に な ら ん と 戻 ら な い よ
﹂と 女 に 伝 えていることを 考 えると
︑町 からは 相当遠 いようである
︒こ れは 現実世界 から 相当遠 く
︑むしろ 無意識 を 象徴的 に 示 すこ とが 多 い 森 に 近 いことから
︑この 男 は 異界 との 境界 に 住 んで いるようである
︒森 とは 日本 では 山 とほぼ 同 じ 意味 で 使 われ ることが 多 く
︑この 物語 でも 区別 はあまりない
︒森
︵山
︶に は
︑日本民俗 に 遍 く 登場 する 山 の 神 が 住 み
︑それは 耕作期 に
二四
は 田 の 神 として 里 に 降 りて 来 る
︒また 狩 りの 神 として 重要 な 役割 を 果 たす 十二様 という 女神 も 住 むところである
︒と 同時 に
︑鬼 も 山 に 住 み
︑山姥 も 住 んでいる
︒さらには
︑祖霊 とも 深 く 関 わり
︑仏教 では
︑死後四九日 までは
︑死霊 は 山 の 端 を 彷徨 うという
︒かように 山 はさまざまな 意味 を 担 って 人間 と 関 わっている
︒つまり 狩猟
︑採取 などを 通 して
︑豊饒 と 関 わ るとともに
︑自然神 として 超越 なるものと 関 わると 同時 に
︑自然 の 猛威
︑人間 を 喰 らう 鬼
︑山姥 として 破壊的 なものとも 関 わり
︑その 様相 は 無意識 なるものそのものである
︒日本 の 山々 はその 深 い 森 とともに 何 と 多 くが
︑その 山自体
︑御神体 になっていることであろう
︒この 山際 の 小 さい 寒村 に 男 はひとりで 住 んでいる
︒親 も 兄 弟 も 誰 も 親族 がいない 孤独 な 生活 を 送 っている
︒しかしまっ たく 孤立 している 訳 ではない
︒友 だちがひとり 者 である 男 に 嫁 をもらえと 勧 めてくれる
︒男 はそれに 応 じない ば かりか
︑﹁飯 く わ ぬ 女
﹂な ら 良 い と 答 え る
︒不 思 議 な こ と で あ る
︒お そらく 男 は 二
〇代 か 三
〇代 であろう
︒異性 を 求 めて 当然 の 年 齢 で あ る
︒に も 関 わ ら ず
︑﹁飯 く わ ぬ 女
﹂と い う 人 間 で は あ り 得 ない 存在 なら ば 良 いという
︒これは
︑単 なる 彼 の 吝嗇 さ 故 の 問題 であろうか
︒そうではあるまい
︒現在 の 恋愛観 や 結 婚観 の 通用 しない 足入婿 の 時 代
Жであったとしても
︑異性 への 思 いは 古事記
︑万葉集 の 時代 から
︑否
︑人間 の 歴史 の 始 まり から
︑エロス 原理 の 重要 なる 表現 としてずっと 存在 し 続 けて いるのである
︒家父長制 の 時代 で
︑足入婚 で 男性 が 優位 に 離 婚出来 る 文化 であったとは 云 え
︑この 男 の 吝嗇振 りは 度 が 過 ぎている
︒よって 彼 は 異性 とエロスによって 繋 がることが 出 来 ない 問題 を 持 っていたと 言 えよう
︒このような 男 の 場合
︑彼 の 女 性 イ メ ー ジ は
︑﹁浦 島 太 郎
﹂の 乙 姫 の よ う に 深 い 海 の 底 のイメージとなったり
︑羽衣伝説 の 天女 になったり
︑人間 として 近 づくことの 出来 ない 存在 となる
︒統合失調症 によく 見 られる 女性 イメージである
︒またその 反対 として
︑ギリシ ア 神話 に 登場 する 西 の 国 の 果 てに 住 む
︑髪 の 毛 がみんな 蛇 で
︑なおかつメドウサ 以外 の 二人 は 不死 であるゴルゴン 三姉妹 に 象徴 される 破壊的 なもの
︑旅人 を 美 しい 歌声 で 川 の 底 に 引 き ず り 込 む ロ ー レ ラ イ の よ う な 無 意 識 へ と 誘 う 存 在 と な ろ う
︒山姥 もこの 類型 に 属 するであろう
︒さてこの 男 の 家 に 旅 の 女 が 尋 ねて 来 て
︑宿 を 乞 う
︒飯 はな いと 男 が 言 うと 飯 は 食 べないという
︒しかも 女 はきれいらし い
︒男 にとっては 願 ってもないことである
︒しかし 飯 を 食 わ ぬ と い う こ と の 不 可 思 議 さ を 感 じ な い ば か り か
︑﹁こ ん な え
二五﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
え 女房
﹂はいないと 自慢 していて
︑友 だちが 忠告 しても 耳 も 貸 さないとはどうしたことであろう
︒彼 の 行 き 過 ぎた 功利的 価値観 によるものか
︒それとも
︑戯画化 された 形 で 女性 のき れいさのみを 見 て
︑身体 にまつわる 生命性 にまったく 無関心 であるという 歪 んだ 女性 イメージなのであろうか
︒往々 にし て
︑男性 の 女性 への 投影 するイメージはこの 父権的価値観 の 世界 のなかで 男性 の 身勝手 な
﹁きれいさ
﹂のイメージを 女性 に 押 し 付 ける
︒中国 の 纏足 しかり
︑ヨーロッパのコルセット し か り で あ る
︒ア ノ レ キ シ ア
︵anorexia nervosa ︶で 始 ま る 摂食障害 も
﹁スレン ダ ーであること
﹂という 男性 の 欲望 の 視 線 も 無関係 ではあるまい
︒それでも 男 は 月日 が 経 つうちにさすがにおかしいと 思 い
︑友 だちの 忠告 を 受 け 入 れる
︒町 へ 行 くと 言 って 天井 から 見 て い る と
︑女 は 髪 を ば さ っ と 降 ろ し た 時 に 現 れ る 大 き な 口 に 三十三個 のおにぎりと 鯖三匹 を 投 げ 込 んで 食 ってしまう
︒男 は 肝 をつぶして 友 だちのところへ 逃 げる
︒そして 友 の 忠 告 に 従 って
︑家 へ 帰 ると
︑女 は 寝 ていて
︑頭 がいたい
︑気分 が 悪 いという
︒薬 をやろうか
︑祈祷師 を 呼 ぼうかと 男 は 声 を かけるが
︑この 時点 では
︑もう 女 のこの 世 ならぬ 存在 を 知 っ ているのであり
︑優 しさの 表現 でも 何 もない
︒女 のねこなで 声 が 虚 しい
︒祈祷師 を 頼 んできち ゃ ると 男 が 言 って 連 れて 来 た 友 だちが
︑女 の 正体 を ば らす
︒ただならぬ 過食 の 姿 であろ う
︒にぎり 飯三十三個 とあぶった 鯖三匹 に 意味 があるのであ ろうか
︒それぞれのシンボリズムはどこまで 問 えるが 不明 で あるが
︑当時 の 時代状況 からすれ ば 大変 な 量 であることには 間違 いない
︒現代 の 過食症
︵bulimia nervosa︶においても
︑大変 な 量 を 食 べる
︒そして 食 べ 続 ける
︒バター
︑マヨネーズ などの 高 カロリーのものを 食 する
︒ほとんどがその 後嘔吐 す るが
︑そうしない 場合 もある
︒これらの 症状 は 食 べることに より
︑自我
・意識 の 存在 の 狭隘化 のため
︑抑圧 され 未分化 と なった 無意識 が 過食 の 衝動 となって 自我
・意識 を 襲 っている と 云 えよう
︒いわ ば 倒錯 した
﹁取 り 入 れ
﹂である
︒ここでは もう 既 に 普通 であれ ば 機能 する 視床下部等 の 満腹中枢 は 機能 を 失 っている
︒多 くの 場合 はこの 無意識的欲動 を 打 ち 消 すた めに 嘔吐 する
︒これは
︑先述 したように
︑強迫性障害 に 見 ら れる
﹁取 り 消 し
︵undo︶﹂と 類似 しており
︑これによって 自我
・意識 あるいは 超自我 の 欲動 を 満足 させる
︒摂食障害 の 人 に 超 自我 の 強 い
︑強迫性性格 の 人 が 多 い 由縁 である
︒ユング 的 に 語 れ ば
︑内的男性 イメージ
︵アニムス
︶が 肥大 し
︑本来 は 身 体性 として 自然 に 属 することも 意識 でコントロールしようと
二六
するアニムスに 憑依 された 状態 であろう
︒この 女 は
︑しかし
︑アニムスに 憑依 された 男性的 な 女性 と いうよりむしろ
︑いわゆる 女性的 で
﹁きれいな
﹂女性 なので ある
︒日本文化 のなかには
︑斎宮制度 や
﹁御飯 を 縦 に 入 れる 小 さい 口 など
﹂美人 の 要件 として
︑清楚 で
︑性的 なるもの
︑身 体 性 か ら は ず れ る こ と が よ し と さ れ る 風 潮 は 存 在 し て い た
︒この 男 の 前 に 現 れた 女性 とは
︑まさにその 姿 を 体現 した 女性 であった
︒女性的 なる 存在 が
︑食 すること
︑性的 なるも のを 抑圧 し
︑きれいなる 存在 に 狭隘化 されると
︑それらとは 他 の 部分 は 未分化 で 無意識 なるものとなり
︑押 さえ 付 けれ ば 押 さえ 付 けるほど
︑人間的存在 から 離 れるが 故 に
︑自我
・意 識 と 敵対化 していく
︒そして
︑その 無意識内容 はアーケイッ ク と な り
︑多 く は 衝 動 と な り
︑過 食 と な り そ の 人 間 を 襲 う
︒過食 の 謂 われである
︒摂食障害 の 過食 は
︑衝動 となって
︑その 人間 を 襲 い
︑多 く の 場合 は 嘔吐 によって 取 り 消 しを 行 う
︒しかし
︑この 物語 の 女 は
︑それに 留 まらず
︑妖怪 となる
︒その 姿 は
︑何 もかも 飲 み 込 んでしまうグレートマザーのネガティブな 側面 であり
︑無意識 なる 世界 へと 自我
・意識 を 引 きずり 込 んでしまう 女性 的側面 の 負 の 部分 であろう
︒ここまで 来 るとその 姿 は 山姥 と なり
︑普通 は 男性 の 姿 で 描 かれる 鬼 と 同一視 されている
︒物 語 の 後 半 で は 飯 く わ ぬ 女 は
︑も う 既 に 鬼 と 表 現 さ れ て い る
︒こ の 女 の イ メ ー ジ は
︑﹁き れ い
﹂に 閉 じ 込 め ら れ た 女 性 的 存 在 の 無意識 が 妖怪 となる 程 の 狭隘化 されている 姿 を 示 すと 同 時 に
︑他方 では
︑この 吝嗇 で
︑功利的価値観 のみを 生 きて
︑異性 へとつながるエロス 性 に 開 かれていないこの 男性 の 内的 女性 イメージ
︑すなわちユング 的 に 言 え ば この 男性 のアニマ 性 をも 示 している
︒泉鏡花 の
﹃夜叉 ヶ 池
﹄では
︑はかなくも 凄 まじい 女性 イメージが 現 れる
︒山奥 の 寒村 に
︑神主 の 娘 で 今 は 独 り 身 となって 村 から 孤立 した
︑一人 の 美女 が 棲 む
︒そ こに 東京 からやって 来 た 男性 が
︑不思議 な 経緯 で
︑昔夜叉 ヶ 池 の 龍神 と 村人 が 交 わした 約束
︑日 に 三回鐘 を 撞 くことを 履 行 することになる
︒男 はその 美女百合 と 一緒 になってこの 村 に 棲 む
︒ここでクロノロジカルな 時間 は 消 え
︑幻想的 な 世界 に 入 る
︒村 が 大旱魃 となっていて
︑龍神 に 生贄 を 捧 げようと 村人 は 百合 を 襲 う
︒百合 は 自 ら 自刃 し
︑男 も 後 を 追 う
︒そこ に 龍神 の 化身 である 白雪 が 現 れ
︑約束 を 破 った 村人 への 報復
︑百合 を 殺 したことへの 報復 で 池 を 決壊 させ
︑村 は 洪水 で 滅 び る
︒白雪 は 龍 となって 身体 に 男 と 百合 を 乗 せ
︑巨鐘水 となっ て
︑加賀 の 白山
︑剣 が 峰 へと 去 る
︒ここで 百合 と 白雪 は 同 じ
二七﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
で
︑女性 の 持 つ 美 と 妖 しさ
︑破壊性 を
︑鏡花 は 見事 に 描 いて みせ る
З︒これもまた 共同体 が 押 し 付 けた 美 の 意識 に 捕 らわれ
︑身体性 をも 含 む 他 の 女性的部分 が 無意識 となると
︑その 女性 的 なるものの 無意識 が
︑いかにアーケイックで 恐 ろしいもの かを 示 している
︒アンデルセン
︵Andersen,H.C.︶の
﹃人魚姫
﹄の 物 語
Иでは
︑下半身 が 魚 である 人魚姫 が
︑人間 である 王子 に 恋 をして
︑足 をもらう 代 わりに 声 を 失 い
︑最後 は 人魚 の 持 つ 不死 を 失 い
︑海 の 泡 と 消 える 悲 しい 物語 である
︒かって 筆者 の ス イ ス で の 分 析 家 で あ っ た 今 は 亡 き ヴ ァ ル ダ ー 氏
︵Walder,P.︶は 下 半 身 の 魚 の 尾 は 女 性 の 持 つ ド ラ ゴ ン 性 で あ ると 教 えてくれた
︒これには
︑人間 に 成 り 切 れない 人魚姫 の 悲 しさと 西欧文化 の 人間中心性
︑進化論的匂 いを 消 せないが
︑それでも
︑グレートマザー 性 と 並 んで
︑女性 の 持 つ 神秘性
︑身体 との 結 びつきの 強 さを 示 し
︑摂食障害 という 病 が 女性 に 圧倒的 に 多 いという 臨床的事実 と 無関係 ではあるまい
︒さてこの 鬼 と 化 した 飯 くわぬ 女 だが
︑よもぎとしょうぶに めっぽう 弱 い
︒最後 にはその 毒 にかかって 死 んでしまう
︒こ のよもぎとしょうぶは 何 であろうか
︒五来重 によると 五月四 日 は
﹁女 の 家
﹂の 日 という 民俗的習慣 があり
︑その 時山 から やって 来 る 鬼 を 防 ぐ 力 が
︑よもぎやしょうぶにあり
︑女 の 家 の 屋根 はこれらで 葺 かれたことが
︑ここでは 山姥 すなわち 鬼 を 退治 する 力 があるとされるのではと 推論 している
︒ちなみ に
﹁女 の 家
﹂と は
︑五 月 四 日 に 女 だ け が 集 ま り
﹁夜 ご も り
﹂をし
︑し ば しの 休息 をとったという 習俗 である
︒またしょう ぶとよもぎは 邪気 を 祓 うために
︑中国 の 端午 の 節句 で 使 われ たことに 由来 しているとい う
КУ︒とまれ 山姥
︑鬼 と 化 した 飯 く わぬ 女 はよもぎ
︑しょうぶで 殺 されてしまうのである
︒類似談 には
︑桶 の 代 わりに 瓶 や 甕 などに 入 れられたりする ものもあり
︑くもになってやって 来 た 女 を 焼 き 殺 すなど 百数 十話 あるとい う
КФ︒この 数 はかなりと 言 ってよいであろう
︒飯 くわぬ 男 とは 少 なくとも 関啓吾編 の
﹃日本 の 昔 ば なし
﹄には ない
︒このことはこの 物語 は 女性 の 特質 を 表 すもののひとつ と 考 えてもさほど 無理 はなかろう
︒次 に 事例 を 見 てみよう
︒四︑事例栄子の場合
〜死に魅せられた儚さ〜
1︑現病歴
栄子 は
X年一二月 に 筆者 の 元 に 受診 してきた
︒それまで 二 年 に 亘 って
︑特別 な 思 いをもって 診療 してきた 先輩医師 から の 紹介 である
︒主訴 は
︑過食 を 主 とする 摂食障害 と 甲状腺機
二八
能低下症 である
︒栄子 は
X―八年
︑一五歳時
︑体重 が 六
〇㎏ となり
︑ダ イエ ッ ト を し て 三 週 間 で 四 六 ㎏ に す る よ う な 過 激 な 痩 せ 方 を し て
︑生理 も 止 まってしまうというところから 病歴 が 始 まった
︒ちなみに 彼女 は 身長 が 一五五 ㎝ であるから
︑相当 の 過食 が 高 校入学前後 から 始 まったと 推測 される
︒高校二年時 また 過食 が 再発
︑五四 ㎏ まで 上昇
︑この 頃 より 抑 うつ 傾向 も 出現 して きたが
︑嘔吐 することもなくフィットネスクラブに 通 うこと で 体重 をコントロールし
︑無事有名高校 を 卒業 した
︒しかし
︑大学受験 には 第一志望 の 有名国立大学 を 受験 するも 失敗 し
︑一浪後
︑志望 の 有名女子大 に 合格 し
︑自分 の 好 きな 考古学 を 選択 することが 出来 た
︒大学時代 は
︑一回生 は 孤立 していた が
︑二回生 になると 友 だちも 出来 て 比較的順調 に 過 ごしたよ うである
︒しかしそこに
︑一九九五年一月一七日
︑あの 大震 災 が 襲 う
︒彼女 の 家 は 大丈夫 であったが
︑父方祖母 の 家 が 全 壊 し
︑祖母 と 同居生活 が 始 まる
︒この 祖母 との 折合 いが 悪 く
︑それから 本人 は 抑 うつとなったと 言 う
︒X―
四年
︑二回生 の 終 り
︑弟 が 遠方 の 大学 に 入 り
︑彼 の 下 宿探 しで
︑母親 が 一週間家 を 留守 にし
︑祖母 との 間 の 緩衝帯 が 無 くなり
︑かつ 栄子 が 祖母 の 世話 をしなけれ ば ならなくな り
︑調 子 が 狂 っ て し ま う
︒父 親 は 仕 事 中 心 で 家 に は 居 な い
︒兄 も 大学 で 下宿 し
︑祖母
︑母親 と 三人 だけの 生活 になったの である
︒過食 の 消長強 く
︑抑 うつ 感
︑死 にたい 願望 が 強 くな り
︑何度 もリストカットを 繰 り 返 す
︒大量服薬 もしてしまい
︑X―二年 には 某病院 に 二 ヶ 月入院 するが
︑入院患者 にセクハ ラされ
︑大 きなショックを 受 け
︑泣 いて ば かりいて 退院 する
︒その 後
︑他 の 大学病院 へ 行 くが 合 わず
︑筆者 の 勤務 する 病院 で 前医 に 出会 い 二年間通院 する
︒栄子自身 は 総計七回 しか 来 ておらず
︑母親 が 薬物 を 取 りに 来 て 繋 いでいた
︒そして
︑前 医退職 により 筆者 に 依頼 された
︒ちなみに 祖母 は 栄子 とあま りに 合 わないため
︑近 くの 県営住宅 で 独居 することとなった
︒2︑家族構成と事実的生活史
栄子 は 一九
XX年生 まれで
︑受診時二四歳
︑一歳上 に 兄 が あり
︑六歳下 に 弟 を 持 つ
︒兄 とも 弟 とも 仲 はよいという
︒二 人 とも 大学生 である
︒父親 は 有名会社 の 管理職 で
︑X―二年 より 単身赴任 で 月一度帰 って 来 る 程度 である
︒栄子 の 父親 イ メージは 悪 く
︑命令的 でずっと 塾 に 通 わされ
︑高校 も 父親 の 意志 で 決 めている
︒自分 のことを
﹁無愛想 だ
﹂と 言 い
︑それ を 母親 のせいにしている
︒仕事人間 で 夜 しか 家 にいない 人 だ
二九﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
った
︒父母 は 同 じ 大学 で 知 り 合 い 結婚 している
︒母親 は
︑厳 しい 父親 から
﹁必死 に 自分 を 守 ってくれる
﹂優 しい 存在 であ る
︒母親 も 知的 な 人 で
︑某私立大学 で
︑外国語 の 非常勤講師 をしている
︒事実的 な 生活史 を 振 り 返 ってみると
︑幼少時
︑生 まれてし ば らくして
︑父親 の 仕事 の 関係 で
︑ヨーロッパの 大 きな 有名 都市 で 五年間 を 過 ごし
︑現地校 と 日本人学校 と 両方 に 通 って いた
︒X―一八年一一月
︑帰国
︑日本 の 小学校 に 入 るが
︑二 年間 ずっと 虐 められていて
︑友 だちはなかったという
︒小学 校三年時
︑エレベーターで 痴漢 に 遭 い
︑父親 に 告 げるが
︑ま ともに 受 け 取 ってもらえず
︑それ 以来父親 との 関係 は 修復出 来 ないという
︒小学校高学年 は 塾 ば かりで
︑友 だちと 遊 んで はいたが
︑これといって 友 だちはなく
︑それが 当 たり 前 と 思 っていたと 語 る
︒中学 は 有名国立大付属中学 を 受験 するが 失 敗 し
︑私立女子中学校 に 通 う
︒友 だちはまったく 作 らなかっ た
︒初潮 は 一
〇歳 の 時 に 来 た
︒高校 も 有名進学校 を 受験 する が 失敗 して
︑私立有名女子高校 へ 入学 する
︒この 時 も 父親 は 別 の 女 子 高 校 に 行 け と 怒 鳴 っ て い た と い う
︒中 学 三 年 時 に 六
〇㎏ となり
︑ブルマーをはくのが 嫌 だったと 語 る
︒既 に 過 食傾向 が 始 まっていたと 推測 される
︒彼女 は 中学時代
︑暗 い 子 で
︑高校 も 仲 のよい 友 だちがひとりいて 泊 まりにいったり して
﹁少 し 遊 んだ
﹂という
︒後 は
︑受験勉強 と 病気 に 苦 しめ られる
︒以後 は 現病歴 と 重 なる
︒3︑見立て
生活史 で 見 て 来 た 通 り
︑生活史 そのものがもの 悲 しい
︒母 親
︑兄
︑弟以外 とは 誰 とも 繋 がらず
︑いじめられ 体験
︑痴漢
︑受験 の 挫折 と 痛 ましい ば かりである
︒晴 れやかであるはずの 小学校入学体験 もヨーロッパからの 転校 ということで
︑虐 め られた 体験 から 始 まる
︒一
〇歳 で 初潮 を 迎 えるということか ら 推察 して
︑小学三年時 も 肉体的 にはかなり 早熟 だったので あ ろ う か
︑痴 漢 に 遭 い
︑そ れ が 父 親 に よ っ て 無 効 化 さ れ る
︒初 潮 を い か な る 気 持 で 受 け 止 め て い っ た の か は 定 か で は な い
︒し か し 思 春 期 を 準 備 し て い く サ リ ヴ ァ ン
︵Sullivan,H.S.︶の 使 う ギ ャ ン グ エ ー ジ
︵gang age︶は ま っ た く 通 過 し て い ないと 推測 される
︒そして 思春期 の 入 り 口 の 通過儀礼 の 大 き な 儀式 とも 言 うべき 中学入学 も
︑受験失敗 ということで
︑暗 い 影 を 落 とす
︒栄子 は 中学時代 は
﹁暗 かった
﹂とあまり 語 り た が ら な い
︒さ ら に 前 青 年 期
︵praeadolescence︶と な り
︑一歩大人 に 近 づく 時期 にまた 受験 の 失敗 である
︒三〇
ここにある 自己愛 の 傷 つきはいか ば かりであろうか
︒過食 症 という 病 はもう 背後 に 迫 っている
︒衝動 となった 食行動 と
︑﹁痩 せ て あ ら ね ば
︑こ の 世 に 繋 が れ 切 れ な い
﹂と い う 思 い の なかで 栄子 は 引 き 裂 かれる
︒このような 二律背反的 な 葛藤 は 当然死 の 衝動 へと 彼女 を 誘 う
︒栄子 の 病 は 摂食障害 を 超 えて 人格障害
︵personality disorder︶の 領域 に 踏 み 入 れており
︑感情的 にも
︑ずっと 離人体験 があったのではと 窺 わせるほど に 表現 はクールであり
︑存在 そのものが 儚 く
︑大地性 から 切 れている
︒よって 治療者 である 筆者 はあえて 分析的治療 に 持 ち 込 まず
︑筆者 が 自 ら 名付 ける 分析心理学的精神療法 を 行 う 外来 に
︑隔週一度通 って 来 てもらうという 形 で 治療 が 始 まっ た
︒し ば らくして 面接 は 毎週 となる
︒4︑面接の経過X
年一二月
〜X+一年一二月
#
二
︑正月 に 一日 だけ 不安定 になり
︑マンションの 六階 か ら 飛 び 降 りようとした
︒病気 になってからずっと 死 にたいと 思 ってきた
︒昨年六月 までの 三 ヶ 月間
︑右手 をカッターで 切 っていた
︒他
︑先述 した 生活史的事実 を 語 ってくれる
︒父親 と 合 わ な い と 痛 切 に 語 る
︒治 療 者
︵以 下
︑thと 表 示
︶は 過 食 の 衝動 は
︑窮屈 になっている 自我 に 混沌 とした 無意識 が 押 し 寄 せてきているものであるし
︑死 にたい 願望 は
︑本当 は
︑身 体的 に 死 ぬことを 望 んでいるのではなく
︑狭隘化 した
﹁自我 殺 し
﹂なのであることなどを 説明 し
︑し ば らく 一緒 にやって 行 こうと 話 す
︒﹁自我殺 し
﹂とはローゼ ン
︵Rosen,Devid︶の 概念 で
︑サンフランシスコの 金門橋 から 飛 び 降 りて 自殺 を 計 り
︑生 き 残 った 人 をインタヴューした 結果
︑彼 たちは 本当 は 肉体的死 を 望 んだのではなく
︑行 き 詰 まった 自我 を 殺 し
︑再 生 したかったのだという 結論 を 得 て
︑それを 彼 は
﹁自我殺 し
︵egocide︶﹂と 名 づけ た
КХ︒#
三
︑中三 になった 時
︑六
〇㎏ になったいきさつなどを 語 り
︑二週間前 から 無気力 となり
︑三日前 より 過食 になってい ると 言 う
︒男友 だちはいたことがない
︑別 に 嫌 いではないが とも
︒#
四
︑やや 抑 うつ 気味
︒生理
︑出血 が 多 い
︑過食気味 とな っていると 語 る
︒男性 は 好 きになったことはあったが
︑太 っ ていたからずっとコンプレックスがあった
︒二回 のトラウマ は 関係 がなく
︑異性 に 抵抗 がある 訳 ではないと
︒調子 の 良 い のは
︑ここし ば らくは 一 ヶ 月 で 七日 ぐらいである
︒さらに 祖 母 と の 同 居 で 母 が い な く な っ た 時 の 嫌 な 気 分 を 切 実 に 語 る
︒三一﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死
本当 は 四回生 のガイ ダ ンスを 受 け
︑四月 から 復帰 するつもり だったのに
︑しんどくて 行 けず
︑心療内科 を 受診 した
︒#
五
︑風邪 で 本人来 られず
︑母親 が 来院
︑過食 は 生理 の 周 期 に 左右 され
︑生理前 に 始 まり
︑生理 の 途中 で 終 る
︒本人 も 分 かっている
︒thには 良 い 感 じを 持 っているようである
︒#
六
︑風邪 が 長引 いている
︒#七
︑母親 と 弟 とスキーに 行 って 来 たと 調子 は 良 い
︒#八
︑ずっと 調子 が 良 い
︒自分 には 感情 を 抑 えるところがある
︒泣 くことも 恥 ずかしいと 思 って いた
︒ヨーロッパにいた 頃 が 一番自由 だったと
︒日本 に 帰 っ てから 虐 められ
︑うつになってから 毎日泣 いていた
︒泣 かな くなったのは 昨年六月頃 から
︒#九
︑帰国後友 だちはあった が 小四 の 時裏切 られ
︑それ 以来 これ 以上他人 を 入 れない 壁 を 作 った
︒中学校 でもフルートをやっていて
︑先輩 に 可愛 がら れもしたが 中三 の 時 ぱっと 辞 めた
︒繋 がりの 薄 さを 感 じさせ る 経緯 である
︒#
一
〇︑この 週 から 激 しい 自殺衝動 が 出 て 来 る
︒虚 しく
︑履 修 の こ と を 考 え る と ぱ っ と 飛 び 降 り よ う か と
︒thは
﹁自 我 殺 し
﹂の 話 しを 繰 り 返 し
︑何 とか 凌 ごうと
︑面接 を 毎週 に 切 り 替 える
︒#
一一
︑記憶 が 飛 び
︑前後関係 は 無茶苦茶 になり
︑空虚感 が 強 くなる
︒#一二
︑死 への 衝動 は 少 なくなるが
︑退行 し 母 親 の 乳房 を 触 りにいく
︒#一三
〜一七
︑気分 のアップ ダ ウン 激 しく
︑過食 し
︑腕 を 自傷 する
︒#
一 八
︑夏 に な り や や 落 ち 着 く
︒母 親 の 胸 に 興 味 が い く
︒#一九
〜二
〇︑面接 の 間隔 が 一 ヶ 月間 は 空 く
︒過食 は 安定 し ているが
︑夏風邪 が 長引 く
︒#二一
︑弟 が 大学 に 帰 り 淋 しい
︒夢一
﹁母親 が 自分 の 首 を 絞 める
︒﹂#
二二
︑急 に 死 にたくなりベラン ダ へ
︑母親 に 止 められる
︒母親 といないと 不安 だと
︑母親 が 外国語非常勤講師 を 勤 める 大学 に 週二回一緒 に 行 く
︒#二三
︑やはりベラン ダ へ 出 て 死 のうとする
︒母親 の 乳房 へのこだわりは 少 なくなり
︑父親 は おもしろいことを 言 ってくれるとも
︒#
二四
︑死 にたい 衝動続 く
︒そのことで 入院 した 経緯 も 語 る
︒小学校 の 時
︑母親 は
︑兄
︑弟 に 興味 があり
︑自分 は 母親 に 嫌 われていたと
︒今 は 母親 に 自然 に 甘 えられ
︑父親 と 自然 に 会 えるようになって 来 た
︒#
二五
〜二八
︑死 の 衝動続 き
︑何度 もベラン ダ へ
︒わざと 眼鏡 をベラン ダ から 落 としたり
︑面接外 でも 電話 して 来 て 死 にたいと
︒thはエゴサイドだから 様子 をみようと 返 す
︒X+一年一二月
〜X+二年一二月
三二
#
二九
︑年 が 明 け
︑父親 と 仲 よくなり 抱 きついていったり といかにも 少女的 である
︒気分 はやや 高揚気味 で
︑インター ネットで 知 り 合 った 友 だち 九人 と 三泊四日 でスキーに 行 き
︑楽 しく 過 ごしてくる
︒#三
〇〜三二
︑死 にたい 願望 の 再燃
︑兄 は 帰国後 し ば らくカルチャーショックで 不登校気味
︑自分 は 虐 められたが 皆勤 していた
︒兄 はまた 抑 うつとなって 大学 を 休 んでいたが 復学 に 向 かいつつある
︒自分 は 小四 より
︑兄 を 拒否 していた
︒#三三
〜三七
︑死 にたい 願望 の 消長続 き
︑安 定 し た 時 期 は 少 な い
︒母 親 は 秋 ま で 休 学 さ せ る つ も り と
︒弟 は 技術系大学院 に 進学 が 決 まる
︒一方 で 母親 への 甘 えは 止 めて 自立 しようとも
︒#
三八
︑安定 して 友 だちとスキーに 行 くが
︑母親 の 胸 への こ だ わ り は 出 現 し
︑嫌 な ビ ジ ョ ン を 見 た と
︒﹁自 分 が 死 に か けていて
︑もう 自分 は 充分 に 生 きたからよいかと
︒まわりに 家族 がいて
︑自分 は 涙 を 流 して
︑手 でさようならを 言 ってい る
︒﹂マイクロ ダ イエットをして 四 ㎏ 減少 したと
︒#
三九
〜四四
︑死 にたいと 電話 をかけて 来 たり
︑死 の 衝動 は 消長 するなかで 新学期 を 迎 える
︒学校 へは 行 き 出 すが
︑緊 張感強 く
︑母親 の 胸 への 退行的願望 も 強 くなる
︒卒業 までの 単位八単位 だけと 意欲 を 示 すが 長 く 続 かない
︒#
四五
︑生理前
︑卒論 の 発表会 の 前 で 緊張極度 に 高 まり
︑﹁病 気 に し た 父 親 と 祖 母 が 憎 い
﹂と 凄 ま じ い 怒 り を 顕 わ に す る
︒また
﹁それを 分 かってくれない 母親 も 憎 い
﹂と
︑弟 が 大 学 入 学 時
︑祖 母 と 兄 と 残 さ れ た こ と へ の 怒 り を 爆 発 さ せ る
︒#
四六
〜四七
︑結局大学 へは 行 けず 意欲 もなく
︑何度 もベ ラン ダ の 柵 に 上 ったりで
︑事態 は 深刻 である
︒過食 も 進 み
︑体重 は 七八 ㎏ に なったという
︒#
四 八
〜五
〇︑抑 う つ 感 強 く
︑死 に た い 願 望 も 消 長 す る
︒夢見 が 悪 いと 本人 は 語 る
︒夢二
﹁兄 にレイプされる
︒﹂夢三
﹁仲 の 悪 い 祖母 が 出 てくる
︒﹂夢四
﹁飛 び 降 りる 夢
︒﹂連想 は 特 に ない
︒#五一
〜五五
︑母親 への 退行的甘 えが 続 く 一方 で
︑抑 う つ 感
︑死 に た い 願 望
︑さ ら に は 殺 人 願 望 が 出 て 来 る
︒#五五 では 母親 のみ 来院 し
︑最近 は 人 を 殺 す 夢 が 続 き
︑夢五
﹁私 をこんなに 太 らせたのは 母親 だと 言 って 殴 っている
﹂と 報告 する
︒八五 ㎏ までになっていた 体重 が 七四 ㎏ に 減少 したとい う
︒#五六
〜五七 と 調子 が 悪 く
︑死 のうとして 母親 とベラン ダ で 格闘 したと 語 る
︒卒論 はプレッシャーとなっている
︒#五八
〜六三
︑死 にたい 願望強 く 何度 もベラン ダに 出 ることが 続 き
︑本人 ももう 入院 したいという 絶望的 な 気持 のままこの 年 は 暮 れていく
︒三三﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死 X+
三年一月
〜X+三年一二月
#六四
〜七一
︑体重 もまだ 太 るっているものの 七
〇㎏ まで 低下 し
︑死 にたい 願望 も 少 なくなり
︑二泊三日 でスキーに 出 かけたり
︑比較的安定 した 時期 を 過 ごし
︑新学期 を 迎 える
︒新学期 を 迎 え
︑卒論 のガイ ダ ンスに 行 くつもりであったが 結局行 けず
︑#七二 では
︑虚脱感強 く
︑死 のうとして
︑ベラ ン ダ から 母親 の 携帯 に
﹁さよなら
﹂とメールを 送 り
︑慌 てて 帰 っ て 来 た 母 親 の お か げ で 助 か る
︒将 来 へ の 不 安 強 し
︒#七三
〜七九
︑気分 の 動揺激 しく
︑この 間 に 三回 のリストカッ トを 行 う
︒父親 が 嫌 いという 気持 が 再燃 して 来 る
︒#八
〇︑過食 の 衝動 が 出 て 来 る
︒自分 が 怠 けているのではという 自己 嫌悪 を 語 る
︒また
﹁小 さい 時母親 に 嫌 われていると 思 ってい た
︒嫌 われたくなかったから
︑母親 が 実父 の 介護 に 行 く 時 も 家事 をしていた
﹂という
︒#
八一
〜八七
︑過食 の 衝動 に 振 り 回 される
︒水 だけ 飲 んで 嘔 吐 す る こ と も
︒極 め て 不 安 定 で 電 話 で 死 に た い と
thに 伝 え て 来 る
︒#八八 では
︑母親 とともに 薬 の 副作用 でこんな 状態 に な っ て い る の で は と 治 療 不 信 を 投 げ つ け て き て
︑thが い く ら 説明 しても 納得 しにくいとしくしく 泣 き 続 ける
︒当時
SSRIを 使 っ て い た
thも ま た 方 向 の 見 え な さ と 深 い 徒 労 感 に 苛 まされる
︒#
八 九
︑や っ と
thの い う こ こ ろ の 作 業 の 意 味 が 分 か っ て きたとやや 落 ち 着 きを 取 り 戻 す
︒#九
〇︑夢六
﹁尺取虫 を 母 親 がベラン ダ で 採 っていた
︒大嫌 い
︒目 の 前 をうねうねして い た
︒﹂連 想 は 小 学 校 で バ ッ タ を 採 っ た り し て い た が
︑い つ からか 虫
︑昆虫 は 駄目 となる
︒さらに 小 さい 時
︑兄 とは 年子 であり 母親 を 取 られた 感 じがあり
︑仲 が 悪 かったが
︑小学校 五
〜六年 から 仲良 くなった
︒何故 そうなったか 分 からないと 語 る
︒#
九一
︑卒論 のプレッシャーで
︑死 にたい 願望 が 消長 した り
︑多少意欲 が 上 がったりする
︒過食嘔吐 で 八五 ㎏ あった 体 重 が 五三 ㎏ まで 減少 し
︑拒食 も 出 て
︑さらに 二 ㎏ 減少 する
︒#九 二
︑父 方 祖 母 と の い き さ つ で 傷 つ い た こ と を 繰 り 返 す
︒小 さい 頃 は 嫌 ではなかったが
︑弟 の 大学入学 で 母親 が 家 を 空 け
︑兄 と 三人 に
︑祖母 は 兄 を 可愛 がり
︑弟 は 頭 が 悪 いと 冷 た い
︒それ 以来 こころにぽっかり 穴 が 空 いたと 語 る
︒#
九三
〜九八
︑過食嘔吐 がひどくなり
︑二時間 かけて 嘔吐 を 続 け
︑体重 は 四五 ㎏ まで 落 ちる
︒自殺願望 も 強 く
︑肘関節 を 彫刻刀 で 傷 つけたりする
︒年末 には 毎日一
〜二時間 かけて 過食
︑三
〜四時間 かけて 嘔吐 する
︒今 なら 悪 いと 思 わず 死 ね
三四