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「飯くわぬ女」の分析心理学的考察と摂食障害栄子 の儚き実存と死

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KONAN UNIVERSITY

「飯くわぬ女」の分析心理学的考察と摂食障害栄子 の儚き実存と死

著者 横山 博

雑誌名 甲南大學紀要.文学編

巻 152

ページ 17‑40

発行年 2008‑03‑15

URL http://doi.org/10.14990/00000905

(2)

一七﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死 はじめに

食 す る こ と

と い う 人 間 の 自 己 保 存 本 能 な し に は

人 間 は 生 き て は い け な い

︒﹁

食 す る こ と

を 中 心 と し て

人 間 の 喜怒哀楽 があり

団欒 を 囲 むことは

それこそ 旧石器時代以 来

人間 の 身体 を 滋養 し

かつ 獲物 を 獲 て

ともに 味合 うと いう 共同体 の 重要 な 要件 を 構成 して 来 た

この 人間 の 基本的 な 営 み が

病 と し て 多 く 記 載 さ れ る よ う に な っ た の は

一九七

年代頃

有名 なシンガーグループ

カーペンターズ のカレンが 拒食症 で 死亡 して 以来 であろうか

第二次世界大 戦 の 敗北 で

日本 は 困窮 を 極 め

復興 を 遂 げて 行 き

年 安保 を 経 るなかで

混乱 と 少 しの 生活 の 余裕 が 混在 する 時代 であった

世界史的 にも

ベトナム 戦争 が 泥沼化 し

アメリ カでも 富 みの 遍在

黒人問題 を 中心 として

全世界的 にカウ ンターカルチャー 運動 が 吹 き 荒 れる 時代 でもあった

こうし た

文明 の 転換点 の 危機 として

食 すること

の 病 いがある と 同時 に

遠 い 昔話 の 世界 にもこのモチーフがあることにも 興味 をそそられる

このことについて 少 し 論 じてみよう

一︑食することの心理学的意味

食 す る こ と

の 心 理 学 的 意 味 で

我 々 が す ぐ に 思 い つ く こ と は

フ ロ イ ト

︵Freud, S.︶

の 口 唇 愛 期 で あ る

︵oral phase︶︒

フ ロ イ ト は 乳 児 の 口 唇 部 に 備 給 さ れ た 性 的 リ ビ ド ーが

母親 の 乳房 から 滋養 としてのお 乳 を 得 ることののみな らず

母親 の 温 かさ

心音 も 含 め

安心感 も 手 に 入 れること を 論 じ

人間 の 基礎的安心感 の 基本 であると 考 えた

フロイ    ﹁ 飯 く わ ぬ 女 ﹂ の 分 析 心 理 学 的 考 察 と 摂 食 障 害 栄 子 の 儚 き 実 存 と 死

横   山     

(3)

一八

トはこの 時期 を 一次 ナルチシズムとし

オウトエロティシズ ムで 赤 ち ゃ んがまだ 対象 に 開 かれない 段階 と 考 えたが

この 問題 は 対象関係論 を 中心 として

論議 のあるところであり

深入 りは 止 めよう

とまれこの 段階 で

オウトエロティシズ ムが 充分満足 させられない 時

長 じて 統合失調症 になるとフ ロイトは 考 えた

またお 乳 を 口腔内 に 取 り 入 れることは

心 理学的 には

自分 にとっては 異物 であるものを 体内 に 取 り 入 れ

自分 を 滋養 し

体内化 していくことの 基本 であり

取 り 入 れ

︵introjection ︶︑

体 内 化

︵incorporation ︶

の プ ロ ト タ イ プである

幼児 の 指 し ゃ ぶりはその 代償行為 であることは 周 知 の 事実 である

  フロイト 的意味 でオウトエロティシズムの 時期 はまだ

母 子 一 体 感 の 意 味 合 い 強 く

そ れ が 男 根 愛 期

エ デ ィ プ ス 期

を 経 るなかで

母親 と 子 どもは 分離 しつつ

子 どもは 母親 と 違 った

父 なるものや

社会 すなわち 共同性 を 自分 のなかに 取 り 入 れ

子 どもなりの 自我 を 形成 していく

母子一体感 の 強 い 時期 においては

母 と 子 の 区別 も 曖昧 である

つまり 自 分 の 身体 と 自分 なるものの 萌芽 との 区別 も 明確 でなく

さら に 母親 の 心身 とも 分離 はさほどしていない

しかし

子 ども は 成長 するに 従 って

自分 なるものの 中心 として

共同性 な るものとの 関 わりを 持 ちつつ

幼児 の 心身一体 となった 原初 的 なレベルから 離 れ

身体性 そのものから 疎外 された 形 での 自我 というものを 持 つに 至 る

ユング

︵Jung, C.G.︶

によれ ば

自我 とは 意識 の 中心 を 占 めるもので

比較的安定 し

恒常性 を 持 ったコンプレックスに 過 ぎない

心 とはもっと 広 く

個 人的無意識 と

人類 が 有史以来

持 ち 続 け

時 には 極 めて 創 造的 であり

時 は 極 めて 破壊的 となる 集合的無意識

さらに は 身体 へと 繋 がる

広大 な 領域 なのである

  相対的 に 普通 の 状態 においては

自我

身体 は 安定 し たバランスを 保 ち

人生 の 節目節目 を 乗 り 切 っていく

とこ ろがそれが 様々 な 要因 と 巡 り 合 わせ

布置

でうまくいかな いことが 起 きる

身体

こころの 病 であり

その 双方 にまた がるものとしての 摂食障害 がある

  例 え ば

DSM

│ Ⅳ では 以下 のように 定義 す る

Б

  神経性無食欲症

︵Anorexia Nervosa︶

A︑

年齢 と 身長 に 対 する 正常体重 の 最低限

またはそれ 以 上 を 維持 することの 拒否

︒B︑

体重 が 不足 している 場合 でも

体重 が 増 えること

または 肥満 することに 対 する 強 い 恐怖

︒C︑

自分 の 体 の 重 さまたは 体形 を 感 じる 感 じ 方 の 障害│自己 評価 に 対 する 体重 や 体型 の 過剰 な 影響

または 現在 の 低体重

(4)

一九﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

の 重大 さの 否認

︒D︑

初潮後 の 女性 の 場合 は

無月経

つま り

月経周期 が 連続 して 少 なくとも 三回 は 欠如 する

  神経性大食症

︵Bulimia Nervosa︶

A︑

むち ゃ 喰 いのエピソードの 繰 り 返 し

むち ゃ 喰 いのエ ピ ソ ー ド は 以 下 の 二 つ に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る

︒︵

他 と はっきりと 区別 される 時間 の 間 に

ほとんどの 人 が 同 じよう な 環 境 で 食 べ る 量 よ り 明 ら か に 多 い 食 べ 物 を 食 べ る こ と

︒︵

そ の エ ピ ソ ー ド の 間 は 食 べ る こ と を 制 御 出 来 な い と い う 感覚

︒B︑

体重 の 増加 を 防 ぐために 不適切 な 代償行動 を 繰 り 返 す

例 え ば 自己誘発性嘔吐

下剤

利尿剤

浣腸 または その 他 の 薬物 の 過 った 使用

絶食

または 過剰 な 運動

︒C︑

むち ゃ 喰 いおよび 不適切 な 代償行動 はともに

平均 して

少 なくとも 三 ヶ 月 にわたって 週二回起 こっている

︒D︑

自己評 価 は

体型 および 体重 の 影響 を 過剰 に 受 けている

︒E︑

障害 は

神経性無食欲症 のエピソード 期間中 のみに 起 こるもので はない

  記述的症候 の 特徴 はこの 様 なものであり

昨今 では

無食 欲症

拒食症

と 大食症

過食症

が 交互 に 来 る 摂食障害 と 呼 ば れ る も の が 多 い

先 述 し た よ う に

︑﹁

食 す る こ と

は 人 間 にとって 個人 としても

家族 としても

また 共同体 として も

楽 しみと 満足

安定感 の 源泉 である

しから ば そのよう な 人間 の 基本的 な 営 みが 何故障害 されるのであろうか

  西欧文化 においては

デカルト 以来心身二元論 が 取 られ

身体 を 客体化 し

ほぼ 同時 に 出現 して 来 る

自然科学主義 に よって

こころは 身体 から 疎外 され

身体 の 自然科学的探索 は 現代 の 医学 の 発展 をもたらした

こころの 方 はフロイトの 登 場 に よ り

︑﹁

エ ス あ る と こ ろ に 自 我 あ ら し め よ

と い う 形 で 自我 の 優位性 の 文化 が 成立 し

近代 は 自我 と 意識 の 優位性

意識 の 整合性

科学主義 の 世界 となった

一方

それを 超 え たこころもあると 無意識 の 存在 を 主張 したのもフロイトなの であるが

この 無意識 の 概念 をさらに 拡 げていったのはユン グであることは 先 に 述 べた

一方西欧文化 はキリスト 教精神 に 裏付 けられ

垂直方向 へどこまでも 高 く

父 なる 神 へと 伸 び

一神教的世界 を 形成 する

とすると

身体 を 形成 する 大 地 性 よ り 天 へ と 伸 び る 精 神 性

︵spirituality︶

が よ り 重 要 な も のとなり

身体

大地

そしてそれに 属 する 食 べることは

精神性 に 従属 したものとなっていく

もっとも 儀式 としての

キリストを 血肉化 する 聖餐式 はあるとしても

ここに 自我

意識 による 身体 のコントロールのひとつの 根 がある

食 べる こと

身体

大地性 は 暗闇 への 通路 なのである

(5)

二〇

  日本神話 においても

イザナミの 腐敗

解体 する 姿 を 見 た イザナキは

黄泉 の 国 の 死

醜悪 さ

破壊性

暗闇性

疫病 なる 災 いを 体現 するイザナミを 閉 じ 込 めて

アマテラスなる 清 浄 の 女 神 を 産 み 出 す

一 方 で

ス サ ノ オ

古 事 記

︶︑

ツ ク ヨミ

日本書記

では

自 ら 所望 しておきながら

オオゲツ 姫 が 汚 い 身体 の 穴 から 食 べ 物 を 出 したという 理由 で 女神 を 殺 す

神 話 は こ の 姫 に よ っ て

五 穀 が も た ら さ れ た と 述 べ る

またアマテラスは 清浄 さを 体現 する 一方 で

天 の 岩屋戸 でア マテラスを 洞窟 から 引 き 出 すために 裸踊 りをしたアメノウズ メは

清浄 さと 対極 にある

猥雑性

暗闇性 を 示 す

またこ の 女神 は 五穀豊饒 を 祈 るシャーマニスティックな 儀礼 の 中心 を 担 い

食 べ 物 と 深 いつながりを 持 つ

そしてニニギノミコ トが 天孫降臨 をする 時

その 前 に 降 りたアメノウズメは

自 らの 性器 を 見 せて 勝負 して 打 ち 負 かした

地 の 神 サルタヒコ と 一緒 に

清浄 さと 対極 の

暗闇 さらにはイザナミにまで 通 ずる

大地性

性 を 体現 する

サルタヒコも

眼光鋭 く

場 を 開 く 神 としてトリックスターのような 役割 を 日本 の 神話 の なかで 果 たしている

  さらに 不思議 なことに

アマテラスの 希望 で

伊勢 の 地 に アマテラスを 祭 る 神社 が 移 されるのであるが

その 地 は

ア メノウズメの 生誕地 なのである

そしてそこに 出来 た 伊勢神 宮 は 内宮 と 外宮 からなり

内宮 は 天皇 の 皇女 が 務 める 斎宮 が 守 り

斎宮 は 男性 を 近 づけることを 禁止 された 処女 でなけれ ば ならない

一方

外宮 の 方 は

斎宮 の 食 べ 物 の 世話 をする ために 豊受大神

トヨウケノオオカミ

を 移 して 来 て

成立 し て い く

中 沢 新 一 は こ う 述 べ る

︒﹁

外 宮 の 豊 受 大 神 は 食 物 神 として

天照大神 の 背後 の 立 つような 関係 にある

太陽 の 神 にも 食物 の 供儀 が 必要 で

自然 に 内在 する 力 を 形而上学的 な 活 力 に 転 換 す る こ の 供 儀 を 通 し て

太 陽 の 神 は 力 を 得 る

この 転換 は 外宮 における 豊受大神 のもとでおこなわれる

そ の 意味 で 豊受大神 はみずからのうちに 闇 を 抱 えこむことにな る

В︒﹂

こ う し て 太 陽 神

光 の 神 と 豊 受 大 神

食 物 神 で 闇 へ と 通 ずるものという 対極 が 形成 される

日本文化 とはこのバラ ンスのもとに 成 り 立 っていると 言 えよう

  こうして 西欧 においては 心身二元論 から

身体 を 客体化 し

意識 が 精神性 へ 伸 びること

日本 においては

イザナミを 黄 泉 の 国 に 閉 じ 込 め

︑﹁

食 す る

こ と と 対 極 の 方 向 の 清 浄 さ を 求 める 文化 の 構造 が 分 かった

  摂食障害 になっていく 人 たちは 女性 に 圧倒的 に 多 いことは 周知 の 事実 である

この 病 に 陥 る 人 たちは 先述 の 文化 のあり

(6)

二一﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

方 のなかで

思春期

前青年期 に

身体性 という 暗闇 に 属 す ることをうまく 扱 うことが 出来 ず

精神性

清浄性 の 方 に 一 面的 に 傾 いていった 人 たちと 見 てさほど 間違 いはないであろ う

その 病理性 のあり 方 は 統合失調症 に 近 いものから 神経症 までさまざまであり

これはかって 筆者 は 論 じたことが あ

Г

Д

女性性 の 成熟拒否 という 観点 からは

この 病 の 研究 の 第一人 者 である

下坂幸三 が 詳細 に 論 じてい る

Е

ここではそのこと に 深 く 立 ち 入 らない

ここで 論 じた 視点 からは

無食症 では

本来自然 である 身体 から 切 り 離 されて

精神性

清浄性 の 方 に 一面的 になり 過 ぎた 自我

意識 が 身体 をコントロールしよ うとして

身体性 から 切 り 離 される 事態 として 理解 されよう

これはユング 的 に 言 え ば

アニムスに 憑依 された 状態 で

取 り 入 れるべき 性的内容 や

エロスと 結 びついた 感情的色彩 は 無意識 へと 沈 められていると 言 えよう

また 大食症 では 同 じ ように 狭隘化 された 自我

意識 によって 分化 を 阻 まれた 意味 内 容 が 衝 動 と な っ て 過 食 の 表 現 と し て 現 れ て い る と 言 え る

過食

嘔吐 という 大食症 によくあるパターンでは

過食 によ って

さまざまな 意味内容 を 未分化 のまま 取 り 入 れ

無意識 の 慾動 を 満足 させ

嘔吐 によってすべてを 取 り 消 し

自我

意 識 の 欲 動 を 満 足 さ せ る と い う 強 迫 性 防 衛 機 制 も 働 い て い る

次 に 日本 の 昔話 ではいかに 現 れているか 見 てみよう

二︑日本昔話﹁飯くわぬ女﹂ 

広島県安芸郡

  昔

あるところに

ひとりの 男 がありました

いつまでも ひとり 者 でいるので

友達 が 心配 して

もうええかげんにし て

嫁 でももろたらどうだい

といって

嫁 を 貰 うようにす すめました

けれども

その 男 は

いつまでまってもええが

物 を 食 わない 嫁 があったら 世話 してくれ

といいました

  そういっていると

ある 日 の 夕方

その 男 の 家 へきれいな 女 が 来 て

︑﹁

わ た し は 旅 の 者 で す が

日 が く れ て な ん ぎ を し ておりますから

どうかひと 晩 とめてたもれ

宿 をたの みました

男 は

宿 はかしてもええが

うちには 食 べるもの がないよ

といって

ことわりました

けれども

女 は

わ たしはなんにも 食 べません

ものを 食 わん 女 です

泊 まるだ けでええです

といって

たのみました

男 はたまげたけれ ども

その 女 をとめることにしました

  女 はあくる 朝 になっても

出 ていこうとしません

いろい ろ 用事 をしてくれるので

男 はいつまでもとめておきました

なによりもよいことは

なにも 食 べないで 仕事 ば かりしてい ることだ

けれども

いつまでたっても 何 も 食 わないので

(7)

二二

男 は 少 したべてみいというてみたが

女 は 匂 いだけかいどれ ば ええといって

どうしてもたべなかった

  男 は

世 の 中 にこんなええ 女房 はないと 思 うて

友 だちに 自慢 していました

けれども

誰 もほんとうにするものはな かった

そのうちに

いち ば ん 仲 のよい 友 だちがやって 来 て

︑﹁

お い

お 前 は ど う し た ん や

ま だ 気 が つ か ん の か

お 前 の 女房 は 人間 じ ゃ ないよ

しっかりせにゃ いかんよ

とおしえ てくれました

けれどもその 男 は

︑﹁

そんなことがあるものか

といって

とりあわなかった

知 ら ん の は お 前 だ け じ ゃ

村 じ ゃ 大 き な 評 判 じ ゃ よ

世 の 中 に 物 くわん 人間 があるものか

うそじ ゃ と 思 うなら

ど こかよそへいくふりをして

女房 に 気 づかれんように 天井 に 上 がって

何 をするかみてみろよ

といいました

  あ る 日

男 は 町 へ い く と き

︑﹁

夜 に な ら ん と 戻 ら な い よ

といって

家 を 出 ていきました

一町 ば かり 行 ってからもど って 来 て

女房 に 知 られないようにそっと 天井 へのぼってい ました

女 は 一人 になると

米 をとぎはじめました

火 をど んどん 焚 いて

飯 を 炊 きはじめました

飯 が 出来 るとにぎり 飯 を 三十三 こしらえて

台所 から 鯖 を 三匹 とって 来 て 火 にあ ぶりました

それから 立膝 をして

髪 の 毛 を ば ら ば らほどい た

どうするか 見 ていると

頭 のまん 中 の 大 きな 口 の 中 にに ぎり 飯 やら

あぶった 鯖 やらどんどん 投 げこんで

食 ってし まいました

  男 はこれを 見 て

肝 をつぶして 天井 からそっと 降 りて

友 だちのところへ 逃 げて 行 きました

そ れ み た こ と か

い わ ん こ つ じ ゃ な い

だ が な

今 日 は 知 らん 顔 して 家 へいぬるがええ

といったんで

男 は 知 らん 顔 をして 家 に 帰 りました

いってみると

女房 は 頭 がいたい と い っ て

寝 て い ま し た

ど う し た の か と た ず ね る と

︑﹁

ど うもせんが

気持 が 悪 うてねとる

ねこなで 声 で 答 えま し た

︒﹁

そ り ゃ い か ん

薬 で も の ん で み る か

祈 祷 で も し て も ろ う て み る か

と い っ た ら

︑﹁

わ た し ゃ

ど う す り ゃ え え かわからん

といって

いまにも 飛 びつきそうなようすをし ました

そ れ じ ゃ

お れ が い ま 祈 祷 師 を た の ん で き ち ゃ る

と い っ て

友 だ ち の と こ ろ へ と ん で い っ て つ れ て 来 ま し た

︒﹁

何 の た た り だ あ

三 升 飯 の た た り だ あ

鯖 三 匹 の た た り だ あ

と 友 だちがいうと

女 はそれを 聞 いて 飛 びおき

うーん

お 前 たち ゃ

見 ていたのう

といって

友 だちを 頭 からがしが し 食 いだしました

(8)

二三﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

  男 はひどくびっくりして 逃 げようとすると

女 は 友 だちを 食 ってしまうとその 男 をとらえて

子猫 のようにぶらさげて 頭 の 上 にのせて

さっさと 山 の 方 へ 逃 げて 行 ってしまいまし た

そうして

野 をこえ

山 をこえて

うさぎのようにかけ て 行 きました

森 の 中 にかかったとき

目 の 前 に 木 の 枝 がつ き 出 ていたので

男 はしめたと 思 って 枝 に ぶらさがりました

飯食 わぬ 女房 の 鬼 はそれとも 気 づかないで

どん ば んかけて 行 きました

  男 は 木 からおりて

そこのよもぎとしょうぶのくさむらの 中 に

そっとかくれていました

すると 鬼女 は 男 のかくれて い る と こ ろ に 引 き 返 し て 来 て

︑﹁

お 前 が ど こ に か く れ て い て も

逃 がすものか

といって

とびかかろうとしました

け れ ど も

も う 少 し と い う と こ ろ で と び の い て

︑﹁

あ あ

う ら めしい

よもぎとしょうぶぐらい

このからだに 毒 なものは ない

この 草 にふれたらからだがくさるんじ ゃ

その 草 がな かったら

お 前 も 食 ってしまうのになあ

といって

たいそ う 残念 がりました

男 はこれで 大丈夫 だと 思 って 鬼 に 投 げつ けました

さすがの 鬼 も 毒 にかかって 死 んでしもうたそうで す

Ё三︑﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的解釈

  飯 くわぬ 女 の 物語 は 相当幅広 く 日本中 に 広 まって 採取 され ている

このことは

先 に 論 じたとおり

人間 にとっての 食 べることの 重要性 を 示 しているし

物語 の 採取 された 時代 に おける 窮乏 の 問題 がよりいっそう 食 べることの 重要性 を 際立 たせている

ここでは 分析心理学的 に 視 たこころの 問題 とし て

この 物語 を 心理学的 に 見 てみよう

作者不明 であり

あ ちこちで 語 り 継 がれていることは

ユングの 概念 に 従 え ば

こころの 骨格 としての 心的 パターンすなわち 元型的 イメージ

︵archetypal image︶

を 示 しているからである

  物 語 の 出 だ し は

︑﹁

あ る と こ ろ に ひ と り の 男 が あ り ま した

とある

どうも 寒村 であり

森 からさほど 遠 くなく

む し ろ 町 へ 行 く と き

︑﹁

夜 に な ら ん と 戻 ら な い よ

と 女 に 伝 えていることを 考 えると

町 からは 相当遠 いようである

こ れは 現実世界 から 相当遠 く

むしろ 無意識 を 象徴的 に 示 すこ とが 多 い 森 に 近 いことから

この 男 は 異界 との 境界 に 住 んで いるようである

森 とは 日本 では 山 とほぼ 同 じ 意味 で 使 われ ることが 多 く

この 物語 でも 区別 はあまりない

に は

日本民俗 に 遍 く 登場 する 山 の 神 が 住 み

それは 耕作期 に

(9)

二四

は 田 の 神 として 里 に 降 りて 来 る

また 狩 りの 神 として 重要 な 役割 を 果 たす 十二様 という 女神 も 住 むところである

と 同時 に

鬼 も 山 に 住 み

山姥 も 住 んでいる

さらには

祖霊 とも 深 く 関 わり

仏教 では

死後四九日 までは

死霊 は 山 の 端 を 彷徨 うという

かように 山 はさまざまな 意味 を 担 って 人間 と 関 わっている

つまり 狩猟

採取 などを 通 して

豊饒 と 関 わ るとともに

自然神 として 超越 なるものと 関 わると 同時 に

自然 の 猛威

人間 を 喰 らう 鬼

山姥 として 破壊的 なものとも 関 わり

その 様相 は 無意識 なるものそのものである

日本 の 山々 はその 深 い 森 とともに 何 と 多 くが

その 山自体

御神体 になっていることであろう

  この 山際 の 小 さい 寒村 に 男 はひとりで 住 んでいる

親 も 兄 弟 も 誰 も 親族 がいない 孤独 な 生活 を 送 っている

しかしまっ たく 孤立 している 訳 ではない

友 だちがひとり 者 である 男 に 嫁 をもらえと 勧 めてくれる

男 はそれに 応 じない ば かりか

︑﹁

飯 く わ ぬ 女

な ら 良 い と 答 え る

不 思 議 な こ と で あ る

お そらく 男 は 二

代 か 三

代 であろう

異性 を 求 めて 当然 の 年 齢 で あ る

に も 関 わ ら ず

︑﹁

飯 く わ ぬ 女

と い う 人 間 で は あ り 得 ない 存在 なら ば 良 いという

これは

単 なる 彼 の 吝嗇 さ 故 の 問題 であろうか

そうではあるまい

現在 の 恋愛観 や 結 婚観 の 通用 しない 足入婿 の 時 代

Ж

であったとしても

異性 への 思 いは 古事記

万葉集 の 時代 から

人間 の 歴史 の 始 まり から

エロス 原理 の 重要 なる 表現 としてずっと 存在 し 続 けて いるのである

家父長制 の 時代 で

足入婚 で 男性 が 優位 に 離 婚出来 る 文化 であったとは 云 え

この 男 の 吝嗇振 りは 度 が 過 ぎている

よって 彼 は 異性 とエロスによって 繋 がることが 出 来 ない 問題 を 持 っていたと 言 えよう

このような 男 の 場合

彼 の 女 性 イ メ ー ジ は

︑﹁

浦 島 太 郎

の 乙 姫 の よ う に 深 い 海 の 底 のイメージとなったり

羽衣伝説 の 天女 になったり

人間 として 近 づくことの 出来 ない 存在 となる

統合失調症 によく 見 られる 女性 イメージである

またその 反対 として

ギリシ ア 神話 に 登場 する 西 の 国 の 果 てに 住 む

髪 の 毛 がみんな 蛇 で

なおかつメドウサ 以外 の 二人 は 不死 であるゴルゴン 三姉妹 に 象徴 される 破壊的 なもの

旅人 を 美 しい 歌声 で 川 の 底 に 引 き ず り 込 む ロ ー レ ラ イ の よ う な 無 意 識 へ と 誘 う 存 在 と な ろ う

山姥 もこの 類型 に 属 するであろう

  さてこの 男 の 家 に 旅 の 女 が 尋 ねて 来 て

宿 を 乞 う

飯 はな いと 男 が 言 うと 飯 は 食 べないという

しかも 女 はきれいらし い

男 にとっては 願 ってもないことである

しかし 飯 を 食 わ ぬ と い う こ と の 不 可 思 議 さ を 感 じ な い ば か り か

︑﹁

こ ん な え

(10)

二五﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

え 女房

はいないと 自慢 していて

友 だちが 忠告 しても 耳 も 貸 さないとはどうしたことであろう

彼 の 行 き 過 ぎた 功利的 価値観 によるものか

それとも

戯画化 された 形 で 女性 のき れいさのみを 見 て

身体 にまつわる 生命性 にまったく 無関心 であるという 歪 んだ 女性 イメージなのであろうか

往々 にし て

男性 の 女性 への 投影 するイメージはこの 父権的価値観 の 世界 のなかで 男性 の 身勝手 な

きれいさ

のイメージを 女性 に 押 し 付 ける

中国 の 纏足 しかり

ヨーロッパのコルセット し か り で あ る

ア ノ レ キ シ ア

︵anorexia nervosa ︶

で 始 ま る 摂食障害 も

スレン ダ ーであること

という 男性 の 欲望 の 視 線 も 無関係 ではあるまい

  それでも 男 は 月日 が 経 つうちにさすがにおかしいと 思 い

友 だちの 忠告 を 受 け 入 れる

町 へ 行 くと 言 って 天井 から 見 て い る と

女 は 髪 を ば さ っ と 降 ろ し た 時 に 現 れ る 大 き な 口 に 三十三個 のおにぎりと 鯖三匹 を 投 げ 込 んで 食 ってしまう

  男 は 肝 をつぶして 友 だちのところへ 逃 げる

そして 友 の 忠 告 に 従 って

家 へ 帰 ると

女 は 寝 ていて

頭 がいたい

気分 が 悪 いという

薬 をやろうか

祈祷師 を 呼 ぼうかと 男 は 声 を かけるが

この 時点 では

もう 女 のこの 世 ならぬ 存在 を 知 っ ているのであり

優 しさの 表現 でも 何 もない

女 のねこなで 声 が 虚 しい

祈祷師 を 頼 んできち ゃ ると 男 が 言 って 連 れて 来 た 友 だちが

女 の 正体 を ば らす

ただならぬ 過食 の 姿 であろ う

にぎり 飯三十三個 とあぶった 鯖三匹 に 意味 があるのであ ろうか

それぞれのシンボリズムはどこまで 問 えるが 不明 で あるが

当時 の 時代状況 からすれ ば 大変 な 量 であることには 間違 いない

現代 の 過食症

︵bulimia nervosa︶

においても

大変 な 量 を 食 べる

そして 食 べ 続 ける

バター

マヨネーズ などの 高 カロリーのものを 食 する

ほとんどがその 後嘔吐 す るが

そうしない 場合 もある

これらの 症状 は 食 べることに より

自我

意識 の 存在 の 狭隘化 のため

抑圧 され 未分化 と なった 無意識 が 過食 の 衝動 となって 自我

意識 を 襲 っている と 云 えよう

いわ ば 倒錯 した

取 り 入 れ

である

ここでは もう 既 に 普通 であれ ば 機能 する 視床下部等 の 満腹中枢 は 機能 を 失 っている

多 くの 場合 はこの 無意識的欲動 を 打 ち 消 すた めに 嘔吐 する

これは

先述 したように

強迫性障害 に 見 ら れる

取 り 消 し

︵undo︶﹂

と 類似 しており

これによって 自我

意識 あるいは 超自我 の 欲動 を 満足 させる

摂食障害 の 人 に 超 自我 の 強 い

強迫性性格 の 人 が 多 い 由縁 である

ユング 的 に 語 れ ば

内的男性 イメージ

アニムス

が 肥大 し

本来 は 身 体性 として 自然 に 属 することも 意識 でコントロールしようと

(11)

二六

するアニムスに 憑依 された 状態 であろう

  この 女 は

しかし

アニムスに 憑依 された 男性的 な 女性 と いうよりむしろ

いわゆる 女性的 で

きれいな

女性 なので ある

日本文化 のなかには

斎宮制度 や

御飯 を 縦 に 入 れる 小 さい 口 など

美人 の 要件 として

清楚 で

性的 なるもの

身 体 性 か ら は ず れ る こ と が よ し と さ れ る 風 潮 は 存 在 し て い た

この 男 の 前 に 現 れた 女性 とは

まさにその 姿 を 体現 した 女性 であった

女性的 なる 存在 が

食 すること

性的 なるも のを 抑圧 し

きれいなる 存在 に 狭隘化 されると

それらとは 他 の 部分 は 未分化 で 無意識 なるものとなり

押 さえ 付 けれ ば 押 さえ 付 けるほど

人間的存在 から 離 れるが 故 に

自我

意 識 と 敵対化 していく

そして

その 無意識内容 はアーケイッ ク と な り

多 く は 衝 動 と な り

過 食 と な り そ の 人 間 を 襲 う

過食 の 謂 われである

  摂食障害 の 過食 は

衝動 となって

その 人間 を 襲 い

多 く の 場合 は 嘔吐 によって 取 り 消 しを 行 う

しかし

この 物語 の 女 は

それに 留 まらず

妖怪 となる

その 姿 は

何 もかも 飲 み 込 んでしまうグレートマザーのネガティブな 側面 であり

無意識 なる 世界 へと 自我

意識 を 引 きずり 込 んでしまう 女性 的側面 の 負 の 部分 であろう

ここまで 来 るとその 姿 は 山姥 と なり

普通 は 男性 の 姿 で 描 かれる 鬼 と 同一視 されている

物 語 の 後 半 で は 飯 く わ ぬ 女 は

も う 既 に 鬼 と 表 現 さ れ て い る

こ の 女 の イ メ ー ジ は

︑﹁

き れ い

に 閉 じ 込 め ら れ た 女 性 的 存 在 の 無意識 が 妖怪 となる 程 の 狭隘化 されている 姿 を 示 すと 同 時 に

他方 では

この 吝嗇 で

功利的価値観 のみを 生 きて

異性 へとつながるエロス 性 に 開 かれていないこの 男性 の 内的 女性 イメージ

すなわちユング 的 に 言 え ば この 男性 のアニマ 性 をも 示 している

泉鏡花 の

夜叉 ヶ 池

では

はかなくも 凄 まじい 女性 イメージが 現 れる

山奥 の 寒村 に

神主 の 娘 で 今 は 独 り 身 となって 村 から 孤立 した

一人 の 美女 が 棲 む

そ こに 東京 からやって 来 た 男性 が

不思議 な 経緯 で

昔夜叉 ヶ 池 の 龍神 と 村人 が 交 わした 約束

日 に 三回鐘 を 撞 くことを 履 行 することになる

男 はその 美女百合 と 一緒 になってこの 村 に 棲 む

ここでクロノロジカルな 時間 は 消 え

幻想的 な 世界 に 入 る

村 が 大旱魃 となっていて

龍神 に 生贄 を 捧 げようと 村人 は 百合 を 襲 う

百合 は 自 ら 自刃 し

男 も 後 を 追 う

そこ に 龍神 の 化身 である 白雪 が 現 れ

約束 を 破 った 村人 への 報復

百合 を 殺 したことへの 報復 で 池 を 決壊 させ

村 は 洪水 で 滅 び る

白雪 は 龍 となって 身体 に 男 と 百合 を 乗 せ

巨鐘水 となっ て

加賀 の 白山

剣 が 峰 へと 去 る

ここで 百合 と 白雪 は 同 じ

(12)

二七﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

女性 の 持 つ 美 と 妖 しさ

破壊性 を

鏡花 は 見事 に 描 いて みせ る

З

これもまた 共同体 が 押 し 付 けた 美 の 意識 に 捕 らわれ

身体性 をも 含 む 他 の 女性的部分 が 無意識 となると

その 女性 的 なるものの 無意識 が

いかにアーケイックで 恐 ろしいもの かを 示 している

アンデルセン

︵Andersen,H.C.︶

人魚姫

の 物 語

И

では

下半身 が 魚 である 人魚姫 が

人間 である 王子 に 恋 をして

足 をもらう 代 わりに 声 を 失 い

最後 は 人魚 の 持 つ 不死 を 失 い

海 の 泡 と 消 える 悲 しい 物語 である

かって 筆者 の ス イ ス で の 分 析 家 で あ っ た 今 は 亡 き ヴ ァ ル ダ ー 氏

︵Walder,P.︶

は 下 半 身 の 魚 の 尾 は 女 性 の 持 つ ド ラ ゴ ン 性 で あ ると 教 えてくれた

これには

人間 に 成 り 切 れない 人魚姫 の 悲 しさと 西欧文化 の 人間中心性

進化論的匂 いを 消 せないが

それでも

グレートマザー 性 と 並 んで

女性 の 持 つ 神秘性

身体 との 結 びつきの 強 さを 示 し

摂食障害 という 病 が 女性 に 圧倒的 に 多 いという 臨床的事実 と 無関係 ではあるまい

  さてこの 鬼 と 化 した 飯 くわぬ 女 だが

よもぎとしょうぶに めっぽう 弱 い

最後 にはその 毒 にかかって 死 んでしまう

こ のよもぎとしょうぶは 何 であろうか

五来重 によると 五月四 日 は

女 の 家

の 日 という 民俗的習慣 があり

その 時山 から やって 来 る 鬼 を 防 ぐ 力 が

よもぎやしょうぶにあり

女 の 家 の 屋根 はこれらで 葺 かれたことが

ここでは 山姥 すなわち 鬼 を 退治 する 力 があるとされるのではと 推論 している

ちなみ に

女 の 家

と は

五 月 四 日 に 女 だ け が 集 ま り

夜 ご も り

をし

し ば しの 休息 をとったという 習俗 である

またしょう ぶとよもぎは 邪気 を 祓 うために

中国 の 端午 の 節句 で 使 われ たことに 由来 しているとい う

КУ

とまれ 山姥

鬼 と 化 した 飯 く わぬ 女 はよもぎ

しょうぶで 殺 されてしまうのである

  類似談 には

桶 の 代 わりに 瓶 や 甕 などに 入 れられたりする ものもあり

くもになってやって 来 た 女 を 焼 き 殺 すなど 百数 十話 あるとい う

КФ

この 数 はかなりと 言 ってよいであろう

飯 くわぬ 男 とは 少 なくとも 関啓吾編 の

日本 の 昔 ば なし

には ない

このことはこの 物語 は 女性 の 特質 を 表 すもののひとつ と 考 えてもさほど 無理 はなかろう

次 に 事例 を 見 てみよう

四︑事例栄子の場合

   〜死に魅せられた儚さ〜

︑現病歴

  栄子 は

年一二月 に 筆者 の 元 に 受診 してきた

それまで 二 年 に 亘 って

特別 な 思 いをもって 診療 してきた 先輩医師 から の 紹介 である

主訴 は

過食 を 主 とする 摂食障害 と 甲状腺機

(13)

二八

能低下症 である

  栄子 は

X―

八年

一五歳時

体重 が 六

㎏ となり

ダ イエ ッ ト を し て 三 週 間 で 四 六 ㎏ に す る よ う な 過 激 な 痩 せ 方 を し て

生理 も 止 まってしまうというところから 病歴 が 始 まった

ちなみに 彼女 は 身長 が 一五五 ㎝ であるから

相当 の 過食 が 高 校入学前後 から 始 まったと 推測 される

高校二年時 また 過食 が 再発

五四 ㎏ まで 上昇

この 頃 より 抑 うつ 傾向 も 出現 して きたが

嘔吐 することもなくフィットネスクラブに 通 うこと で 体重 をコントロールし

無事有名高校 を 卒業 した

しかし

大学受験 には 第一志望 の 有名国立大学 を 受験 するも 失敗 し

一浪後

志望 の 有名女子大 に 合格 し

自分 の 好 きな 考古学 を 選択 することが 出来 た

大学時代 は

一回生 は 孤立 していた が

二回生 になると 友 だちも 出来 て 比較的順調 に 過 ごしたよ うである

しかしそこに

一九九五年一月一七日

あの 大震 災 が 襲 う

彼女 の 家 は 大丈夫 であったが

父方祖母 の 家 が 全 壊 し

祖母 と 同居生活 が 始 まる

この 祖母 との 折合 いが 悪 く

それから 本人 は 抑 うつとなったと 言 う

X―

四年

二回生 の 終 り

弟 が 遠方 の 大学 に 入 り

彼 の 下 宿探 しで

母親 が 一週間家 を 留守 にし

祖母 との 間 の 緩衝帯 が 無 くなり

かつ 栄子 が 祖母 の 世話 をしなけれ ば ならなくな り

調 子 が 狂 っ て し ま う

父 親 は 仕 事 中 心 で 家 に は 居 な い

兄 も 大学 で 下宿 し

祖母

母親 と 三人 だけの 生活 になったの である

過食 の 消長強 く

抑 うつ 感

死 にたい 願望 が 強 くな り

何度 もリストカットを 繰 り 返 す

大量服薬 もしてしまい

︑X―

二年 には 某病院 に 二 ヶ 月入院 するが

入院患者 にセクハ ラされ

大 きなショックを 受 け

泣 いて ば かりいて 退院 する

その 後

他 の 大学病院 へ 行 くが 合 わず

筆者 の 勤務 する 病院 で 前医 に 出会 い 二年間通院 する

栄子自身 は 総計七回 しか 来 ておらず

母親 が 薬物 を 取 りに 来 て 繋 いでいた

そして

前 医退職 により 筆者 に 依頼 された

ちなみに 祖母 は 栄子 とあま りに 合 わないため

近 くの 県営住宅 で 独居 することとなった

︑家族構成と事実的生活史

  栄子 は 一九

XX

年生 まれで

受診時二四歳

一歳上 に 兄 が あり

六歳下 に 弟 を 持 つ

兄 とも 弟 とも 仲 はよいという

二 人 とも 大学生 である

父親 は 有名会社 の 管理職 で

︑X―

二年 より 単身赴任 で 月一度帰 って 来 る 程度 である

栄子 の 父親 イ メージは 悪 く

命令的 でずっと 塾 に 通 わされ

高校 も 父親 の 意志 で 決 めている

自分 のことを

無愛想 だ

と 言 い

それ を 母親 のせいにしている

仕事人間 で 夜 しか 家 にいない 人 だ

(14)

二九﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

った

父母 は 同 じ 大学 で 知 り 合 い 結婚 している

母親 は

厳 しい 父親 から

必死 に 自分 を 守 ってくれる

優 しい 存在 であ る

母親 も 知的 な 人 で

某私立大学 で

外国語 の 非常勤講師 をしている

  事実的 な 生活史 を 振 り 返 ってみると

幼少時

生 まれてし ば らくして

父親 の 仕事 の 関係 で

ヨーロッパの 大 きな 有名 都市 で 五年間 を 過 ごし

現地校 と 日本人学校 と 両方 に 通 って いた

︒X―

一八年一一月

帰国

日本 の 小学校 に 入 るが

二 年間 ずっと 虐 められていて

友 だちはなかったという

小学 校三年時

エレベーターで 痴漢 に 遭 い

父親 に 告 げるが

ま ともに 受 け 取 ってもらえず

それ 以来父親 との 関係 は 修復出 来 ないという

小学校高学年 は 塾 ば かりで

友 だちと 遊 んで はいたが

これといって 友 だちはなく

それが 当 たり 前 と 思 っていたと 語 る

中学 は 有名国立大付属中学 を 受験 するが 失 敗 し

私立女子中学校 に 通 う

友 だちはまったく 作 らなかっ た

初潮 は 一

歳 の 時 に 来 た

高校 も 有名進学校 を 受験 する が 失敗 して

私立有名女子高校 へ 入学 する

この 時 も 父親 は 別 の 女 子 高 校 に 行 け と 怒 鳴 っ て い た と い う

中 学 三 年 時 に 六

㎏ となり

ブルマーをはくのが 嫌 だったと 語 る

既 に 過 食傾向 が 始 まっていたと 推測 される

彼女 は 中学時代

暗 い 子 で

高校 も 仲 のよい 友 だちがひとりいて 泊 まりにいったり して

少 し 遊 んだ

という

後 は

受験勉強 と 病気 に 苦 しめ られる

以後 は 現病歴 と 重 なる

︑見立て

  生活史 で 見 て 来 た 通 り

生活史 そのものがもの 悲 しい

母 親

弟以外 とは 誰 とも 繋 がらず

いじめられ 体験

痴漢

受験 の 挫折 と 痛 ましい ば かりである

晴 れやかであるはずの 小学校入学体験 もヨーロッパからの 転校 ということで

虐 め られた 体験 から 始 まる

歳 で 初潮 を 迎 えるということか ら 推察 して

小学三年時 も 肉体的 にはかなり 早熟 だったので あ ろ う か

痴 漢 に 遭 い

そ れ が 父 親 に よ っ て 無 効 化 さ れ る

初 潮 を い か な る 気 持 で 受 け 止 め て い っ た の か は 定 か で は な い

し か し 思 春 期 を 準 備 し て い く サ リ ヴ ァ ン

︵Sullivan,H.S.︶

の 使 う ギ ャ ン グ エ ー ジ

︵gang age︶

は ま っ た く 通 過 し て い ないと 推測 される

そして 思春期 の 入 り 口 の 通過儀礼 の 大 き な 儀式 とも 言 うべき 中学入学 も

受験失敗 ということで

暗 い 影 を 落 とす

栄子 は 中学時代 は

暗 かった

とあまり 語 り た が ら な い

さ ら に 前 青 年 期

︵praeadolescence︶

と な り

一歩大人 に 近 づく 時期 にまた 受験 の 失敗 である

(15)

三〇

  ここにある 自己愛 の 傷 つきはいか ば かりであろうか

過食 症 という 病 はもう 背後 に 迫 っている

衝動 となった 食行動 と

︑﹁

痩 せ て あ ら ね ば

こ の 世 に 繋 が れ 切 れ な い

と い う 思 い の なかで 栄子 は 引 き 裂 かれる

このような 二律背反的 な 葛藤 は 当然死 の 衝動 へと 彼女 を 誘 う

栄子 の 病 は 摂食障害 を 超 えて 人格障害

︵personality disorder︶

の 領域 に 踏 み 入 れており

感情的 にも

ずっと 離人体験 があったのではと 窺 わせるほど に 表現 はクールであり

存在 そのものが 儚 く

大地性 から 切 れている

よって 治療者 である 筆者 はあえて 分析的治療 に 持 ち 込 まず

筆者 が 自 ら 名付 ける 分析心理学的精神療法 を 行 う 外来 に

隔週一度通 って 来 てもらうという 形 で 治療 が 始 まっ た

し ば らくして 面接 は 毎週 となる

︑面接の経過

年一二月

〜X+

一年一二月

正月 に 一日 だけ 不安定 になり

マンションの 六階 か ら 飛 び 降 りようとした

病気 になってからずっと 死 にたいと 思 ってきた

昨年六月 までの 三 ヶ 月間

右手 をカッターで 切 っていた

先述 した 生活史的事実 を 語 ってくれる

父親 と 合 わ な い と 痛 切 に 語 る

治 療 者

以 下

︑th

と 表 示

は 過 食 の 衝動 は

窮屈 になっている 自我 に 混沌 とした 無意識 が 押 し 寄 せてきているものであるし

死 にたい 願望 は

本当 は

身 体的 に 死 ぬことを 望 んでいるのではなく

狭隘化 した

自我 殺 し

なのであることなどを 説明 し

し ば らく 一緒 にやって 行 こうと 話 す

︒﹁

自我殺 し

とはローゼ ン

︵Rosen,Devid︶

の 概念 で

サンフランシスコの 金門橋 から 飛 び 降 りて 自殺 を 計 り

生 き 残 った 人 をインタヴューした 結果

彼 たちは 本当 は 肉体的死 を 望 んだのではなく

行 き 詰 まった 自我 を 殺 し

再 生 したかったのだという 結論 を 得 て

それを 彼 は

自我殺 し

︵egocide︶﹂

と 名 づけ た

КХ

中三 になった 時

㎏ になったいきさつなどを 語 り

二週間前 から 無気力 となり

三日前 より 過食 になってい ると 言 う

男友 だちはいたことがない

別 に 嫌 いではないが とも

やや 抑 うつ 気味

生理

出血 が 多 い

過食気味 とな っていると 語 る

男性 は 好 きになったことはあったが

太 っ ていたからずっとコンプレックスがあった

二回 のトラウマ は 関係 がなく

異性 に 抵抗 がある 訳 ではないと

調子 の 良 い のは

ここし ば らくは 一 ヶ 月 で 七日 ぐらいである

さらに 祖 母 と の 同 居 で 母 が い な く な っ た 時 の 嫌 な 気 分 を 切 実 に 語 る

(16)

三一﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死

本当 は 四回生 のガイ ダ ンスを 受 け

四月 から 復帰 するつもり だったのに

しんどくて 行 けず

心療内科 を 受診 した

風邪 で 本人来 られず

母親 が 来院

過食 は 生理 の 周 期 に 左右 され

生理前 に 始 まり

生理 の 途中 で 終 る

本人 も 分 かっている

︒th

には 良 い 感 じを 持 っているようである

風邪 が 長引 いている

︒#

母親 と 弟 とスキーに 行 って 来 たと 調子 は 良 い

︒#

ずっと 調子 が 良 い

自分 には 感情 を 抑 えるところがある

泣 くことも 恥 ずかしいと 思 って いた

ヨーロッパにいた 頃 が 一番自由 だったと

日本 に 帰 っ てから 虐 められ

うつになってから 毎日泣 いていた

泣 かな くなったのは 昨年六月頃 から

︒#

帰国後友 だちはあった が 小四 の 時裏切 られ

それ 以来 これ 以上他人 を 入 れない 壁 を 作 った

中学校 でもフルートをやっていて

先輩 に 可愛 がら れもしたが 中三 の 時 ぱっと 辞 めた

繋 がりの 薄 さを 感 じさせ る 経緯 である

〇︑

この 週 から 激 しい 自殺衝動 が 出 て 来 る

虚 しく

履 修 の こ と を 考 え る と ぱ っ と 飛 び 降 り よ う か と

︒th

自 我 殺 し

の 話 しを 繰 り 返 し

何 とか 凌 ごうと

面接 を 毎週 に 切 り 替 える

一一

記憶 が 飛 び

前後関係 は 無茶苦茶 になり

空虚感 が 強 くなる

︒#

一二

死 への 衝動 は 少 なくなるが

退行 し 母 親 の 乳房 を 触 りにいく

︒#

一三

一七

気分 のアップ ダ ウン 激 しく

過食 し

腕 を 自傷 する

一 八

夏 に な り や や 落 ち 着 く

母 親 の 胸 に 興 味 が い く

︒#

一九

〇︑

面接 の 間隔 が 一 ヶ 月間 は 空 く

過食 は 安定 し ているが

夏風邪 が 長引 く

︒#

二一

弟 が 大学 に 帰 り 淋 しい

夢一

母親 が 自分 の 首 を 絞 める

︒﹂

二二

急 に 死 にたくなりベラン ダ へ

母親 に 止 められる

母親 といないと 不安 だと

母親 が 外国語非常勤講師 を 勤 める 大学 に 週二回一緒 に 行 く

︒#

二三

やはりベラン ダ へ 出 て 死 のうとする

母親 の 乳房 へのこだわりは 少 なくなり

父親 は おもしろいことを 言 ってくれるとも

二四

死 にたい 衝動続 く

そのことで 入院 した 経緯 も 語 る

小学校 の 時

母親 は

弟 に 興味 があり

自分 は 母親 に 嫌 われていたと

今 は 母親 に 自然 に 甘 えられ

父親 と 自然 に 会 えるようになって 来 た

二五

二八

死 の 衝動続 き

何度 もベラン ダ へ

わざと 眼鏡 をベラン ダ から 落 としたり

面接外 でも 電話 して 来 て 死 にたいと

︒th

はエゴサイドだから 様子 をみようと 返 す

︒X+

一年一二月

〜X+

二年一二月

(17)

三二

二九

年 が 明 け

父親 と 仲 よくなり 抱 きついていったり といかにも 少女的 である

気分 はやや 高揚気味 で

インター ネットで 知 り 合 った 友 だち 九人 と 三泊四日 でスキーに 行 き

楽 しく 過 ごしてくる

︒#

〇〜

三二

死 にたい 願望 の 再燃

兄 は 帰国後 し ば らくカルチャーショックで 不登校気味

自分 は 虐 められたが 皆勤 していた

兄 はまた 抑 うつとなって 大学 を 休 んでいたが 復学 に 向 かいつつある

自分 は 小四 より

兄 を 拒否 していた

︒#

三三

三七

死 にたい 願望 の 消長続 き

安 定 し た 時 期 は 少 な い

母 親 は 秋 ま で 休 学 さ せ る つ も り と

弟 は 技術系大学院 に 進学 が 決 まる

一方 で 母親 への 甘 えは 止 めて 自立 しようとも

三八

安定 して 友 だちとスキーに 行 くが

母親 の 胸 への こ だ わ り は 出 現 し

嫌 な ビ ジ ョ ン を 見 た と

︒﹁

自 分 が 死 に か けていて

もう 自分 は 充分 に 生 きたからよいかと

まわりに 家族 がいて

自分 は 涙 を 流 して

手 でさようならを 言 ってい る

︒﹂

マイクロ ダ イエットをして 四 ㎏ 減少 したと

三九

四四

死 にたいと 電話 をかけて 来 たり

死 の 衝動 は 消長 するなかで 新学期 を 迎 える

学校 へは 行 き 出 すが

緊 張感強 く

母親 の 胸 への 退行的願望 も 強 くなる

卒業 までの 単位八単位 だけと 意欲 を 示 すが 長 く 続 かない

四五

生理前

卒論 の 発表会 の 前 で 緊張極度 に 高 まり

︑﹁

病 気 に し た 父 親 と 祖 母 が 憎 い

と 凄 ま じ い 怒 り を 顕 わ に す る

また

それを 分 かってくれない 母親 も 憎 い

弟 が 大 学 入 学 時

祖 母 と 兄 と 残 さ れ た こ と へ の 怒 り を 爆 発 さ せ る

四六

四七

結局大学 へは 行 けず 意欲 もなく

何度 もベ ラン ダ の 柵 に 上 ったりで

事態 は 深刻 である

過食 も 進 み

体重 は 七八 ㎏ に なったという

四 八

〇︑

抑 う つ 感 強 く

死 に た い 願 望 も 消 長 す る

夢見 が 悪 いと 本人 は 語 る

夢二

兄 にレイプされる

︒﹂

夢三

仲 の 悪 い 祖母 が 出 てくる

︒﹂

夢四

飛 び 降 りる 夢

︒﹂

連想 は 特 に ない

︒#

五一

五五

母親 への 退行的甘 えが 続 く 一方 で

抑 う つ 感

死 に た い 願 望

さ ら に は 殺 人 願 望 が 出 て 来 る

︒#

五五 では 母親 のみ 来院 し

最近 は 人 を 殺 す 夢 が 続 き

夢五

私 をこんなに 太 らせたのは 母親 だと 言 って 殴 っている

と 報告 する

八五 ㎏ までになっていた 体重 が 七四 ㎏ に 減少 したとい う

︒#

五六

五七 と 調子 が 悪 く

死 のうとして 母親 とベラン ダ で 格闘 したと 語 る

卒論 はプレッシャーとなっている

︒#

五八

六三

死 にたい 願望強 く 何度 もベラン ダに 出 ることが 続 き

本人 ももう 入院 したいという 絶望的 な 気持 のままこの 年 は 暮 れていく

(18)

三三﹁飯くわぬ女﹂の分析心理学的考察と摂食障害栄子の儚き実存と死 X+

三年一月

〜X+

三年一二月  

六四

七一

体重 もまだ 太 るっているものの 七

㎏ まで 低下 し

死 にたい 願望 も 少 なくなり

二泊三日 でスキーに 出 かけたり

比較的安定 した 時期 を 過 ごし

新学期 を 迎 える

  新学期 を 迎 え

卒論 のガイ ダ ンスに 行 くつもりであったが 結局行 けず

︑#

七二 では

虚脱感強 く

死 のうとして

ベラ ン ダ から 母親 の 携帯 に

さよなら

とメールを 送 り

慌 てて 帰 っ て 来 た 母 親 の お か げ で 助 か る

将 来 へ の 不 安 強 し

︒#

七三

七九

気分 の 動揺激 しく

この 間 に 三回 のリストカッ トを 行 う

父親 が 嫌 いという 気持 が 再燃 して 来 る

︒#

〇︑

過食 の 衝動 が 出 て 来 る

自分 が 怠 けているのではという 自己 嫌悪 を 語 る

また

小 さい 時母親 に 嫌 われていると 思 ってい た

嫌 われたくなかったから

母親 が 実父 の 介護 に 行 く 時 も 家事 をしていた

という

八一

八七

過食 の 衝動 に 振 り 回 される

水 だけ 飲 んで 嘔 吐 す る こ と も

極 め て 不 安 定 で 電 話 で 死 に た い と

th

に 伝 え て 来 る

︒#

八八 では

母親 とともに 薬 の 副作用 でこんな 状態 に な っ て い る の で は と 治 療 不 信 を 投 げ つ け て き て

︑th

が い く ら 説明 しても 納得 しにくいとしくしく 泣 き 続 ける

当時

SSRI

を 使 っ て い た

th

も ま た 方 向 の 見 え な さ と 深 い 徒 労 感 に 苛 まされる

八 九

や っ と

th 

の い う こ こ ろ の 作 業 の 意 味 が 分 か っ て きたとやや 落 ち 着 きを 取 り 戻 す

︒#

〇︑

夢六

尺取虫 を 母 親 がベラン ダ で 採 っていた

大嫌 い

目 の 前 をうねうねして い た

︒﹂

連 想 は 小 学 校 で バ ッ タ を 採 っ た り し て い た が

い つ からか 虫

昆虫 は 駄目 となる

さらに 小 さい 時

兄 とは 年子 であり 母親 を 取 られた 感 じがあり

仲 が 悪 かったが

小学校 五

六年 から 仲良 くなった

何故 そうなったか 分 からないと 語 る

九一

卒論 のプレッシャーで

死 にたい 願望 が 消長 した り

多少意欲 が 上 がったりする

過食嘔吐 で 八五 ㎏ あった 体 重 が 五三 ㎏ まで 減少 し

拒食 も 出 て

さらに 二 ㎏ 減少 する

︒#

九 二

父 方 祖 母 と の い き さ つ で 傷 つ い た こ と を 繰 り 返 す

小 さい 頃 は 嫌 ではなかったが

弟 の 大学入学 で 母親 が 家 を 空 け

兄 と 三人 に

祖母 は 兄 を 可愛 がり

弟 は 頭 が 悪 いと 冷 た い

それ 以来 こころにぽっかり 穴 が 空 いたと 語 る

九三

九八

過食嘔吐 がひどくなり

二時間 かけて 嘔吐 を 続 け

体重 は 四五 ㎏ まで 落 ちる

自殺願望 も 強 く

肘関節 を 彫刻刀 で 傷 つけたりする

年末 には 毎日一

二時間 かけて 過食

四時間 かけて 嘔吐 する

今 なら 悪 いと 思 わず 死 ね

(19)

三四

るかもと 語 り

混乱 のうちにこの 年 は 暮 れる

︒X+

四年一月

〜X+

五年八月

九九

ここ 三週間 で 普通 の 食事 は 一回 のみ

後 は 過食嘔 吐 ば かり

父親 が 帰 って 来 て

我慢出来 たのは 一日 だけ

父 親 に 怒 った 時 だけ 感情 を 感 ずる

過食 して 吐 けない 時

死 ん だ 方 が 良 いとベラン ダ の 柵 へ

母親 は

死 ぬ

やることない

止 め ら れ な い

︶!﹂

と 喚 く

兄 も ス ラ ン プ に な っ て 閉 じ 籠 っていると

この 家 には 大変 な 嵐 が 吹 いている

〇〇〜

栄子 は 病院 まで 来 ているが

診察室 に 入 ら な い

母 の み と 会 う

本 人 は

話 す こ と な い

﹂﹁

先 生 が

九九 の 時

悲観的

と 言 ったのは 自分 のことを 軽 く 考 えて い る

と 怒 っ て い る と 言 う

過 食 は 続 き

︑﹁

死 ぬ こ と の 恐 怖 はなくなった

と 語 っているという

一 ヶ 月半 ぶりに 入室

︒﹁

自分 に 怒 るが 人 に 対 して は 腹 が 立 たなくなった

先生 が

悲観的 だな

と 言 ってアド バ イ ス を も ら え な か っ た

だ か ら 会 い た く な か っ た

︒﹂

何 時 頃 からか 人 の 顔色 を 窺 うようになった

小 さい 時父親 に 暗 い と 言 われる

兄 は 仕事 を 辞 め

弟 は 大学院 を 終 えて

就職

家族 みんなが 遠 くなっていく

過食嘔吐 は 続 き

頭 のなかで ずっと 音楽 が 聴 こえている

弟 の 就職活動 で

母 と 共 に

東京 で 一 ヶ 月生活 する

母親 が 買 い 物 をしている 間

自分 が 待 たされることに 腹 が 立 ち

またそんな 自分 に 腹 が 立 ち

自傷行為

過食 をし てしまう

一 一 三

四 月 を 迎 え

ま た 卒 論 プ レ ッ シ ャ ー で 不安定 になり

過食

死 にたい 願望 でベラン ダに 出 たりする ことが 続 き

事態 は 良 くない

︒#

一一四

一一五

父親 が 帰 って 来 てプレッシャー

死 にたい 願望 も 強 く

〇〜

一五分 ベ ラ ン ダ の 柵 の 上 に 坐 っ て い た

︒﹁

生 き 残 っ た ら 何 か が 変 わ る

死 んだらもっけもの

カウンセリングを 受 けてみた い

︒#

一一六

一一七

卒論 の 指導教官 と 二時間話 す

少 し 前向 きか

カウンセリングは 午前 は 眠 いので 午後 にして 欲 し いと 翌週 から 診察 とは 別 にカウンセリング 五

分 を 別枠 で 設 定 することを 契約 する

一 一 八

数 日 前 に 母 親 に 強 く 訴 え

泣 き 叫 ぶ

︒﹁

死 に た くなった

死 んだらみんなに 迷惑 をかけるが

仕返 しする 気 分 も あ る

︒﹁

祖 母 と 二 人 に し て み ん な 行 っ て し ま う か ら こんなになった

︒﹂﹁

人 への 怒 りを 向 けられない 分

自分 に 向 け て し ま う

︒﹂﹁

頭 に 音 楽 が 浮 か ん で き て 集 中 で き な い

︒﹂

リ スペリドン 二 ㎎ 追加 する

︒#

一一九

薬物

身体 がだるいだ

参照

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