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趙 壮 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 ちょう そう

趙 壮

学 位 の 種 類

博士(経済学)

報 告 番 号

甲第

1779

学位授与の日付

令和

1

9

13

学位授与の要件

学位規則第

4

条第

1

項該当(課程博士)

学 位 論 文 題 目

ケインズの為替レート概念と均衡為替レート分析

-学説史的・計量的分析-

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

山崎 好裕

(副 査) 福岡大学 教授

井手 豊也

福岡大学 教授

服部 彰

京都大学 教授

岩本 武和

内 容 の 要 旨

本稿は学説史的なケインズの為替レート理論を解明することをテーマとしている。加え て、若干の計量分析を行い、ケインズの為替レート理論の現代における意義にも言及した。

第一章では、カッセルに始まり、多くの修正が加えられ、代替的理論が提起されていた はずの購買力平価説が、現代の新古典派マクロ経済学の隆盛とともにどのようにして復活 してきたかが詳細に分析され、内的連関において叙述され、現実為替レートの購買力平価 からの乖離の理由として、バラッサ=サミュエルソン効果があげられる。貿易財と非貿易 財に存在する国内外の相対価格の差によって、現実の為替レートが購買力平価から乖離し ていくということである。現実の為替レートの購買力平価からの乖離を追求するために、

長期的な乖離と短期的な乖離に分けて論議しなければならない。この短期的な乖離は現代

マクロ経済学の研究で考えられて、解明されてきた。代表的なモデルとして 60 年代に現

れた静学的なマンデル=フレミング・モデルと動学的なオーバーシューティング・モデル

がある。前者では通常、国内物価水準が名目為替レートの変化に対して一定であるとして

論議され、さらにこの仮定は国内財価格にのみ依存していると考えられるため、輸入財の

存在により結果がどう変化するのかを具体的に論議した。オーバーシューティング・モデ

ルは自国の物価水準と名目為替レートを状態変数とし、名目為替レートがジャンプできる

のに対し、物価水準はジャンプできないと仮定されている。現代マクロ経済学における為

替レートの扱いに大きな転換を遂げたのは、独占的競争を取り入れた動学的一般均衡モデ

ルの新しい開放マクロ経済学である。このうち、オブストフェルド=ロゴス・モデルの特

徴は、企業の価格設定行動を明示化したということにある。理論における購買力平価説の

(2)

復活にも関わらず、実証研究が示しているところによれば、肝心の貿易財において一物一 価が成立していないため、PPP が成り立たないのだということがわかっている。

第二章では、 ケインズの為替レート理論を彼の 3 部作から文献交渉的に詳細に考察した。

1923 年の『貨幣改革論』では、ケインズは彼の物価理論の背景を通して、貨幣数量説の保 留から、購買力平価説の批判をし始めた。当時の実情として現実の為替レートが購買力平 価に自動的に等しくなることは望み薄である。ケインズはこの段階ではじめて対外均衡と 対外均衡を取り上げた。残念ながら、ケインズの理論レベルのこの段階では、購買力平価 説の単純な成立に疑問を呈しているが、購買力平価が成立しない原因を非貿易財の存在に 求めるほかなかった。その後、ケインズの自らの理論水準を示す最初の著作である 1930 年 の『貨幣論』はいわゆる交易条件が決して一定ではないということに着目している。多く の国において、貨幣の購買力に比べて為替レートが相対的に高くなっていることに加えて、

ケインズは輸入財と輸出財の価格変動が均一ではないということを述べた。全体的生産水 準が一定であること基本的前提にしている『貨幣論』は国内均衡として物価の安定を考え ている。『一般理論』になると、国内均衡を物価安定に代えて完全雇用の達成と考えるよ うになっている。それと対外均衡とを両立させる為替レートこそ均衡為替レートであると 考えるようになっているのである。

第三章では、現在の均衡為替レートに関する計量モデルを手掛かりに、ケインズが購買 力平価説を批判することで新たに見出そうとした均衡為替レート概念が何であったのか を具体的に考えた。計量モデルにおける BEER と FEER の違いを考察したうえで、よりケイ ンズ的な想定に近い FEER を用いた実証分析を行った。結果として 2008 年のリーマンショ ックを境として、取り上げた 4 通貨すべてに大きな変化が見られた。2008 年まではいずれ の通貨も均衡経常収支を実現するために為替レートが変化することが必要な幅があまり 大きく、ミスアライメントが深刻でなかった

論文の貢献として、1946 年の死後出版論文までには確立されていたと推測されるケイ

ンズの均衡為替レート概念を明確にできたことがあげられる。そして、均衡為替レートと

しての購買力平価の変遷を、理論的背景を明確にしながら初めて学説史的に考察した。最

後に FEER の計量的分析を通じて、ケインズの均衡為替レート観が持つ現代的有効性を示

唆することに成功した。

(3)

審査の結果の要旨

ロバート W.ダイマンドは、ケインズがその死後出版された論文

1

において「国際収支の 自動的調整過程を完全に説明した」と述べた。そして、ケインズがこの論文で、 「この調整 過程が国内均衡と対外均衡とをどのように一致させるかについて今一度考えたのである」

と書いている

2

。私たちが審査した趙壮君の論文は、このケインズの為替レート理論を可能 な限り明示化することを目的にして書かれていると言ってよい。ダイマンドの記述にもか かわらず、ケインズの死後論文は第 2 次世界大戦中の状況を踏まえて、当時のアメリカ合 衆国の国際収支状況を説明した、どちらかと言えば時事的な論文に過ぎない。趙壮君もケ インズの 1946 年論文について、おそらく単独で読み込んだものとしては初めての論考を 英語で書いている

3

が、内容としては時事的叙述の背後にケインズの為替レート理論を透 視するものとならざるをえなかった。ケインズの叙述からはそれ以上のことはできないか らだ。むしろ、この博士学位申請論文でこそ、趙君はケインズの為替レート理論の全体像 を明らかにしようとしているのである。

一般的には、ケインズの代表的著作である『一般理論』の印象から、ケインズが一国経 済のみを問題にしており、独自の為替レート理論や国際収支論を持っていないと考えられ ているのではないだろうか。しかし、実際には、ケインズは経済学者としてのキャリアを 始めた直後から国際収支や為替レートを巡る詳細な議論を展開していた。このことは趙君 の論文では第Ⅱ章で分析されており、この章の叙述でケインズの議論の展開を追うことが できる。

ケインズは 1923 年の『貨幣論』の段階から、現実の為替レートが購買力平価へと自動 的に一致していくことは望めないとしていた。また、購買力平価によって国内均衡と対外 均衡とを同時に達成することができないというのが、当初からのケインズの主張であった。

ケインズの国内均衡と対外均衡のズレというこだわりの強さから、ケインズの均衡為替レ ート概念を、両者を一致させる為替レートとして捉えようというのが、趙君の主張である。

これは概ね妥当な理解と考えられるし、均衡為替レート概念を考えるときの枠組みをより 明示的にするための示唆を与えるものであると思う。つまり、均衡為替レート概念を実証 的なものと考えるか、規範的なものと考えるか、ということである。この言葉を使えば、

ケインズは購買力平価説を、実証的概念としても規範的概念としても承認しなかったとい うことになる。

1 Keynes, J. M., ‘The Balance of Payment of the United States,’ Economic Journal, 56, 172-187, 1946.

2 Dimand, R. W., ‘Keynes on Inflation and Exchange Rates,’ Atlantic Journal, 14, 81-82, 1986.

3 Zhuang, Z. and Y. Yamazaki, ‘J. M. Keynes’s Foreign Exchange Rate Theory? : A Reading of 1946’s Posthumous Paper,’ Graduate School of Economics Fukuoka University Working Paper Series, 2018-001.

(4)

趙君の論文で明示されているように、国内均衡を言う場合、1930 年の『貨幣論』までは 国内物価の安定のことであったが、1936 年の『一般理論』以降は完全雇用を伴う生産水準 の達成のことへと変化していく。しかし、いずれの場合でも購買力平価では両者を同時に 達成することはできないとケインズは考えた。

では、なぜケインズはそう考えたのか。趙君は第Ⅰ章において、現代に至るまでの購買 力平価を巡る理論の展開を学説史的に分析することで答えようとする。カッセルが 1918 年論文で購買力平価説を提起したとき、それは当時のスウェーデンの状況を説明する実証 的理論であり、同時に、そうあるべきという規範的理論でもあった。その後、実証的に購 買力平価から為替レートが乖離していることを説明するために、貿易財と非貿易財とを区 別するバラッサ=サミュエルソン効果からの説明が試みられた。

戦後のマクロ経済学で購買力平価説がどのように扱われたかについて、趙論文では 1960 年代のマンデル=フレミング・モデルと、1970 年代のオーバーシューティング・モデルが 取り上げられている。前者は静学モデルの代表であり、後者は短期動学モデルの代表とし ての意味付けもあるだろう。論文の叙述は時系列的に研究展開を網羅したものというより、

モデルの詳細を解説しつつ、理論の特徴を浮き彫りにしていく方法を取っている。

マンデル=フレミング・モデルでは国内物価は変動しうるが、海外物価は明示されない ので購買力平価との関係は考慮できない。オーバーシューティング・モデルでは均衡値と して購買力平価が考慮されているが、周知のとおり、物価水準がジャンプできないという 仮定のために、為替レートのオーバーシューティングが生じている。趙論文の記述から、

戦後のマクロ理論で購買力平価が必ずしも成立しなかったのは、物価の内外差や物価の粘 着性が仮定されていたからだということが了解される。

そんな流れのなか、現代マクロ経済学における購買力平価説復活を何と言っても決定付 けたのは、新しい開放マクロ経済学であったという主張がなされている。趙論文では 1995 年のオブストフェルド=ロゴス論文が取り上げられ、その理論的特徴と含意が示されてい る。

オブストフェルド=ロゴス・モデルでは、その新古典派マクロ経済学的特徴というべき だろう、国際市場における一物一価が最初から仮定されているため、為替レートが購買力 平価から乖離するということがそもそもありえない。だが、そのニューケインジアン的特 徴として、貨幣が非中立的であり、企業間の競争が独占的であることから、均衡において も経常収支がバランスしないのが一般的である。つまり、ケインズ的な仮定を置きさえす れば、購買力平価が対外均衡、あるいは、国内均衡を保証しないことを、逆に証明する結 果になっている。ケインズが購買力平価説をトリビアルなものとしながら、政策的に意味 を持たないとしたのはこのためなのである。

ケインズの体系では、完全雇用均衡が自動的には成り立たない構成になっている。同様

に、ケインズが均衡為替レートを考えたとしたら、自動的にそこへと為替レートが収斂す

るような実証的概念ではありえない。つまり、国内均衡と対外均衡を両立させるケインズ

の均衡為替レートは規範的なものということである。趙論文は、ケインズの均衡為替レー

(5)

ト概念の具体的なかたちとして、現在の計量モデルから FEER(Fundamental Equilibrium Exchange Rate)に近いものと考えられる可能性を見出している。そして、現代の各国為 替レートのデータを用いて簡便な方法で実証研究を行い、結果を示している。それはリー マンショックを境に、各通貨ともミスアライメントが大きくなっているという事実である。

最後のオールド・ケインジアンを自称したトービンは、投機的な国際資金移動がもたら す為替レートの過度の変動を抑制するために、為替取引に課税することをかつて提案した。

趙論文の第Ⅲ章での実証研究は、ケインズが現代の為替レートのミスアラインメントを目 撃したときに、どのような政策対応を提案するかを想像させるという点で、学説研究の観 点から興味深い問題提起をしているかと思う。

8 月 23 日の 13:00~15:00 に行われた公聴会には 8 名の参加があり、熱心な議論が展 開された。多くのコメントが寄せられたが、大きくは三つにまとめることができよう。

第 1 に、ケインズは金利平価説についても多くの指摘を残しているが、趙論文では、論 文の主題がそうであるためだが、購買力平価説に関する批判のみを取り上げているという ことである。アドバイスとしては、『貨幣改革論』以降の金利平価説についてのケインズ の言明も、必要な範囲で適宜取り上げた方がよいということであった。

第 2 に、現代における購買力平価説の復活の意味を明確にすべきであるということであ る。オブストフェルド=ロゴフは共同で大著

4

を書いているが、同書で貨幣が登場するのは ほんの末尾にすぎない。これは新古典派マクロ経済学が本質的に実物モデルであるという ことだ。そこでは交易条件に等しい実質為替レートのみが問題とされ、結果として絶対的 購買力平価が成り立ってしまう。つまり、ケインジアンやオーバーシューティング・モデ ルなどの短期モデルとは異なって、本質的に長期モデルの性格を有しているということな のである。このようなコメントであった。

第 3 に、趙論文のタイトルにも使われている均衡為替レートとは何かということを、適 宜明示的にしながら叙述を進めるべきだということである。現代の為替レートを巡る政策 論では、均衡為替レートの存在そのものを否定する傾向すら存在する。政策目的として何 をもって均衡と考えるかも実は議論のあるところだろう。ケインズの場合は、国内均衡と 対外均衡が同時に達成されるときの為替レートを、いわゆる均衡為替レートを考えていた ことは趙論文で明瞭に示されたと言える。しかし、その場合も、国内均衡は単純に完全雇 用でいいのかということも議論されるべきである。また、対外均衡について、ケインズは 経常収支バランスを考えていたと思うが、現在は経常収支が均衡においてバランスすると は考えられていない。趙君の実証分析でも潜在 GDP が成立するときの経常収支額を均衡値 のそれと考えているではないか。このようなコメントであった。

これらの指摘に趙壮君は誠実に対応し、コメントの方向での加筆修正を約束していた。

審査委員会は、趙壮君の学位申請論文が、研究目的、研究対象及び研究方法の明確さ、

4 Obstfeld, M. & K. Rogoff, Foundation of International Macroeconomics, The MIT Press, 1996.

(6)

研究目的の経済社会の状態・変化をよりよく理解する上での有用性、研究方法又は内容に

おける従来の研究と異なる独創性、参照された文献の範囲及び量の適切さ、結論に至る論

理展開の一貫性・体系性と説得力、文章表現の平易さ・明快さ、といういずれの観点から

見ても、申請者に博士(経済学)の学位を授与するのに十分な内容と水準を有していると

認定する。

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