奈良教育大学学術リポジトリNEAR
弁別移行学習に関する3つの実験
著者 杉村 健, 真水 あき子
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 17
号 1
ページ 253‑272
発行年 1969‑02‑28
その他のタイトル THREE EXPERIMENTS ON DISCRIMINATION SHIFTS URL http://hdl.handle.net/10105/3189
253
弁別移行学習に関する3つの実験
杉 村 健 (心理学教室)
真 水 あ き 子 (兵庫県西谷小学校)
本研究におさめた3つの実験は、いずれも弁別学習における媒介過程の形成と利用を、過剰訓 練の効果に関連させて検討している。実験Iは先行弁別課題と移行弁別課題に用いた刺激の類似 性を操作することにより、また実験Ⅲは逆転移行と次元内移行の速さを比較することによって、
先行弁別の訓練量にともなって媒介過程の内容が変化するかどうかを調べた。実験Ⅲは次元内移 行と次元外移行の速さが先行訓練畳によって変化するかどうかを調べ、弁別学習における2段階 説の妥当性を吟味した。
実験 I
弁別学習の2段階説においては、外的な選択反応のほかに媒介反応が存在すると仮定されてい る。たとえば、 KendJer and Kendler (1962)はそれが内的な言語反応であるとして、 Zeaman and House (1963)は注意ないし観察反応であるとして特殊化している。このような媒介反応 は弁別課題における「刺激次元」に対してなされるのか、あるいは「刺激価」に対してなされる のかということが問題になる Zeaman and Houseの理論においては、理論的構成概念として の次元に対して観察反応がなされると仮定されているが、 Kendler and Kendler の理論では媒 介過程の性質が次元性か否かの点について特殊化されていない。しかし、それが次元的なもので あることは暗黙のうちに認められている。この点をより明確にするために、最近2つの研究が行 なわれた。まずJohnson (1967)は、大学生を用いて逆転移行、次元内移行および次元外移行の 速さを比較した。その結果、次元内移行が逆転移行とともに次元外移行よりもやさしく、これは 媒介反応が次元性であることを示唆するものとして解釈された。またJohnson and White (1967)は、 6才から7才の子どもを用いて、明暗という次元についての概念の所有と逆転移行 の速さとの間に有意な関係があることを示した。
他方、刺激価に対する媒介反応の存在を仮定する立場がある。たとえば、 Wyckoff (1952)の 観察反応説においては、道具的反応がなされる前に適切な刺激に対する位置を知り、あるいは適 切な刺激を観察しなくてはならないと主張された。この点が同じように観察反応説とよばれなが らも、 Zeaman and House (1963)の理論とは異なっている Kagan (Kendler, 1963)は、
Kendlerの講演に対する討論において、年少児は「大きい」というような単一価の媒介反応を 学習するのに対して、年長児は「大きい‑小さい」というような反意語の対からなる媒介反応を 学習することを示唆した。さらに Lachman and Sanders (1963)は、刺激に特有な媒体と次元
に特有な媒体をそれぞれ、第1次および第2次の媒介的接近として区別している。以上に述べた 一連の考え方は、媒介過程が次元性のものに限られることなく、個々の刺激に対しても存在する
ことを示唆している。
254 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・莫水)
本実験の目的は、先行弁別の学習の程度と先行および移行学習における正刺激の類似度を変え ることにより、弁別学習における媒介反応の内容が刺激性であるか次元性であるかを検討するこ とである。主な仮説は次のとおりであった。
(】)正刺激の類似度の大きいものはど次元内移行が速いならば、刺激に特有な媒体が形成され たことになる。
(2)次元内移行の速さが正刺激の類似度に関係しないならば、次元に特有な媒体が形成された ことになる。
(3)弁別学習の初期において仮説(1)が成立し、過剰訓練によって仮説(2)が成立するならば、
弁別学習における媒介反応の内容は、刺激に特有な媒体から次元に特有な媒体‑と変化すること になる。
方 法
実験計画 2 ×3 ×3の要因計画が用いられた。それは2つの適切な次元、先行弁別におけ る3つの訓練程度および先行弁別と移行弁別に用いる3つの刺激の類似程度を含むものである。
被験者 被験者は、奈良市内にある親愛幼稚園と飛鳥幼稚園の園児、男87名、女93名の計180 名で、平均年齢は4才9カ月、その範囲は4才1カ月から6才2カ月までであった。彼らは入室 順に、年齢および性を考慮して、各群10名ずつの18の下位群に分けられ、個別的に実験をうけた。
なお、先行弁別で40試行が終っても4回連続正答に達しなかった者5創ま、別の被験者に入れ代 えられた。
弁別課題 Fig.1に示すように、色(赤・黄・栓・青・紺)と形(円・正方形・三角形・星 型・花型)の2次元を含む弁別課題が用いられた。弁別刺激は、赤・黄・栓・青・紺のつや紙で
¥rrす判 fS(J ‑T判
+ ‑
紺
紺
先行弁別
‑ 十
色が過t))を域(チ
Fig.1刺激カ‑ド組み合わせの一例
移行弁別
Å薗
+ 一
形が適切な場介、
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真7k) 2f)5
作られた見かけの大きさがほぼ等しい円(直径5.5cm)、正方形(1辺5cm)、三角形(1辺6.3 cm)、花型(直径6.0cm)それに星型(直径7.0cm)で、白色の厚い画用紙(18.0cmX12.5cm) の上に真申を約2.5cmはなし、左右に並べてはりつけられた。先行弁別問題における刺激カード の組み合わせは、赤の円と黄の正方形および赤の正方形と黄の円であった。それぞれの対につい て、左右の位置の異なるものが10枚ずつ計40枚のカードが作られた。
これに対して移行弁別では、適切な次元が色と形の場合において次のようになされた。
(1)色が適切な場合・・‑‑形はすべて新しいものが用いられ、色は先行弁別の類似の程度に従っ て3種が使われたが、負刺激の色は常に一定であった。すなわち(A)赤の三角形と青の星型、
赤の星型と青の三角形、各20枚(B)桧の三角形と青の星型、栓の星型と青の三角形、各20枚 (C)紺の三角形と青の星型、紺の星型と青の三角形、各20枚の3種で計120枚であった。そして どの組み合わせにおいても、常に青色が負刺激でもう一方が正刺激であった。
(2)形が適切な場合‑‑・色はすべて新しいものが用いられ、形は先行弁別の類似の程度に従っ て3種が使われたが、負刺激の形は常に一定であった。 (A)紺の円と青の星型、紺の星型と青の 円、各20枚(B)相の花型と青の星型、紺の星型と青の花型、各20枚(C)紺の三角形と青の星 型、紺の星型と青の三角形、各20枚の3種で計120枚であったO そしてどの組み合わせにおいて も、常に星型が負刺激でもう一方が正刺激であった。従って刺激カードは、先行弁別用をも含め て合計7種類280枚であったO カードは、同じ刺激対が2回連続して呈示されないことを条件に 配列された。
手続き 実験は個別的に行なわれ、被験者が所定の位置につくと次のような教示が与えられ た。 「これからカードあそびをしましょうD このカ‑ドには絵が2つはってあります。このうち 片方がいつも『あたり』ときめてありますから、あなたが『あたり』と思う方を指さして下さい。
もしあたっていれば『あたり』といい、はずれていれば『はずれ』といいますから、いつも『あ たり』といわれるように頑張って下さいo カ‑ドを次々と見せますから、できるだけ続けてたく さんあてて下さい。」なお強化として「あたり」 「はずれ」を用いたのは、これらのことばが一般 に使用される「正しい」 「まちがい」よりも、幼児にとって親しみやすいと考えたからである。
教示に続いて各被験者は、先行弁別と移行弁別を与えられた。刺激カードは、被験者の反応の速 さに応じて1枚ずつ呈示された。
(a)先行弁別‑先行弁別においては、すべての被験者に対して先に述べたような刺激カード が豊示された180名の被験者のうち、半数の90創ま色が適切な次元であり、赤が正刺激であっ た。残り半数の90創ま形が適切な次元であり円が正刺激であった。それぞれ3分の1ずつの被験 者が連続4回正反応までか、 10試行中9回正反応までか、あるいは10試行中9回正反応にプラス 30試行を加えるまで弁別問題を与えられた。 40試行の訓練をうけても何れかの学習基準に達しな い被験者には、特殊な訓練手続きがとられた。すなわち、実験者は正刺激をさし示すことはしな いで、 「赤(円)があたりです。」といって、正刺激の色または形を教えた。
(b)移行弁別‑先行弁別のそれぞれの基準に達すると「今度はこっちのカードでやりましょ う。」という教示を与えてから、直ちに移行弁別が始められた。先行弁別で色を適切次元として訓 練された3つの基準群は、さらに赤・樫・紺を正刺激とする10名ずつの9つの下位群に分けられ、
それぞれ次元内移行を行なった。すなわち、赤(+)黄(‑)から赤(十) ・青(‑)、澄(+)育(‑) または柑(+)育(‑)への移行がなされた。他方、先行弁別で形を適切次元として訓練された3
256 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
つの基準群もさらに円、花型、三角形を正刺激とする10名ずつの9つの下位群に分けられ、それ ぞれ次元内移行を行なったo すなわち、円(+)正方形(‑)から円(+)星型(‑)、花型(+) 星型(‑)または三角形(+)星型(‑)への移行がなされた。従って移行弁別では、 1群10名ずつ・
の計18の下位群が形成された。学習基準はいずれの群も10回申9回正答であり、それに達しない ときは80試行で打ち切られた。
結 果
先行弁別 先行弁別における連続4回正答と10回申9回正答の基準までに要した試行数 (V貢変換による)および誤反応数(lノ緬変換による)の平均は、 Table lに示されている。.
連続4回までの試行数と誤反応数については2 ×3 ×3の分散分析が、また10回申9回までのそ れらについては2 ×2 ×3の分散分析が行なわれた。その結果、 10回申9回までの試行数におけ
Tablel
先行弁別における連続4匡し正答の基準および10回申9回正答の基準までの 試行数(y'貢変換)と誤反応数OX+0.5変換)の平均
弁 別 学 習 の 程 度 正刺激 基 準
赤
4回連続正答 10回申9回正答 +30試行 4回連続正答
10回申9回正答 4回連続正答 10回申9回正答 4回連続正答 10回申9回正答
3.91(2.00) 3.69(1.82) 3.97(2.07) 5.14(1.98) 5.68(2.42)
4.24(2.19) 3.75(1.82) 4.54(2.61) 4.99(2.13) 6.28(3.23)
4.08(2.10) 3‑72(1.82) 4.26(2.34) 5.07(2.06) 5.96(2.83)
Table 2
移行弁別における試行数(,/一恵変換)と誤反応数(vX +0.5変換) についての平均
先 行 学 習 の 程 度 次元 正刺激
4回連続正答10回申9回正答 +30試行 平 均
色
赤 3.25(1.38) 樫 4.00(1.75) 柑 3.65(1.70) 平 均 3.63(1.61)
形
円 3.35(1.32) 花 型 3.51(1.58) 三角形 3.47(1.55) 平 均 3.ll(1.48)
3.62(1.36) 3.10(0.99) 3.86(1.81) 3.53(1.39)
3.33(1.14) 3.21(1.30) 3.48(1.59) 3.34(1.34)
3.36(1.21) 3.41(1.32) 3.18(1.20) 3.43(1.31) 3.53(1.54) 3.68(1.68) 3.36(1.32) 3.51(1.44)
3.29(1.32) 3.32(1.26) 3.33(1.36) 3.35(1.41) 3.27(1.22) 3.41(1.45) 3.30(1.30) 3.36(1.38)
全体の平均 3.54(1.55) 3.44(1.37) 3.33(1‑31)
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
Table 3
移行弁別における第1試行の正答率(形) 先 行 学 習 の 程 度
4回連続正答10回申9回正答 +30試行 平 均
正 刺 激
赤 と 円 0.45 0.50 0.55 燈と花型 0.75 0.45 0.50 紺と三角形 0.30 0.30 0.50 平 均 0.50 0.42 0.52
0.50 0.57 0.37
257
る訓練量の主効果のみが、 F (1, 108)‑4.333, Pく.05で有意になった。その誤反応数について はF (1, 108)‑3.771, P>.05であって有意にならなかった。しかしその他のF値は何れも極め て小さく、各群はほぼ等質であったとみなせる。また、十30試行の過剰訓練における誤反応の平 均は、 Tablelの上から境に、赤色については2.94, 2.48, 2.79平均2.74、円については2.69, 2.89, 2.48平均3.02となった。分散分析の結果、何ら有意な結果が得られなかった。
移行弁別 Table2は移行弁別における試行数(I/¥変換による)と誤反応数(V'x+0.5変 換による)の平均を示したものである。試行数と誤反応数のそれぞれについて2 ×3 ×3の分散 分析を行なったところ、試行数における訓練完と類似度の交互作用だけがF (4, 162)‑3.658, F<.05で有意であった。単純効果の検定をするために訓練量ごと類似度ごとに分散分析を行な ったが、どの場合についても有意なFの値が得られなかったので、これ以上分析を行なわなかっ たo なお、誤反応数に関するこの交互作用はF (4, 162)‑1.259, P>.05で有意にならなかっ た。先行弁別の転移効果は移行弁別の初期においてより強いと考えられるので、第1試行におけ る正答の割合を算出してみた。その結果がTable3である。これによると、先行学習の程度にと もなう正答率の増加量は、正刺激の類似度が低い相と三角形の方が、それが高い円と赤の場合よ りも大きいことがわかる。しかし、角変換による分散分析の結果は、有意性を示すものは1つも 得られなかった。結局、どの分析においても本実験で予想されたような、類似度と訓練室の交互
作用を得ることはできなかった。
請 与∠ゝi5田
本実験の主な結果は次のとおりであった (1)次元内移行の速さは、正刺激の類似度に関係し ない。 (2ノ次元内移行の速さは、先行学習の訓練室と正刺激の類似度の相互関係に依存しない。
(1)の結果は本実験の仮説(2)に一致し、これは媒介過程の内容が「次元性」であるとする Kendler and Kendler (1962)やZeaman and House (1963)の説を支持するものと解釈されるO (2)の結果は本実験においてもっとも主要なものであった仮説(3)を支持しない。これは、学習 の初期でも後期(過剰訓練)でも、弁別学習に際して用いられる媒介過程の内容が同一であるこ と、すなわち次元性であることを示唆している。しかしながら、本実験の結果を一般化するに際
しては、類似度および訓練量の規定の仕方が問題になるであろう。
本実験では類似度を3つに分けた。先行弁別の正刺激と同じもの(赤と円)が移行弁別の正刺 激として用いられたときを、類似度が最も高いものとし、全く異なるもの(紺と三角形)を類似
258 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
度が最も低いものとした。その中間の類似度をもったものとして栓と花型を考案した。しかし、
°
実験者によって考えられたこのような類似度の変化が、被験者にそのまま受け入れられなかった のかもしれない。本実験における根本的な仮定は、先行弁別において「赤」 (または「円」)に対 する反応傾向のみが学習されたならば、移行弁別の学習にさいしては刺激の類似度に応じて般化 勾配が形成されるが、 「色」 (または「形」)に対する反応傾向が学習されたならば、そのような 般化勾配が形成されないということであった。この仮定にもとづいて、前者では類似度による移 行弁別の相違が予想され、後者ではそれがないと考えられた。 Ta1‑1e2 をみると、色・形どちら の次元においても標本値の上では、類似度が減るにつれて学習が困難になる傾向がある。これは 般化勾配の存在を暗示するものであり、同時に、類似度を適切に操作すれば、訓練量との関連に おいて2つの媒介過程の存在が実証できる可能性を示唆している。
Table3において、 4回連続正答で栓と花型のときに75%の者が正答をしている。すなわち、
檀色が花型に反応しているのである。もしこの測度が純粋な転移効果のみを反映しているならば、
類似度が減少するにつれて正反応率が減少するはずである。ところが燈と花型のときには、他の 2つに比較して著しく高率であった。おそらくこれは、被験者の多くがこの2つの刺激に対する 偏好性をもっていたことによるのであろう。それ故、刺激の類似性を操作する際に、偏好性を統 制しなくてはならない。
次に訓練量の変化についてであるが、本実験では3つの訓練水準が用いられた。まず連続4回 正反応の基準では、本実験で用いた2次元の弁別課題の場合には、本当に学習できなくても偶然 基準に達する場合が起りうる。この可能性をなくするのには1次元の弁別問題を用いるとよい。
また過剰訓練についても従来さまざまであるO たとえば、 Eimas (1966)は25回申20回+50試行 であり、 Furthand Youniss (1964)は、連続6回+18試行、さらにSheppand Turrisi (1967) は基準までに要した試行数の100^と300%;が過剰訓練された。本実験における10回申9回正答+
30試行が適当なものかどうかが問題になる。なお、訓練量にともなって学習の速さに差がなかっ たことは、課題がやさしすぎて床効果を示したことにもよると考えられる。
実験 Ⅱ
実験Iでは、正刺激の類似度にともなう般化勾配を仮定することによって媒介過程の内容を吟 味したが,先行学習の程度との関係については何ら興味ある結果が示されなかった。本実験にお いては、 2段階説の立場を参考にして媒介過程の内容を特殊化しようと試みた。なお、通常の2 段階説においては、次元に対する反応のみを媒介反応とみなし、刺激価に対する反応には媒介過 程の存在を仮定しない。それ故、実験Iのように、 2つの反応に媒介過程を仮定するよりも、単
に反応が「次元」に対するものか、 「刺激価」に対するものかという見方をした方が、妥当であ るかもしれない。
さてTrabassoら(1966)は、 4才児を用いて次元内移行、次元外移行、逆転移行および教示 された運転移行の速さを比較することにより、適切な次元‑の注意とその次元内の刺激価への反 応の効果を吟味した.彼らによれば、以前のS‑R結合すなわち刺激価への道具的反応は、逆転 移行にさいしては負の転移を示すが、次元内と次元外移行に対しては何らの転移効果を示さない。
これに対して、次元への注意反応は、逆転移行と次元内移行のときには正の転移を示し、次元外
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・ 蝣ォ:ラ̲ 259
移行にきいしては負の転移を示す。このような転移効果の組み合わせから彼らは、 (1)逆転移行 が次元内移行よりものろいこと、 (2)次元内移行は次元外移行よりも速いこと、および2、 3の 仮定を設けることにより、 (3)逆転移行は次元外移行よりも遠いことを予言した。彼らの実験I においては、逆転移行が他の3つの移行に比べておそく、これは以前のS‑R結合による妨害効 果であると解釈された。彼らの実験Ⅱでは、次元内移行が次元外移行よりも速く、これは観察反 応が転移したものとして解釈された。このような実験IとⅢの相違は主として用いられた課題の ちがいによるものであるが、何れにしても刺激価への反応と次元への反応が存在することを示し ている。
Johnson (1967)は、大学生を用いて次元内移行、次元外移行および逆転移行を比較すること により、媒介反応が適切な次元に対してなされるのか、あるいはその次元内の刺激価に対してな されるのかを問題にした。彼によれば、媒介反応が刺激価に対してなされるものであれば、次元 内移行と次元外移行は同程度の速さで学習されるであろう。これに対して、媒介反応が適切な次 元に対してなされるならば、次元内移行と逆転移行は同じ程度の速さで学習され、両者ともに次 元外移行よりも速いであろう。この結果は、次元内移行が逆転移行とともに次元外移行よりも遠
く、これは媒介反応が次元性であることを示すものとして解釈された0
本実験においては、 Trabasso ら(1966)が用いた1次元の弁別課題を参考にして、 Fig. 2に 示すような1次元の課題が用いられたO これは、 4回連続正答の基準の場合に実験1で生じたよ うな問題をさけるためであり、またTrabasso らの結果との比較を意図したためであった0本実 験の目的は、逆転移行と次元内移行の速さを、先行弁別の学習の程度を変えて比較することによ り、弁別学習で形成される媒介反応が刺激価に対するものか次元に対するものかを吟味すること である。本実験の主な予想は次のとおりであった。
(1)媒介反応が刺激に対して特有なものであるならば、逆転移行は次元内移行に比べて困難で ある。
(2)媒介反応が次元に対して特有なものであるならば、次元内移行の速さは逆転移行に接近す る。
(3)弁別学習の初期において仮説(1)が成立し、学習が進むにつれて仮説(2)が成立するならば、
弁別学習における媒介反応の内容は、刺激性から次元性へと変化することになる。
方 法
実験計画 2 ×3 ×2の要因計画が用いられた。それば2つの適切な次元、先行弁別におけ る3つの訓練程度および2つの移行型を含むものである。
被験者 被験者は奈良市内にある飛鳥幼稚園の園児、男48名、女48名の計96名で平均年齢は 4才7カ月、その範囲は4才2カ月から5才7カ月までであったo 彼らは入室順に年齢および性 を考慮して各群8名ずつの12の下位群に分けられ、個別的に実験をうけたO なお、先行弁別で40 試行が終っても何れかの学習基準に達しなかった者は別の被験者に入れ代えられた。
弁別課題 Fig.2に示したように色(赤・黄・紺・青)か形(円・正方形・三角形・T字形) かの1次元の弁別課題が用いられた。弁別刺激は、赤・黄・柑・青・黒のつや紙で作られたみか けの大きさがほぼ等しい円(直径5.5cm)、正方形(1辺5cm)、三角形(1辺6cm)、それにT
2fiO 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
字型(縦6cm、横5.4cm、巾2cm)で、白色の厚い画用紙(18.0cmx12.5cm)の上に真申を約 2.5cmはなし左右に並べてはりつけられた。先行弁別問題における刺激カードの組み合わせは、
適切な次元が色と形の場合においてそれぞれ次のようになされた。
(1)色が適切な場合‑‑A.赤の三角形と黄の三角形10枚、 B.紺の三角形と青の三角形10枚 の2種でそれぞれの対について左右の位置の異なるものが10枚ずつ計40枚のカードが作られたO
(2)形が適切な場合‑・‑A.黒の円と黒の正方形10枚、 B.黒の三角形と黒のT字型10枚の2 種でそれぞれの対について左右の位置の異なるものが10枚ずつ計40枚のカードが作られた。
これに対して移行弁別では、移行型に関係なく色が適切な場合は赤の三角形と黄の三角形、形
・L II If K:'i
‑ +
こ 「. '' tI
蝣)a亡内移行
Rmmm%
色が適切な場合
.〕 移行弁別
;t '.・11も\
Fig.2刺激カ‑ド組み合わせと強化の一例
が適切な場合は黒の円と黒の正方形10枚ずつ、さらにそれぞれの対について左右の位置の異なる ものが10枚ずつ計40枚のカードが作られた。従って刺激カ‑ドは先行弁別、移行弁別用をあわせ て合計4種類120枚であった。同じ刺激カ‑ドが2組用いられたのは次の理由による。すなわち、
逆転移行では先行弁別と同じ刺激を用いるため、刺激の変化がめだたない。そこで逆転移行用と して別の1組を用いることによって、このような刺激の新奇性(stimulus novelty)を統制する ことができると考えたからである。カードは同じ刺激対が2回連続して呈示されないことを条件 に配列された。
手続き 実験は個別的に行なわれた。与えた教示は実験Iと同じであった。つづいて刺激カ ードが1枚ずつ被験者の反応の速さに応じて呈示された。
(a)先行弁別‑先行弁別においては、すべての被験者に対して先に述べたような刺激カード が呈示された。 96名の被験者のうち、半数の48名は色が適切な次元であり、さらにその半数の24 創こついては、赤と黄がそれぞれ同数、残り24釦こは相と青がそれぞれ同数ずつ正刺激であったO 形が適切な次元とされた48名についても同様に、半数の者には正方形と円がそれぞれ同数、残り の者には三角形とT字型がそれぞれ同数ずつ正刺激として強化された。さらにまた、それぞれ3 分の1ずつの被験者が連続4回正反応までか、連続8回正反応までか、あるいは連続8回正反応
に30試行を加えるまで弁別問題を与えられた。
弁別移行学習に関する3‑ 、Ln‑l蝣蝣‑仁験しI蝣;!蝣‑い貢い 261
(b)移行弁別‑先行弁別のそれぞれの基準に達すると「こんどはこっちのカードでやりまし ょう。」という教示を与えてから直ちに移行弁別が始められた。先行弁別で色を適切な次元として 訓練された3つの基準群は、さらに赤ないし黄を正刺激とする8名ずつの6つの下位群に分けら れ、逆転移行と次元内移行を3群ずつ行なったo すなわち、逆転移行では、赤(十) ・黄(‑)から 赤(‑)黄(+)あるいはその道へ、次元内移行では紺(+)育(‑)から赤(+)黄(‑)あるいは その逆への移行がなされた。他方、先行弁別で形を適切な次元として訓練された3つの基準群も さらに円ないし正方形を正刺激とする8名ずつの6つの下位群に分けられ、逆転移行と次元内移 行を3群ずつ行なった。すなわち逆転移行では、円(+)・正方形(‑)から円(‑) ・正方形(+) あるいはその道へ、次元内移行では、三角形(+)・T字型(‑)から円(+)正方形(‑)あるいは その逆への移行がなされた。従って移行弁別では, 1群8名ずつの計12の下位群が形成された。
学習基準は、いずれの群も連続8回正答であり、それに達しないときは80試行でうち切られた。
結 果
先行弁別 先行弁別における連続4回正答および連続8回正答までに要した試行数(√音変 換)と誤反応数(i/X+0.5変換)の平均は、 Table4に示したとおりである。試行数と誤反応数 について、 4回連続正答と8回連続正答の基準ごとに分散分析を行なったが、その結果、有意な
Table A
先行弁mK‑おける連続4回正答の基準および連続8回正答の基準までの 試行数(V'音変換)と誤反応数(I/責了6,5変換)の平均
弁 別 学 習 の 程 度
4回連続正答 8回連続正答 +30試行
I,\ ;%l
4 回連続正答 3.04(1.66) 3.ll(1.1 2.88(1.65) 8 回連続正答 4.05(2.02) 4.27(2.01)
Table 5
移行弁別における試行数(一V/恵変換)と誤反応数(.′ X+0.5変換) についての平均
先 行 学 習 の 程 度
移行型 次 元1‑
色
逆転移行 形
4回連続正答10回申9回正答 +30試行
3.93(1.83) 3.15(1.04) 3.13(1.33) 3‑50(1.44) 3.70(1‑53) 3.12(1.01)
平 均 3.72(1.64) 3.43(1.29) 3.13(1.17)
色
次元内移行 形
平 均 全 体 の 平 均
3.85(1.82) 3.16(1.16) 2.99(1.07) 3‑99(1.78) 4.06(1‑74) 3.29(1.30) 3.92(1.80) 3.61(1.45〕 3.14(1.19)
3.82(1.72) 3.52(1‑37) 3.14(1.18)
262 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
Fの値は1つも得られなかったoまた+30試行中になした誤反応数五/X前変換)の平均は、
逆転移行では色・形それぞれ2.04と2.19であり、次元内移行では同じ順に2.30と2.49であった。
これも分散分析の結果、有意差が認められなかった.以上のことから、先行弁別における群差は ないものとみなされた。
移行弁別 Table5は、移行弁別における試行数(i/音変換)と誤反応数(l/X+0.5変換) の平均を示したものである。この表は逆転移行は次元内移行よりも遠く、また両移行ともに先行 学習が増すにつれてやさしくなる傾向を示している。分散分析の結果は、試行数と誤反応数の両 方について、訓練量の主効果のみが1%水準で有意であった(Fの値は試行数のとき6.233、誤 反応数のとき4.957, dfはともに2と84)。そこで分散分析の誤差項(0.601と0.483)を用いて 群差を調べたところ、 4回群と過剰訓練群の差が試行数では*‑3.509、誤反応数ではt‑3.109 となり、ともに1%水準で有意であった。つまり、先行弁別の過剰訓練によって、移行弁別がや さしくなることがわかる。しかし、移行型の主効果は有意でなく CP<1)、そして特に興味があ った訓練量と移行型の交互作用もまた有意でなかった。それ故、先行学習の程度に応じて媒介過 程の内容が変化するという仮説は確かめられなかった。
、議 論
本実験の主な結果は次のとおりであった(1)逆転移行と次元内移行は、どちらも同じ程度の 速さで学習される(2) 2つの移行の速さは、先行弁別の過剰訓練によって促進されるが、訓級 量と移行型の間に有意な交互作用はない。
(1)の結果は仮説(2)に一致し、次元性反応の存在を示唆するものである Trabassoら(1966) は次元内移行が逆転移行よりも遠いことを見出し、以前のS‑R結合すなわち刺激価への道具的 反応が逆転移行を妨害すると考えた。しかし本実験においては、 Table 5にみられるように、標 本値ではむしろ逆転移行(試行数で3.42、誤反応数で1.36)の方が次元内移行(同じ順に3.56と 1.48)よりも速く、それ故に道具的反応の負の転移効果は認められない。本実験においては、少 なくとも先行弁別が弱い基準まで学習されたときには、次元内移行が逆転移行よりも速くなるこ
とが予想された。それは学習の弱い段階では次元性反応が形成されないために、逆転移行では先 行弁別における刺激価への反応のみが負の転移を示すと考えたからである。 2つの移行の速さに 有意差がないことは、学習の初期から優勢な次元性反応が存在するのか、あるいは刺激価‑の反 応が強力であっても移行後の消去が速いかの何れかによるであろう Zeaman and王iouse (1963) の説によれば、次元性観察反応の確率が1.0に達するのは道具的反応の場合よりもおそいから、
上の2つの可能性のうち後者の方がよりありうるものと考えられる。しかし、全体としてみたと き2つの移行型に差がなかったことは、実験Iと同様に媒介反応の内容が次元性であるという結 論を下さざるをえない。そしてこれは、 Johnson (1967)の大学生による結果を支持するものと 解釈される。
ところで、ほぼ類似の弁別課題と被験者を用いたのにもかかわらず、本実験と'Frabasso ら (1966)の実験Iの結果とは一致しなかった。理由を見出すのは困難であるが、彼らが用いた被 験者の数は本実験のそれよりも少なく、しかも群によって人数が異なっているので、これが統計 的検定の結果に反映したのかもしれない。あるいはさらに、もっと詳細な手続きや課題などの逮
弁別移行学習に関する 3つの実験(杉村・真水) 263
いによるのかもしれないO何れにしてもこの点については、さらに実験してみなくてはならないO 先行弁別の過剰訓練によって2つの移行が促進されるという結果は、過剰訓練によって次元性 観察反応の確立が増加するという Zeaman and House (1963)の理論に一致する.すなわち逆 転移行も次元内移行もともに先行弁別で学習した次元がそのまま利用できるので、次元性観察反 応の確率が増大するほど移行弁別への正の転移効果が強くなる Shepp and Turrisi (1967)は、
過剰訓練の塁を増すことによって次元内移行は遠くなるが、次元外移行はのろくなることを見出 した。これはZeaman and Houseの観察反応説からの予言と全く一致する結果であった。本実 厳の次元内移行に関する結果はShepp and Turrisiの結果と一致するものである.
以上のように本実験の結果は、実験Iとともに媒介反応の内容が次元性であることを示唆して いるo しかし、 Trabassoら(1966)およびShepp and Turrisi (1967)と同様に、次元外移行
も加えて比較することによって、より明確な結論が得られるであろうO
実験 Ⅲ
Zeaman and House (1963)の観察反応説によれば、弁別学習においては適切な刺激次元に 対する観察反応と、その次元内の手がかりに対する道具的反応とが学習され、そして両者ともに 続く移行弁別学習に転移すると仮定されている。そしてそのような次元性観察反応の存在および 転移を測定するのには、先行弁別と移行弁別において異なる刺激価からなる課題を用い、次元内 移行と次元外移行の速さを比較すればよい(Shepp and Turrisi, 1966)観察反応説によれば、
弁別移行学習の出発点における観察反応の確率は、適切な次元が変化しない次元内移行では高く、
それが変化する次元外移行では小さい。そして両者ともに道具的反応の確率は0.5である(Zeaman andHouse, 1963, p. 194)。それ故、この2つの移行の速さを比較することによって、観察反応 のみの転移効果が測定されることになる。
他方、この理論の確率論的モデルにおいては、強化と非強化が観察反応と道具的反応に対して 異なる影響をもつと仮定され、そしてこの仮定から、適切な観察反応の確率は正刺激への道具的 反応の確率よりもゆっくりと漸近線に達することが期待される。それは、学習が初期の弱い段階 においては、道具的反応の確率は1.0に近いが観察反応の碇率は小さく、学習が進み、過剰訓練 がなされるにつれて観察反応の確率が1.0に近づくこと、すなわち、先行弁別の過剰訓練は主と して観察反応の確率のみに影響を与えることを示唆する。それ故、先行学習の訓練量が増すにつ れて、次元内移行と次元外移行の速さの差がますます大きくなることが予想できるであろう。
ところで、 2つの弁別課題に全く異なる刺激価を用いたときの次元内移行と次元外移行の速さ を、先行弁別の訓練室との関係において比較した研究が、最近いくつか発表されている。 Furth and Youniss (1964)の小学2、 3年生を用いた研究によると、過剰訓練の予想された効果は認 められず、訓練の程度とは無関係に次元内移行が次元外移行よりも速かった。 Eimas (1966)は 幼稚園と2年生を用いて、全体として次元内移行が有意に速く、過剰訓練によって2つの移行が
ともに促進されることを示した。またUhl (1966)による大学生を用いた結果も同様であった。
Mumbauer and Odom (1967)の平均5才の幼児を用いた研究では、移行弁別における適切な 次元が色であったときに、過剰訓練によって次元外移行が妨害されることが示されている。さら にShepp and Turrisi (1967)は精神年齢4才8カ月の精薄児を用いて、移行型と先行訓練量の
264 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
問に有意な交互作用を見出した。これは観察反応説からの予言と全く一致するものであった。彼 らの実験では、 20回申18回正答の基準と、その基準に達するまでの試行数の100^および300^の・
過剰訓練が与えられた。有意な交互作用は300*'のときに次元内移行が有意に速いが、その他の 基準のときには2つの移行の速さに差がないということであった0
本実験においては実験Iと同様に、連続4回正答、 10回申9回正答および10回申9回正答プラ ス30試行の3つの学習基準が設定され、幼稚園児が被験者として用いられた。実験仮説は、先行 弁別の訓練量が増すにつれて次元内移行はやさしくなるが、次元外移行は困難になるということ である。
方 法
実験計画 2 ×2 ×3の要因計画が用いられた。それは2つの適切な次元、 2つの移行型お、
よび先行弁別における3つの訓練程度を含むものである。
被験者 被験者は、長野県下諏訪町立保育所の年長児男49名、女71名、計120名で平均年齢 は5才0カ月、その範囲は4才4カ月から6才3カ月までであった。彼らは入室虜に年齢および 性を考慮して、各群10名ずつの12の下位群に分けられ、個別的に実験をうけた。なお、先行弁別 で40試行が終って、さらに特殊な訓練が与えられても4回連続正答に達しなかった者5名は、別 の被験者に入れ代えられた。
弁別課題 Fig.3に示すように、色(赤・黄・青・紺)と形(円・正方形・三角形・星型)
次元内移行 +
次Ij亡外移行 +
@+ ‑
色が適切な場合
Fig.3刺激カード組み合わせと強化の‑‑一例
の2次元を含む弁別課題が用いられた。弁別刺激は、赤・黄・柑・青のつや紙で作られた見かけ の大きさがほぼ等しい円(直径5.5cm)、正方形(1辺5cm)、三角形(1辺6.3cm)、星型(直径 7.0cm)で、白色の厚い画用紙(18.0cmX12.5cm)の上に真申を約2.5cmはなし、左右に並べ てはりつけられた。先行弁別問題における刺激カ‑ドの組み合わせは、赤の円と黄の正方形およ
び赤の正方形と黄の円であったO それぞれの対について、左右の位置の異なるものが10枚ずつ計
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水) 265
40枚のカードが作られた。
これに対して移行弁別では、色・形は新しいものが用いられ、その組み合わせは、紺の三角形 と青の星型、紺の星型と青の三角形であった。それぞれの対について、左右の位置の異なるもの が10枚ずつ計40枚のカードが作られた。従って刺激はカ‑ド、先行弁別用をも含めて合計2種類 80枚であった。カードは同じ刺激対が2回連続して呈示されないことを条件に配列された。
手続き 実験は個別的に行なわれた。被験者が所定の位置につくと実験Iと同様な教示が与 えられたO教示に続いて各被験者は、先行弁別と移行弁別が訓練された。刺激カードは、被験者
の反応の速さに応じて1枚ずつ呈示された。
(a)先行弁別‑先行弁別においては、すべての被験者に対して先に述べたような刺激カード が呈示された。 120名の被験者のうち、半数の60創ま色が適切な次元であり、赤と黄がそれぞれ
同数ずつ正刺激として強化された。形が適切な次元とされた60名についても同様に、円と正方形 が同数ずつ正刺激であった。さらにまた、それぞれ3分の1ずつの被験者が連続4回正反応まで か、 10試行中9回正反応までか、あるいは10試行中9回正反応プラス30試行を加えるまで弁別問 題を与えられた。 40試行をうけても何れかの学習基準に達しない被験者には、特殊な訓練手続き がとられた。すなわち、実験者は、正刺激をさし示して、 「これがあたりです。」といった。
(b)移行弁別‑先行弁別のそれぞれの基準に達すると、 「今度はこっちのカードでやりまし ょう。」という教示を与えてから、直ちに移行弁別が始められた。先行弁別で色を適切な次元とし て訓練された3つの基準群はさらに、柑・青あるいは三角形・星型を正刺激とする10名ずつの6 つの下位群に分けられ、そのうちの3群は次元内移行が、残り3群には次元外移行が訓練された。
正刺激として指定された刺激価は各群内で調整されており、群間では等しくされたO 他方、先行 弁別で形を適切な次元として訓練された3つの基準群もさらに、三角形・星型あるいは紺・青を 正刺激とする10名ずつの6つの下位群に分けられ、そのうちの3群は次元内移行が、残りの3群 には次元外移行が訓練された。そして色の次元と同様に、正刺激になる刺激価についての調整が 行なわれた。以上のように移行弁別では1群10名ずつの12の下位群が形成された。学習基準は、
いずれの群も10試行中9回正反応であり、 80試行まで訓練してもその基準に達しないときは実験 を中止した。
結 果
先行弁別 先行弁別における連続4回正答および10回申9回正答の基準までの試行数(V′貢 変換)と誤反応数(t/X+0.5変換)の平均がTable6に示されている。なお、適切な次元(色 か形)については無視しうる程度の差しかなかったので、この表にはそれを分けて示さなかった。
まず連続4回正答までの試行数と誤反応数について、 2 (次元)× 2 (移行)× 3 (訓練室)の分散分 析が行なわれた。また、 10回申9回正答までの試行数と誤反応数についても、 2(次元)×2 (移 行)×2 (訓練量)の分散分析が行なわれたO それらの結果は、主効果および交互作用ともに有意 なFの値は算出されなかったので、先行弁別の速さについては各実験群が等質であったとみなさ
¥mm
移行弁別 Table7は移行弁別における基準までの試行数(l/吏変換)と誤反応数(V貢了6T5 変換)の平均を示したものである。この表から、全体として次元内移行が次元外移行よりも速い
266 弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水)
Table 6
先行弁別における連続4回正答の基準および10回申9回正答の基準までの 試行数(√夏蚕換)と誤反応数(/貢荊変換)の平均
弁 別 学 習 の 程 度 移 行 型 基 準
4回連続正答10回申9回正答 +30試行 次元内移行 4回連続正答 3.29(2.03) 3.80(2.37) 3.50(2.17) 10回申9回正答 5.04(2.83) 5.00(2‑81) 次元外移行 4回連続正答 3.12(1.90) 3.42(2・11) 3.91(2‑49) 10回申9回正答 4.89(2.89) 4.97(2.88)
Table 7
移行弁別における基準までの試行数(√豆変換)と誤反応数C/X +0.5変換) についての平均
先 行 弁 別 の 程 度
移行型 移行次元
4回連続正答10回申9回正答+30試行 平 均 形 3.41(1.34) 4.46(2.07) 3.36(1.31) 3.74(1‑57) 次元内移行 色 4.41(2.29) 3.63(1.72) 3.35(1.28) 3.79(1.76) 平 均 3.41(1.82) 4.04(1.89) 3.36(1.29) 3.77(1.67) 形 4.33(2.05) 4.09(2.21) 4.02(2.04) 4.14(2.ll) 次元外移行 色 4.42(2.70) 4.39(2.29) 5.32(3.46) 4.71(2.82)
平 均 4.38(2.38) 4.24(2.25) 4.67(2.75) 4.43(2.46)
Table
移行弁別における最初の10試行中の誤反応数の平均 先 行 弁 別 の 程 度
移行型 移行次元
4回連続正答10回申9回正答 +30試行
^ 次元内移行 色
平 均
ワ 1 C O 八 U 1 2 2
7 5 1
'
⊥ 2 2
形 2.3 2.7 2.3 次元外移行 色 4.4 3.8 4.6 平 均 3‑4 3.3 3.5
4 2 8
i‑H CM t‑H
こと、形次元での移行の方が容易であること。および+30回のときに2つの移行の速さの差が大 きいことが示唆される。しかしながら、 2×2×3の分散分析の結果は、試行数、誤反応数とも に移行型の主効果のみが、それぞれF (1, 108)‑7.12および11.56 (ともにP<.01)で有意で あったO なお、本実験で期待された移行型と訓練量の交互作用は、試行数のときはF (2, 108)
‑1.87、誤反応数ではF (2, 108)‑2.13であって、ともに有意水準にははるかに達しなかったo 従って、これ以上の分析は行なわないことにした。
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・ 267
ところで、先行訓練の転移効果は移行弁別の初期においてより純粋な形で測定できると考えら れる。そこで、移行弁別における最初の10試行中の誤反応数の平均を算出してみた Table 8は それを示したものである。 2×2×3の分散分析をした結果は次のとおりであった (a)次元内 移行は次元外移行に比べて有意に誤反応が少ない(F‑25.24, df‑ lと108)、 (b)形の次元にお ける誤反応が色の次元でのそれよりも有意に少ない(F‑17.45, df‑¥と108)、および(C)移行 型と適切な次元の交互作用が10%水準で有意であり(A1‑2.68)、これは次元外移行で色が適切 な次元のときに誤反応が多いことを示唆している。
護 論
本実験の主な結果は次のとおりである。 (a)次元内移行は次元外移行よりも容易である (b) 移行初期の分析では、色次元での学習が困難であり、特に色次元への次元外移行が妨害される傾 向がある。
まず、全体として次元内移行の方が速いという結果は、従来の多くの研究と一致するものであ る(たとえば、 Dickerson, 1966; Eimas, 1966; Mumbauer & Odom, 1967; Shepp & Eimas, 1964; Uhl, 1966)。これらの研究のうち、大学生を被験者としたUhl (1966)は、その結果を Kendler and Kendler (1962)の言語媒介説を支持するものとして解釈しているが、その他の研 究はすべてZeaman and House (1963)の観察ないし注意反応説からの予言に一致するものと 解釈している。それは、たとえばShepp and Eimas (1964)は、ねずみを被験体としており、
その他の研究では3‑6才児が用いられているので、 Kendlerたちの言語的発達仮説にうまくあ てはまらないからであろう。本実験における被験者もまた、 Kendlerたちのいう非媒介者から媒 介者への移行期にあるので、言語媒介説はあてはまらない。このような、媒介過程の内容が何で あるかという問題は理論的にも複雑であるが(杉村, 1968)、現在の段階では、発達に関係する 内的な言語反応と、発達とは独立な知覚反応(注意や観察)があると仮定し、条件分析的研究を 行なうことが必要であろう(Eimas, 1967)0
次に、 +30回の群においては2つの移行の差が他の群よりも大きいが、統計的な有意性が実証 できなかったので、本実験の仮説は検証されなかったといわざるをえないO従来の諸研究におい て移行型と訓練室の有意な交互作用が得られたのは、ただ1つShepp and Turrisi (1967)の結 果だけである。もちろん、訓練の程度や課題などの点でいろいろな違いはあるが、 Shepp and Turrisi以外のすべては本実験も含めて、正常児を被験者として用いていることに注意したいo Zeaman and House (1963)によれば、精薄児の弁別学習が遅いのは適切な次元に対する観察反 応の確率(Po)が低いことによるのであり、さらに彼ら(Zeaman and House, 1966)はIQと 弁別学習の速さの関係を調べた多くの文献を評論して、 I QとPoとの関係を示唆しているQ この 立場からは、正常児は精薄児に比べて学習の初めからPoが高いので、過剰訓練をしてもしなくて も次元内移行と次元外移行の差が存在することになる。これは本実験を含めて従来の正常児を用 いた研究で得られた結果に一致する。これに対してPoが低い精薄児においては、これを高めるに
は過剰訓練が必要であり、そして過剰訓練によってはじめて2つの移行に差が生ずるであろう。
Shepp and Turrisi (1967)の結果はこれを示している。
ところで、 Zeaman and House (1963)のモデルにおけるS*は理論的構成概念としての次元
268 3つの実験(杉村・
であるが、もっと素朴に考えて、次元とは刺激価から抽象された概念であるとみなすことができ る。たとえば、赤い円と黄色い正方形の対を呈示された被験者は、訓練試行がすすむにつれて、
赤と黄からは色という次元を概念化し、あるいは円と正方形からは、形という次元を概念化する であろう。そこで、一般に知能の低いものは抽象化や概念化の能力が劣ると考えられているから、
Zeaman and HouseのモデルにおけるPoが低いということは、概念化が遅いということに対応 すると考えられる。つまり、正常児は僅かな訓練試行によって次元が抽象できるが、精薄児は過 剰訓練によってはじめて正常児と同程度の抽象化が可能になるのであろう。このように考えると、
正常児と精薄児によって示された過剰訓練効果の相異は、抽象能力(内的言語を仮定するか否か は別として)の問題として扱われうることになる。
最後に、移行の初期における誤反応では次元の効果が示されたことについて簡単に考察する。
色の次元の学習が困難であること、特に形から色への次元外移行がむずかしいことは、幼児の色
・形に対する偏好性の問題に関係がある。この債域における最近の研究(たとえば、 Suchman&
Trabbaso, 1966)によると、この年齢では形に対する偏好性をもつ者が多いことが示されている。
それでもし、本実験の被験者の多くが形への偏好を示していたとすれば、色への次元外移行が困 難になることは明らかであろう。本実験では被験者の偏好性が測定されていないので、この解釈 は推測にとどまらざるをえない。しかしながら、最近の移行弁別に関する研究は、次元偏好性に ついて考慮しなくてはならないことを示唆している(たとえば、 Kendler, 1964; Mumbauer&
Odom, 1967; Smiley & Weir, 1966; Tighe & Tighe, 1966; Wolff, 1966)c
本研究の要約
実験I 先行弁別学習の程度と、先行および移行弁別における正刺激の類似度を変えること により、先行学習がすすむにつれて媒介反応の内容が、刺激性から次元性へと変化するという仮 説が検討された。被験者は4才から6才までの男女園児180名であり,色と形の2次元からなる 弁別問題が与えられた。先行弁別が連続4回正反応か、 10回申9回正反応、あるいは10回申9回 正反応プラス30試行まで訓練された後で、次元内移行が与えられた。正刺激の類似度は適切な次 元が色のときには赤(先行弁別と同じ)、檀および相と変えられ、形のときには円(先行弁別と 同じ)、箱型および三角形と変えられた。また、色が適切なときの負刺激は常に青色であり、形 が適切なときの負刺激は星型であった。主な結果は(a)次元内移行の速さは、正刺激の類似度に よって変化しない、 (b)次元内移行の速さは、先行学習の訓練量と正刺激の類似度の相互関係に 依存しないということであった。
実験rI 逆転移行と次元内移行の速さを、先行学習の程度を変えて比較することにより、媒 介反応の内容が刺激性から次元性へと変化するという仮説が検討された。被験者は4、 5才の男 女園児96名であり、色か形かの1次元の弁別問題が与えられた。適切な次元が色と形のそれぞれ について、先行弁別が連続4回正反応か連続8回正反応、あるいは連続8回+30試行まで訓練さ れた。そのあとで、同じ刺激での逆転移行か、新しい刺激価での次元内移行が与えられた。主な 結果は次のとおりであった(a)逆転移行と次元内移行の速さには有意差がない、 (b) 2つの移 行はともに過剰訓練によって促進される。
実験Ⅲ 先行弁別の訓練墨が増すにつれて、次元内移行はやさしくなるが次元外移行は困難
弁別移行学習に関する3つの実験(杉村・真水) 269
になるという、観察反応説からの予言が検討された。 4才から6才までの保育所見120名が2色 2形からなる同時弁別を、連続4回正反応か10回申9回正反応、あるいは10回申9回正反応+30 試行まで訓練された。そのあとで、異なる色と形からなる次元内移行と次元外移行が与えられた。
その結果、 (a)次元内移行は次元外移行よりも容易である、 (b)訓練量と移行型の問には有意な 交互作用が認められない、および(C)移行初期の分析では、色次元での学習が困難であり、特に 次元外移行においてその傾向が強いことがわかった。
(附記)本研究にあたり、奈良市立飛鳥幼稚閲、親愛幼稚園、および長野県下諏訪町立保育所のご協力をえ た。厚く感謝します。
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(昭和43年3月12日受理)