国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 蔵 高 松 宮 本 『 一 人 三 臣 和 歌 』 - 釈 文 ・ 略 解 題 -
武 井 和 人 * ・ 酒 井 茂 幸 * * ・ 山 本 啓 介 * * *
【緒言】
小 論 は 、 未 刊 の ま ま 多 く 残 さ れ て ゐ る 室 町 後 期 歌 会 資 料 ( 及 び そ れ に 関
連 す る も の ) の 内 、 既 に 何 人 か の 研 究 者 が 立 論 で 使 用 し て ゐ る に も か か は
ら ず 、 現 在 に 至 る ま で 釈 文 が 公 に さ れ て ゐ な い 『 一 人 三 臣 和 歌 』 に つ い て 、
と り あ へ ず 利 用 し て 頂 け る 釈 文 を 提 供 し よ う と い ふ こ と が 目 的 で あ る 。 『 一
人 三 臣 和 歌 』 の 本 格 的 な 考 証 は 、 あ げ て 、 今 後 の 課 題 と し た い 。
底 本 と し た 伝 本 は 、 国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 高 松 宮 本 『 一 人 三 臣 和 歌 』 〔 H
-
六 〇 〇
-七 一 三 〕 で あ る 。 底 本 の 書 誌 に つ い て は 、 【
略解題】 を 参 照 さ
れ た い 。
釈 文 作 成 に あ た り 、 以 下 の 方 針 に 従 つ た 。
⑴
漢 字 は 原 則 と し て 通 行 の 字 体 に 統 一 し た 。
⑵
丁 移 り を 、 」 一 ・ 」 一 一 の 如 く 示 し た 。
⑶
上 句 と 下 句 の 間 に 、 一 字 分 空 白 を 挿 入 し た 。
⑷
底 本 の 本 文 に お い て 特 に 留 意 を 要 す る 箇 所 に 関 し て は 、 宮 内 庁 書 陵 部
図 書 寮 文 庫 蔵 〔 一 五 二 ・ 三 一 三 〕 本 と の 対 校 結 果 等 を 記 し た 。
*たけい・かずと、埼玉大学教養学部教授、古典籍学
**さかい・しげゆき、埼玉大学非常勤講師、中世和歌
***やまもと・けいすけ、新潟大学教育学部准教授、中世和歌
小 論 は 、 以 下 の 共 同 研 究 に よ る 研 究 成 果 の 一 部 を 含 む 。
➀ 「 中 世 後 期 歌 会 資 料 の 総 合 的 研 究 」
( 平 成 二 四 年 度 ・ 埼 玉 大 学 研 究 機 構 プ ロ ジ ェ ク ト ( 研 究 費 ) 《 一 般 究
➁ 外 部 資 金 獲 得 促 進 研 究 》 、 研 究 代 表 者
=武 井 )
➁ 「 室 町 後 期 歌 会 資 料 の 総 合 的 研 究 」
( 平 成 二 六 年 度 ・ 科 学 研 究 費 補 助 金 ・ 基 盤 研 究 ( C ) 〔 二 六 三 七 〇 二
〇 〇 〕 、 研 究 代 表 者
=武 井 )
礎 稿 作 成 担 当 者 は 以 下 の 通 り 。
緒 言
䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧武 井
釈 文 第 一 冊 ・ 墨 付 第 一 丁 表 ~ 第 八 〇 丁 表
䢧䢧䢧䢧䢧武 井
※ コ ノ 部 分 ノ 一 部 ノ 釈 文 礎 稿 作 成 ニ 際 シ テ 、 以 下 ノ 方 々 ノ 協
力 ヲ 得 タ 。 謝 意 ヲ 表 ス ル 。 齋 藤 亜 里 紗 ・ 夏 傑 倫 ・ 徐 晶 ・ 申
遠 ・
朴玉
順(
順不同 、
イヅレモ、 埼 玉 大 学 ・ 大 学
院・ 文
化科 学 研 究 科 ・
修士課
程)
第 一 冊 ・ 墨 付 第 八 〇 丁
裏~ 第 一 一 五 丁 表
䢧䢧䢧酒井
第 二 冊 ・ 墨 付 第 一 丁 表 ~ 第 三 五 丁 表
䢧䢧䢧䢧䢧酒井
第 二 冊 ・ 墨 付 第 三 五 丁
裏~ 第 一 〇 五 丁 表
䢧䢧䢧山本
略解
題
䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧䢧武 井
礎 稿 は
相互に
検討し た 。 ( 武 井 和 人 )
埼玉大学紀要(教養学部)第50巻第2号 2015年
( 五
)
【
釈文】
文亀元年三月廿四日内裏御月次
初勅 度題
立春名残おもふこその月日をおしむ間にたれにまたれて春のきぬらん
夏草雪にみぬ小松かはらもうつもれぬ草のはやまやしけりそふらん
庭雪我も今をよはぬよゝのあとつけて雪をそみつるこゝのへの庭
後朝恋道しはに分こし露もうつり香もわかきぬ〳〵のものになりぬる
社頭月末のよを猶てらさなんかすかやまわれをしれとの月もかはらて
帰雁みすてゝはさすかにつらきはなを根にとはかり雁のさそひほなる実隆
六月祓はるの色はきのふとおもふをさくらあさのおほぬさなかし御祓すらしも同
嶺雪明わたる雪のたかねのふもとよりしくれてのほるよるのうき雲同
片思おもひとけは我かなみたのみもろこひの心にたにもうらみあるよを同
栽花花やしるかよふにたへすうつしうへてゆるすこゝろの色もこそあれ政為
早秋草の原とふほたるにもとほからすおもひしものを秋風のやと同
水鳥こほるよもとけてや思ふ水とりの」一をのれすみつく池のこゝろを同
別恋きぬ〳〵はたか為ならすよをこめて人にかこつもうきならす哉同
述懐今更に身を忘れてもつかへなはをろかなる名はよし残るとも同
挿頭花かさしても身こそはあらねはなはわかはなにかくれぬ老木ならすや為広
七夕月の舟紅葉のはしをせめてさは二夜のとしのわたりともかな同
そ冬月月雪のよゝしとゝひしおもかけも心のみちにかへるとらかな同
〻
逢恋きくやいかにいけるかきりのことのはも今宵身にしむうちの山かせ同
暁おきいてゝまつつかへよととりのねのいさめむみちは代〻にたへめや同
已上御百首中
今上御製
三臣之詠進等、抄出之、当時宗匠不過于此三輩歟、雅俊卿稽古不足歟、世之幷
所推難、比于此間者乎、仍略之畢
又、御月次一ヶ月者、三首懐紙被重之、一ヶ月者御百首短冊也、仍百首隔月也
同年五月御百首中出題雅俊卿」二
初春霞さたかなる雲間の山のかすむより中〳〵うすき春のいろかな
遠夕立吹をくる山かせなから冷しさの雨にまたるゝ夕立のそら
暮秋露露なみたいかゝわくへきゆく秋の思ひをくらんそての名残に
寄塩木恋こりすまのあまのもしほ木一かたに思ひけつへきおもひなりしを 祝言なにの道もかくこそはみめことのはのまさきのかつらなかきためしに
夜春雨梅かゝも袖にしめりてふかきよの音なき雨そ空におほゆる実
秋夕此比のあらしも露も身をわかはたかなをさりの秋の夕くれ同
風前落葉散残るほとゝてたのむ色もなしかせをこゝろの枝の紅葉は同
寄月恋西になかれ東にいつるつきへても身はなか空のなかめのみして同
往時如夢ぬるかうちにみるのみ近きむかしにてうつゝの夢そ遠さかり行同
見花めかれせぬこゝろをはなは中〳〵にあたなるものとたのまさるらん政
(ママ)朝萩今朝も猶よるのにしきのそらしあれや人もすさめぬのへの真萩は同」三
歳暮雪ゆくとしのあとみぬ雪の通ひ路にくるゝ名残をわすれぬもうし同
寄下草恋消かへりおもへは露のしたくさもうき身をよその袂とはみし同
に山家鳥八声なく鳥も有けり柴の戸はときしるへくもみえぬみ山と同
〻
尋花咲そめしこその山ちとわけ入やこゝろをはなのしほりなるらん為
山初雁天津雁秋はみやこにかへるやまはるの名たてに何うらみけん同
常盤木雪そめかねし時雨のはてやときはきに雪とふりても色しかゆらん同
寄宿木恋契きなおもはぬかたにやとり木のかれなてつらき夜はならむとは同
老後懐旧いかゝいひていかゝさためんみしや夢ありしやうつゝ老のいにしへ同
同元年閏六月御百首中勅題
春雪はなをのみまたるゝものと枝の雪のはるをやよそに思ひきゆらん
早秋荻のをと松のひゝきに吹かへていつれかいつれあきのはつ風
寒草のへの色はさひしき比そ霜かれの尾はなかすゑにゐる鳥もなし
寄煙恋とことはの思ひよいつをはてならん」四ふしの煙はたゝすなるとも
杣山おくふかき山のやまひここゑ〳〵にひくやそま木のいく木ともなき
春月はなとりのわかよとおもふはるの空に月もやしゐてあはれそふらん実
暁虫秋風にこぬよの鴫のはねかきもをのかうへとや松虫のなく同
豊明節会君か代にはしめてかへす乙女子かうらめつらしき袖をこそみめ同
寄滝恋せきかへすはては袖にもおちぬへし心のうちの滝なくもかな同
嶋鶴よるのつるの思ひもたれにきかせましよにかすならぬみしまかくれは同
見花さま〳〵の身のあらましも春きてはたゝいたつらに花やなすらん政
夜鹿草のはゝなひくもしらぬさよ風につまゝつ鹿やみをたのむらん同
落葉色にちる木の葉をしけみときはなるかけさひしくも山風そふく同
( 六
)
寄月恋晴間なきなみたの月のよな〳〵もそふ面かけをやつす袖かは同
浦船風はやみなにはもわかぬゆふなみになれぬるかたとかへる友ふね同
(ママ)惜花やよあらしさくらよかなん時ありて」五咲そふはなもさもあらはあれ同
重陽宴今日たまふ菊のさかつきさしくみにしらん千秋や雲のうへ人為
池氷やへふきにあらぬ氷もひまなきやかれたつ蘆のこやの池水同
寄鳥恋たかの毛のうはゝからたちそれよりもさはらむものは恋ちとをしれ同
寄日祝やふしわかぬ日のもとよりや月ほしの名たかき国も光みすらむ同
同元年八月御百首中題雅俊卿
海辺霞明るよのいそへにしめるもしほ火の煙もさらにかすむ色かな
庭荻風秋かせに露のかゝらぬたくひそとそよくや何の宿のおきはら
寄月恋かたらはぬ月の面かけいかさまにまくらならへてわひつゝもねん
伊勢うけつきて今はわかよをわたら会やいすゝの川の絶ぬなかれに
柳露ちらすなよ柳か枝にさくはなのつほみもそれとにほふしら露実
初秋朝よの間にも身をかふはかりうつせみの今朝からころも秋風そふく同
寄火恋いかならん打いてゝしも石の火のつくかたなくてたゝに消なは同」六
本ノマヽ祝あめ土も知らんものかつるかめにそへてをいのる君か千とせは同
庭上落花枝にみしはなこそうけれ庭の面に散ことはりはたれまよふらん政
聞擣衣麻ころもうちおとろかす音もうし身はいたつらの末の秋かせ同
雪朝音もせぬ軒はの松の雪折は今朝みるたにもおとろかれつゝ同
寄玉恋袖のうみかはくためしはいつのよの妙なる玉のひかりにかみむ同
滝水滝のうへのみちはつゝかぬ岩かねにいとくりかけて山かせそふく同
春月これや此月のかつらのはなくもりかすむをよそに何うらみけん為
野萩露たか跡におらは落なんことのはの露のみやとるのへのむらはき同
寝覚時雨おとろふる袖のしくれや天人のこゝろよりふるね覚なるらん同
寄石恋なとかしる思ひのつなそうき中は千引の石もかろき心に同
山家苔とちはつる苔のとほそは雫にもこたふやたゝく山ひこのこゑ同
同元年十月御百首中題政為卿
歳暮立春待みては春の日数をくれてゆく」七年のためにも猶やおしまむ
五月雨久かきりあらは雲もめたてしみな月のてる日にちかき五月雨の空
山家月峯のいほふもとのさとの月かけは雲なき空にはれくもりつゝ
寄野恋とはすとものとなるさとになく鳥のうつらむかたを我にきかすな 海辺眺望山もあれやうら風よはる夕なみのしろきをみれは雲そかゝれる
庭梅うしつよのわか身をはるにたとる哉うつろひかはる宿の梅かゝ実
七夕夜深おしとおもふ月もなかれて七夕の袖にやかゝるあまの川なみ同
行路時雨やともかなゆくさきおほく残る日のかけすくなくも時雨きにけり同
寄岡恋ことゝはんたよりをそ思ふをちこちもしらぬ岡へのやとのこすゑに同
寄情述懐すなほなるすかたなからにあたらしき心をみはや大和ことの葉同
野梅若草のみとりの野へに咲むめのはなの雪間は木末にそみる政
荻風あはれしるたかなみたをかをのかうへに露ともみたす荻の夕かせ同
橋落葉行駒もちる木のはにやまよふらん」八今朝ふくかせのまへのたなはし同
沼寄浪恋袖はたゝいかほのぬまのいかにそとさすか人めにあまるくるしさ同
〻
祝言久かたのあめのめくみやしるからし千世のはしめの君かひつきは同
沢若菜氷ゐしこその雪けのさはのへにふる葉なからもつむわかなかな為
田辺蛍秋はまた遠山小田にいなつまの光ほのめきとふほたるかな同
嶺紅葉峯たかみうつる夕日の色そめて時雨むなしき秋のやまかな同
寄橋恋せめてさは夢路にかけてかよはなんたのめし末のうたゝねのはし同
寄老懐旧老のみと身をなゝけきそしたふよはきのふもおなしむかしならすや同
同元年十二月御百首中勅題
初時雨みるまゝにきのふの雲の村しくれ冬にもめくる山かせそふく
谷寒草ちり積る木のはを霜のへたてにて冬をもしらぬ谷のかけ草
河千鳥ひさきおふるかけをやをのか友千鳥月のこほりも清き川原に
古寺雪なかむらん心もしらす初瀬やま雪のうへなる入逢のかね」九
年内早梅としさむき松をはいはし霜雪に先あらはるゝ梅のひとはな
里時雨初しくれ里わくほとも山かけはたゝいつとなくふる心ちして実
篠霜今朝のあさけ霜さむからしさをしかのあとたにみえぬ岡のさゝはら同
浦千鳥友千とりをのかうら〳〵なみかせに思ひかねたる音をや鳴らむ同
杉雪心しる人しもあらは三輪のやまいかに待みん雪の杉むら同
惜歳暮ゆくとしはさもいひしらぬわかれ哉とまらぬものゝ身につもりつゝ同
朝落葉かせ渡る木末の月のあけはてゝ落葉かうへにうすき影かな政
き江寒蘆あまのすむ入江のなみのしほれ蘆はからぬみるめそよそにさむけれ同
〻
谷雪嶺の雲に色をかはして谷の戸のゆきの木末やさえくらすらん同
爐火みるもうきしはすの月にうつみ火のほのかなりしもすさましきかけ同
( 七
)
老後歳暮かそへこし身にしあれとも老か世は今一とせもうき名残かな同
(ママ)関時雨雲なから人はさまよふ道のへにひとり時雨やたゝこえの関為」一〇
池寒蘆池水のみとりもあらぬ色かへて氷にとつる蘆の一むら同
屋上霰さよふかみまやのあまりにぬる玉もくたけてちるやあられなるらん同
閑居雪榊ともえやはこゝろのまつかせに人たのめなる雪の山かけ同
仏名法の師のこゑすみのほる雲のうへに雪もかつけのわたやみすらん同
文亀二年正月廿五日御会始
竹不改色
よろつよのこゑの色をやそよ更に
竹にまちとるはるのはつかせ
色そはん雲井にもあるかくれ竹の
世〻のふることあとを尋ねて権大納言藤原実隆
君に今かはすちきりそあらはるゝ
みかきの竹のもとのねさしも民部卿藤原政為
実をはまむ鳥もいてよとすなをなる
御代のすかたや庭のくれ竹左衛門督藤原為広
*以上四首、底本ノママノ字配リトス
同二年二月御百首中勅題
や立春のとかなる都にきてやをのつからはるのこゝろもはるをしるらん
〻
五月雨風みえて行かふ雲のさみたれははれまにちかき空もめつらし
山紅葉よそにみてあかぬこゝろの千しほには」一一そめもまさらし秋のやまひめ
待恋あちきなくおもひかへして思ふそよいつの夕へを人にまたれん
羇中衣越わふる山ちのあらしせめてさはころもふきほせしはしやすまむ
帰雁幽おもかけは心あてなる雲路にもかすみはてたる雁のこゑかな実
夏草滋夏きてはこのもかのもにつくはねのかけをあらそふのへの色かな同
里雪秋の月なくさめかねしはては又雪もさらなるさらしなのさと同
逢恋行末もたのまはたのめさきのよのちきりはみえつさよの手まくら同
隔霞満花よしの山よしたちこめよ春の色のかすみもはなの外にやはみん政
〻
蚊遣火かやり火のけふりなひかす夕風は吹こぬほとそすゝしかりける同
滝紅葉たきの音のしくるゝうちも山ふかくてらすもみちの色もあやしき同
初恋思ひそめしらせそめしをうき事のいつれかと出とまつまよふらん為 名所松をのか色や猶くもるらん住吉のしのひにとをき浦の松はら同
花如雪よしさらはこゝろまよひのゆきとのみ」一二散かひくもれはなの山かせ為
夕立ひろひみんこれやまことの玉さゝにあられさやけき夕たちの雨同
暮秋面かけのきへすはありともあすよりはしくれん雲を秋と見ましや同
(ママ)不逢恋人はいさうつりかとめんときありてさくへきはなは袖ふるゝとも同
述懐代〻かけてひとり歩しむかしそと忍ふもくるし敷嶋のみち同
同二年四月御百首中
の鴬都より千里をかけてうくひすもおさまれるよの春をつけなん
〻
初秋一はよりたえぬこゝろそ玉かつらはふ木あまたの秋のはつ風
冬月みたれちる木のは分きて梢にはさはらぬ月も影そすくなき
逢不逢恋いかにしてかたりあわせんさたかなるうつゝの夢はひとりやはみし
旅もしほ草いさかきやらんこし方のたよりもかへる波にまかせて
霞立出すかすみの袖も風ふかぬよのうれしさをつゝむ春かな実
露秋のよの晴たる空のいつくよりいつともみえぬつゆみたるらむ同」一三
歳暮ふかゝらぬよわひのほともおしみしはたゝ大かたの年のくれかな同
忘恋こし方をなとかおほえすなしはてむうつるこゝろにまきれさりせは同
神祇めのまへに神のいさむるみちもかなにこりはてたる民のこゝろに同
梅こし跡のたち枝はかすむ梅のはな袖にをくれぬ匂ひをそしる政
萩こよひしもまくらかるのゝ真萩はら秋風たちぬはなやちるらん同
初冬冬くれは霜のかね聞はつせやまもろき木のはにひゝくとはなし同
不逢恋あふまての身をたのむよりはかなけれあたのなさけをまついのちかは同
懐旧身を忍ふむかしはなくて今さらにみしよの夢をわひつゝそふる同
花小はつせやひはらははなにうつもれてにほひにくもる春のやま風為
擣衣浦ちかきあしの丸屋の秋かせに浪もひまなくうつころもかな同
もをのれか雪枝たはにさすかおられぬなよ竹や雪にもをのかすかたみすらん同
逢不逢恋身はちゝにうからむものかひとたひのなさけにかへし命なりせは同」一四
い祝君か代はなかみのうらのはかりなくほとりもしらぬ浪のゆくすゑ同
〻
同二年五月御会三首御懐紙
*〔時鳥〕ほとゝきすひとりや過しかさゝきのみねこゆるまの月はのこりて
*底本、「ほととぎす」ノ異体字。便宜「時鳥」トス。
下掲図版参照。
( 八
)
書陵部〔一五二・三一三〕本モ微妙ニ異ナルモ、ホボ同字。
立かへり波やこえなんほとゝきすをのかさ月も末のまつやま実
まつにたえ夜かれにならふ心のみめつらしけなきほとゝきすかな政
鳴すてゝ雲の行ゑにこゝろさへ空のみたれのはつほとゝきす為
樗玉にぬくはなにそへすはとはかりに外面のあふちおしき色かを実
〻
雲の色もあひにあふちのはなのうへにそともの山そとをく明ゆく実
木すゑよりたなひく雲をもる月に咲やあふちの陰そくれゆく政
ことのはのいやしきすかたいかならん折にあふちははなもさくよに為
滝雲におち木の間をわくる滝のいともおなしすちにやむすほゝるらん
年もへはかゝみのかけにをちぬへしくろきすちなき滝の水上実
かり枕かたしく山のたきのいとに」一五むすほゝれゆく夢やかこたん政
五月雨にうつ音たかしこれやこの天のつゝみの滝津いはなみ為
*同二年御百首中題雅俊卿*書陵部〔一五二・三一三〕本作「同二年六月」
若菜雪ふかみ小松か原はみとりさへすくなきのへに若菜をそつむ
荻風夕月夜あかぬ名残のひやゝかに荻のをと聞風のさやけさ
谷氷柴の戸のかけひにたゆるやま水をみ谷にくむもこほるころ哉
昼恋わりなしやひるねの床にみし夢もまはゆきかたにむかふ日影は
関屋波のうへに心をよするやすらひをきよみかせきのもる人にせん
余寒ときは木のこのめもはるはそらめにて下葉うちゝる風のさむけさ実
蚊遣くるゝよはむせふかやりのけふりこそむくらの宿の思ひなるらん同
初雪またれこし心に積る日数をはけふふるゆきのうへにみましを同
渕亀渕よりもふかしやつりにかゝる亀のはなてるぬしをおもふこゝろは同
巻頭早春ふるとしの雪の木末にふき初てはなのかいそく四方の春風政」一六
対萩いつのまにころもはすらんめかれせぬはなのまはきよあはれことはれ同
閨霰一しきりあられはけしき閨のうへに残るあらしもそれかとそ聞同
暁恋みをはやな暁露の草も木もわか袖のみに思ひしるよを同
海村あまのすむ里の一むらくれはてゝもしほ火とほく松風そふく同
春曙月雪の千里もかすむおもかけは心にこもる春の明ほの為
悲露風にかる身ををきてしもみの外に野山の露を露とみましや同
(ママ)鷹狩さえくらすみ山のたかのかさなかな雪やこよひのとほこならまし同
朝恋たかうらみふかきあしたのかねの音も身にしむものようちの山かせ同 水郷玉しきしあとをしとへは水無瀬川袖こす浪のをとはかりして同
同二年七月御懐紙
愛萩思ふ色そかきりしられぬ秋はきのはなもしのふの露のみたれに
もろくちる露をかなしむこゝろをもはなにわするゝ萩の下風実
咲といへは古枝にこもる花もなし」一七あはれおほかる秋のはきはら政
ぬれてみんたれそは露の下はきにとりし御笠そ宮木のゝはら為
遠尋虫分つくす末野にちかき山かせもこゑほのめかす松虫そなく
(ママ)しらん野も秋にうかれて鳴むしのこゑこそかきり分やつくさむ実
行〳〵も聞へかりけるむしのねはあらぬのもせに秋かせそふく政
かへることの朝霧ふかしむしの音を夕露かけてたつねこしのに為
偽恋思へ猶我はわれにてたのみこし人に一たひみえしまことを
たのましなあまりにとをきかねことはもしいつはりのなき世なりとも実
身につらきことのはのみそいつはりのなきにつけてもたのまさりける政
偽のなきことはりのあまつほしにいかなる雲か君さそふらん為
同二年八月御百首中題為広卿
高雪とみる月よりうへのひかりかは秋をたかねのふしのしは山
深五百重なみ千ひろといふもはかりしるあまは心のかきりやはある」一八
親初かせの秋そ身にしむともし火のまともそむけぬ心すゝめて
閑いかにそと草の庵のあめのよを板やにあらぬ軒はにそきく
旧道は猶ふりぬる人にのこしてそあらたまるよのしるへともせん
低雲のよそに思ひし物を雁かねのふもとの小田に落るまちかさ実
少月たかく明なんとする空のほしやみしよの友の数はかりなる同
厚うみ山をのせて動ぬあらかねの土はいかなるちからとかしる同
忙よの中よ明ぬくれぬとまきれきて身につとむへき一日たになし同
近吹しほる軒はの山の秋かせになれぬる袖も色やかはらん政
(ママ)薄なかきよものこしぬ空は有明のつれなきほとの光をそみす同
閑すめはかくいつくも同し柴の戸にもとめし山はあさき心よ同
清袖ことにかけやとしをく月はたか心をきよき友とみるらむ同
旧かしこしと今みることもふるきよのをろかなるにはえやはをよはん同」一九
高月も日もをよはぬ天やうへしなき君かひかりをはしめならなん為
遅いつかはとまつらんものかたかの山そのあかつきの月の行ゑを為
( 九
)
厚ひとのおやのみたひうつせしあはれみも心へたてんとなりならめや為
疎よし露の身をしやとさはわらの莚竹のすかきもさもあらはあれ為
清汲しらん我かはあやなわかのうらや立かへる波のきよき流を有注為
同二年九月御懐紙
菊菊露うちはらふ袖のにほひにとゝめてもはなにそおしき草のしら露
〻
花そ先にほひの渕と成にけるつもるはしらす菊の下露実
つむきくにけふはらふとも白露のにほひは袖の外にちらさし政
咲そふは露の光をあまつほしと何そは菊の名にしたつらん為
池辺菊秋かせにたへぬやいつれ池の面の蓮のはなのきくの色かは
影しあれは水のうへにも大さはの波のはなゝる秋のしら菊実
池水はさゝ波くれて行みちの」二〇しるへにゝほふ秋のしら菊政
うきしつむはなの姿や池水にをしのなたゝる菊の一もと為
樵夫真柴とる山の山人うきわさもみをわすれては何かくるしき
まさきちるあらしや袖におもからし薪すくなくかへる山人実
そたきゝこる身は山かつもなれぬれははなも紅葉も色をしるらむ政
〻
分いらんおく山人もさはりあるよのなけきをはこりつくさめや為
同二年十月御百首中勅題
春草短下もえのみとりそうすきふる草はなひくはかりの影ものこれと
新秋露吹からにいつくをはらふものならん袖につゆけき秋のはつ風
河千鳥身にしむは秋はかりなるねさめかは河かせふけて千鳥なく空
寄床恋歎あかしひとりおきゐる朝床によるのなみたのあともわりなき
山家鶯霧ふかきわか山里はうくひすのこゑにもしれなはれぬ思ひを実
寄国祝へたてなくなひくをみれは四のくにみちちかゝれやわか君か代に同」二一
孤嶋霞春はたゝかすみにつゝく色のみやみるめにちかき浪のとをしま政
待七夕おもひ絶し程こそはあれ七夕の待てふうさも初秋のそら同
駅路雪すゝか山ふりしく雪に引こまのあとやはわかむと今朝のたひ人同
寄櫛恋遠さかる中にこゝろをつくしくしさしもちきりし道を忘れて同
(ママ)田家水庵ふりてかけひくち行小山田にあらぬ水おもせきやそへぬる同
澗落梅散梅のはなのかゝみやこれならんあらしにくもる谷のしたみつ為
湊夕立のこる日のかけのみなとは名のみして入しほとをくくもる夕たち同
狩場霙ふりくらすみそれそさはりたかの尾もうはらかくれはかりつくすとも同 寄絵恋うつしみは君かこゝろもけたものゝはけしきかたちえやはをよはん同
陵園宴かけふかみうきにとちむる松の戸をたゝくものとは山かせのこゑ同
ら花満山さくころは花にむもれてときは木のかけさへにほふ嶺のし雲雅俊
堤上霧たつ霧も人めつゝみのたかせふねさす袖まよふ秋の川なみ同」二二
寄枕恋しるといへはつもるうらみをかくとたに人にやつけの枕たのまむ同
山館竹おくふかき竹のは山のかけしめていほりありともたつけふりかな同
飛鳥井中納言四首為令見作意書加之畢
同二年十一月御懐紙
冬夜難曙をくりこし年のひかりを今そおもふ霜よのまとのともし火のもと
いくね覚霜につれなきかねの音を四方のあらしにわひて待らん実
はうかりける霜のよさむに明やらぬ月をはかこつならひやある政
さゆるよの鳥のみたれをなけくらんかしらの霜の茂きねさめを為
常盤木雪いかはかりつれなき枝そ松ひはら木のもとあさき雪にむもれて
初雪のあさけのやまの小松はらかくてはかへぬ色もみてしか実
枝をゝもみこほるゝ雪にまきひはらあらはれて猶さむき色かな政
山ふかみ青葉も色にとられけり雪や木からしひはらまきはら為
詞和不逢恋あけまきのよりあふからに恨わひぬへたてなきとはかゝるちきりを」二三
かひなしやことの葉のみはやはらかにぬるよはよそのよゝの手枕実
なをさりにいひ出つるをたのむ身もはかなやいつを限とかせむ政
ことのはゝなひく姿もなよ竹のさすかをられん心ならめや為
同二年十二月御百首中題政為卿
霞雪は今朝春の光にうつもれて霞にはるゝ山そまちかき
月こゝにみる程は雲井の秋の月手にとる計袖にやとして
霜ふみからす芝生の中の一とをり霜にみちあるのへのさひしさ
牛いにしへの春にかへらぬよをうしともゝのはやしのかけやこふらん
蕨はる山の空は木のめもけふりたちもえて名におふ下わらひかな実
鴫思ひしるね覚なくとも秋はたかこゝろの外の鴫のはねかき同
昼よるきては光なしとやふる郷ににしきもひるの名をとゝむらん同
衣春をいそく柳さくらに宮人のそむるころもの色をかさねん同
桃三ちとせの花のうへにも咲てちる」二四ならひはかはる春やなからん政
雪袖のうへははらふにたへすゆく道の草にも木にもめてぬ雪かは同
( 一〇
)
煙月そすむ衛士のたく火のうす煙なひくを雲のうへにみるよも同
柏木のもとに散ての後も玉かしはみかける露の置所なき同
書うちいつるわかことのはも神代よりまなひやきつる水くきの跡同
(一行分空白)
鸝霧にむせひ雪にこもりて山ふかみわか春うらむうくひすのこゑ為
菊みたれ碁にかけし心のたねとてやきくもあらそふ色のさま〳〵為
暁こゑ〳〵のかねのみたけや待わふるそのあかつきを先きかすらん同
墻ことのはの道まもるらし河くちの関のあしかきあしき名もうし同
鴿はるゝ空も雨もよならし陰くらき竹をめくりの家はとのこゑ同
文亀三年正月十九日御会始
鶴有遐齢
千とせとはをのかよゝにやよはふらん
まつふくかせにつまのもろこゑ」二五
君か為更にかさねよなへてよの
千とせはあかしつるの毛衣権大納言藤原実隆
すたちぬる松のはかすをありかすに
よはふやいくよひなつるのこゑ左衛門督藤原為広
君かよはひをのかよはひにとりそふる
雲井のつるのよろつよの声権中納言藤原宣親
*以上四首、底本ノママノ字配トス
同三年二月御百首中勅題
立春風霜雪の草木もしるや天津空春たつけふの風のすかたは
野夕立山かせのすゑのにきほふほともなし夕たつ雲の雨そゝきして
忘恋われそうききのふはけふにかはるよをわすれて人におとろかねぬる
待月入日さす雲にまたるゝ月のよををのかひかりに秋かせそ吹
かせ歟磯春草あさみとり松の色風はるとしもまたあら磯の浪の下草実
竹露くれ竹の末こす風の夕露にまとうつあめの思ひをそしる同
鴨さはくとてにこりなはてそあしかものたちゐは水のわかこゝろかは同
薄雪雲その山と契りてかへる雲ならはおもはぬかたの風やうからん同
暁更梅ぬるかうちを思へはおしきむめかゝや」二六さむるまくらに身をしほるらん同
虫怨聞わひぬたかみの秋のうらみをかおもひしりぬと虫も鳴らん同 山初雪山ふかみちる木のはさへ雲霧の色かへたてゝ冬はきにけり同
近恋よそなからあはれともしる道もかな身はいひよらんひまたにもなき同
猿杣木きる折しもきけは山ひこのこたへにはあらてましら鳴こゑ同
江春月秋みしも月はほそ江のみをつくしかすむや春のしるしなるらん為
残暑秋きてもあきをこゝろの松かせや身を分て夏にふかむとすらん同
橋落葉山ふかみ木のは散らし谷かけにあらしのわたす波のうきはし同
逢恋せめてうき夢になしてや手枕をわか物からにあけはかこたん同
野風わけまよふゐなのゝ小篠そよさらに風もやとゝふ夕くれのこゑ同
同三年三月三首御会
花浮水もろくちりはやくなかれておしとみる花はいくよの水の春かせ
枝よりもなれてかけみし水なれはよそにもらさん花とやはおもふ実」二七
さそひをく花のしら波こく舟にあとみる水の風のゝとけさ政
咲かゝるひかりをきよみ榎のはゐにしら玉しつくやはなの面影為
暮春月有明の月みるうちにみる夢は昔なりけりなはるの面かけ
別路のはるのなみたやくもるらし月にかすまぬ空はありとも実
うかりける霞も夢とみる月やあわれ名残のみしかよの空政
みるかうちに春も今はとゆく月のわれてかなしき老にやはあらぬ為
経年恋さりともと人にをくりし年月のはてはたのまむ行ゑともなし
いはさりき思そめてしそのかみにけふまて同しつらさなれとも実
たへてよにあらし身なからとしもへぬたゝいつわりになさむつらさそ政
あさはかの思ひのたねもとし月も何とこゝろの杉の木ふかさ為
同三年四月御百首中題為広卿
花まかふらん山のさくらのたくひかは都のはなの雲のうへのはる
初秋よはからぬ秋の日影の夕すゝみ」二八風にしられぬつゆものこらす
不逢恋まことには契なきよに生あひて人をも身をもたれとかはしる
山家思へ人心にふかきやまならはとはれてもしる道やなからん
花あたなりと思ひもすてぬはることの心そはなにみえてくるしき実
紅葉しくるゝはほとなき秋の紅葉ゝを心とゝめてつゆやそむらん同
忍恋これそ又人のこゝろよ身のうへにしらすしらせは同し岩木を同
山家ふかく世に思ひはてすは山にてもことのこゝろの又やうからん同
霞天津空かすみの外の春の色はあらぬものとやよにおほふらん政
( 一一
)
月よもすから月をは袖にやとし置て千里にゆくもわかこゝろかな同
不逢恋もらしける名こそつらけれつれなさもよしやむくひを思ひしる身は同
旅うきにたになるゝも夢を思ふ身のかりねのまくら後やしのはむ同
た花うらみしなみん人からを色香とてはなもなれまつ心なりせは為
〻
氷みなの川波はこほりてつくはねの」二九峯よりおつる山風のこゑ同
後朝恋朝床にあるかなきかのうつり香やきえん命のかきりならまし同
眺望一筆のゑしまか磯は浪はれてまかふや雲のあはちしま山同
花心にもまかせてをさけ九重やはなもあらしをきかぬ所に宣親
初秋ふかぬにもふくにもよらて秋かせの心のよそにちる一はかな宣
後朝恋今朝はしもひとりことして恨のこし契のこせる程そくやしき宣
此卿作骨、可立雅俊卿之上歟
同三年五月御会三首
郭公数声一こゑに明しやいつとさ月やみ空おほれしてなくほとゝきす
まに一こゑをさつことにせし時鳥いかぬかたらふね覚なるらん実
〻
〻
こそわりほとゝきす名こそわかなきことわりはしゐて聞こそ思ひしらるゝ政
〻 〻 〻 〻
ま幾こゑとかそへすよそすいよのゆのゆけたも今や山ほとゝきす為
〻
夏草深思ふそよ夏のゝ外も道しなきわれをいさめの草はいかにと
しけりゆく野嶋かさきの夏の色は」三〇そこひもしらぬなみのうへかな実
に行とみしよるのほたるのひかりたくあらわれそむる草のはらかな政
〻
冬かれにみし面かけもたとるまて心にしけるまのゝかやはら為
旅夢しらすきて一よの夢にうらむなよ松かねまくら風のやとりを
たひころもことはりすくる山かせになれぬる夢もいかゝとそ思ふ実
こしあとのたよりの風とおもひねのゆめをは何のさそへはかうき政
ふる郷にかよふもならぬおもひとや夢路むなしきふしのねおろし為
同三年六月御会百首中題雅俊卿
〻
第七簷梅あら玉のとしにかわらぬむめかゝはふるき軒はの君にみたれて
虫なかめわひぬ物思ふあきの夕露にわかこゝろをや虫もなくらん
けん寄月恋さそへたゝ心のゆくゑしはしたに月にまかせて人にはるけさ
〻 〻
山家心よりひとり〳〵のやますみはならふ家ゐもしらすかほなる
巻頭立春立そむるかすみを春のたひころものにも山にも今朝まよふらん政」三一
浅雪ふりかはるとはかりみえて雪はまたきのふの霜の野への面影政 寄原恋千しほをは袖にかさねてはゝそはらうすきを人のこゝろとやみん同
浦鶴うらなみのよるのおもひを鳴たつの心のやみやよにならふらむ同
第二霞はるをいへは四方の高ねもそらの山のみとりふかめてたつかすみかな為
夏祓こん秋のちかき川原やすゝしさも手にとるほとの御祓なるらん同
鷹たか鷹狩うらちかき末のゝ鳥立かりゆけは影さへみゆる鷹のみかこ羽同
〻
〻
神祇ましりてやいとも聞らん松のはのちりをへてよの住よしの神同
第三鴬としをへて宿にまつさく花しあれはまたてもきなくうくひすのこゑ実
秋田夕日影野山の色もうすくこきいなはをかけてにほふ秋かせ同
寄海恋このみやは思へは人にありそうみのしほひしほみちたえぬこゝろに同
に松君か代はもゝ枝のまつの江戸こともこもる千とせを数にとらなん同
〻
初花おもひあへぬ尾上のかねのにほひ哉今をはつせのはなの夕かせ宣親」三二
水鳥うちとけぬうらみはみえしをし鳥のともねの床はなをこほるとも同
寄獣恋おもひのみましらなくてふ山のなのわひしきかくれをわひつゝそふる同
同三年七月三首
宮城野色にいてん木の下つゆのまたきよりまはきにうつる宮城のゝはら
に秋きても夏にまさりて雨をおもふよにみやきのゝつゆをかさはや実
〻
は花のうへにみすともかゝるしら玉を分やはすてん宮城のゝつゆ政
〻
咲はきのにしきをりかくみやきのや行かふ人をたてぬきにして為
明石浦あかしかたみせよやと思ふ人しもそおもかけうかふ浪のうへの月
秋の色よあかしのなみはよる〳〵の月ともいはし朝霧の空実
かりよもしほやく人もこそあれあかしかたうかねの袖は月にしほれて政
〻 〻
〻
明石かた嶋かくれゆく月かけにみぬよもうかふ浪のうへかな為
ら筑波山よそめにはしられしものをつくは山よしやしけ木の中のかよひち
〻
(ママ)つくは山はやくもなにやたつ鳥の」三三木かくれてこそねにもなきしか実
つくは山おもひ入にはたちはなの下ふく風もしるへやはせぬ政一首不足同三年八月御百首勅題
湖上朝霞ふる郷と思ふもあかす朝かすみこすゑはちかきしかのうら波
松間夜月もりくるもかけさたまらぬ松かせは月のかなたの空に更つゝ
初冬時雨立かふる袖に露けき秋もなしけふのしくれは空にのみして
帰無書恋今朝の間にとはぬやいかに夢うつゝ人にさためむ契ならしを
河水流清天雲のかゝるやいつく山川の水そこかけてゐる塵もなし
( 一二
)
雨中待花くもるらん色香をはなににほはせて人ためのなる枝のはる雨実
(ママ)紅葉移水秋風の木葉の色にうつりきぬきのふのはなの春の山水同
忘住所恋けふはよしところたかへにかへるともしらせて後のかことにもせん同
関路行客たひ人の袖ならすとも関のとに涙はとめしすまのうら風同
霞隔遠樹千里とや猶かすむらん雪にみし木すゑはちかき嶺の松原政」三四
初秋朝風秋をよに我のみしほるこゝろとや岩木にはらふ露の朝かせ同
寒夜水鳥ふしわふるわか身よいかに水鳥はたつ音しても明す霜よに同
従門帰恋とちはてぬむくらの門のかへるさや明ぬうらみを人にのこさん同
海辺暁雲かちまくらね覚てとへはうら人の雨とこたふる浪のうき雲同
山路梅花行くらしやとりとるともくらふやまあやにてならむ梅のかけかは為
秋風隔野いましはとうきを心のしめのゆきむらさきのゆき秋風そふく同
歳暮澗水下水はこほりし谷のきた風にたきゝとりあへす年そなかるゝ同
返事増恋しらせはやうき身をさめぬとはかりの夢のまよひもわか行ゑとを同
社頭祝君まもれ君神もむかしはつかへてし此野ゝみちの末とをきよを同
同三年九月三首
擣衣寒身の為とおもひかへしてさよころもねぬへきものゝ霜にうつらし
わか為にうつと聞ともからころもなへてよさむの秋やなけかん実
春のはなの衣はしらぬ山かつの」三五霜をや秋の色にうつらむ政
やゝさむみきけは心もうつたへに里の名しるき朝かせのこゑ為
蔦紅葉露霜の松もさこそは下もみちつたのはならぬ秋をふかめて
かゝるしもわか秋ならぬ松かせや散をうらみねぬたの紅葉ゝ実
紅葉ゝもおるへくはあらぬ蔦かつらなかくや色のかきりをもみん政
うつの山分ゆく袖の色なから露をかけたる蔦のはかつら為
憑媒恋思ふにもよるへくもあらぬ人伝にわかことのはやわれとしもなき
ことのはをあたになすなよみかは水つゐのよるせのためしやはなき実
身にはうきこたへなりとも待きかんさりとも人のいひやつたへし政
いへはえにむせふは千〻のおもひとをつたふたよりの人もあはれめ為
たのみつゝさのみつらさを聞もうしわか中たちにいつはりもかな宣親
同三年十月御百首題為広卿
春色はるのゝは空もひとつのあさみとりたつやかすみの色もつゆけし」三六
夏香あすは又よそに忍はんたちはなの玉ぬく月の袖のにほひを 秋声立いてゝしるへきあきのこゑならしたゝ月ほしのふかき夜の空
恋声さりともと心なかさはこぬくれをあかつきかねにおとろかされて
春色とけわたる氷のあとのあさみとり春にうつろふやまの下水実
夏香はなならてはなよりふかきうつりかそけにいひしらぬ池のはちすは同
秋色たか秋とわかぬあらしものへの花山の木のはになへてかなしき同
恋声引出るほとまても猶小車のわか夕くれとたのみこしかな同
春声咲しより花にゆきゝのこたへしてひまやなからん春の山ひこ同
秋色よな〳〵の月にことなる色をみよ露の草木にそめぬ秋かな同
秋香分すてし花の千種はこゝろして袖にとまれる香こそあたなれ同
冬色雪をこそ今は待みめ冬されのあまり色なき野にも山にも同
恋声鳥たにもねくらをさして行空にわれうかれぬと音にやたてまし同」三七
春色よこのうみやひらのねおろしかすむらしみとりにかへる雪のしら浪為
夏香軒ちかみ何たとるらんほとゝきすはなたちはなのかやはかくるゝ同
秋色袖のうへの露をたへても払にきかゝみよいかに霜のまししらか同
冬声さらてたにおもき薪の帰るさや雪をこつけの谷の北かせ同
恋香みしや夢とはかりおもふまくらかのきえすはありとも身やは残らん同
同三年十一月三首
雪中眺望雪ふりて月は有明のよしの山くまなきかけの奧もしられす
思ひやるにあかすも有哉行てみは今朝こそ雪のうらの遠しま実
雪にゆく心はえやはあとみえん雲をはしらす峯のかけはし政
のこれ月はなも紅葉もさもあらはあれのみさきの雪の朝明為
爐辺閑談おしといひふけぬといへは残りなきとしの名残もよるのうつみ火
かへりてはすさましかれやうつみ火のかきあらはせるとはすかたりは実
うつみ火の影よりも猶かすかなる」三八わかよかたりはきかれんもうし政
かたるまにかしらのゆきもけぬはかり老をなくさのうつみ火のもと為
河水流清いすゝ川したつ岩ねによる浪もうこきなきかけやみえてのとけき
せき入るすゑまても猶をとは川をとに聞えし水のしら波実
神ち山ふもとの川はすむとすむ世の水かみをくみてしらなん政
心たれにこりて世をしわたらゑや大川水のきよきなかれに為
同三年十二月百首勅題
初花おもふにもたくひなからんはなの為は一木にさける程をこそみめ
( 一三
)
田上雁しほるらんころもかりかね露霜の小田もる袖を忘れてそ聞
松雪いくたひか雪のうちにもあらはれんおれかへる松のもとのみとりは
寄水雑まてといふ水はありともなかれゆくとしにかくへきしからみそなき
杜霞春にやはあはてのもりは冬かれの霜のかれはも猶かすむらん実
早秋草木こそまたき秋にもたへさらめ袖たにしはし露にしらるな」三九
冬暁かつおしみかつおとろきぬとしくるゝ有明かたの月のなこりは同
寄市雑よものたみ我か大君の市にいてゝひろきめくみをうるもかしこし同
檜原霞春かすみたゝすは今朝も雪きへぬひはらやをのか色もなからん政
古宅月影更るうらみはをきて秋かせのやとのむかしを月にこひつゝ同
磯千鳥磯ねうきまくらをしらてさよ千鳥おもふかたにや鳴てゆくらん同
久恋人はいさあはれもかけぬとし月をたへしやあたに思ひをとさん同
寄橋雑橋はしらくちすもあるらし仙人の尽きさらんよをわたるためしに同
草軒青こし春のかたちの小野や下もえの色にとらるゝ雪のむらきへ為
夜虫秋されはねさめのとこの露のそこにきり〳〵すなきてさよ風そ吹同
初冬はるも又なたかき空や定なきしくれにつれて冬のきぬらん同
切恋行ゑなきけふりくらへもたえてみに心にけたぬ思ひとをしれ同
寄枕雑はけしさのうきよの夢もいつさめむあらしのまくらあかしかねてき同」四〇
同四年正月十九日
松有春色春の色をとしの子日にまかせてはひくてもまたし庭の松か枝
位山今一しほとまつの色にめくみあるよの春おしそ思権大納言藤原実隆
色そはん春とはしるしまつならぬわか君か代も千世のはつしほ民部卿藤原政為
世は春と心もゆらくたまゝつや千とせのほとを君につくらん左衛門督藤原為広
同四年二月御百首勅題
立春時かはるけふにあけても先そ思ふ民の草はのはるの初かせ
夕薄まねきてや入日をかへす袖ならしおはなにとをき夕くれの色
埋火さえ〳〵しよはのとかにて積るらん雪をもこゝにうつみ火のもと
待恋限あれはたへてまつへきつれなさも有明の月に思ひまけぬる
春月かすむとはいつみし夢そさえかへる霜よのかねにすめる月影実
山鹿うき袖にこれよりふかき奥はあらしと山のさとも小男鹿のこゑ同
神楽たきすさむほかけもしらむ雲のうへに今朝の神あけのあかぬこゑ哉同」四一
野宿遠近をとふへき草のゆかりたにしらぬかりねの野へのつゆけさ同 尋花はなの為たかしほりともしらぬたに今日の山ちのたつ木とそなる政
初雁つゆけさよ猶うきかすの秋のかりなきてくるよの袖のかたしき同
田氷朝氷ちりもくもらぬ田面かなはらふあらしをもる人にして同
見恋いひよらぬほとこそ猶もたのみつれ色にはみえぬこゝろつよさを同
旅行折しかむみねの椎柴をとたてゝはや暮ふかき山かせもよし同
落花手折かねよそにみすてし木〻の花ををのれかさして行あらし哉為
残暑きけは猶てりそふこゑよ秋来てもいかなるかけかひくらしの山同
寒月貴舟川なみは氷てさよかけにあられ玉ちる月のさやけさ同
初恋わかむねにけふ下もえの思ひくさしけらん末は野山とをしれ同
岡篠笠のはのそれとはかりの小篠はらいてそよ人や岡へ行らん同
同四年三月三首
花似雲よそにみぬふる郷人のことゝはむ」四二雲はこなたのみよしのゝはな
咲そむるはなはふもとのにほひをもわかすは同しみねのしら雲実
みねたかみかゝらましかは偽のなきよやいかに花のしら雲政
山とをみ咲もそらめとおもかけの心にかゝるはなのしら雲為
雨後花朝かすみはなに木ふかき色みせてきのふの雨の名残まてうき
晴ゆくもふるものとけきはる雨は心をはなにおくとこそみれ実
降ほともさはかりとはみぬはなに今雨のなこりやなをにほふらん政
ふりはれしよの間の雨の朝もよひきのふは色にかすむ木〻かは為
寄風恋心ともさそはぬかせの行ゑにはしゐてちらさむことのはもなし
空にふく風は恋ちのなになれやめにみぬものゝ身をしほりける実
ことのはもむなしきくれの秋かせにわれつてかほに吹もうらめし政
に(ママ)末は猶いかなる恋のみちのくちはけしや人の心あひのかせ
〻
此卿風情、以此躰世外不庶幾、於道口者為宗匠畢」四三
同四年閏三月御百首題政為卿
早春梅波風を更にしつめて四のうみもわかこゝろなる春やたつらん
五月雨晴五月雨は軒のしつくを名残にて立いてん空そ袖にくるしき
樵客帰月かへるさをわか影そへてま柴とるおなし山ちを月もゆくらん
はゝ*本ノマヽ落葉深みしつゝや霜の朽はにそひて又はつしほのみねの木からし
〻 〻
本ノマヽ*書陵部〔一五二・三一三〕本作「ちりそひて」
( 一四
)
都春曙おりにあふ月とはなとも名にたてる都のためのはるの明ほの実
河五月雨山川にたつ空もなき水とりの床はこすゑの五月雨の比同
遊子行月かきりなき心や空に行月のさそひていてし秋のさと人同
窓落葉はらはぬも心つからの紅葉ゝにしれかしまとのふかき思ひを同
早春山こほりゐる空の八重山はるのきてかすめる色もむすほゝれつゝ政
原夏草おきいつるなつのゝはらはまくらかるほとさへみえぬつゆの草村同
秋夕述懐うきをたにたか夕くれのたくひともみえしとおもへは袖のしらつゆ同
紅葉秋深またし今うつろふ色にそめかへは」四四紅葉もすゑの秋のしくれを同
寒夜霜雪といはしそれともみよとをく霜にまよふこゝろもふかきよの空同
紅梅遅山守のこゝろをいつかゆるし色に咲て手をらむ梅の一えた為
岡五月雨さみたれはくりかへす糸のなか岡やふる郷いかに賤のをた巻同
初秋風一とせのなかはもすきぬとはかりにこゑほのめかす風の下おき同
田家時雨くれすこき田中の庵のこもすたれかゝる時雨も誰か聞らん同
ま旅泊雪下折の竹のときりのうらふねやおのれとゆきの蓬しふくらん同
〻
永正元年四月三首
新樹朝風思ふにもつゆけきものかふかみとりはなの香とをき木ゝの朝風
花も木も同しみとりのあさかしはぬるよの夢や過しはる風実
はなはまたわすれぬもうき面影をわかはにはらへ木ゝの朝風政
ふかみとりはなは夢かとおもかけの立枝ふきしほる朝風のこゑ為
待聞郭公今そしるまつをとはんのこゝろにて都にふかき山ほとゝきす」四五
ひとこゑもまつかひあれやほとゝきすおもひあへすはきゝやもらさん実
いたつらにまちあかすともおもふよを誰もらしてかなくほとゝきす政
やよいかにたへてまたすはほとゝきすきゝしはつねもはつねならめや為
滝水乱糸たきのいとにくりてやしりぬみたれてもおなしすちなる山かせそふく
玉のをによらはやよらむ滝のいとをなみたにのみも誰かかりけん実
くり返すわさをはいさやしらいとを何やまひめのみたす滝なみ政
山ひめのをるやこゝろの滝津せにくりいたすいとの五月雨のころ為
永正元年五月御百首題雅俊卿
春雨さたかにはふるともみえすはるの雨のいとゆふはかり空にみたれて
湖月月やすむ秋こそにしのみつうみにうへしやなきも一葉のこらて
空寄雨恋折しもあれわか夕くれの空の雲おもひもみちて所せきなる
〻
夜燈何方にそむけてかみんともし火のうけさたまらぬ窓のさよ風
朝鴬かりまくら草のゆかりもしらぬのゝ」四六名残は今朝のうくひすのこゑ実
荻風幾夏か物思ふそてに音信てなみたにあかぬ荻のうは風同
寄橋恋まつらむとおもひやらるゝたえまたになをはしひめの袖はぬれけん同
寄日祝いつはとは若木の枝にさしのほるひかりも君か代にくもらめや同
余寒春さむみかゝらむとてや天津空あまりのとかに年はくれにき政
るに夜鹿ゆくゑなき夢をいかにとたとるよにかよふやいつくさをしかのこゑ同
〻 〻
色落葉あたしのゝまよひをふかみ色にみて木のはゝもとの霜にくちぬか同
〻
寄鳥恋思ひねのまくらつゆけしくるかりもたか秋風のたよりとかなく同
嶺松吹をくるあらしは松に音くれてみねこす雲の跡のさやけさ同
春雪霞あへぬとを山まゆのみとりさへ色にほのめく雪のむらきえ為
れ早秋荻はらや人はかねにしふる郷にいてそよ秋とゆふかせのこゑ同
〻
豊明節会月雪のとよのあかりやいと竹もおりにあひたるしらへそふらん同
寄玉恋しらせはやあふさきるさに袖のうみも」四七みちひの玉はありてふものを同
田家雨小山田のいほねんものかいなむしろしく〳〵あめのふりあかすよは同
同元年六月三首
瞿夏此ころのはなそとこなつなきてへんやまほとゝきす一こゑもかな
朝な〳〵はつはなそひてなてしこはけに床なつの盛をそみる実
わ床夏のはなよりのちをいかゝみん秋まつ草の色はわかしな政
〻
つゆふかき庭のをしへにさきてけりこやことのはの大和なてしこ為
晩夏蛍軒ちかきおきのはならぬ秋風もさなからみえて行ほたるかな
う飛ほたるひかりの ちのうちの月日とや又あきかせもふかむとすらん実
もらてゆくほたるよいかに夕すゝみけふあすとのみ思ふ木かけに政
したひえぬ夏と秋との中川になれもなかれてゆくほたるかな為
祈恋さもこそはたのむ方とていのるとも神にしのはぬ中のくるしさ
とし月をかけてかひなきみのはゐや神もなけきの杜のしめ縄実」四八
人にこそかけぬたのみをはつせやまむなしきかねにさてや明なん政
はてしなくまよふ恋路の行ゑをはえやはくるとの神もをしへん為
同元年七月御百首勅題
窓散梅霜さやく竹のは分のにほひをもかせやはしらぬ窓の梅かえ
( 一五
)
後七夕後朝夢うつゝひとにさためぬちきりにも七夕つめの心をそしる 〻
洩始恋あちきなくたれにまけてしわれならんいはてやむへき心つよさを
遣水山川のしらぬなかれもみかは水心をやりてすめる影かな
竹林鴬消あへぬ雪のむら竹奥ふかみ春をやたとるうくひすのこゑ実
嶺上鹿さをしかの妻はつれなきなみたにもおのへの松は猶しくれけり同
舟中除夜あま小舟こよひもはてぬひとゝせをはかなきみにも又やつむらん同
浦嶋子玉くしけあくれはなひくしら雲の行ゑかなしき浦かせの空同
巻頭正朔子日ふるとしは一よの雪の小松はらはらひもあへす引子日かな政
和河辺荒和祓思ひいつる水上とをし老のなみ」四九こえていくせのみそきしつらん同
〻
遠郷擣衣あさころもいまやうつらん雲霧の遠かた人もおなし霜よに同
人伝恋いたつらに猶たのめとやなくさまむわれつたへかほの人のことのは同
野酌みたやもりくむ盃のいくめくり露のめくみの秋にあふらん同
岡辺早蕨岡のへや入日はきえて下つゝしともすひかりに手折さわらひ為
羇旅雁夢をこそさそひてゆかめ心さへみやこにつるゝはつ雁のこゑ同
雨中網代雨なからこほりて落るやま風にあしろの床やうちの川波同
後朝隠恋今朝こそは別し袖の露の間にかはりてなとかしらすかほなる同
慶賀釣たれしそのいにしへもすなほなるきみかひかりの璜とみるらん同
同元年八月三首
漫天秋水白茫〻霧わたる水のなかれ淵すゑはれて明ゆくなみも秋かせの空
いつとなきふしのみ雪の面影もたゝ秋かせのたこのうら浪実
すさましとみる秋かせのそらの雲それも立そふ水のしらなみ政」五〇
空のはて波のかきりも有明の月にうかふや西のうみつら為
隣鶏鳴遅知夜長秋のよはこゝにしもなく八声をもとをやまとりに明し侘つゝ
秋さむみ枕にちかき鳥の音もねさめの月にまたれてそ鳴実
いつもきくおなし枕にゆふつけのなかてそなかきよをはつけゝる政
夜なかしなそなたの里も幾度のねさめの後の鳥の一こゑ為
林下幽閑気味深たつねはや木の下すみの身ひとつは中〳〵なをき道もしるらむ
たれかしる世はあさちふの露の宿こゝろにとをき雲のはやしを実
住なれはたれも思はん春秋のあはれをしるは木〻の下庵政
山ふかみ心のみつは落葉にもむもれんものか木〻の下露為
同題式部卿邦-親王 月そすむよさのうら風はる〳〵と秋なき浪に秋をひたして
かいく里の秋にかかこつゆふつけのなかぬかきりは明やらしよを
〻
よの中の色にはしらし春のはな」五一あきのはやしのふかきこゝろは
同元年九月三首
在明月よるの空名残しもなき有明にひかりおさまるかきりをやみん
のこるよの山のはしつむうす霧に半天たかきあり明のつき実
秋のよの月は有明のかけにこそつれなくしたふ心をもしれ政
かたふかむわか世のすゑも有明のこゝろほそさをそらにしれとか為
紅葉色〻松のはも秋やはしらぬ下もみちよその千しほはあさき色かな
うつろふやのへのはなゝる人こゝろ山の木のはの色の千種に実
あかすみる心にわくる色はなし枝のもみちのこきもうすきも政
蔦かへてはゝその外もうき秋の色の千種にそむこゝろかな為
稀問恋をしあてにうたかふかたの恨をもしらすやわれに絶間をくらむ
おもひいつるたよりなくともむさしあふみかけてたれをか又はたのまむ実
とはれしもならひあれはと思いてゝまたいつかはとたのむはかなさ政」五二
色もとはれぬるなさけのとき有てさくてふはなのたねしならすや為
同元年十月御百首題為広卿
霞それとしもみえぬかすみのふかき色やあけゆくみねの松の一しほ
鹿うき秋におなしなみたよ妻こひの鹿をさしてもわれとこたへむ
寄河恋とへかしなものおもふ袖のおきふしも河そひやなきたえむものかは
神社さらにこの冬のまつりや千はやふるかもに色そふ松のことの葉
梅先さくは一えはかりのむめのはないつくにこもるにほひなるらむ実
鹿尾はなちる秋かせふけはさをしかのつまゝつやまも浪やこゆらむ同
寄山恋はらひあへぬ心の塵のはてもうしこひの山ちの雲かゝるまて同
禁中老すてふ門も名にあれや君かへん千とせのかすの百敷のうち同
霞春かすみおほろけにたに山まゆのみしにはあらぬ朝ほらけかな政
鹿秋かせのまくらにそしるさほしかのつまとふ道もよさむなるらむ同
氷をきまよふ霜に日数をかさねても」五三氷をふゆのはしめとそみる同
寄竹恋かへるさの道のさゝはらつゆけくてなをふしわひむ袖をしそ思同
仏寺 か法の水むすふ契もくちせしとなにはにふるき跡や尋ねん同
〻
梅 春むめか枝の名たかきみねに入月もおもかけかほる春の朝かせ為
( 一六
)
〻
擣衣聞からにすまのうらふれうつ音もあはれしほくむ麻ころも哉同
寄松恋 ゆくしられめやよそになく鹿のまつひとりおもはぬ浪におほれ行とも同
〻
神社さらにこの君と臣とやゆきあひの真をたゝす住よしの神同
海路吹かはる風もあやしのうら浪に真檝しけぬけ奥つ舟人同
同元年十一月三首
水鳥多山水にこほりも霜もうちわひて木すゑのをしそもろこゑになく
池の面は秋のあらしの木のはかと色〳〵うかふ水鳥のかけ実
池水の底のおもひををしかものこゑ〳〵さむき夜床にそしる政
あちむらは立さはく月もさよ風にこほりををくるにほの海つら為」五四
行路雪おしと思こゝろもみえつひとすちはおなしあとゆく雪のかよひち
小車のたかひくあとか下の帯の道はかた〳〵雪にみゆらむ実
かち人は思ひたえねとふりつもる雪こそ駒の道しるへなれ政
イノマヽ道とをみくりのはや緒の一すちにゆきやこゝろの行ゑひくらむ為
社頭榊松もいさいくたひ霜にあらはれて神代おほゆる榊はのかけ
霜さやくあかつきさむし神かきにとるもうたふも榊はのこゑ実
君をいのる色もかはらす神かきやさす榊はの露をへぬらむ政
神なひのみむろのさかきうへそへて御代もときはのかけいのるらし為
同元年十二月御百首勅題
か歳中立春をのつらふくともなしやとしふかき雪にかすめる春の初かせ
月前郭公忍ひあへす月に鳴よのほとゝきす秋にあはしも思ひさためし
松風入琴同し音にかきなすことのたゆむ間をわれにいさめて春風の吹
の寄葛恋後はいさ風の葛葉草のはら」五五ふかきうらみの今をとひなん
霧織女帳天河きみきまさなむあき霧のとはりもたれをまつとかはしる実
雪中待人みせはやなひとりこほるゝ下折にうちはらふ袖を松のしらゆき同
寄煙恋いかならん心にもあらぬ浦かせにもしほのけふりさてもなひかは同
草庵貽夢はかなしや夢はむかしの花のもとに残るよふかき草の庵は同
六月立秋おもへなをうき秋たちぬいかならんとしのなかはもくれあへぬ間に政
*ろ暮春鴬くれて行はるをかたはらふうくひすのかへるかきりを思ひやはせぬ政
〻 〻
*底本、「ろ」右傍ニ「本ノマヽ」トアリ抹消
松蝉雨はるゝもりの下葉のつゆ分て夏なきかけに日くらしの声同 なと湊頭旅泊波かせよかゝらましかいうきまくらこよひたゝなはいなのみなとを同
〻 〻
寄鏡恋とはぬ夜の袖行水をおもかけのはなのかゝみとみるもはかなし同
故郷萩うへすてしもとあらかきのあはれさへかれなて残る小はきはらかな為
(ママ)首夏君しけふたまふあふきのうすからぬめくみを人やわきてあふかむ
狩場霙かりころもそれもうしやはしたかの」五六すゝのをふゝきさえくらす野に同
寄浦恋わか身こす波のゆくゑも何ゆへと聞や名たかのうら風のこゑ同
題イこと浦のなかめよいかに難波江や葦のとほその明ほのゝそら同
*歌題、書陵部〔一五二・三一三〕本作「江亭眺望」
同二年正月十九日
亀万年友
よろつよもかはらぬみちにたつねみむ
かめのうへなるやまとことの葉
吉美賀代者常世乃久尓農常不止
与支歯比毛亀能宇倍遠千喜良謀
〻
権大納言藤原実隆
をのかすむみつのみとりの亀もしれ
君にかそふるよろつよの春民部卿藤原政為
万代のかけさしくみに亀のうへの
山もうかふや君か御池に左衛門督藤原為広
*以上四首、底本ノママノ字配トス
同二年二月御百首勅題
子日松引手よりのへの雪間もあらはるゝ松かねの日の春の一しほ
禁中月今こそあれ猶いにしへにあふきみよ雲井の月の代〻の面かけ
閨時雨つゆけさの夢路ゆるさぬさよまくらしくれもそらに行方やなき
寄鶴祝花に鳴水にすむてふもろこゑに」五七契かをきしわかのうらつる
遊糸たくへては我か身かなしきいとゆふの行方しらぬのへの春かせ実
岡薄松たてる岡へのおはな打なひき波よせかへる秋かせのこゑ同
落滝氷夢とみし波も氷てたきつせの中にもよとは冬そしらるゝ同
〻
羇中泊うきまくらこれや誠のからとまりもろこし舟の浪そかけゝる同
尋花よしやけふあくかれいてし心たにはなにしられて春もかへらは政
夜萩かけくらき軒の下荻音更て月まつ袖に秋かせそふく政
( 一七
)