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出来事の発生を表す名詞述語文

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全文

(1)

1.はじめに

名詞述語文は、典型的には、属性や状態、指定関係などの静的事態を表示する構文である(例

(1)

(1) a. 太郎は医者だ。

b. 犯人は太郎だ。

ただし、その周縁に出来事の発生を表す事例もある(例(2)。本稿が注目したいのは、こち らの、出来事発生の名詞述語文の方である。

(2) a. 田中さんが到着だ。 (益岡2000 : 47)

b. 男女合わせて、初の金メダルを獲得です。 (ニュース報道実例;鈴木2010 : 63)

静的事態と、出来事の発生という、まったく異質の事態が名詞述語文という同じ形式によって 表現されるのはなぜだろうか。同じように出来事の関与があっても「今、太郎は勉強(中)だ」

の類が表す事態は「過程」である点で静的事態と共通の特徴を有するため、これが名詞述語文 の形式で表現されるのは別段不思議なことではない。しかし、発生というのは「変化」である から、「過程」とは異質の事態である。

この構文は、文末部の構造(「~だ)は名詞文的であるが、それ以外の部分の構造(対象 項「X を」のような、動詞がとる要素の出現)と、意味(動的事態)に関しては動詞述語文的 である(仁田(1980)、南(1993)参照)。このような折衷的性質をもつことから、名詞文一般

(述語文のみならず、「あっ、UFO だ!」のような主述未分化の文も含む)、動詞述語文との関 係のなかで、出来事発生の名詞述語文の特徴を捉えていきたい。分析の結果として、出来事発

出来事の発生を表す名詞述語文

Noun Predicate Sentences Expressing Event Occurrence

久保田 一 充

KUBOTA Kazumitsu

キーワード:名詞述語文、名詞文、出来事、動的事態、静的事態

(2)

生の名詞述語文は、図1のような意味構造を有することを主張する((2a)を例に作成)

モ ダ リ テ ィ

事 態 の 名 事態の文法的情報

田中さんが到着 断定(「だ」

図1 出来事発生の名詞述語文の意味構造(例(2a)

また、この意味構造をもとにして、未だ十分な説明が与えられていない諸現象に対して適切な 分析を行うことができることも確認する。具体的には、(i)文法的制限、(ii)時間的意味、(iii)

動詞述語文との表現的な違い、(iv)発生の意味の発現について、適切な説明を与えることが 可能である。

本稿の構成は次のとおりである。(2)を見て分かるように、出来事発生の名詞述語文の時 間的意味は、動詞述語文、典型的な名詞述語文のそれとは異なるが、第2節で、この点につい て記述を行う。第3節では、そもそもなぜ名詞述語文が出来事の発生を表せるのかという根本 的な問題に取り組む。第3節における観察から出来事発生の名詞述語文に課せられる文法的制 限が明らかになるが、第4節では、その文法的制限の原因について分析する。第5節では、「だ」

の役割について記述し、それをもとに出来事発生の名詞述語文の意味構造(図1)を解明する。

そして、その意味構造にもとづいて上述の(i)-(iv)に対する説明を行う。第6節は結語 である。

なお、記述の過程で、筆者が行った容認度調査の結果を提示することがしばしばある。あら かじめ調査概要を説明しておきたい。この調査では、判断対象の文に対して、「ok」(自然)

「?」(十分容認できるが、少し違和感がある)「??」(やや不自然)「*」(不自然)の4段 階のなかから回答者に容認度を選択させた。その結果を、(3)のように、各容認度段階にお ける選択者数の分布および容認度 (A : acceptability) をあげて示す。容認度については、

選択者1人につき、「ok」4点、「?」3点、「??」2点、「*」1点と定め、合計点を合計 回答者数(N)で除算した結果の値(小数第二位四捨五入)とした。容認度に対する評価につ いては、3.0前後以上であれば「高い」と見なし、2.0前後以下であれば「低い」と見なす。微 妙な値の場合は、他の文の容認度と比較して評価を下す。丸囲みの数字は調査回を表す(2017 年9月25日に1回目、同年10月23日に2回目の調査を実施)

(3) (田中さんが今着いたことを知らせる。 田中さんが到着です。

(ok : 22 ? : 32 ??:4 *:3 A:3.2(N=61、①)

(3)

2.時間に関する特徴

出来事発生の名詞述語文においてタ形の使用がむずかしいことがしばしば指摘される(例

(4)(5)。容認度判断もそれぞれ井上・金、鈴木のものである)

(4) a. まもなく東京駅に到着です。 (井上・金1998 : 457)

b.?? 先ほど東京駅に到着でした。 (同:457)

(5) a. 男女合わせて、初の金メダルを獲得です。 (ニュース報道実例;鈴木2010 : 63)

b.? 男女合わせて、初の金メダルを獲得でした。 (鈴木2010:63)

筆者が行った容認度調査でも、同様の結果が得られた(例(7)(8)。非タ形の(6)との 容認度の差は歴然である。したがって、本節では、出来事発生の名詞述語文・非タ形の特徴に ついて観察を進める。その時間的意味に注目して記述していきたい。

(6) (田中さんが今着いたことを知らせる。 田中さんが到着です。

(ok : 22 ? : 32 ??:4 *:3 A:3.2(N=61、①)

(7) (田中さんが今着いたことを知らせる。 田中さんが到着でした。

(ok:2 ?:9 ??:21 *:28 A:1.8(N=60、①)

(8) 大変です!西山ダムが決壊でした!

(ok:2 ?:5 ??:18 *:35 A:1.6(N=60、①)

出来事発生の名詞述語文の時間的意味は「ゆるい」。同じ文末形式によって、過去のこと

(例(9))も未来(例(10))のことも表現される。

(9) a. おかげでジーさんの面会話が再浮上だ。どーすんだ。 『銀魂』39)

b. で、できた。ついに完成だ。 (『こち』1)

c. 魏安様、魏超様、戦死です! 『キン』37)

d. あれから会社はズーッと左前…。そしてとうとう倒産です! (『ブラ』3)

(10) a. もうじき列車が到着だ。 (大島2010 : 91)

b. あと少しで完成だぞ…。 (『こち』1)

c. ほら、もう開店ですよ。 『空』2)

過去のことなのか未来のことなのか判断できない場合もある。例えば(11)については、コン

(4)

テクストを確認しても、「位上げされた」のか「される」のかが判別できなかった。いずれに せよ、「位上げ」が発話時において現実のもの(未来の確定事態もこれに準ずる)であること が重要な情報であり、最低限そのことが名詞述語文によって表現されている。

(11) 春申君が責任とらされて王に遠ざけられた一方で、私は“武功”と“美貌”で楚軍全 体の第二将に位上げだ。 『キン』34)

当然のことながら、「ゆるい」というのは「時間的意味がない」ということではない。出来 事発生の名詞述語文は、広い意味での「今」(広義現在)のこととして出来事を提示する。こ の意味での「今のこと」というのは、発話時点(狭義現在)直前・直後の出来事が典型的であ 。それ以前・以後の出来事でも、発話時点との関連が強ければ「今のこと」と見なされう る。例えば(11)について、仮に「位上げ」が数週間前の出来事だったとしても、それが発話 時点の状況(「第二将であること」など)に直接的に関連するのなら、それは「今のこと」と 見なされうる。だが、発生が発話時点の直前・直後でない場合、そのことを時間表現によって 明示してしまうと、当該の出来事をもはや「今のこと」として扱うことができず、その名詞述 語文の容認度は低下する。例えば「昨日」のような「今」から切り離された時間を指す表現の 使用は、文の容認度を下げる(例(12)

(12) (田中さんが昨日着いたことを知らせる。 昨日、田中さんが到着です。

(ok:4 ?:15 ??:16 *:25 A:2.0(N=60、①)

同様に、純粋な未来の出来事についても、その発生を表すことはむずかしい(例(13)

(13) (予言者がいう。

a. 来週、旅客機が墜落です。

(ok:0 ?:11 ??:27 *:17 A:1.9(N=55、②) b. 来週、家出中の娘さんが帰宅です。

(ok:2 ?:20 ??:18 *:16 A:2.1(N=56、②)

「純粋な」と言い添えてあるのは、近接未来の場合(例(10))や、遠い未来の出来事であって も、その予定が発話時に存在する場合(例(14))は、容認度が高いからである。

(14) (海外出張から父親が戻ってくるという予定を伝える。 そういえば、来週、海外出張に行ってるおやじが帰宅だよ。

(5)

(ok:19 ?:22 ??:13 *:2 A:3.0(N=56、②)

ただし、(未来の遠近にかかわらず)予定が関与する場合、その名詞述語文が未来時における 出来事の発生を叙述しているのか、現在時に有効である予定を表示している(久保田2013)の か、判断がつかない。

以上、出来事発生の名詞述語文・非タ形の時間的意味は広義現在であることを確認した。な ぜ広義現在という特殊な時間的意味を表すことができるのだろうか。この点について、問題の 名詞述語文に時間性に関する文法的な指定がないことが理由だと考えられるが、これは第5節 で議論することとしたい。

3.発生を表す名詞文

本節では、そもそもなぜ名詞述語文が出来事の発生を表せる(例(15))のかを明らかにす る。

(15) 田中さんが到着だ。

この問いについて、(16)のような名詞文が参考になる(主述未分化のため、これを「述語 文」とはいわない)。この名詞文では、UFO/火事の発生が表現されている。その名を口にす るだけで、その発生が表現されているのだ。(16')のように「だ」が付いても、発生が表現さ れることは変わらない(この種の「だ」の役割については第5節で説明する)

(16) UFO/火事!

(16') UFO/火事だ!

名を口にするのは、1つに、発話の場におけるその事物の発生を認定したからである。よっ て、(16)(16')のような名詞文で事物の発生が表現できるのは、語用論的に別段不思議なこ とではないのである。

ただし、発生を表す名詞文には厳しい文法的制限が課せられる。(16)(16')のように、「X

(だ)が、主文として、かつ、形態的に無標で提示された場合に限り、発生が表現されるのだ。

(17a)のように過去辞を付加したり、(17b)のように従属節となったりすれば、その名詞文 は発生を表すとは認められない。(17)の名詞文は、例えば(17')のような措定文「W は X だ」

として解釈されてしまう。これは、すでに発生が確認されている事物を W として立て、その 属性を X として述べる文である。

(6)

(17) a. UFO/火事だった。

b. UFO/火事だか分かる?

(17') a. あれは UFO/火事だった。

b. あれが UFO/火事だか分かる?

以上、特定の構文的制約の下、語用論の助けを借りて、(16)(16')のような名詞文「X(だ) が事物の発生を表現可能であることを確認した。

名詞述語文についても、これと同様の説明が可能である。まず、(16)(16')と同様の解釈 過程によって、その名を提示するだけで、出来事の発生が表される。(15)の場合、「田中さん が到着」というのが出来事の名である。(16)(16')の「UFO/火事」に比べて個別性が高い が、名であることに変わりはない。次に、文法的制限についても以下のようである。過去辞の 付加、従属節の形成は非文である。

(18) a.*田中さんが到着だった。 cf.田中さんが到着した。

b.*田中さんが到着だか分かる? cf.田中さんが到着したか分かる?

4.文法的制限の原因

本節では、出来事の発生を表す名詞述語文になぜ前節で確認したような文法的制限が課せら れるのかを明らかにする。この問題は、名詞述語文というのは、本来的に静的事態の叙述を行 う形式であり、動的事態を十分に叙述するのに適さないのは当然である、との一言で片づくも のかもしれない。しかし、不整合が生じる仕組みを明確にすることが文法論には必要である。

4.1.ミスマッチ

(18)のような名詞述語文の非文法性は、問題の文が表示する事態と、事態に関する文法的 情報を表示する部分が選択する事態とのミスマッチに起因すると考えられる。このことについ て、(18a)をもとに、図2を用いて説明する。(18a)の場合、これは「田中さんが到着」と いう動的事態を表示するが(図中網掛)、その動的事態に関する文法的情報(例えば時間性に 関する情報)を表示する部分が欠落(図中「-」)している。当該部分が欠落しているといえ るのは、「だ」が述語形成要素として働く場合(そうでない場合については第5節で詳述)、静 的事態に関する文法的情報を表示するものだとの仮定にもとづく。この仮定については、動的 事態に関する文法的情報の表示には「する」があることや、「だ」がアスペクトやヴォイスを 欠くため動的事態の叙述に不向きであることを考えると、合理的なものだといえる。(18a)

(7)

の「だった」は、存在しない静的事態(図中「-」)の文法的情報を表示することになり、こ れが問題の非文法性の原因だと考えられる。(18b)の非文法性についても、同様の説明が可 能である。

関 連 事 態 事態の文法的情報表示部

動 的 事 態 田中さんが到着

静 的 事 態 だった

図2 「* 田中さんが到着だった」の意味構造

もちろん、このような分析を採ると、文法的である(15)のような名詞述語文の「だ」の役割 について整合的な説明をする必要があるが、この点は第5節で議論することとしたい。まずは、

以降にて、上述の主張の妥当性を補強することに徹したい。

上述の主張が正しいのであれば、もし(18)のような名詞述語文でも静的事態を表示すると 読めるのなら、その容認度は改善されるはずである。実際に(18a)は、「田中さんが」を情 報の焦点と解釈すると、分裂文「到着したのは、田中さんだ」に類する読みが得られるが、こ れは「[x が到着]の変項 x を埋める値=田中さん」と記述できるような静的事態(「指定関係」

と呼ぼう)を表しており、この読みであれば(18a)は容認度に改善が見られる。この場合の

(18a)の意味構造を図示すると、次のようになろう。

関 連 事 態 事態の文法的情報表示部

動 的 事 態 田中さんが到着

静 的 事 態 [x が到着]の x=田中さん だった 図3 「田中さんが到着だった」の意味構造

以上の点について、(19)(20)にあげる容認度調査の結果も確認しておきたい。出来事の発 生を表すことが意図された(19a)(20a)は、明らかに容認度が低い。これらに比べて、出 来事発生の叙述から表現上の重点が外れた(19b),(20b)は、容認度が改善されている

(19) a. (田中さんが今着いたことを知らせる。 田中さんが到着でした。

(ok:2 ?:9 ??:21 *:28 A:1.8(N=60、①) b. (誰が到着したのかを聞かれて。)

田中さんが到着でした。

(8)

(ok:9 ?:21 ??:21 *:9 A:2.5(N=60、①)

(20) a. 大変です!西山ダムが決壊でした!

(ok:2 ?:5 ??:18 *:35 A:1.6(N=60、①) b. 訂正します。西山ダムではなく、東山ダムが決壊でした。

(ok:38 ?:16 ??:3 *:4 A:3.4(N=61、①)

(19a)と(21)との容認度の差、(22a)と(22b)との容認度の差についても、出来事発 生の叙述に表現上の重点があるか(動的事態)、そうではなく静的事態を表すかに着目して説 明できる。ただし、(21)(22b)が表示する静的事態は、先述のものとは種類が異なる。(21)

(22b)は、それぞれ「[田中さんが x(時間)に到着]の変項 x を埋める値=昨日」「[K24型航 空機が x (原因)で墜落]の変項 x を埋める値=エンジントラブル」という指定関係を表しも するが、表現上の重点は、この情報によって「田中さん」、「K24型航空機」を特徴づけること にある。この種の静的事態を「措定関係」と呼ぼう。

(21) (いつ田中さんが着いたのかを聞かれて。 田中さんは昨日到着でした。

(ok:16 ?:25 ??:12 *:8 A:2.8(N=61、①)

(22) a. 1961年に約500人をも乗せた旅客機が墜落でした。

(ok:3 ?:8 ??:19 *:27 A:1.8(N=57、①) b. (何が原因で K24型航空機が墜落したのかを聞かれて。)

K24型航空機はエンジントラブルが原因で墜落でした。

(ok:6 ?:29 ??:16 *:10 A:2.5(N=61、①)

この場合の意味構造を、(21)を例に図示すると、次のようになる。

関 連 事 態 事態の文法的情報表示部

動 的 事 態 田中さんが到着

静 的 事 態 田中さんは、[田中さんが x(時間)に

到着]の x=昨日、という特徴を有する でした 図4 「田中さんは昨日到着でした」の意味構造

ここで、静的事態を表示する文のテンスについて補足しておく。静的事態を表示するものと 見なした上述の名詞述語文に関して、その文末のタ形は、動的事態が過去時に成立したことを 標示しているのではないかと疑念を抱かれるかもしれない。確かに、例えば(21)の名詞述語

(9)

文がタ形をとっている理由(の1つ10)は、「田中さんが昨日到着」という事態が過去のことで あることと関係がある。しかし、これは、タ形が動的事態の成立時を標示しているというより も、静的事態を叙述する際の視点を動的事態の成立時に合わせているだけだと考えるべきであ る。この種のタ形の用法は、静的事態を表示する文一般に観察されるものである(工藤(1998)

参照)。過去時から現在時にかけて成立している静的事態の場合(例(23)(24)、同じ1つ の事態について、現在時に視点を合わせて叙述するか、過去時に視点を合わせて叙述するか、

という選択肢がある。

(23) a. ウズベキスタンの料理はおいしい。

b. ウズベキスタンの料理はおいしかった。

(24) a. 田中さんが到着したのは昨日だ。

b. 田中さんが到着したのは昨日だった。

例えば(21)の場合も、(21')のように現在時に視点を合わせて静的事態を叙述することが可 能である。

(21') (いつ田中さんが着いたのかを聞かれて。 田中さんは昨日到着です。

(ok:20 ?:22 ??:10 *:9 A:2.9(N=61、①)

最後に、(18b)((25a)として再掲)のような従属節の場合においても、それが静的事態を 表示すると読めるのなら、文の容認度が改善されることを確認する。(25b, c)のように、問 題の従属節が指定関係、措定関係を表示すると読める場合、文の容認度が高い。

(25) a.*田中さんが到着だか分かる?

b. 誰が到着だか分かる?

c. 田中さんはいつ到着だか分かる?

以上、本節では、出来事発生の名詞述語文に見られる文法的制限(例(18))の原因は、「だ」

が文法的情報の表示対象として選択する事態(静的事態)と、文が表示する事態(動的事態)

との間のミスマッチにあることを議論した。次小節では、これとは異なる説明の可能性(丹羽 2008)について検討しておきたい。

4.2.丹羽(2008)の検討

本小節では、出来事発生の「X だ」の意味的性質とタ形使用との関係について、尊敬表現「お

(10)

X だ」(または「ご X だ」。以下同様)を取り上げた丹羽(2008)の分析を検討する。(26)の ように(容認度判断も丹羽のもの)、出来事発生(丹羽(2008)では「動き(の実現)」という)

の「お X だ」の場合も、ここまで観察を進めてきた名詞述語文と同様の現象が確認される。

しかし、丹羽(2008)では、問題のタ形使用のむずかしさについて、本稿の分析とは着眼点の 異なる説明がなされている。

(26) (今、目の前で亡くなった)

a. お亡くなりです。 (お亡くなりになりました)

b.? お亡くなりでした。

(丹羽2008 : 70-71)

丹羽(2008)は、出来事の限界点表示の難易に着目して次のように分析している。すなわち、

「お X だ」の非タ形は「動きの開始限界・終了限界を表すことができるという点で、動作性述 語的な面が相対的に強く」、他方で「お X だ」のタ形は「動きの開始限界や終了限界を表しに くいという点で、状態性述語的な面が相対的に強い」と分析している(p.74)。よって、例え ば(27)-(29)のタ形「お X だ」は、「動きをひとまとまりに捉えて、そのような動きが存 在したということを表す表現」となる((29)のような瞬間的な変化の場合も、その変化が全 体的に捉えられているという)(p.72)(30)(31)のように変化の成立段階を取り上げる場 合、タ形「お X だ」の使用はむずかしいということである(容認度判断も丹羽のもの)(30)

は「運転」行為の開始限界に着目した表現であり、(31)(上記(26)も)は「過去のその現場 において変化が成立した(終了限界に到達した)ということに着目した表現」であるという

(p.72)

(27) 7,8年前に三井ホームでご新築でした。私がコーディネートプランをお立てしてお 納め致しました。

(https : //blogs.yahoo.co.jp/platonpapa/38487918.html;丹羽2008 : 71)

(28) へぇー、柳橋までお歩きでしたか。さぞ、楽しかったでしょう。

(https : //plaza.rakuten.co.jp/dankairanger/diary/200611150000;丹羽2008 : 71)

(29) 総理は、たしか昭和二十九年の九月二十一日でしたか、お生まれだったと思います。

戦後生まれの初の総理と言われますが、

「国会会議録」2007/2/9開会;丹羽2008 : 71)

(30) 山田さんはその車に乗り込んで、ご運転なさいました。

(? ご運転でした)(丹羽2008 : 71)

(31) 電車が来ると、すぐにご乗車になりました。

(? ご乗車でした)(丹羽2008 : 71)

(11)

確かに、限界点に着目したこの分析によっても、前小節にあげた(19a)(20a)のような 事例の容認度の低さは説明がつくかもしれない。しかしながら、(32)の事例はどうだろうか。

(32)は、「過去のその現場において変化が成立した(終了限界に到達した)ということに着目 した表現」というよりは、むしろ「動きをひとまとまりに捉えて、そのような動きが存在した ということを表す表現」だと認められるが、その容認度は明らかに低い。

(32) a. 1961年に約500人をも乗せた旅客機が墜落でした。 =(22a)

(ok:3 ?:8 ??:19 *:27 A:1.8(N=57、①) b. 江戸時代に富士山が噴火だった。

(ok:0 ?:4 ??:13 *:39 A:1.4(N=56、②)

前小節で確認したとおり、(33)のように、出来事発生の叙述に表現上の重点が置かれず、静 的事態を表すのなら(この場合、措定関係)、タ形の使用は容認されやすくなる。

(33) a. (何日に K24型航空機が墜落したのかを聞かれて。

K24型航空機は確か20日朝9時頃に墜落だったと記憶しています。 cf.(22b)

(ok:32 ?:20 ??:7 *:2 A:3.3(N=61、①) b. (富士山はいつ噴火したのかという質問に答える。)

調べてみたら、富士山は江戸時代に噴火だった。

(ok:9 ?:16 ??:23 *:7 A:2.5(N=55、②)

よって、出来事発生の「X だ」の記述にあたって、事態の限界点よりも、まずは事態の動静を 重視すべきではないだろうか。

実のところ、先の(27)-(29)のタ形「お X だ」に関しても、出来事の発生を全一的に 表すからというよりは、出来事発生の叙述に表現上の重点がないから容認度が高い、との説明 が可能な事例もあるだろう。例えば(29)では、「戦後生まれの初の総理」という発言が続く ことから分かるように、情報の焦点要素は「昭和二十九年の九月二十一日」である。さらに、

「総理」がその生年月日によって特徴づけられているといえる(措定関係)「お生まれだった」

の文も、(34)のように、「過去のその現場において変化が成立した」ことを表すのでなくとも、

出来事発生の叙述に重点があるのであれば決して容認度は高いとはいえないだろう。(28)に ついては、コンテクストを確認してみると、「神田川に沿って、井の頭池から柳橋まで歩いて みましたよ」という他者の発言に対するコメントであることが分かる。つまり、(28)は出来 事の発生を表現しているというよりは、エコイックな確認であるとも考えられる。実際に(35)

のように非タ形で答えることもできる、すなわち、出来事発生時に因らない表現も可能なのだ

(12)

から、丹羽(2008)の記述は再検討する必要があるだろう。尊敬表現「お X だ」についてこ れ以上は立ち入らないが、類似の構文においても叙述の重点、事態の動静に着目した記述が可 能であることが分かったことで、本稿の着眼点の妥当性が再確認できたと思う。

(34) ?? 1945年、リチャード王子がお生まれだった。

(35) へぇー、柳橋までお歩きですか。

5.「だ」の役割

前節では、(36)(=(18))のような名詞述語文が不適格である理由について、「だ」部分が 文法的情報の表示対象として選択する事態(静的事態)と、文が表示する事態(動的事態)と の間にミスマッチが生じるからだと議論した。

(36) a. *田中さんが到着だった。 cf.田中さんが到着した。

b. *田中さんが到着だか分かる? cf.田中さんが到着したか分かる?

この議論をさらに掘り下げていくと、適格な出来事発生の名詞述語文(例(37))の場合は、

動的事態を表示する文本体と、「だ」との間にミスマッチが生じていないということになる。

この場合の「だ」は、静的事態の文法的情報を表示するのではない、異なる役割を果たしてい ると考えなければならない。問題の「だ」の役割を考察するにあたって、まずは「だ」一般の 特徴について把握しておく必要がある。

(37) 田中さんが到着だ。

「だ」には、命題要素的側面とモダリティ要素的側面とがある(金田一(1978 [1953])、メ イナード(2000, 2008)、森川(2009)参照)。上述の「静的事態の文法的情報を表示する」役 割(「述語形成」の役割)は、前者の側面にあたる。後者の側面に関しては、話し手が聞き手 に対してはっきりと言い切る発話態度を表明する、という意味での「断定」の役割がそうであ る(メイナード(2000, 2008)、森川(2009)11 参照)。これら二側面の前景化・背景化の具合 によって、「だ」の役割が変わってくる。以下で、いくつかのパターンを確認しよう。

まず、(38)に例示されるパターンを見よう。この場合、「だ」の断定の側面のみが関与して いる。統語上の位置を見れば、この「だ」が命題構成に関与しない要素であることは明白であ る。述語形成の側面が非関与である分、断定的態度がはっきりと表出している。この種の「だ」

はメイナード(2000, 2008)のいう情意の「だ」の典型例で、これによる発話行為の断定によっ

(13)

て強調や驚きなどの情的態度が表明される。

(38) a. どーせ、ノロマですよぉ……だ。

(あさぎり夕『ひまわり日記』;メイナード2000 : 189)

b. ところがだ。“問題”はこれをきっかけに始まった。

(室井滋「金隠しさんに、ブツブツ」『週刊文春』2007年1月4-11日号;メイナード2008 : 90)

(39)に例示されるパターンでは、「だ」の述語形成の側面と断定の側面とが両方とも関与して いる。先のパターンに比べて断定は弱く感じられるが、それでもその関与は認めるべきである

(北川1984)。というのは、この種の「だ」が純粋に述語形成のためにのみ働いているとするの なら、(40)のような文の非文法性が説明できないからである。この非文法性は、「だ」による 断定と、「か」、特定の音調による疑問とが矛盾するからだと説明されるべきものである(森川 2009)12

(39) 太郎は医者だ。

(40) 太郎は医者(*だ)か?;太郎は医者(*だ)?

最後に、(41)に例示されるパターンでは、「だ」の述語形成の側面のみが関与している。断定 の関与がないことは、(40)と(41)とを比較すれば分かる(森川2009)(41)では、「だ」と

「か」との共起に衝突が生じていないのである。これは、「だ」の出現場所が発話態度のモダリ ティ要素が出現できない階層であるため(例:*太郎が医者だよという事実)、その機能が抑 制されているからだと考えられる。

(41) a. 太郎は医者だったか?

b. 太郎が医者だか分かる?

以上、「だ」一般における命題要素的側面(述語形成)とモダリティ要素的側面(断定)の 二面性、そして、この二側面の前景化・背景化のあり様を確認した。これをふまえて、以下、

出来事発生の名詞述語文における「だ」の記述に移る。本稿は、問題の「だ」に述語形成の役 割はなく(そのため、この構文は事態に関する文法的情報がない)、断定の役割のみがあると 考える(図1。以下に再掲)

(14)

モ ダ リ テ ィ

事 態 の 名 事態の文法的情報

田中さんが到着 断定(「だ」

図1 出来事発生の名詞述語文の意味構造(例(2a)

この「だ」に動的述語を形成する機能がないことは、第4節での議論から分かることであるが、

ここではっきりと確認しておきたい。この「だ」に動的述語形成の機能があると仮定すると、

第4節で詳述したような、タ形の容認度の低さについて説明ができない。もし動的述語を形成 するのならば、(19a)(42)として再掲)のような場合は、「だ」がアスペクトを欠くことを 考慮に入れれば、これが容認されないのは不思議ではないが、(32)(43)として再掲)のよ うな場合は、「動きをひとまとまりに捉えて、そのような動きが存在したということを表す表 現」(丹羽2008 : 72)であろうから、この容認度が低いのは奇妙である。これが奇妙だという のは、アスペクトを欠く動的述語の「ある」は、(44a)のように出来事の開始点を取り上げ た表現はできないにしても、(44b)のように出来事の存在を表現することはできることを考 えると分かりやすいだろう(久保田(2017)参照)

(42) (田中さんが今着いたことを知らせる。 田中さんが到着でした。

(ok:2 ?:9 ??:21 *:28 A:1.8(N=60、①)

(43) a. 1961年に約500人をも乗せた旅客機が墜落でした。

(ok:3 ?:8 ??:19 *:27 A:1.8(N=57、①) b. 江戸時代に富士山が噴火だった。

(ok:0 ?:4 ??:13 *:39 A:1.4(N=56、②)

(44) a. (噴火を目にした瞬間) *噴火があった!

b. 江戸時代に富士山の噴火があった。

以下では、図1の構造をもとにして、(i)文法的制限、(ii)時間的意味、(iii)動詞述語文 との表現的な違い、(iv)発生の意味の発現について説明を試みる。

(i)過去辞の付加、従属節の形成に係る文法的制限の理由については、「だ」が(静的述語 形成の役割ならあるが)動的述語形成の役割を担わないからだという既述の指摘に加えて、問 題の「だ」が発話態度のモダリティ要素として機能するため、これに過去辞を付加したり、こ れを従属節内で用いたりすることができないからだとも説明できる。

(ii)第2節で、出来事発生の名詞述語文の時間的意味は広義現在であることを確認した。

このような特殊な時間的意味は、当該構文に時間性に関する文法的指定がないことと関係づけ

(15)

られる。(45) のように、時間性に関する文法的指定がない文には時間的意味の指定もない。

これが、出来事発生の名詞述語文・非タ形が発話時以前の出来事に言及できる理由である(文 法的理由)

(45) a. (メモ) 昨日、田中さんが到着。 cf.(12)

b. (年表) 1549年、フランシスコ・ザビエルが日本に到着。

ただし、真に時間的意味がない文の使用は、(45)のような発話時との関係が希薄な特別の言 語環境でしか認められない。普通は、時間性に関する文法的指定がない文でも時間的意味の関 与が避けられず、(46)のように、事態は発話時と関係づけられる。よって、文法的指定がな い出来事発生の名詞述語文の場合も、時間的意味は発話時との関係から限定されるのだと考え られる(語用論的理由)

(46) a. 痛っ!

b. UFO!

(iii)動詞述語文との表現上の違いについて考察する。ニュース報道における見出し的な名 詞述語文を取り上げた田中(2012)は、動詞述語文による表現(例(47a))よりも、名詞述 語文による表現(例(47b))の方がインパクトが強いと述べている。具体的には、(47a)は

「客観的に淡々と事実を伝える現象描写」だが、(47b)には単なる現象描写以上に「「大変で す!大ニュースです!」という「驚き・感慨」」の特別なニュアンスがあるとしている(pp.24- 25)。このようなインパクトの源泉として、名詞述語文による中立叙述という「イレギュラー な組み合わせ」、そして、「です(だ)」のもつ「強い述べ立て」のモダリティ機能が関係する と主張している(p.25)

(47) a. イチロー選手が、電撃移籍しました。 (田中2012 : 24)

b. イチロー選手が、電撃移籍です。 (同:24)

確かに、出来事発生の名詞述語文のなかには、話者の情的態度が現象描写とともに表明され ていると感じられる事例がある(例(48)(48)は、(48')のように、情的態度を表す表現 を伴った動詞述語文が意味的に対応するだろう。

(48) a. おかげでジーさんの面会話が再浮上だ。どーすんだ。 (『銀魂』39)=(9a)

b. で、できた。ついに完成だ。 (『こち』1)=(9b)

(48') a. おかげでジーさんの面会話が再浮上 {?した/しちまった}。どーすんだ。

(16)

b. で、できた。ついに完成 {?した/したぞ}。

だが、この種の情的態度は、必ずしも出来事発生の名詞述語文に通底するものではない。例え ば、しばしば公共交通機関で耳にする(49a)のような名詞述語文には、(49b)の動詞述語文 と同様に、何ら特別の情的態度は感じられない(「です」には、純粋に「丁寧」の態度を表示 するだけのものがあることと関係するだろう。注12参照)。また、(50a)のような名詞述語文 に感じられる強い情的態度も、(50b)のように弱めることができ、この(50b)の場合、動詞 述語文(例(50c))との間に情的な違いは感じられない。

(49) (バスのアナウンス)

a. 終点、猪高緑地に到着です。

b. 終点、猪高緑地に到着しました。

(50) a. 田中さんが到着だ。

b. 田中さんが到着だよー。

c. 田中さんが到着したよー。

本稿は、動詞述語文との本質的な違いとして、表現の簡潔さこそが出来事発生の名詞述語文 に特徴的な点であると考える。この簡潔さというのは、「する」に対する「だ」の、形態・音 韻的な簡潔さでもあるが、より重要なのは、事態に関する文法的情報表示部の欠落に伴う、事 態描写の簡潔さである。動詞述語文が「する/した/している」などを使い分けて具体的な事 態描写を心がける反面(例(51a)、出来事発生の名詞述語文は具体的な事態描写に無頓着で ある(例(51b)(井上(2012, 2014)、新屋(2015)参照)。この名詞述語文が表現するのは、

単に「当該の出来事の発生が、(広い意味での)今のことである」というだけのことである。

具体的な事態描写の必要性が乏しい場合に、出来事発生の名詞述語文による簡略的描写が役立 つのだろう。

(51) a. 田中さんが到着{する/した/している} b. 田中さんが到着だ。

(iv)本稿冒頭で、名詞述語文という1つの形式によって、静的事態と、出来事発生という、

まったく異質の事態が表現されるのはなぜか、と問うた。本節では、この問いに対して、「X だ」の構造的2面性に着目して答えることとしたい。

「X だ」には、(52a)のように、それ自体で構文的に完結している類と、(52b)のように、

別に項を1つ必要とし、それとともに名詞述語文「W は X だ」を形成する類とがある。前者 の「X だ」は、その機能の1つとして(注8参照)、事物の発生を表すことができ、後者の「X

(17)

だ」は、叙述や指定などの役割を担い、被叙述、被指定の「W は」と合わさって静的事態を 表す。出来事発生の名詞述語文が前者の構造をベースにして成り立っているとすれば、「X だ」

のこの構造的2面性が問いへの答えとなる。

(52) a. あっ、UFO だ!

b. あれは UFO だ。

しかし、(52a)のような名詞文は主述未分化であるが、出来事発生の名詞述語文には主述の 分化があるのだから、両者の構造的隔たりはあまりに大きく、他方が一方の構造をベースにす ると主張するには無理があると思われるかもしれない。だが、両者は共通の意味構造をもつこ とによって結びつけられる。

すでに第3節で示唆されていることではあるが、主述未分化の名詞文と出来事発生の名詞述 語文との間には、名を提示するだけでその事物の発生を表現する、という共通点があった。こ の点について、意味構造を明示して記述すると、主述未分化の名詞文の場合は図5のようにな る。この「だ」に述語形成の役割がないことに説明の必要はないだろう。出来事発生の名詞述 語文の意味構造は、すでに図1に示したとおりである。

モ ダ リ テ ィ

事 物 の 名 事態の文法的情報

U F O 断定(「だ」

図5 出来事発生の名詞文の意味構造(例(52a)

両図を比較して分かるように、両者は事物名の表現のし方に違いがあるだけで、同じ意味構造 を共有していることが確認できる。さらに、(53)(54)のような名詞文の存在を視野に入れ れば、主述未分化の名詞文と、出来事発生の名詞述語文との連続的な関係がより鮮明に把握で きる。

(53) 山の民の到着だァっ! 『キン』46)

(54) 上石神井いき――、最終電車の発車でございまーす。 『ブラ』14)

(18)

6.おわりに

本稿は、出来事の発生を表す名詞述語文を取り上げ、記述・分析を行った。その結果として、

問題の名詞述語文は、図1に示したような意味構造をもつことを明らかにした。そして、この 構造をもとにして、過去辞付加、従属節形成に関する文法的制限、広義現在の時間的意味、簡 潔性に関する動詞述語文との表現的な違い、発生の意味が発現するメカニズムについて適切な 説明が与えられることを確認した。

断りのない限り、「です」などの異形は「だ」で代表させる。

調査参加者は、愛知淑徳大学「国語学特殊講義 言語学 b」の受講生たちである。1回目の 調査参加者は合計61名で、2回目は合計56名である。提示された文に対して、いずれの容 認度段階も選択されていない(無記入)、2つ以上の容認度段階が選択されている、という 例外的なケースがあり、この場合は回答者としてカウントしていない。合計回答者が調査 参加者数を下回っている文があるのは、このためである。

この点について、三上(1975 [1968] : 25, 27)も、「21時に閉会だ」「もうお帰りですか」

「これから勉強だ」を例にあげ、「テンスの束縛がゆるくなるだけに便利な型である」と特 徴づけている。

このような受動文的な事例については、Sato(2014)で詳細に記述・分析されている。本稿 でこの問題に立ち入る余裕はない。

ただし、これを文末形式が表示する文法的意味だとは考えない。この点は、第5節にて説 明する。

大島(2010 : 91)でも、「特に眼前で起きていたり、これから起ころうとしていたりする ことがらを描写する場合、「…動名詞+だ」の形の文は許容度が高くなるように思われる」

と、これと類似の記述がなされている。

(いつ田中さんが着いたのかを聞かれて)田中さんは昨日到着だ」であれば、容認度は高 い。この点についての説明は、第4節にて行う。

他にも、希求の場合(尾上2001 [1998])、懐旧の場合(仁科2008)がある。

(19b)と(20b)の容認度の違いは、焦点の明確さの違いによるものと考えられる。(20b)

の方が「西山ダムではなく」と前置きがあるため、主語が焦点であることが(19b)に比べ て明確である。次の(ia)と(ib)の容認度の差についても(わずかな差ではあるが)、同 様に説明できるのではないだろうか。

(19)

(i) (どの航空機が墜落したのかを聞かれて。 a. K24型航空機が墜落でした。

(ok:9 ?:28 ??:17 *:7 A:2.6(N=61、①) b. K24型航空機だけが墜落でした。

(ok:17 ?:23 ??:15 *:6 A:2.8(N=61、①)

10 予定の確認時が過去のことだからという理由もありうる。例えば、(調べてみたら)田中 さんは昨日到着でした」のような場合である。この解釈は、未来の出来事を例にして確認 した方が分かりやすい。例えば、(調べてみたら)田中さんは明日到着でした」のような 場合である。

11 森川(2009)はこれを「断言」と呼ぶため、注意されたい。

12 「です」には、(i)のような、述語形成の役割も断定の役割ももたない、純粋に「丁寧」の 態度を表すだけのものがあるため、注意が必要である。

(i) a. 高かったですか?

b. *高いでした。

参照文献

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井上優(2014)「対照研究と通言語的研究」定延利之(編)『日本語学と通言語的研究との対話

―テンス・アスペクト・ムード研究を通して―』165-205.東京:くろしお出版.

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455-470.

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北川千里(1984)「発言の階層構造と「ことば」の主体性」『日本語学』4(8):31-42.

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益岡隆志(2000)『日本語文法の諸相』東京:くろしお出版.

(20)

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―「現地を緊急取材です」「老舗料亭に問題発覚です」―」『留学生日本語教育センター論 集』36 : 57-70.

田中伊式(2012)「ニュース報道における「名詞+です」表現について―「イチロー選手が電 撃移籍です」「尖閣諸島で新たな動きです」―」『放送研究と調査』62(10):16-29.

用例出典

阿部共実『空が灰色だから』『空』)秋田書店.

秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『こち』)集英社.

原泰久『キングダム』『キン』)集英社.

空知英秋『銀魂』集英社.

手塚治虫『手塚治虫漫画全集 ブラック・ジャック』『ブラ』)講談社.

参照

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