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JJAM30_312

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資  料

日本助産学会誌 30巻2号(2016)

日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 30, No. 2, 312-322, 2016

日本赤十字九州国際看護大学大学院(Japanese Red Cross Kyush International Graduate of Nursing)

2015年11月23日受付 2016年8月25日採用

病院勤務の熟練助産師が行う臨床判断の特徴

—分娩第一期の分娩進行を判断していく一連のプロセス—

Characteristics of clinical judgement performed

by hospital-based expert midwives

—Clinical judgment process along the first stage of labor—

木 村 亜 矢(Aya KIMURA)

* 抄  録 目 的  病院に勤務する熟練助産師が分娩第一期の分娩進行を判断していく一連のプロセスの特徴を明らかに することである。 対象と方法  本研究では,エキスパートの条件を兼ね備え,妊産婦に卓越した助産を実践している助産師を熟練助 産師と定義し,研究では総合病院の産科病棟に勤務する4名の熟練助産師を対象とした。データ収集は 分娩介助場面の参加観察と半構成的インタビューにより行った。熟練助産師が行う臨床判断の特徴につ いてカテゴリー化を目的として,質的帰納的に分析した。 結 果  熟練助産師は,初回面会時に分娩進行に影響する分娩3要素,心理的背景,リスク要因を統合して【産 婦の全体像の把握】を行いながら,【個別の分娩進行の見通し】を立てていた。その中から分娩進行を阻 害する【阻害要因の見極め】を行い,有効な【ケアの選択】をしていた。さらに,選択したケアを実践し つつ,分娩進行における【ターニングポイントの予測的な察知】,または必要に応じた【ターニングポイ ントの意図的な生み出し】を行っていた。その後,分娩進行におけるターニングポイントを踏まえ,【分 娩進行の見通しの立て直し】および【阻害要因の再度の見極め】【新たなケアの選択】を繰り返し,方針の 軌道修正を行っていた。以上の分析から,熟練助産師は分娩第一期の分娩進行を判断していく中で,助 産師としての信念,熟練した技術を臨床判断の基盤とし,産婦とともに産む関係の構築を行い,情報把 握の手段として活用していることがわかった。 結 論  熟練助産師が行う一連の臨床判断プロセスの中で,分娩進行の変化をターニングポイントとして予測 的に察知または意図的に生み出すことは,分娩進行の異常への逸脱を予防し,母子の安全確保に寄与す るものである。このプロセスはハイリスクな分娩に対峙する病院勤務の助産師により特徴的なものであ ると考えられる。

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キーワード:熟練助産師,臨床判断,分娩第一期,分娩進行,ターニングポイント

Abstract Purpose

This study aims to clarify the characteristics and sequence of processes that expert hospital-based midwives perform during the progress of the first stage of labor.

Method

In this study, the author defined midwives who had a prominent degree of skill and knowledge in the delivery of midwifery care to expectant and delivering mothers as expert midwives. The subjects were four expert midwives who worked in this study in the maternity ward of the general hospital. The author used participatory observation and semi-structured interviews to gather data from the four expert midwives. The 4 midwives were observed dur-ing labor care and followed with interviews upon completion of their duties.

Data were analyzed by qualitative inductive analysis for the purpose of categorization of characteristics of clini-cal judgment performed by hospital-based expert midwives

Result

Using their past experience, expert midwives were able to recognize important labor progress features from the time of the first meeting with parturient women. Expert midwives had "total perspective" to link three elements of labor with parturient women's psychological background and risk factors; they controlled the general condition of parturient women while "identifying individual labor progress". In addition expert midwives "ascertained nega-tive factors" that would neganega-tively affect the progress of labor and "chose care measures" to control or minimize them. Furthermore, while delivering midwifery care, expert midwives "sensed a predictive turning point in the labor progress" or "created one intentionally" as needed. Expert midwives repeatedly "rebuilt the perspective of labor progress", "ascertained negative factors again", "chose new care measures" and made clinical judgments to adjust their care plans. Midwifery convictions and well-matured techniques skilled interventions were the base of the expert midwives judgment. In addition, building relations with parturient women was also one important step to obtain useful information and apply it when making clinical judgment.

Conclusion

Predicting the "turning point" during labor progress or creating one intentionally contributes to securing safety of the mother and child by preventing deviation of normal labor progress. This process is characteristic of the clini-cal judgment performed by hospital-based midwives whose main duty is to care for high-risk delivering mothers. Keywords: expert midwife, clinical judgment, first stage of labor, labor progress, turning point

Ⅰ.は じ め に

 現在,就業している助産師の64.3%(母子衛生研究会, 2011, p.21)が病院に勤務している。病院勤務の助産師 はハイリスクな妊産婦を対象とすることが多く,より 専門的な知識と的確な判断能力が求められる。 とくに, 分娩第一期は,産婦の苦痛が強く,かつ安全・安楽を 確保するケアが最も多く必要とされる時期であり,助 産師がどのタイミングで分娩進行を判断していくかが, その後の分娩経過を左右するため(増山・平松・難波 他,2008, p.1178),対象産婦の状況を把握しつつ分娩 進行を判断していく能力が求められる。  分娩第一期の臨床判断に関する先行研究では,助産 師は分娩経過に沿った時間軸で「観察̶判断̶ケア」 のサイクルを継続しながら分娩進行を判断していると 結論づけられている(渡邊・遠藤,2010, p.480)。しか し,臨床経験37年までの助産師を対象としたグルー プインタビューの記述であり,助産師ごとの臨床判断 の記述はなされていない。他の先行研究でも助産師が 実践するケアの特徴や臨床判断の手がかり,助産師と 対象者がともに作り上げていく関係については記述さ れているが(渡邊・恵美須,2010;渡邊・恵美須・勝 野,2010;谷津,2002),そのケアに至る臨床判断のプ ロセスについては明らかにされていない。また,助産 院勤務の助産師を対象とした研究が多く,病院勤務の 助産師を対象とした場合も,同様の結果であるかは検 証されていない。そこで本研究では,病院勤務の熟練 助産師を対象として,上記の助産学研究で明らかにな った結果を踏まえ,新たな追究として分娩第一期の分 娩進行を判断していく一連のプロセスに着目し,臨床 判断の特徴を明らかにすることを目的とした。

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Ⅱ.用語の定義

臨床判断:分娩第一期である対象産婦を,助産師とし ての最大限の知識と感覚を活用して,現状の分娩進行 と同時に今後の可能性を予測的に判断し,助産ケアを 決定すること。さらに,状況に応じて継続して決定内 容を変化させていくこと。 熟練助産師:Jasper(1994, pp.771-773)によるエキス パーティスの必須条件である①特定領域の知識体系と 技能ならびに広範な経験,②パターン認識,③他者か らの認知を参考に本研究での熟練助産師を以下の様に 定義する。  「特定領域の知識体系と技能ならびに広範囲な経験 を蓄積し,現象に応じて過去の経験を活用し臨床判断 と実践ができる人,さらに,他者から看護実践能力が 優れていると認識され,自分自身を向上させる前向き な能力のある人」というエキスパートの条件を兼ね備 え,妊産婦に卓越した助産を実践している助産師のこ と。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン  本研究は,熟練助産師が行う臨床判断の特徴につ いてカテゴリー化を目指すため,質的帰納的研究 (Thomas, 2006)を用いて行った。 2.研究対象者  病棟管理者により,下記の選出基準3項目を満たす 熟練助産師を研究対象者として選出した。対象は4名 の熟練助産師で,産婦9名のデータ収集を行った。対 象助産師は助産師A(経験年数13年),助産師B(同13 年)助産師C(同14年),助産師D(同16年)であり,9 名の対象産婦の概要は表1に示す通りであった。 〈選出基準〉 (1) (2) (3)

経験年数:Ericsson & Lehmann(1996, p.278)の 熟年化の10年ルールより,助産師として10年以 上の臨床経験がある者。 助産師外来または新人教育担当経験者:役割か ら自立性,判断能力が高まるため (川原・佐々木・萩野他,1996, pp.172-174;山田 ・泉・平松他,2007, pp.45-46)。 管理者の評価: ・他者からの意見や提案を受け入れ,実践に結 び付けていると管理者が評価する者。 ・熟練した技術は固定化されないとされ(松尾・ 正岡・吉田他,2008, pp.11-19),経験や研修な どから,自分自身を向上させる力があると管 理者が評価する者。 表1 対象産婦の概要 産婦 助産師 年齢 初/経産 分 娩 経 過 i A→B 34 2経産 39週5日。破水後,第一子と共に来院し,夜間帯に入院となった。分娩進行に停滞が見られたが,早朝にかけて加速期を迎えた。分娩第一期の途中で助産師Aから交代した助産師 Bが,分娩進行をコントロールし分娩介助を行った。 j A 31 3経産 38週0日。陣痛発来により入院後,順調に分娩が進行し,分娩第一期から産婦自身の冷静な疼痛コントロールの中,児娩出となった。 k A 31 初産 39週6日。陣痛発来後,入院となり,分娩第一期を夫とともに過ごした。自然破水後,分娩が急速に進行し,出産に至った。 l B 35 2経産 38週0日。陣痛発来後に入院となり,直後に自然破水し,急速に分娩が進行した。第1子の死産経験があり,児心音低下時は胎児の状況を気にかける発言が見られたが,分娩第一 期を冷静に過ごし出産に至った。 m C 26 初産 38週6日。陣痛発来により入院後,陣痛発作のためパニック傾向であった。徐々に冷静さを取り戻し,分娩第一期を過ごし,出産に至った。 n C 35 2経産 36週4日。早期破水のため様子観察目的に午後4時ごろ入院となった。翌日午前6時ごろ自然に陣痛が発来し,穏やかに疼痛コントロールを行いながら分娩第一期を過ごした。そ の後対象助産師以外のスタッフへ担当交代し,順調に出産に至った。 o C 38 2経産 39週3日。陣痛発来後,入院となった。妊娠高血圧症のため,子癇発作のリスクを考慮した方針を検討していた。分娩進行が停滞している状況から助産師Cの有効な関わりにより, 順調に分娩が進行し始め,出産に至った。 p D 32 2経産 40週1日。陣痛発来後,入院していた。研究対象外の日勤スタッフから交代した助産師Dが担当し,実母の支援のもと分娩第一期を過ごしていた。破水後,急速に分娩が進行した が,冷静に出産に至った。 q D 29 初産 39週0日。陣痛発来後に入院となり,夫の帰宅と共に産婦1人で分娩第一期を過ごした。冷静に分娩進行を受け止め,出産に至った。

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3.データ収集方法  本研究は,参加観察と半構成的インタビューにより 行った。データ収集期間は2011年6月7日から2011年 10月15日であった。 1 ) 参加観察  本研究では分娩進行の判断に着目し,対象助産師1 人あたり2∼3回の経腟分娩における分娩介助場面を 観察し,記録した。研究者は対象助産師が担当した分 娩期のすべての場面で参加観察を行った。観察者役割 の類型論については,Gold(1958, pp.219-222)により, ①完全な参加者,②観察者としての参加者,③参加者 としての観察者,④完全な観察者,という4つの分類 が提唱されている。そのうち,今回は対象者との接触 を持つが,参加観察の場面において観察以外の役割を 持たない,③参加者としての観察者の立場を遵守した。 2 ) 半構成的インタビュー  対象助産師へのインタビューは,インタビューガイ ドに基づき,参加観察直後(1回目)と1週間後(2回目) の計2回,それぞれ1時間程度,個室で行った。 〈インタビューガイド〉 インタビュー前 ・経験年数,分娩介助件数,助産観など対象助産師の 背景を確認した。 1回目(分娩終了後) ・パルトグラムを見ながら分娩第一期を振り返っても らい,どのように現象を捉えているか自由に語って もらった。その後,分娩進行の判断を何に基づいて 行ったのか,何を考え,どのようなケアを行ったの か,その結果どのようになったのか,その判断につ いてどのように考えているのか,またこの判断には 過去の経験がどのように関連していたのかなどを引 き出した。 2回目(1週間後) ・逐語録を整理し,分娩第一期の分娩進行を判断して いくプロセスについて確認を行った。 4.データ分析方法 1 ) 1回目のインタビューの内容から逐語録を作成し た。フィールドノーツ(佐藤,2006, pp.215-220)の内 容と共に記述し,整理した。 2 ) 2回目のインタビュー内容から1)と同様に逐語録 を作成し,1)の逐語録を対照して全体像の整理を行 った。 3 ) 時間経過と意味内容を損なわないように,分娩 介助場面ごとに「現象の捉え方」,「分娩進行の判断 を何に基づいて行ったのか」,「その後,どのような ケアを行ったのか」,「その結果,どのようになった のか」,「その判断についてどのように考えているの か」,「この判断に関連する過去の経験」の視点で分 析を行った。 4 ) 時間経過と意味内容を損なわない形で,一連の臨 床判断プロセスを1事例ずつ分析した後,各助産師 について,対象事例の共通点や相違点の比較を行い, それぞれの臨床判断プロセスの特徴を分析した。 5 ) 各対象助産師の臨床判断プロセスの特徴を比較検 討し,熟練助産師の臨床判断のカテゴリー化を図っ た。カテゴリー間の関連性に着目し,臨床判断の始 まりから帰結までの一連のプロセスを図示した。 6 ) 上記内容の分析の際には,単独研究に伴う解釈や バイアスを軽減するために,助産学及び質的研究者 である指導者のスーパーバイズを受けながら行った。

Ⅳ.倫理的配慮

 研究対象となる助産師には,本研究の目的と意義, 研究期間と方法,倫理的配慮,具体的な参加観察,面 接内容の説明を口頭および書面で行った。研究への協 力は自由意思であり,研究途中での辞退も可能で,辞 退による不利益はないことを事前に説明した。得た情 報は匿名性を確保し,個人情報の保護と管理に努め, 研究目的以外に使用しないことを保証した。研究依頼 は研究者が直接行い,管理者による強制力がかからな いように配慮した。参加観察の対象産婦には,分娩進 行中の苦痛や心身の負担を考慮して,陣痛の間欠時に 全身状況を確認のうえ,口頭および書面で研究の説明 を行い,同意を得て出産場面に同室した。参加観察中 に, 対象産婦が急変した場合,直ちに観察を中止する ものとした。また,対象産婦への直接的な医療行為に 該当しない範囲で医療スタッフへ最大限協力を行うも のとした。なお,所属大学および研究対象施設倫理審 査委員会の承諾を得て実施した(日本赤十字九州国際 看護大学倫理審査委員会:承認番号第11-1号,A施設 倫理審査委員会:承認番号144)。

Ⅴ.結   果

 分娩第一期の熟練助産師の一連の臨床判断プロセス は以下の通りである。カテゴリーは【 】で示し,カテ

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316 日本助産学会誌 30巻2号(2016) ゴリーを構成する要素を〈 〉で示す。また,熟練助産 師が行う一連の臨床判断プロセスを支えている重要な 項目を太字で示す。  分娩第一期における熟練助産師の臨床判断プロセス では,対象産婦との初回面会時に,【産婦の全体像の 把握】を行い,【個別の分娩進行の見通し】を立てる中 から,分娩進行に影響する【阻害要因の見極め】の後に, 有効な【ケアの選択】に反映させていた。続いて,熟 練助産師は,対象産婦の心身の変化を感じ取り,分娩 進行の【ターニングポイントの予測的な察知】さらに は【ターニングポイントの意図的な生み出し】をタイ ミングよく行っていた。【分娩進行の見通しの立て直 し】および,そこから浮き彫りとなった【阻害要因の 再度の見極め】,【新たなケアの選択】は繰り返し行わ れていた。また,以上のプロセスの中で,熟練助産師 は,自己の信念,熟練した技術を臨床判断の基盤とし, 初回面会時から産婦とともに産む関係の構築を行うこ とで,臨床判断に重要な情報の把握手段として活用し ていた。分娩第一期の熟練助産師の臨床判断プロセス を図1に示した。  以下,熟練助産師の臨床判断プロセスの特徴につい て代表的事例を用いてカテゴリーごとに記述する。な お,場面の記述のうち,参加観察中に対象助産師と対 象産婦が実際に行った会話は『 』,インタビューでの 対象助産師の発言は「 」で表示している。 1.分娩第一期の熟練助産師の臨床判断プロセス 【産婦の全体像の把握】と【個別の分娩進行の見通し】  このカテゴリーは,助産師が対象産婦との初回面会 時に産婦の状態を把握すると同時に,個別の分娩進行 の見通しを立てていくプロセスである。  破水後入院となった産婦iの事例において,来院時 の産婦 i の表情は硬く,『前の時は陣痛からだったから 不安で』と不安を表出していた。助産師Aは初回面会 時, 産婦iの腹部に触れながら陣痛間隔を直接確認す ると同時に,破水による臍帯脱出の可能性を考慮しな がら今後の方針を検討していた。助産師Aは,「入院し てきたとき破水したことで少しパニック状態だったか らね。経産婦さんで,破水しているけれど時間がかか るだろうなと思った。そういう経験がある」と語って 1 希 望 サ イ ズ 1/2 ペ ー ジ 分 図1 分娩第1期の熟練助産師の臨床判断プロセス 分娩第二期 阻害要因の抽出を示す

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いた。(助産師A̶産婦 i 事例)  このように,助産師Aは初回面会時に〈分娩3要素〉 の把握を即座に行う一方で,今後,経過によっては破 水による臍帯脱出が生じてくるという可能性を〈リス ク要因〉として把握していた。さらに,産婦iの出産へ の不安を〈心理的背景〉として把握,産婦の産む覚悟 が定まっていないと判断し,情報を統合して【産婦の 全体像の把握】を行い,分娩進行には時間がかかると 【個別の分娩進行の見通し】を立てていた。  参加観察より入院時,産婦kは陣痛周期8分,発作 30秒,子宮口3㎝であった。産婦kは,発作時はやや 苦しい表情であったが,夫婦で呼吸法を行いながら過 ごし,『まだ強い痛みではないですね』と助産師Aに伝 えていた。この時のことを助産師Aは「(分娩は)早く て朝方か。旦那さんが仕事に行く前に生まれるかなと 思った。周りの気持ちは伝播する。夫もそう。私たち も。二人で産むぞって感じでしたね。呼吸法もできて いたし,夫立ち会いの講習も受けて準備もできていた し。今回の旦那さんは落ち着いて奥さんを支えていて お産と向き合えていて私は必要ないかなと思った。初 産婦だから,時間はかかるとは思ったけど」と語って いた。(助産師A̶産婦k事例)  助産師Aは,初回面会時にまず産婦kの〈分娩3要素〉 に明らかな異常がないことを確認していた。さらに, 初産婦であるが,産婦kは落ち着いて呼吸法を行いな がら分娩と対峙し,夫婦での事前準備と付き添う夫の 精神的な支えが不安軽減につながるという〈心理的背 景〉を把握していた。すなわち,現状では〈分娩3要素〉, 〈心理的背景〉の中に〈リスク要因〉を認めず,分娩が 順調に経過していると【産婦の全体像の把握】を行っ た。そのうえで,産婦kが初産婦であることから分娩 には時間がかかるがゆっくりと進行し,朝方に児娩出 となるだろうと【個別の分娩進行の見通し】を立てて いた。  初回面会時,助産師Dは,産婦pの腹部に手を当て て2∼3回の陣痛発作を連続して確認し,陣痛周期の 平均値を把握していた。続いて行った内診では,子宮 口は7センチ,展退60%,児頭下降度はStation-2であ った。そこで,助産師Dは,産婦pに『(児娩出までに) もう少しかかりそう』と笑顔で話し,実母が付き添っ ていることを確認したうえで,一度退室した。助産師 Dは,「陣痛は強くなってきているとは思ったけど,お 腹の張りの感じと頭の下がってくる感じが一致しなか ったから,表面的には張っているけど,お腹の中から 押し出す力にはなっていないなという印象でしたね。 (実母との)関係性も良かったし,2人の雰囲気を大事 に見守りながら必要な時に(必要なケアを)伝えて」と 語っていた。(助産師D̶産婦p事例)  以上より,助産師Dは,〈分娩3要素〉から,子宮口 開大,子宮の展退状況に比べて児頭下降が進んでいな いことから,児頭の回旋が不十分であり,今後回旋異 常が起こりうるという〈リスク要因〉を把握していた。 一方で,実母が産婦の精神的な支えとなり,産婦pが 陣痛発作を乗り越えるためのサポートになっている と,〈心理的背景〉として把握していた。以上から,分 娩は進行しているものの陣痛発作の程度が有効な陣痛 としては弱く,児頭が回旋しながら下降するだろうと 【産婦の全体像の把握】を行い,児娩出までには時間 がかかると【個別の分娩進行の見通し】を立てていた。 【阻害要因の見極め】と【ケアの選択】  このカテゴリーは,熟練助産師が分娩進行を見通す 中で浮き彫りとなった阻害要因を見極め,有効なケア を選択していくプロセスである。  産婦iは入院後から上の子を目で追いながら過ごし ていた。陣痛発作は弱まり,日常会話が可能であった。 助産師Aは午前5時ごろであることを確認しながら『間 隔が遠のいてきて,寝ても良いかな。上の子のことも あるし』とつぶやいた。助産師Aは「上の子のことをす ごく本人が気にしていたこともお産の進行にブレーキ をかけているかなと思って」と語っている。  助産師Aは,産婦iと相談したうえで,家族を一時 帰宅させることとし,その後産婦iに休息を促した。 (助産師A̶産婦i事例)  以上より,助産師Aは,付き添っていた上の子に産 婦iが注意を向けていることが分娩進行を直接阻害す る〈阻害要因〉となっていると【阻害要因の見極め】を 行い,〈阻害要因〉を解決に導く〈ケア内容〉を考慮し, 分娩に集中できる環境を整えるという【ケアの選択】 を行っていた。  産婦mは初産婦であり,間欠時に笑顔が見られるも のの,発作時はパニックになり呼吸を止めていた。助 産師Cは,産婦mの腹部を触診しながら陣痛間隔と強 さを確認し,産婦mに『ろうそくを消すようにふーっ と吐いてね』と伝えていた。助産師Cは産婦mの手を

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318 日本助産学会誌 30巻2号(2016) 握りながら発作時に『私の方を見て』と伝えながら呼 吸法をリードしていた。徐々に産婦mは,助産師Cの 誘導に応じ始めた。助産師Cは,「初産婦にとって(分 娩は)未知の世界ですごく恐怖心がある。(産婦mは) 陣痛に関して恐怖心というのが見え隠れしていて,陣 痛が強くなるとパニックになっていたから意識を私に 向けさせて誘導するように心がけました」と語ってい た。(助産師C̶産婦m事例)  以上より,助産師Cは,産婦mが初産婦であり,陣 痛に対する恐怖心が呼吸法を妨げ,分娩進行を直接阻 害する〈阻害要因〉となっていると【阻害要因の見極め】 を行い,産婦mの意識を助産師Cに向けさせることで 恐怖心を逸らし,パニックを防ぐという【ケアの選択】 を行っていた。 【ターニングポイントの予測的な察知】  このカテゴリーは,熟練助産師が分娩に向かってい く最大の変化を転換点として捉え,それをターニング ポイントとして察知していくプロセスである。  午前10時頃,定期的な陣痛発作の中で,産婦iは長 い間欠期を迎えた。助産師Aから引き継いだ助産師B は,静かに産婦iの腰に手を当てながら寄り添い,『次 の陣痛が落ち着いたら内診しよう』と伝えた。その 後,陣痛間隔2∼3分,陣痛発作30∼40秒から陣痛間 隔1∼2分,陣痛発作40∼50秒へと増強を認め,発作 時の声漏れは強まり,産婦iは肛門圧迫を訴え始めた。 助産師Bは,すかさず陣痛間欠時に内診を行い,子宮 口が全開大であることを確認していた。その時のこと を助産師Bは,「本当に,ピキンっとスイッチが入っ たのか。そういうタイミングだっただろうけど,声が 出てきて,やっぱりここからかなって思って。こんな 時期にこんなに長く休ませた後,ドンってくるよって いう,間があるよね」と語っている。(助産師B̶産婦 i事例)  助産師Bは,長い間欠期を単に休息として捉えるの ではなく,〈経験的知識〉を踏まえて,今後急速に分娩 が進行する前兆であると捉えて,注意を払いながら寄 り添っていた。そして,程なくして陣痛が強まり,分 娩の進行は加速した。すなわち,助産師Bは変化のタ イミングを見定め,【ターニングポイントの予測的な 察知】を行うことで,〈変化に対する準備〉を整えてい た。 【ターニングポイントの意図的な生み出し】  このカテゴリーは,熟練助産師がリスク要因によっ て分娩進行が異常へと逸脱するのを防ぐために意図的 な介入を行い,その介入により正常な分娩進行につな がるターニングポイントを意図的に生み出すというプ ロセスである。  産婦oの事例では陣痛発作が弱く,助産師Cの勧め で入浴を行った。助産師Cは,その前後に陣痛の程度 の変化を産婦の腹部に直接触れて確認していた。入浴 前後で陣痛周期3∼4分,陣痛発作40∼50秒から陣痛 周期2分,陣痛発作30∼40秒へと変化した。産婦oは, 助産師Cへ『お尻にきます』と訴えた。助産師Cは,産 婦oに『少し回旋が進んできているね。破水したら進 みそうよ』と伝えた。助産師Cは,「お風呂に入れた後 から陣痛が順調に強くなり始めたから,有効な関わり になったと感じて,その後は血圧と全身状態に注意し て,逆に急速に分娩が進まないように注意した」と語 っている。(助産師C̶産婦o事例)  助産師Cは分娩時間が遷延しつつあることを〈リス ク要因〉として危惧していた。現在の陣痛の程度を慎 重に判断した上で,陣痛の増強を意図して,入浴と いう〈介入〉を行い,その効果について観察していた。 分娩進行の長期化をリスクとして起こりうる,血圧上 昇や子癇発作という分娩進行の異常への〈逸脱の回避〉 を目的とした意図的な〈介入〉を行い,その結果,分 娩が進行した。すなわち,助産師Cは,入浴という〈介 入〉により正常な分娩進行につなげるという,【ターニ ングポイントの意図的な生み出し】を行っていた。 【分娩進行の見通しの立て直し】  このカテゴリーは,ターニングポイントを踏まえ, 今後の分娩進行の見通しを再度判断していくプロセス である。  産婦iは破水後に分娩が進行し,落ち着いて助産師 Aの誘導に応じることができていた。助産師Aは,児 頭の位置が高いと判断して,臍帯脱出に注意しながら 産婦iの陣痛発作の増強にしたがい,産婦iに児頭下降 を促す目的で座位の姿勢を勧めた。産婦iは陣痛間欠 時に『上の子がいなくなってよかった。気になってい たから』と家族の帰宅により分娩に集中できる環境と なったと述べていた。助産師Aは,「経産婦で,破水し て陣痛が来始めている人は陣痛が来る(急激に進行し 始める)」と語っている。(助産師A̶産婦 i 事例)  助産師Aは,初回面会時,分娩に至るまでには時間

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がかかると見通しを立てていたが,陣痛の程度の変化 や児頭の位置という〈分娩3要素の再評価〉とともに現 時点での破水による臍帯脱出の可能性という〈リスク 要因の再評価〉,産婦iの発言から分娩に集中できてい る,つまり産む覚悟が定まったと〈心理的背景の再評 価〉を行い,情報を統合して,間もなく陣痛が加速し ていくと【分娩進行の見通しの立て直し】を行っていた。 【阻害要因の再度の見極め】と【新たなケアの選択】  このカテゴリーは,立て直しを行った分娩進行を見 通す中で浮き彫りとなった分娩進行を阻害する要因を 再度見極め,有効なケアを選択していくプロセスであ る。  陣痛発作が増強し始めた産婦iの分娩が進行しつつ あると助産師Aが判断した一方で,産婦iは『微弱陣痛 ですか?』と助産師Aに尋ねた。助産師Aは『まだ始ま ったばかりだしね』と答えた後,黙って寄り添ってい た。その後,助産師Aは,産婦iに『赤ちゃんは順調に 回って(回旋して)いますよ。子宮口が3cm開いてい ますよ。(分娩が)進んでくると思いますよ』と細かに 状況を伝え,分娩の進行を促すために座位を促し,バ ランスボールにより体位の工夫を行った。産婦iのこ の発言について,助産師Aは「本人の気持ちが陣痛を 元々マイナスに捉えている。お産に前向きになれるこ とを考えた」と語っている。(助産師A̶産婦 i 事例)  助産師Aは産婦iの分娩進行に対する後ろ向きな捉 え方が分娩進行の〈阻害要因〉であると【阻害要因の再 度の見極め】を行い,産婦iの分娩に対する捉え方を分 娩進行に沿うように胎児の回旋や子宮口の状況を,産 婦iに随時伝えることで分娩が進行してきていること への理解を促しつつ,具体的な<ケア内容>としては, 分娩進行を促す体位の工夫を行うという【新たなケア の選択】を行っていた。 2.臨床判断の基盤  分娩第一期の分娩進行を判断していくプロセスの中 で,いずれのカテゴリーにおいても助産師としての信 念,熟練した技術が基盤となっていることが明らかと なった。  参加観察において,助産師Aは産婦iが胎児と向き 合えているか,さらに,産婦自身が分娩をどのように 捉えているかを常に観察していた。分娩が進行するに つれて,産婦iは『前のお産は陣痛が痛くて。今回,怖 かった』と述べており,前回の出産体験に起因する産 婦iの陣痛への不安を助産師Aは感じ取っていた。そ こで,産婦iの話を傾聴しながら,陣痛発作に合わせ て腰をさすっていた。その後,陣痛間欠時に産婦iは 『腰をさすられると良いですね。安心できます』と述 べ,呼吸法に集中するようになった。助産師Aは,「必 ず,相手のペースで状況を判断してできることを考え る」と語っている。(助産師A̶産婦 i 事例)  助産師Aは産婦iの陣痛の状態を把握するとともに, 言動の中から産婦の産む覚悟を把握して,産婦のペー スで分娩に対峙させるという自己の助産師としての信 念を基盤としていた。  初回面会時に,助産師Bは産婦iが冷静に陣痛発作 に対応し,座位の姿勢で呼吸法に集中して落ち着いて 過ごしている様子から分娩を前向きに捉えていると把 握していた。そこで,助産師Bは,ベッドサイドで寄 り添いながら,必要以上に産婦iに話しかけず,腰部 マッサージを行い,分娩進行の変化のタイミングを意 図的に感じ取っていた。助産師Bは,『本当に黙ってさ すって,顔色見て,陣痛の強さを手で感じて,表情に 余裕がある時,聞ける時,(余裕が)ない時,アドバイ スする時。相手の状況に合わせて,対応を変える。多分, 例数取ってくると,一本調子じゃだめって言うのが分 かってくる。(経験年数を重ねると直接,分娩介助に) つかなくなってくるから,つくお産というよりも,見 るお産っていうのもとても勉強になるのかな』と語っ ている。(助産師B̶産婦 i 事例)  助産師Bは,産婦iの状況に応じて臨機応変に助産 師自身の対応を変え,五感を使って分娩進行を感じ取 るという分娩介助経験を重ねて身につけた熟練した技 術で分娩進行を判断していた。さらに,助産師Bは熟 練した技術を維持し,いっそう豊かにしていくために, 実際に分娩介助の例数を重ねるのみならず他の助産師 の実践を観察して,自らフィードバックするという意 図的に学ぶ姿勢で熟達化を図っていることが明らかと なった。 3.ともに産む関係の構築  分娩第一期の分娩進行を判断していく中で,熟練助 産師は産婦とともに産む関係を構築し,その関係性を さらなる情報把握の手段としていた。  参加観察の中で,助産師Cは,産婦oが冷静に分娩 期を過ごすことができていると判断すると,一度その 場を離れている。一方で,その後陣痛発作が増強し始

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320 日本助産学会誌 30巻2号(2016) めた段階では,片時も離れることなく,分娩進行の変 化を観察していた。  助産師Cは,「経産婦さんで,少し先の流れが分か っていることと,痛みに関して経験があって自分なり の過ごし方を知っておられるし,本人の分娩第一期の 過ごし方にこっちが合わせる感じだね。頻回に訪室は するけど,ポイントポイントで関わるようにした」と 語っている。(助産師C̶産婦o事例)  助産師Cは当初,産婦oとの距離を縮め産婦oの全 体像を把握して分娩進行の見通しを立てる中で,産婦 oが自分なりの過ごし方を知っていると判断して,そ の後一定の距離をとって見守っていた。常時寄り添っ て関係を構築するだけでなく,産婦にとって有効な関 わり方と適切な距離間をその都度選択して,産婦とと もに産む関係の構築を行っていた。

Ⅵ.考   察

1.熟練助産師が分娩進行を判断していく一連のプロ セスの特徴  本研究を通して見られた,熟練助産師は経験的知識 を基に分娩進行における臨床判断を行うという特徴は, Benner(2001/2005, pp.26-32)が述べているエキスパー トナースの特徴と一致した。まず,過去の分娩介助経 験をパターンとして認識,類似した場面でその知識を 引き出し,臨床判断に活用するという特徴は,経験豊 かな熟練者ゆえの思考パターンであるといえる。さら に,陣痛周期や程度,子宮口の状態,胎児の状態とい う分娩進行に影響する分娩3要素に加え,産婦の不安, 産婦の産む覚悟,産婦を支える家族のサポートという 心理的背景を踏まえ,分娩を異常へと導きうる微弱陣 痛や回旋異常などのリスク要因を統合して,対象産婦 の全体像を把握し,個別の見通しを立てるという特徴 が,本研究により明らかとなった。熟練助産師の判断 プロセスには,パターン認識に基づく判断にとどまら ず,産婦の産む覚悟やリスク要因という産婦ごとの個 別の状況を加味した判断も含まれていた。以上の特徴 は,助産師が分娩進行という個別性に富んだ場面に即 した判断を行う上で重要である。

  一 方 で,Benner, Kyriakidis, Stannard(2011/2012, pp.109-141)はエキスパートナースの直観的判断とは, 経験を基に微かな変化を予期し,判断することであり, 熟練者は先を見通すことで,状況を変える行動をとっ ているということを述べている。長い間欠期から陣痛 が強まり分娩進行が加速していくタイミングを見定め, そこが分娩進行における最大の変化になると,助産師 Bがターニングポイントの予測的な察知を行っていた ことは,微かな変化を予測する直観的判断と類似した 特徴であるといえる。また,助産師Cは産婦oに対し て分娩の長期化による血圧上昇や子癇発作のリスクを 回避し,分娩進行を軌道修正するため,入浴という介 入により陣痛促進を促した。すなわち,産婦のリスク 要因を念頭に置き,自然経過では異常へと逸脱しうる 分娩進行に対して,正常な分娩進行に向かわせるター ニングポイントを意図的な介入によって生み出してい た。熟練助産師は,分娩進行の中で最大の変化をター ニングポイントとして前もって察知し,その変化に対 する準備を整えるのみならず,必要に応じて能動的に ターニングポイントを生み出すことで分娩に変化を与 えていた。これらは経験的知識に裏打ちされた直観的 判断であり,微かな変化を予期し,現状を基にして先 を見通すことができる熟練助産師ゆえの臨床判断の特 徴であると考えられる。  さらに,ターニングポイントの前後の変化を踏まえ て,分娩進行の見通しを立て直し,阻害要因の再度 の見極めとケアの選択を繰り返して行っていくとい う,熟練助産師の一連の臨床判断プロセスがみられた。 このプロセスは,Tanner(2000, p.70)によるclinical judgmentモデルで述べられた,臨床判断後にケアを 実施し,対象者の反応を受け,情報をフィードバック させるというエキスパートナースを対象としたプロセ スと類似していた。絶えず臨床判断プロセスを繰り返 すことで,ターニングポイントの後も常に変化しうる 分娩経過において,熟練助産師が状況に応じた臨床判 断を行っていることがうかがえる。 2.病院勤務の熟練助産師に求められる臨床判断につ いて  先行研究における助産院勤務の熟練助産師が行う臨 床判断には,進行を見通す,自己の信念に基づく,助 産観を基盤にする,経験値を活かす,という特徴が あると述べられており(渡邊・恵美須,2010, pp.60-63), 本研究でも類似した特徴が見られた。加えて,本研究 では,病院での周産期管理を必要とする妊娠高血圧症 候群や高齢出産などのハイリスク妊娠に付随した血圧 上昇,微弱陣痛などの分娩進行のリスク要因がもたら す異常への逸脱を回避する目的で,意図的なターニン グポイントの生み出しが活用されていた。母子の安全

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確保を目的とした重要な臨床判断であり,熟練助産師 に共通した特徴であるのみならず,ハイリスクな分娩 に対峙するほど求められる臨床判断能力であるという 点で病院勤務の助産師により特徴的なものと考えられ る。  また,出産という状況で,産婦と助産師との信頼関 係が成立していない場合は,産婦の身体を硬くしてし まい,助産師はその微妙な変化を感じ取れないとして, 円滑な分娩進行における産婦と助産師の信頼関係の 重要性も述べられている(渡邊・恵美須,2010, p.61)。 しかしながら,病院勤務の熟練助産師が外来における 妊娠経過から一貫して対象産婦に関わることは少なく, 産婦に関わる起点の多くは入院時あるいは勤務交代に 伴って分娩第一期の途中からであり,迅速な信頼関係 の構築が求められる。そこで,病院勤務の熟練助産師 は,初回面会時に瞬時に産婦の全体像の把握や個別の 分娩進行の見通し立てを行うと同時に対象産婦と適切 な距離間を見極めるように努め,時にはあえて産婦と 距離を取るなど経過に応じた柔軟な対応により,良好 なともに産む関係を構築していた。 3.助産学への示唆  本研究では,臨床判断の一連のプロセスを可視化す るため,実践を行う参加観察に加えて,実践後の想起 による半構成的インタビューの併用を選択した。その 結果,実践の場で語られなかった助産師の臨床判断や 行為の意味について想起しやすい状況を作り出すこと が可能であった。とくに,熟練助産師が分娩進行の最 大の変化,すなわちターニングポイントがどこで起 こるかを適切に察知し,時に積極的な介入によりター ニングポイントを作り出すというプロセスの一端を可 視化,言語化したと考える。一方で,病院勤務の助産 師は,経験年数を重ねるごとに新人教育や管理などの 役割を担うことが多く,分娩介助を直接行う機会が減 少する傾向にある。本研究でも,助産師Bが「つくお 産というよりも,見るお産っていうのも,とても勉強 になるのかな」とインタビューで語ったように,分娩 介助の機会が減少する中でも他の助産師の介助を観察, 共有することが,臨床判断や実践的知識をさらに熟達 化する一つの手段であると捉えられ,今後の助産師教 育の一環としても示唆に富むものと考えられる。 4.本研究の限界と今後の課題  本研究は4名の熟練助産師の結果に基づくもので, 今後は様々な施設かつ経験を持つ熟練助産師を対象と して事例を追加検討する必要性がある。また,本研究 は分娩第一期のみを対象としたが,今後は分娩第二期, 分娩第三期との関連性や比較についても追加検討して いく必要がある。

Ⅶ.結   論

 熟練助産師が行う一連の臨床判断プロセスの中で, 分娩進行の変化をターニングポイントとして予測的に 察知または意図的に生み出すことは,分娩進行の異常 への逸脱を予防し,母子の安全確保に寄与する重要な 特徴であるといえる。 謝 辞  本研究の実施にあたり,出産という個人的な場面で ありながら参加観察をご承諾頂きました産婦とそのご 家族の皆様,そして快く本研究にご協力をしてくださ いました産科病棟の助産師の皆様,病棟管理者,スタ ッフの皆様に感謝いたします。尚,ご指導頂きました 日本赤十字九州国際看護大学大学院の本田多美枝教授, Herrera C. Lourdes R准教授に心より感謝いたします。  本研究は日本赤十字九州国際看護大学大学院看護学 研究科修士課程に提出した修士論文の一部加筆,修正 を加えたものである。また,内容の一部は,第28回 日本助産学会学術集会で発表した。 文 献 Benner, P. (2001)/井部俊子監訳(2005).ベナー看護論― 初心者から達人へ―(新訳版)(pp.26-32),東京:医学 書院.

Benner, P., Kyriakidis, P.H., & Stannard, D. (2011)/井上智 子監訳(2012).ベナー看護ケアの臨床知―行動しつ つ考えること―(第2版)(pp.109-141),東京:医学書 院.

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参照

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