β-lactam antibiotic-induced vancomycin resistant MRSA(BIVR)
によるマウス感染モデルに対する vancomycin あるいは teicoplanin と β-lactam 薬との併用効果
1)
アステラス製薬株式会社薬理研究所,
2)同 医薬情報部,
3)北里研究所抗感染症薬研究センター,
4)
北里大学医学部感染症学講座
波多野和男
1)横田 好子
2)花木 秀明
3)砂川 慶介
4)(平成 17 年 12 月 27 日受付)
(平成 18 年 1 月 20 日受理)
Key words : β -lactam antibiotic-induced vancomycin resistant MRSA, animal model, vancomycin, β-lactam, combination therapy
要 旨
β -lactam antibiotic-induced vancomycin resistant MRSA(BIVR)を用いたマウス全身感染モデルで van- comycin(VCM)と ceftizoxime(CZX)の併用が拮抗作用を示すことをすでに我々は本誌で報告した.さ らに今回,他の β-lactam 薬(flomoxef,ampicillin,azthreonam,imipenem! cilastatin(IPM! CS))と VCM との併用効果を検討した結果,これらの β-lactam 薬との併用投与において VCM 単独投与に比較し生存率 が有意に低下し,腎内生菌数が増加した.また,呼吸器感染モデルにおいて,VCM とIPM ! CS を併用投与 したマウスの肺内生菌数は VCM 単独投与に比較し有意に増加した.一方,VCM と同じグリコペプチド系 薬である teicoplanin(TEIC)について同様に検討した結果,マウス全身感染モデルにおいて TEIC とIPM! CS 併用投与の生存率が TEIC 単独投与のそれより上昇し,腎内生菌数は顕著に減少した.また呼吸器感染モデ ルにおいて TEIC とIPM! CS の併用投与により肺内生菌数が有意に減少した.
以上の結果,BIVR による感染はモデルの種類によらず VCM は β -lactam 薬との併用投与で拮抗作用を示 し,TEIC は β-lactam 薬との併用投与で相乗作用を示した.
〔感染症誌 80:243〜250,2006〕
序 文
MRSA 感染症はしばしば免疫低下患者で発症し,
ひとたび発症すると重篤な感染症へと進展する.わが 国 で は,MRSA 感 染 治 療 薬 と し て vancomycin
(VCM),teicoplanin(TEIC),arbekacin(ABK)
の 3 薬剤が承認され使用されているが,臨床現場では β-lactam 薬と併用されることが多い
1)2).我々は MRSA の一部の菌株で,VCM と β-lactam 薬を同時に作用さ せると VCM の抗菌力が減弱する株が存在することを 見出し,これらの菌株を β -lactam antibiotic-induced vancomycin resistant MRSA (BIVR)と命名した
3). 1999 年から 2002 年に分離された MRSA 717 株中 45
株,6.3% が VCM と ceftizoxime(CZX)の併用で拮 抗作用を示し,疫学調査によりこの BIVR は年々増加 傾向にあることを報告した
4)〜7).最近になって Gold- stein ら
8)もグリコペプチド中等度耐性 Staphylococcus
aureus 中に,VCM と cefotaxime の併用で拮抗作用を
示す株が存在するという同様の報告をしている.これ らの報告はいずれも in vitro 実験(ディスク法)によ る 現 象 で あ る が,臨 床 現 場 で 果 た し て VCM と β- lactam 薬併用療法が in vitro で示されるような拮抗作 用を示すかどうかは疑問であり,またこの現象を臨床 で確認することも困難であろうと予想される.
そこで,我々は BIVR によるマウス全身感染モデル で VCM と CZX の併用投与が拮抗的作用を示すこと を前回の検討
9)で確認したため,今回は, β -lactam 薬 の基本骨格の異なる代表的な薬剤をそれぞれ選択し,
原 著
別刷請求先:(〒532―8514)大阪市淀川区加島2―1―6 アステラス製薬株式会社薬理研究所
波多野和男
マウス全身感染および呼吸器感染モデルを用い生存率 および臓器内生菌数の変化について検討した.また,
VCM と同様の作用機序を有するグリコペプチド薬,
TEIC について imipenem! cilastatin との併用効果を VCM のそれと比較検討をしたので報告する.
材料と方法 1.使用菌株
国内病院施設で分離された S. aureus #20021 を感 染実験に用いた.なお,本菌の薬剤感受性は,VCM:
2µg! mL, TEIC:8µg! mL, CZX:> 128µg! mL,
imipenem(IPM):64 µ g ! mL,flomoxef(FMOX):128 µg! mL,ampicillin(ABPC):32µg! mL,aztreonam
(AZT):>128µg! mLである.
2.使用薬剤
Vancomycin(略名:VCM,塩野義製薬),teicoplanin
(TEIC,ア ス テ ラ ス 製 薬),ceftizoxime(CZX,ア ス テ ラ ス 製 薬),imipenem! cilastatin(IPM! CS,
萬有製薬),flomoxef(FMOX,塩野義製薬),ampicil- lin(ABPC,明 治 製 菓)お よ び aztreonam(AZT,
エーザイ)のそれぞれ力価の明らかなものを用いた.
3.BIVR の確認実験 1)ディスク法
MRSA が BIVR であるか否かの確認は VCM 4µg!
mL含有の Mu3 培地(日本ベクトン・ディッキンソ ン)を用いた
4).すなわち,被験菌を Trypticase soy agar(以 下 TSA,Difco)で 35℃,24 時 間 培 養 後,
滅菌生理食塩水に懸濁し McFarland 1.0 に調整した.
この菌液を Mu3 培地上に綿棒で塗抹接種後,栄研化 学 の KB デ ィ ス ク(IPM,ABPC,FMOX,AZT)
を置いた.別途,CZX は 1mg! mL溶液をディスク(8 mmΦ,東洋濾紙)あたり 30µL 滴下・乾燥させた目 製ペーパーディスク(30µg! ディスク)を用いた.35℃
で 24 ないし 48 時間培養後,ペーパーディスク周囲に リング状の発育促進帯が観察されるか否かを観察し,
発育促進帯を示した株を BIVR と判定した.なお,こ の試験によ り S. aureus #20021 が BIVR で あ る こ と を確認した.
2)チェッカーボード法
液体希釈法で行った.薬剤の設定濃度は VCM;
64〜0.0625µg! mL,TEIC;16〜0.25µg! mL,IPM;32
〜0.0039µg! mLと し,VCM お よ び TEIC と IPM の 各々の濃度を組み合わせたパネルを Brain Heart In- fusion(BHI,BBL)で作成した.TS broth で一夜培 養した菌を 100 倍希釈し,その 1µLを BHI に接種し,
35℃,18 時間培養後 minimum inhibitory concentra- tion(MIC)を判定した.Fractional inhibitory concen- tration index(FICindex)の効果判定は大塚ら
10)の方 法に準じて算出し最小値を 採 用 し た.FICindex が
≦0.5を相乗作用,>0.5〜<2 を相加作用,≧2 を拮抗 作用と分類した.
4.使用動物
マウス(ICR 系,雄性,4 週齢)は日本エスエルシー より購入し,十分な予備飼育の後実験に供した.実験 動物の飼育および使用に関しては,アステラス製薬の 社内動物実験委員会が定めた『動物実験に関する指 針』に従った.
5.感染モデルの作製と治療 1)全身感染マウス
感染 4 日前に cyclophosphamide(Acros Organics)
200mg! kgを腹腔内投与して好中球減少症を惹起させ たマウスを感染治療実験に供した.感染菌液の調整 は,TSA で 35℃,18〜20 時 間 培 養 し た S. aureus # 20021 を滅菌生理食塩水に懸濁し OD660nmで 2.5 に 調整した.この菌液を 5% ムチンを用い 100 倍希釈し た懸濁液(7.2×10
6〜2.2×10
7cfu! mL)を接種菌液と し,1 群 10 匹からなるマウスの腹腔内に菌液 0.5mL!
headを接種し,3,5 および 7 時間目に VCM または TEIC をそれぞれ皮下投与した.一方, β -lactam 薬併 用群に対しては,FMOX,ABPC,AZT またはIPM! CS をそれぞれ菌液接種後 1,3,5 および 7 時間目に皮下 投与した.なお,薬剤投与時間が重なる場合はそれぞ れ異なる部位に皮下投与を行い,感染後 7 日までマウ スの生死を観察し生存率を求めた.
また,マウス腎内残存生菌数の実験には,1 群 6 匹 のマウスを用い上記と同じスケジュールで実験を行っ た後,24 時間目にドライアイスでマウスを安楽死さ せ,無菌的に摘出した両腎に滅菌生理食塩水を加えホ モジネートした.これを原液として 10 倍希釈を繰り 返した菌液を TSA で培養後,発育したコロニーを測 定して両腎当たりの菌数を算出した.
2)呼吸器感染モデル
感 染 4 日 前 お よ び 感 染 1 日 後 に cyclophosphamid 200mg! kgおよび 100mg! kgをそれぞれマウスに腹腔 内 投 与 し て 好 中 球 減 少 症 を 惹 起 さ せ た.TSA で 35℃,18〜20 時間培養した S. aureus #20021 を滅菌 生理食塩水に懸濁し,OD660nmで 2.5 に調整後,滅 菌生理食塩水で 2 倍希釈した菌液(1.2×10
8cfu! mL)
を感染に供した.感染実験に際し,ペントバルビター
ル 50mg! kgを静脈内投与により麻酔した 1 群 8 匹の
マウスに菌液 50µL! headを経鼻接種し,呼吸器感染
を惹起させた.VCM または TEIC は,感染後 4 時間
と 7 時間および翌日より 1 日 3 回 2 日間,計 8 回皮下
投与した.IPM! CS 併用群は感染後 2,4 および 7 時
間および翌日より 1 日 3 回 2 日間,計 9 回それぞれ異
なった部位に皮下投与した.これらのマウスは,感染
3 日目(薬剤投与終了後翌日)にドライアイスで安楽
Fi g. 1 Survi val curves f or mi ce systemi c i nf ecti on treated wi th vancomyci n monotherapy and a combi nati on wi th- a β - l actam. Broken l i nes i ndi cate van- comyci n monotherapy at 10mg/kg ( A, C and E) and 20mg/kg ( B, D and F) . Sol i d l i nes i ndi cate combi nati on the rapy at each dose of vancomyci n pl us 1mg/kg f l omoxef ( A and B) , 5mg/kg ampi ci l l i n ( C and D) and 80mg/kg az- threonam ( E and F) . The p val ue i s the probabi l i ty val ue f or a si gni f i cant di f - f erence between monotherapy and comb i nati on therapy accordi ng to the l o- grank test. Al l mi ce i n the control group and β - l actam monotherapy groups di ed wi thi n 48 hours.
死させ,摘出した肺に滅菌生理食塩水を加えてホモジ ネート後,10 倍希釈を繰り返し TSA を加えて培養 後,発育したコロニーを測定して肺当たりの生菌数を 算出した.
6.統計学的処理
単独群と併用群のマウス生存率曲線の比較は Log- rank test を用い,Probability value を求め,p <0.05 を有意に二群間に差があるとした.腎内生菌数は個々 の値の対数について平均±標準偏差を算出し,単独群 と併用群について Student-t test または Aspin-Welch test を行い,有意水準を p <0.05 とした.肺内生菌数 は個々の値の対数値について平均±標準偏差を算出 し,単独群と併用群について Dunnett multiple com- parison を行い,有意水準を p <0.01 とした.
成 績 1. In vitro 併用効果
ディスク法で BIVR と判定した株数は MRSA 16 株 中 8 株 で あ っ た.BIVR と 判 定 し た 8 株 に つ い て チェッカーボード法で FICindex を求めた結果,VCM と IPM 併用は 1〜1.05 と全ての株で相加作用,TEIC と IPM 併用は 0.26〜0.37 と全ての株で相乗作用と判 定し,FICindex の指標で見る限り拮抗作用を示す株 は存在しなかった.しかし,VCM と IPM 併用にお いて FICindex 算出部分とは別の濃度部分,すなわち VCM 2µg! mLと IPM 0.031〜0.004µg! mLの濃度範囲 で拮抗作用が認められた株が 6 株存在した.そこで,
感染実験に使用する菌株のスクリーニングのため,部
分拮抗作用の認められた 6 株中 3 株についてマウス全
身感染を行い病原性を確認し,S. aureus #20021 を本
Fi g. 2 Vi abl e bacteri al counts i n ki dney a f ter vanco- myci n monotherapy and combi nati on th erapy wi th f l omoxef at 24 hours af ter systemi c i nf ecti on. The p val ue i s the probabi l i ty val ue f or a si gni f i cant di f f er- ence between monotherapy and combi na ti on ther- apy at each vancomyci n dose. Al l mi c e i n the con- trol group di ed wi thi n 24 hours.
Fi g. 3 Compari son between the survi val cur ves of mi ce treated wi th vancomyci n or t ei copl ani n monotherapy and combi nati on therapy wi th i mi penem/ci l astati n agai nst systemi c i nf ecti on model . Broken l i nes i ndi cate 4mg/kg vancomy- ci n monotherapy ( A) or 8mg/kg tei cop l ani n monotherapy ( B) , and sol i d l i nes i nd i cate combi - nati on therapy wi th 4mg/kg vancomyci n pl us 1 mg/kg i mi penem/ci l astati n ( A) or 8 mg/kg tei copl ani n pl us 1mg/kg i mi penem/ ci l astati n ( B) . The p val ue i ndi cates the probabi l i ty of a si gni f i cant di f f erence between monot herapy and combi nati on therapy accordi ng to the l o- grank test. Al l mi ce i n the control group and i mi penem/ci l astati n monotherapy grou p di ed wi thi n 8 hours.
Fi g. 4 Compari son between vi abl e bacteri al counts i n the ki dneys of mi ce treated wi th van comyci n or tei co- pl ani n monotherapy and combi nati on t herapy wi th i mi penem/ ci l astati n at 24 hours af t er i nf ecti on. Dose were 4 or 8 mg/kg vancomyci n ( A) and 8 or 16 mg/kg tei copl ani n ( B) wi th/wi thout i mi pene m/ci astati n. The p val ue i s the probabi l i ty val ue f or a si gni f i cant di f f er- ence between monotherapy and combi na ti on therapy at each vancomyci n and tei copl ani n d ose.
研究に使用することにした.なお,S. aureus #20021 に対する FICindex は VCM+IPM 併用が 1,TEIC+
IPM 併 用 が 0.26 で あ っ た.一 方,試 験 に 供 し た β- lactam 薬すべてが,VCM と拮抗を示すことがディス ク法で確認された.
2.マウス全身感染における VCM と各種 β-lactam
薬の併用効果 1)生存率
Fig. 1にマウス全身感染に対する生存曲線を,VCM 単独群を点線で,VCM と β-lactam 薬併用群を実線で 示した.VCM と FMOX の併用において,感染 7 日 後の VCM 10mg! kgおよび 20mg! kg単独群の生存率 は 70% および 90% であったが,FMOX 1mg ! kgを 併用投与するとそれぞれ 20% および 60% となり,生 存率は併用群が低下した(Fig. 1-A,B).特に,VCM 10mg! kgと FMOX 1mg! kg併用群は VCM 単独群に 対して有意に低下した(p <0.05).ABPC との併用投 与において,VCM 10mg! kgおよび 20mg! kg単独群 の生 存 率 が 90% お よ び 100% で あ っ た の に 対 し,
ABPC 5mg! kg併用群の生存率はそれぞれ 10% およ び 90% に低下した(Fig. 1-C,D).特に VCM 10mg
! kgと ABPC 5mg ! kg併用群は VCM 単独群に対して 生存率が有意に低下した.(p <0.01).AZT との併用 において,VCM 10mg! kgおよび 20mg! kg単独群の 生存率が 40% および 100% であったのに対し,AZT 80mg ! kg併用群の生存率はそれぞれ 10% および 40%
に低下した(Fig. 1-E,F).特に,VCM 20mg! kgと
Tabl e 1 Compari son between vi abl e bacteri al counts i n the l ung of mi ce on exper i mental pneumoni a coused by S. aureus #20021 treated wi th vancomyci n mono therapy, tei copl ani n monotherapy, an d combi nati on ther- apy wi th i mi penem/ci l astati n.
Tei copl ani n ( mg/kg) Vancomyci n ( mg/kg)
Vehi cl e Cardi nal remedy
Concomi tant
Imi penem/ci l astati n 10 20 10 20
5. 43±0. 22 6. 77±0. 25
5. 03±0. 20 6. 08±0. 11
8. 08±0. 13 No
4. 47±0. 14 5. 69±0. 25
6. 75±0. 14 7. 21±0. 10
8. 02±0. 12 1 mg/kg
3. 99±0. 19 5. 37±0. 26
7. 05±0. 11 7. 28±0. 13
7. 95±0. 10 4 mg/kg
*
Si gni f i cant di f f erence between monot herapy and combi nati on therapy wi th i mi pemen/ci l astati n at each dose of the cardi - nal remedy, vancomyci n and tei copl an i n, respecti vel y ( p < 0. 01) .
券犬 鹸*
券献 犬献 鹸*
券犬 鹸*
券献 犬献 鹸*
券犬 鹸*
券献 犬献 鹸*
券犬 鹸* 券献 犬献 鹸*
AZT 80mg! kg併用群は VCM 単独群に対して生存率 が有意に低下した(p <0.01).以上,併用効果を検討 したFMOX,ABPC,AZM はいずれも VCM と併用 することによって VCM 単独群より生存率が低下し た.なお,(A)から(F)の感染群において無治療群 および β-lactam 薬単独群のマウスは感染後 2 日以内 に全例死亡した.
2)腎内生菌数
VCM と FMOX の併用効果について腎内生菌数に 及ぼす影響を検討した(Fig. 2).VCM は感染後 1,5,
7 時間に,併用群は感染後 1,3,5,7 時間にそれぞ れ異なった部位に FMOX を投与し,24 時間後にマウ スの腎内生菌数を測定した.腎内生菌数は VCM 10mg
! kgおよび 20mg ! kg単独群に対して,FMOX 1mg ! kg 併用群が有意に増加した(p <0.01 および p <0.05).
すなわち,VCM と FMOX の併用群は,VCM 単独群 より腎内生菌数が有意に増加し拮抗作用を示した.
3.マウス全身感染における VCM および TEIC と IPM! CS 併用の効果比較
1)生存率
マウス全身感染に対する生存曲線をFig. 3に示し た.VCM 4mg! kg単独群の生存率は 80% であった が,IPM ! CS 1mg ! kg併用群では 10% に低下した(Fig.
3-A).一方,TEIC 8mg! kg単独群の生存率は 20% で あったが,IPM! CS 1mg! kgの併用群では 100% に上 昇した(Fig. 3-B).すなわち,VCM と TEIC とでは IPM ! CS 併用によってマウス生存率は全く逆の現象を 示した.
2)腎内生菌数
生存率実験と同じ投与スケジュールで薬剤を投与 し,24 時間後のマウスの腎内生菌数を測定した(Fig.
4).VCM 単独 4mg ! kgあるいは 8mg ! kg投与群にそ れぞれIPM! CS 1mg! kgを併用投与した時の腎内生菌 数を比較した結果,いずれの群においても腎内生菌数 は併用群が有意に増加した(p <0.01).しかし,TEIC 単独 8mg ! kgおよび 16mg ! kg投与群に対して,IPM ! CS 1mg! kg併用群の腎内生菌数は,いずれも有意に
減少した(p <0.01 および p <0.05).すなわち,マウ ス生存率と腎内生菌数において,VCM とIPM! CS 併 用は拮抗作用を示し,TEIC とIPM! CS 併用は相乗作 用を示した.
4.マウス呼吸器感染に対する VCM あるいは TEIC とIPM! CS 併用の効果比較
VCM および TEIC 単独投与と,それぞれにIPM! CS を併用投与した時のマウス肺内生菌数を比較した(Ta- ble 1).VCM 10mg ! kg単独群とIPM ! CS 1mg ! kg併 用群では肺内生菌数は,併用群で有意(p <0.01)に 増加した.また,IPM! CS 4mg! kgの増量併用群およ び VCM 20mg! kgの増量併用群においても同様に肺 内生菌数が増加した.一方,TEIC 10mg ! kg単独群と IPM ! CS 1mg ! kg併用群では,肺内生菌数は併用群で 有意に減少し(p <0.01),IPM! CS 4mg! kgの増量併 用群(p <0.01),および TEIC 20mg! kgの増量併用 群においても肺内生菌数は有意に減少した.
以上の結果,呼吸器感染マウスの肺内生菌数は,
VCM とIPM! CS 併用群が VCM 単独群よりも増加し 拮抗作用を示したのに対し,TEIC とIPM! CS 併用群 は TEIC 単独群よりも菌数が顕著に減少し相乗作用を 示した.
考 察
抗菌薬同士の併用療法は重症感染症や難渋する感染 症の治療手段として汎用されることが多いが,意図す るところは抗菌活性の増強や抗菌スペクトラムの拡大 により得られるメリットを期待したものである.一 方,薬剤の種類によっては配合変化による活性の減弱 や相互作用によってもたらされる生体への反応等デメ リットのあることも認知されているが,これらは薬剤 相互によってもたらされる作用である.さらに近年,
感染菌側の要因として MRSA のなかには VCM と β - lactam 薬 を 併 用 す る こ と に よ っ て 拮 抗 を 示 す 株
(BIVR)が存在し,その分離頻度は疫学的調査によ
れば年々増加していること,VCM の暴露時間が長い
ほど BIVR の発現率が高いこと,イオン強度を上げる
と BIVR が 検 出 し や す い 等 の 性 状 が 報 告 さ れ て い
る
5)〜7).また永沢ら
11)および小川ら
12)は,in vitro 実験 系で BIVR に対して VCM と β -lactam 薬の併用は拮 抗作用を示すが,TEIC と β-lactam 薬は相乗作用を 示すことを報告している.臨床材料から検出された MRSA が VCM と β-lactam 薬併用療法の治療過程で BIVR に変化したとされる臨床報告
13)14)もあるが,治 療中に BIVR が検出されたとしても併用によって抗菌 効果が減弱したかどうかを証明することは困難であ る.そこで我々は前回の検討で,マウス全身感染モデ ルを用いて VCM あるいは TEIC と CZX の併用効果 を検討した結果,VCM は CZX との併用投与により VCM 単独投与よりマウス生存率が低下し拮抗作用を 示すが,TEIC は CZX との併用投与で TEIC 単独投 与よりマウス生存率が上昇し相乗作用を示すことを確 認した
9).そこで,今回は cephalosporin 系である CZX 以外の β -lactam 骨格についても同様の現象が認めら れるのか,また,マウス全身感染モデル以外に呼吸器 感染モデルにおいてもその現象が発現するのかを検討 した.その結果,VCM は検討した全ての β-lactam 薬 との併用投与で VCM 単独投与よりもマウス生存率を 低下させると同時に肺および腎内菌数を増加させ拮抗 作用を発現することが判明した.一方,TEIC とIPM!
CS との併用では全身感染モデルのみならず呼吸器感 染モデルにおいても既報
9)の TEIC と CZX の併用効 果と同様に相乗作用が認められた.
BIVR に対する VCM と IPM の併用効果をチェッ カーボード法による FICindex で検討した永沢ら
11)は VCM と IPM の併用において,ある濃度域では相乗 作用が認められる株であっても IPM 濃度が極めて低 い濃度域(0.015〜0.0075µg! mL)で拮抗作用を発現 する株が存在することをチェッカーボードの実例を挙 げて報告している.彼らは in vitro 実験でディスク法 とチェッカーボード法の相関性を検討したものであっ たが,我々は永沢らが報告した in vitro の拮抗作用が
in vivo 実験においても反映されることをマウス全身
感染モデルおよび呼吸器感染モデルで明らかにした.
この現象は本実験で用いた菌株以外に他の 2 株でも拮 抗的に作用することを確認しており,チェッカーボー ド法で併用効果を判定する場合には従来から実施され ている FICindex の算出あるいは表記のみならず他の 濃度域での発育状態も注意して観察する必要があり,
もし部分拮抗作用が認められた場合にはさらにディス ク法で確認する必要性が示唆された.
VCM はムレインモノマー末端の D-Ala-D-Ala に水 素結合することによりペプチドグリカン生合成を阻害 す る が
15)16),D-Ala-D-Ala の 架 橋 反 応 を 阻 害 す る β- lactam 薬は適度な結合をしている VCM に結合する ことが推定され
17)18),このことが VCM の本来発揮さ
れるべき活性が β-lactam 薬の存在により減弱した結 果,拮抗作用が発現したのではないかと推察される.
VCM が二量体を形成して活性発現するとされている のに対して TEIC は一量体構造をとる こ と も
19)20), VCM と TEIC の相反する作用に何らかの影響を及ぼ した可能性も考えられるが,今後の検討で明らかにさ れる必要がある.
今回の現象はマウスにおける各薬剤の体内動態によ り得られた現象でありヒトの血中濃度推移を再現した ものではないが,ヒトにおいても投与タイミングや感 染部位における濃度推移を考え合わせると,今回の動 物実験で得られた濃度の組み合わせがヒトにおいても 実現される可能性は否定できない.従って,臨床にお いても今回マウスで確認された β-lactam 薬と VCM を併用することで本来得られる VCM の治療効果が拮 抗作用により減弱される可能性も否定できないと考え られた.
同じグリコペプチド系である VCM と TEIC の間で 全く逆の現象を示す機序の解析は,それらが起こる濃 度との関係も含めて今後の研究課題であると考えてい る.
謝辞:本研究の遂行にあたり,in vitro 実験を担当頂き ましたアステラス製薬(株)薬理研究所 森永千壽氏,in vivo 実験を担当頂きました薬理研究所 若井芳美氏,考察 をするにあたり有益な議論をいただきました育薬研究所 池田文昭博士および英語表現のレビューを頂きました化学 研究所 Dr. David Barrett の各氏に深謝いたします.
文 献
1
)Levine DP, Fromm BS, Reddy BR:Slow respo- nse to vancomycin or vancomycin plus rifanpin in methicillin-resistant Staphylococcus aureus . Annal Intern Med 1991;115:674―80.
2
)清 水喜 八 郎,折 津 愈,菅 野重 治,北 村 諭,
小西敏郎,相馬一亥,他:MRSA 感染症に対す るバンコマイシンの使用経験.Jpn J Antibiotics
1996;49:782―99.
3
)花木秀明,山口禎夫: β ラクタム薬誘導性バンコ マイシン耐性 MRSA 株の疫学調査.感染症誌 2003;77:499―504.
4
)Hanaki H, Yamaguchi Y, Nomura S, Haraga I, Nagayama A, Sunakawa K:Method of detect- ing β -lactam antibiotic induced vancomycin re- sistant MRSA (BIVR). Int J Antimicrob Agent 2004;23:1―5.
5
)山 口禎 夫,花 木秀 明,茨 田一 成,稲 松孝 思,砂 川慶介:バンコマイシンと β-lactam 薬が拮抗す る MRSA の 疫 学 調 査.感 染 症 誌 2003;77:
661―6.
6
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