第 8 章 Cauchy の積分公式
8.1 原始関数と線積分
定義 領域 Dで連続な関数 f(z)に対して,D の各点で dF(z)
dz =f(z) (8.1)
となるような,D で正則な関数F(z) をD におけるf(z) の原始関数 という。
定理 8.1 f(z) が領域D で連続な関数で,F(z) がf(z) の原始関数であるとき,D内 の区分的になめらかな曲線 C :z(t)(a≤t≤b)に沿う線積分
Cf(z) dz= b
a f(z(t))dz(t) dt dt
の値は
Cf(z) dz=
F(z(t)) b
a=F(z(b))−F(z(a)) (8.2) である。(積分路 C の始点と終点で決まり,C の形によらない。)
証明 まず,F(z(t))に対して合成関数の微分公式が成り立つことを示す。
z(t) =x(t) +iy(t),F(z) =U(x, y) +iV(x, y) とすると,導関数の定義から d
dtF(z(t)) = d
dtU(x(t), y(t)) +id
dtV(x(t), y(t))
= ∂U
∂x dx(t)
dt +∂U
∂y dy(t)
dt +i ∂V
∂x dx(t)
dt +∂V
∂y dy(t)
dt
= ∂U
∂x dx(t)
dt −∂V
∂x dy(t)
dt +i ∂V
∂x dx(t)
dt +∂U
∂x dy(t)
dt
= ∂U
∂x +i∂V
∂x
dx(t)
dt +idy(t) dt
= dF(z) dz
dz(t) dt
ここで2行目から3行目へは,原始関数F(z) が正則であることから,Cauchy-Riemann の方 程式を用いた。また,最後の等号では,正則関数の微分の次の関係式を用いた:
dF dz = ∂U
∂x +i∂V
∂x = ∂V
∂y −i∂U
∂y. 77
78 第8 章 Cauchyの積分公式
ところで,原始関数の定義(8.1) から dF(z)
dz =f(z) であるので,
b
a f(z(t))dz(t) dt dt =
b
a
dF(z(t)) dt dt
= b
a
d dt
ReF(z(t))
dt+i b
a
d dt
ImF(z(t))
dt
=
ReF(z(t)) b
a+i
ImF(z(t)) b
a
= ReF(z(b))−ReF(z(a)) +i
ImF(z(b))−ImF(z(a))
=
ReF(z(b)) +iImF(z(b))
−ReF(z(a)) +iImF(z(a))
となる。よって示したい関係式 b
a f(z(t))dz(t)
dt dt=F(z(b))−F(z(a)).
が得られる。
定理 8.2 f(z) が領域 D で連続で,定点 z0 と z を結ぶ積分路が D 内にあるとき d
dz z
z0
f(s) ds=f(z) (8.3)
が成り立つ。
証明 領域 Dで連続な関数f(z)に対して,
F(z) = z
z0
f(s) ds で定義される関数F(z) が
dF(z)
dz = lim
∆z→0
F(z+∆z)−F(z)
∆z =f(z) を満たすことを示せばよい(F(z) はf(z) の原始関数である)。
点 zは D内にあるが,|∆z|を十分小さくとことによって,z+∆z もD 内にあり,しか もz とz+∆z を線分で結べるようにする。このとき,
z+∆z
z ds=∆z から 1 = 1
∆z
z+∆z
z ds
であるので,f(z) は
f(z) =f(z) 1
∆z
z+∆z
z ds= 1
∆z
z+∆z
z f(z) ds
と表される。一方,
F(z+∆z)−F(z) =
z+∆z
z0
f(s) ds− z
z0
f(s) ds=
z+∆z
z f(s) ds である。よって
F(z+∆z)−F(z)
∆z −f(z) = 1
∆z
z+∆z
z f(s) ds− 1
∆z
z+∆z
z f(z) ds
= 1
∆z
z+∆z
z
f(s)−f(z)
ds
となる。ところで,f(z)は連続関数であるから,任意の正数εに対してある正数δ が存在して
|s−z|< δ =⇒ |f(s)−f(z)|< ε が成り立つ。そこで,∆z の大きさを |∆z|< εととれば
F(z+∆z)−F(z)
∆z −f(z) < 1
|∆z|
z+∆z
z εds
= 1
|∆z|ε|∆z| = ε が得られる。よって
∆zlim→0
F(z+∆z)−F(z)
∆z −f(z)
= 0 が成り立つ。
定理8.2 は,次のように言い換えることができる。
定理 8.3 領域 D で連続な関数 f(z) の線積分の値が,D 内の積分路に無関係に定ま るならば,f(z) は D で原始関数を持つ。
定理8.3 により,単連結な領域においては次の定理が成り立つ。
定理 8.4 単連結な領域で正則な関数は,常に原始関数を持つ。
積分の値は積分路の端点で定まり,
z2
z1
f(z) dz=F(z2)−F(z1) で与えられる。
80 第8 章 Cauchyの積分公式
原始関数は1つではないが,定数の違いだけである。
定理 8.5 F(z), G(z) が領域 D で正則であるとする。このとき dF(z)
dz =f(z), dG(z)
dz =f(z) =⇒ F(z)−G(z) =定数 である。(定数は z によらない)
証明 F(z) と G(z) が領域D で正則であるならば,F(z)−G(z) も Dで正則である。従っ て,仮定から,
d dz
F(z)−G(z)
= f(z)−f(z) = 0
となる。導関数が0 であることから,F(z) と G(z) の差は zによらない定数である。
8.2 Cauchy の積分公式
Cauchy の積分定理から,正則関数に関する重要な性質が導かれる。
定理 8.6 Cauchy の積分公式
区分的になめらかなJordan 曲線 C の上と内部で関数 f(z) が正則であるとする。C の 内部の任意の点 z0 に対して
f(z0) = 1 2πi C
f(z)
z−z0 dz (8.4)
が成り立つ。ただし,積分は正の向きにとるものとする(図 8.1左図)。
C
z
0C C
1z
0図 8.1: Cauchyの積分公式 証明
図 8.1 右図 に示すように,点z0 を中心とする半径 r の円 C1 を曲線 C の内部にとる。関数 f(z) はD内で正則であるから,関数f(z)/(z−z0)はz=z0 を除いて正則であるので,定理 7.7 により,
C
f(z) z−z0 dz +
−C1
f(z)
z−z0 dz = 0 が成り立つ。よって,C 及び C1 に沿った積分は等しい:
C
f(z) z−z0 dz =
C1
f(z)
z−z0dz. (8.5)
ところで,
C1
f(z)−f(z0) z−z0 dz =
C1
f(z)
z−z0dz−f(z0)
C1
1 z−z0 dz
において,右辺の第1項は (8.5)より,C を一周する積分に等しく,第2項の積分を実行する と 2πiとなる。よって,
C1
f(z)−f(z0) z−z0 dz =
C
f(z)
z−z0 dz−2πi f(z0) (8.6) が得られる。
82 第8 章 Cauchyの積分公式
(8.6)の左辺の積分については,定理 7.2の(7.13) により,不等式 C
1
f(z)−f(z0) z−z0 dz ≤
C1
|f(z)−f(z0)|
|z−z0| |dz| (8.7) が成り立つ。ここで,円C1 上の点zに対して|z−z0|=r である。また,C1 上での|f(z)− f(z0)|の最大値をεとすれば,右辺の積分は
C1
|f(z)−f(z0)|
|z−z0| |dz| ≤
C1
ε
r |dz| = ε
r2πr = 2πε
となる。関数 f(z) は連続であるから,円 C1 の半径 r を r → 0 とするとき ε → 0 であり,
従って,(8.7)の両辺の積分は 0に収束し,よって,(8.6)の左辺の積分は0に収束する。すな
わち,
C
f(z)
z−z0 dz= 2πi f(z0) が得られる。
この定理は「C の内部の点 z0 における関数の値 f(z0) は,C 上の点における f(z) の 値で定まる」ことを意味している。
Cauchyの積分公式は線積分に応用できる:
C
f(z)
z−z0 dz = 2πi f(z0). (8.8)
点z0 がC の外にあるとき,積分は0 になる:
1 2πi C
f(z)
z−z0 dz = 0. (z0 は C の外) (8.9)
定理 8.7 区分的になめらかな Jordan 曲線で囲まれた領域を D とする。このとき,
f(z) が D で正則 =⇒ dnf(z)
dzn は D で正則 (n= 1,2,· · ·) 証明 段階に分けて証明する。
1◦ 関数f(z) の導関数が存在し,次の関係式が成り立つことを示す:
df(z) dz = 1
2πi C f(s)
(s−z)2 ds (8.10)
この式がCauchy の積分公式を形式的に z で微分したものであることに着目する。
|∆z|を十分小さくとることによって,z+∆z も D の内部にあるようにする。このとき,
Cauchy の積分公式により,
f(z+∆z)−f(z)
∆z = 1
∆z 1
2πi C
f(s)
s−z−∆z ds− 1 2πi C
f(s) s−zds
= 1
2πi C
1
s−z−∆z − 1 s−z
f(s)
∆z ds
= 1
2πi C
f(s)
(s−z−∆z) (s−z)ds (8.11) と表せる。よって,∆z →0のとき,2つの差
C
f(s)
(s−z−∆z) (s−z)ds−
C
f(s) (s−z)2 ds
= ∆z
C
f(s)
(s−z−∆z) (s−z)2 ds が →0になることを示せばよい。
点 z と C との距離を dとするとき,0< |∆z|< d となるように|∆z|を小さくとると,
|s−z| ≥dだから,次の不等式が成り立つことに注意する:
|s−z−∆z| ≥ | |s−z| − |∆z| | ≥d− |∆z|>0 いま,C 上における|f(s)|の最大値を M とし,C の長さを Lで表すと,
∆z
C
f(s)
(s−z−∆z) (s−z)2 ds ≤ |∆z|
C
|f(s)|
|s−z−∆z| |s−z|2|ds|
≤ |∆z|
C
M
(d− |∆z|)d2|ds|
= |∆z|M
(d− |∆z|)d2 C|ds|
= |∆z|M L
(d− |∆z|)d2 → 0 (∆z → 0) となる。よって,
df(z)
dz = lim
∆z→0
f(z+∆z)−f(z)
∆z = 1
2πi C f(s) (s−z)2ds が成り立つ。
2◦ 次に,df(z)
dz の導関数が存在し,
d2f(z) dz2 = 1
πi C f(s)
(s−z)3 ds (8.12)
が成り立つことを示す。
84 第8 章 Cauchyの積分公式
1◦ と同様に,0<|∆z|< dととり,(8.10)を用いると df(z+∆z)
dz − df(z) dz
∆z = 1
2πi C
1
(s−z−∆z)2 − 1 (s−z)2
f(s)
∆z ds
= 1
2πi C
2(s−z)−∆z
(s−z−∆z)2(s−z)2 f(s) ds
から
C
2(s−z)−∆z
(s−z−∆z)2(s−z)2 − 2 (s−z)3
f(s) ds
= C
3(s−z)∆z−2(∆z)2
(s−z−∆z)2(s−z)3f(s) ds
≤ C
3|(s−z)| |∆z|+ 2|∆z|2
|s−z−∆z|2|s−z|3 |f(s)| |ds|
≤ C
3d|∆z|+ 2|∆z|2
(d−∆z)2d3 M|ds|
= 3d|∆z|+ 2|∆z|2
(d−∆z)2d3 M L → 0 (∆z → 0) ただし,z とC 上の点 sとの最大距離を d で表した。
3◦ 上の操作を同様に繰り返して,微分と積分が混じった次の公式が得られる。
Cauchy の微積分公式
f(n)(z) = dnf(z) dzn = n!
2πi C
f(s)
(s−z)n+1 ds (n= 1,2,· · ·) (8.13)
n= 0 のとき,f(0)(z) =f(z), 0! = 1 とおけば,Cauchyの積分公式が得られる。
4◦ 関数 f(z) の2階の導関数の存在が2◦ で示されたので1階の導関数は正則である。3階の 導関数の存在は3◦ で示されたので2階の導関数は正則である。これを繰り返して,一般にす べての高階の導関数が正則であることがわかる(数学的帰納法によって証明できる)。
Cauchy の積分公式が積分の値を求めることに利用できるように,Cauchy の微積分公式
(8.13)も同様に
C
f(z)
(z−z0)n+1dz= 2πi
n! f(n)(z0) (n= 0,1,2,· · ·) (8.14) として利用できる。
定理8.7 から次の定理が導かれる。
定理 8.8 正則関数 f(z) =u(x, y) +iv(x, y) の実部 u(x, y),虚部 v(x, y) の任意の階 数の偏導関数は連続である。
証明 定理8.7から,関数 f(z) が正則ならば,その導関数も正則であり,従って連続である。
ところで,複素関数の微分は df(z)
dz = ∂u(x, y)
∂x +i∂v(x, y)
∂x = ∂v(x, y)
∂y −i∂u(x, y)
∂y
であるから,u(x, y)とv(x, y) の1階偏導関数は連続である。同様に,f(z) の2階の導関数は 正則であるから,当然連続であり,
d2f(z)
dz2 = ∂2u(x, y)
∂x2 +i∂2v(x, y)
∂x2 = ∂2v(x, y)
∂y ∂x −i∂2u(x, y)
∂y ∂x
が成り立つ。よって,u(x, y) とv(x, y) の2階偏導関数もすべて連続である。同様に繰り返し て,任意の階数の偏導関数が連続であることがわかる(数学的帰納法によって証明できる)。
関連した定理 Cauchyの積分公式から,いろいろな定理が導かれる。
定理 8.9 Moreraの定理 (Cauchy-Goursat の定理の逆)
関数 f(z) は領域 D で連続であるとする。このとき,D 内の任意のJordan 曲線 C に
対して
Cf(z) dz= 0 =⇒ f(z) はD で正則
(単連結でなくてもよい)
Morera の定理は Cauchyの積分定理の逆になっている。
Cauchyの積分定理では,f(z)が正則,すなわち微分可能ならば,その原始関数F(z) が
定まる。言い換えれば,積分可能である。逆に,Morera の定理によって,f(z)が積分可 能ならば,f(z) は正則,すなわち微分可能である。
実関数の場合と異なって,複素関数については,微分可能性と積分可能性が,ある意味 で同値になっている。
定理 8.10 Liouville の定理
複素平面 |z|<∞ において,f(z) が正則で有界ならば,f(z) は定数である。
86 第8 章 Cauchyの積分公式
定理 8.11 Gauss の平均値の定理
f(z) が,円C : |z−z0|=r の上と内部で正則であれば,f(z0) はC 上における f(z) の値の平均である。すなわち,
f(z0) = 1 2π
2π
0 f(z0+reiθ) dθ (8.15) が成り立つ。
定理 8.12 最大値の定理
f(z) がJordan 曲線C の上と内部で正則で,定数でないとすれば,|f(z)|は C の上で 最大値をとる(C の内部ではない)。
定理 8.13 最小値の定理
f(z) が Jordan 曲線 C の上と内部で正則で,C の内部で f(z) = 0 であれば,|f(z)| はC の上で最小値をとる。
定理 8.14 Schwarzの定理
f(z) が |z| ≤R で正則で,f(0) = 0 かつ |f(z)| ≤M ならば,
|f(z)| ≤ M|z| R である。