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医学細菌の分類・命名の情報 9.分類・同定に有用な方法とその適応範囲

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(1)

細菌を分類・同定する手法としては様々な方法 が今までに報告されており,また新しい方法も考 案・報告されている.しかし,それぞれの方法に は一長一短があり,また適応できる範囲が限られ ている場合が多い.本小文では代表的な方法とそ れぞれのおよその適応範囲を紹介したい.なお細 菌のみならず生物を一面的な方向から捕え分類す ることは常に誤りを含む可能性があるので,現在 の分類学では可能な限り多くのデータを収集し,

多面的な方向からのデータを総合的に判断する多 相分類学(polyphasic taxonomy)の概念を取り入 れている.分類学的な検討を行う場合には,本小 文で紹介する方法のみならず類縁菌種との鑑別に 有用と思われる種々の手法を実施し,総合的な判 断をする必要がある.

細菌を分類・同定するための方法としては大き く分けて

1.形態観察

2.表現形質(生理・生化学性状)

3.化学分類指標 (細胞壁組成,キノン分子種な ど)

4.蛋白分析(全菌体蛋白組成など)

5.DNA 分析(G+Cmol%,DNA 相同試験,塩 基配列比較など)

に分けられる.さらにそれらの中でそれぞれ確立 した方法がある.代表的な方法とそれらのおよそ の適応範囲については図 1 にまとめた.

では,実際に新たな菌を手にしたときにどのよ うな方法を使えば効率よく分類学的位置の決定が できるであろうか?アプローチの仕方には様々な

方法があり,画一的な方法は無いが,以下に我々 が行っているアプローチの概略を述べる.

従来の方法では最も適応範囲の広い形態観察か ら始まっていた.コロニー性状,菌体の形状や大 きさ,菌体の連なり具合,鞭毛や芽胞の有無,グ ラム染色性, 特殊染色法での染色具合などである.

さらに簡単な生化学性状 (カタラーゼ, オキシダー ゼ反応など)を確認し,これらの情報から所属す る属を推定していった. しかし, この方法ではたっ た 1 つの誤った試験データ(例えばグラム染色性 や球菌・桿菌の区別)から全く異なった菌群を想 定して試験を進めてしまう危険性がつきまとう.

16S rRNA 塩基配列のデータが蓄積され,系統解 析が容易にできるようになった現状では,まず 16 S rRNA 塩基配列を決定してしまうのが早道と言 えるだろう.図 1 に示したように 16S rRNA 塩基 配列データの適応範囲は科以上のレベルから属 種の推定と広範囲である.従って 16S rRNA 塩基 配列を決めて系統解析を行えば,被検菌がどの属 に所属しているか,あるいは系統的にどの菌種と 類縁関係にあるか推測ができる.このようにして 系統位置を見いだすことができれば,以後のデー タ収集を的を絞って行うことができる.推定した 属であることを確認するためにゲノムの G+Cmol

%を測定し,また必要に応じて細胞壁組成やキノ ン分子種,脂肪酸分析などの属レベルの鑑別に有 用な方法を行えば良いことになる.

系統位置の推定には現在 16S rRNA 塩基配列 データ(同遺伝子は DNA から RNA に全領域が 転写されるので,DNA 上のコード遺伝子を使え

連載9

医学細菌の分類・命名の情報

9.分類・同定に有用な方法とその適応範囲

岐阜大学医学部微生物学講座

河 村 好 章

1003

平成13年12月20日

(2)

科以上 属レベル 種レベル 株レベル 細胞壁組成

キノン分子種 脂肪酸分析 全菌体蛋白 酵素電気泳動 血清型,ファージ型 16S RNA sequence DNA-probe G+Cmol%

DNA-DNA hybridization PCR-RFLP

AP-PCR

パルスフィールド電気泳動 Ribotyping

主に適応されると思われる範囲は濃いバーで,ケースにより適応できる範囲は薄いバーで示した.

る.DNA を使ったことを示すため 16S rDNA と 表記する場合もある)が一般に利用されている.

同遺伝子は全生物(真核生物では 18S rRNA とな る)が共通して持っていること及びその進化速度 が比較的鈍く系統のかけ離れた生物間での比較も 容易にできることから,被検菌の系統位置を多様 な細菌の中から推定するには都合が良い.しかし 逆に進化速度が鈍いため非常に近縁な菌種間での 比較は難しい事が判っている.このような場合に は進化速度の速い遺伝子の塩基配列を決定し,よ り詳細な系統解析をおこなう方法も報告されてい る

1),2)

細菌ゲノムの G+C mol%は,遺伝的に近縁な菌 株間では近接した値を示すことから,細菌の分類 群(特に属レベル)を鑑別するのに有用である.

また DNA-DNA 相同試験を行う際の温度条件の 設定にも必要である.G+C mol%の測定方法には いくつかの方法があるが,日本では HPLC を使っ た方法が広く使われている.

細胞壁組成の分析データは科以上から属レベル 程度まで適応可能である.特にグラム陽性菌では

アミノ酸組成や糖組成が多岐に渡り有用である.

ジアミノ酸の種類の決定やペプチドグリカンのア ミノ酸組成,構造を決定する方法,特異的に存在 する糖類の検出などがある.分析方法も TLC(薄 層クロマト)を利用した方法から HPLC を使った 方法など様々な方法がある.

呼吸鎖に関与するイソプレノイドキノン分子種 はグラム陽性,陰性を問わず鑑別指標として有用 である.グラム陰性菌では主にユビキノン,グラ ム陽性菌には主にメナキノンが存在する.イソプ レノイドキノンは,その側鎖の長さ及び水素飽和 の数によって 40 以上の分子種に分けられ, その分 子種を決定することは細菌の属レベルの分類に有 用である.

脂肪酸分析(菌体脂肪酸)も主に属の鑑別に有 用であるが,特定の菌群では種類,量共に余り変 化のない場合もあり,目的とする菌群の鑑別に有 用であるかどうか確認する必要がある.特殊な脂 肪酸は特定の菌群にのみ見いだされており,当該 菌群に該当するかどうかを見るのには都合がよい 場合がある(Sphingomonas 属菌種などに見られる

図 1.分類同定に有用な代表的方法とその適応範囲

河村 好章

1004

感染症学雑誌 第75巻 第12号

(3)

スフィンゴ糖脂質,Sphingobacterium 属菌種など に見られるスフィンゴリン脂質,Mycobacterium 属菌種などに見られるミコール酸,など) .

所属する属を決定した後は,属内の菌種の確定 へと進む.現在の分類学では DNA-DNA 相同性 が 70% 以上であり,かつ

Tm 値が 5℃ 以下であ る,さらに既存菌種と鑑別できる性状がある菌株 の集まり を種と定義している.従って分類学的 に種を最終決定するためには DNA-DNA 相同試 験を実施し,菌種の同異を確定する.菌種の定義 にもあるように類縁菌種との鑑別性状は記載しな ければならないので,生化学性状データの収集は 必須である.

DNA-DNA 相同試験にはマイクロプレートを 使う方法,フィルターを使う方法,S1 ヌクレアー ゼを使う方法などがあるが,マイクロプレートを 使った方法が比較的簡単に実施でき,また多検体 を処理する能力にも優れている.日本ではマイク ロプレートを使った方法が広く使われている.

Tm 値とは 1 本鎖 DNA から再会合により形成 された 2 本鎖 DNA の安定度を示す値である.同 一菌株同士の DNA は塩基配列が全く同じなので 再会合した DNA の安定性は高いが,異なる菌株 由来の DNA 同士では塩基配列は異なっているの で再会合した 2 本鎖 DNA の安定性が低い場合が ある.異なる菌株同士の再会合 DNA の安定度が 同一株同士と比べ,5℃ 以上離れた場合には同一 菌種とは見なさない.実際には

Tm 値を測定す るのは非常に煩雑なので,DNA-DNA 相同試験を 最適温度条件下及びそれより 10℃ 程高い温度で 実施し,再会合した DNA が高い温度でも安定し ているデータを示すことが多い.

菌種の定義と 16S rRNA 塩基配列の相関につい ては 16S rRNA 塩基配列が 97% 以下の一致率

(homology)しかない菌株の組み合わせでは別菌 種として扱ってよいが,それ以上の homology が ある場合には DNA-DNA 相同試験のデータで菌 種名を確認する必要がある ということになって いる

3)

.このことから DNA-DNA 相同試験を実施 する時に比較すべき既存菌種を選択することがで きる.すなわち 被 検 菌 と 97% 以 上 の homology

を持つ既存菌種とのみ DNA-DNA 相同性を比較 すれば良いこととなる.遺伝的に最も近縁と思わ れる菌種との間の DNA-DNA 相同性を確認して いるので 97% 以下の homology を示す菌種は別 菌種として考えて差し支えない. 被検菌と 97% 以 上の homology を持つ既存菌種が 1 種でもある場 合には,このようにして比較に使用する菌種の取 捨選択ができる.では,既存菌種の何れとも 97

%以下の homology しか示さない場合はどうであ ろうか?上述の 97%homology という境界線をそ のまま受け入れれば,このような場合は即新菌種 に相当すると考えられる.しかしながら 97%ho- mology という境界 線 は 今 ま で に 知 ら れ て い る DNA-DNA 相同試験 結 果 と 16S rRNA 塩 基 配 列 の比較データを集積して得られたものであり,今 後この知見に当てはまらない事例が出てくる可能 性は否定しきれない.そこで 16S rRNA 塩基配列 の homology が 97% 以下であっても,その中で最 も高い homology を示す既存菌種あるいは生化学 性状その他のデータから鑑別を要すると思われる 既存菌種と DNA-DNA 相同試験を実施し,菌種の 同異を確実に見極める必要があると考えている.

生化学性状は菌の代謝系を反映したデータであ り,実際には糖やアミノ酸の利用能を測定する.

試験が同定目的であれば,市販の同定キットを使 い同定菌名を得ることができる.一方分類目的で あれば,従来法(試験項目ごとに専用培地を作成 する方法)によるデータ収集が基本であるが,市 販の同定キットを使って反応性状を得ることも可 能である.同定キットを使った場合は比較する他 菌種も同じ同定キットで反応させ,データを比較 することが重要である.従来法により蓄積された 文献値とは反応結果が異なる場合があり,単純に は比較できないことに注意しなければならない.

新菌種を記載する場合には既存菌種との鑑別性状 を示すことが必須である.

図 1 にある DNA プローブや RFLP(restriction fragment length polymorphism)は時に分類学的 検討用のデータとして使われることもあるが,同 定の目的に使われることが多い.また血清型,

ファージ型,AP-PCR(arbitrarily primed PCR) ,

医学細菌の分類・命名の情報 1005

平成13年12月20日

(4)

パルスフィールド電気泳動,Ribotyping はいずれ も株の識別によく使われ,院内感染発生時の疫学 的な解析などに使われる方法である.血清型,

ファージ型は従来より使われている方法である が,鑑別できる数に限りがあったり鑑別不能とな るケースがあり,DNA を使った方法へと移行し ている.

以上,細菌の分類同定によく使われる代表的な 方法について概説したが,現在の細菌分類学では 1.形態学的データ,2.16S rRNA 塩基配列デー タ,3.ゲノムの G+Cmol%,4.DNA-DNA 相同 試験データ,5.生化学性状による既存菌種との 鑑別性状の 5 種のデータは何れの菌群を対象とし た場合でも記載すべきデータである.さらに必要 に応じて上述した細胞壁組成やキノン分子種の決 定などの情報を収集する. 文頭にも述べたように,

現在の細菌分類学では多相分類学の考えを取り入 れており,なるべく多方面からのデータを集め,

総合的に判断する必要がある.本小文では代表的 な方法の概要のみを紹介した.実験法については

総 説 あ る い は 清 書 が あ る の で 参 照 し て 頂 き た い

4)〜6)

1)Yamamoto S,et al.:PCR amplification and direct sequencing of gyrB genes with universal primers and their application to the detection and taxo- nomic analysis ofPseudomona putidastrains. Appl Environ Microbiol 1995;61:1140―1109.

2)Kawamura Y,et al.:Genetic approaches to the identification of the mitis group within the genus Streptococcus. Microbiology 1999;145:2605―13.

3)Stackebrandt E,et al.:Taxonomic note;A place for DNA-DNA reassociation and 16 S rRNA se- quence analysis in the present species definition in bacteriology. Int J Syst Bacteriol 1994;44:

846―9.

4)河村好章:細菌の系統分類と同定方法―第 18 回 日本細菌学会技術講習会テキスト.日本細菌学会 誌 2000;55:545―84.

5)微生物の化学分類実験法,学会出版センター,東 京,1982.

6)微生物の分類・同定実験法,シュプリンガーフェ アラーク東京,東京,2001.

Current Topics on Classification and Nomenclature of Bacteria

9. Some Useful Methods for Bacterial Taxonomy and Identification and Their Adaptation Range Yoshiaki KAWAMURA

Department of Microbiology Gifu University School of Medicine

〔J.J.A. Inf. D. 75:1003〜1006, 2001〕

河村 好章

1006

感染症学雑誌 第75巻 第12号

参照

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