地域医療政策分野における都道府県の非自律的ロー カル・ガバナンスに関する考察 (福田雅章教授退職 記念号)
著者名(日) 外川 伸一
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 65
ページ 31‑79
発行年 2010‑03‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000372/
論
地
説域 医 療 政 策 分 野 に お け る 都 道 府 県 の 非 自 律 的 ロ ー カ ル
・ ガ バ ナ ン ス に 関 す る 考 察
外 川 伸 一
目 次 はじ めに 一 山梨 県立 二病 院の 地方 独立 行政 法人 化
︵一
︶ 地方 公営 企業 とし ての 自治 体病 院
︵二
︶ 政策 医療
︵三
︶ 地方 独立 行政 法人 とは
︵四
︶ 地方 独立 行政 法人 制度 の基 本的 スキ ーム
︵五
︶ 特定 地方 独立 行政 法人 山梨 県立 病院 機構 の設 立
︵六
︶ 地方 独立 行政 法人 制度 と経 営の 安定 化 二 地域 医療 計画
︵一
︶ 地域 医療 計画 とは
︵二
︶ 山梨 県の 地域 医療 計画
︵三
︶ 地域 医療 計画 の問 題点 三 国の 医療 政策
︵一
︶ 診療 報酬 政策
︵二
︶ 医師 養成
︵供 給︶ 政策
︵三
︶ 医師 臨床 研修 政策 四 国と の協 働と 分権 型医 療政 策に よる ロー カル
・ガ バナ ンス の確 立
︵一
︶ 国と 都道 府県 との 協働 によ る基 本方 針の 確立 と内 骨格 型制 度・ 政策 への 転換
︵二
︶ 分権 型医 療政 策の 展開 おわ りに
はじ めに 本稿
の目 的は
︑第 一に
︑地 域医 療の 分野 では 都道 府県
︵当 然の こと なが ら市 町村 も︶ は自 律的 なロ ーカ ル・ ガバ ナ
( )
ンス
︵以 下︑ 原則 とし て﹁ ガバ ナン ス﹂ とい う︒
︶を 展開 する こと が不 可能 であ るこ とを 示す こと にあ る︒ もち
ろん
︑こ の分 野は 憲法 二五 条に 規定 され る﹁ 健康 で文 化的 な最 低限 度の 生活 を営 む権 利﹂ に該 当し 国が 責任 を持 っ て対 処す べき 分野 では ある が︑ この こと は中 央政 府だ けに 一切 の責 任が ある こと と必 ずし も同 義で はな い︒ 中央 政 府と 自治 体が 適切 な役 割分 担を 図る 中で 共に 責任 を負 うべ き分 野だ とい えよ う︒ しか しな がら
︑こ の分 野で は︑ そ の基 本か ら詳 細に 至る まで 中央 政府 の制 度・ 政策 が自 治体 の制 度・ 政策 を濃 密に 規定 して おり
︑そ の結 果︑ 都道 府
県は ガバ ナン スを 自律 的に 展開 する こと が不 可能 な状 況に ある とい って 良い
︒都 道府 県は 自ら が設 置す る病 院︵ 以 下︑ 原則 とし て︑
﹁自 治体 病院
﹂と いう
︒︶ の管 理運 営や 地域 医療 計画 に定 めら れた 様々 な医 療政 策に よっ て具 体的 な地 域医 療を 提供 して いく 訳で ある が︑ 国に よる 濃密 な関 与に より 自治 体病 院も 地域 医療 計画 も決 定的 な制 約を 受 けて いる
︒ そこ で︑ 第二 に︑ 都道 府県 がこ の分 野で 自律 的な ガバ ナン スを 展開 でき るよ うに する ため に必 要と なる 諸改 革の 一端 を提 示す るこ とも 本稿 の目 的と なる
︒も っと も︑ 現段 階で は体 系的 な諸 改革 の提 示に は至 らな いが
︑こ れに 触 れる こと なく 稿を 閉じ るこ とは 画竜 点睛 を欠 く行 為だ との 誹り を免 れな いで あろ う︒ 以下 では
︑ま ず山 梨県 の地 域医 療政 策の 動向 に触 れる こと にし たい
︒病 院事 業に 関す る法 制度 につ いて 述べ た後
︑ 特に 県立 病院 の特 定地 方独 立行 政法 人化 への 動き と県 の地 域保 健医 療計 画の 概要 につ いて 述べ る︒ つい で︑ 国の 政 策と して
︑診 療報 酬政 策︵ 医療 費抑 制政 策︶
︑医 師養 成︵ 供給
︶政 策︑ 医師 臨床 研修 政策 を順 次取 り上 げる
︒こ れ らに より
︑都 道府 県の 病院 事業 も地 域医 療計 画も 大き く影 響を 受け
︑し たが って 地域 医療 政策 分野 にお いて 都道 府 県が 非自 律的 なガ バナ ンス に甘 んじ ざる を得 ない 状況 にあ るこ とが 理解 でき るで あろ う︒ こう した 理解 に立 ち︑ 最 後に 自律 的ガ バナ ンス を展 開す るた めの 諸改 革に つい て断 片的 では ある が私 見を 述べ るこ とに した い︒
一 山梨 県立 二病 院の 地方 独立 行政 法人 化
︵一
︶ 地方 公営 企業 とし ての 自治 体病 院 地方 公営 企業 とは
︑そ の企 業的 性格 や経 営規 模な どか ら能 率的 経営 を促 進し 経営 性を 発揮 しな がら 遂行 され る公 営事 業で ある
︒周 知の とお り︑ 自治 体の 事務 は一 般的 に﹁ 権力 的な 事務 と非 権力 的な 事務 に区 分さ れる が︑ 地方 公 営企 業の 行う 活動 は財 貨・ サー ビス を提 供し てそ の対 価を 得る とい う交 換経 済の 原理 に立 脚し た非 権力 的な 事務 で あり
︑典 型的 な経 済活 動で ある ので
︑こ の点 に関 する 限り 民間 企業 の経 済活 動と 何ら 異な るも ので はな い﹂ とさ
( )
れる
︒地 方公 営企 業法
︵以 下︑ 原則 とし て﹁ 法﹂ とい う︒
︶は
︑こ うし た公 営企 業の 基本 原則 を﹁ 常に 企業 の経 済 性
を発 揮す ると とも に︑ その 本来 の目 的で ある 公共 の福 祉を 増進 する よう に運 営さ れな けれ ばな らな い﹂ と定 めて いる
︵法 三条
︶︒ ここ でい う﹁ 企業 の経 済性
﹂と は従 来か ら﹁ 独立 採算 性﹂ とし て理 解さ れて
( )
いる
︒つ まり
︑地 方
公営 企業 の経 費は
︑当 該企 業の 経営 活動 に伴 って 得ら れる 収入 をも って 充て るこ とが 原則 とさ れて いる ので ある
︵法 一七 条の 二・ 二項
︶︒ しか しな がら
︑民 間に 委ね るこ とな く敢 えて 自治 体が 経営 する
﹁公 営﹂ 企業 であ るか らに は︑ 当然 のこ とな がら
﹁公 共の 福祉
﹂の 増進 が要 請さ れる こと にな る︒ そし て﹁ 公共 の福 祉﹂ の増 進は
︑そ れが 供給 する 諸サ ービ スの 中 に民 間営 利企 業で あっ たな らば 容易 には 供給 し難 い公 共サ ービ スの 提供 を包 含す るこ とに よっ てそ の実 現が 図ら れ る︒ こう した 公共 サー ビス の供 給は
︑経 営的 に必 ずし も黒 字に はな らず
︑む しろ 赤字 にな るこ とが 通常 であ ると い
えよ う︒ そこ で︑ そう した 公共 サー ビス の供 給の ため に必 要と なる 経費 は自 治体 の一 般会 計又 は特 別会 計を もっ て 負担 され なけ れば なら ない こと にな る︵ 法一 七条 の二
・一 項︶
︒換 言す ると
︑地 方公 営企 業の
﹁独 立採 算性
﹂と は 以上 のよ うな
﹁制 約条 件﹂ 付き のも ので あり
︑民 間営 利企 業に 要請 され る利 潤極 大化 原理 に基 づく
﹁独 立採 算性
﹂ を要 請さ れて いる 訳で はな い︒ まず
︑こ の点 が正 確に 理解 され なけ れば なら ない
︒ この 地方 公営 企業 には 病院 事業 も包 含さ れる
︒し かし
︑当 初︑ 病院 事業 につ いて は職 員数 が一
〇〇 人以 上の 企業 につ いて のみ 法の 財務 規定 等の 一部
︵法 一七 条の 二を 除外
︶が 適用 され るに 過ぎ なか った
︒職 員数 一〇
〇人 以下 の 企業 への 財務 規定 等の 一部 適用 は︑ 昭和 四一
︵一 九六 六︶ 年の 法改 正か らで あり
︑こ の改 正に よっ て法 一七 条の 二 の規 定が 改正 され たた め︑ 職員 数に 関係 なく 全て の財 務規 定等 が適 用さ れる こと にな った ので
( )
ある
︒
それ では なぜ
︑病 院事 業に つい ては
︑そ の他 の諸 規定
︵組 織に 関す る規 定︑ 職員 の身 分の 取扱 いに 関す る規 定 等︶ が当 然に は適 用さ れな いの であ ろう か︒ それ は︑ 公営 企業 とし ての 病院 事業 はそ の他 の法 定事 業に 比べ 採算 性 も低 く︑ また 健康 診断
︑予 防接 種︑ 医療 相談
︑福 祉保 健啓 発事 業な どの 保健 衛生 行政
・民 生行 政等 自治 体の 一般 行 政︵ 一般 公共 サー ビス
︶と の関 係が 密接 であ って
︑他 の事 業と その 性格 を異 にす るた めで
( )
ある
︒こ のこ とは 病院 事
業の
﹁独 立採 算性
﹂が 極め て困 難で ある こと を物 語っ てい る︒ 加え て︑ 自治 体病 院は 採算 性の 点で 民間 病院 では 供 給困 難な 医療 サー ビス を積 極的 に提 供し てい かな けれ ばな らな いこ とも ある
︵後 に述 べる 政策 医療 の供 給︶
︒そ れ にも 拘わ らず
︑自 治体 は条 例︵ 一部 事務 組合 では 規約
︶に よっ て財 務規 定等 以外 の諸 規定 を適 用す る道 が開 かれ 病 院事 業に 法を 全部 適用 する こと が可 能と され るに 至っ たの であ る︒ 法を 全部 適用 した 病院 事業 は︑ 専任 の管 理者
︵病 院事 業管 理者
︶を 置き
︑予 算原 案の 作成 や契 約の 締結
︑病 院人
事︑ 病院 内の 組織 編成 など 一定 の範 囲に つい て首 長か ら独 立し た権 限を 有す るた め︑ 一部 適用 の病 院事 業よ りも 効 率的
・効 果的 な病 院運 営が 図れ ると され
︑苦 しい 経営 環境 に置 かれ 続け てい る病 院事 業に あっ ては
︑条 例を 定め 法 を全 部適 用す ると ころ が次 第に 増加 して きた
︒ その 後︑ 平成 一五
︵二
〇〇 三︶ 年に 地方 独立 行政 法人 法︵ 以下
︑時 に﹁ 地独 法﹂ とい う︒
︶が 制定 され
︑法 の全 部適 用以 上に 効率 的な 経営 が可 能と され る制 度の 導入 創設 がな さ
( )
れた こと もあ り︑ 各自 治体 の病 院事 業は この 制度
導入 も含 め経 営基 盤を 安定 化さ せる ため の最 適な 制度 構築 に向 け検 討を 重ね るこ とに なっ た︒ これ につ いて は︑ 平 成一 九︵ 二〇
〇七
︶年 に公 布さ れた
﹁地 方公 共団 体の 財政 の健 全化 に関 する 法律
﹂︵ いわ ゆる 財政 健全 化法
︶が 地 方公 営企 業の 経営 健全 化を もそ の射 程に 入れ たこ と︑ また それ との 関連 もあ り︑ 苦し い経 営を 強い られ てい る自 治 体病 院の 効率 的経 営を 促す ため
︑同 年に 総務 省が
﹁公 立病 院改 革ガ イド プラ ン﹂ を策 定し 病院 の経 営形 態の 見直 し や再 編・ ネッ トワ ーク 化を 要請 した こと など が背 景に ある
︒
︵二
︶ 政策 医療 さて
︑特 に病 院事 業は
﹁独 立採 算性
﹂が 極め て困 難で ある と述 べた
︒そ の理 由は 先に 述べ た一 般行 政と の﹁ 密接 性﹂ のほ か︑ 自治 体病 院に 要請 され る政 策医 療の 供給 にあ る︒ 政策 医療 とは
︑簡 潔に いう と社 会的 に意 義を 有す る が採 算の 望め ない 医療 分野 のこ とで あり
︵宗 前
2 0 0 5
: 8 8
︶︑ま た自 治体 病院 が普 遍的 使命 と責 任を 持っ て供 給す べき 医療 分野 のこ とで ある
︵塩 谷
2 0 0 7
: 8 8
︶︒地 方公 営企 業法 一七 条の 二・ 一項 は︑
﹁一
その 性質 上︑ 当該 公営 企業 の経 営に 伴う 収入 を持 って 充て るこ とが 適当 でな い経 費﹂
︵以 下︑
﹁一 号経 費﹂ とい う︒
︶と
﹁二
当該 地方 公