博士論文
平成十八年度
小胞体シャペロンによるアミロイド b 産生抑制
平成十九年三月
熊本大学大学院薬学教育 分子機能薬学専攻 創薬化学講座 薬学微生物学分野
星野 竜也
Endoplasmic reticulum chaperones inhibit the production of amyloid-b peptides
Tatsuya Hoshino
Amyloid-
bpeptides (A
b) generated by proteolysis of
b-amyloid precursor protein (APP), play an important role in the pathogenesis of Alzheimer’s disease.
Endoplasmic reticulum (ER) chaperones, such as glucose-regulated protein (GRP)78,
make a major contribution to protein quality control in the ER. Here I examined the
effect of over-expression of various ER chaperones on the production of A
bin cultured
cells, which produce a mutant type of APP (APPsw). Over-expression of GRP78 or
inhibition of its basal expression decreased or increased, respectively, the level of A
b40
and A
b42 in conditioned medium. Co-expression of GRP78’s co-chaperones, ERdj3 or
ERdj4, stimulated this inhibitory effect of GRP78. In the case of the other ER
chaperones, over-expression of some (150-kDa oxygen-regulated protein (ORP150)
and calnexin) but not others (GRP94 and calreticulin) suppressed the production of A
b.
These results indicate that certain ER chaperones are effective suppressors of
A
bproduction and that non-toxic inducers of ER chaperones may be therapeutically
beneficial for Alzheimer’s disease. GRP78 was co-immuno-precipitated with APP
and over-expression of GRP78 inhibited the maturation of APP, suggesting that GRP78
binds directly to APP and inhibits its maturation, resulting in suppression of the
proteolysis of APP. On the other hand, over-production of APPsw or addition of
synthetic A
b42 caused up-regulation of the mRNA of various ER chaperones in cells.
Furthermore, in cortex and hippocampus of transgenic mice expressing APPsw, the
mRNA of some ER chaperones was up-regulated in comparison with wild-type mice. I
consider that this up-regulation is a cellular protective response against A
b.
目次
頁 略܃
第
1
章 序論第
2
章 小胞体シャペロンによるAb
産生の抑制 第1
節 緒ۗ第
2
節GRP78
過剰発現、及びGRP78
発現抑制のAb
産生に対する効果第
3
節ERdj3,ERdj4
によるGRP78
のAb
産生抑制効果の促進 第4
節 種々の小胞体シャペロンによるAb
産生抑制第
5
節 考察第
3
章GRP78
によるAb
産生抑制の分子機構第
1
節 緒ۗ第
2
節GRP78,ERdj3,ERdj4
安定発現株の構築、及びAb
産生抑制 第3
節APP
とGRP78
の相互作用第
4
節APP
の成熟に対するGRP78
の効果第
5
節GRP78
によるAPP
の半減期に対する効果第
6
節APP C-terminal fragment (CTF)
産生に対するGRP78
の効果第
7
節GRP78
のAb
産生抑制効果における小胞体関連分ӕ機構の関与の検討第
8
節 考察4
6
010
010 010 013 016 018 0 02020
20
23
24
26
28
30
31
2
第4
章Ab
による小胞体シャペロンの誘導 第1
節 緒ۗ第
2
節Ab
による小胞体シャペロンの誘導第
3
節Ab
による小胞体シャペロン誘導の分子機構第
4
節 アルツハイマー病モデルマウスにおける小胞体シャペロンの発現 第5
節 考察第
5
章 総括と展望第
6
章 実験材料と方法 第1
節 ࠟ薬及び機器་第
1
項 細胞株ࠟ薬 第2
項 細胞株 第3
項 動物 第4
項 抗体第
5
項siRNA
配列 第6
項 プラスミド 第7
項 プライマー第
8
項 使用機器及び器具 第2
節 実験方法第
1
項 細胞培養法033
33 33
036 03840
42
44
44
44
44
45
45
45
46
46
47
48
48
第
2
項 Ћ伝子導入法 第3
項siRNA
導入法 第4
項 イムノブロット法 第5
項 サンドイッチELISA
法 第6
項Real time RT-PCR
法 第7
項 免疫沈降法第
8
項Pulse-chase
法 第9
項 統ڐ学的ӕ析ࡤ辞
参考文献
048
49 49
050 05151 52 52
53
54
4
略܃Ab amyloid b protein
AD alzheimer’s disease
APP
b-amyloid precursor proteinATF activating transcription factor
CNX calnexin
CRT calreticulin
CTF C-terminal fragment
DAPT N-[N-(3,5-difluorophenacetyl-L-alanyl)]-S-phenylglycine t-butyl ester ELISA enzyme-linked immunosorbent assay
ERAD endoplasmic reticulum associated degradation
FBS fetal bovine serum
GRP glucose-regulated protein
HEK human embryonic kidney
HSP heat shock protein
imAPP immature APP
IRE1 protein-kinase and site-specific endoribonuclease
mAPP mature APP
ORP150 150-kDa oxygen-regulated protein PBS phosphate buffer saline
PERK protein kinase R-like ER kinase
PS presenilin
siRNA small interfering RNA
6
第1
章 序論アルツハイマー病
(Alzheimer’s disease ; AD)
は老年期痴呆の主要な原因であり、ݗ度の記憶障害を伴う脳機能の異常をきたし、深刻な症状を示す。最大の危ۈ因子
は加齢であり、社会のݗ齢化にともない、今後患者数が急激に増加すると予測され ている
(1)
。これに伴いAD
の根本的な治療薬の開発が求められているが、現在まで に根本的治療薬は開発されておらず、対処療法的な治療しか行われていない。
AD
患者の脳における病理的変化として神経原繊維変化と老人斑の形成が観察され る。老人斑の主要構成成分はアミロイドb蛋白ࡐ(amyloid
b protein ; Ab) と呼ばれる39,40,42,43
残基からなるペプチドである。Ab
はアミロイド前駆体蛋白ࡐ(b-amyloid
precursor protein ; APP)
が、b-、及びg-セクレターゼによって切断されることにより 作られる(2, 3)
。
APP
は小胞体内でN
型糖鎖修飾を受けた後、さらにゴルジ体においてO
型糖鎖修 飾を受け、細胞ࡐ膜へ輸送される。APP
はb-セクレターゼによって切断され、CTFb
を産生し、このCTFb
がg-セクレターゼにより切断されるとAb
を産生する(
アミロイ ド産生経路)
。一方、APP
はb-セクレターゼではなく、a-セクレターゼにより切断さ れると、CTFa
を産生し、その後CTFa
はg-セクレターゼにより切断されると、無害 なp3
という೪アミロイド・ペプチドになる(
೪アミロイド産生経路)(4, 5)
。g-セクレターゼは、presenilin (PS) 1、または
PS2
、及びnicastrin
、Aph-1
、Pen-2
の4
つの蛋白ࡐにより構成されるアスパラギン酸プロテアーゼ複合体である(6)
。家族性
AD
病患者(FAD)
のЋ伝子ӕ析から、AD
発症に関与するЋ伝子としてAPP
、PS1
、PS2
の3
Ћ伝子が同定された(6, 7)
。これらのЋ伝子に見いだされた変異がいずれもAb
の産生に関与することから、Ab
の産生増加がAD
の発症、進行に重要な役割を果 たしていると考えられている。従って、Ab
の産生を制御する因子を発見、ӕ析する ことは新֩AD
治療薬のターゲットを探索する上で重要であると考えられる。
APP
を含む多くの新生蛋白ࡐは、リボソームで合成された後、小胞体に運ばれ、N
型糖鎖修飾や架橋形成を受け、立体構造を形成する。即ち、小胞体は蛋白ࡐのݗ次 構造を形成する器官である。一方、小胞体は新生蛋白ࡐの糖鎖修飾、立体構造形成 において重要な役割を果たすだけでなく、小胞体内における蛋白ࡐの品ࡐ管理にも 関与していることが知られている。全ての蛋白ࡐが正しいݗ次構造をとれるわけで はなく、時には構造異常のものも産生される。また、環境要因的なストレスなどに より折り畳み機能が破綻した場合、Ћ伝学的変異などによって元来正常な立体構造 を形成できない蛋白ࡐが産生される場合などに、小胞体内にこれらの異常蛋白ࡐが 蓄積される。小胞体内にこれらの異常蛋白ࡐが蓄積すると、小胞体ストレスが֬こ る。この小胞体ストレスに細胞が曝されると、小胞体ストレス応答が֬きることが 知られている(8)
。小胞体ストレス応答は、
protein-kinase and site-specific endoribonuclease (IRE1)
、protein kinase R-like ER kinase (PERK)
、及びactivating transcription factor (ATF) 6
の3
種་の 蛋白ࡐを介して行われる(8-10)
。これらの蛋白ࡐはいずれも小胞体膜貫通型蛋白ࡐで あり、恒常的に発現しているが、小胞体内に異常蛋白ࡐが蓄積すると活性化する。小胞体ストレスに応答して活性化した
PERK
は翻訳開始因子eukaryotic initiation
factor-2a (eIF2a)
をリン酸化することにより、翻訳を抑制する。その一方で転写因子である
ATF4 mRNA
の翻訳を亢進する(ATF4
経路) (11, 12)
。また、ATF6
は小胞体ス トレスによりN
末端の細胞ࡐ側領域が切断され、活性型の転写因子p50-ATF6
とな8
り核へ移行する
(ATF6
経路) (10)
。ATF4
とp50-ATF6
はともに小胞体シャペロンなど のЋ伝子の発現を誘導することが知られている。これまでに、PS1
とPS2
のЋ伝子 変異がIRE1
、PERK
、ATF6
の活性化を抑制することにより、細胞が小胞体ストレス に対して弱くなることが報告され、小胞体ストレス応答とAD
の関連が示唆されている
(13-17)
。これらのことから、小胞体はAD
の病態において重要な細胞内器官であると考えられる。
小胞体には種々の小胞体シャペロンが存在し、通常時には、これらの小胞体シャ ペロン作用により、新生蛋白ࡐは効率よく糖鎖修飾や立体構造の形成を受ける。ま た、小胞体シャペロンはストレス下においては異常蛋白ࡐの
re-folding
を促進するこ とにより小胞体内での蛋白ࡐの品ࡐ管理を行っている。小胞体シャペロンとしては、glucose-regulated protein (GRP) 78
、GRP94
、 150-kDa oxygen-regulated protein (ORP150)、calreticulin (CRT)、Calnexin (CNX)
などがある(18-20)。これまでに
GRP78
、CRT
などの小胞体シャペロンがAPP
と結合することが知られている
(21-23)
。さらに、GRP78
はAb
産生を抑制するという報告がある(21)
。また、AD
患者の脳において小胞体シャペロンの発現が亢進していること(24, 25)
、老人斑と
GRP78
が共局在していることなどが知られている(26)
。しかしながら、これまでに、これらの小胞体シャペロンがどのような働きをしているのかについてはほとん ど分かっていない。小胞体シャペロンがストレス存在下で誘導されること、及び種々 の蛋白ࡐの制御に関わっていることから、小胞体シャペロンが
AD
の原因蛋白ࡐで あるAb
により誘導される可能性、及び小胞体シャペロンがAb
の産生、代ࡤなどに 影している可能性が考えられる。そこで私は、本研究において
AD
における小胞体シャペロンの発現亢進に注目し、種々の小胞体シャペロンは
Ab
の細胞毒性に対抗するために誘導され、Ab
産生を抑制 することで細胞を保܅しているのではないかという仮説をたて、検討を行った。10
第
2
章 小胞体シャペロンによるAb
産生の抑制第
1
節 緒ۗ小胞体シャペロンは、蛋白ࡐの修飾、立体構造の形成、ストレス時における異常
蛋白ࡐの
re-folding
などさまざまな働きを介して細胞の機能維持に働いている。ؼ年、この小胞体シャペロンの働きが多くの疾患の発症やその抑制に関与していることが 報告されている。例えば、糖尿病発症への関与
(27, 28)
、神経変性疾患(29, 30)
への関 与などがある。これらの報告は、小胞体機能の低下が種々の病態の進行に重要な働 きをしていることを示唆している。一方、
AD
においても小胞体シャペロンが発症や進行に関与している可能性が示唆 されている。AD
患者の脳において小胞体シャペロンの発現が亢進していること(24)
、老人斑と
GRP78
が共局在していることなどが知られている(31)
。しかしながら、これらの小胞体シャペロンの発現がなぜ亢進しているのか、また、どのような働きを しているのかは分かっていない。特に、
Ab
産生に対する影はほとんど示されてい ない。そこで、私は種々の小胞体シャペロンがAb
産生に影を与えるのか、検討を 行った。第
2
節GRP78
過剰発現、及びGRP78
発現抑制のAb
産生に対する効果実験には
Human embryonic kidney (HEK293)
細胞にスウェーデン型とよばれる、二つの変異
(K651N/M652L)
が入った変異型APP (APPsw)
を安定発現した株を使用した
(32)
。この変異はb-セクレターゼによる切断が促進することにより、Ab
産生を増 加することが知られている(33)
。この安定発現株とAb enzyme-linked immunosorbent
assay (ELISA)
法を用いることで容易にAb
の産生量の変化を調べることができる。小胞体シャペロンが
Ab
産生に影を与えるのかを調べるために、代表的な小胞体 シャペロンであるGRP78
のAb
産生に対する効果を検討した。種々のAb
の中で最も 産生量の多いAb40
と、凝集能がݗく、細胞毒性の強いことが知られるAb42
の産生 量を調べた。まず、GRP78
を過剰発現し(Fig. 1A)
、24
時間後の培地中に含まれるAb
量を調べた。その結果、GRP78
を過剰発現により、Ab40
、42
ともに有意に減少した(Fig.
1B, C)
。次に
GRP78
のAb
産生における関与をsmall interfering RNA (siRNA)
を用いて確認した。
siRNA
の導入により、GRP78
の発現量は減少した(Fig. 1D)
。このとき、培地中の
Ab40
、42
はともに有意に増加した(Fig. 1E, F)
。これらの結果は、
GRP78
がAb
産生を抑制していることを示唆している。12
第
3
節ERdj3,ERdj4
によるGRP78
のAb
産生抑制効果の促進
GRP78
はheat shock (HSP) 70 family
に属する蛋白ࡐである。このHSP70 family
に は、その働きを促進するコシャペロンが存在することが知られている(18)
。HSP70
の コシャペロンであるHSP40
は、HSP70
に結合し、そのATPase
活性を促進することで
HSP70
のシャペロン活性を増強することが知られている(34)
。これまでにGRP78
には多くのコシャペロンが見つかっている
(35-39)
。こられのうち、ERdj3
とERdj4
は
GRP78
と結合し、そのATPase
活性とシャペロン活性を促進することが報告されている
(36, 37)
。そこで私は第
2
節で観察されたGRP78
のAb
産生抑制効果に対するERdj3,ERdj4
の効果を検討した。ERdj3
、及びERdj4
の過剰発現をイムノブロット法により確認した
(Fig. 2A,D)
。また、これらをGRP78
と共発現しても、GRP78
の発現に影を与えなかった。
Ab
産生に対する効果を調べた結果、ERdj3
単独での過剰発現により、Ab40
、42
ともに有意に減少した(Fig. 2B,C)
。さらにGRP78
とERdj3
を共発現する と、GRP78
の抑制効果は促進された(Fig. 2B,C)
。一方、ERdj4
は単独発現ではAb40
は減少したが、Ab42
は有意な減少を示さなかった(Fig. 2E,F)
。しかし、GRP78
とERdj4
を共発現すると、Ab40
、42
ともに有意に減少した(Fig. 2E,F)
。即ち、GRP78
のコシ ャペロンとGRP78
を共発現すると、GRP78
のAb
産生抑制効果が有意に促進された。
ERdj3
とERdj4
がGRP78
のAb
産生抑制効果を促進することから、GRP78
のAb
産 生抑制効果にATPase
活性とシャペロン活性が関与していることが示唆された。そこで次に
GRP78
のAb
産生抑制効果おけるATPase
活性とシャペロン活性の関与について検討を行った。
14
HSP40 family
はJ domain
を介してHSP70 family
蛋白ࡐと結合していることが知ら れている(34)
。また、同様にGRP78
との結合にERdj4
のJ domain
が必要であること も報告されている(37)
。そこで、私はERdj4
のJ domain
が、Ab
産生抑制効果を促進 に必要か、否かをJ domain
欠損ERdj4
変異体(ERdj4DJ)(40)
を用いて検討した(Fig.
2G)
。その結果、ERdj4DJ
はほとんどGRP78
のAb
産生抑制効果を促進しなかった(Fig.
2H,I)
。以上の結果から、
ERdj4
のAb
産生抑制作用はJ domain
を介してGRP78
に結合し、GRP78
のATPase
活性とシャペロン活性を促進することにより発揮されていると考えられる。今回は検討を行っていないが、
ERdj3
もおそらく同様の機構によりGRP78
のAb
産生抑制効果を促進しているものと考えられる。16
第
4
節 種々の小胞体シャペロンによるAb
産生抑制小胞体シャペロンには、
GRP78
以外にも、GRP94
、ORP150
、CNX
、CRT(18-20)
な どが知られている。また、これらは小胞体内においてそれぞれが異なる働きをし、蛋白ࡐの品ࡐ管理に関与していることが知られている。そこで、私はこれら種々の 小胞体シャペロンの
Ab
産生に対する効果を調べた。その結果、ORP150
はGRP78
同 様にAb40
、42
とも産生を抑制した(Fig. 3A,B)
。また、CNX
はAb42
産生を抑制し たが、Ab40
産生は抑制しなかった(Fig. 3E,F)
。一方、GRP94
、CRT
はAb
産生を抑 制しなかった(Fig. 3C,D,G,H)
。これらの結果は、
Ab
産生抑制作用はGRP78
特異的なものではないが、全ての小胞 体シャペロンに共通するものではないことを示している。また、CNX
はAb42
を特 異的に抑制した。この結果はGRP78
などとは異なる分子機構によるものと考えられ る。18
第5
節 考察本章において、私は小胞体シャペロンの
AD
への関与を調べるために、アルツハ イマー病の原因蛋白ࡐであるAb
の産生に対する小胞体シャペロンの効果を検討した。その結果、小胞体シャペロンの、
Ab
産生に対する効果としては次の3つに分་され た。1つ目は、GRP78
、ORP150
のようにAb40,42
ともに抑制するもの、2
つ目はCNX
のようにAb42
のみを抑制するもの、3
つ目はGRP94
、CRT
のようにAb
産生を抑制 しないものであった。これらの結果は、小胞体シャペロンの中にはAb
産生を抑制す るものがあり、これらの脳における発現誘導はAb
産生の抑制を介してAD
の進行を 抑制している可能性が考えられる。しかし同時に、GRP94
やCRT
ではAb
産生の抑 制作用は観察されなかったことは、この作用が全ての種་の小胞体シャペロンに共 通するものではないことを示している。
GRP78
はそのコシャペロンであるERdj
を共発現することにより、そのAb
産生抑制作用が増強された。また、この効果は
ERdj4DJ
では観察されないことから、GRP78
の
ATPase
活性とシャペロン活性がこのAb
産生抑制作用に関与していると考えられる。興味深いことに
ORP150
もGRP78
と同じくHSP70 family
に属し、ATPase
活性 をもつことが知られている(41)
。従って、これらの特徴がAb
産生抑制に関与してい ると考えられる。GRP78
のAb
産生抑制の詳しい分子機構については第3
章で説明す る。
CNX
とCRT
は前者が膜貫通型蛋白ࡐであり、後者が可溶性蛋白ࡐである、という 違いはあるものの、その相同性などから೪常によく似た蛋白ࡐであることが知られ ている(20)
。しかしながら、CNX
はAb42
のみを抑制し、CRT
はAb
産生に影を与えなかった。現在までになぜこのような違いが生じたのかは分かっていない。最ؼ、
小胞体関連分ӕ機構において
CNX
は重要な役割を果たすが、CRT
は関与していない ことが報告されている(42)
。これらの報告と今回の結果を合わせて考えると、これら の2
つの蛋白ࡐは局在だけでなく、何らかの機能的違いがあることが考えられる。種々の小胞体シャペロンの
Ab
産生に対する効果の違いは、小胞体シャペロンがAb
産生の制御に関与することでAD
の発症を抑制している可能性を示すだけでなく、それぞれがことなる機構により
Ab
産生に関与していることを示唆していると考えら れる。20
第
3
章GRP78
によるAb
産生抑制の分子機構第
1
節 緒ۗ第
2
章において私は小胞体シャペロンがAb
産生を抑制することを報告した。これ までに小胞体シャペロンによるAb
産生抑制の分子機構についてはほとんど報告がない。
GRP78
のAb
産生抑制効果がERdj
により促進されることより、GRP78
のもつシャペロン活性が関与している可能性が考えられた。しかしながら、その詳細な分子 機構は不明である。
APP
は小胞体内でN
型糖鎖修飾を受けた後、さらにゴルジ体においてO
型糖鎖修 飾を受け、細胞ࡐ膜へ輸送される。APP
は細胞ࡐ膜上、あるいはendosome
経路にお いてb-セクレターゼによって切断され、CTFb
となり、続いてg-セクレターゼにより 切断されるとAb
を産生する(4, 5)
。従って、APP
がこの経路により移動している間に
GRP78
が作用していると考えられる。そこで私はこの章において、GRP78
のもつシャペロン活性と
APP
の輸送経路に注目し、そのAb
産生抑制の分子機構をӕ析 した。第
2
節GRP78,ERdj3,ERdj4
安定発現株の構築、及びAb
産生抑制
GRP78
によるAb
産生抑制作用の分子機構ӕ析を行うにあたり、APPsw
を過剰発現した
HEK293
細胞にさらにGRP78
、ERdj3
、ERdj4
を安定発現した株を作成した。各小胞体シャペロンの発現量はイムノブロット法により確認した。その結果、
GRP78
、及び
ERdj3
、またはERdj4
を安定発現した株が得られた(Fig. 4A,D)
。以後の実験に おいては、この作成した細胞株を使用した。次に、作成した
GRP78
、ERdj3
、ERdj4
安定発現株が一過的過剰発現のときと同様 にAb
産生を抑制するのかを確認するために、Ab
産生量をELISA
法により調べた。その結果、
GRP78
安定発現によりAb40
、42
ともに産生を抑制した(Fig.4 B,C,E,F)
。 また、ERdj3 (Fig. 4B,C),
あるいはERdj4 (Fig. 4E,F)
を同時に安定発現すると、さらに そのAb
産生抑制が促進された。これらの結果は一過性過剰発現の実験おける結果と ほぼ一致していた。従って、これらの細胞株を用いてAb
産生抑制機構のӕ析を行っ た。22
第
3
節APP
とGRP78
の相互作用これまでの結果から
GRP78
のATPase
活性とシャペロン活性がGRP78
のAb
産生 抑制作用に関与していると考えられる。そこでAPP
とGRP78
が相互作用しているの を調べるために免疫沈降法を行った(Fig.5)
。その結果、APP
抗体依存にGRP78
が検 出された。さらにERdj3
、あるいはERdj4
を共発現した細胞株においては、GRP78
単独で発現している細胞株に比べ、わずかにAPP
に結合しているGRP78
の量が増加 していた。これらの結果より、GRP78
がAPP
と直接相互作用することにより、Ab
産生に影を与えていることが示唆された。24
第4
節APP
の成熟に対するGRP78
の効果次に
APP
の成熟に対するGRP78
の効果を検討した。APP
はN
型、及びO
型糖鎖 修飾を受けた成熟型(mature APP ; mAPP)
とN
型糖鎖修飾のみを受けている未成熟型(immature APP ; imAPP)
が存在する。これらは分子量の違いにより、SDS-PAGE
によ り異なる2つのバンドに分離される(43)
。Fig4(A, D)
の実験で用いたGRP78
安定発現 株のサンプルにおける、mAPP
とimAPP
量を調べた。その結果、GRP78
発現株では コントロール細胞株に比べ、imAPP
量は増加していた。一方、mAPP
は減少していた。即ち、
GRP78
発現株においてはmAPP
のimAPP
に対する割合が減少していた(Fig.
6A,B,C,D)
。また、その減少はERdj3 (Fig. 6A,B)
、またはERdj4 (Fig. 6C,D)
を共に発 現している細胞ではより顕著になっていた。これらの結果はGRP78
がAPP
の成熟を ਰ害していることを示している。26
第
5
節GRP78
によるAPP
の半減期に対する効果
APP
の成熟ਰ害を調べるためにPulse-chase
法を用いて検討した。細胞を[
35S]
メチ オニンで15
分間ラベルした後、培地を交換し、さらに各時間培養後細胞を回収した。この細胞の抽出液を
APP
抗体で免疫沈降し、APP
の状態をオートラジオグラフィで 調べた(Fig. 7A,B,C,D,E,F)
。コントロール細胞では速やかにimAPP
からmAPP
への 変換が観察された。一方、GRP78
とERdj3
、またはERdj4
を発現している細胞ではimAPP
からmAPP
への変換がૺ延されていた。これらの結果はGRP78
、ERdj3
、ERdj4
が
APP
の成熟をਰ害し、その結果APP
の半減期が延ସされていることを示している。28
第
6
節APP C-terminal fragment (CTF)
産生に対するGRP78
の効果前述の
GRP78
によるAPP
の成熟の抑制が、APP
のセクレターゼによる切断に影をあたえるのかを調べた。
APP
はa-、b-セクレターゼにより切断されると、それ ぞれCTFa
、CTFb
を産生する。また、CTFa
、CTFb
がg-セクレターゼにより切断され るとCTFg
を産生する(4, 5)
。そこで私はAPP
の各CTF
の産生量をイムノブロット法 により調べた。今回用いた方法ではCTFa
、及びCTFb
は検出できたが、CTFg
は検出 できなかった。そのため、GRP78
、及びそのコシャペロンのCTFa,b
産生量に対する 効果を検討した(Fig. 8A,B,C,D)
。その結果、GRP78
発現によりCTFa
、CTFb
ともに その量が減少した。さらにGRP78
とERdj3
、またはERdj4
を発現した細胞ではその 減少が促進されていた(Fig. 8A,B,C,D)
。これまでの結果と合わせ、GRP78
によりAPP
の成熟がਰ害され、a-、及びb-セクレターゼにより切断されるAPP
量が減少してい ると考えられる。30
第
7
節GRP78
のAb
産生抑制効果における小胞体関連分ӕ機構の関与の検討小胞体内に異常蛋白ࡐが蓄積すると、小胞体関連分ӕ機構
(endoplasmic reticulum
associated degradation :ERAD)
によりユビキチン・プロテアソーム系を介して分ӕされることが知られている
(44)
。また、これらに小胞体シャペロンが関与していることが 知られている。そこで、GRP78
のAb
産生抑制効果にERAD
が関与しているのか検 討した。ユビキチン・プロテアソーム系ਰ害剤であるLactacystin
を処理し、GRP78
のAb
産生抑制に対する効果を検討した。その結果、Lactacystin
処理によるAb
産生 抑制効果の変化は観察されなかった(Fig. 9A,B)
。また、同様の結果が同じくユビキ チン・プロテアソーム系のਰ害剤であるMG-132
においても観察された(data not
shown)
。これらの結果より、GRP78
のAb
産生抑制効果にERAD
は関与していないと考えられる。
第
8
節 考察この章において、
GRP78
のもつシャペロン活性に注目し、そのAb
産生抑制の分子 機構をӕ析した。その結果、GRP78
はAPP
に直接結合すること、APP
の成熟をਰ 害すること、GRP78
はa-、及びb-セクレターゼによる切断されるAPP
量を減少させ ることが示された。これらの結果より、GRP78
のAb
産生抑制作用は、GRP78
がAPP
に作用することで、APP
の小胞体以降の輸送、及び成熟の過程を抑制することによ り、b-セクレターゼにより切断されるAPP
量を減少させたことにより発揮されてい ると考えられる。
APP
のように細胞ࡐ膜上に局在する蛋白ࡐは、endosome
系などの膜小胞輸送経路 により、その細胞ࡐ膜上での発現量が調節されていることが知られている。即ち、特定の膜蛋白ࡐが過剰に存在する際には、
endocytosis
などによりendosome/ lysosome
系において分ӕすることで発現量を調節している。最ؼ、APP
がendosome
経路に取 り込まれるとAb
産生が促進されることが報告された(45)
。従って、このGRP78
がAPP
を小胞体上で保持することにより、細胞ࡐ膜上から上記のようにendosome
経路に 輸送されるAPP
量が減少した結果、Ab
産生量が減少している可能性が考えられる。また、今回用いた
APP
が変異型APP (APPsw)
であること、及びAb
が凝集体を形成 しやすいという性ࡐから、これらが異常蛋白ࡐとして認ࡀされ、ERAD
により分ӕ されている可能性、及びGRP78
の過剰発現により、このERAD
が増強されている可 能性が考えられた。実際にAPP
がセクレターゼによる分ӕだけでなく、ユビキチン・プロテアソーム系においても分ӕされることが知られている
(46)
。しかしながら、ユ ビキチン・プロテアソーム系のਰ害剤を用いた結果、少なくともGRP78
のAb
産生32
抑制作用にはユビキチン・プロテアソーム系は関与していないことが示唆された。
これらの結果も含めて、
GRP78
のAb
産生抑制作用は小胞体における異常蛋白ࡐ排 除機構ではなく、シャペロンとしての蛋白ࡐ結合作用によるものであると考えられ る。第
4
章Ab
による小胞体シャペロンの誘導第
1
節 緒ۗ第
2
章、及び第3
章において私は小胞体シャペロンがAb
産生を抑制することを示 した。従って小胞体シャペロンがAD
患者の脳で誘導されているのは、このAb
産生 を抑制するためである可能性が考えられる。しかしながら、どのようにして小胞体 シャペロンが誘導されているのかは分かっていない。これまでに
Ab
はin vivo
、in vitro
において神経細胞毒性を示すことが報告されている
(47-50)
。また、このAb
の神経細胞毒性がAD
の発症、及び進行に関与していることが知られている
(47-49)
。前述の小胞体シャペロンによるAb
産生抑制により、細胞 は自らをAb
の毒性から守っていると考えられる。これは、細胞がストレスに対抗す るために、ストレス蛋白ࡐを誘導し、細胞死をේぐ働きと་似している。従って、Ab
によりこれらの小胞体シャペロンが誘導される可能性が考えられた。そこで私はAb
により小胞体シャペロンが誘導されるか否か検討を行った。第
2
節Ab
による小胞体シャペロンの誘導
Ab
の毒性に対する反応を調べるにあたり、神経細胞にؼい細胞種として、ヒト神 経芽腫細胞SH-SY5Y
を用いて検討を行った。SH-SY5Y
に野生型APP (APPwt)
、または
APPsw
を過剰発現した細胞(51)
とコントロール細胞における、種々の小胞体シャペロンの発現を調べた。その結果、
APPsw
を過剰発現した細胞においては、今回調34
べた全ての小胞体シャペロンの発現が亢進していた
(Fig. 10A)
。一方、APPwt
過剰 発現細胞では小胞体シャペロンの発現亢進はみられなかった。また、g-セクレターゼ のਰ害剤 で あ る 、N-[N-(3,5-difluorophenacetyl-L-alanyl)]-S-phenylglycine
t-butyl ester(DAPT)
を処理すると、このAPPsw
発現による小胞体シャペロンの誘導が抑制された。このことは、小胞体シャペロンの誘導は、
APP
、あるいはAPPsw
の過剰発現自 体ではなく、APP
のg-セクレターゼによる切断の結果生じた産物が関与しているこ とを示唆している。また、この小胞体シャペロンの発現誘導、及びDAPT
による抑 制の程度は、培養上清中のAb
量とよく一致していた(Fig. 10B,C)
。従って、産生さ れたAb
が小胞体シャペロンを誘導していることが強く示唆された。そこで、生成し たAb
により小胞体シャペロンが誘導されているのかを調べるために、SH-SY5Y
に 合成Ab42
ペプチドを添加したときの種々の小胞体シャペロンの発現を調べた。その 結果、全ての小胞体シャペロンの誘導が亢進していた(Fig. 10D)
。以上の結果より、APP
から生成したAb
が小胞体シャペロンを誘導していると考えられる。36
第
3
節Ab
による小胞体シャペロン誘導の分子機構小胞体シャペロンの誘導において、
ATF4
経路とATF6
経路の両者が関与している ことが知られている(10-12)
。そこで、Ab
による小胞体シャペロン誘導にどちらの経 路が関与しているのかを調べるために、ATF4
とATF6
のsiRNA
を用いて検討を行っ た。まず、各siRNA
がそれぞれATF4
、ATF6
の発現を特異的に抑制していることを 確認した(Fig. 11A,B)
。次に、GRP78
の発現に対するsiATF4
、siATF6
の効果を調べ た。その結果、Ab
によるGRP78
の発現誘導はsiATF4
、siATF6
いずれにおいても分的に抑制された
(Fig. 11C)
。同様の結果が他の小胞体シャペロンの誘導に対しても 観察された(Fig.11 D-I)
。これらの結果は、ATF4
経路とATF6
経路の両者がAb
によ る小胞体シャペロンの誘導に関与していることを示唆している。38
第
4
節 アルツハイマー病モデルマウスにおける小胞体シャペロンの発現次に私は
in vitro
で観察されたAPPsw
過剰発現による小胞体シャペロン誘導がin
vivo
においても観察されるかを検討した。検討には、APP23
マウスを用いた。APP23
はヒト型
APPsw
を神経細胞に過剰発現したЋ伝子組み換えマウスである(52)
。これにより、
Ab
の産生増加が֬き、加齢とともにアミロイド斑が形成されることが知ら れている(53)
。このマウスの6
ヶ月齢を用いて、大脳皮ࡐ、及び海馬における小胞体 シャペロンの発現を同週齢のwild type
マウスと比Ԕした。その結果、全ての小胞体 シャペロンではないが、いくつかの小胞体シャペロンの発現が亢進していた(Fig.
12A,B)
。特にこれらの中でGRP78
とORP150
は、大脳皮ࡐ、海馬両者において有意に発現が亢進していた。この結果は、
in vitro
で観察されたAb
による小胞体シャペロン誘導が
in vivo
においても֬きている可能性を示唆している。40
第5
節 考察この章において私は
Ab
により小胞体シャペロンが誘導されることをin vitro
、in vivo
において確認した。また、ATF4
、及びATF6
のsiRNA
を用いたӕ析により、Ab
によ る小胞体シャペロン誘導にATF4
、及びATF6
の両者が関与していることを示唆した。これまでに
AD
患者脳において小胞体シャペロンが誘導されていることが報告さ れている。しかしながら、どのような機構により誘導されているのかについては不 明であった。特にAb
による誘導については多くの議論がなされている。即ちAb
に より小胞体ストレス応答が֬きるという報告(54)
と֬きないという報告(55, 56)
の両 者が存在する。これらの結果、及び今回の結果の相違点が生じた理由としては、用 いるAb
の種་、及び調製法などによるAb
の状態の違いにより、Ab
の毒性が大きく 異なることが関与しているのではないかと考えられる。実際に、同濃度のAb
でもあっても、
monomer
とoligomer
とfibril
の状態では毒性やその機構が全く異なっていることが報告されている
(50)
。今回私は用いた方法ではoligomer
が多く存在することが 知られている(57)
。このoligomer
は他の状態に比べ細胞毒性が強いことが報告されて いる(50)
。また、それぞれの実験系において用いている細胞種の違いなども影して いると考えられる。少なくとも今回私の行った実験においてはAb処理により小胞体 シャペロンが誘導されてくること、及びその誘導はATF4
、及びATF6
のsilencing
に より抑制することから、小胞体ストレス応答経路が活性化していると考えられる。
Ab
による小胞体ストレス応答経路の活性化がどのような機構により֬こっている のかは現在不明である。最ؼ、oligomer Ab
が細胞内カルシウム上昇を引き֬こすこ とが報告された(58)
。小胞体内カルシウムの枯渇が小胞体ストレス応答を引き֬こす ことから(59)
、Ab
による細胞内カルシウムの上昇が֬き、細胞内カルシウムのホメオスタシスの変化の結果、小胞体内のカルシウムが枯渇し、小胞体ストレス応答が
֬きた可能性が考えられる。
今回
SH-SY5Y
において小胞体ストレス応答を֬こすのに必要な合成Ab42
ペプチドの濃度は
100 nM
であり、APPsw
を過剰発現した細胞の培養上清におけるAb42
濃度
(0.3 nM)
よりもはるかにݗ濃度であった。この理由としては、細胞内で産生された
Ab
の方が毒性が強い可能性、細胞外に排出されるまでにAb
が毒性を発揮してい る可能性、Ab40
も小胞体ストレス応答に関与している可能性などが考えられる。実 際に細胞内に蓄積したAb
の方が毒性を発揮しているという報告もある(60)
。これら の理由により、小胞体ストレス応答を֬こすのに必要なAb42
濃度の違いが生じた可 能性が考えられる。また、
AD
モデルマウスを用いた実験においてin vivo
でも小胞体シャペロンが誘 導されていた。今回用いた週齢は脳においてアミロイド斑の形成が観察される時期 であることから、Abの産生と蓄積の結果、小胞体ストレスが֬き、これらのシャペ ロンが誘導されたのではないかと考えられる。in vivo
の実験においては実際にどの ような分子機構により小胞体ストレス応答が活性化されているのかは不明であり、さらなる検討が必要であると考えられる。
42
第5
章 総括と展望本研究において私は、小胞体シャペロンが
Ab
産生を抑制することを示した。また、GRP78
のAb
産生抑制機構をӕ析した結果、GRP78
がAPP
に作用することで、APP
の小胞体以降への移行、及び成熟の過程を抑制することにより、b,a-セクレターゼに より切断される
APP
量を減少させたことによるものであることを見出した。さらに、Ab
が小胞体ストレス応答を介して小胞体シャペロンを誘導することを示唆した。以 上の結果から、細胞はAb
による毒性から自身を守るため、小胞体シャペロンを誘導 し、その産生を抑制していると考えられる。これまでに小胞体シャペロンと
AD
の関与の示唆は報告されていたものの、実際 にAD
における小胞体シャペロンの働きを示す報告はほとんど無かった。また、ポ リグルタミン病やその他の神経変性疾患などにおいては、細胞ࡐにおける分子シャ ペロンであるHSP
の役割、有効性が示されていた(61, 62)
。これに対し、AD
ではHSP
などの分子シャペロンも含めて、その役割、有効性については不明な点が多かった。今回のこの研究において小胞体シャペロンの
AD
における役割が示されたことは、神経変性疾患における分子シャペロンの新たな重要性を示すことにつながると考え られる。
現在、
AD
の治療には症状の緩和を目的とした対処療法が用いられている。一方、根本的な治療薬は開発中であり臨床応用に至っていない。本研究は
AD
の根本的治 療薬の開発において、小胞体シャペロンを利用するという新しいターゲットとなる のではないかと考えられる。即ち、細胞毒性が無く、小胞体シャペロンを誘導する 化合物は新֩AD
治療薬になりうると考えられる。実際に大֩模な化合物ライブラリーからのスクリーニングの結果、細胞毒性が無く、小胞体シャペロンを誘導する 化合物が見つかったことが報告されている
(unpublished data)
。小胞体シャペロンの 働きを利用した医薬品が開発され、真に有効なAD
治療薬が開発されることを期待 したい。44
第6
章 実験材料と方法第
1
節 ࠟ薬及び機器་第
1
項 ࠟ薬Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM),Ham-F12 medium (
日水製薬) HygromycinB (
和光純薬工業)
Fetal bovine serum(FBS), zeocin, lipofectamine (TM2000), methionine-free DMEM, G418, Opti-MEM (Invitrogen)
RNeasy kit, RNAiFect Transfection Reagent (Qiagen) ABTS Peroxidase Substrate System (KPL)
First-strand cDNA synthesis kit, Streptavidin-biotinylated horseradish peroxidase complex (Amersham Bioscience)
N-[N-(3,5-difluorophenacetyl-L-alanyl)]-S-phenylglycine t-butyl ester, Lactacystin, synthetic Ab40, Ab42 (
ペプチド研)
Bio-Rad protein assay kit (Bio-Rad)
SYBR GREEN PCR Master Mix (Applied Biosystems) Dynabeads Protein A (Dynal Biotech)
SuperSignal WestDura (Pierce)
第
2
項 細胞株HEK293 (
ヒト胎児腎細胞)
SH-SY5Y (
ヒト神経芽腫細胞)
第
3
項 動物APP23 (Novartis Pharma Ltd.
・Matthias Staufenbiel
博士より供与) C57 black/6J (
九動)
第
4
項 抗体GRP-78 (Santa Cruz Biotechnology) His-tag (Santa Cruz Biotechnology) Myc-tag (Santa Cruz Biotechnology) Actin (Santa Cruz Biotechnology) APP C-terminal fragment (Sigma)
4D1, 4D8, 2H8 (
北海道大学・༖木利治教授より供与)(32)
第
5
項siRNA
配列GRP78 5’-ggagcgcauugauacuagadTdT-3’ and 5’-ucuaguaucaaugcgcuccdTdT-3’
ATF4 5’-gccuaggucucuuagaugadTdT-3’ and 5’-ucaucuaagagaccuaggcdTdT-3’
ATF6 5’-gcaaccaauuaucaguuuadTdT-3’ and 5’-uaaacugauaauugguugcdTdT-3’
Non-silencing siRNA
5’-uucuccgaacgugucacgudTdT-3’ and 5’-acgugacacguucggagaadTdT-3’
46
第6
項 プラスミドpcDNA3.1(+), pcDNA3.1(+)/Hygro, pcDNA3.1(+)/Zeo (Invitrogen)
pcDNA3.1-hAPPsw, pcDNA3.1-hAPPwt (
北海道大・༖木利治教授より供与)(32) pcDNA3.1-GRP78 (McMaster University
・Richard C. Austin
教授より供与)(63) pcDNA3.1-ERdj3 (Washington University
・David B. Haslam
教授より供与)(36) pcDNA3.1-ERdj4 (
宮崎大・今泉和則教授より供与)(40)
pcDNA3.1-ERdj4DJ (
宮崎大・今泉和則教授より供与)(40) pCI-neo-hORP150 (
金沢大・小川智教授より供与)
pcDNA3.1-hGRP94 (Erasmus University
・Rini de Crom
博士より供与)(64)
pCMV-CNX-myc (
熊本大・甲斐広文教授より供与)
pCR(HA) (
熊本大・森正敬教授より供与)(65)
第