• 検索結果がありません。

日本における民事手続法の現状 : 英語講義「民事手続法入門」(日本語版)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本における民事手続法の現状 : 英語講義「民事手続法入門」(日本語版)"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)下. 打突ノート. 日本における 民事手続法の 現状 一一英語講義「民事手続法入門」. 坂. 田. (. 日本語版 ). 宏. 昨今の大学改革の 議論において ,英語教育の重要 みなさんにとって ,裁判とはどういうものであ ろ 性が説かれている.英語教育といっても ,文字通り, うか.死刑判決が 問題となる場面では ,一人の人の ただ縦のものを 横にする, というだけでは 足りず, 生き死にを国家が 決定する.認知訴訟であ れば,そ 何らかの主張が 発信せられている 必要があ る. こと の子どもの父親が 誰であ るのかが明らかとなる.製 に,法学は,学問の 特性として,文化や 言語との 結 造物責任訴訟では ,企業にとって莫大な損害賠償 債 びつきが非常に 緊密な学問であ ることから,単に 条 務を抱えて倒産するかどうかがかかってくる.株主 文を英訳するだけでは 済まないのは 明らかであ る. 代表訴訟では ,取締役が莫大な 損害賠償をしなけれ ばならないかもしれない. このように,裁判という しかも,筆者の 専攻する民事訴訟法, より広く民事 手続法は, ドイツを母法国としている. したがって , のは人間あ るいは企業のいわば 生命線を断つかどう 日本で使われている 専門用語はドイツ 文化を背景と かという重大な 決定を国家,すなわち 裁判所が行う している. さらに, ドイツ, フランスに代表される のであ る.それは「決定」であ る. しかし,この 決 ( ヨーロッパ ) 大陸法諸国は civillaw と呼ばれる体系 定は単なる決定ではなく (政策的決定でないという を採り,他方,イギリス ,アメリカという 英米法諸 意味も含めて ), judgement であ る・ と呼ばれる体系を 採り,世界の 二大. そこで, い わゆる judgement とは何かが問題となる・. 法体系として 比較される.有り 体に言えば,体系や. 国は commonlaw. 日常用語では 判断であ るが,法律用語になると 意味 合いが少し異なってくる.旧約聖書のソロモン 王の 物語を例に採ってみよう.「ある朝,一人の 女性がソ. 概念が全くといってよいほど 異なっているのであ ドイツの法制度を 単に英語に翻訳したとしても ,. り. ド. イツの法制度を 紹介したことにはならない. このような状況に 置いて,我が経営学部において も,また,国際社会研究科においても ,英語教育の 実施が迫られている.筆者もまた ,自らの専攻分野 を 3, 4 回の講義にする 必要性を感じている.本稿 は,そのような 英語教育の下準備として ,まず「民 裏 手続の現状」と 題して,民事裁判とは 何か,また, 日本の民事裁判はかつてはどのような 問題を抱え, 法改正後はどのように 進んで行くのかという 視点か ら,筆者の主張も交え,論じる研究ノートであ る ( したがって,受講生を 意識したスタイルとなること を,また,若干,英語を 意識した表現も 混じるであ ろうことをもお 赦しいただきたい.なお ,続編の計 画もすでに進んでいる ). 民事手続の現状 ]. はじめに. 一 裁判のイメージ. ロモン王のところにやってきていった」.「私は二日. 前に赤ちゃんを 産みました.同じ部屋にいた女も 同 じ日に赤ちゃんを 産みました.ところが,今朝,目 を覚ました私が 抱いて寝ていた 子どもは死んでおり よ く見ると私の 産んだ子供ではなく ,あの女の子ど. もでした・私の 子どもはあ の女が抱いて 寝ていまし た・きっと,あの女が授乳の 際に居眠りをして 子ど もの上に伏したため 死んでしまったのに 違 い あ りま. せん」.相手の女も「そんなことは 作り話だ.おまえ のほうが子どもの 上に伏して殺してしまったのだ」 と 譲りません・ソロモン 王は judgement をしなければ ならない・証人は 一人もがな い .赤ちゃんの顔を見. ても, どちらが真の 母親なのかはわからない.当時 は血液検査も 行われてはおらず ,ましてやDNA 検査 などない・一体どうやって judgement をするか・ソロ モン王は,部下に 大きな剣をもってこさせ ,「生きて いる子どもを 半分に断ち切り ,それぞれの女に引き.

(2) 150 (150). 横浜経営研究. 第 21 巻. 第]. サ (2000). 渡しなさい」と 命じた. これは無茶苦茶な 判決であ. 2. る.現代において , このような判決をする 裁判官が. 民事手続とは. いたら, 即 罷免ということになろう. しかし,実際 の展開は異なった.訴えられたほうの 女は「結構で. (1 ) 民事紛争. す.断ち切ってください」と 言い , 訴えた女は「 決 生- かしてやってください」と 言った.結論は 明白で. 社会あ る限り,紛争は 絶えず生じる.規模の 大きい ものは戦争であ り,地域紛争であ る (たとえばコソ ボ ,チェチェン ,東ティモール 紛争 ). これらは,性. あ った. ソロモン王は , 子どもの命乞いをした 女が. 質上,国際問題が絡むため,多くは 国際法により. 真の母親であ るとの judgemenl をした・ソロモン 正- は , その子どもが 其の母親のところに 戻るべきであ ると. あ るいは政治的に. して殺さないでください.. どうぞ,あ の女に渡して. いう実体法規範は 知っていた. しかし,その 真の母 親 が誰であ るかはわからなかった.そこで ,其の母 親を知るために・「子どもに 死を宣告すれば 命乞いを するはずであ る」という で正確に言えば 証拠 法 上の ) 経験則を用いて judgement をしたのであ る・ あ る実体的なルールがあ る.たとえば,銀行から 借りたお金は 期限までに利息を 付けて返さなければ ならない,あ るいは,人を 傷つけたときは 治療代を 負担しなければならないというルールがあ. る. しか. し,訴えられたその 人が,本当に借金した人なのか どうか,あ るいは,傷つけた 人なのかどうかがわか みない場合があ る.あるいは,訴えた 側はとうに期 限は過ぎていると 主張しているが ,本当にその期限 で契約をしたのかがわからない ,あるいは,被告が この傷害事件は 不可抗力であ ったと主張する 場合も あ る. このように,原告・ 被告の間に事実に 関する 主張の対立があ る場合に,証拠に 照らして,いずれ の主張が真実であ るかを判断し , これに,実体法規. 範を適用して 実効性あ る救済をはかるものが 裁判で あ る.実体法規範の 適用が争われる 場合もあ る.た とえば通常の 人身傷害であ れば,過失なき 傷害者は 不法行為責任としての 損害賠償責任を 負わないが, 製造物責任では ,過失がなくても 責任を負う場合が あ る ( とくにアメリカでは , s㎡ ctIiability といって, メーカーがその 商品を市場に 出荷したことだけで ,. その商品が原因となって 生じた人身傷害について 責 任が認められる ). しかし,実体法の適用は裁判官の 専権 であ る, なお,イギリスやアメリカでは。 commonIaw の事. 件において. (つまり, equly の事件を除いて ) 陪審と いう制度が用いられる・このとき , 加d 穿 merlt をする. 役割が裁判官と 陪審に分けられる・つまり ,法の適 用については 裁判官が,事実の 認定に関しては 陪審 が ludgement をするのであ る ( ただし,陪審のする judgement は評決 (verdict)と呼ばれるⅠ・ 日本やドイ ツ・フランスでは ,. judgement をする,. これらはすべて 裁判官が. さて,民事裁判が扱う民事紛争とは 何だろうか. 解決される.. それでは, 国 , とくに行政機関が 絡む紛争はどう. か.たとえば,ある人があ る業種に属する 仕事を始 めようとして ,許認可権のあ る官庁 (省 ) に許可あ. るいは認可を 求めたが,拒否された 場合にはどうす るのか. 日本及び大陸法諸国では ,行政機関が行っ た不許可処分など ,行政庁の処分に 対しては,行政 訴訟といった 手続が用意されている. ドイッでは, 行政裁判所があ るほか,租税紛争を 扱う財政裁判所 もあ る. これに対して , アメリカは, このような行. 政機関相手の 訴訟も民事訴訟で 起こすことができる 点 ,大きな違いがあ る. 日本では,第 2 次大戦前は,. ドイツと同様の 制度があ ったが,戦後にアメリカ 流 の憲法が輸入されたため , この種の行政事件も 通常 の 裁判所において 行われるようになった , しかし, 手続自体は異なった 制度であ り, ドイツ と アメリ ヵ. の折衷のような 観を示している. それでは,刑事事件はどうか.小学生を 殺害した り,少女を 9 年間も監禁したりする 犯罪者を取り 締 まり,法廷において断罪するのは 刑事手続であ る. これは各国とも ,通常,同じ 裁判所組織に 中で扱 う ものの,手続自体は 民事訴訟とは 異なるものであ る. それはなぜか.それは , とくに刑事手続が「国家 対. 刑事被告人」という 構図を採り,たとえ 犯罪の嫌疑 がかけられてひょうとも ,被告人の人権 を保護し, 国家による不当な 扱いから守ろうとするものだから であ る.少なくとも 大陸法諸国においては ,国際紛 争はやや異なるが ,国家という 公権 力が裁判の - 方 側に立つときは , これを公法関係と 呼び,民事の紛. 争とは区別している. では,民事紛争とは 何か,たとえば,借金の返済 を求める紛争もあ る.交通事故で 職場を休まなけれ ばならなくなった 被害の賠償を 求める場合もあ る. 未婚の母の下に 生まれた子が ,本当の父親に 認知を 求めて提訴する 場合もあ ろう.あるいは大企業の 取 締役であ った者が,在職中の 経営判断の誤りから 生 じた莫大な損害を 求められる場合もあ る・この ょう な民事紛争は , - 言で言うと,原則として 公権 力の 行使者としての 国家が当事者として 登場してこない.

(3) 日本における 民事手続法の 現状 (坂田. 紛争をいうと 見てよい. これを 比楡 して,民事は. 横二水平の関係 の関係. (私法関係. (公法関係 ). ), 刑事や行政は. 縦二垂直. (2) 民事紛争の理論的背景 民事紛争について ,少しばかり ,理論的背景に触 れておこう.これから 述べることは ,大陸法の考え 方, しかも近代法 は ついての考え 方の典型でもあ る・ つまり,近代市民社会においては ,主役は市民一人 一人であ る.市民が自ら考えたことを 実行に移し 契約を互いに 交わし,企業を作り,社会を発展させ る意味 るのも,原則として 市民であ る.国家は,あ で,それに必要な 場を確保するために 必要な存在で あ る.羊を放牧している 柵を思い起こしてもらいた い.その柵から 外にでるならば ,羊に危険が及ぶ可 能性があ る.そのような 柵 ,いや枠 といったほうが よいかもしれない ,その枠の内部であ れば,市民同 士がいかなることをしても 自由であ る. しかし, そ 0 枠覚は「違法」 な 地域であ る.たとえば,巧みな 勧誘で 人 ( とくに老人 ) を惑わす商売などは ,経済 犯罪として違法であ り,刑事紛争となる ( ただし 老人が損害賠償を 求めるのは民事紛争であ る ). もし 行政がそのような 業種を取り締まるべき 法律があ る ならば,それは行政紛争ともなりうる.たとえば ,. その業種のシェアを 独占する企業に 対する規制とし て独占禁止法があ るが,「独占」と 判断されることは ,. 言い換えれば ,この枠を超えることであ る. このような枠で 囲まれた領域を 私的領域と呼ぶと するならば, まさに民事紛争は , この私的領域の 中. で行われる,取引を 中心とした,市民相互間の 活動 における紛争であ ると定義できる. この領域の活動 に 対して,国家は,原則として,介入してはならな い.理念的にいえば ,市民相互間で解決するのが 第 一であ る. ところが,市民相互間で 解決をつけると しても,必ずしも 合理的解決ではなかったり ,法律 の立場からは 許せない解決であ ったりする可能性も あ る.たとえばマフィアやヤクザ. (暴力団 ) が裏 で. 絡んでいる紛争などでは ,血で血を洗う 抗争に至る ことも考えられる.それは 好ましいことではないの で,国家は,一方でマフィアやヤクザを 取り締まる とともに ( こちらは刑事事件になる ), 他方で,市民 に対して (原則として ) 「自力救済」を 禁止する.そ の代わり,そうした 紛争の多くが 相互の事実主張・ 法的主張を異にしていることから , それを判断 (judgemenl)するために裁判所という 公的な司法機関 を 設置する.そして. し ,裁判所外で行われる仲裁の 制度は準司法的な 役 割を果たす ). 裏 返してみれば ,市民は自らの 利益あ. るいは権 利を守るために ,裁判所に対して 救済を求 める基本的な 権 利を有する. 日本では裁判を 受ける 権 利 (憲法 32 条 ) であ る. しかも,そうして 提起さ. という.. ,それ以外の司法権 の行使は認. めないという「司法の 独占」を行. (151) 151. 宏). う. のであ る ( ただ. れた訴訟において ,裁判所が法的判断の 基準として 用いるのは,第一に ,市民相互間の契約であ る・そ うした契約がないか ,あるいは契約などはじめから 存在しない紛争の 場合に,民法や商法といった 民事 実体法,いわゆる 私法が用いられる・これが ,近代 市民社会が採用した 大原則であ る私的自治の 原則で あ る.裁判所としては ,私法に照らして 違法でない ときは,市民相互で定めた契約内容に 基づき裁判を しなければならない.この 意味では,市民の意思が 国家によって 尊重されていると 言えるのであ り,理. 論的に詰めて 行くと,個人の尊重. (憲法. 13条 ) や値. 人の尊厳をも 保障していることになる. (3) 3 つのタイプの 民事手続法 難しい話はそこまでにして う. , 日本において ,このよ. な民事紛争を 扱 6 手続を概説してみよう 第 1 に,判決,つまり 判断をする手続が 必要であ る. 訴えてきた原告が 本当の母親で ,ほかの女に 奪われて いる子どもを 帰してもらう 私法的な権 利があ るかない かを確定する 手続であ る. ドイッや日本でいう 判決手 続であ り,ソロモン王の裁判もこれにあ たる.この手 続では,原告の 訴えに始まって ,事実関係が 明らかに される必要があ る.事実関係を明らかにするのは ,実 は当該市民同士,つまり 原告・被告という 当事者たち であ る.アメリカと大陸法諸国を 比べたとき,アメリ カは当事者を 代理する弁護士に 中心的な役割があ り, 大陸法諸国では 裁判官が当事者 (代理人 ) をリード す るという対照がなされる. しかしこれはあ くまで理 論的相違であ り,いわば説明の相違であ る.実際には ,. 当事者の協力がなりと 事実関係を明らかにすることは できない.そして ,事実関係が 明らかとなったと 裁判 所が判断をしたとき ,その事実関係にふさわし い 法律 を 適用して,当事者の 求める救済を あ る.. 与えるのが判決で 民 (理論上は,これを 権 利の観念的実現. この ょう な判決に至る 手続を規律するものが. 事訴訟法であ る の手続とも いう ). 第 2 に, このように確定した 権 利を実現化する 手 続が必要になる.たとえば「被告は 1000 万円の借金 を返済せよ」という 判決を得た原告は ,その判決書 を 1000 万円で売ることはできない.その 判決書はあ くまで判決書であ って,実際の経済的価値 二 お金を 得たわけではない. しかし,判決が 出たからと い っ.

(4) 152 (152). 横浜経営研究. 第21 巻. て 素直に支払う 被告ばかりともいえない (大半の被 告は支払わないだろう ). そのとき,司法の 独占をし ている国家は ,被告の財産の 中から必要な 財産を差 し押さえて,これを 処分し (売り払い ), その代金を もって原告への 支払いにあ てるという制度を 設けて. い る・これを強制執行,民事執行の 制度と いい ,民. 事執行法が規律するにれを 権 利の具体的実現の 手 続という ). この手続は,原告であ った当事者が 執行 機関であ る国に対して 差押え等の手続をする よう に 求めるという 点で , 実は公法関係であ る.また,被. 告であ った当事者の 財産を国家が 強制的に売却する 手続であ るので,執行手続における 被告の基本的な 権 利が保護される よう にしなければならない. 第 3 に , 仮の権 利救済と呼ばれる 手続があ る.権 利の観念的実現と 具体的実現の 手続には一定の 時間 がかかる.たとえば,被告には現在,資金・資産が あ るものの,ギャンブル 好きなので,将来的には 無 資力になるかもしれない.そのときには ,権利の観 念的実現の手続二判決手続よりも 先に,具体的実現 の手続二執行手続のために ,あらかじめ被告の 資 金・資産を押さえておく 必要があ る. この手続を 「仮差押え」と 呼ぶ.あるいは,隣地の所有者 (被告 ) との間で土地の 境界について 争いがあ る場合,被告 がその土地上に 高層ビルディンバを 建ててしまった 後では,たとえその 土地が原告の 土地であ ることが 確認されても ,今度は高層ビルディンバの 取り壊し を請求しなければならなくなる ( しかも,下手をす ると。 取り壊しは認められずに ,その土地を譲って 代金を得るのみで 満足しなければならなくなるかも しれない ). そこで,係争地への 立ち入りを禁じる 措 置が必要になる , これを「仮処分」という. これら. の「仮の権 利救済」を与える 手続を「民事保全手続」 といい ,民事保全法がこれを 規律する.民事保全手 続は,簡易・ 迅速な手続を 重視するが,後に 起こる 判決手続を理論的前提としている 点で,絶対のもの ではない.つまり ,仮差押えや仮処分をした 原告は, 続いて民事訴訟を 提起する必要があ るのであ る.. 3. 第1. .. 2 号 (2000). 話法 246 条にあ るとされている.これを 処分権 主義と いう ). もちろん,訴えの提起以前にも ,原告は弁護 士に相談したり ,仮差押えや仮処分の手続を 申し立 てたり,場合によっては ,証拠を保全するための 手 続 (証拠保全 : 民訴 法 234 条以下 ) を申し立てたりし なければならないであ ろう. しかし判決手続は 訴 えの提起によって 始まると観俳されている.訴えの 提起は訴状を 裁判所に提出することに よ るが,訴状 には原告が求める 救済とその範囲 (請求の趣旨 ) 及 び事実関係 (請求の原因 ) が記載されなければなら ない (民訴 法 133 条 ). 申し立てられた 救済の種類・ 範囲が当該紛争にふさわしく な い場合にも,裁判所 は,原告からの 変更がな い 限り , 他の救済や異なっ た範囲で救済する 判決をしてはならない.たとえば , 交通事故でなくなった 妻を甦らせてほしいという 申 立て ( これは法律上認められない ) を,その妻が亡 くなったことへの 慰謝料請求であ ると読み替えるこ とはできない・なお ,アメリカの民事訴訟には , こ. のような制約がない. 次に,審理が始まる.裁判にとっての 本質的要素 は二つあ って,一つは 法の適用, もう一つは事実の 認定であ る.そして,まず事実の認定がされなけれ ば, 法の適用は不可能であ る. したがって,審理の 中心は事実関係を 確定することであ る.審理は「口 頭弁論」と呼ばれる.口頭弁論期日においては ,法 廷の中で原告 ( 及びその代理人二弁護士 ) と被告 (及びその代理人 ) が対面してにれを 対席主義と呼 ぶ ), 事実に関するそれぞれの 主張をぶつけ 合 う . も し,そこで争 い のない事実があ れば,それはいわば 「真実」であ ると擬制される にれを自白と 呼ぶ ) 逆に,事実主張に 争 い があ れば ( たとえば貸金請求 訴訟で「金は 返した」「 い や返してもらってはいない」. というように 主張が分かれた 場合 ), 証拠によって 証 明する手続に 入る. これを「証拠調べ」と 呼ぶ.「証 拠調べ」は厳密な 意味で「口頭弁論」には 含まれな いが,証拠調べ期日は口頭弁論期日と 同じ日でもか まれない.証拠には ,証人, 当事者本人,書証,鑑 , 定 ,検証の 5 種類があ るが,書証,鑑定,検証は 訴訟の比較的早い 段階から可能であ るのに対して , 証人や当事者本人の 尋問は比較的遅い , 言い換えれ. 日本の民事訴訟. (1 ) 民事訴訟法の 基礎 それでは,民事訴訟法の 概略を見た後で , 日本の 民事訴訟法がどういった 点で改正される 必要があ. ば決定的段階で 用いられる.証人尋問については ,. どのように改正されたのかについて 考えて行こう. まず,民事訴訟は 原告の訴えによって 始まる.裏 返せば,民事紛争によって 何らかの不利益を 得てい. 第 2 次大戦後の改正でアメリカ 流の交互尋問方式が 取り入れられたが , あ まり成功しなかった. なお, 証明というのは ,数値化すると 80% 一 90% の高い確 率で裁判官が 確信を抱くことをいうのであ り,確信. るものが訴訟を 提起しなければならず ,国家が変わ. にいたらなければ 争いがあ るまま判決をせねばなら. って訴訟提起をすることはできない. なくなる.そこで ,原告の主張,被告の 主張の りず. り. (法的根拠は民.

(5) 日本における 民事手続法の 現状. (坂田. (153) 153. 宏). れが真実であ るかわからない 場合には ( これをラテ ン語で nonliquet という ), 当事者のいずれかの 不利. の証拠調べをした 後,判決を書く 段になって , 初め て全記録に目を 通す始末であ った. これでは訴訟が. に判断をすることになる.. 遅延するばかりではなく ,事実認定の際にも誤りを 犯す可能性が 増加し結果的に 上級審 (控訴裁判 所・上告裁判所 ) の負担も増える. とくに人口が 集 中する経済の 中心地であ る首都圏,関西圏をはじめ として,大都市圏の 地方裁判所は ,一人の裁判官が もっている事件の 数が 300 を超えるほどになっていた. また,最高裁も ,事件過密のため,上告してから 3 年経ってやっと 判決が出る状態にあ った. もちろん, このような訴訟遅延の 傾向は先進国の 共通した傾向であ る. ドイッでは 1976 年にいわゆる 「簡素化法」 (Vereinfachungsnovelle)が制定され,審 理の迅速化が 図られた.また,アメリカの連邦民事 訴訟規則も頻繁に 改正がなされており ,その全体的 な流れは,裁判するにふさわしい 事件がトライアル に 至り,そうでない事件はトライアル 前のディスカ ヴァリ一によって 和解へと導かれるか ,あるいは, 裁判 外 紛争処理制度 (Ⅲ temmatjveDisputeResoIution: ADR) によって解決される 構想をもっている (最近. これを証明責任と 呼ぶ. これは通常は 訴える原告が 負 う よ う に見えるが,先 ほどの貸金請求訴訟のように ,借りたお金を 返した という事実については 被告が証明責任を 負う.すな わち,弁済の有無が不明の 場合には,被告の不利に, つまり「返していない」ことになる. このようにして ,確定した事実関係にふさわしい 法律を探してきて 適用するのは 裁判官の職責であ る. 法律の適用の 結果,原告の求める救済が 与えられる かどうかが定まる.これを 判決と呼ぶ.判決が確定 すると,救済を 求める権 利について再び 争うことを 禁ずる焼判 力 ( 英米法で近似した 概念として res judicata があ る ) が生じる・しかし 敗訴した当事者 は判決の送達を 受けた日から 2 週間以内に控訴する ことができる (民訴 法 285 条 ). 日本の控訴審では , もう一度審理,すなわち 主張からやり 直すことがで きる ( ドイツも同じ.アメリカは ,事実主張はでき ないのが原則 ). 控訴審判決でも 不服があ る当事者は, 上告することができるが ,上告審 (その多くは最高 裁判所 ) は事実について 審理をしない.控訴審判決 において認定された 事実をもとに ,法律的な問題を 審理するにとどまる.. (2) 1996 年改正前の間頭貞一訴訟遅延 1926 年に改正された 日本の民事訴訟法は ,第2 次 大戦後の若干の 改正はあ ったが, 7Q 年間抜本的な 改 正を経てこなかった.その 間に,戦後復興を 遂げた 日本経済のめざましい 発展と,現代社会の 高度化に よる民事裁判の 複雑化が進んできた.また ,日本の 法文化として 一般にいわれるところの ,対決よりも 礼二話し合いで 事を収める民族性からか ,かえって 訴訟という対決の 場になるとあ れやこれやの 引き延 ばし戦術や証拠の 出し惜しみをして ,結果的に訴 訟 吉 民事裁判に長時間を 要するようになった.訴訟 遅延であ る.. たとえば,旧法下での 口頭弁論は「五月雨 式 審理」 椰撤 された・つまり ,口頭弁論期日に 出頭した原 告・被告の訴訟代理人は ,その場で主張することな く,ただ主張を 記載して「準備書面」を 裁判官に提 出しかっ相手方弁護士と 交換して,「準備書面記載 のとおり主張します」と 言 い ,裁判官は「次回期日 と. 3 分. はいっにしましょうか ? 」と言 う .その間,約 そして,約 1 ケ月 後に次回期日を 設定したものの , どちらかの弁護士の 都合が悪ければ ,次の審理は2 ∼ 3 ケ月 後になる・そして ,裁判官のほうも ,最後. では,ディスカヴァリ. ー. をより徹底して ,訴訟開始. 当初のプリーディンバの 段階で initialdisclosureをも 当事者に要求するようになっている ). また,イギリ スにおいても ,民事司法改革が LordWoolf を中心に 討議され, 1999 年に新しい GvilProcedureRules が誕 生した・日本は ,このような潮流の下に,西欧諸国, とりわけドイッ ,アメリヵ の改革から重要な 示唆を 得て,日本独自の民事訴訟法を 目指して, 1996 年, 新民事訴訟法及び 新民事訴訟規則を 制定したのであ る (1998年 1 月 1 日施行 ).. (3) 主要な改正点とプリンシプルの 変化 それでは,どのような 改正がなされたのか.大きく 分けて 5 つの方向の改正があ る. 第 1 は,事実審理に 関して,「口頭」弁論の実質を 復活するために ,口頭弁論に 至る前に争点を 明確にし, 争点に関する 証拠を集める 手続というものを 創設した. 争点及び証拠の 整理手続であ る (民訴 法 164 条以下 ). 争点証拠整理手続は ,さらに,①準備的口頭弁論,② 弁論準備手続,③書面による 準備手続の 3 つに分かれ る・立法者の 真の意図は,従来からあ る準備的口頭弁 論ではなく,新たに 加わった 2 つの整理手続により 訴 訟 審理の迅速化を 図ったものであ る.③の書面による 準備手続は,原則として 隔地者の間で 訴訟が起きてい るときに限られるが ,②の弁論準備手続は ,事実上非 公開で,法廷とはいえ 小さな小部屋にラウンド・テー プルを置き,裁判官,原告,そして 被告が遠慮なくも.

(6) Ⅰ. 54 (154). 横浜経営研究. 第 21 巻. のをいうことができる 環境でなされる. これは, ドイ. ツの簡素化法のアイデアであ り, また,アメリカ法に おいて訴訟代理人が 実質的な主導権 をもって訴訟を 行 うアドヴァーサリー・システムにもヒントを 得たもの といえるだろう. もちろん,この手続では,審理が 非 公開のため,裁判官主導が 行き過ぎるのではないか , あ るいは,この手続の後に行われる. 口頭弁論は一種の. セレモニ一にすぎなくなるのではないか あ るが,. , との疑念も. 日本人の当事者にとっては 堅苦しい法廷の 場. よりも本音を 持ち出すことができるこの. 手続のほうが ,. 第 1 . 2 号 (.2000). (すなわち,当事 事実主張に関して「随時提出主義」 者の主張は口頭弁論が 開かれている 間のいずれかの 機会に提出すればよいとの 原則Ⅰを採ってきた 旧 民 訴 法 137条を改正して ,民訴法 156 条が「適時提出主 義」 (すなわち。 事実の主張はタイムリ 一にしないと いけないとする 原則 ) を採ったことも 大きな変容で あ る.つまり,当事者としては 訴訟において 戦略を. 練り,代打満塁逆転 サヨ ナ ラ ホームランとなること. が明らかな主張を 最後までとっておくという 猿滑な やり方を採ることが 許されなくなった. ここには,. かえって「口頭」弁論の 実質を満たしているとの 評価. そういうやり 方が卑怯であ るという評価,言い 換え. もあ る.. れば訴訟における 信義誠実の原則に 違反するとの 評. 第 2 に,証拠収集の 手続が拡充した.アメリカの ディス ガ ヴァリ ー 制度のように ,一方当事者が相手. 方当事者や第三者が 持っている証拠を 収集しうる制 度ではないものの , しかし,相手方や 第三者の持っ ている証拠も 当該訴訟と関連のあ る限り.広く (般的に ) 訴訟の場に提出されるべき 義務が設定され. る (民訴 法 2 条 ). 見方 を変えれば,訴訟の 主導権 を握るのは裁判官であ り. 価が新たに加わったわけであ. 明治期の訴訟法が 当事者主義によった 歪みを解消す るものでもあ る. とくに,手続の 主催者としての 裁 判 長の権 限は至る所で 大きくなっている.たとえば ,. 訴訟のような 場合に,原告側が,被告の持っている 書類三文書を 特定化することが 困難であ る場合に, この負担を軽減する 規定も置かれた (民訴 法 223 条 ). 反対に.このような 文書に企業秘密が 隠されている. 争点整理手続のいずれを 採るかという 選択も,「当事 者の意見を聴いて (民訴 法 168 条Ⅰ」ではあ るものの, 裁判長が決定する (不満な当事者が 争う余地はな い ). この ょう に.新法におけるプリンシプルの 変容の d つは,訴訟の迅速化のために 裁判官の権 限をより 増 太させ,職権 進行主義を強化することであ った・ もう一つは,証拠調べに関連するプリンシプルであ. 場合に,提出を拒みたい被告側企業に 対して, - 部. る.従来は,原告は 原告の持っている 証拠を提出し ,. 提出や,裁判官だけがその 文書を読んで 提出命令を 出すかどうかを 決めるといういわぬ る イ ン・カメ ラ」手続も導入された (民訴 法 223条 ).. 被告は被告の 持っている証拠を 提出していた・ 例外と して文書提出命令の 制度があ ったが,これは法律が列 挙する場合に 限られていた (限定的義務としての 文書 提出義務 ). そこで,製造物責任訴訟における 被告メ ーカー側のように 自分に不利な 証拠を提出しない 当事 者に対して,実務は法律を拡大解釈することで 対処す るしかなかった. しかし,すでに述べたように ,文書. た (民訴. 法 220 条. :. 文書提出義務の - 般義務化 ).. ま. た,消費者が原告, 大メ 一ヵ 一 が被告の製造物責任. 「. 第 3 に , 今までほとんどフリー・パスで 上告がな. され,事件数が 過重になり苦しんで い る最高裁のた めに,上告制限制度を 採用した・第 4 に,少額訴訟 手続を設けた.第 5 に, OA 機器の発達に 伴い,これ を民事手続にも 導入した.たとえば,テレビ会議や 電話会議システムにより. 審理をすることができる. また,裁判官からの 質 間や依頼があ る場合に FAX. を. 利用する,などであ る. これらのうち ,第1 点と第 2 点の改正に伴い ,従 来 原則とされていた 事柄にも変容が 生じている・ま ず,第1 回口頭弁論が 開かれた後に 争点証拠整理手 続が新たに組み 込まれたことによって 生じてくる変 容であ る.争点証拠整理手続によって 事実主張はも ちろんのこと. ,書証もまた整理手続終了以前に. 提出. されることが 原則となる.たとえば,民訴法 167 .. 174. 17S 条に規定する 整理手続後に 後れて提出され た主張に関する 説明義務はその 現れであ る・また,. 提出義務を一般義務化することによって. ,自分に不利. な証拠でも提出する 義務が一般にあ るものと考えられ る素地が作られた.これは,英米法の証拠法の発想で あ る.しかし,アメリカのディスカヴァリ 一のような 制度は採用されておらず ,また,解釈論上も 例外規定 (民訴 法 220 条 4 号イロハ ) が存在することで ,必ずし も 全部の証拠について 新たなプリンシプルが 妥当する わけではないようであ る.最高裁平成11午 11月 12 日決 定も,銀行の 社内文書であ る「稟議書」は 民訴 法 220 条 4 号 ハに 該当するとして ,文書提出命令ができない と解釈している.訴訟における信義誠実の原則から 判 断 すべきものであ ろう・ ( さかた. ひろし. 横浜国立大学経営学部助教授 ).

(7)

参照

関連したドキュメント

ところが,ろう教育の大きな目標は,聴覚口話

日本語教育に携わる中で、日本語学習者(以下、学習者)から「 A と B

Aの語り手の立場の語りは、状況説明や大まかな進行を語るときに有効に用いられてい

高等教育機関の日本語教育に関しては、まず、その代表となる「ドイツ語圏大学日本語 教育研究会( Japanisch an Hochschulen :以下 JaH ) 」 2 を紹介する。

以上のような点から,〈読む〉 ことは今後も日本におけるドイツ語教育の目  

 日本語教育現場における音声教育が困難な原因は、いつ、何を、どのように指

 さて,日本語として定着しつつある「ポスト真実」の原語は,英語の 'post- truth' である。この語が英語で市民権を得ることになったのは,2016年

かであろう。まさに UMIZ の活動がそれを担ってい るのである(幼児保育教育の “UMIZ for KIDS” による 3