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業績管理における多元性を支える要素についての研究

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はじめに

 Kaplan and Norton (1992)が BSC(Balanced Scorecard)を開発して以降,日本において多 元的もしくは多面的な業績管理(測定・評価) という言葉が多くみられるようになった.しか し,筆者が調べた限りでは,あまりその言葉に ついて詳細な検討はなされておらず,定まった概 念として用いられていないように思われる.たと えば松尾(2006)では,BSC は多元的業績評価 システムとしての機能をもつとしているが,そ の多元的という用語については非財務指標を用 いること以外は述べていない(松尾,2006,74 頁).また乙政(2003)では,BSC の中核は多 面的業績測定システムであるとして,中核とな るための要件の 1 つに経営トップが事業単位の 業績を多面的かつ多元的に評価することとして いる(乙政,2003,38 頁).そして多面的とい う言葉は BSC の 4 つの視点を指し,多元的を 4 つの視点の間に生じる階層性のこととしている (乙政,2003,38 頁).現時点で多元的という言 葉が使用される場合に共通するのは非財務指標を 用いるということである.  その多元的業績管理システムの代表とされる BSC が現在日本ではほとんど導入されていな い状況にある.ここで,なぜ日本では BSC が ほとんど導入されていないのか,という疑問 が生じる.BSC の導入状況についての先行研 究によると,導入されていない理由の 1 つは, すでに BSC に代わる業績管理システムが企業 内に存在しているためであるという(伊藤他, 2001;乙政,2005;福田,2005).  そこで日本の多元的業績管理についての先行 研究をレビューし,業績管理における多元性を 支える要素を明確にすることで,多元的業績管 理の代表とされる BSC がなぜ日本では導入さ れないのか,また BSC を必要としない多元的 な業績管理とはどのようなものかを明らかにす ることにつながるといえる.  本論文では,多元的業績管理に関する文献研 究を中心として多元的業績管理を支える要素を 明らかにする.まず第 1 章で先行研究をもとに 日本における業績管理の特徴と問題点について 明らかにする.第 2 章では Kaplan and Norton の BSC のレビューをおこない,BSC の概念を確 認し,日本における BSC の導入の状況等を明ら かにする.第 3 章で日本における多元的な業績管 理(評価・測定)についての先行研究をレビュー し,第 4 章でそのレビューから得た多元性を支え る要素を明らかにする. 第 1 章 日本における業績管理の現状  この章では,日本における業績管理の現状に ついて検討する.まず第 1 節では,本論文で扱 う業績管理という用語について定義する.業績 という言葉には,管理・測定・評価といった言 葉が付随するが,その意味は論者によって異な る.それらの言葉を明確に区別するため,本論 文で扱う業績管理を定義する.  次に第 2 節では,日本における業績管理の特

業績管理における多元性を支える要素についての研究

宗  像  智  仁

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徴と問題点について,先行研究をもとに明らか にする. 第 1 節 本論文における業績管理の定義  ここでは,本論文で扱う業績管理という言葉 について定義する.  小林(1981)は,組織目的の達成度を予測・ 測定する情報を業績測定情報と呼び,組織内の 個人的な目的ないしその選好や動機を反映する 情報を業績評価情報と呼んで区別している(小 林,1981,7 頁).業績測定情報は,いろいろな 諸条件を反映した結果であり,その条件の中に は当該管理者がコントロールできないものが含 まれている.また,組織内の個人が組織目的と は異なる目的を持つために,組織目的の達成度 を示す業績測定情報に関心を示さなかったり, それに反感を示すことが考えられる.そのため 業績測定情報 は,各管理責任者 や 管理 さ れ る 人々を動機づけることができないことが多いと いう(小林,1981,7 頁).そこで,各管理責任 単位の業績を評価するためには,それらの管理責 任者の関心をそそるような業績評価基準を設定す ることが必要となるという.この業績評価基準に よって示される業績評価情報を,狭義の業績評価 情報と小林(1981)は呼んでいる1)(小林,1981, 7 頁).  また星野(2003)では,「業績測定の目的は, 単に全社的な財務的成果を予測・測定すること だけでなく,評価を通じてあるいは評価結果を フィードバックして業務上の問題点の把握,組 織単位や予算編成の見直し,能力の再評価,昇 給・昇格の改善,今後の人事計画や教育システ ムの見直しを行うことなど多岐にわたる.した がって業績評価も単に過去における職務の成果 の把握のみならず将来における人材の活性化に つながるトータルな評価を行うことが重要とな ろう.業績評価は,動機づけなどを通じてマネ ジメント・コントロールに大きな効果を発揮 することが期待されるのである」(星野,2003, 33 頁)としている.  これらの定義から,業績測定とは評価をして, フィードバックを前提としたうえで,組織目的 の達成度を予測・測定することであるといえ る.業績評価とは管理責任者もしくは管理され る人々を評価によって動機づけして,マネジメ ント・コントロールに貢献することであるとい える.本論文ではこの業績測定と業績評価をあ わせて業績管理として定義する.論者によって は業績測定と業績評価をそれぞれ別個のものと 考えていたり,もしくは評価のなかに測定を含 めていたりする場合がある.本論文では測定と 評価の両方における多元性を検討するため,そ れらを総称して業績管理と定義する. 第 2 節 日本の業績管理の特徴と問題点と BSC の関係  この節では,日本における業績管理の特徴と 問題点と,日本における非財務指標の利用につ いて先行研究から明らかにする. 第 1 項 伝統的な業績管理システムの問題点と BSC  廣本(1986)によると,管理会計システムに は情報システムと影響システムという 2 つの側 面があるという(廣本,1986, 73 頁).そして 管理会計システムの一部である業績管理システ ムにも,情報システムと影響システムの両側面 があるという(安酸他,2010a, 176 頁).安酸 他(2010a)によれば,情報システムとしての 業績管理システムには,戦略立案や資源配分に 関する意思決定に有用な情報を提供すること が期待されているという(安酸他,2010a, 176 頁).一方で,影響システムとしての業績管理 システムには,戦略の実現に向けて経営者・管 理者の意思決定や行動に影響を与えることが要 求されているという(安酸他,2010a,176 頁).  そのような役割を担うことが期待される管理           1)小林(1981)は,広義の業績評価情報は,業績 測定情報と一致するものを含むとしている(小林, 1981,7 頁).

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会計システムについて,Johnson and Kaplan (1987)は,短期の財務業績測定は技術の急速 な変化,製品のライフサイクルの短縮化,製造 業での組織上の革新により,その重要性が低下 しているとされ,非財務指標に目を向けること を指摘した(Johnson and Kaplan, 1987, pp. 253─ 262).安酸他(2010a)に よ る と,財務指標 は 経営活動の成果を表すとしても,過度に集約さ れた指標であり,どのような経営活動が財務成 果を生み出したのかについての情報を含んでい ないという.また財務情報がフィードバックさ れたとしても,過去の経営活動の成果であるた めにフィードバックのタイミングが遅すぎると して,情報システムとしての伝統的な業績管理 システムについての批判をあげている(安酸他, 2010a,177 頁).さらに,ROI や予算・実績の 差異分析といった財務数値による管理は,年度 を単位とするため管理者の近視眼的な行動を促 進するとして,影響システムとしての伝統的な 業績管理システムについて批判している(安酸 他,2010a, 177 頁).財務指標に大きく依存し た伝統的な業績管理システムは,情報システム としても影響システムとしてもその有用性が低 下していると指摘されている.

 Kaplan and Norton (1992)は財務指標だけで

なく非財務指標も含め,現代の経営環境に即し た業績管理システムを構築するために BSC を 開発した.当初彼らは BSC を業績測定システム としてとらえていたが,後の企業への導入経験か ら,Kaplan and Norton (1996a)では戦略的マネ ジメント・システムとしてとらえている. 第 2 項 日本の業績管理の特徴と問題点  新たな業績測定システムとして Kaplan and Norton によって開発された BSC が,後述するよ うに日本ではほとんど導入されていない.その 背景に BSC が開発された米国と日本では業績管 理の仕方に違いがあることがあげられる.日米 の業績管理の違いについては,いくつかの点が 指摘されている(加護野他,1983;櫻井,2015; 星野,2003).日本における業績管理の特徴を米 国との比較で表すと表 1 のようになる.  櫻井(2015)では,日本の伝統的な業績評価 についてその特徴と問題点をあげている.日本 は従来,総合的な評価をおこなうことで世界的 な評価を得てきたという.その利点として,① 長期的な視野に立って経営をおこなえる,②す ぐれた品質が確保できる,③総合力をもった経 営者の養成ができることをあげている.一方で デメリットについても述べている.①あいまい な基準によるため,個人の業績と報酬を明確に 表 1 米国との比較からみた日本の業績管理の特徴 米国 日本 組織内部 個人主義 成員間競争の奨励 実績を個人の権限・成績に関連づける 協調行動 集団への貢献度を重視 情報システム 垂直的・集権的 水平的・分権的 雇用形態 終身雇用は保証されず 終身雇用 給与 能力給 年功給 事業部長の昇進・配転への事業部業績の反映度 中 中 事業部長の報酬への事業部業績の反映度 大 小 予算情報と事業部長の評価の結びつき 大 小 業績評価 個人ベース 集団ベース 重視する指標 利益 多元的  (出所:加護野他,1983;星野,2003;櫻井,2015 をもとに筆者作成)

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関連付けられない,②個人の能力を十分に引き 出すことができないことである(櫻井,2015, 56 頁).  星野(2003)では,日本の業績評価について 「まず第 1 に人事考課にあたり上司と部下が設定 された目標に照らして面接のうえ業績評価を し,その結果が部下に必ずしもフィードバック されていない.第 2 に,従業員個人の業務内容 や職務責任の範囲が明確に規定されていない場 合が多い.第 3 に,表面的な結果や効果の評価 に重点がおかれ,個人の工夫や努力,意思決定 などの業績を左右する活動の評価には必ずしも 結びついていない.また,目標管理が導入され ることはまだ少ないし,たとえ導入されていた としても業務担当スタッフなどの個人的業績 に対するインセンティブが弱いから実際の業績 評価にあまり役立たない」(星野,2003,5 頁) と指摘している.  このように日本の業績管理自体の問題点とし ては,フィードバックが弱い点や報酬との連動 が弱い点などがあげられる. 第 3 項 日本における非財務指標の利用と問題点  次に日本における非財務指標の利用について みていく.  まず非財務指標の定義について,園田(1999) は,「基本的に非貨幣尺度と同義であるが,財 務諸表分析で用いられる比率は除外される」(園 田,1999,105 頁)としている2)

 Johnson and Kaplan (1987)によって,財務 指標に偏りすぎた業績管理の問題が指摘された が,日本においては従来から財務指標と同時に 非財務指標も重視されてきたとされている.た とえば,加護野他(1983)は日米企業の経営状 況の比較をおこない,その結果,日本企業が経 営目標として一番重視しているのは,財務指標 ではなく市場占有率という指標であることを明 らかにした(加護野他,1983,24─25 頁).また 星野(2003)でも 1993 年に日本の製造業に属 する企業を対象におこなった調査で,財務指標 のほかに市場シェア伸び率や目標達成度を非財 務指標として重視しているということを明らか にしている(星野,2003,44─48 頁).  一方,日本での非財務指標の利用の仕方につ いては問題点もあげられている,たとえば廣本 (2001)では,日本の製造業では仕損率やリー ドタイム短縮といった改善活動が収益性にどれ だけ結びついているかが明確ではなかったとさ れている(廣本,2001,163 頁).また田中(2002) は,「バランスト・スコアカードを単なる非財 務指標による管理ととらえて,日本企業はそう した点で,かなりの実績があるという見解もあ る.そうした見解は TQC や JIT の普及を根拠 にしている.しかし,日本企業の非財務指標は 財務指標とりわけ株主価値との関連づけがほと んどなされていない.しかも,非財務指標は戦 略マップのように体系化されておらず,戦略の 実行とも関連づけられていない」(田中,2002, 490 頁)と指摘している.  これまでみてきたように,日本の業績管理は BSC が開発された米国とは異なる特徴をもつ 一方で,業績管理の機能自体の問題点と非財務 指標の利用に関わる問題点がある.業績管理の 機能自体としては,フィードバックや報酬との 連動が弱い点があげられた.また非財務指標の 利用については,それらが戦略との結びつきが 弱い点や財務指標とのつながりが不明確である 点があげられた.  非財務指標を用いることが多元的業績管理で あるとすると,多元的業績管理を考える際,非 財務指標を用いることに付随する問題と業績管 理の機能自体の問題の両方を考慮する必要があ る.           2)園田(1999)では,非財務指標ではなく,非 財務的尺度という表現を用いている.また非貨幣尺 度とは「それにより測定を行った結果が,貨幣額以 外の単位で示されるような尺度」としている(園田, 1999,105 頁).

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第 2 章 BSC の概念と日本における導入状況  本章では,まず第 1 節で前述した財務指標偏 重の業績管理を改善するためのシステムとして 開発された Kaplan and Norton の BSC につい てレビューする.次に,第 2 節では日本大学商 学部会計学研究所(2014)の調査研究を中心に 日本における BSC の導入の状況等についてみ ていく.

第 1 節 KaplanandNorton の BSC

 ここでは Kaplan and Norton の BSC についての 主要な論文である,Kaplan and Norton(1992), Kaplan and Norton ( 1996a ),Kaplan and Norton (2000)についてレビューする.Kaplan and Norton (1992)では,BSC を業績測定のため のシステムとして考えていた.しかし,いくつ かの企業への導入を経て,Kaplan and Norton (1996a)では,BSC を業績測定のみならず,戦

略的マネジメント・システムとして利用でき ることを主張した.その後 Kaplan and Norton (2000)では,BSC の各視点の因果関係を明確 にするためのフレームワークとして,戦略マッ プを開発し,BSC の戦略的マネジメント・シ ステムとしての機能・役割が精緻化された. 第 1 項 BSC の誕生 ①業績測定システムとしての BSC

 Kaplan and Norton (1992)はこの論文の冒 頭で「あなたが測定するものはあなたが手に入 れ る も の で あ る(what you measure is what you get).上位の管理者は測定システムが責任 者や従業員の行動に大きな影響を与えることを 理解している」(Kaplan and Norton, 1992,p. 71)と述べている.この一文から,この論文に おいては BSC が業績測定を強く意識している ことがうかがえる.

 Kaplan and Norton (1992)は,これまでの財 務的な業績指標は工業時代には機能したが,今 日の競争環境では適さないとし,彼らの経験か ら上位の管理者は財務指標 (financial measures) と 非財務指標 (operational measures)の 両方 を 意識していることを指摘している (Kaplan and Norton, 1992, pp. 71─72). ② BSC の効果

 Kaplan and Norton (1992)は 12 の企業にお ける研究から,複雑な情報が一目で管理者に伝 わるような BSC を考え出した.これは財務の 視点,顧客の視点,内部プロセスの視点,学習 と成長の視点を含んだもので,イメージとして 飛行機のコックピットにあるダイアルとインジ ケーターを あ げ て い る(Kaplan and Norton, 1992, p. 72).

 Kaplan and Norton (1992)によると,BSC には 次の 2 つの効果があるという.1 つは,異なる 方向を向いているように見える企業内の競争的 な行動指針となるものを 1 枚の経営レポートに まとめることができるというものである.そし てもう 1 つは部分最適を抑制するというもので ある(Kaplan and Norton, 1992, p. 73). ③ BSC の構造  この論文では事例として ECI 社という半導体 事業の企業を紹介している(図 1).ECI 社の事 例では顧客の視点から説明している.Kaplan and Norton (1992)によると,顧客の関心は 4 つに分 類されるという.時間,品質,業績とサービス, そしてコストである.上位の管理者はこれらの分 類に目標を設定し,その下に属する管理者がこ の目標をより具体的にし,そして指標を図 1 の顧 客の視点のように設定した(Kaplan and Norton, 1992, pp. 73─74).

 次に内部プロセスの視点の説明をしている. Kaplan and Norton (1992)は 顧客重視 の 管理 は重要であるが,顧客の期待を満たすために 組織内部で何をすべきかを設定する必要がある と主張する.そしてそれと同時に企業のコア・ コンピタンスとは何かを知る必要があるとい う.ECI 社においては,半導体の微細加工がコ ア・コンピタンスであるとして,それを中心と して内部プロセスの視点で目標と指標を設定し た.企業全体としての目標と現場の従業員レベ

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ルの目標に繋がりを持つように設定する必要が あるが,ここで一致しているかどうかを判断す るのに情報システムの整備が必要となるという (Kaplan and Norton, 1992, pp. 74─75).

 3 つめの学習と成長の視点では,今日の競争 環境においてイノベーションを起こす力や改善 など,内部プロセスから企業価値に直結する能 力が必要であると指摘している(Kaplan and Norton, 1992, pp. 75─77).  最後に財務の視点では,戦略の実行が利益改 善に貢献しているかどうかをみることが必要と なる.ECI 社では 3 つの目標から指標を設定し ている(Kaplan and Norton, 1992, pp. 77─79). 第 2 項 戦略的マネジメント・システムとして

の BSC

① 4 つのマネジメント・プロセス

 Kaplan and Norton (1996a)は複数の企業に 対する BSC の導入を経て,BSC が戦略的マネ ジメント・システムの土台となることを発見し た.

 Kaplan and Norton (1996a)によると,ほとん どの企業では業務管理システムや,マネジメン ト・コントロール・システムは財務指標や目標 を中心として構築され,長期的な戦略目標達成 とはほとんど関係がなくなってしまうという. その結果,戦略の展開と戦略の実行には大きな ギャップが生まれるという.そこで BSC を用 いて 4 つのマネジメント・プロセス(図 2)を 経ることで,長期的な戦略目標と短期的な行 動を結びつけることができるという(Kaplan and Norton, 1996a, p. 75).

②ビジョンの変換

 1 つめのマネジメント・プロセスはビジョンの 変換 (Translating the Vision) である.Kaplan and Norton (1996a)によると,このプロセスで は組織のビジョンや戦略について企業内の合意 を得ることになる.このとき,企業のビジョン を目標や指標と統合させて,現場レベルでの行 動指針となるような言葉で表現する必要がある という(Kaplan and Norton, 1996a, pp. 75─76). ③コミュニケーションと関連付け  2 つめのマネジメント・プロセスは,コミュ ニケーションと関連付け(Communication and Liking)である.このプロセスでは管理者が戦 略を組織内の上層から現場まで伝達し,戦略と 部門や個人の目標とを関連付ける.このとき大 財務の視点 目標 指標 生存 成功 成長 キャッシュ・フロー 四半期売上高伸び率,事業部ごとの営業利益 市場シェアの増加率,ROE 内部プロセスの視点 目標 指標 技術のケイパビ リティ 卓越した製造 デザイン生産性 新製品の導入 競争者と比較した半導体の加工形状 サイクルタイム,ユニットコスト, 歩留まり シリコン使用効率,エンジニア能率 計画に対する実際の導入スケジュー ル 顧客の視点 目標 指標 新製品 供給反応 好ましいサ プライヤー 顧客提携 売上高に対する新製品の割合, 売上高に対する専売製品の比率 時間通りの配達(顧客による定義) 得意先顧客の仕入れの占有率, 得意先顧客による順位付け 協力的な開発活動の数 学習と成長の視点 目標 指標 技術リーダー シップ 製造学習 製品重視 市場までの時間 次世代製品開発までの時間 成熟までのプロセスにかかる時間 売上の80%を製品売上にする 競争相手に対しての新製品導入にか かる時間

 (出所:Kaplan and Norton,1992, p. 76)

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きく分けて 3 つの活動によってこのプロセスを 遂行するという.  1 つめの活動はコミュニケーションと教育で ある.戦略を実行するには,実行する人間を教 育することから始まる.そこで社内パンフレッ ト等を用いて従業員に戦略を伝達する.またビ ジネスユニットの戦略が具体化されると,そ れを上層部へ伝達することも必要である.BSC によってビジネスユニットは彼らの長期的な 戦略を財務指標と非財務指標を用いて定量化 し,伝達することができ,さらにそれらの指標 はフィードバックとアカウンタビリティの基礎 となるという.Kaplan and Norton (1996a)に よると BSC を伝達することは長期的戦略に対し て,コミットメントとアカウンタビリティをも たらすという(Kaplan and Norton, 1996a, p. 80).  2 つめの活動はゴールの設定である.組織の 高いレベルにある戦略目標と指標を部門や個人 レベルに変換しなければならないという.その 方法として,シャツのポケットや財布に入る大

きさの個人の BSC を作成することを提案して いる(Kaplan and Norton, 1996a, pp. 80─81).  3 つめの活動は報酬制度との関連付けである. Kaplan and Norton (1996a)によると,BSC は奨 励給を決めることに利用できるが,その関連付 けについてはリスクがあると指摘している.た とえば,企業は本当に正しい指標を設定してい るのか,また指標の設定において有効かつ信頼 できるデータを持っているのかなどの指摘があ る(Kaplan and Norton, 1996a, pp. 81─82). ④経営計画  3 つめのマネジメント・プロセスは経営計画 (Business Planning)である.このプロセスで は企業が経営と財務計画を統合する.Kaplan and Norton(1996a)によると,ほとんどの企 業では戦略的計画や資源配分や予算のための手 順と組織のユニットが分離されていることが 問題であるという.BSC ではこれらの戦略的 計画や予算編成の手続きを統合し,予算が戦 略をサポートするように企業を動かすという ビジョンの変換

(Translating the Vision)  ビジョンを明らかにする  合意を得る

コミュニケーションと関連付け (Communicating and Linking)  コミュニケーションと教育  ゴールの設定  業績指標と報酬制度のリンク 経営計画 (Business Planning)  目標の設定  戦略的イニシアティブとの 適合  資源配分  マイルストーンの設置 フィードバックと学習 (Feedback and Learning)  共有したビジョンの明確化  戦略的フィードバックの提供  戦略のレビューと学習の促進

BSC

 (出所:Kaplan and Norton, 1996a, p. 77)

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(Kaplan and Norton, 1996a, p. 82). ⑤フィードバックと学習 

 4 つめのマネジメント・プロセスはフィード バックと学習(Feedback and Learning)であ る.このプロセスでは企業が戦略的学習をおこな う.BSC によって企業は 3 つの追加された視点 から短期的結果を確認することができ,今の業 績の視点から戦略を評価し,即時に学習を反映 して戦略を修正することができるという.  Kaplan and Norton(1996a)は,今日の不安定 な環境において,企業が複雑な戦略を設定した ときはその妥当性があったとしても,経営状態 の変化によってその妥当性が失われる可能性が あると指摘する.そこで企業はダブルループ学 習をおこなう必要があるという.予算やその他 の財務的マネジメントツールでは,ダブルループ 学習をおこなうことができない.なぜなら,そ れらは 1 つの観点から業績に焦点を当てたツー ルであり,戦略的学習との関わりがないからで あるという.ここでいう戦略的学習とは,フィー ドバックを集め,戦略に基づく仮説を検証し, 必要な調整をすることであるという(Kaplan and Norton, 1996a, p. 84).

 Kaplan and Norton (1996a)によれば,BSC は戦略的学習に必要不可欠な 3 つの要素を提 供するという.1 つは企業の共通のビジョンの 定義を明確にし,企業がチームとして達成す べき結果を明らかにすることである.2 つめが フィードバックシステムを提供することであ る.そして 3 つめが戦略的学習に欠かせない, 戦略のレビューを提供することであるという (Kaplan and Norton, 1996a, pp. 84─85).

⑥ BSC の活用方法

 Kaplan and Norton(1996a)の導入経験から, 企業は以下の目的で BSC を利用しているという. ⃝戦略の明確化と更新 ⃝企業全体への戦略の伝達 ⃝ ユニットや個人のゴールと戦略の関連付け ⃝ 長期的な戦略目標と年間予算の関連付け ⃝戦略的イニシアティブの認識 ⃝  戦略の学習と改善のための期間業績レビュー  Kaplan and Norton はこの時点で,「BSC は 戦略の実行を管理するためのフレームワークを 提供し,一方で企業の競争や市場,技術環境に 応じて戦略自体を評価可能にする」と定義して いる(Kaplan and Norton, 1996a, p. 85). 第 3 項 戦略マップの利用

 Kaplan and Norton (2000)では,戦略マップ (Strategy Map)と い う ツール を 新 た に 開発 し,Mobil 社の事例を参考にしてその内容の説 明をおこなっている.戦略マップは組織の目標 やイニシアティブ,ターゲット,指標のつなが りを明らかにすることができるという(Kaplan and Norton, 2000, p. 170). ①戦略マップの必要性

 Kaplan and Norton(2000)によると,戦略 マップは従業員に対し組織全体の目標と彼らの 業務との間につながりを与えることができると いう.そして,どのような改善が望ましい結果 を生み出すかという因果関係のつながりを示す という(Kaplan and Norton, 2000, p. 168).  Kaplan and Norton (2000)は,当時の情報化 の時代では,有形資産だけでなく無形資産も競 争優位の主な資源となっているが,無形資産や それが生み出す価値を説明するツールが存在し ていないと指摘する.そこで彼らは BSC につ いての研究から得られた傾向を視覚的フレーム ワークとしてまとめた.そのフレームワークが 戦略マップであるという.このフレームワーク では BSC のさまざまな項目に因果関係をもた せ,望ましい結果とそのドライバーを結びつ けるという.戦略マップは BSC の 4 つの視点 と一致する 4 つの領域をもつという(Kaplan and Norton, 2000, pp. 168─170). ②トップダウンによる戦略マップの作成  Kaplan and Norton (2000)に よ る と,戦略 マップを作成する上でもっとも良い方法は, トップダウンで作成することであるという.経 営者は彼らのミッションステートメントやコア バリューについての最初のレビューをするべき

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であり,その情報をもとに管理者が戦略的ビ ジョンを展開させるという.そしてそのビジョ ンが企業全体としての目標を明確にするという (Kaplan and Norton, 2000, p. 170).

③ Mobil 社の事例  図 3 は Mobil 社の戦略マップである.Mobil 社は,中央管理された生産体制から,顧客主導 の分権組織へと再構築するために,この戦略 マップを用いている.このとき戦略マップ上の 4 つの視点の指標は連動している. ⃝財務の視点

 Kaplan and Norton (2000)によれば,戦略マッ プは株主価値を高めるために財務戦略から作成 されるという.そして企業には財務戦略として 収益性向上と生産性改善という 2 つがあるとい う(Kaplan and Norton, 2000, p. 170).

⃝顧客の視点

 Kaplan and Norton (2000)は,経営戦略で核と なるのは顧客価値提案であると主張する(Kaplan and Norton, 2000, p. 172).  一般的に価値提案は 3 つの差別化要因から選 択される.オペレーショナル・エクセレンス, カ ス タ マー・イ ン ティマ シー,製品 リーダー シップである3).企業は 3 つのうちの 1 つで突 出し,残りの 2 つは標準を維持しようとする. Kaplan and Norton (2000)によると,約 4 分の 3 の経営チームが,価値提案の明確な定義につ いて意見の一致を得ていないという(Kaplan and Norton, 2000, p. 172).

⃝内部プロセスの視点

 Kaplan and Norton (2000)によると,組織が

顧客と財務の視点の明確な描写を得ると,次は 財務目標を達成するために顧客への価値提案や 生産性改善の手段を明らかにすることができる という(Kaplan and Norton, 2000, p. 172). ⃝学習と成長の視点

 Kaplan and Norton (2000)によると,学習と 成長の視点まで完全に戦略マップを作成する と,その戦略マップにはいくつかの機能がある という.1 つは戦略の実行段階において現場レ ベルで生じるギャップを見つけ,それを修正す ることである.もう 1 つは BSC が戦略的では ないとき,それを認識することができるという ことである.類似した状況としては企業が単な る KPI スコアカードを作成してしまった場合 があげられる.KPI スコアカードではその場 合限りでの指標の寄せ集めになってしまい,ど のように目標を達成していくかという戦略マッ プを描くことができないという(Kaplan and Norton, 2000, pp. 175─ 176). 第 2 節 日本における BSC の状況  ここでは日本大学商学部会計学研究所(2014) の調査研究を中心として,日本における BSC の導入状況や導入目的などについてみていく. 第 1 項 導入状況  まず,日本大学商学部会計学研究所が 2011 年 から 2012 年にかけておこなった調査研究をもと に日本における BSC の導入状況についてみてい く.  日本大学商学部会計学研究所(2014)によると, 日本における BSC の導入状況は表 2 のように なっている(回答数:189 社,回収率:9.2%). 日本における BSC の導入率はかなり低く,将 来の導入予定を含めても 12.9% となっている. 第 2 項 導入目的・背景  次に導入目的・背景についてみていく.日本大 学商学部会計学研究所 (2014)の調査では,BSC の導入目的は表 3 のようになっている.また,他 の調査研究をみると,青木・櫻井(2003)では, 「戦略の実行」72.5%,「戦略の策定」54.9%,「成          

3)Treacy and Wiersema (1995)によると,「オ ペレーショナル・エクセレンスとは,信頼できる 製品ないしサービスを競争的な価格で,それに伴 う困難さと煩雑さを最小にしたうえで顧客に提供 することである.製品リーダーシップとは,継続 的に最先端を再定義するような製品を提供するこ とである.またカスタマー・インティマシーとは, 顧客に単なる製品やサービスではなく,総合的な 解決策 を 販売 す る こ と で あ る」と い う(Treacy and Wiersema, 1996, p. 31).

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Mobil社のROCEの向上 • 企業の実際の資本利益率 • 同業他社と比較した純利益 収益性成長戦略 顧客のニーズの理解とそれに 応じた差別化 生産性向上戦略 既存の資産の最大活用(全体 の配送コストを削減するため に業務の統合) 隣接するコンビニエンスストアの 拡大を通して,ガソリン以外から の新しい収益源の導入 顧客収益性を増加させるた めにより質の良いブランド の販売 • 非ガソリン製品からの収益 • 利益率 • 同業他社と比較した販売量 • 定番商品の売上に対して, プレミアム商品の売上比率 全てのサプライチェーンカテ ゴリーの中で産業のコスト リーダーとなる • 同業他社と比較した1ガロン 当たりのコスト 既存の資産の最大活用 • 同業他社と比較した実際の キャッシュフロー 財務の視点 顧客の視点 製品/サービス属性 清潔さ 安全性 品質 スピード 購入 顧客関係 親身で 有益な 従業員 顧客ロ イヤリ ティの 認識 イメージ 信頼ある ブランド ディーラーとのWin-Winの関係 より消費者 向けの製品の 提供 ディーラーの スキル開発の 支援 • ディーラー収益性 • ディーラー満足度 顧客を喜ばせる • ターゲット顧客セグメントのシェア • 覆面調査の評価 内部プロセスの視点 非ガソリン製品と サービスの開発 顧客セグメントのよりよい 理解と最高のフランチャイ ズチームの結成 ハードウェア業績の改善と在 庫管理,スペック通り・時間 通りの配送,産業のコスト リーダー 環境衛生及び安全の改善 • 新製品の受諾率 • 新製品のROI • ターゲット市場のシェア• ディーラー品質評価 • 精製のイールドギャップ • 予定されていない停止時間 • 在庫水準 • 在庫切れ率 • 競争相手に対するABC • 環境や安全性にかかわる 事故の減少 学習と成長の視点 オペレーショナルエクセレンスの促進, リーダーシップ開発,企業と従業員の考え 方の統合 プロセス改善をもたらす新テクノ ロジーの適用 経営と個人のゴールの一致 • 業務範囲に対する戦略的 スキルの比率 • 時間通りのシステムの展開 • 個人のBSC • 従業員フィードバック 差別化要因 一般的要求

 (出所:Kaplan and Norton, 2000, p. 171)

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果連動型の業績評価」51.0%,福田(2005)では, 「戦略と現場業務の関連づけ」が 9 社(43%), 「多面的な業績評価」が 6 社(29%)であった.  これらの結果から,導入している企業は特に ①戦略との関連づけと②業績評価の 2 つを目的 としているといえる. 第 3 項 日本に BSC が浸透していない理由  日本大学商学部会計学研究所(2014)の調査 研究を見る限り,日本企業において BSC が浸 透しているとは言えない.伊藤他(2001)は BSC が浸透していない理由を次の 3 つにまと めている(伊藤他,2001,219─221 頁). ① BSC が報酬連動型の業績評価システムであ るとの認識が強いため. ② すでに類似のツールや枠組みが組織の中に定 着しているため. ③ BSC 経営が企業に根付くために必要となる インフラストラクチャーが日本企業にもと もと欠けているか,もしくはその整備が容 易に進まないため.  また乙政(2005)では,2001 年におこなった 調査で BSC を導入しない理由についてまとめ ている(表 4).同様に福田(2005)も BSC を 導入しない理由・背景についてアンケート調査 (2004 年実施)をおこなっている.その結果は 表 5 のようになっている.  これらの結果から,日本企業において導入し ない理由としては① BSC 以外の方法が組織内 に定着している点と,②導入のコストがかかり すぎる点という 2 つに分けることができる. 表 2 BSC の導入状況 BSC の導入の状況 回答数 % ①全グループで実施している 11 6.1% ②一部の関係会社(含親会社)で実施している 6 3.4% ③今は実施していないが,実施する予定がある 6 3.4% ④今のところ実施する予定はない 156 87.2% 回答企業数 179 100.0%  (出所:日本大学商学部会計学研究所,2014,192 頁) 表 3 BSC の導入の目的 BSC の導入の目的 回答数 % ①業績評価のため 10 76.9% ②戦略策定とその実行のフォローアップのため 13 100.0% ③人事評価のため 6 46.2% ④情報化投資評価のため 1 7.7% ⑤リスク管理のため 2 15.4% ⑥知的財産権の管理のため 1 7.7% ⑦予算管理の代替(脱予算経営,予算不要論)のため 0 0.0% ⑧経営統合の推進のため 1 7.7% ⑨その他 0 0.0% 回答企業数(複数回答あり) 13 100.0%  (出所:日本大学商学部会計学研究所,2014,192 頁)

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第 3 章 多元的業績管理に関する先行研究  ここでは日本における多元的(もしくは多面 的)業績管理についての先行研究をレビューす る.第 1 節では乙政(2003)を,第 2 節では小 林(2003)を,第 3 節では松尾(2006)をそれ ぞれレビューする.いずれの研究においても, 中長期的な視点を追加しようとする点と,コ ミュニケーションもしくは浸透といった点が強 調されている. 第 1 節 BSC との比較からみた日本における 非財務指標の利用  乙政(2003)では,日本企業における業績評 価指標の利用方法の実態を明らかにするため に,BSC 導入企業の事例から考察をおこない, 先行研究を検討し,自身がおこなった質問調査 票についての分析結果を述べている. 第 1 項 事例と先行研究の検討  乙政(2003)によると,日本で BSC を導入し ている企業は,財務業績の悪化から立ち直るた 表 4 BSC を導入しない理由 (有効回答数= 64 社,複数回答可) 選択項目 回答数(比率) 業績評価指標の簡便性を維持したいから 32(50.0%) 導入・維持コストが便益を上回ると予想されるから 8(12.5%) 様々な視点の業績指標によるトレードオフが予想されるから 16(25.0%) すでに企業内で類似的手法が存在し,良好に機能しているから 14(21.9%) 経営トップの同意を得るのが困難であるから 4(6.3%) 業績が好調であるから 3(4.7%) 従業員の理解を得ることが困難であると予想されるから 7(10.9%) 一時的な流行だと予想されるから 5(7.8%) トップダウン・コントロールの強化につながると予想されるから 1(1.6%) 導入を検討する以前の段階にあるため(調査中) 6(9.4%) 定性面での評価を定量化することに無理があると考えるため 1(1.6%) その他 6(9.4%)  (出所:乙政,2005,104 頁) 表 5 BSC を導入しない理由・背景について (複数回答可) 社 % 既存の業績評価方法で充分である 17 社 37% すでに BSC と類似の業績評価を実施 5 社 11% BSC の効果に懐疑的である 8 社 17% BSC 導入にはコストがかかる 7 社 15% その他 9 社 20% 合計 46 社 100%  (出所:福田,2005,124 頁)

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めというよりも,主に中長期的な観点から自ら を取り巻く環境に対応するために BSC を導入し ているという(乙政,2003,30 頁).そしてより 詳細な理由として,以下の 4 つをあげている. ① 日米欧で創設されている品質プログラムの影響 ② 業績連動型の報酬制度を確立するため ③ 経営の仕組みを改革するのを支援するため ④ 新しいビジネス・モデルを構築するため  また日本における BSC の利用方法として,多 面的な視点のもとで戦略を業績評価指標に置き 換えること,それらの指標間に因果関係を想定 すること,下位部門にも多面的に解釈された戦 略を展開することに新しい考え方を見出してい ると指摘する(乙政,2003, 36 頁).  しかし,BSC において中核となるのは多面 的業績測定システムであり,このシステムが戦 略的マネジメント・システムとしての BSC の 中核となるには,①戦略を中心に据えること, ② 4 つの視点の下で非財務的指標を体系的に取 り入れること,③それらの視点・指標間に因果 関係を想定すること,④戦略から導き出した指 標に目標を設定すること,⑤経営トップが事業 単位の業績を多面的かつ多元的に評価すること が要求されるという(乙政,2003,38 頁).こ のとき 4 つの視点に因果関係が想定されること によって,4 つの視点は階層性を有することに なり,乙政(2003)はこの階層性を多元的とし ている(乙政,2003,38 頁). 第 2 項 質問調査票の分析結果と課題  乙政(2003)は,日本企業 の 業績評価指標 の利用方法を解明していく目的で,5 つの手順 に従って郵送質問調査票の分析をおこなった (161 社,回答率 19.5%).その中で本論文と関 わりがある調査結果をみていく. ① 事業単位の業績測定にどのような指標を利用 しているか  乙政(2003)は,BSC の 4 つの視点に従って 企業がどのような視点を利用しているのかを調 査した.その結果,62.6% の企業が 4 つの視点 から指標を選択しており,3 つ以上の視点から 指標を選択している企業を合わせると 80.3% と なり,日本が多面的に業績測定をおこなってい ると明らかにした(乙政,2003,49 頁). ② 戦略に応じて業績評価指標を使い分けている か  乙政(2003)は,戦略を示す変数と業績評価 指標との相関分析をおこなったが,業績評価指 標と戦略との関連性は部分的にしか見出せな かったと結論づけている(乙政,2003,49─50 頁). ③ 財務的指標と非財務的指標を関連付けている か  乙政(2003)は,調査した指標の相関分析を おこなったところ,財務的指標と非財務的指標 との相関については良好な結果を得ることがで きなかったとしている.また,BSC で述べら れている学習と成長→社内ビジネス・プロセス →顧客→財務という財務的な成果に至るまで のストーリーを描く指標間の関係は見いだせな かったとしている(乙政,2003,50 頁).  分析結果から得られる今後の課題として,日 本企業の戦略を明確にすること,日本企業が業 績評価指標を設定する際の基準となる要因を探 求すること,業績評価指標を利用して,戦略を ストーリーとして表現するという発想が日本に あるかどうか検討することをあげている(乙政, 2003,52 頁). 第 2 節 業績評価のあり方と指標設定における 因果関係の内容  小林(2003)では,近年の韓国や中国の台頭 により,先進国市場だけでなく発展途上国の市 場においてもシェアを失っていく可能性がある ことを懸念し,BSC とこれにもとづく業績評 価は日本企業の課題を解決しうるマネジメン ト・システムでありうるのかについて検討して いる. 第 1 項 変革にむけた業績評価のあり方  小林(2003)によると,現代の日本企業には, 意識の抜本的変革や行動力の増大が求められて

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おり,人々の意識変革などに向けて人々を動機 づけるような仕組みが必要であるという(小林, 2003,35 頁).そして業績評価は処遇(報酬と ポスト)制度と一体となることで,変革に向け ての効果を発揮することができるという(小林, 2003,35 頁).  小林(2003)は,BSC は 長期・短期 の 取組 みをバランスさせ,結果に至るプロセスも管理 できる可能性をもつが,その可能性を発揮する には企業が目指す方向に対して整合的な諸制度 が必要であると主張する.企業が求める方向へ 向けての行動や人材を高く評価し,評価に見 合った処遇をしていくことが必要であり,BSC における指標の選択や目標値の設定も変革に向 けたそれら諸制度と整合的でなくてはならない という(小林,2003,39 頁). 第 2 項 因果関係の内容と納得性  因果関係にもとづいて指標を設定する際,そ の因果関係を検証することは難しいという.そ のため,仮説の集合から導き出された目標値を 人々が妥当なものとして受け入れるには,①仮 説が人々の経験,知識,感覚からもっともに思 えることと,②仮説からの目標値の導出のプロ セスが合理性その他の理由から納得性が高いこ とが必要であると小林(2003)は主張する(小 林,2003,36 頁).  また小林(2003)はその納得性については 2 種類あるという.「①現状の延長線上にあるもの についての納得と②思考・行動様式の変革をと もなうもの」(小林,2003,37 頁)であるという. 前者の納得については BSC 導入レベルで対処 可能かもしれないが,後者については人事制度 の変革を含めた総合的取組みが必要であるとい う(小林,2003,37 頁). 第 3 節 非財務指標の導入事例からみるその効 果と課題  松尾(2006)では,自動車を中心とする組立 加工機器メーカーである A 社を対象とした調 査研究をおこない,非財務指標の導入に関わる 効果と課題の分析をおこなっている.  松尾(2006)によれば,業績評価システムに 非財務指標を活用することに関しての問題は 2 つあるという.1 つは指標間のリンケージの問 題であり,もう 1 つは非財務指標の設定に関わ る技術的な問題である(松尾,2006,77 頁).こ の 2 つの問題を意識したうえで松尾(2006)は, A 社で非財務指標が導入されるプロセスにつ いて継続的に観察するため,インタビューおよ び参加観察による定性的な調査研究をおこなっ た.その調査結果から本論文と関わりがある点 をみていく. 第 1 項 時間軸の存在  松尾(2006)は,A 社 の 新 し い 業績評価 シ ステムの特徴として,次の 3 つの点をあげてい る.①組織を明確に動機づけるために業績結果 を期末の賞与に反映させている点,②中期経営 計画目標と業績評価指標をリンクさせている 点,③業務活動が短期的視野に陥ることなく, 中期の戦略計画を実現するために非財務指標を 活用している点である(松尾,2006,81 頁). これらの 3 つの特徴のうち②と③は時間に関係 した特徴になっている.  また,松尾(2006)によると複数の部門の評 価において,客観的,公平かつ分り易い評価体 系にするためには,評価の指標の数は少なく, また各評価指標の評価ウエイトは同じであるこ とが望ましいという.一方,事業規模や成長段 階の異なる複数の部門の努力を評価しようとす ると,評価指標や評価方法に多様性が求められ る.A 社ではこれら相反する条件を考慮し多 様な評価に対応するため,複数の評価指標を使 い な が ら,財務関連 4 指標(① ROA,②予算 達成度,③ 1 人当利益,④売上成長性)と⑤戦 略課題達成度の評価ウエイト,計算方法は共通 化したという(松尾,2006,81─82 頁).①から ⑤のすべてにおいて,指標の設定には中期経営 計画や戦略との関連付けが考慮されたという. ここでも業績評価と長期的な時間との関わりが 考慮されている.

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第 2 項 財務指標と非財務指標の分類  松尾(2006)によれば,A 社は経営トップと 部門がインターラクティブな関係性で指標の設 定をおこなっていたという.しかし,ここで何 を非財務指標と設定するかについて問題があっ たという.それは「ダブルカウント」の問題で ある.  部門が設定した非財務指標には,「〇〇地域の 販売台数〇〇の達成」や「〇〇製品の販売台数 ○○の達成」など明らかに財務指標と重複して いるものがある一方で,「○○製品の原価低減目 標(○○ % ダウン)の達成」や「クレーム費○ ○ % ダウン」などは,財務指標とのリンケー ジが強いが顧客満足や品質に関連するものであ り,非財務指標の対象とすべきかどうか意見が わかれたという(松尾,2006,86 頁).短期的 に財務的成果につながるような戦略課題に関す る非財務指標は指標間のリンケージが強く,財 務的成果が上がれば非財務指標の評価も高くな る可能性がある.しかし財務指標は別途評価対 象となっているため,総合得点の計算において は「ダブルカウント」が生じる可能性があり, また他方で「共倒れ」のリスクもあるという(松 尾,2006,86 頁).  これについて松尾(2006)によると,比較的 業績が好調な部門は財務指標とリンケージの強 い指標を設定し,財務業績が低調な部門は短期 的な財務成果とのリンケージが弱い指標をあえ て設定する可能性があり,目標値の設定におい てどの程度が妥当な目標なのかについて本社企 画部門は評価が難しいという点が運用段階にお いて問題になったという(松尾,2006,86 頁). このような問題を低減させる上では,より積極 的なコミュニケーションが必要であるという (松尾,2006,86 頁). 第 3 項 多元的業績管理と責任・権限体制の関  松尾(2006)によれば,A 社の事例では戦略 課題達成度を設定する際は,各部門において主 体的に検討したうえで,最終的な決定は全社業 績評価の統括部門である本社企画部門との調整 会議を経ておこなわれたという(松尾,2006, 83 頁).指標を各部門で検討することになった 理由は 2 つあるという.1 つは全社戦略や目標 に各カンパニーの戦略課題を関連付けるために は,各部門の事業内容に精通している必要があ るためである.もう 1 つは,本社が部門の具体 的な戦略課題指標を選択することは,指標と戦 略が関わっているだけに,カンパニー制におけ る分権管理の趣旨と矛盾するためである(松尾, 2006,83 頁).  しかし,松尾(2006)によると全社戦略に基 づき各部門が戦略課題を主体的に設定するなか で,本社部門が被評価部門の指標に影響を与え ようとした場合,どの程度はたらきかけるかが 問題になったという(松尾,2006,88 頁).つ まり,本社部門が関与を強め,被評価部門にとっ て納得性の低い評価指標や目標値の設定を余儀 なくされた場合,部門の主体性が失われていく 可能性が高くなり,インターラクティブなコン トロールが戦略マネジメントの重要な機能だと すれば,権限責任体系と整合的に何をどこまで コントロールするかをまず明確にする必要があ ると松尾(2006)は指摘する(松尾,2006,88 頁). 第 4 章 多元的業績管理の促進要素  多元的に業績を管理する上で重要となるのが 非財務指標の扱いである.このとき,むやみに 非財務指標を使用すればよいというわけではな く,何らかの意図や目的をもって設定する必要 がある.その設定の際に意識すべき要素を理解 して,非財務指標を設定することで経営行動を 支援する多元的な業績管理が可能になる.園田 (1999)によると,非財務指標とは財務指標を 補完するものであるという(園田,1999,117 頁).このような位置づけで指標を設定し業績 管理をする際,意識すべき要素として「時間軸 の認識」と「納得性」が重要である.ここでは 先におこなった先行研究のレビューをもとにこ

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れらの要素について明らかにする. 第 1 節 時間軸の認識

 多元的な業績管理する際,必要となる要素の 1 つとして時間軸を認識することがあげられ る.Johnson and Kaplan (1987)によって,短 期の財務指標の重要性が低下していることが指 摘された.そこで非財務指標には長期的な時間 の広がりをもたらす役割が求められる.  短期的に目標を達成することも重要である が,企業は継続していくことを前提としている ため,組織目標や経営目標を長期的に成し遂げ ることも重要であり,長期・短期のバランスを とることが必要である.そのためには戦略が必 要であり,多元的業績管理は長期・短期のバラ ンスをとりつつ,戦略の遂行を支援するように おこなわれるべきである.田中(2002)による と「戦略とは企業の目的を設定し,目的を達 成するための行動方針を決定することである. もっとも重要な決定は企業の構造(structure) を決めることである.構造とは資源の組合せで ある.したがって戦略とは資源の配分または再 配分のことである」(田中,2002,479 頁)と している.資源の配分または再配分は短期・長 期の両方を考慮する必要がある.  松尾(2006)の事例では,A 社の業績評価シ ステムの特徴として「中期経営計画目標と業績 評価指標をリンクさせること」と「業務活動が 短期的視野に陥ることなく,中期の戦略計画を 実現するために非財務指標を活用すること」を あげていた.さらに業績評価指標の設定におい ては中期経営計画や戦略との関連付けが考慮さ れたという(松尾,2006,81─82 頁).また小林 (2003)によれば,BSC が機能しているという 前提のうえで,BSC は長期・短期の取組みを バランスさせることができるという(小林,2003, 39 頁).Kaplan and Norton(1996a)によると, BSC によって長期的な戦略目標と短期的な行 動を結びつけることができるという(Kaplan and Norton, 1996a, p. 75).

 このように長期の視点を取り入れることが, 多元的に業績を管理するための要素の 1 つであ る.しかし,全社的かつ長期的な戦略目標を短 期の指標に変換しようとするとき,そのつなが りが明確に理解できない場合もある.たとえば, 松尾(2006)の例では,全社戦略に基づき各部 門が戦略課題を主体的に設定する中で,本社部 門が被評価部門の指標に影響を与えようとした 場合,どの程度関与するかが問題になったとい う.本社部門が大きく関与すると,部門の主体 性が失われる一方で,部門主導では前述したよ うな「ダブルカウント」のような問題が生じて しまうというジレンマが存在する.このジレン マを解消するのが次の納得性である. 第 2 節 納得性  多元的な業績管理をおこなう際,必要となる 2 つめの要素として,納得性4)があげられる. ここで業績管理における納得性とは,業績管理 において管理する側だけでなく,管理される側 も測定・評価の対象となることについて,また 設定する評価指標について納得することである と定義する.  非財務指標を設定する際,重要となるのが 因果関係であるとされる.Kaplan and Norton (1996b)によると,もっとも有益な BSC は重要

な指標の寄せ集め以上のものであるという.そ してフライトシミュレーターのように,BSC は 重要な指標の間の複雑な因果関係を組み合わせ るべきであると主張する(Kaplan and Norton, 1996b, p. 64).  しかし,小林(2003)によれば,因果関係にも とづいて指標を設定する際,その因果関係を           4)筆者はこの性質をコンセンサスとは別のも のと考えている.コンセンサスというと合意や意 見の一致ということを意味するが,管理する側と される側という上下関係を考慮すると,する側と される側の意見の一致というよりも,される側の 納得という方が適切なのではないかと考えている ためこの言葉を用いている .

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検証することは難しいという(小林,2003,37 頁)5).乙政(2003)においても,戦略との業 績評価指標との関係性は部分的にしか見いだせ ず,また財務指標と非財務指標の関係性は見い だせなかったという(乙政,2003,49─50 頁). そこで小林(2003)は,マネジメント・システ ムに正解が存在しないことから,これが機能す るためには人々から納得され,受け入れられる ことが重要であるという(小林,2003,37 頁).  松尾(2006)では「ダブルカウント」の問題 がみられた.これについて,前述の納得性とい うことがこの問題の解決策の 1 つになるといえ る.財務指標と非財務との関係性の 1 つとして, 図 4 のような関係性がある.純粋な財務指標と 財務指標に変換可能な非財務指標,そして財務 指標に変換が難しい非財務指標である6).図 4 では,財務指標のまとまりと非財務指標のまと まりがあり,重複部分が財務指標に変換可能な 非財務指標を表し,財務指標のまとまりのうち, 重複していない部分が純粋な財務指標を表し, 非財務指標のまとまりのうち,重複していない 部分が財務指標に変換が難しい非財務指標であ ることを表している.安酸他(2010a)は,財 務指標に変換可能な非財務指標を,先行指標と しての非財務指標と呼び,財務指標に変換が難 しいと考えられるが,重要である非財務指標を, 経営者・管理者の意思決定や行動に影響を与え る手段としての非財務指標と呼んでいる(安酸 他,2010a,82─83 頁).ダブルカウントの問題 が生じたのはこの財務指標に変換可能な非財務 指標である.ダブルカウントが生じると業績管 理として正確性が欠けてしまう可能性がある. それらの設定された指標がどのような特徴をも ち,どのような意図をもって設定されたのかを 理解し,納得することで,その欠けた正確性を 補うことができる.  業績管理する側だけが納得しているだけで は,納得していない側の不満が残り,業績管理 がマネジメント・コントロール・システムとし ての役割を完全に果たすことができない.管理

財務

非財務⇒財務

非財務

 (筆者作成) 図 4 財務指標と非財務指標の関係性           5)BSC の因果関係については Nørreklit(2000) でも批判されている(Nørreklit, 2000, pp. 70─77). 6)松尾(2006)の例を参考にすると,純粋な 財務指標は売上や利益,財務指標に変換可能な非 財務指標は販売台数,財務指標に変換が難しい非 財務指標は満足度といったものがあげられる.

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される側にとって,管理可能なものについての み測定・評価の対象となることが望ましいとさ れる7).しかし,評価対象すべてが管理可能で あるということは実際には難しく,少なからず 管理不能なものも対象になってしまう.そのコ ンフリクトを解消するためにも,管理される側 の納得性という要素は不可欠なものである. 第 3 節 多元性を支える要素  前節までで,多元的に業績管理する上で必要 となる要素について検討した.その結果,時間 軸の認識と納得性という要素が必要であること を明らかにした.本節では,それらを踏まえた うえで業績管理における多元性と多元的業績管 理について検討する.  業績を測定し,評価する際,ただ単に非財務 指標をとりいれてもそれが多元性にはつながら ない.財務指標と非財務指標の両方を,なんら かの目的を持って,ある要素を満たすように設 定することで,業績管理に多元性がもたらされ る.先行研究を検討した結果,その要素とは「時 間軸の認識」と「納得性」であることを前節ま でで明らかにした.加登・河合(2002)によると, 企業経営において無数の管理すべき項目がある が,組織成員の活動負荷や情報処理の限界,経 営資源の制約などから,すべてを管理するのは 非現実的である一方で,適切な非財務指標を取 捨選択することも難しいとしている(加登・河 合,2002,72─73 頁).適切な指標の選択は難 しいとされるが,すべてを管理することは出来 ないため,何らかの判断基準に従って,指標を 選択する必要がある.その際の判断基準となる 要素が「時間軸の認識」と「納得性」である.  つまり,業績管理において管理者が意図する ことや管理者が設定した指標について被管理者 が納得したうえで,時間軸を認識し,短期・長 期の取り組みについて調整するように財務指標 と非財務指標を活用することで,多元性がもた らされる.その関係を図に表すと,図 5 のよう になる.  左側の矢印は時間軸を認識し,長期的戦略目 標を財務指標と非財務指標に変換することを表 している.矢印の向きは,管理者側が主体と なってその変換をおこなうことを表している. どのような指標を設定するかについては,管理 対象の現状をみて選択する.右側の矢印は被管 理者が管理対象や指標に対して納得性を持つこ とを表している.矢印の向きは,納得をする主 体は被管理者側であることを表している.組織 によっては,被管理者側が主体となって評価指 標を設定することも考えられる.その場合でも 最終的には管理者の承認を得ることが必要であ り,実質的に左右どちらの矢印もこの向きにな る.  園田(1999)によると,業績評価に非財務指標 を用いることには 4 つの長所があるという.そ れは①現場の専門的な情報を誰でも容易に理解 することができる点,②部分最適な行動を抑制 する点,③意思決定時に非財務指標を用いた場 合,業績評価時との一貫性が得られる点,④注 意喚起として評価の結果を現場の部門に伝達す る際,総合的なデータの方が理解されやすい点 で あ る と い う(園田,1999,115─116 頁).前 述した 2 つの要素に基づいて指標を設定するこ とで,これらの効果は増す.  そして多元的業績管理とは,図 5 の多元性を 支援する要素をもつ業績管理であると定義す る.つまり,管理者が意図することや管理者が 設定した指標について被管理者が納得したうえ で,時間軸を認識し,短期・長期の取り組みの 調整をするように財務指標と非財務指標を用い て,業績を測定・評価することが多元的業績管           7)武脇(2013)では,「管理可能性原則,すなわち, 業績評価に際しては管理不能な費目を考慮すべき ではないとする原則は,“責任と権限は一致させる べき” という一般社会でも常識とされる考え方に 基づくものである」(武脇,2013,3 頁)としたう えで,現実では管理可能性原則が厳格に適用され ていない理由について,公正感,感情,役割とい う 3 つの観点から検討している.

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理である.  これまであいまいに使われていたこの言葉に ついて検討し,それを支える要素を特定するこ とにより,BSC 以外の方法が組織内に定着し ているとされる日本の多元的業績管理の実態を より深く検討する指針になる. おわりに  本論文では,まず第 1 章で日本における業績 管理の特徴と問題点を確認した.これまで日本 の業績管理は非財務指標を用いて,多元的にお こなわれてきたとされる一方で,戦略との結び つきが弱く,測定・評価のために設定した指標 が実際に収益に結びついているかどうか不明瞭 であるという問題が指摘されていた.第 2 章で は Kaplan and Norton (1992)に よって 伝統的 な業績管理の問題点を解決するために開発され た BSC のレビューをおこない,その BSC が日 本ではほとんど導入されていない現状を明らか にした.そして第 3 章では,BSC を導入して いない日本の多元的業績管理についての先行研 究のレビューをおこない,第 4 章で多元性を支 える要素を明らかにし,多元的業績管理につい て検討した.  単に非財務指標を用いる業績管理が,多元的 業績管理なのではなく,非財務指標を用いたう えで,なんらかの要件を満たすことが多元的業 績管理につながるのではないかと考え,先行研 究のレビューから「時間軸の認識」と「納得性」 が必要であると結論づけた.  これまで多元的であるとされてきた日本の業 績管理は,非財務指標が財務指標や戦略との結 びつきが弱いという前述した問題点から,筆者 の定義するような多元的業績管理ではなかった. それは戦略との結びつきが弱かったために,十 分に時間軸を認識できず,また戦略との結びつ きが弱い指標や財務指標とのつながりが不明確 な非財務指標に対して納得性が高くなかった. 今回多元性を支える要素を明らかにしたことは, 日本の業績管理をさらに深く研究するための 1 つの指針になる.  BSC が登場してから 20 年以上が経ち,業績 測定システムにおける非財務指標の重要性や, 戦略との重要性がさらに認知されるようにな

管理者

被管理者

②納得性 管理対象や指標 への納得 ①時間軸の認識 長期的戦略目標を 財務指標と非財務 指標へ変換  (筆者作成) 図 5 業績管理における多元性を支える要素

図 1 ECI 社の BSC
図 2 戦略マネジメントのための 4 つのプロセス
図 3 Mobil 社の戦略マップ

参照

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