金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理 : 利益概念の観点からの検討
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(2) 100 (754). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 表 1 金利スワップを利用した各々のケースに対するヘッジ会計処理 固定金利付債権・債務 →変動金利付債権・債務. 変動金利付債権・債務 →固定金利付債権・債務. 金融商品会計基準(原則). 繰延ヘッジ. 繰延ヘッジ. 金融商品会計基準(例外). 特例処理. 特例処理. IAS No.39 および SFAS No.133. 公正価値ヘッジ. 繰延ヘッジ. ケース (変動のマージン固定) には公正価値ヘッ. を純利益に計上するとともに,利子付債権・債. ジを適用し,借入金に係る変動金利を実質的に. 務について,原則処理され,金利スワップの公. 固定金利に交換するケース(固定のマージン固. 正価値の変動額をその他の包括利益として会計. 定)には繰延ヘッジを適用するというものであ. 処理方法である.つまり,繰延ヘッジは,両要. る.し か し 現行基準,た と え ば IAS No. 39 の. 素の認識のズレを一致させるために,利子付債. 場合は,社債などの固定金利付債券,債券投資. 権・債務に係る損益を認識するタイミングに合. などの固定金利付債券,持分証券への投資,お. わせ,本来純利益に計上すべき金利スワップの. よび固定価格で非金融商品を購入または売却す. 公正価値の変動額をその他包括利益に計上する. る確定約定などの権利(資産)および義務(負. ように変えたものである.. 債)が 公正価値 ヘッジ の 典型的 な 対象 で あ り. これに対して,特例処理は,毎期決算時に金. (IAS No. 39, par. 86a) ,繰延ヘッジの対象とな. 利交換による受取・支払利息のみを純利益に計. るのは,予定取引の場合のほか,借入金などの. 上し,金利スワップの公正価値の変動額をいず. 変動金利付債務,社債への投資などの変動金利. れの期間においても一度も認識しない方法であ. 付債権,可能性の非常に高い将来の固定金利付. るといえる.つまり,特例処理は,認識のズレ. 債務の発行,固定金利付債権の受取利息および. を一致させるというより,利子付債権・債務に. 元本についての将来の再投資,および,可能性. 係る損益と金利スワップの公正価値の変動額を. の非常に高い将来の売却および購入取引などの. 両方損益に認識しないことによって,認識のズ. ものがある(IAS No. 39, par. 86b)とされてい. レを根本的に生じさせないことにしたものであ. る.つまり,公正価値の変動に対するエクス. る.. ポージャーのヘッジ会計は公正価値ヘッジを適. そして,公正価値ヘッジは,利子付債権・債. 用し,キャッシュ・フローの変動に対するエク. 務に係る市場価格(公正価値)の変動をリスク. スポージャーのヘッジ会計は繰延ヘッジを適用. とみなし,債権・債務の価格変動に係る損益と. する.そして,金利スワップを利用した各々の. 金利スワップの公正価値評価損益を常に毎期決. ケースに対するヘッジ会計処理は,表 1 のよう. 算日において認識し,純利益に計上する会計処. にまとめることができる.. 理方法である.つまり,公正価値ヘッジは,両. 会計基準において複数の処理方法が認められ. 要素の認識のズレを一致させるために,金利ス. ている場合,特に合理的な理由が示されていな. ワップの公正価値の変動額を認識するタイミン. い限りは,そこに何らかの問題が潜在している. グに合わせ,利子付債権・債務の価格変動に係. 可能性があると見てよい.そして,金利スワッ. る損益の認識時点を変え,純利益に計上するこ. プについては,表 1 に示す通り,三つの会計処. とにしたものである.. 理が存在する.. ヘッジ会計にとって重要なのは,ヘッジ対象. 繰延ヘッジは,毎期決算時に受取・支払利息. に係る損益とヘッジ手段に係る損益双方を認識.
(3) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (755) 101. するタイミングのズレを一致させることであ. のために,ヘッジ手段の一形態としてよく利用. る.そのため,いずれかのタイミングに他方の. されている.金利スワップとは元本同士を交換. タイミングを一致させることになる.当然のこ. せず,金利を交換する取引をいう.すなわち,. とながら,このような認識のタイミングのズレ. 相場変動やキャッシュ・フロー変動は,望まし. を一致させるヘッジ会計処理方法の相違は,純. くない方向だけでなく望ましい方向にも変動す. 利益と包括利益に影響を及ぼす.そのため,純. るが,ヘッジ目的の場合,望ましい方向への変. 利益および包括利益という二つの利益概念が,. 動自体もリスクであり,このような変動自体は. 繰延ヘッジと公正価値ヘッジのいずれを原則的. できるだけなくすのが望ましいとされる.金利. 取扱いとするのかという考え方に関連してくる. スワップを利用したヘッジ取引には,たとえば. のである.そして,本論文では,繰延ヘッジ,. 固定利付債務の支払利息を変動利息に,あるい. 特例処理および公正価値ヘッジがそれぞれいず. は,変動利付債務の支払利息を固定利息に実質. れの利益概念にどのように結びつくのかという. 的に変換するなど,債権・債務に係る金利の受. 問題を検討する .. 取・支払条件を変換することを目的として利用. こうした問題意識に基づいて,以下において. されているものがある.. は,固定金利付債券を変動金利に交換するケー. そして,既述のとおり,金利スワップに係る. スと変動金利付社債を固定金利に交換するケー. ヘッジ 会計処理 は,原則 と し て は,金融商品. スの二つの具体的なケースを取り上げ,それぞ. 会計基準においては,繰延ヘッジが適用され,. れのヘッジ会計処理がいかなる意味をもたらす. IAS No. 39 お よ び SFAS No. 133 に お い て は,. のかを明らかにし,利益概念の観点から検討し. 公正価値ヘッジが適用される.例外的に,金融. ていくことにする.. 商品会計基準においては,当該債権・債務と金. 2.金利スワップに係るヘッジ会計処理. 利スワップがヘッジ会計の要件を充たしている ことを前提として,本来,金利スワップの公正. ⑴ 金利スワップに係るヘッジ会計の概要. 価値の変動額を貸借対照表に計上する処理を行. 金融商品会計基準において, 「ヘッジ会計と. うが,金利スワップの想定元本,利息の受取・. は,ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすもの. 支払条件(利率,利息の受取・支払日等)およ. について,ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段. び契約期間が金利変換の対象となる債権・債務. に係る損益を同一の会計期間に認識し,ヘッジ. とほぼ同一である場合には,金利スワップを公. の効果を会計に反映させるための特殊な会計処. 正価値評価せず,質的に変換された条件による. 理をいう. 」と定義している(金融商品会計基. 債権または債務と考え,金利スワップの公正価. 準,第 29 項) .そして,同基準は,ヘッジ取引. 値の変動額を繰り延べる処理に代えて,当該金. を「ヘッジ取引とは,ヘッジ対象の資産又は負. 利スワップに係る金銭の受取・支払の純額等を. 債に係る相場変動を相殺するか,ヘッジ対象の. 当該資産又は負債に係る利息に加減して処理す. 資産又は負債に係るキャッシュ・フローを固定. るという特例処理も認められている(金融商品. してその変動を回避することにより,ヘッジ対. 会計基準,注 14).. 象である資産又は負債の価格変動,金利変動及 び為替変動といった相場変動等による損失の可 能性を減殺することを目的として,デリバティ. ⑵ 固定金利付債券(その他有価証券となる場 合)に係る金利スワップ. ブ取引をヘッジ手段として用いる取引をいう. 」. ここでは,固定金利付債券と変動受取・固定. と定義している (金融商品会計基準,第 96 項) .. 支払金利スワップを締結した場合を取り上げ. 金利スワップは,リスク・エクスポージャー. る.この債券は市場金利との関係により市場価.
(4) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 102 (756). 表 2 債権の市場価格および金利スワップの公正価値の変動. 日付. LIBOR. 債券の市場価格. 市場価格の変動. (単位:円). 金利スワップの公正価値の変動. X1/4/1. 10%. 100,000,000. 0. 0. X2/3/31. 15%. 95,652,174. △ 4,347,826. 4,347,826. 100,000,000. 4,347,826. △ 4,347,826. X3/3/31. 格の変動リスクが存在する.例えば,付された. 値の変動については,表 2 の通りである.. 固定金利が市場金利より低い場合には,固定金. ・債券の市場価格. 利付債券の市場価格は下がり, 評価損が生じる.. X1 年 4 月 1 日. 逆に,付された固定金利が市場金利より高い場. 10,000,000 (1+0.1). 合に,固定金利付債券の市場価格が上がり,評 価益が生じる.この市場価格の変動を債券への. +. 110,000,000 (1+0.1)2. =100,000,000 円. X2 年 3 月 31 日 . 投資リスクとして想定し,なおかつ市場金利が. 110,000,000 (1+0.15) ≒95,652,174. 変動金利に等しいと仮定すれば,固定金利付債. ・金利スワップの公正価値. 券の市場価格の変動と金利スワップの公正価値. X2 年 3 月 31 日 . 変動が同じ幅で正反対の動きのヘッジ相殺関 係をもつと考えられる.つまり,ヘッジ対象と なっているのは市場価格変動の可能性のある債. 100,000,000×15% (1+0.15). -. 円(小数点以下,四捨五入). 100,000,000×10% ≒4,347,826 (1+0.15). 円. (小数点以下,四捨五入). 券であり,ヘッジ手段となっているのはその債. 以下,〔設例 1〕に 基 づ き,具体的 な 仕訳 を. 券の公正価値変動と反対に動く金利スワップで. 示し,ヘッジ会計を適用しない場合を含め,繰. ある.この二つの要素がヘッジ関係をもち,リ. 延ヘッジ,公正価値ヘッジおよび特例処理の三. スクが相殺されて,回避ないしは軽減される.. つの会計処理の相違を確認する.その上で,そ れぞれの会計処理による利益への影響を明らか. 〔設例 1〕 固定金利付債券の変動金利化. にする.. [前提条件]. ヘッジ会計を適用しない場合の仕訳は,表 3. ・X1 年 4 月 1 日,期間 2 年,額面金額 1 億円. の通りである.. の利率 10% の固定利子付債券を購入した.. 表 3 において示したように,毎期の債券に. ・当該債券の金利変動による価格変動リスクを. 係る固定受取利息 10,000,000 円,および金利ス. ヘッジ す る た め に,LIBOR(London Inter-. ワップ に よ る 受取利息増額(X 1 年度:0 円,. Bank Offered Rate,ロ ン ド ン 銀行間取引金. X 2 年度:5,000,000 円)を 純利益 に 計上 す る.. 利)の期首の変動金利を決算日に受け取り,. したがって,実際の正味受取利息は LIBOR に. 固定金利(10%)を 支払 う,期間 2 年,想定. よる変動受取利息になる.なお,金利スワップ. 元本 1 億円のスワップ契約を締結した.. の公正価値の変動額も,毎期,純利益に計上す. ・有効性を含めヘッジ会計の適用要件は満たし ているものとする.. る. 繰延ヘッジを適用した場合の仕訳は,表 4 の. ・説明の簡便性のため,税効果は考慮しない.. 通りである.. ・その他有価証券についての期首の戻し入れは. 表 4 において示したように,第 1 期では,債. 便宜上,省略する. ・債権の市場価格および金利スワップの公正価. 券による受取利息 10,000,000 円が計上され,決 算日において,金利スワップに係る固定・変動.
(5) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (757) 103. 表 3 ヘッジ会計適用なし. 日 付 X 1/4/1 債券購入日 スワップ 締結日 X 2/3/31 決算日. 借 方 その他有価証券 現金預金 その他有価証券評価差額金※. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 10,000,000 受取利息. 10,000,000. 4,347,826 その他有価証券. 金利スワップ資産. 4,347,826. 4,347,826 金利スワップ評価益. 現金預金 X 3/3/31 決済日 決算日. (単位:円) 貸 方. 4,347,826. 10,000,000 受取利息. 現金預金. 10,000,000. 5,000,000 受取利息. 現金預金. 5,000,000. 100,000,000 その他有価証券. 100,000,000. その他有価証券. 4,347,826 その他有価証券評価差額金. 4,347,826. 金利スワップ評価損. 4,347,826 金利スワップ資産. 4,347,826. ※:その他包括利益に該当する.以下,同じ.. 表 4 繰延ヘッジ 日 付 X 1/4/1 債券購入日 スワップ 締結日 X 2/3/31 決算日. 借 方 その他有価証券 現金預金 その他有価証券評価差額金 金利スワップ資産 現金預金. X 3/3/31 決済日 決算日. 現金預金 現金預金. (単位:円) 貸 方. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 10,000,000 受取利息. 10,000,000. 4,347,826 その他有価証券 4,347,826 繰延ヘッジ利益 10,000,000 受取利息 5,000,000 受取利息 100,000,000 その他有価証券. 4,347,826 4,347,826 10,000,000 5,000,000 100,000,000. その他有価証券. 4,347,826 その他有価証券評価差額金. 4,347,826. 繰延ヘッジ利益. 4,347,826 金利スワップ資産. 4,347,826. の金利の差額(この設例では 0 円)が認識され. 特例処理を適用した場合の仕訳は,表 5 の通. る.このとき,債券の受取利息と金利スワップ. りである.. の決算による受取利息が合算され,金利の支払. 上記の金利スワップおよびヘッジ対象となっ. いに係るキャッシュ・インフローは 10,000,000. ている債券については,金利スワップの想定元. 円となる.同様に,第 2 期には,債券の受取利. 本と借入金の元本金額が同一であり,金利の受. 息 10,000,000 円に金利スワップで発生した追加. 渡条件および満期も全く同一である.したがっ. 的 な 受取利息 5,000,000 円 が 合算 さ れ,キャッ. て,金融商品会計基準によれば,金利スワップ. シュ・インフローは 15,000,000 円となる.. の特例処理により処理することが認められる.. 他方,毎期の金利スワップの公正価値変動額. 表 5 に お い て 示 し た よ う に,毎期,金利 ス. は債券の決済日まで,その他の包括利益として. ワップにより生じる追加的な利息は,固定およ. 繰り延べられる.. び変動金利の差額であり,純損益に計上され,.
(6) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 104 (758). 表 5 特例処理. 日 付 X 1/4/1 債券購入日 スワップ 締結日 X 2/3/31 決算日 X 3/3/31 決算日 決済日. 借 方. (単位:円) 貸 方. その他有価証券. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 10,000,000 受取利息. 10,000,000. 現金預金 その他有価証券評価差額金. 4,347,826 その他有価証券. 現金預金. 4,347,826. 10,000,000 受取利息. 現金預金. 10,000,000. 5,000,000 受取利息. 現金預金. 5,000,000. 100,000,000 その他有価証券. 100,000,000. 4,347,826 その他有価証券評価差額金※. その他有価証券. 表 6 公正価値ヘッジ 日 付 X 1/4/1 債券購入日 スワップ 締結日 X 2/3/31 決算日. 借 方 その他有価証券. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 10,000,000 受取利息. 10,000,000. 現金預金 その他有価証券評価差損. 4,347,826 その他有価証券. 金利スワップ資産. 4,347,826 金利スワップ評価益 10,000,000 受取利息. 現金預金 現金預金. (単位:円) 貸 方. 現金預金 X 3/3/31 決算日 決済日. 4,347,826. 5,000,000 受取利息 100,000,000 その他有価証券. 4,347,826 4,347,826 10,000,000 5,000,000 100,000,000. その他有価証券. 4,347,826 その他有価証券評価差益. 4,347,826. 金利スワップ評価損. 4,347,826 金利スワップ資産. 4,347,826. 固定金利付債券に係る受取利息 10,000,000 と合. 利スワップの受取利息を合算し,金利の受取り. 算し,債券に係る利息は第 1 期 10,000,000 円,. に係るキャッシュ・インフローは 10,000,000 円. 第 2 期 15,000,000 円となる.特例処理の特徴は,. に な る.同様 に,第 2 期 で は,固定 さ れ た 債. 毎期の債権に係る利息および金利スワップに係. 券の受取利息 10,000,000 円に金利スワップの固. る公正価値の変動をともに認識しない点にあ. 定・変動 の 金利利息 の 差額 5,000,000 円 を 合算. る.. し,キャッシュ・インフローは 15,000,000 円と. 公正価値ヘッジを適用した場合の仕訳は,表. なる.. 6 の通りである.. 他方,第 1 期 で は,債券 の 市場価格 の 変動. 表 6 において示したように,第 1 期におい. 額(評価損)4,347,826 円が純利益に計上され,. て,購入 し た 債券 に 係 る 固定金利 の 受取利息. 金利 ス ワップ の 公正価値 の 変動額(評価益). は 10,000,000 円であり,決算において,金利ス. 4,347,826 円 も 純利益 と し て 計上 さ れ る,第 2. ワップの固定および変動金利の利息の差額 0 円. 期には,第 1 期と同じくそれぞれの変動額が純. が計上される.このとき,債券の受取利息に金. 利益として計上される..
(7) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). 表 7 金利スワップの公正価値の変動. . (759) 105. (単位:円). 日付. LIBOR. 金利スワップの公正価値の変動. X1/4/1. 3.2%. 0. X2/3/31. 3.5%. 289,855. X3/3/31. ⑶ 変動金利付社債(固定負債)に 係 る 金利 ス ワップ ここでは,変動金利付社債と変動受取・固定 支払金利スワップを締結した場合を取り上げ る.市場金利が上昇すれば,正味で受け取りが 増える分を満期まで見込んだ額の現在価値だ. △ 289,855. 表 7 の通りである. ・金利スワップの公正価値 X2 年 3 月 31 日 100,000,000×3.5% (1+0.035). -. 100,000,000×3.2% (1+0.035). ≒289,855 円. (小数点以下,四捨五入). け,金利スワップの公正価値が上昇する.他方,. 以下,〔設例 2〕に 基 づ き,具体的 な 仕訳 を. 社債の利払いは固定金利であるから,市場金利. 示し,ヘッジ会計を適用しない場合を含め,繰. が変わっても正味支払利息に変動はない.変動. 延ヘッジ,および特例処理の相違を確認する.. 金利付社債に係わる将来キャッシュ・フローの. その上で,それぞれの会計処理による純利益へ. 変動リスクは,金利スワップの決済によって固. の影響を明らかにする.. 定されることにより回避される.つまり,ヘッ. ヘッジ会計を適用しない場合の仕訳は,表 8. ジ対象となっているのは社債に係わる変動金利. の通りである.. 利息であり,ヘッジ手段となっているのは固定. 表 8 において示したように,第 1 期において,. 金利利息に変換する金利スワップである.この. 社債に係る支払利息は 3,200,000(100,000,000×. ように金利が固定化することで変動金利のリス. 3.2%)円が計上され,金利スワップの決算で,. クはヘッジされる.. 固定および変動の金利の差額 0 円(100,000,000 × (3.2%-3.2%) )が 計上 さ れ る.第 2 期 で は,. 〔設例 2〕変動金利付社債の固定金利化. 社債の支払利息 3,500,000 円(100,000,000×3.5%). [前提条件]. と金利スワップの決済によって発生した支払利. ・X1 年 4 月 1 日,期間 2 年,額面金額 1 億円 の変動利子付社債を LIBOR で発行した. ・LIBOR の変動によって,利息の支払額が変 動する. ・この将来の金利変動リスクを回避すべく,変. 息 300,000 円が計上される. 繰延ヘッジを適用した場合の仕訳は,表 9 の 通りである. 表 9 において示したように,第 1 期において, 社債に係る支払利息は 3,200,000(100,000,000×. 動金利 を 固定金利 に 変換 す る た め,LIBOR. 3.2%)円が計上され,金利スワップの決算で,. の期首の変動金利を決算日に受け取り,固定. 固定および変動の金利の差額 0 円(100,000,000. 金利(3.2%)を 支払 う,期間 2 年,想定元本. × (3.2%-3.2%))が計上される.そのとき,社. 1 億円のスワップ契約を締結した.. 債の支払利息と金利スワップに係る受取利息が. ・有効性を含めヘッジ会計の適用要件は満たし ているものとする.. 相殺され,金利の支払いに係るキャッシュ・ア ウトフローは 3,200,000 円に固定される.同様. ・説明の簡便性のため,税効果は考慮しない.. に,第 2 期 で は,社債 の 支払利息 3,500,000 円. ・金利スワップの公正価値の変動については,. (100,000,000×3.5%)と 金利 ス ワップ で 発生 し.
(8) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 106 (760). 表 8 ヘッジ会計適用なし. 日 付 X 1/4/1 社債発行日 スワップ 締結日 X 2/3/31 決算日 X 3/3/31 決算日 決済日. (単位:円). 借 方. 貸 方. 現金預金. 100,000,000 社債. 支払利息. 100,000,000. 3,200,000 現金預金. 金利スワップ資産. 3,200,000. 289,855 金利スワップ評価益. 289,855. 支払利息. 3,500,000 現金預金. 現金預金. 300,000 支払利息. 300,000. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 社債 金利スワップ評価損. 3,500,000. 289,855 金利スワップ資産. 289,855. 表 9 繰延ヘッジ. 日 付 X 1/4/1 社債発行日 現金預金 スワップ締結日 X 2/3/31 決算日 X 3/3/31 決算日 決済日. (単位:円). 借 方. 支払利息 金利スワップ資産 支払利息 現金預金 社債 繰延ヘッジ利益. 貸 方 100,000,000 社債. 100,000,000. 3,200,000 現金預金. 3,200,000. 289,855 繰延ヘッジ利益 3,500,000 現金預金. 289,855 3,500,000. 300,000 支払利息. 300,000. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 289,855 金利スワップ資産. 289,855. た 受 取 利 息 300,000 円( 100,000,000×( 3.5%-. ( 100,000,000×3.2%)円 が 計 上 さ れ,金 利 ス. 3.2%) )が相殺され, キャッシュ・アウトフロー. ワップ に 係 る 固定 お よ び 変動 の 金利 の 差額 0. は 3,200,000 円に固定される.他方,金利スワッ. 円( 100,000,000×( 3.2%-3.2%))が 計 上 さ れ. プの評価損益について,金利スワップの公正価. る.このとき,社債の支払利息と金利スワップ. 値の変動額を社債の決済日まで,その他の包括. に係る受取利息が相殺され,金利の支払いに. 利益として繰り延べる.. 係 る キャッシュ・ア ウ ト フ ローは 3,200,000 円. 特例処理を適用した場合の仕訳は,表 10 の. に 固定 さ れ る.同様 に,第 2 期 で は,社債 の. 通りである.. 支 払 利 息 3,500,000 円( 100,000,000×3.5%) と. 上記の金利スワップおよびヘッジ対象となっ. 金利 ス ワップ で 発生 し た 受取利息 300,000 円. ている社債については,金利スワップの想定元. ( 100,000,000×( 3.5%-3.2%)) が 相 殺 さ れ,. 本と借入金の元本金額が同一であり,金利の受. キャッシュ・ア ウ ト フ ローは 3,200,000 円 に 固. 渡条件および満期も全く同一である.したがっ. 定される.ただし,金利スワップに係る公正価. て,金融商品会計基準によれば,金利スワップ. 値評価による損益を認識しない.. の特例処理により処理することが認められる. 表 10 に お い て 示 し た よ う に,第 1 期 に. 3.利益概念からの検討. お い て, 社 債 に 係 る 支 払 利 息 は 3,200,000. 前節において述べたように,繰延ヘッジ,特.
(9) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (761) 107. 表 10 特例処理. 日 付. 借 方. X 1/4/1 現金預金 社債発行日 スワップ締結日 X 2/3/31 決算日 X 3/3/31 決算日 決済日. (単位:円) 貸 方. 100,000,000 社債. 100,000,000. 支払利息. 3,200,000 現金預金. 3,200,000. 支払利息. 3,500,000 現金預金. 3,500,000. 現金預金 社債. 300,000 支払利息. 300,000. 100,000,000 現金預金. 100,000,000. 例処理,公正価値ヘッジという三つのヘッジ会. 念フレームワーク,第 3 章,第 9 項).つまり,. 計処理はヘッジ対象とヘッジ手段の両者に係る. 純利益は純資産の一部となる株主資本の変動額. 損益認識の時間的ズレをいかに一致させるかが. であり,加えて,投資リスクから解放された成. 重要な点である.繰延ヘッジ,特例処理と公正. 果のうち株主に帰属する部分である.. 価値ヘッジのいずれを採用したとしても,完全. 次に,包括利益は,「特定期間における純資. なヘッジが達成される限り,純利益に相違は生. 産の変動額のうち,報告主体の所有者である株. じない.一方,包括利益には相違が生じる.そ. 主,子会社の少数株主,及び将来それらになり. こで三つの処理は,この損益の認識の時間的な. 得るオプションの所有者との直接的な取引によ. ズレを,純利益または包括利益のいずれにおい. らない部分をいう」と定義されている(日本版. て一致させるかという意味での利益観の違いに. 概念 フ レーム ワーク,第 3 章,第 7 項).つ ま. 依存するように思われる. そこでヘッジ処理は,. り,包括利益を純資産の差額概念として捉えて. 純利益および包括利益という二つの利益概念と. いる.. の関わりが問題となる.本節においては,まず. IASB および FASB においては,FASB は日. 基礎となる二つの利益概念を概観し,次に金利. 本版概念フレームワークにおける純利益とよく. スワップに係る個々の会計処理と利益概念の結. 類似する稼得利益概念が使われる.ただし,稼. びつきについての検討を行う.. 得利益には前期損益修正の累積的影響額が含め られないので,必ずしも純利益概念と一致する. ⑴ 純利益概念および包括利益概念. ものではない.ヘッジ会計に関する本稿での検. 詳細な検討に入る前に,純利益概念と包括利. 討には,この相違点に影響されないので,本論. 益概念をいま一度確認しておきたい.. 文においては,議論の単純化のため,純利益概. まず,純利益は, 「特定期間の期末までに生. 念と稼得利益概念と同じ概念として用いること. じた純資産の変動額(報告主体の所有者である. にする(FASB[1984],34 項).なお,包括利. 株主,子会社の少数株主,及び前項(包括利益. 益については,日本版概念フレームワークにお. の定義の項…筆者)にいうオプションの所有者. ける包括利益概念と同様の利益概念である.. との直接的な取引による部分を除く. )のうち,. 包括利益は,定義によれば,営業活動および. その期間中にリスクから解放された投資の成果. 財務活動のみならず,価格変動などの環境要因. であって,報告主体の所有者に帰属する部分を. から生じる持分の変動を含む概念として位置付. いう.純利益は,純資産のうちもっぱら資本だ. けられ,諸定義においても,資産,負債,持分,. けを増減させる」と定義されている(日本版概. 包括利益,収益,費用,利得,損失の順で規定.
(10) 108 (762). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). されていることから,資産・負債中心観を具体. 11 の通りである.. 化しているといえる.持分は資産と負債の定義. 次に,〔設例 2〕における,それぞれの会計. に依拠させられ,両者の差額として定義されて. 処理による純利益および包括利益の数値は,表. いるため,包括利益は持分の構成要素であると. 12 の通りである.. 定義されていることとなる(辻山[2007] ,32. 繰延ヘッジを適用した場合に,金利スワップ. 頁,角ヶ谷[2009] ,286 頁) .別の表現を用い. の公正価値の変動額を決済前の各期末時点にお. るならば,包括利益は,資産および負債の従属. いて,これに係る損益を純利益に認識せず,決. 概念であることから,資産および負債の評価に. 済日まで繰り延べる.つまり,繰延ヘッジは期. 依存した概念である.. 中に金利スワップに係る公正価値による変動額. 他方,純利益は,リスクから解放され,投資. を未実現利益として捉え,利子付債権・債務に. にあたって期待された成果が事実として確定し. 係る損益が実現した日に,両方を実現利益とし. た利益である.投資の成果は,その投資の目的. て,純利益ベースで認識ズレを一致させる会. に照らして,事前に期待されていた成果が現実. 計処理である.この場合に,〔設例 1〕におい. のものになったか否かによって把握される.つ. て,純利益に計上しない債券に係る市場価格の. まり,投資の目的はより多いキャッシュを獲得. 変動が,実現する期まで,その他の包括利益と. することにあるから,実質的にキャッシュ・イ. して繰り延べられ,金利スワップを締結した時. ン・フローと同じものを獲得したとみなしうる. 点に生じたヘッジ対象とヘッジ手段の認識のタ. ときに,投資の成果が確定したと考えるわけで. イミングのズレを決済日に一致させる.〔設例. ある.日本版概念フレームワークでは,リスク. 2〕において,社債に係る支払利息の変動は将. からの解放という用語が使われているが,実質. 来キャッシュ・フロー変動であり,社債の決済. 的に,従来より一般に説明されている実現概念. 日までにキャッシュ・フロー変動リスクが解放. と同義であると思われる (斎藤 [2007] ,200 頁) .. されるので,金利スワップの公正価値の変動額. また,一般的に,実現のタイミングとは,投下. がその他の包括利益として繰り延べられ,金利. した資金が事業のリスクから解放され,非貨幣. スワップを締結した時点に生じたヘッジ対象と. 性資産である投下資産が貨幣性資産に転換する. ヘッジ手段の認識のタイミングのズレを決済日. 時点とみなされる.すなわち,実現とは利益の. に一致させる.. 確実性に加え再投資の準備を備えた概念として. 既述の定義により,純利益は収益と費用の対. 理解される(森田[1990] ,19 頁) .. 応により把握されることから,収益費用アプ. このように,純利益と包括利益の間の大きな. ローチを具体化したものといえる.このような. 相違は実現概念であり, そして, この相違はヘッ. 理解に基づけば,固定金利付債券の市場価格の. ジ会計に絡み,公正価値ヘッジと繰延ヘッジの. 変動額は,保有活動を通じて純資産を増加させ,. 相違に反映される.. その未実現利益は,純利益を構成しない.その 理由として,ヘッジ対象である利子付債権・債. ⑵ 検 討. 務の公正価値にあたる金利に係る市場価格の変. 〔設例 1〕と〔設例 2〕の数値を用いて,ヘッ. 動額が,毎期に認識・測定され,純利益の計算. ジ会計を適用しない場合,三つのヘッジ会計処. に算入されることは適切ではないことが挙げら. 理を採用した場合における,純利益と包括利益. れる.したがって,繰延ヘッジは,純利益概念. への影響を検討することにする.. を維持し,純利益ベースでヘッジ会計目的を達. まず, 〔設例 1〕における,それぞれの会計. 成するために,なおかつヘッジ効果を損益計算. 処理による純利益および包括利益の数値は,表. 書に正確に反映するために,決算日において実.
(11) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (763) 109. 表 11 〔設例 1〕の純利益および包括利益. 会計処理. 項目. ヘッジ会計の適用なし. その他包括利益. 純利益. 繰延ヘッジ. 特例処理. 公正価値ヘッジ. (単位:円). X 1期. X 2期. 14,347,826. 4,347,826. 包括利益. 10,000,000. 15,000,000. 純利益. 10,000,000. 15,000,000. 0. 0. 包括利益. 10,000,000. 15,000,000. 純利益. 10,000,000. 15,000,000. その他包括利益. その他包括利益. △ 4,347,826. 4,347,826. 包括利益. 5,652,174. 19,347,824. 純利益. 10,000,000. 15,000,000. 0. 0. 10,000,000. 15,000,000. その他包括利益 包括利益. 表 12 〔設例 2〕の純利益および包括利益. 会計処理. 項目. ヘッジ会計の適用なし. その他包括利益. 純利益. 繰延ヘッジ. 特例処理. 10,652,174. △ 4,347,826. (単位:円). X 1期. X 2期. △ 2,910,145. △ 3,489,855. 0. 0. 包括利益. △ 2,910,145. △ 3,489,855. 純利益. △ 3,200,000. △ 3,200,000. その他包括利益. 289,855. △ 289,855. 包括利益. △ 2,910,145. △ 3,489,855. 純利益. △ 3,200,000. △ 3,200,000. 0. 0. △ 3,200,000. △ 3,200,000. その他包括利益 包括利益. 現した金利スワップの評価損益は,決済日まで. 実現していない要素は含めないのである.. その他の包括利益として繰り延べられる.純利. 〔設例 1〕,〔設例 2〕ともに,繰延ヘッジによ. 益に利子付債権・債務の公正価値の変動額を損. り,ヘッジ手段をヘッジ対象の認識のタイミン. 益として認識しない以上,ヘッジ対象の付属物. グに合わせるという点で,ヘッジ手段の取引は. としてのヘッジ手段である金利スワップの公正. あくまでもヘッジ対象の取引に付属させて捉え. 価値の変動額を損益としても認識しない.ヘッ. ようとしている点に特徴がある.金利スワップ. ジ手段はこれと一体とみなされるヘッジ対象に. は,利子付債権・債務との金利を交換してから. 係る損益が実現した時が,自身の実現時点にな. 初めて意味を持ち,独立的意味を持たない.し. る.金融商品会計基準は,貸借対照表における. たがって,繰延ヘッジは,リスクヘッジ取引の. 公正価値評価に軸足を置きながらも,純利益の. 実態をヘッジ対象に係る取引として捉え,ヘッ. 重要性を強調し,純利益に公正価値変動などの. ジ手段がヘッジ対象の付属物であるという考え.
(12) 110 (764). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 方に基づく会計処理と考えられる2).. したがって,特例処理により,金利交換によ. 特例処理 が 適用 さ れ た 場合 に は, 〔設例 1〕. る支払・受取利息のみを認識し,金利スワップ. において,市場金利が変動金利に等しい,すな. の公正価値評価損益を認識しないことは,利子. わち,固定金利付債券の市場価格の変動と金利. 付債権・債務と金利スワップが一体となって単. スワップの公正価値変動が同じ幅で,正反対の. 一の金融商品になっているとみられ,合成金融. 動きとなり,決済日毎に完全に相殺されるとこ. 商品概念3)に基づく会計処理であると考えられ. ろに特徴があるため,特例処理を認める位置付. るだろう.言い換えれば,金利スワップに係る. けになっていると思われる. 〔設例 2〕におい. 取引と利子付債権・債務に係る取引を一取引と. て,変動金利付社債 の 支払利息 を 固定 し て い. 見る考え方にしたがっている会計処理と解され. るのは,社債の発行により得られた資金を投下. るだろう.. した事業から期待される将来のキャッシュ・フ. また,特例処理については,表 11 と表 12 に. ローが,市場の金利水準に応じて変動するもの. おいて示したように,特例処理が適用される場. ではないからであろう.市場金利が上がって支. 合における純利益は繰延ヘッジが適用される場. 払利息の支出が増えても,それに合わせて事業. 合における純利益と同じ結果になり,包括利益. からの収入が増える保証はない.そのため,市. が異なる結果になっている.したがって,特例. 場金利との連動を断ち切ることで支払利息を固. 処理も繰延ヘッジと同じ根拠により,金利に起. 定し,キャッシュ・フローの変動リスクをヘッ. 因する市場価格の変動額とスワップの公正価値. ジしているわけである.その場合には,変動金. 変動額は純利益に含まれない.このような処理. 利付負債には市場金利の変動に伴う公正価値の. は,純利益ベースで認識ズレを一致する目的を. 変動は生じないし,金利スワップを公正価値評. 満たすために,容認されるものと考えられる.. 価する意味もなく,毎期の固定金利と変動金利. そして,特例処理が認められることこそ,金融. の差に当たる正味キャッシュ・フローを支払利. 商品会計基準が純利益の概念を重視しているこ. 息に加減していけばよいと考えられる.. とを再確認させるものと言えよう.また,特. . . 2)一般的に,企業はデリバティブを投資(投機) 目的,または,ヘッジ目的として利用し,ヘッジ 手段として,資産あるいは負債である金融商品を 取得する.すなわち,ヘッジ目的によるヘッジ手 段である金利スワップは投資(投機)の目的では なく,あくまでヘッジ対象の付属物でしかないと 考えられる.言い換えれば,投資(投機)目的で 利用されるデリバティブの使用は単独で取得され るのに対して,ヘッジ目的で利用されるデリバティ ブはヘッジ対象とセットで取得される. 3)合成商品説(synthetic instruments approach) とは,原商品部分とデリバティブ部分と一つの結合 体(one unit)として同一視する考え方である. (田 中[2005] ,159 頁. ) 類似的 な 概念 と し て,「金融商品会計基準」第 40 項は,その他の複合金融商品を「契約の一方の 当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分 を含まない複合金融商品は,原則として,それを 構成する個々の金融資産又は金融負債とに区分せ ず一体として処理する.」と定義した.. 現物の資産および負債とデリバティブ取引が組 み合わされた複合金融商品は,複合金融商品を構 成する個々の金融資産または金融負債は,それぞ れ独立して存在しうるが,複合金融商品からもた らされるキャッシュ・フローは正味で発生するた め,資金の運用・調達の実態を財務諸表に反映さ せるという観点から,原則として,複合金融商品 を構成する個々の金融資産または金融負債を区別 せず一体として処理することとされている.(田 中, [2007] ,147 頁. ) 合 成 商 品 説(synthetic instruments approach) とは,原商品部分とデリバティブ部分と一つの結 合体(one unit)として同一視する考え方である. (田中[2005] ,159 頁. ) 一方,SFAS No. 133 に お い て,合成金融商 品概念は否定された.デリバティブを公正価値で 測定するという審議会の基本的な方針と整合せず, デリバティブとデリバティブの活動の透明性の促 進や,デリバティブに整合した会計処理を規定す るとの目標を達成しない..
(13) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (765) 111. 例処理が適用される場合における包括利益は公. たがって,ヘッジ会計は,その目的に照らし,. 正価値ヘッジが適用される場合における包括. 純利益ベースでのヘッジ対象とヘッジ手段の認. 利益と異なる結果になっているので,IAS No.. 識のズレを一致させることを基本目的としてい. 39 および SFAS No. 133 は特例処理を認めない. る会計処理であると性格づけられる.具体的に. わ け で あ る.し た がって,IAS No. 39 お よ び. 言うならば,固定金利付債券の市場価格の変動. SFAS No. 133 がヘッジ会計を採用するとして. 額と金利スワップの公正価値の変動額がともに. も,包括利益に影響しないヘッジ会計処理しか. ストックの差額の性格をもつので,これを包括. 容認していないことが明らかとなった.. 利益 に 計上 す る 処理 は 包括利益概念 に 適合 す. 金融商品会計基準とは対照的に,IAS No. 39. る.ただし,IAS No. 39 および SFAS No. 133. お よ び SFAS No. 133 は 原則 と し て 公正価値. における公正価値ヘッジは,純利益ベースと包. ヘッジを採用している.公正価値ヘッジが適用. 括利益ベースでの認識タイミングのズレを両方. された場合には, 〔設例 1〕において,将来受. 一致させるとしても,完全ヘッジされていない. 取利息のキャッシュ・フローは不確定となる一. 場合,未実現利益が計上されてしまうために,. 方で,この固定金利付債券の市場価格の変動を. 純利益概念に反する恐れがある.. ヘッジするために,固定支払・変動受取の金利. 〔設 例 2〕に つ い て は,IAS No. 39 お よ び. スワップを行う.決算の都度,固定金利付債券. SFAS No. 133 は公正価値ヘッジをヘッジ会計. を公正価値で評価し,その変動額が純利益に計. の 原則的会計処理方法 と し た も の の,金利 ス. 上され,金利スワップの公正価値変動額もヘッ. ワップ の 会計処理方法 と し て,な ぜ 公正価値. ジ会計を適用しない場合と同じように,そのま. ヘッジを採用せずに,繰延ヘッジを採用したの. ま純利益に計上され,自動的に両要素の変動は. かを検討する必要があるだろう.. 相殺される.つまり,リスクポジションに焦点. ま ず,IAS No. 39 お よ び SFAS No. 133 は,. を当て, リスクポジションを評価し,表示する.. 公正価値ヘッジを適用する条件として,ヘッジ. 両要素が相互になにも影響を与えずに,両要素. 対象に係るリスクに起因する公正価値の変動リ. 間に結ばれるいかなるリンクも本質的には恣意. スクが存在していること,そしてこのリスクが. 的なものと考えられる.したがって,公正価値. 利益に影響すること,さらには,ヘッジ対象の. ヘッジにより,固定金利付債券の市場価格変動. 公正価値が確実に測定できることを規定して. を公正価値評価して測定し,金利スワップ取引. い る( IAS No. 39,AG94,AG99BA,SFAS. についても公正価値で評価して測定し,それぞ. No. 133,par. 21.).つ ま り,IAS No. 39 お よ. れの取引を独立している取引としてみなしてい. び SFAS No. 133 は公正価値ヘッジを原則とし. る.. てはいるものの,それはヘッジ対象の公正価値. 公正価値ヘッジは当期に金利スワップに係る. 変動リスクを認識・測定できる場合のみである. 公正価値の変動額と利子付債権・債務に係る市. と考えられる.. 場価格の変動額を両方損益として,金利スワッ. こ の よ う に,本来取得原価 で 評価 さ れ る 資. プと締結した時点で,包括利益ベースで認識の. 産・負債につき,ヘッジ会計の領域のなかで,. ズレを一致させている.ただし,本来純利益に. 公正価値評価 さ れ る こ と か ら,IASB お よ び. 認識しなかった利子付資産・負債の市場価格の. FASB は よ り 広範囲 で 公正価値評価 す る 意図. 変動額が純利益において認識され,金利スワッ. があるといえる.. プの公正価値変動額も純利益に認識されること. 〔設例 2〕の 場合 に,変動金利付社債 に 係 る. によって,純利益ベースと包括利益ベースで認. 将来 キャッシュ・フ ローの 変動 を 認識・測定. 識のズレを両方一致させることにしていた.し. し,公正価値ヘッジを適用せずに,繰延ヘッジ.
(14) 112 (766). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). を行うとしているのは,変動金利付社債を公正. るためである.しかし,ヘッジ会計を適用しな. 価値で測定することは適切ではない.社債を満. い時と公正価値ヘッジを適用する時の包括利益. 期保有することが想定されるとき,契約金額を. は同じとなっているということは,金利スワッ. 公正価値とみなしうるためである.社債を割引. プに関して言えば,純利益ベースでの損益認識. 率で公正価値評価しようとしても,変動金利を. のズレを一致させる目的としての会計処理であ. 採用するなら,金利スワップの変動金利と固定. ることが再確認されたことを意味する.. 金利も公正価値評価しなければならない.この. したがって,IAS No. 39 および SFAS No. 133. 場合 に,形式的 な 意味 で の ヘッジ 対象取引 と. は公正価値ヘッジと繰延ヘッジのいずれを適用. ヘッジ手段取引は,全く別の取引ということに. するにしても,包括利益に影響を及ぼさないよ. なる.つまり,公正価値評価を徹底しようとす. うに,ヘッジ会計を行っているといえるだろ. ると, ヘッジ会計たり得ないということになる.. う.重要なのは,包括利益に影響を及ぼさない. 一方,社債の割引率として固定金利を採用す. という意味では,この包括利益の概念に準じて. るならば,社債の変動金利とスワップの変動金. 計算される正しい数値ということになる.そし. 利は毎期完全に相殺される.この処理は,形式. て,公正価値ヘッジは,ヘッジ対象を公正価値. 的なヘッジ手段である金利スワップにおける変. 評価することから導かれる包括利益を重視する. 動金利と固定金利に分割される.これは,ヘッ. 一方,公正価値ヘッジのもとでの純利益の数値. ジ会計を適用しない場合と同じ数値になる.こ. にも注意を払っているといえる.. のように,いずれの解釈をとろうとも,社債を. 4.結 論. 公正価値評価する余地は乏しいといわざるをえ ない.そのため,ヘッジ対象になる資産・負債. 本論文は金利スワップをヘッジ手段として利. に係る公正価値変動を認識・測定できない.あ. 用されたヘッジ会計を取り上げ,繰延ヘッジ,. るいは,将来キャッシュ・フロー変動のみを認. 特例処理,公正価値ヘッジという三つのヘッジ. 識・測定できる場合には,繰延ヘッジを適用す. 会計処理を明らかにしたうえで,利益概念の視. るしかない.. 点から検討した.. 次 に,IAS No. 39 お よ び SFAS No. 133 は,. 金利スワップは,金利の交換により,ヘッジ. 繰延ヘッジを適用する方針を示したが,表 12. 対象に係る公正価値変動リスクあるいはキャッ. に示された包括利益を見ると,繰延ヘッジを採. シュ・フロー変動リスクのいずれかのリスクを. 用しても,ヘッジ会計が適用しない場合の包括. ヘッジできるという特徴をもつ.〔設例 1〕の. 利益と同じく,つまり,包括利益に影響を与え. 場合には,ヘッジされたのは固定金利付債券の. ないことが明らかになった.. 市場価格の公正価値変動リスクであり,これに. 表 11 と表 12 において表示された包括利益を. 対して,〔設例 2〕の場合には,社債に係る変. 見 る と,ヘッジ 会計 を 適用 し な い 場合,繰延. 動支払利息という将来キャッシュ・フロー変動. ヘッジを適用する場合,公正価値ヘッジを適用. リスクである.. する場合において,三つの場合ともに同じ結果. 繰延ヘッジにより,固定金利付債券の市場価. となっている.繰延ヘッジが適用される場合と. 格の公正価値変動リスク,または社債に係る変. 公正価値ヘッジが適用される場合に同じ包括利. 動支払利息リスクが解放されるまでに,金利ス. 益の数値がもたらされるのは,純資産差額とし. ワップの公正価値の変動額をその他の包括利益. てダイレクトに算出される包括利益と純利益か. として繰り延べ,利子付債権・債務に係る評価. ら調整して算出される包括利益は概念上も数値. 損益の認識時点に合わせる点について,金利ス. 上も同じものであるという考え方が内在してい. ワップ と 利子付債権・債務 は セット で 考 え ら.
(15) 金利スワップを用いたヘッジ取引の会計処理(李). (767) 113. れ,金利 ス ワップ は 利子付債権・債務 の 付属. さないという条件のもとで,純利益ベースでの. 物にすぎない.純利益において利子付債権・債. ヘッジ対象およびヘッジ手段に係る損益のタイ. 務の公正価値評価額を認識しない以上,金利ス. ミングの一致を目的としている姿勢でもあると. ワップの公正価値評価損益も認識しない,決済. 結論付けられる.ただし,包括利益に影響しな. 日までその他の包括利益として繰り延べられ.. いという前提で,IASB および FASB が包括利. ヘッジ効果を損益計算書に正確に反映し,なお. 益を重視し,包括利益に影響を及ぼさないよう. かつ純利益概念を維持し,純利益ベースでヘッ. に,ヘッジ会計を行っているともいえる.. ジ会計目的を達成する.. 最後に,特例処理について付言しておきた. 同様に,特例処理により金利スワップに係る. い.特例処理は,ヘッジ対象とヘッジ手段の双. 利息のみを認識し,これを利子付債権・債務に. 方に係る評価損益を認識しないことにより,タ. 係る受取・支払利息に加減することから,金利. イミングのズレという問題を消滅させるもので. スワップに係る取引と利子付債権・債務に係る. あ る.そ の 代償 と し て,貸借対照表 に お け る. 取引は一取引と同一視する考え方にしたがって. ヘッジ手段の公正価値情報は示されない.すな. いる会計処理と解される.金利スワップの公正. わち,特例処理における純利益の捉え方は,繰. 価値評価損益を認識しないことは,未実現利益. 延ヘッジと何ら異なるところはないということ. を純利益に含めないことになるので,純利益を. であり,重要なのは,金融商品会計基準におい. 重視する金融商品会計基準の立場からは,容認. て,特例処理が認められていることについては,. されるのは自然なことと言える.特例処理は,. 純利益概念を重視する姿勢を貫いた上で,包括. 包括利益の制度化後の現在も認められていると. 利益を選択的ながら相対的に軽視することを容. ころに,金融商品会計基準が,会計基準全体を. 認している点である.. 通じて,包括利益よりも純利益を重視している. し た がって,金利 ス ワップ に お け る 金融商. 姿勢が明らかになった.. 品会計基準と IAS No. 39 および SFAS No. 133. 対照的 に,公正価値 ヘッジ は ヘッジ 対象 と. の会計処理については,繰延ヘッジを適用する. ヘッジ手段がそれぞれ独立し,固定金利付債券. という共通点がありながらも,譲れない利益は,. の市場価格変動の影響を公正価値評価し,金利. 前者が純利益であり,後者が包括利益であると. スワップ取引についても一つの取引としてみ. いう大枠が存在し,さらに,その枠内において,. なし,公正価値で評価する.ただし, 〔設例 2〕. 前者は包括利益を無視するという選択肢を用意. のよ う に,ヘッジ 対象を公正価値で測定する. し,後者は可能な限り正しい純利益を追い求め. のは適切でない,あるいはヘッジ対象の公正価. るという相違点が存在することが示されるので. 値変動リスクが存在しない場合,公正価値ヘッ. ある.. ジを採用することは適さなくなり,IAS No. 39 および SFAS No. 133 は繰延ヘッジを適用させ るしかない. なお,公正価値ヘッジおよび繰延ヘッジのい ずれの処理を適用しても,ヘッジ会計の適用が ない場合と包括利益の数値は同じになるので. IAS No. 39 および SFAS No. 133 は繰延ヘッジ を採用する余地が出てくるのである.そして, IASB および FASB が限定的にせよ繰延ヘッジ の適用を示したことは,包括利益に影響を及ぼ. 参考文献 Bierman, Jr. H., L. T. Joheson and D. S. Peterson,FASB Research Report,Hedge Accounting: An Exploratory Study of the Underlying Issues, 1991.(白鳥庄之助,大塚宗 春,富山正次,石垣重男,篠原光伸,山田辰 巳,小宮山賢訳『ヘッジ 会計 : 基本問題 の 探 求』中央経済社,1994 年. ) FASB, Statement of Financial Accounting Concepts No. 5 Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enterprises,.
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