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海外R&D拠点を基点とした知識移転 : 欧米系多国籍企業における日本子会社の定量分析をもとに

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(1)海外R&D拠点を基点とした知識移転 欧米系多国籍企業における日本子会社の定量分析をもとに. 島. 谷. 祐. 史. では困難である.実際の技術・製品開発プロ Ⅰ.はじめに. 近年,企業経営における競争優位の源泉とし て技術・ノウハウを始めとする知識が注目され. セスでは,むしろ限定的な外部関係者との密接 な人的交流や技術的調整に占める割合が大きく なっているのではないだろうか. また,海外子会社の知識を多国間レベルで移. ている.かつて,多国籍企業は,本国本社を 唯一の基点として海外子会社へ知識を移転する. 転・共有していく事は,多国籍企業グループ全. 辛が一般的であった.実際,海外子会社は,莱. 体の競争力強化にとって重要な要因となってい. 熟な技術能力,優秀なエンジニアの不足,取引. る.つまり,本国本社・他国拠点の製品技術・. 先企業の競争力不足等を反映して,単なる本国. 生産技術の改善・改良,あるいは,ラディカル. 本社の技術移転先という位置付けである事が多. なイノベーションを引き起こす要因として海外. かった.. 子会社の知識は認知されるように変化してきた. しかし,現在,海外子会社の中には,販売・ 生産から研究開発-と機能を拡大し,能力を向. 「知 のである.多国籍企業内部の知識移転は, 識を認知し,多様なプロセスを経て,送り手側. 上させている拠点も存在する.例えば,独自の. から最終的に受け手側で活用・定着される複数. 設計思想で,現地市場ニーズに適合した製品開. 段階のプロセス」. 発を自律的に行う事が可能である.更に,地域. という概念であるが,最近では,知識移転の各. の技術リーダー,世界的製品供給責任,グロー. 段階において,コストや障害要因が存在し,拠. バルR&Dネットワークを利用した技術・製品. 点間での技術やノウハウの移動は単純ではない. 開発プロセスに貢献するハイレベルな海外子会. 事が明らかとなっている.そのため,海外子会. 社も存在し,多国籍企業内部におけるイノベー. 社の技術・ノウハウが,グループ内部で全て活. ション創出者として役割を進化させている.. 用できるかどうかは未知数なのである.. もっとも,海外子会社は,本国本社からの知 識移転だけではなく,大学,競争業者,顧客,. (Mahnke. &. Pedersen,. 2004). この事から,当該知識が,本国本社・他国拠 点にとって重要であると認知される段階では, その知識特性,つまり,知識獲得プロセスに影. サプライヤー,政府,外部研究機関等を含む広 範な現地環境から影響を受ける事で,能力を蓄. 響される場合が大きい.例えば,技術・製品開. 積している事に間違いはない.しかし,海外子. 発活動において外部関係者との人的交流・技術. 会社そのものを分析単位とするのではなく,例. 的調整活動を必要とする場合,当該知識はコン. えば,技術・製品開発等,企業行動の各局面で 最も影響を及ぼす現地環境のキーファクタ-を. テクスト特殊的・関係特殊的である可能性が高 くなる.それ故,グループ内部への移転は困難. 把握するには,こうした広範な現地環境の把握. になるのである.このように海外子会社の知識.

(2) 108. (300). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第2号(2006年8月). 獲得と移転には,知識特性に伴うジレンマが存. 合,現地市場向けの新製品開発プロセスで本国. 在しているのである.. 本社の果たす役割は依然大きい.本国本社が実. 本国本社から海外子会社-の知識移転を中心. 質的な権限を保持し,コア部品開発や基礎設計. とした先行研究では,グループ間の移転プロセ. 等の主要プロセスをリードする.一方,海外R. ス・移転先での定着に注力した分析が多かった. しかし,知識がグローバルに分散化している今. &D拠点は,現地市場の情報・知識を本国本社. 日では,まず,グループ内部にとって有効な知. 生産設備の改善・修正を行う事になる2).. にフィードバックし,自らは簡単な製品設計・. 識を素早く認知し,移転・共有する事が競争優. この場合,海外R&D拠点の役割は,本国本. 位につながる.例えば,本国本社・他国拠点の. 社の知識に大きく依存しているという点で,技. 具体的な業務活動でいかに利用できるかを把握. 術移転先である事に変わりはない.実際,日本. しておく事は,その後のスムーズな移転活動や. 企業の海外市場向け製品開発では,一部を除き. 競合他社への差別化にも影響してくるだろう.. 本国本社が主導的な役割を担っている事から,. そこで,本稿では,これまで十分に蓄積され ているとはいえない海外子会社を基点とした知 識移転の研究に焦点を当て,第一に,特定の外 部関係者との相互作用が海外子会社の開発成果. 海外子会社の技術・製品開発活動は非常に限定 的である(藤本・椙山,. 2000;椙山,. 谷, 2004;島谷・池田,. 2005)3).. 2001;良. これらの研究は,基本的に本国本社を基点と. にいかに影響しているのかを明らかにする.第. した製品開発の国際分業を中心に捉えており,. 二に,当該知識が,本国本社・他国拠点におい. 海外子会社を基点とした技術・製品開発活動を. て実際重要であると認知されているのか,と. 分析対象とする本稿とは趣を異にする.. いった点を海外子会社側・グループ内部の双方. b.研究開発の国際化要因. の視点から明らかにする事を試みる. 分析対象は,国際ビジネス経験が日本企業よ. 1970年代以降,欧米系多国籍企業の海外. り豊かで,戦略的にも海外子会社の技術・製品. R&D拠点の設置・活動が始まった事から,港 外R&D活動の実施要因に関する実証研究が. 開発能力を比較的重視する傾向にある欧米系多. 始まった4).初期の研究では,海外売上高や現. 国籍企業の日本子会社のデータを活用し,定量. 地市場への適応を目的とする「市場志向要因」. 分析を試みる.その結果を通じて,日本子会社. にその理由を見出していた(Mans丘eldetal.,. の技術・ノウハウが実際グループ内部で活用さ. 1979; Hirschey. &. Caves,. れているのかを検証する.以下では,先行研究. 1981).一方,最近の 研究では,先進的な技術や能力の獲得を目的と. を簡単に概観した上で批判的検討を行い,本稿. した「技術志向要因」も重要な決定因となって. の分析枠組みを導出する事から始める.. きており,現地の優秀な研究人材,技術情報等, 研究環境に容易にアクセスする事を目的とし. Ⅰ.先行研究と分析枠組みの導出 本節では,海外R&D拠点及び多国籍企業内 部の知識移転に関連する先行研究を検討した上. て設立されている(Florida,. 1997; Kuemmerle,. 1997).. で,問題点を指摘し,本稿の分析枠組みを導出. つまり,研究開発国際化の諸要因を,税地市 場における売上高ヤクラスター等のマクロデー. する1).. タに求める分析が中心であった.. 1.海外R&D拠点の関連研究. c.海外R&D拠点の役割類型化 海外R&D拠点を活動内容から分類する. a.本国本社視点の国際製品開発 海外子会社の開発資源の蓄積が不十分な場. 役割類型化の研究は,技術志向による分 類(Ronstadt,. 1978),市場志向による分類.

(3) (301). 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). (Behrman. et al.,1980)の両者が一般的である.. 最近では,. て,どのような条件下で子会社が本国知識や現. (1997)が,製薬・電. Kuemmerle. 109. 地知識を利用するのかを特許の引用データを用. 機電子関連の欧米日多国籍企業の海外R&D拠. いて探索している. このように埋め込み理論を軸とした海外R&. 点を分析対象として,ホームベース活用型研 究所とホームベース補強型研究所に分類してい. D拠点の知識獲得は,海外子会社そのものを分 析対象として,現地環境でのポジショニングを. る.前者は,本国本社の知識を現地の生産・販 売拠点に移転・展開するための市場志向の拠点. 通じて知識獲得を論じるものが大半であった.. である.一方,後者は,現地の研究機関等から 知識を吸収し,全社的な技術能力の向上等,競. 3.多国籍企業内部の知識移転. 争力強化を目的として展開している拠点であ. また,海外子会社の知識を多国間レベルで移 転・共有していく事は,本国本社・他国拠点の. る.. 以上の先行研究から,従来,本国本社視点・. 製品・生産技術の改良,よりラディカルなイノ. 市場志向であった海外子会社の役割も,最近で. ベーションを引き起こす要因として多国籍企業. は技術獲得志向へと重点を移しつつある事が Kuemmerle (1997) 理解できる.この特徴は,. グループ全体の競争力強化にとって重要になっ ている.. 多国籍企業内部の知識移転は,. 「知識を認知. の研究からも明らかな様に,グループ内に技術 貢献する海外子会社の存在が本社国籍に左右さ. し,多様なプロセスを経て,送り手側から最終. れる事無く目立ち始めている事を示している.. 的に受け手側で活用・定着される複数段階のプ ロセス」. (Mahnke. &Pedersen,2004)という. 2.海外子会社の知識獲得 前述のレビューにおいて,海外R&D拠点が. 概念であるが,実際,技術・ノウハウを移転す. 技術獲得志向-と移行してきており,現地の研. う事が明らかとなっている(Teece,1977).認. 究開発環境から多大な影響を受けている事が明. 知段階の障害要因は,. らかとなった.これを受けて,ここでは,埋め. れ(vonHippel,. 込み理論を軸として海外R&D拠点の知識獲得. テム依存性等の知識特性により移転は影響を Zander, 1993 受けるとされている(Kogut&. るには,多様な障害要因が存在し,コストを伴. に関する先行研究をレビューしていく5). 近年,戦略論分野で特に注目されている理論. szulanski,. 「情報の粘着性」と呼ば. 1994),例えば,暗黙性・シス. 1996)6).また,組織内部の知識,あ. が「構造的埋め込み」である.構造的埋め込み. るいは,外部環境を通じて創出された知識の. の概念は,アクターを取り巻くネットワーク 構造により,当該アクターの行動,資源,能力. 相違も移転に影響してくる(Foss. 構築プロセスあるいはパフォーマンスに影響. は,受け手側の吸収能力(Cohen. を及ぼす概念である(Gulati, Zaheer,. 1998; McEvilly. 2002;島谷, &. 1999. ;近能, 2002). 多国籍企業の研究に埋め込み理論を適用した. 先駆的研究として,. Ghosbal. &. Bartlett. (1990). &. Pedersen,. 2006)7).移転プロセス段階で &. 1990)や双方の関係性等(szulansiki, Gbosbal. Levinthal, 1996. et al.,1994)の組織属性も移転の成否. を左右する要因である.また,浅川(1999)は, 多国籍企業内部の知識流動化プロセスでは,認. が挙げられる.彼らは,各国子会社の外部ネッ. 知的障害・政治的障害・制度的障害等の移転コ. トワークの埋め込みの属性により,国際的な資. ストが移転段階に応じて変化する事を明らかに していが).. 源配置を変化させる必要性を説いている.更に, Frost. (2001)は,海外子会社がイノベーショ. ンのために利用する知識の地理的源泉に注目し. ;. 事例中心の先行研究では,移転プロセス段 階・定着段階に注力した分析が大勢を占めてい. ;.

(4) 110. 横浜国際社会科学研究. (302). 第11巻第2号(2006年8月). る9).例えば,日本企業の海外子会社への技術. 先行研究においても,マクロレベルで現地環境. 移転プロセスを分析した研究がそれに当たる. を捉え,知識の送り手としての信頼性・評価の. (安保他, 1991;管,. 是非を規定していた.しかし,この場合,現地. 1994).これらは,本国本. 社の知識を海外子会社へ普及・定着させる事を 捉える上で有用な分析視角を提供している.. の多層ネットワークに埋め込まれるために,港 外子会社の知識特性は,非常に暗黙性が高く, グループ内部での活用に必要とされるスキル,. 4.本稿の分析枠組み ここでは,先行研究の問題点を指摘し,本稿 の分析枠組みを導出する.先行研究から分かる ように,知識移転には多様な障害要因が存在し,. 資源,必要条件,相互関係も一層不明確にな る可能性が高くなるのではないかと指摘できる (Foss & Pedersen, 2002 ;島谷, 2006).. 海外R&D拠点を基点とした知識移転は容易で. 一方,技術・製品開発プロセス等の個別業務 活動に焦点を当てた場合,広範な現地環境より. はない事が分かってきた.. も,むしろ限定化された外部関係者との相互. 当該知識が,本国本社・他国拠点にとって重. 作用に占める割合が大きくなっていると考えら. 要であると認知される段階では,その知識特性,. れる.最近では,海外子会社の知識獲得に関し. つまり,知識獲得プロセスに影響される場合が 大きい.例えば,技術・製品開発活動において. て,特定の外部関係者との相互作用から知識特 性を捉える「関係的埋め込み」に焦点を当てた. 外部関係者との密接な人的交流・技術的調整活. 研究も増加している(Andersson. 動を必要とする場合,当該知識はコンテクスト. Andersson,2003).このことから,本稿では, 「関係的埋め込み」の視点を活用して,海外R. 特殊的・関係特殊的である可能性が高くなる. それ故,グループ内部への移転は困難になるの である.このように海外子会社の知識獲得と移 転には,知識特性に伴うジレンマが存在してい るのである10).. しかし,これまでの先行研究を活用して,港. et al.,2002;. &D拠点の開発成果の特性を正確に捉える事 を試みる12). 第二に,多国籍企業内部の知識移転の研究は, 認知段階に関して十分に議論されているとは言 えず,認知を捉える意義を明確にする必要があ. 外R&D拠点の技術・製品開発成果の認知を正. る.つまり,多国籍企業内部の知識移転は,本. 確に分析する事は困難である.. 国本社から海外子会社-の移転プロセス・定着. 第一に,海外R&D拠点の技術・製品開発プ. 段階に注力した分析が多く為されている事もあ り,本国本社の知識が海外子会社にとって実際. ロセスを正確に把握する上で弊害がある事か ら,開発成果の特性を明確に捉える事が困難で. 有効であるのかという認知を若干軽視していた. ある.先述の通り,海外子会社の知識獲得は,. と考えられる.この点に関して,余り焦点が当. 構造的埋め込みを軸として分析されたものが多. てられなかった理由は,本国本社の知識が海外. く,知識獲得の主体を海外子会社そのものとし. 子会社へ一方的に流れるという事を絶対視して. て捉えていた.つまり,分析単位を研究所・企 業単位で設定していたために,技術・製品開発. いたからかもしれない.一方,知識がグローバ ルに分散化している今日では,グループ内部に. プロセス等の個別の業務活動に最も影響を及ぼ. とって有効な知識を素早く認知する事が競争優. す現地環境のキーファクタ-を把握する事は困. 位につながる.例えば,本国本社・他国拠点の. 難であろう.例えば,海外R&D拠点そのもの. 具体的な業務活動でいかに利用できるかを把握. を分析単位とした場合,当該拠点は現地の産業. しておく事は,その後のスムーズな移転活動や. クラスターに組み込まれる事で技術が獲得可能. 競合他社への差別化にも影響してくるだろう.. になる(Porter,1990)ll).また,役割類型化の. しかし同時に,海外子会社の知識の場合,コ.

(5) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). (303). ンテクスト特殊性・関係特殊性等の知識特性を 伴う事から,本国本社・他国拠点で有効に機. 1,知識特性. 能し,技術的貢献を十分に果たせるのかといっ た不安要素も大きくなる.そのため,例えば移. は,吸収能力と極めて密接な関係を有している (Cohen & Levinthal, 1990).現地市場で新し. 転プロセスの前に,海外子会社の役員・エンジ. い価値を認識し,評価し,更にそれを製品開発. ニアが当該知識の重要性を認識し,グループ内 部に取り込めるかどうかを議論する必要がある. の様な商業目的に通用するには,既存知識の豊 富さが重要である.同時に,吸収能力の向上を. だろう.更に,本国本社の施策やグループ内部. 図るには,現地クラスターにおけるポジショニ. での人材交流を通じて当該知識の重要性・有効 性に閲しで情報共有し,意思決定を行う事がス. ングだけでなく,現地環境を構成する個別要素 との相互作用が重要になってくるであろう.. ムーズな移転につながる架け橋となるだろう.. 確かに,多くの顧客と接触する事で新規情. この事から,本稿では,知識移転の認知段階 を「海外子会社の知識をグループ内部へ移転・. 報を得られるというメリットはあるが(近能, 2002)t 特定顧客との人的交流や技術的やり取. 共有する場合,海外子会社・グループ内部の双. りは,実際に現場で何が要求されているのかを. 方で当該知識の重要性・有効性を認識し,移転. 把握する事が可能で,自社の製品技術や生産技. の意思決定を行う段階」として定義する.もっ とも多国籍企業内部の知識移転は,移転プロセ. 術の改善,更に,新しいコンセプトの創出に直. 111. 海外R&D拠点の技術・製品開発能力の形成. 接影響するだろう. 例えば,製品開発プロセスにおける現地のリー. ス・定着段階を含めて分析する事で成果が見 出せるが,全てのプロセスを分析する事は多様. ドユーザーとの関係は,グローバル市場を牽引. な制約上困難である.しかし,認知段階を中心. する先端的なニーズの把握に役立つかもしれな. に分析する事で,どのような知識特性が本国本 社・他国拠点にとって重要であるのかを考察す. いのである.. る事が可能となり,知識獲得と移転におけるジ. とのデザインイン活動は,技術情報の収集や自. レンマを克服する示唆を提供できると考えてい. 社製品の性能を向上させるために大いに貢献す. る.. ると考えられる.近年,日本の自動車産業にお. (周佐,. 1989. ;. vonHippel,1988). また,部品技術の優れている現地サプライヤー. 以上の事から,本稿では,これまで十分に蓄. けるサプライヤー関係は,多数のサプライヤー. 積されているとはいえない海外子会社を基点と. から調達するオープン型ネットワークのメリッ. した知識移転の研究に焦点を当て,第一に,特 定の外部関係者との相互作用が海外子会社の開. トが示されており,系列に拘束されない独立的. 発成果にいかに影響しているのかを明らかにす. 関係が自動車メーカーに交渉力・価格・数量等. る.第二に,当該知識が,本国本社・他国拠点. のコスト要素,リスク回避の側面でメリットを 与えている(近能, 2002).しかし,その一方. において実際重要であると認知されているのか といった点を海外子会社側・グループ内部の双. で,コンカレントエンジニアリングのような開 発プロセスにキーサプライヤーを完全に組み込. 方の視点から明らかにする事を試みる.. むデザインインの様な深耕的な関係も依然とし. 次節では,これらの推論をより具体的な仮説 として展開していく事にする.. て継続して行われている.現在の自動車企業は, この二律背反的な選択肢をいかにマネージする かが競争優位の構築を左右するのである(延岡,. Ⅱ.仮説の構築 本節では,海外R&D拠点の知識移転の認知 段階に関して具体的な仮説を構築していく.. 2002). また,特定の外部取引先との人的交淀や技術 的調整に代表される密接な相互作用は,自動車.

(6) 112. (304). 横浜国際社会科学研究. 産業等の統合型の産業だけで行われている訳で. 第11巻第2号(2006年8月). はない13).モジュール型産業の特色の強いエレ クトロニクス業界においても,例えば,高機 種のデジタルカメラの製品開発は,カメラメー. 2.認知段階 近年,企業の競争優位の源泉は,ケイパビ リティ,コンビタンス,知識の役割に焦点が当. カーとCCDメーカーとの密接な共同作業によ. てられている(Grant,1996).それ故,企業内 部の学習だけでなく,企業外部からの知識吸収. る擦り合せが必要であると考えられる.. を通じて競争優位の維持・向上を図っていく必. このような特定のビジネス・パートナーとの. 要がある(Co虹en. &. Levinthal,. 1990; McEvily. 密接な相互作用の視点は,先述の通り「関係的. &zaheer,1999).多国籍企業においても,そ. 埋め込み」として体系化されている.埋め込. れぞれ異質な外部環境に属する海外子会社の知. み理論では,ネットワークを構成するアクター. 識・ケイパビリティを移転・統合する事が競争. 間で何らかの直接的・間凄的な社会関係があ. 優位の構築になると強調されている(Holm&. ることを「紐帯」と呼び,企業や個人等のア. pedersen,. クター間の紐帯が企業の能力構築や業績に影響 を及ぼすとしている(Gulati,. 1998; McEvilly&. 2000; Birkinshaw. &. Hood,. 1998). もっとも,各国子会社は,現地販売先企業の. Zabeer,1999).関係的埋め込みは,分析レベ. ニーズやサプライヤーの技術能力の異質性から 影響を受けるため,技術・製品開発能力の特性. ルを二者間関係に設定し,直接的な結合にお ける紐帯の内容や質を議論する場合に適用さ. はそれぞれ異なる.それ故,グループ全体の競 争力の向上につながるだろう.例えば,現地販. れる.最近では,海外子会社の知識獲得プロセ. 売先企業との密接な取引関係を通じて形成され. スを関係的埋め込みの視点から分析する研究も 且られ,海外子会社の知識特性を明確に捉え. た製品開発の成果は,他国拠点で販売している. る決定因として捉えている(Andersson. しれない.また,現地サプライヤーとの密接な. et al.,. 2002. ;島谷, 2006). 以上の事から,特定の販売先企業・サプライ. ヤーとの人的交流や技術的やり取りといった密 接な取引関係は,海外R&D拠点の技術・製品. 同種製品の製品コンセプトに影響を及ぼすかも 取引関係を通じて形成された製品技術・生産技 術は,新設子会社への技術移転,子会社間の能 力格差の是正に活用できる可能性もある. しかしながら,その一方で,現地市場に深. 開発成果に影響するキーファクタ-であると考. く根ざした知識は,現地特殊的・関係特殊的. えられる.. であるため移転は困難であるという見解もあ. したがって,以下の仮説が構築される.. る(Forsgren. et al.,2000).極端な例を示せば,. 現地販売先企業から非常にカスタム性の高い製 仮説1. :特定の現地取引先企業との密接な取引 関係は,海外R&D拠点の技術・製品開発の成. 品受注が入った場合,現状の開発能力で対応で. 果と正の関係がある.. 依頼して顧客の注文に対処する必要がある.そ. きなければ,特注の工作機械を機械メーカーに の場合,工作機械の用途が,販売先企業一社に. 仮説1a :特定の現地販売先企業との密接な取 引関係は,海外R&D拠点の技術・製品開発の. しか活用できない場合,当該拠点に非常に関係 特殊的な能力がもたらされ,グループ内部での. 成果と正の関係がある.. 活用は困難になると考えられる. そのため,実際,当該知識が本国本社・他国. 仮説1b:特定の現地サプライヤーとの密接な. 拠点で有効に活用できるのか,海外R&D拠点. 取引関係は,海外R&D拠点の技術・製品開発. の役員・エンジニア間で議論し,当該知識の重 要性を認知する必要があるだろう.特に,上記. の成果と正の関係がある..

(7) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). 知識特性. (305). 113. 認知段階. 図1分析フレームワークと仮説. 仮説2では,認知を海外子会社側の視点で捉. の通り,企業の技術・製品開発プロセスは,販 売先企業とサプライヤーの両者を包含して捉え. えた.一方で,海外子会社の知識に対する本国. る必要がある.しかし,ここでは,あえて販売. 本社・他国子会社等グループ内部側の視点もま. 先企業とサプライヤーを分別して捉える事で,. た重要となってくる.特に,本国本社は,技術・. 両者との密接な取引関係を通じて形成された技. 製品開発の成果がグループ内部でどれだけ有効. 術・製品開発の成果が認知にどのような影響を. 性を持っているのかを判断し,実際の移転プロ. 与えるのかを比較して考察することにしたい.. セス-の移行を決定する上で重大な権限を持っ. そこで,以下の仮説が構築される. 仮説2. ていると考えられる.言い換えるならば,本国 本社から,当該知識の重要性を認知されなけれ. :特定の現地取引先企業との密接な取引 関係を通じて形成された技術・製品開発の成果. ば,実際の移転活動-はつながらないだろう.. は,海外子会社側の認知に正の影響を与える.. える代理変数として,本国本社からの公式的な. そこで,本稿では,本国本社の意思決定を捉 責任の割り当てを導入し,認知との影響を分. 仮説2a :特定の現地販売先企業との密接な取 引関係を通じて形成された技術・製品開発の成. 析する事とした.公式的な責任の割り当ては,. 果は,海外子会社側の認知に正の影響を与える.. 「現地環境・子会社自身の モデルが示す通り, 選択・本国本社からの役割指定」の三者が関連. 仮説2b:特定の現地サプライヤーとの密接な. する事で役割進化が為されるとしている.つま. Birkinshaw. &. Hood. (1998)の海外子会社進化. 取引関係を通じて形成された技術・製品開発の. り,現地環境を通じて技術・製品開発能力を形. 成果は,海外子会社側の認知に正の影響を与え. 成し,当該能力がグループ内部でも活用可能で. る.. あると子会社自らが認知したとしても,内部貢.

(8) 114. (306). 横浜国際社会科学研究. 献への責任を本国本社から付与されない限り移. 第11巻第2号(2006年8月). そこで,以下の仮説が構築される.. 転は促進されない可能性がある. この事から,以下の仮説が構築される.. 仮説4. :グループ内部との密接な取引関係は, グループ内部側での認知に正の影響を与える.. 仮説3. :本国本社からの公式的な責任の割り当 ては,グループ内部側での認知に正の影響を与. える.. 以上の仮説を基に,本稿では,第一に,主要 なサプライヤー・顧客との相互作用が海外R&D 拠点の技術・製品開発の成果にいかに影響して. 更に,ここでは,グループ内部の相互作用と 認知との関係からも考察する. 仮説3では,本国本社からの公式的な責任の. いるのか,知識特性を明確にする.第二に,そ の成果が本国本社・他国拠点において実際重要. 割り当てが認知に影響するという仮説を設定し. であると認知されているのかという点に関して 海外子会社側・グループ内部の双方の視点から. た.しかし,グループ内部の意思決定に際して,. 明らかにする.図1は,本稿の分析枠組みと仮. 本国本社の役員・エンジニアが,本国から移動. 説の関係を示している.. せずに,あるいは,情報収集も行わずに,当該. 次節から,仮説を検証するために,欧米系多. 知識の重要性が自己判断で為されるものではな. 国籍企業の日本子会社のデータを用いて定量分. い.例えば,海外R&D拠点と本国本社間で,. 析を試みる.. フェイス・トウ・フェイスの国際会議を開催し, エンジニアの相互交流を図り意見を共有する事 が,グループ内部での有効性の是非を決定する 上では重要なメカニズムといえる.その他にも,. Ⅳ.データと分析方法 本節では,定量分析で利用するデータ概要, 変数の説明,分析手法等について説明する.. 国際プロジェクトチーム等の活用も挙げられよ う. また,グループ内部での経営理念・組織文化. 1.データ収集 本稿は,国際経営の分野はもとより,組織間. 等の価値の共有を図る事が,認知を高める手段. 関係論・埋め込み理論等の広範なレビューを通. であるともいえる.この両側面を明らかにした. じで4),海外R&D拠点を基点とした知識移転. 実証研究として,茂垣(2001a)では,海外子. の認知段階に関する調査モデルを設計した.. 会社からの知識移転には,人的交流・経営理念. データ収集は, 2005年6月から2005年8月 末日を締切りと設定し,欧米系多国籍企業の日. の浸透等,社会化メカニズムが高い影響を及ぼ している事を明らかにしている. 更に,海外R&D拠点は,. 本子会社に対して郵送による質問票調査を実施 した.送付先は,東洋経済新報社『外資系企業. -製品レベルでは, グループ内部への重要な知識供給拠点として位. 絵覧2005』を利用して,素材(ガラス・非鉄. 置付けられるとしても,多国籍企業の全体的製. 金属),医薬品,化学,機械・同部品,自動車. 品カテゴリーでの役割は非常に限定されている. 部品,食品,精密機器,電機・同部品にカテゴ. とも考えられる.つまり,その他製品レベルの. リー化された製造企業から,販売機能限定の企. 知識では,本国本社・他国子会社に対して依存. 業を除いて抽出された外資比率50%以上,従. 関係にあると想定した方が妥当である.つまり,. 業員50人以上の企業320社に対して行った.. グループ内部で知識の相互依存関係が増加する. 各企業とも製品開発・生産技術担当の役員宛. 程,自己の知識と海外R&D拠点の開発能力を. てに質問票を送付し,役員本人もしくは製品開. 比較し,認知する機会が増えるであろう.. 発・生産技術部門の担当者が回答するように依.

(9) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). 頼した.質問項目の設定としては,主力製品を 念頭に置いた場合,. Q)取引額が相対的に大きい. (307). 26.6%),全回答企業割合で4社/53社(7.5%). 精密機器分野(医療機器を含む)は,発注企. 販売先企業及びサプライヤーとの取引関係15),. 業数21社中3社(業種別回収率14.2%),全回. ②自社の技術・製品開発の成果,. 答企業割合は3社/53社(5.7%).電機・同部. ③本国本社・. 115. 他国拠点における自社の技術・製品開発の重要. 品分野は,発注企業数75社中10社(業種別. 性,④本国本社からの責任の割り当て,⑤グルー. 回収率13.3%),全回答企業割合で10社/53社. プ内部との取引関係,に関する評価を求めた.. (18.9%)を占めていた.この事から,全回答企. 質問項目の選択に関しては,関連分野の先行研. 業割合の中で最も多い比率であったのは化学・. 究を活用しつつ,一部独自の尺度形成に基づい. 医薬品分野であるが,発注企業数を加味すれば,. て行っている16). 全体で320社に郵送した内,何らかの返答が. 食品分野を除いて全業種とも業種別回収率は均 設立年度の傾向は,. あった企業は64社(全体回収率:20%),その 内有効回答企業は53社(有効回収率:. 衡している.. 16.6%). となった.. 欧米系多国籍企業の日本子会社を選択した理. 20年以上前に企業活動. を開始した企業が多く,特に1983年以前設立 の企業が全業種を通じて62.2%を占めていた. また,対日直接投資を行う欧米系多国籍企業に. 由は,国際ビジネス経験が日系多国籍企業より. とっては,. も豊かであり,海外子会社の能力活用を含め た国際マネジメントに関して一定の蓄積がある. コストアップ要因となるにも関わらず,それ以 後も, 35.8%の企業が2003年までに日本で活. と考えたからである.その根拠として,在日研. 動を開始している.この事から,日本進出-の. 究開発子会社を分・析対象とした実証研究におい. 目的は,生産拠点の設置というよりも,むしろ. ても,その点が浮き彫りとなっている(吉原,. 市場志向・技術獲得を目指したものであると推. 1992,1994;岩田,. 1994)17).また,日本貿易振 興機構の『R&D拠点誘致のための設立要因調. 察できる.. 査』 (2004)では,対日直接投資の促進理由と. 社,買収・合弁が39社であった.また,進出. して,市場シェアの向上だけではなく,開発パー. 時は合弁であっても,その後,合弁を解消し,. トナーの存在を挙げていた.この事から,海外. 自己資本比率が100%となった企業が17社あ. R&D拠点の知識移転の認知段階を分析する上. る.つまり,概ね日本進出の初期段階では,商. で有効であると考えた.. 習慣や市場の不透明さから,買収・合弁の形態. 1985年のプラザ合意以降の円高が. 進出形態に関しては,新規設立が53社中14. で進出する傾向が多いが,進出以後の経験蓄積 2.回答先企業概要 データ回収後,クロス集計により回答企業. に伴い,合弁を解消するケースも半数近くの企 業で観察でき,海外市場進出のパターンが形成. の内訳を考察した.医薬品・化学分・野で発注企 業123社中20社(業種別回収率16.2%),全回. されているといえる.. 答企業割合で20社/53社(37.7%)を占めてい. 28社/53社(53%),欧州系企業が25社/53. る.機械・同部品分野は,発注企業数60社中. 社(47%)で,両者の大差はほとんどない.また,. 11社(業種別回収率18.3%),全回答企業割合. 欧州系企業の国籍は,ドイツ・スイス・イギリ. で11社/53社(20.8%).自動車部品では,発 注企業数26社中5社(業種別回収率19.2%),. ス・オランダ・スウェーデン等多岐に渡ってい る事から国籍別のバイアスは回避されている.. 全回答企業割合で5社/53社(9.4%).食品分 野は,発注企業数15社中4社(業種別回収率. 本国本社の国籍に関しては,米国系企業が. また,企業規模の分布においては,. 2004年 度の売上高及び従業員数を代理変数とした.売.

(10) 116. (308). 横浜国際社会科学研究. 上高に関しては,未公表・未回答企業が多く十 分なデータを得る事はできなかった.従業員に 関しては,. 43回答企業の内500人以下が70%. 第11巻第2号(2006年8月). 分分析,累積寄与率77.1%). 独立変数も,従属変数にあわせるために販売 先企業(仮説1a)とサプライヤー(仮説1b). 以上を占めている事から,中小・中堅企業に分. にそれぞれ対応させて設定している.そこで,. 布しているといえよう18).. 両者ともに取引の密接性に関する項目を使用 し,開発成果-の影響を問う事にする.販売. 3.構成概念 上述した通り,海外R&D拠点の知識獲得プ. 先企業との取引の密接性は,独自に考案した. ロセスに伴う知識特性の明確化と知識移転の認 知段階を関連付けて詳細に分析した研究はほと. チーム」. んどない.しかし,個々の現象を捉えた関連の. (2003)の外部の技術的埋め込みに関する指標. 先行研究は,北欧系研究者を中心に比較的蓄. 4項目(「技術」・「コスト改善策」での調整度. 積されつつある.同様に,製品開発・サプライ. 合い, 「生産技術」. ヤー研究に関しては,日本での研究が進展して. とっての重要度)の計8指標を使用し,. 1993;延 いる(浅沼, 1998;藤本・クラーク, 岡, 2002).この事から,それらの関連研究の. 交換』, 『適応性』,『重要性』の3つの成分を抽. 概念を利用しつつ,一部独自の測定尺度を交え. 与率67.3%)19).その内訳は,第1主成分:. てモデルの構成概念を構築している.. 報交換』 (固有値2.1,回転後の負荷量25.8%),. 以上の理由から,定量分析で用いられる変数. 『情報交換』に関する指標4項目(「共同開発 常駐」. ・. ・. 「対面式会議」・「ゲストエンジニアの. 「技術指導」の有効性)とAndersson. ・. 「製品技術」の能力形成に 『情報. 出した(主成分分析,バリマックス法,累積寄. 第2主成分:. 『情. 『適応性』(固有値1.7,回転後の. は,関連研究の指標及び独自の測定指標を分析 枠組みに適合させて質問票に反映させている.. 負荷量20.9%),第3主成分:. 『重要性』(固有. また,いずれの指標も5段階リッカート法によ. プライヤーとの取引の密接性も,上記の販売先. り測定されている.その上で,主成分分析を経. 企業で用いたものと全く同じ独自考案の『情. て抽出された変数を本稿で採用している.以下. 報交換』に関する指標4項目とAndersson. では,変数の説明を仮説別に示す事にする.. (2003)の外部の技術的埋め込みに関する指. 値1.6,回転後の負荷量20.6%)となった.サ. 『情報交. 標4項目を合せた計8項目を使用し, 4.変数の説明 仮説1では,従属変数として日本子会社の. 換』 『適応性・重要性』の2つの成分を抽出し. 技術・製品開発の成果を設定した.その上で, 取引先企業の影響を分類して把握するために,. 『情報交換』 64.3%).その内訳は,第1主成分: (固有値2.6,回転後の負荷量35.3%),第2主. 『販売先企業との取引関係による開発成果』 (仮. 成分:. 説1a),. 『サプライヤーとの取引関係による開. た(主成分分析,バリマックス法,累積寄与率. 『適応・重要性』 (固有値2.6,回転後の. 負荷量32.1%)となった.販売先企業では,. 『適. 発成果』 (仮説1b)としている.販売先企業を. 応性』と『重要性』は2成分に分離していたが,. 通じた開発成果は,独自に考案した指標3項目 (「技術開発」, 「製品開発」, 「生産技術」の進展. サプライヤーでは,. 性)を使用し,. 術・製品開発の成果に対する『認知』を設定し. 1つの成分を抽出した(固有値. 1成分に収束している. 仮説2は,従属変数として日本子会社の技 『認知』は, Andersson. (2002),. 1,9,主成分分析,累積寄与率64.7%).サプラ. ている.. イヤーを通じた開発成果も,販売先企業で用い. Birkinshaw. たものと全く同じ独自考案の指標3項目を利用. 「製品技 にあわせて指標4項目(「生産技術」 術」 「応用開発」 「新製品開発」の重要度)を. し, 1つの成分を抽出した(固有値2.3,主成. et al.,. etal.,. (2000)を参考に本稿の目的 ・. ・. ・.

(11) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). 使用し,. (309). 荷量24.8%),第2主成分:. 1つの成分を抽出した(固有値2,2,. 117. 『知識インフロー』(固. 主成分分析,累積寄与率55.4%).独立変数は,. 有値3.0,回転後の負荷量22.8%),第3主成分:. 仮説1の従属変数である「販売先企業との取引. 『国際プロジェクトチーム』 (固有値2.2,回転. 関係による開発成果」及び「サプライヤーとの. 後の負荷量17.1%),第4主成分:. 取引関係による開発成果」を適用している.. 交流』(固有倍1.2,回転後の負荷量9.9%)となっ. 仮説3は,仮説2と同様に従属変数として『認. 『本社間人材. た.. また,本稿では,. 知』を設定している.その理由は,前節で示し. 3つの変数をコントロール. た通り,本来,日本子会社の評価主体としてグ. している.第1に,日本子会社の進出形態で. ループ内部への調査も行う事でその客観性が. ある.進出当初は日本の不透明な商習慣や市場. 増幅するが,多様な制約のため,今回の調査で. 環境の影響により,取引先企業とのネットワー. は実施できなかった.この事から,モデルの信. ク構築は,買収・合弁を通じた相手先のネット. 頼性を向上させるための独立変数としてグルー. ワークに依存せざるをえない状況を想定し,ダ. プ内部例の視点として客観性のある本国本社か. ミー変数として買収・合弁を1,新規設立を0. らの『公式的な責任の割り当て』を設定してい. とした.. る.公式的な責任の割り当ては,. 第2に,業種別特性である.回答先企業を大. Birkinshaw. (1998)を参考に本稿の目的にあわせ. &Hood. て指標4項目(「生産技術」 用開発」. I. ・. 「製品技術」. まかにカテゴリー化するとプロセス型産業(化 「応. ・. 「新製品開発」における責任の度合い). 学・医薬品等)と加工組立型産業(機械・同部 品,自動車部品,電機・同部品等)に分類可能. を使用し, 1つの成分を抽出している(固有値. である.その上で,特に,加工組立型産業の中. 2.5,主成分分析,累積寄与率62.5%). 仮説4も同様の理由で,従属変数を『認知』. でも,自動車部品,電機・同部品業界は先述の 通り取引先企業との関係が密接で,海外子会社. に設定し,客観性を向上させる試みを講じてい. の開発成果-の影響は非常に大きいと考えられ. る.ここでは,独立変数としてグループ内部と. る.また,技術や製品仕様が比較的,世界市場. の取引関係の密接性を設定している.グループ 内部との取引関係の密接性は,独自指標及び茂. で共通化・標準化されており,開発能力に関し. 垣(2001b),. Gupta. Subramaniam. &. &. (1991),. Govindarajan (2001)を参. Venkatraman. 考に本稿の目的にあわせた指標13項目(「経営 理念」. ・. 「組織文化」. 「管理者行動規範」. ・. 員行動規範」の共有度, 術」. ・. 「応用開発」. ・. 「生産技術」. I. 「新製品開発」成果の移転度,. 「国際プロジェクトチームの活用」・「対面式の 国際会議」. 修」. ・. ・. ・. 「本社エ. ンジニアの短期的出張」の重要度)を使用し, 『価値の共有』,『知識インフロー』, 『国際プロ ジェクトチーム』,. 以外を0とした. 第3に,本社国籍である.多国籍企業は,各 国・各地域で多国籍化の時代背景が異なり,国 際マネジメントの手法も多様である(Bartlett &. 「海外要員(自社を含む)の本社研. 「本社エンジニアの長期的出向」. して自動車部品,電機・同部品業界を1,それ. 「従業. 「製品技. ・. てもボーダレスに普及する可能性が高いのでは ないだろうか20).以上の辛から,ダミー変数と. 『本社間人材交流』の4つ. Ghosbal,. 1989;茂垣, 2001b)21).特に,欧 州系企業は,国内市場が小さく,海外子会社へ の権限委譲を重視しており,海外子会社の能力 を活用するCOE化も進展している.その一方 で,米国系企業は,. Vernon. (1966)のPLCモ. デルが代表するように,海外子会社を本国本社. の成分を抽出した(主成分分析,バリマックス 紘,累積寄与率74.6%).その内訳は,第1主. の技術移転先として認識する傾向がある.この 事から,ダミー変数として欧州系企業を1,栄. 成分:. 国系企業を0とした.. 『価値の共有』 (固有値3.2,回転後の負.

(12) 118. 横浜国際社会科学研究. (310). 第11巻第2号(2006年8月). 表1は,上記変数の相関マトリックスを示し. が分かった(p<0.05).しかし,自動車部品・ 電機業界及び欧州系企業での有意差は検出され. ている.. なかった(表2モデル1参照). 次に,サプライヤーの影響で見たモデル2全. 5.分析手法 主成分分析により抽出された変数をもとに, 本稿では統計解析ソフトSPSS. 体(R2-o.44,. Ver.12.0を利用. AdjR2-o.37,. F-624,榊p. <. 0.01). して重回帰分析を行った22).仮説1から仮説4. で見てみると,販売先と同様に,サプライヤー との密接な取引関係が,技術・製品開発の成果. までを個別に行い,各変数間の関係を検討した.. に正の影響を及ぼしている.この事から,仮説. 検討内容は,各変数間の相関及び独立変数間の 多重共線性(multicollinearity)の検出を行った.. 「情報交換」が 1bも支持された.個別項目では, 非常に強い正の影響を及ぼしていた(p<0.01).. 分散拡大要因(Value. また,. ln且ation. Factors-VIFs). 「重要性・適応性」も関係が強い事が分. は,最も厳しいVIF<2.0の基準を全てクリア. かった(p<0.05).販売先とは異なり,相手先. しており(BarnettandLewis,. が重要であるという評価だけではなく,例えば,. 1984),多重共. 製品開発プロセスでエンジニアの往来や部品の. 線性の可能性は極めて低いものといえる.. 調整等を行う必要性が生じていると思われる. Ⅴ.分析結果と考察. また,自動車産業・電機産業の影響が想定され. 本節では,重回帰分析により仮説検証した結. たが,有意差を示さなかった.この事は,サプ. 果を示す.. ライヤーとの相互作用が加工組立型産業の業界 慣行ではなく全業種を通じて普遍的に活用され. 1.分析結果. ている事を示している.尚,進出形態・本社国 籍も有意差は見出されなかった(表2モデル2. a.仮説1 仮説1は,日本子会社の技術・製品開発の成 果を,. 「販売先企業」. 参照),. (仮説1a)及び「サプラ. b.仮説2. イヤー」 (仮説1b)との密接な取引関係の影響. 仮説2は,両取引先との関係をベースとした. から検証を試みている.. 日本子会社の技術・製品開発の成果が,日本市 場でのみ有効であるのか,もしくは,グループ. まず,販売先の影響を見たモデル1全体 (R2-o.47, AdjR2-o.34,. F-3.71,. ***p <. 0.01). 側からの認知を検証した23).. で調べて見ると,仮説1で予測した通り,販売. 販売先との取引関係を考慮したモデル3全体. 先企業との密接な取引関係が,技術・製品開発. (R2-o.15, AdjR2-o.o7,. の成果に対して正の影響を及ぼしている.よっ て,仮説1aは支持された.個別項目では,. 「重. 要性」のみが開発成果との関係が強い事を示し ている(p<0.05).一方,. 内部でも重要であるのかに関して,海外子会社. 「情報交換」 「適応性」. F-1.82,. N.S)で調べ. てみると,認知に何ら影響を及ぼしていない事 が分かった.この事から,仮説2aは棄却された. 日本子会社の全体的な傾向として,販売先との. は有意な影響を及ぼしていなかった.つまり,. 関係を重視した技術・製品開発の成果は,現地. 開発成果を高める上で,日本子会社は販売先を. 特殊的・関係特殊的で日本市場に留まる事を. 重要であると認識してはいるが,エンジニアの. 意味している.しかし,その一方で,自動車部. 交流や製品のカスタム化における調整活動まで. 品・電機産業及び欧州系企業の両者で正の影響. には至っておらず,相互作用は限定的であると 考えられる.尚,新設企業と比較して買収・合. が検出された事から,例えば,欧州系の自動車. 弁企業の方が,販売先との相互依存性が高い事. ナ-シップを構築し,技術・製品開発の成果を. 部品企業は,日本の自動車メーカーとパート-.

(13) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). (311). 119. 表1変数の相関マトリックス 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 1.開発成果(販売先ベース) 2.開発成果(サプライヤーベース) -.15 **. 3.認知レベル 4.販売先:情報交換 5.販売先:適応性 6.販売先:重要催 7.サプライヤー:情報交換. .16. .42* .03. -.07. .07. .12. .25. .37***. .03. .00. .36**. .36**. .GO…. .31**. .13. .03. .34**. .03. .43'*. .42'''. .14. .72**'-.09. .30**. .32**. .28*. .15. -.28. 8.サプライヤー:適応性・重要性-.o1 9.責任の割当て. .35'*. 10.内部:価値の共有. -.2l. -.13. 13.内部:本社間人材交流. .o1. 14.進出形態. .05 .12. .35** I.05. 15.業種特性. .o8 .13 ; **<0.05. ;. ,18 -.05. 1.17. .37串*. .11. .16. .oo .14. .50*'' .15. .01. .03. .10. .09. .24 .24. .35** ∴24. .06. o7. 一. 一. 16. o8. 1 1. 一. _35 u. 一. E_11. 一拡. -.00. 肝. 3ー ・_. 娼 NO o8. 一. -5. ー4. 1. ・■. -4 l. *. .4〇 .27. * *. 4ー 24 10. 一. .〇9 .18 価. *. .39 朋. り). l l〓J. {JnU *. 1. .13. lq-. .10. り・】. 16.本社国籍 ***p<o.o1. 1.12. 一. 17. ∬.19.. -.10. 12.内部:国際Pチーム. *. 16. 伽.02.〇1. ll.内部二知識インフロー. .19. .30 23.-3.1130. 伽.20.03.03.13.16.05.. .30 .38…. l5i<. *<0.10の各レベルで有意水準. 表2. 重回帰分析の結果(仮説1) モデル1(仮説1a). モデル2(仮説1b). 従属変数. 開発成果(販売先ベース). 開発成果(サプライヤーベース). 独立変数. β. Sig.(t借). 販売先:情報交換. 0ユ37. n.s.(0.819). 販売先:適応性. 0.254. n.s.(1.620). 販売先:重要催. 0_345. β. Sig.(t値)■. **(2.093). サプライヤー:情報交換. 0.490. ***(3.892). サプライヤー:重安佳.適応性. 0.331. **(2.446). 進出形態ダミー(買収.合弁). 0.331. **(2.145). 業種特性ダミー(自動車.電機). 0.018. n.s.(0.110). 0.103. 本社国籍ダミー(欧州). 0.176. n.s.(1.117). 0.141. n.s.(-o.228). -0.029. R2. 0.47. 0.44. 調整済みR2. 0.34. 0.37. 3.71***. 6.24***. F億(sig.) ***pく0.01. ;. **<0.05. ;. *<0.10の各レベルで有意水準. n.s.(0.817) n.s.(1.070).

(14) 120. (312). 横浜国際社会科学研究 表3. 第11巻第2号(2006年8月). 重回帰分析の結果(仮説2). モデル3(臓2a)lモデル4(仮説2b) 認知. 従属変数 独立変数. β. Sig.(t値) 0.150. 開発成果(販売先ベース). β. Sig.(t値). n.s.(o.971) ***(2.928). 0.387. 開発成果(サプライヤーベース) 進出形態ダミー(買収.合弁). n.s.(--o.685). -0.108. 0.004. n.s.(o.032) n.s.(1.414). 業種特性ダミー(自動車.電機). 0.274. *(1.858). 0.197. 本社国籍ダミー(欧州). 0.269. *(1.816). 0.285. ・**(2.094). R2. 0.15. 0.29. 調整済みR2. 0.07. 0.22. F値(sig.). 1.82. 4.02***. ***p<o.o1. ;. **<0.05. ;. *<0.10の各レベルで有意水準. グローバルに活用している可能性も若干見出さ. 産業においては,日本子会社をグループ内部に. れた.. おける世界的製品開発拠点,あるいは,グロー. サプライヤーとの取引関係を考慮したモデル 4全体(R2-o.29,. AdjR2-o.22,. F-4.02,榊p. バル連携体制による技術開発の一拠点等として <. 0.01)では,認知に強い正の影響を及ぼしてい た.それ故,仮説2bは支持された.この事か. 認知していると考えられる.また,その傾向は, 欧州系企業において特に反映されている.. ら,日本子会社では,販売先との関係よりも,. d.仮説4 仮説4は,グループ内部との密接な取引関. サプライヤーとの相互関係により形成された技. 係と認知の影響を測定した.グループ内部と. 術・製品開発の成果が,グループ内部にとって. の相互作用を考慮したモデル6全体(R2-o.50, ***p < 0.01)で見てみる AdjR2-o.41, F-5.21,. も付加価値の高い技術・ノウハウである事を示 している.また,米国企業よりも欧州系企業の 方がそれらを高評価している事がわかった.し. と,認知がグループ内部との相互関係に強い 相関を示していた.つまり,仮説4は支持され. かった.. た.個別項日では,国際プロジェクトチーム以 外は認知への影響が示されていた.各項目で. c.仮説3. は,価値の共有(p<0.05),知識インフロー(p. かし,進出形態と業種特性の両者は有意ではな. 仮説3では,本国本社の公式的な責任の割り 当てと認知の影響を考察する事で,技術・製. <o.o1),本社間人材交流(p<0.01)を示し. 品開発の成果のグループ内部での有効性をグ. ていた.しかし,知識インフローは強い負の影 響を及ぼしていた.つまり,グループ内部から. ループ内部側の視点から測定した.本国本社. 知識が移転されると,日本子会社の開発成果は. からの責任の割り当てを考慮したモデル5全体 ***p < 0.01) (R2-o.60, AdjR2-o.56, F-15.43,. 重視されないという事である.また,業種特性. で調べてみると,本国本社からの責任の割り当. の事を勘案すると,例えば,欧州系企業の自動 車部品・電機業界の日本子会社は,対面式の国. てに対して強い正の影響を示していた.つまり, 仮説3は支持された.特に,自動車部品・電機. と本社国籍に正の有意差が見出された.これら. 際技術会議等を開催し,日本子会社の技術・ノ.

(15) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷) 表4. (313). 121. 重回帰分析の結果(仮説3と仮説4) 仮説3(モデル5). 仮説4(モデル6). 従属変数. 認知. 独立変数. β. Sig.(t億). 本国本社からの責任の割り当て. β. Sig.(t値). ***(6.947). 0.708. 0.288. 価値共有 知識インフロー. -0.426. 国際プロジェクトチーム. 0.010. **(2.067) ***(-3.175) n.s.(0.075). 本社間人材交流 0.508. 進出形態ダミー(買収.合弁). *ト1.700). -0.175. 業種特性ダミー(自動車.電機). 0.228. 本社国籍ダミー(欧州). 0.177. **(2.252) 辛(1.735). -0.042. *(1.772). 0.216. *(1.730). 0.60. 0.50. 調整済みR2. 0.56. 0.41. ***. **. p<o.o1;. 15.43*** <0.05;. *. n.s.(-0.296). 0.231. R2. ■F値(sig.). ***(3.686). 5.21***. <0.10の各レベルで有意水準. ウハウの重要性・有効性を共有し,グループ内. り影響を受けている事が確認できた.しかし,. 部への採用の意思決定を行っている可能性があ. この場合でも,取引先によって付き合い方が異. る.. 質な点が興味深い点であろう.実際,販売先企. 以上が,仮説検証の結果である.. 業とサプライヤー両者の影響は,技術・製品開 発能力の形成に必要不可欠な存在である事は確. 2.考. 察. かではあるが,実質的な人材交流・技術的調整. ここでは,欧米系多国籍企業の日本子会社を 分析対象とした定量分析の結果を踏まえて,港. 度といった点で,取引関係の密接度は異なるの. 外R&D拠点を基点とした知識移転の認知段階. つまり,販売先企業の場合は,カスタム製品 を開発する上で必要不可欠な開発会議やエンジ. に関する知見を得る事にしたい. 第一に,これまで研究所・企業単位で海外 R&D拠点を分析していた事もあり,企業行動. かもしれない.. ニアの情報交換といった協力的関係を構築する までには至っていない.そのため,むしろ海外. の各局面(例えば,技術・製品開発等)で最も 影響を及ぼす現地環境のキーファクタ-を把握. R&D拠点が,製品コンセプト等の創出といっ. する事は困難で,知識特性を明確に捉える事は. 点に留まるのかもしれない.また,たとえ取引. できなかった.しかし,分析結果を通じて,港 外R&D拠点の技術・製品開発の成果は,販売. 額が相対的に大きな販売先であっても,取引中. 先企業やサプライヤーとの密接な取引関係によ. 避け,標準化する傾向にあるとも考えられる.. た面である程度販売先から意見を聞くといった. 止のリスクを考えた場合,極端なカスタム化を.

(16) 122. (314). 横浜国際社会科学研究. その一方で,取引額が相対的に大きいサプラ. 第11巻第2号(2006年8月). グループ内部で重要である事を正式に意味する. イヤーに関しては,共同開発チーム,ゲストエ. だろう.たとえ,海外R&D拠点が現地市場で. ンジニアの受け入れ等の広範な情報共有システ. 限定して活用する事を意図した技術・製品開発. ムを構築し,自社製品に適合させた部品調整等. の成果であっても,こうした世界市場へ貢献す. を進展させる等の密接な取引関係を求める可能. る正式なオファーを受ける事で,強制的に知識 移転が為される可能性は大きくなるといえる.. 性が高い.この場合,サプライヤーとの関係は. 第四に,グループ内部との密接な取引関係は,. -製品レベルでの関係ではなく,海外R&D拠 点の実質的な技術能力の底上げを図るための重. 海外R&D拠点が現地市場だけで孤立的して開. 要なパートナーとして位置付けられると予測が. 発活動を行うだけではなく,グループ内部での. できる.. 貢献を促すような統合的な施策として有効であ. 第二に,両者の付き合い方の相違に基づいて. ろう.経営理念・組織文化の共有は勿論のこと,. 形成された技術・製品開発の成果は,認知にも. 海外人材の本社研修,本社エンジニアの海外出. 明確な相違として反映されるだろう.まず,販. 向・短期出張等の本社一海外R&D拠点間での. 売先ベースの開発成果は,グループ内部への移. 人材移動の活発化が,多国籍企業全体に思いも. 転には何ら影響を及ぼさず,海外市場に留まる. よらないイノベーションのきっかけをもたらす. 可能性が高いと考えられる.上述した通り,取. かもしれない.この場合,海外R&D拠点の知. 引額が相対的に大きい販売先でさえも技術情報. 識をグループ内部で認知するには,主として本. 等のやり取りを重視しないのは,裏を返せば,. 国本社の役員・エンジニアの目利き能力に依存. 販売先に特化したニーズを必要としている訳で. する可能性が高くなるだろう.また,その後の. はないのである.むしろ彼らとの関係を通じて,. 移転プロセスの段階においても,グループ内部. 海外市場の顧客ニーズの全体的傾向を把握し, 市場シェア・収益向上にいかにつなげるかを優. への採用を決定した役員・エンジニアが中心と なり両者間で良好な関係性を構築していくと思. 先しているのかもしれない.このような市場志. われる.一方,国際プロジェクトチームは,知. 向に基づいて形成された技術・製品開発の成果 は,グループ内部での重要性・有効性を低下さ. 識の認知を判断する際は無用かもしれないが, 良好な関係性を築く移転ツールとして利用可能. せると考えられる.つまり,全体的に幅広い現. であろうと考える.. 地市場のネットワークに埋め込まれた知識は,. しかし,その一方で,グループ内部との技術・. 因果暖昧性が増幅し,認知を低下させるのだろ. 製品開発の成果の相互依存性は,海外R&D拠. う.. 点の知識の有効性を低下させる可能性もある.. 一方,サプライヤーベースの開発成果は,グ ループ内部における積極的な活用が予測でき る.サプライヤーとの関係は,自社製品に直接. 例えば,本国本社の役員・エンジニアは,本社. 影響する技術情報の交換システム,部品・設備. るとは認められないのかもしれない..Gupta&. 機械の調整を伴う特定的なネットワークに埋め. Govindarajan (1991)の類型で言えば,本国本 社・他国拠点からの知識に全く依存しない「グ. 込まれた知識であるので,知識源泉の所在が明 確となり,因果唆昧性が低下すると考えられる. それ故,グループ内部の重要性・有効性にプラ スに作用するのである. 第三に,本国本社の公式的な責任の割り当て は,海外R&D拠点の技術・製品開発の成果が. から依然として技術移転を行っているような海 外R&D拠点が自国よりも優位な知識を創出す. ローバル・イノベーター」の知識が最も認知が 向上し,逆に,本国本社・他国拠点との知識の 相互依存性が高い「競合型プレーヤー」では, 認知は縮小すると言い換える事が可能である. 以上四点を統合して考察すると,知識移転の.

(17) 海外R&D拠点を基点とした知識移転(島谷). 認知段階において,以下のプロセスがあると示 唆できる.まず,知識特性を明確化する段階で. (315). また,本稿では,今後の検討課題として以下. は,現地取引先企業との取引関係が,市場志向. の三点を指摘しておきたい.第一に,定量デー タを用いた実証分析としては,サンプル数の少. であるのか,技術獲得志向であるのかに影響す. なさが目立つ.分析結果の普遍性を向上させる. る.その後,技術・製品開発成果のグループ内. には,更なるサンプル数の増加を図り,より精. での有効性を海外子会社内部で認知した後で,. 教化した統計的手法を試みる必要がある.. グループ内部との密接な取引関係を通じて当該 知識の重要性・有効性を全社的に共有している. 123. 第二に,共通方法エラー(common-me也od. と考えられる.そして,この傾向は,欧米系. error)の問題回避である.本稿では,認知の 信頼性を向上させるために,グループ内部側. 多国籍企業の日本子会社の技術・ノウハウがサ. からの関与を代表させる指標を何点か導入した. プライヤー・ベースで形成された知識である場. が,同一人物が従属変数と独立変数の両方を評. 令,グループ内部で活用される可能性が高い事. 価する際にデータ上で生じうる共通方法エラー. が検証できた.同時に,技術的標準化の特性が. という潜在的問題を完全に回避する事はできな. 強い自動車部品・電機業界等の加工組立型産業. かった.今後は,海外子会社の評価主体として. で比較的多く見られるといえる.. グループ内部からも調査を行う辛が,分析結果. Ⅵ.結論と今後の課題. の客観性を増幅させるために必要となるだろう. 第三に,ヒアリングを含めた定性調査による,. これまで,多国籍企業の知識移転は,本国本 社から海外子会社への移転プロセス・定着を重. 定量調査の補完である.海外R&D拠点は,進. 点に分析されてきた.しかし,本稿は視点を変. 向上させる事で,知識獲得を図り,グループ内. えて,海外R&D拠点を基点とした知識移転に. 部での役割を進化させていると考えられる.し. 焦点を当てた.その中でも,認知段階に焦点を. かし,これまでの役割類型化研究では,静態的. 当てて分析を試みた.欧米系多国籍企業の日本. な分析に留まっている研究が多く,役割進化の. 子会社を分析対象に定量分析を行った結果,多. ファクタ-を探索する動態的な視点での実証研 究はほとんどなされていない.この視点から検. くの知見を得る事ができた. 本稿の最大の貢献は二点ある.第一に,知識 移転の促進の示唆である.先行研究では,暗黙. 出以後,取引先企業との関係を長期的に維持・. 証していく事を今後の定性調査への第一歩とし ていきたい.. 的/現地特殊的関係で形成された知識を全て一. 最後に,本翁では,知識移転の認知段階に焦. 辺倒に移転困難であると位置付けていた.しか. 点を当ててきたが,これらは,あくまでも知識. し,特定の取引先企業との深い関係で構築され. 移転の-プロセスにしか過ぎない.今後は,移. た知識であっても,その所在・用途が把握可能. 転・定着プロセスを含めて,海外R&D拠点を. な技術的知識ならば,グループ内部での重要性. 基点とした知識移転の全体像を検討していく必. が認知され,移転は促進されるのである.本稿. 要があるだろう.. の分析結果で言えば,サプライヤーベースの開 発成果がそれに該当する.第二に,多国籍企業 内部の知識移転には,. 「認知・移転・定着」の. 複数段階がある事は周知の通りであるが,移転 の認知段階においても知識獲得プロセスに伴う 知識特性の明確化から認知への移行プロセスが 有効である事が明確となった.. 謝. 辞. 本稿の作成にあたり,横浜国立大学経営学会 「合崎研究助成金」の財政支援を受けた.また, 多くの方々のご指導,ご支援,ご協力を賜った. レフェリーの先生からは有益なコメントを頂い た.指導教官の茂垣広志先生には常日頃の御指 導と共に,本稿の作成に関しても御指導を賜っ.

(18) 横浜国際社会科学研究. (316). 124. た.定量分析では文京学院大学の池田芳彦先生 から貴重な御助言を頂いた.更に,経営学部研 究推進室の皆様には,質問票送付の際大変お世 話になった.最後に,お忙しい中,質問票調査 に御協力頂いた企業の皆様に深く感謝の意を申 し上げたい. 注 1)本稿では,技術・製品開発活動を行う海外子 会社を海外R&D拠点と呼ぶ.尚,海外R& D拠点は,海外生産工場の一部門として附置さ れるか,もしくは,独立した研究開発子会社の 一機能部門として設立される等の形態をとる. また,製品開発プロセスの位置付けは,工程設 計を含めた生産技術の設計・開発も含む事にす る.. 2)この場合の海外R&D拠点の活動は,現地市 場ニーズ,環境・法規制,現地調達部品等に合 わせた現地適合部分の開発を主として行う. 3)欧米のジャーナルでは,国際製品開発その Subramaniam ものに焦点を当てた研究は, &venkatraman (2001)が挙げられる程度でそ れ程多くは無い. 4) 1970年代まで研究開発の国際化が進展しな かった理由は,規模の経済性,コミュニケーショ ンの調整コスト,技術・ノウハウの保護が考え られる(岩田, 1994;高橋, 2002). 5)埋め込み理論とは,そもそも社会学から提起 Granovetter (1985)は, された概念である. 「全てのアクターの経済行為は社会的コンテク ストという構造の中に埋め込まれており,社会 ■的影響を考慮に入れて経済的行為を分析する辛 が重要である」と論じている.つまり,全ての アクターの行為は具体的で継続的な社会関係シ ステムを無視する事はできないのである. 6)暗黙性には,コード化可能性,教育可能性, Zander, 複雑性(Kogut& 1993),因果関係唆 昧性(Szulanski, 1996)等の特性を含んでいる. (2002),島谷(2006)では, 7) Foss & Pedersen 外部との関係性から創出された知識でも移転 の困難さにはレベルがある事を指摘している. 「クラスターベースの知識」は,ネットワーク の構成要素の全てが相互作用する事でその優位 性が形成されるという点で,最も場所に粘着的 「ネットワー であり,移転は困難になる.一方, クベースの知識」は,顧客やサプライヤーを通 じて実質的な業務活動での知識獲得を志向して いるので,グループ内部の同種の事業部門への 実質的な影響が考えられ, 「クラスターベース の知識」よりも移転は抑制されないとしている. 8)「採用・普及・定着」の各段階で,認知的障害・ 政治的障害・制度的障害が影響する.認知的障. 第11巻第2号(2006年8月) 害とは,知識の有効性が受け入れ側に認識され ないために生ずるコストであり,知識特性(因 果暖昧性)が影響している.政治的障害は,隻 け入れ側の心理的反発や抵抗により生ずるコス トであり,組織属性(双方の関係性)が影響す る.制度的障害は,他の社会的コンテクストに 移転された際に生じるコストである. 9)多国籍企業の知識移転に関する研究は,本国 本社から海外子会社への移転を対象とした研究 が多い.その一方で,本稿が分析対象とする海 外子会社から,グループ内部への移転を扱った Gupta 研究はそれ程多くない.吉原(1992), & Nobel Hakanson & Govindarajan (2000), (2000, 2001)が挙げられる程度である. 10)知識獲得と移転のジレンマは,知識特性の問 題だけでなく,移転のコスト負担の問題,移転 側のパワー喪失問題,エージェンシー理論の問 題など多岐に渡って存在する. (1990)のクラスター理論は,ネット ll) Porter ①要素条件, ②需 ワークの構成要素として, 要条件, ③企業戦略及び競合状況, ④関連・支 援産業を列挙し,これら要素が全て相互関連す る事でダイナミック且つ刺激的な事業環境を創 出する事を強調している,この事から,国家特 殊的優位性をベースとしたナショナルイノベー ションシステムに海外子会社がポジショニング することで知識が獲得可能であるといえる. 12)更に,先行研究では,基礎研究と技術・製品 開発等の分野を明確に線引きしていない。実際, 両者の活動では必要とされる人材や外部ネット ワークも異なる事から,知識特性を捉える上で 注意を要するだろう. 13)藤本(2001)では,統合型製品の代表として 自動車・二輪車を挙げ,全部品が微妙に調整し 合いながら,全体的なシステムとして機能する 製品として位置付けている.一方,モジュール 型製品の代表としてパソコンを挙げ,部品機能 が完結的で寄せ集め設計でも製品機能を発揮す る製品としている. 14)組織間関係論に関しては,主に山倉(1993) を参考にした. 15)質問項目では,前節までの「特定の取引先企 業」を「取引額が相対的に大きい取引先企業」 として位置付けた.取引額が大きいという事は, 当該取引先の生産・技術的パフォーマンスを信 頼しており,人的交流や技術的やり取りが他企 業と比較した場合,高い傾向にあると考えたた めである. 16)海外子会社における知識特性及び認知の議論 は,先行研究において統一的なパラダイムが存 在している訳ではない.そのため,質問項目の 設定は,一部先行研究に基づきながらも,独自 に尺度形成で行っている..

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