1.はじめに 近年の訪日客の急激な増加に伴い,観光分野の専門家だけでなく,外国語教育分野の教 員の間でも,語学教育と観光ホスピタリティ教育の融合について,その可能性を探る動き が出てきた.北星学園大学短期大学部英文学科は,航空や観光,ホテル業界を目指す学生 が多いことから,2011 年度より「インターンシップ」,「総合ホスピタリティ」,「ホスピ タリティと観光」の 3 科目を導入し,語学力を生かし観光ホスピタリティ産業で活躍でき る学生を育てる試みを始めた.さらに,これまで実施してきた海外プログラムの中でも短 期語学研修に関して,2013 年度から「英語+観光ホスピタリティ」を融合させたプログ ラムを開発し,実施している. 本論では,海外語学研修と観光ホスピタリティ教育の融合の観点から実施した 2013 年 度と 2014 年度の短期海外語学研修の取組をプログラム開発・引率者としての立場から報 告する. 2.先行研究 海外語学研修と観光ホスピタリティ教育の融合については,観光ホスピタリティ関連学 科における海外プログラムと,英語学科を中心とした外国語学科や人文学部系の海外プロ グラムの 2 つの視点から取り上げられている.前者に関する研究では,観光やホスピタリ
短期海外語学研修における観光ホスピタリティ教育の可能性
Tourism and Hospitality Education for Short Study Abroad Programs
森 越 京 子*・白 鳥 金 吾* Kyoko Morikoshi and Kingo Shiratori
*北星学園大学短期大学部 1.はじめに 2.先行研究 3.実践報告 (1)本学科の海外プログラムの概要 (2)海外研修 A/B Ⅰ・Ⅱの概要 (3)渡航先とプログラムの決定 (4)準備期間・実施業者の選定 (5)2013 年度「海外研修 B Ⅱ」報告 (6)2014 年度「海外研修 B Ⅱ」報告 4.考察 5.結論
教育実践報告
ティ専攻学生の海外研修に対する期待(李・李・韓,2013)や,研修前後の学生の意識調 査(Graham 2012a, Graham 2012b)等について報告されている.後者に関しては,池田・ 小森(2014)が,国際交流学部の「海外語学研修」における現地の観光局やホテルでのキャ リア関連プログラムの在り方について言及しており,その中で,学生は英語専攻という意 識が強いことから,観光ホスピタリティ業界など特定の業界への興味や関心が低いことも あり,なぜ観光ホスピタリティについて学んでいるか戸惑う学生がいると指摘している. さらに,事前指導の重要性について「グローバルな職場で働く現状や意義を学ぶ」という 意識を持たせることが望ましいと述べている. また,語学教育と観光教育を統合させた教育は海外でも報告されており,台湾国立高雄 餐旅大学応用日本語学科(伊藤,2011)では,国家政策として高度な日本語力を備えた観 光人材を育成するために,日本語専攻の学生を台湾国内及び日本へ派遣して長期の観光ホ スピタリティ関連のインターンシップを実施し,大きな成果を修めている報告もある. しかし,これまでの研究では,語学教育と観光ホスピタリティ教育を融合した海外プロ グラムの具体的な計画や準備,効果的な事前研修の在り方等の議論が不十分である.そう したことから,本実践報告が,今後導入を検討している教育機関にとって有益なものにな るものと考えている. 3.実践報告 (1)本学科の海外プログラムの概要 本学科の定員は 120 名で,入学者数は 2012 年度 129 名,2013 年度 141 名,2014 年度 126 名である.近年,帰国子女や長期留学経験者,様々な国の学生が入学するようになり, 学生の英語力や学習歴は多様になってきている.卒業時までに英検 2 級,TOEFL450 点 (TOEFL iBT 45–46 点),TOEIC550 点以上をとることが目標となっているが,英検 1 級や
準 1 級の合格者や受験者が増加している. 海外プログラムについては,「海外研修 AⅠ・AⅡ(各 2 単位)」と「海外研修 BⅠ・ BⅡ(各 2 単位)」の 2 つの海外短期語学研修と,1 年次後期 4 か月を海外の教育機関で学 ぶ「海外事情(4 単位)」が選択科目として開設されている.さらに,2013 年度から「イ ンターンシップ(選択科目:2 単位)」において一部海外での研修を展開するなど,学生 のニーズの変化等を踏まえ,プログラムの多様化,研修内容の充実を図っており,海外プ ログラムへの参加者数は増加傾向にある(表 1 参照).なお,意欲のある学生が一人でも 多く参加できるよう,各プログラムの参加に求められる英語力や,帰国までに到達すべき 英語力の基準や到達目標等は示していない. (2)海外研修 A/B Ⅰ・Ⅱの概要 「海外研修」は,1 学期間(15 回)の事前研修「AⅠ(前期)及び BⅠ(後期)」と,約 1 か月の現地での研修「AⅡ(夏季休業期間)及び BⅡ(春季休業期間)」で構成されてい る.「AⅡ及び BⅡ」は,ホームステイをしながら大学附属の語学学校に通学して,英語 レッスンや,文化や生活を学ぶプログラムを中心とした研修を行い,英語力の向上や,視
野を広げ国際性を養うことを主な目的としている. 事前研修では,現地での学習が円滑に行われるように,現地の生活や文化に関する講義 だけでなく,ディスカッション,英語プレゼンテーション,現地の生活に関するレポート 作成等,学生の主体的・積極的な活動を重視している.また,講義では,実施業者や本学 学生支援課国際教育係の協力を得て,費用や保険,研修中の疾病や事故の予防と対応など, 研修の円滑な実施に向けたオリエンテーションなども行う. (3)渡航先とプログラムの決定 海外研修における渡航先は,前年度と重複しないことや,渡航先の国・地域の治安情勢 等を踏まえ,各年度の海外研修担当の専任教員が自由に選択できることとしており,2013 年度はオーストラリア,2014 年度はイギリスが渡航先となった.一方,研修内容につい ては,これまでは担当教員に任せられていたが,航空や観光,ホテル業界を目指す学生の 増加を背景として,2013 年度から担当教員間で研修内容の検討を行い,「英語+観光ホス ピタリティ」をキーワードとしてプログラムの共通性を図った.こうしたことを踏まえ, 本論ではオーストラリアとイギリスでの実践を報告対象とした. (4)準備期間・実施業者の選定 渡航先は前年度内に決定し 4 月に参加希望学生に周知する.また,実施業者の選定にあ たっては,「海外研修 A」は前年度 3 月までに,「海外研修 B」は 7 月までに複数の業者に 見積り等を依頼し,学科会議において決定する.なお,訪問企業先など研修内容の概要は, 現地の語学学校の担当者や実施業者の現地事務所等のルートを活用して経費等の調整を図 りながら決定し,プログラムの詳細は最初の講義で学生に説明する. (5)2013 年度「海外研修 BⅡ」報告 (5)–1 プログラムの概要 2013 年度のプログラムの概要・スケジュールは次のとおりである. 日 程:2014 年 1 月 31 日(金)∼ 2 月 23 日(日) 24 日間 表 1 北星学園大学短期大学部海外プログラムと過去 3 か年の参加者数(延べ) 年度 4 か月以上海外事情 海外研修 A/B 約 1 か月 (海外)約 1 週間インターンシップ 合計 カナダ イギリス オーストラリア 2014 年 32 名 ― (BⅠ・Ⅱ)32 名 ― (香港)25 名 89 名 2013 年 24 名 ― (AⅠ・Ⅱ)12 名 (BⅠ・Ⅱ)23 名 (マレーシア)5 名 64 名 2012 年 25 名 (BⅠ・Ⅱ)22 名 (AⅠ・Ⅱ)8 名 ― ― 55 名 ※ 同一年度に重複して参加した学生数:2012 年度 0 名,2013 年度 1 名(2 プログラム),2014 年度 5 名 (2 プログラム) ※ 現在,海外プログラムの新設・統合などについて学科内で検討を行っており,夏季休業期間中に実施 していた海外研修 A Ⅰ・Ⅱについては 2014 年度から一時休止している.
渡 航 先:ブリスベン(オーストラリア)
受入れ校:SHAFSTON INTERNATIONAL COLLEGE 参加人数: 23 名(1 年生),引率教員 1 名 2013 年度のプログラムを表 2 に示す.プログラムの特徴として「Hospitality English」を テーマに,ホスピタリティ関連の英語授業を 3 回,クッキングクラスを 1 回,サイトビジッ トを 3 回実施した.また,希望者 5 名が Aviation Australia にてキャビンアテンダントプロ グラムを受講した. 1)ホームステイプログラム 本学科の学生は別々のホストファミリーに割り当てられたが,家庭によっては別の外国 人留学生を複数で受け入れている家庭もあった.多くの学生は,バスや City Cat (連絡ボー ト)等の公共の交通機関を使って通学したが,バスの運行が夕方の早い時間で終了する場 所も多いことから,学生が夜遅くまで外出するようなことはなかった. また,多くの家庭が「朝型」の生活を送っていることから,「夜型」の生活に慣れた学 表 2 2013 年度 プログラム概要 Day 午 前 午 後 1 札幌出発 ブリスベン到着 2 ∼ 3 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす 4 オリエンテーション・プレースメントテスト 市内見学 5 英語レッスン ローンパインコアラパーク 6 英語レッスン 【Hospitality English】 7 英語レッスン クイーンズランド博物館見学 8 ゴールドコースト市内見学 【サイトビジット① H.I.S. ゴールドコースト支店見学】 9 ∼ 10 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす
11 英語レッスン【Aviation Australia 研修】 チャイナタウン見学【Aviation Australia 研修】 12 英語レッスン ブリスベンサイエンスセンター見学
13 英語レッスン 【Hospitality English】 14 英語レッスン 自由活動
15 英語レッスン 【サイトビジット② South Bank Institute of Technology】 16 ∼ 17 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす 18 英語レッスン 【Hospitality English】 19 英語レッスン オーストラリア料理クッキングクラス 20 英語レッスン 【サイトビジット③ Watermark Hotel】 21 ∼ 22 英語レッスン 自由活動 23 自由活動 自由活動 24 ブリスベン出発 札幌到着 ※ 【 】内は,観光ホスピタリティ関連のプログラム
生にとっては新鮮に感じることも多く,そうした経験を通して文化や生活の違いを理解す ることにつながった. 2)英語レッスン プレースメントテストによって,本学科の学生は General English の初級・中級クラスに 参加することになったことから,一部のクラスで本学科の学生が多く配置された.クラス の英語レベルが簡単であると主張する学生もいたが,授業が進むにつれて,自分たちのス ピーキング力や発言力が他の国々の学生と比べて不足していることを痛感し,最終的にク ラス変更を願い出た学生は1名にとどまるなど,ヨーロッパや南米出身の学生と比較して, 発表力や発言力をさらに伸ばすことが必要だと強く認識したようである. 3)Hospitality English Hospitality Englishは,この分野で勤務経験のある英語のインストラクターによる授業が 3 回実施された.授業は,「Hospitality(Cambridge)」のテキストを用いて,グループ・ディ スカッションやリスニングの課題を中心に進められた.この授業は本学の学生のみで実施 されたことから,学生からは,午後も他の留学生と一般の授業を受けたいとの感想も聞か れた. 4)サイトビジット 研修期間中,下記の企業において見学を中心とした研修を行った. 【サイトビジット① 株式会社エイチ・アイ・エス(H.I.S.)ゴールドコースト支店】 旅行業の仕事や具体的な業務内容について,日本人スタッフから説明を受けた後,オー ストラリア人の支店長から英語で,支店の説明,スタッフの紹介や旅行業全般の仕事につ いて説明があり,引き続き,学生との英語による質疑応答のセッションが行われた. 【サイトビジット② Southbank Institute of Technology】
観光ホスピタリティ関連のプログラムを開講している大学を訪問し,大学の教室やキッ チン等の設備を見学し,大学の教員からプログラムの内容や,どのような科目を現地の学 生が学ぶのかについて説明を受けた.また,学生が研修に利用しているレストランで食事 をし,現地の学生がどのようにゲストに対応しているか直接見学する機会を持つことで きた. 【サイトビジット③ Watermark Hotel】 ブリスベン市内の Watermark Hotel の概要や特徴についての説明のほか,スイートルー ム,レストラン・宴会・会議室等を見学した.一般的な客室のフロアとクラブフロアの違 いなどを見ることができた. 5)Aviation Australia 研修 研修料は別途支払う必要があったことから,希望者 5 名と引率教員 1 名の参加となっ た.研修は午前・午後それぞれ 2 時間行われ,インストラクターからキャビンアテンダン トの役割と具体的な仕事内容,乗客の安全確保の重要性などについての説明や,Aviation Australia の施設見学,クルー模擬訓練,避難用スライドを使った機体からの脱出訓練等に 参加した(写真 1,2). (5)–2 2013 年度海外研修の成果 海外研修プログラム終了後に参加学生全員(23 名)から聞き取り調査を行った.その 結果や引率教員の観察から次のことが考察される.
研修期間中は,ホストファミリーや現地コーディネーターの細やかな配慮もあり大きな 問題もなく無事に終了することができた.観光ホスピタリティ企業を中心とした企業訪問 の導入は新しい試みであった.英語を使った観光ホスピタリティの仕事はどのようなもの かを理解し,将来の職業選択について視野を広げることができた.海外のホテルや旅行会 社を見ることで,日本の企業について新たな視点を持つことができる機会となった. Aviation Australiaのクラスでは,英語の専門用語が難しい場面もあったが,客室乗務員 が実際に学ぶトレーニング施設で基礎的な概念(乗客の安全性の重視)を学び,脱出訓練 などを体験できたのでこのような研修は継続していきたい. (5)–3 2013 年度海外研修の課題 日程については,終日団体で行動する研修が多く,学生からは「自主的に研修できる時 間がほしい」,「実践的な場面でどのくらい英語が通用するか試してみたい」などの声が聞 かれたことから,午後に自由研修できる時間を確保するなどして,学生の主体的な活動を 促す工夫が必要であった. Hospitality Englishのクラスは,現地で初めて詳しい授業内容が提示されたことから,こ ちらの希望していた内容とは違っていた.学生のニーズに合ったクラスになるように詳細 な事前打ち合わせが必要である.さらに,本学科の学生のみのクラスでは,日本語を使う 学生が多く見られたことも課題であった. 観光やホスピタリティ産業に興味を持っていない学生が一部いたこともあり,企業訪問 では,学生の多くは受け身の姿勢であった.サイトビジット等は学生の希望に合わせて選 択制にし,別の語学・文化プログラムを用意するなど,学生の興味・関心に応じた幅広い 選択肢も検討すべきであった.また,業界研究やその産業で一般的に使われている用語を 日本語及び英語で事前に学習することにより,企業訪問時に積極的に質問する姿勢や内容 の理解につながると考えられる. 写真 1 整備工場の見学 写真 2 脱出訓練の様子
(6)2014 年度「海外研修 B Ⅱ」報告 (6)–1 プログラムの概要
2014 度の「海外研修 B Ⅱ」の概要と詳細(表 3)は,次のとおりである. 日 程:2015 年 1 月 31 日(土)∼ 2 月 23 日(月) 24 日間
渡 航 先:ノッティンガム(イギリス) 受入れ校:New College Nottingham
参加人数:32 名(1 年生 29 名,2 年生 3 名),引率教員 1 名 (6)–2 前年度からの主な改善点 2013 年度の反省を踏まえ,主に(1)自由研修の時間の拡大,(2)研修内容に関する現 地担当者との緊密な連携,(3)選択制プログラムの導入,(4)帰国後の就職活動等に生か すためのディプロマコースの設定,(5)プレゼンテーションや実習など,学生が積極的に 参加できる学習活動の充実,の 4 点について改善を図った. 表 3 2014 年度 プログラム概要 Day 午前 午後 1 札幌出発 ノッティンガム到着 2 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす 3 オリエンテーション・プレースメントテスト 市内見学
4 英語レッスン 【Hospitality Business English】
5 英語レッスン 【Tea Project】,【プレゼンテーション 1】 6 英語レッスン 【Hospitality Business English】
7 英語レッスン 自由活動
8 オックスフォード市内見学 ビスタービレッジ見学 9 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす 10–11 英語レッスン 【Hospitality Business English】 12–14 英語レッスン 【Tea Project】 15 バーミンガム市内見学 バーミンガム市内見学 16 ホストファミリーと過ごす ホストファミリーと過ごす 17 【カジノ・国際空港訪問】/英語レッスン 自由活動 18 【カジノ・国際空港訪問】/英語レッスン 【カジノ・国際空港訪問】 19 英語レッスン 北星ナイト(参加学生による日本文化等の実演)準備 20 研修内容等に関する参加者による評価 【プレゼンテーション 2】,北星ナイト,修了式 21 ロンドン市内見学 【H.I.S. ロンドン支店見学】 22 ロンドン市内自主研修 ロンドン市内自主研修 23 ロンドン市内自主研修 ロンドン出発 24 札幌到着 ※【 】内は,観光ホスピタリティ関連のプログラム
(1)については,午後の授業時間を短縮したほか,市内見学も自由時間を多く確保した. (2)については,現地に信頼できる日本人サポートスタッフがいたことからプログラム内 容等について事前に十分な打ち合わせを行うことができた.また,出発前にイギリスから 日本人サポートスタッフに訪問していただき,現地での生活や研修内容に関する学生対象 の事前説明会を実施した. (3),(4)については,今年度のプログラムは「ホームステイ体験」「英語レッスン」「プ レゼンテーション」「Tea Project」「オックスフォード等への小旅行」「ロンドン自主研修等」 の共通プログラムと,ビジネスや観光等の専門分野を有する受入れ大学の特色を生かし, 選択制プログラムとして「Service Hospitality」「Aviation Hospitality」の 2 科目から学生の 興味・関心に応じて 1 科目を選択する「Hospitality Business English」で構成されている. 特に「Tea Project」及び「Hospitality Business English」は,英国公立大学の発行する証書 が取得できるディプロマコースとなっており,3 週間のプログラム修了後,受入れ大学か ら参加学生全員に修了証書が授与された.さらに(5)については「プレゼンテーション」 の授業を 2 回設定した.「プレゼンテーション」及び選択制プログラムの詳細は次のとお りである. 1)プレゼンテーション イギリスに関する知識は必要であるが,一方で学生たちが住む日本や北海道に関する知 識も必要であるとの認識の下,出発前の事前研修において,イギリスと日本の文化や考え 方の違い,及び北海道の食や自然,行事等に関する英語プレゼンテーションを 2 回実施す るとともに,現地においても,教員や他国の学生,ホストファミリーを招いて,事前研修 と同じ内容のプレゼンテーションを実施した.ネイティブ・スピーカーを前にしての発表 は学生にとって緊張を強いられる経験であったが,ほとんどの学生が原稿を読むことなく アイコンタクトやジェスチャーを交えながら堂々と発表し,その後の質疑応答にも適切に 対応していた. 2)選択制プログラム 2)–1 Tea Project 本プログラムでは,アフタヌーンティーにおけるエチケットやマナーに関する講義のほ か,イベントマネジメント演習の一環として,英国式テーブルフラワーアレンジメントや スコーンメイキング等の実習,受入れ校の教員やホストファミリーを招いてのアフタヌー ンティーパーティ実習等が行われた.講義終了後,仲間とともに市内のレストランに出か け,英国式アフタヌーンティーを楽しんだとの報告を多くの学生から受けた.また,製作 したフラワーアレンジメントやスコーンはホストファミリーへのプレゼントとして大いに 喜ばれたようである.さらに,アフタヌーンティーパーティでは,学生がスーツ姿でホス ト役を務め,コーヒー,紅茶,ケーキなどを招待客に提供するなど,和やかな雰囲気で行 われた(写真 3).
2)–2 Hospitality Business English
Hospitality Business Englishのうち「Service Hospitality」は 16 名の学生が受講し,イギリ スにおけるホスピタリティやケータリング,カスタマーサービスの現状等に関する講義の 他,学習のまとめとして講義や企業見学の内容をまとめた小冊子の作成を行った.企業見 学はノッティンガム市内にあるカジノを訪問し,支配人による英語での施設内ツアーやカ
ジノ産業の現状に関する説明,受付やレストラン等で働く職員との意見交換を行った(写 真 4).「Aviation Hospitality」は 16 名の学生が受講し,キャビンアテンダントやグランド スタッフの業務内容や航空系ビジネス英語についての講義・演習を受けた.また,ノッ ティンガム近郊の国際空港を訪問し,トルコ航空の職員による英語での空港内ツアーや実 際の施設を利用した受付や案内業務等を模擬体験した.
なお,「Hospitality Business English」とは別に,参加学生全員が研修期間後半に「株式 会社エイチ・アイ・エス(H.I.S.)ロンドン支店」を訪問し,日本人スタッフによる施設 内ツアーや,旅行産業の現状や海外で働くために必要なスキル等についての説明を受け, 意見交換を行った. (6)–3 2014 年度海外研修の成果 2013 年度のオーストラリア研修の成果と課題の考察は,主に参加者への聞き取り調査 により行ったが,プログラムの改善には定量調査に基づく分析も重要であると考え,参加 学生へのアンケート調査を帰国後(2015 年 2 月下旬)に実施した.新たに実施した選択 制プログラム「Hospitality Business English」の総合的な満足度について「とても満足」8 名, 「満足」13 名,「普通」9 名,「少し不満」2 名となっており,6 割以上の学生が「今までで きなかったこと,知らなかったことを体験できた」と肯定的な回答をしている.本プログ ラムは,観光やホスピタリティに関する内容を現地の専門教員から英語で学習できる機会 であり,より実践を意識した語学教育の場を提供することができた.また,カジノや航空 会社等と連携した学習を通じて,それまで学生が知る機会がなかった企業・業界に目を向 けたり,海外での多様な生き方に接し職業観の育成につなげたりすることができた. プレゼンテーションや「Tea Project」では学生が生き生きと活動する場面が多く見られ た.特にフラワーアレンジメントやスコーンベイキングは異なる国の文化を学ぶだけでな く,英語を実際の場面で使用することの重要性を体感できる貴重な機会となった. (6)–4 2014 年度海外研修の課題 プログラムを選択制にしたり,学生の主体的な学習活動を増やしたりするなど,研修内 容の改善を図ったが,アンケートでは「講師からの事前説明が足りなかった」「もっとた めになることを学びたかった」「航空関係だけの内容しか扱わず,事前に想像していたも のと違った」など,事前学習,プログラム内容,コース設定の一層の改善を求める声が聞 かれた.特にコース設定については受入れ大学には「ファッションビジネス」「情報ビジ 写真 4 カジノで職員に質問をする様子 写真 3 ティーパーティーでホスト役を務め る学生
ネス」等の講座も開講されていることから,今後,同じ大学で実施する場合は,学生の興 味・関心に応じた多様なコースの提供を検討する必要がある. また,社会で求められる主体性・積極性等を身につけさせるには,学生個人が主体的か つ本気になって取り組める活動等の環境整備が重要であることから,研修の目的や学習内 容等を事前に指導することや,講義や企業訪問時に発言や質問,意見交換したり,さらに 学んだことを発表したりする機会を設けるなど,事前学習̶研修̶事後学習の体系的なカ リキュラムを構築する必要がある. 4.考 察 2013 年度の実践と 2014 年度の改善点から,海外語学研修に観光ホスピタリティ教育を 導入する場合,次の点を考慮してプログラムの準備,実施をすることが望ましいと考えら れる. (1)学生の興味・関心がある分野の研修やサイトビジットを計画する必要がある. 例えば,航空業界,ホテル・レストラン,旅行会社等など一部選択制にするようなプロ グラムも必要である.また,特定の業界に興味のない学生が参加している場合もあるので, 一般の英語プログラムを選択制で準備することも必要となる. (2)企業訪問の目的・目標を明確にする. 企業訪問は学生とって新しい経験であり,学生の興味・関心を高めるようなプログラム になったが,海外研修プログラムの一部として漠然とサイトビジットに参加する学生が多 いように感じた.そこで,事前研修の時点で,どのような点に注目して見学をするのか 学生に考えさせてから訪問するなど,研修の目的や目標について十分に指導するべきで ある. (3)事前学習を充実させる. 観光ホスピタリティ関連企業を訪問する際に,事前学習の充実がプログラムの成功につ ながることから,次の点を事前研修に導入する. ① 訪問先の英語ウェブサイトを見て,基本的な情報(ホテルの場合,客室数・設備・ア メニティ・プロモーション情報)を英語で学ぶことが有益である. ② 学生の英語の習熟の程度に応じて,次のような基本的な表現から学ぶことも必要で ある.例えば,ホテルでは,single/double room, suite room, club floor, amenities, mini-bar, fitness center, business center, laundry service, room service, concierge, conference room, banquetなどが挙げられる.
③ 旅行業界の基礎である地名,国名,観光地名は,カタカナ名と英語ではかなり発音が 違っていることも多いので発音を確認しながら語彙を学ぶことが必要である.例えば, Edinburgh(「エジンバラ」),Montreal(「モントリオール」)などである.
(4)英語での質問を準備する. 企業訪問では,学生は専門的な知識や専門用語に関する語彙不足から,英語で質問をす ることだけでなく,その業界について知識を深めるような質問することが極めて困難で あった.学生が主体的・積極的に参加するために,事前に具体的な質問を英語で練習した り,研修中,疑問点などについてメモをとらせたりすることが効果的である.さらに,抽 象的な質問を避け,次のような具体的な質問をすることにより,理解の促進が図られると 思われる.
What is the average room occupancy rate at your hotel? What is the ratio between male and female employees?
What should students learn at college in order to work in the tourism industry?
(5)事後研修を実施する. 帰国後,学生を集めて報告会をすることは容易ではないが,学生が何を学び・どのよう に成長したか学生自身が振り返る機会を設けることや,他の学生に研修の内容を報告する 機会を持つことは,参加した学生と参加しなかった学生双方にとって大変有益である.帰 国後に実施することが難しい場合は,研修地で最後に報告会を持つことで,少なくとも参 加した学生に対する教育的効果が期待できる. (6)専門家や企業等との連携を図る. 観光ホスピタリティ分野の専門家の教員や企業と連携して,プログラムを計画すること で,海外での語学教育と観光ホスピタリティ教育をさらに充実したものにすることがで きる. 5.結 論 観光ホスピタリティ分野の研修を兼ねた海外語学研修プログラムは,一部の課題を残し つつも,学生の視野を広げ将来のキャリアを意識した良い取組となった.今後,より充実 したプログラムにするには,語学教育系教員と観光ホスピタリティ専門の教員の連携を一 層深め,目的の共有化を図るとともに,事前・事後研修の充実,語学研修と観光ホスピタ リティ研修を有機的に結びつけた研修内容の工夫・改善のほか,学生の興味やニーズに合 わせた企業訪問の充実が求められる. 本論では,主に教員の立場から,海外語学研修における観光ホスピタリティ教育の成果 や課題を報告したが,充実したプログラムの実施には参加する学生や語学学校,協力企業 からの評価が不可欠である.今後は,インタビューなどの手法を用いた学生からのフィー ドバックや,参加学生の語学力等に関する語学学校や協力企業からの評価を行うなど,多 様な視点からプログラムを分析・検証することで,観光ホスピタリティ分野に求められる 人材を育成する海外研修プログラムの改善につなげることが必要である.
【参考文献】 池田和弘・小森三恵(2014)「オーストラリア語学研修報告」『大阪観光大学紀要』pp. 25–30. 伊藤恵美子(2011)「台湾国立高雄餐旅大学応用日本語学科における日本語教育―国家政策による 観光産業の人材育成」『下関市立大学論集』55(1): 107–114. 李承吉・李洸玉・韓相謙(2013)「ホスピタリティー専攻大学生の海外語学研修に対する期待認識 とその市場細分化に関する研究:韓国忠清南道大学の事例」『日本国際観光学会論文集』20: 129–135. Graham, R. (2012a)「学生の短期海外研修後の意識変化について : 研修既習者と非既習者との対比に おいて」『観光学研究』11: 119–135. Graham, R. (2012b)「海外短期研修前,研修後における意識の変化 : 英国・フィリピン研修における 東洋大学学生の事例」『観光学研究』11: 137–151. 原稿受付 2015 年 4 月 23 日 掲載決定 2015 年 11 月 21 日 ■