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原発事故に関する防災対策の課題

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原発事故に関する防災対策の課題

○吉岡 斉(九州大学大学院比較社会文化研究院)

Problems concerning the Prevention of Severe Accidents of Nuclear Reactors

Hitoshi YOSHIOKA (Kyushu University, Graduate School of Social and Cultural Studies),

1.はじめに

この特別講演では、2011年3月11日に発生した 東京電力福島第一原子力発電所における同時多発 的炉心溶融事故について概観したうえで、防災対 策上の欠陥がどこにあったのかを示す。 なお講演者は、2011年5月に政府が設置した東 京電力福島原子力発電所における事故調査・検証 委員会(政府原発事故調)の委員をつとめてきた。 その活動によって解明された事実を、今回の講演 のベースとしたい。

2.ないことづくしの原子炉過酷事故対策

2011年12月26日に発表された中間報告は本文編 と資料編を合わせて700ページを越える大作と なった。政府事故調のウェブサイトから入手でき る(http://icanps.go.jp/post-1.html )。 この中間報告の最大の意義は、東京電力と政府 の原子力防災対策が、事故発生前も事故発生後も 多くの欠陥(必ずしも故意や過失とは限らない) を含んでいたことを、明らかにした点にある。こ の中間報告に書籍タイトルのようなキーワードを 付けるとすれば「ないことづくしの原子炉過酷事 故対策」が妥当であろう。 過酷事故が起こること自体が事実上「想定外」 とされていたため、防災の観点から事故発生前に 実施されるべき多くの事柄が放置されていた。ま た事故発生後の対処がきわめて稚拙であった。そ のことが明らかになったのである。

3.原子力防災対策の欠陥

中間報告における原子力防災対策の欠陥につい ての記述は、大きく4項目にわたっている。 (1)指揮系統の機能障害(中間報告第3章) (2)福島第一原子力発電所のオンサイトの事故 対処の欠陥(中間報告第4章) (3)福島第一原子力発電所のオフサイトの事故 対処の欠陥(中間報告第5章) (4)過酷事故に対する事前対策の不備(中間報 告第6章) どの項目についても対策の欠陥がリストアップ されており、代表的なものは以下の通りである。 (1)に関しては、政府の原子力災害対策本部が 置かれた首相官邸危機管理センター(緊急参集 チーム)、原子力安全・保安院にある経済産業省 緊急時対応センター(ERC)、現地対策本部(オフ サイトセンター)などがほとんど機能せず、首相 執務室・東京電力本店・福島第一原発の三者によ る指揮系統が実質的に作られたが、これら上位組 織はあまり機能せず、福島第一原発の発電所対策 本部(免震重要棟)が事故対応の主役を果たした、 実態が明らかにされている。つまり原子力災害対 策特別措置法(原災法)に規定された政府主導の クライシス・マネジメント体制が機能しなかった のである。 (2)に関しては、非常に詳しい事実関係の把握 がなされていると、評価して下さる方々が少なく ない。いわば中間報告の白眉と言ってよい。中間 報告はここで、2つの重大ミスを明らかにしてい る。まず1号機については、非常用復水器(IC) が津波襲来時に、4つの隔離弁全てが自動的に全 閉又はそれに近い状態となり、機能を喪失したに もかかわらず、現場(免震重要棟にある発電所対 策本部、および原子炉内の中央制御室)の関係者 と、東京の政府・東京電力の関係者がともにその 可能性に気づかず、それが1号機建屋のわずか数 時間後の炉心溶融と、1日後の水素爆発につな がった可能性が濃厚となった。また3号機につい ては、タービン駆動の高圧注水系(HPCI)を当直 の判断で停止し、それを再び起動できなかったこ とが、事故の進展を早めた可能性が濃厚となった。 (3)に関しては、初期モニタリング、SPEEDI (緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステ

(2)

ム)からの情報の取り扱い、住民の避難の取り組 み、作業員や住民の被曝対策、国民や国際社会へ の情報提供の5つの項目を中心に、考察が加えら れている。いずれに関してもきわめて厳しい評価 を、中間報告は下している。主要な問題は2つあ る。第1は、政府対策本部自身が防災の観点から 的確な方針を示すことができないケースが多かっ たことである。第2は、住民・国民からみて信頼 できるクライシス情報・リスク情報を、政府対策 本部が発信できないケースが多かったことである。 (4)に関しては、中間報告では、津波対策と緊 急時シビアアクシデント・マネジメント対策の2 つにしぼって、安全規制機関および東京電力にお ける事前対策の妥当性を検討している。前者につ いては、政府においても東京電力においても津波 対策が地震対策と比べても大幅に手薄だったこと と、東京電力の津波に関する想定がきわめて甘 かったということが明らかとなった。とくに巨大 津波が押し寄せる危険性について東京電力が早く から認識していたのに対策を放置していたことが 明らかになった。後者についても全電源喪失が長 時間に及ぶ可能性を全く考慮していないなど、き わめて対策が手薄だったことが明らかとなった。

4.検察官的アプローチの限界

以上が政府原発事故調の中間報告(2011年12 月)に関する俯瞰的紹介である。この中間報告の 書き方は独特であり、科学論文とは大きく異なる。 その最大の特徴は、「証拠に基づく事実認定と、 それにもとづく論告・求刑」という、刑事裁判的 な様式がとられていることである。 科学論文が普遍的な事実を明らかにすることを 目標とするのに対し、刑事裁判の書類が当該ケー スについて、個別的な事実を明らかにすることを 目標としている点で、両者はほとんど対極に位置 する。政府原発事故調のアプローチは、後者の検 察官的視点が優越している。それは本質的に個別 事件の調査・検証結果を記述しているにとどまり、 必ずしも過酷事故再発防止のための体系的アプ ローチの代用とはならない。そうした再発防止的 アプローチにおいては、予防原則的な観点が重要 であるが、検察官的アプローチにおいては、不確 実な事柄に関する事実認定は忌避されがちである。 また検察官的アプローチにおいては、確実性の 高い事実についても、事件と直接の因果関係をも たない事実は軽視される傾向がある。要するに論 告・求刑に役立たない事実は価値がないとされる。 しかし過酷事故再発防止のための体系的アプロー チにおいては、論告・求刑的な判断に直結しない 事実についても、「背景的要因」として重視すべ きものが多い。 (1)東京電力が発電手段として、火力発電では なく原子力発電を選択したこと。(これには政府 の責任もある。) (2)1つのサイト(地点)に多数の原子炉を建設 したこと。 (3)地震・津波の危険地帯に、原子力発電所を 建設したこと。 (4)安全性の劣る炉型の原子炉を運転していた こと。(沸騰水型、MarkⅠ型格納容器)。 (5)危機管理体制が機能しえない仕組みだった こと。(原子力災害対策特別法のスキームそのも のが空想的だったこと。) なお、以下のような諸点についても、中間報告 の不十分さが指摘されている。 (1)大抵の命題に関して、それを裏付ける証拠 が示されないため、第三者による検証が不可能で ある。ヒアリングがすべて非公開を前提に行われ たことがその背景にある。 (2)固有名詞のレベルでの因果関係の究明が不 十分である。個人の責任を問わないという委員会 の基本姿勢が、ネガティブな影響をもたらしてい る側面がある。さらに一定の職階以下の人物につ いては、名前だけでなく部署についても記述され ていないことが多く、因果関係をたどりにくい結 果となっている。 政府原発事故調の限界として、発足当初から 懸念されていたのは、政府みずから(首相・大 臣・政務三役などの政治家、あるいは府省庁の官 僚)に対する姿勢が甘くなる傾向が、どうしても 避けられないのではないかということである。と くに事務局の官僚が主導権を握った場合、官僚弁 護の傾向が強く出るのではないかということであ る。また官僚は法律改正の面倒くささを周知して いるので、それに踏み込む提言を行うことを避け たがるのではないかということである。 そうした問題点が中間報告(や最終報告)に、 どの程度現れているかは、読者に判断して頂くし かない。

参照

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