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大学生を対象としたフィリピン短期語学研修プログラムの効果に関する考察

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Academic year: 2021

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(1)『中国地区英語教育学会研究紀要』 No. 49(2019). 大学生を対象とした フィリピン短期語学研修プログラムの効果に関する考察. 徳山工業高等専門学校. 倉増. 泰弘. Every summer a private university in Yamaguchi Prefecture conducts a one-month language program in the Philippines. its current state of operation.. This paper aims to discuss the characteristics of the program and It also attempts to understand the effectiveness of the program. at improving the students’ English ability, which was measured using TOEIC scores.. The. scores of the 130 participants and the 70 non-participants who took TOEIC before and after the program from 2015 to 2017 were analyzed using one-way ANOVA to observe the difference in improvement between the two groups in their listening, reading, and total scores.. The. results of the analysis show that the improvements of the participants in their listening and total scores were significantly greater than those of the non-participants.. However, there was. no statistically significant difference in the reading scores between the two groups.. 1.はじめに 2004 年をピークに減少していた日本人海外留学生数は、近年また増加傾向にある(文部 科学省, 2017)。その中でも、1ヶ月未満のいわゆる短期語学研修に参加する学生数は急速 に増えている。その主な渡航先としてタイ、フィリピン、マレーシア、マルタ島など英語 を第一言語としない国や地域が選択されているようである。この増加の要因として、主に 2つのことが考えられる。1つ目は、授業料や滞在費が安価であることであり、英語圏と 比べると同じ滞在期間で半額以下での研修が可能である。2つ目は、社会的にインターン シップやボランティアなど、従来の語学留学や語学研修にはなかった付加価値が求められ るようになり、これらの国や地域においてはそれらが比較的容易に実施できることである。 ただ、英語圏ではない国や地域での短期間の語学研修に行ったからといって英語が身に つくのかという疑問がある。私立 A 大学(これ以降「A 大学」)では、2013 年から5年に 渡り、夏季休業中の約1ヶ月間を利用して、フィリピン(セブ島およびパナイ島)で語学 研修を実施してきた。しかし、この語学研修に参加したことで英語力を大幅に向上できる かどうかは明確ではないのが現状である。 本研究では、先行研究や A 大学の事例を概観しながら、フィリピンでの短期語学研修 の特徴や効果に関して考察する。特に、A 大学で学生の英語力を測る指標として用いられ ている TOEIC® Listening & Reading Test(これ以降「TOEIC」)を使用し、同研修に参 加した学生が研修の事前・事後に受検した TOEIC の得点の伸びが、参加していない学生 のものと比較した場合に、統計的に有意に高いのか分散分析を用いて検証する。A 大学で. -1-.

(2) は学生に TOEIC の Speaking & Writing Test の受験を義務付けているが、年度により受 験にばらつきがあり、また様々な運用上の課題から英語力を測る指標として適切ではない と判断し、今回の分析では Listening & Reading Test の得点のみを扱う。 なお、本研究では「留学」と「研修」という言葉を使い分けている。文部科学省と国土 交通省では、3ヶ月未満の海外での学習を「研修」、3ヶ月以上にわたるものを「留学」 と定義し区別しているが、これは日本と主要国との取り決めにより、3ヶ月未満の観光・ 訪問の場合はビザを必要としないためである(渡邉・久保田・倉増, 2017, p.41)。本研究で は、3ヶ月未満の海外での学習を「語学研修」、 「海外研修」、 「研修」あるいは「短期語学 研修」などと適宜呼称する。 2.フィリピンでの語学研修 本章では、近年語学研修先として選ばれているフィリピンの語学学校の特徴について、 A 大学で実施している語学研修を概観する。なお、これ以降 A 大学の語学研修に参加した 学生を「参加者」と表記する。 2.1 フィリピン語学研修の効果に関する先行研究 フィリピンでの語学研修を導入している企業や教育機関は年々増え続けているが、語学 研修の効果を検証した研究は決して多いとは言えない。まず倉増(2014)では、セブ島の語 学学校で1ヶ月英語を学んだ参加者 50 名のうち、研修約3ヶ月前と研修約1ヶ月後に実 施された TOEIC IP 双方を受験した 36 名の得点を比較している。その結果、参加者全員 の得点の平均が 75.1 点上昇しており、リスニングだけを見ても 51.7 点上昇していた。な お、同研修では参加者にオンライン英会話を研修前の3ヶ月間ほど課していたが、平均受 講回数や平均受講率についての記載はない。 次に、室井・室井(2017)では、セブ島語学研修に約2週間参加した高校生 21 名の事前・ 事後の TOEIC の得点を比較している。この研修では、まず TOEIC を受験させた後に、 事前指導としてオンライン英会話を約3ヶ月間毎日受講させ、現地研修終了2日後に再度 TOEIC を受験させている。参加者 20 名の事前と事後の平均点の比較では、リスニングで 36.2 点、合計で 51.9 点伸びており、いずれも統計的に有意な差が見られた。一方、リー ディング関しては平均 15.8 点上昇していたが、統計的有意差は見られなかった。なお、 参加者のオンライン英会話の受講回数(受講可能回数全 90 回)は平均 71.4 回であった。 また、竹野他(2016)や竹野・藤代・伊藤(2017)では、15 日間のフィリピン語学研修にそ れぞれ大学生 19 名と 26 名が参加している。研修終了1週間後に5件法を用いた 16 項目 からなるアンケートを実施した。回答の平均値を見ると、参加者は英語力に関しては必ず しも向上したと感じていなかった。しかしながら、研修全体の満足度は総じて高く、授業 に対してはどちらの研修参加者も充実感を得ていることが予想される。中でも、「今回の 経験は将来のためになる」という項目は最も平均値が高く、研修が参加者の情意面に何ら かの影響を与えていることが示唆された。 さらに、フィリピン語学研修の効果を検証するために、事後アンケートを質的に分析し た研究として、渡邉・久保田・倉増(2017)がある。この研究では、2015 年から 2017 年ま で3年分を遡り、フィリピンでの語学研修に参加した 149 名の学生の体験レポートを KH Coder を用いてテキスト分析を行っている。結果として、9割以上の参加者が現地の生活 環境や対人接触の中で自国や自分自身を振り返ったり、帰国後の生活に対する意識を感じ. -2-.

(3) たりするなど、貴重な体験をしていることが確認されている。 このように、フィリピンでの語学研修に関する先行研究は、参加者の TOEIC の得点の 伸びを取り上げたものと研修後のアンケートやレポートの結果をまとめ、参加者の情意面 の変化に着目したものに分類できる。これらの先行研究は、研修参加者の英語力の伸びや 情意面の変化を統計的に明らかにすることを試みたという点で大きな示唆を与えた一方、 統制群や他研修との比較が設定されていない点では、検討の余地がある。本研究ではこの 点に着目し、研修前後の TOEIC の得点の伸びに関して、参加者と参加していない学生(こ れ以降「非参加者」)を比較することで、研修の効果のより良い理解に繋がると考える。 本研究の目的は、研修への参加による英語力の伸びを参加者と統制群である非参加者と を比較することで検討することであるが、このことにより先行研究よりもより客観的な知 見を得ることができる。そこで事前から事後への差得点を従属変数とする一元配置の分散 分析 1 を行う。 なお、上記した文献以外にも、フィリピンでの短期語学研修に関する報告はいくつかな されているが、研修の概要や語学学校の紹介、課題の提示等に留まっており、研修の効果 についての言及がないため、本研究では割愛した。 2.2 A 大学の事前・事後研修 A 大学では、フィリピン語学研修を開始したばかりの 2013・2014 年に、前期と後期に それぞれ事前研修と事後研修として週 1 回 90 分の授業を行い、2単位を付与していた。 事前研修では、渡航前の諸準備だけではなく、現地研修でのマンツーマンレッスンに備え るために、スカイプを使ったオンライン英会話を3ヶ月間受講させていた。このオンライ ン英会話は受講期間中、毎日 25 分ずつ受講することを義務付け、成績評価基準の一部に 含めていた。実際の受講率はかなりのばらつきがあり、年度によっては平均受講率が 50% を大きく下回ることもあった。ただ、授業時にオンライン英会話の時間を設けていたため、 受講率が低い参加者も週1回は必ず受講している。特に授業時に実施する場合、レッスン 中に使えそうな表現を受講前に繰り返し練習させたり、受講後に振り返りをさせたりして いるために、ある程度自信を持って現地研修に臨めると過去の参加者たちは話している。 なお、帰国後の事後研修でも3ヶ月間オンライン英会話を続けていたが、2015 年のカリ キュラム改正以降は、事後研修自体が廃止されたため、オンライン英会話も事前のみ実施 するようになった。表1は、A 大学が 2013・2014 年度にフィリピン語学研修の事前研修 および事後研修として実施していた授業の概要である。 表1 事前・事後研修概要(2013・2014 年度) 事前研修. 事後研修. 期間. 前期(4月上旬~8月上旬). 後期(10 月上旬~2月上旬). 時間. 週1回 90 分. 週1回 90 分. 現地研修諸準備、演習、オンライン. 現地研修の振り返り、事後プレゼン. 英会話. テーション、オンライン英会話. 2単位. 2単位. オンライン英会話受講率、レポート. オンライン英会話受講率、レポート. など. など. 指導内容 単位 評価. -3-.

(4) 2.3 フィリピンの語学学校 2.3.1 学校の形態 次に、本題である語学学校の特徴について取り上げる。フィリピンの語学学校は一部ア メリカ人やフランス人経営の学校もあるものの、基本的には韓国資本と日本資本、そして 日韓共同出資に大別できる。韓国資本の学校の多くは「スパルタ式」というコースを設け ており、1日 10 時間以上の学習、平日の外出禁止など多くの規則、毎日一定時間以上の 自習など様々なルールを課していることが特徴である。一方の日本資本の語学学校は比較 的自由度が高く、語学学校ごとに多様な設立趣旨の下に、手軽に英語学習ができることを 売りにしている。また、韓国と日本の企業が共同出資しているような学校では、「セミス パルタ式」というコースも開設されており、韓国と日本双方のニーズに対応している。こ れらの学校のうち韓国資本と日韓共同出資の語学学校の場合、当然韓国からの留学生数の 方が多い。また最近は台湾やベトナムなど様々な国からも留学生を受け入れているため、 授業以外で英語を使用する機会がある。日系の語学学校も日本人以外の留学生を受け入れ 始めているケースもあるが、未だに日本人が大多数を占めているようである。 2.3.2 指導内容 A 大学は 2013 年研修開始以降いずれの語学学校にも学生を送ってきた。語学学校には、 選択クラスの受講を勧めたり、一定時間以上の自主学習を課したりとそれぞれ特徴がある。 しかし、A 大学からの学生に関しては、どの語学学校でも1日最低4時間のマンツーマン レッスンと2時間のグループレッスンを課してもらっている。 一般的にフィリピンの語学学校でも初日にプレイスメントテストまたは英語力診断テ ストの受験を義務づけており、その結果によってクラスのレベルや担当する講師を決定し ている。授業内容は様々であるが、基本的にはマンツーマンレッスンかグループレッスン かに関わらずテキストを用いた英会話が中心である。ただ、リーディングや語彙、文法に 力を入れているクラスがあったり、学校独自のドリル式スピーキング練習を取り入れてい たり、学校または教員によって内容にはかなりばらつきが見られる。 2.4 A 大学のフィリピン語学研修の特徴 A 大学のフィリピン語学研修が他大学の研修と最も異なる点は、参加者を同じ学校に通 わせるのではなく、複数の語学学校に割り振っていることである。これには、学生たちが 授業内外で日本人同士で固まり馴れ合いになってしまうことを避け、できるだけ現地の人 たちや他国の人たちと交流してもらうという狙いがある。参加者は他国や他大学からの日 本人留学生などと交流を深めようとしたり、普段日本では交流がないメンバーとコミュニ ケーションを取ろうとしたりするようになる。毎年3~4校に 10~15 名ずつに送ってき たが、それなりの効果を生んでいると言える。 前述したように、A 大学のフィリピン語学研修ではセブ島内の様々な語学学校を試しな がら、より良い研修づくりを目指してきた。2016 年以降はパナイ島の語学学校1校を研 修に加えているが、授業時間数と授業内容はセブ島の学校と大きな違いはない。なお、 2016 年度末に A 大学はこの語学学校が附属している大学と国際交流協定を交わしている。. -4-.

(5) 3.調査 3.1 調査概要 本研究では、TOEIC を英語力を測る指標として用いて、A 大学が実施してきたフィリ ピン短期語学研修のうち 2015~2017 年の参加者 130 名が研修前と研修後に受験した TOEIC IP の得点を分析対象とする。また、非参加者 70 名を統制群として設定し、参加 者と非参加者の得点の伸びに関して、分散分析を用い比較することにより考察を進める。 なお、データ分析には SPSS Statistics 23 を用いた。 表2は、本調査の被験者の内訳である。各年度の参加者数および非参加者数を示してい る。また、研修に実際に参加した全参加人数については「全参加者」として併記している。 表2 被験者数内訳(人数) 2013. 2014. 参加者. ―. ―. 32. 43. 55. 130. 非参加者. ―. ―. 11. 32. 27. 70. 43. 75. 82. 200. 43. 59. 75. 177. 年度 被験者. 被験者合計. ―. ― 50. 全参加者. 25. 2015. 2016. 2017. 合計. 同研修の参加者の大半は英語関連専攻の1年生であるが、開始年度から毎年他学部や他 学年の学生も参加している。ただ、非参加者が全員英語関連専攻の1年生であるため、被 験者は参加者も英語関連専攻の1年生に限定した。また、非参加者と参加者はいずれも事 前・事後テストとして TOEIC IP を2度受験した学生の得点のみ選別している。さらに、 非参加者には他の海外研修に参加した学生は含まれていない。TOEIC IP の実施時期であ るが、各年度の学年暦の都合上多少の前後はあるものの、毎年ほぼ同時期に設定されてい る。2015 年は5月上旬と1月上旬、2016 年は4月下旬と1月上旬、2017 年は5月中旬 と 12 月上旬にそれぞれ事前・事後テストとして実施されている。なお、2013 年と 2014 年にも事前・事後の TOEIC IP の受験を義務付けていたが、実施時期が上記3年度と大き く異なることから、今回の分析からは除外した。 3.2 分析と結果 表3は、2015~2017 年の参加者 130 名と非参加者 70 名が受験した事前と事後の TOEIC の結果に関する記述統計である。なお、これ以降事前に受験した TOEIC を「事 前」、事後に受験したものを「事後」と呼ぶこととする。 表3 記述統計量 事前. 参加者 (n=130) 非参加者 (n=70). 事後. M. SD. M. SD. リスニング. 207.73. 59.17. 251.65. 68.97. リーディング. 129.96. 41.68. 151.23. 50.08. 合計. 337.69. 89.56. 402.88. 106.67. リスニング. 223.43. 70.32. 242.14. 84.47. リーディング 合計. 140.79 364.21. 63.28 123.89. 163.21 405.36. 71.54 146.88. -5- 次に、表4は参加者と非参加者の2つのグループ間で事前の得点に関する分散分析を行 った結果である。.

(6) 364.21. 合計. 123.89. 405.36. 146.88. 次に、表4は参加者と非参加者の2つのグループ間で事前の得点に関する分散分析を行 った結果である。 (n=200). 表4 グループ間分散分析(事前). SS. df. MS. F 値. p. リスニング. 11212.155. 1. 11212.155. 2.800. .096. リーディング. 5330.907. 1. 5330.907. 2.109. .148. 合計. 32005.397. 1. 32005.397. 3.027. .083. この結果によれば、参加者と非参加者の間で、リスニング( F=2.800, p=.096)、リーデ. ィング( F=2.109, p=.148)、合計( F=3.027, p=.083)のいずれも統計的に有意な差が見ら. れなかった。そのため、これら2つのグループはリスニングとリーディングに関してほぼ 同質な英語力を持つ集団であるとしておく。 次に、リスニング、リーディング、合計の各得点の伸び(事後の得点から事前の得点を 引いて算出したもの)に関して、研修参加の有無を要因とした一元配置分散分析を行う。 なお、多重比較による第一種の過誤を犯す危険性を考慮し、各検定での有意確率は5%で はなく、3水準であるため 1.67%に設定する。 表5、表6、表7は、それぞれリスニング、リーディング、合計の得点の伸びに関して、 参加者と非参加者の2つのグループ間で統計的な有意差があったかを示している。 (n=200). 表5 グループ間効果検定(リスニング). SS. df. 28914.484. MS 1. F. 28914.484. p. 10.277. partial η2 .002. (n=200). 表6 グループ間効果検定(リーディング). SS. df. 61.155. MS 1. F. 61.155. p 0.039. partial η2 .844. 26316.111. df. MS 1. .000 (n=200). 表7 グループ間効果検定(合計). SS. .049. F. 26316.111. p 5.516. partial η2 .020. .027. この結果から、リスニング( F=10.277, p=.002)については、参加者と非参加者の TOEIC. の得点の伸びの間に統計的有意差が認められた。一方、リーディング( F=0.039, p=.844) と合計( F=5.516, p=.020)については、参加者と非参加者の TOEIC の得点の伸びの間に. 統計的有意差が認められなかった。合計の有意確率は2%と 1.67%にかなり接近してい たが、リーディングの影響を少なからず受けたために統計的有意差を得るには不十分であ. -6-.

(7) ったと考えられる。 ここで、統計的有意差が認められたリスニングの伸びを可視化するためにグラフを用い る。図1は参加者・非参加者の事前と事後の平均値をグラフにしたものである。 260 240 220 200 事前. 事後. 参加者. 非参加者. 図1 平均値(リスニング)の推移 この図の事前の平均値を見ると、リスニングにおいて非参加者より参加者の方が低くか ったのが、事後ではそれらが逆転していることが明示されている。事前と事後の TOEIC は研修の直前・直後に実施されたものではないので、必ずしも現地研修だけの効果とは言 えない。ただ、これらの分析結果により、フィリピンの語学研修に参加した方が、参加し ないよりも、多かれ少なかれリスニング力の向上に繋がることが明らかになったと言える かもしれない。 4.考察 本研究では、A 大学のフィリピン短期語学研修参加者 130 名と統制群である非参加者 70 名が、研修の事前と事後に受験した TOEIC の得点の伸びに関して、統計的な有意差が あるか明らかにするために一元配置分散分析を行った。分析の結果、リスニングについて 参加者の伸びが非参加者の伸びよりも統計的に有意に高いことが明らかになった。また、 事前の平均値が非参加者より低かった参加者が、大きく得点を伸ばし事後の平均値で非参 加者を上回っていたことも確認された。事前の得点の分散分析により、これら2つのグル ープはリスニング力、リーディング力ともにほぼ同質であることが確認されており、フィ リピン短期語学研修への参加の有無が、少なくとも英語のリスニング力の向上に何らかの 影響を与えていることが推察される。もちろん、フィリピンでの語学研修において全て同 様の結果が得られるという結論にはならず、一般化できるものではないため、結果の解釈 には慎重になる必要がある。ただ、被験者 200 名(参加者 130 名、非参加者 70 名)とい う十分なサンプル数を確保できたこともあり、フィリピンでの短期語学研修の効果につい てある程度客観的な知見が与えられたと言えるかもしれない。 2.3.2で概観したように、A 大学のフィリピン語学研修において、参加者は1日最 低4時間のマンツーマンレッスンと2時間以上のグループレッスンを受講している。快活 で温和なフィリピン講師による授業は活気があり、講師たちは受講者を巧みに引き込みな がら、英語レベルに合わせて受講者に英語を話す機会を与えている。しかし、日本人の内 向的な気質からなのか、参加型の主体的授業に不慣れなのか、日本人留学生の多くは受動 的にレッスンを受けている。極端に言えば、フィリピンの語学学校の授業の大半が英会話 であることを考えると、授業時間のほとんどをリスニングに費やしているケースすらあり. -7-.

(8) 得る。つまり、今回のような分析結果を得るのはある意味当然と言えるのかもしれない。 ただ、仮にリスニング中心になっている可能性があったとしても、マンツーマンレッス ンという授業形態において、リスニング力以外の技能が全く向上しないということは考え づらい。本研究ではフィリピンの語学研修が参加者のスピーキング力やライティング力に 与える影響について扱わなかったが、特にスピーキングに関しては短期間であっても効果 的であることが予想される。この点に関しては、先行研究でも統計的に明らかにしている ものは見られず、今後の研究に向けた課題として次節で考察する。 4.1 研究の限界 本研究の課題について3点挙げる。まず一つ目の課題として、統制群として設定した非 参加者群がランダムに抽出された集団ではなかった点が挙げられる。非参加者群の得点は 正規分布を前提としておらず、参加者群とは別の特異な集団であった可能性がある。今後、 別の集団との比較研究を行い、研修の効果について検証を続けたい。 次に、本研究で被験者の英語力を測る指標として、スピーキングとライティングを含め なかった点がある。A 大学では 2015 年から TOEIC® Speaking & Writing Test を単位認 定のための条件としてカリキュラムに取り込んでいるが、運用上の様々な課題から本研究 では英語力を測る指標として適切ではないと判断し、分析の対象としなかった。ただ、マ ンツーマン英会話を中心とするフィリピンの語学研修の効果を語る上で、リスニングとス ピーキングを含めることは大変重要なポイントであると言える。スピーキング力とライテ ィング力の測定方法については今後の課題としたい。 最後に、事前と事後の TOEIC IP の実施時期について触れたい。本研究で対象とした事 前と事後の TOEIC IP は、研修直前または直後に実施されたものではない。もちろん、参 加者が事前に受講した約3ヶ月のオンライン英会話も研修の一部として捉えているため、 必ずしも問題であったとは言えない。しかし、フィリピンの語学学校での現地研修自体を 純粋に評価するためには、可能な限り研修の直前と直後に事前テストと事後テストを実施 する必要がある。この点については、同時期に非参加者にも同様の試験を受験してもらう のか、英語力をどのように測定するのかなどといった他の課題とも併せて検討していく必 要があるだろう。 5.おわりに 語学研修はその期間が短いほどその効果に懐疑的な見解があることは否定できない。ま してやそれがアジアの国であればなおさらである。英語圏であれば、洗練された英語に触 れたり、様々な文化体験ができたりするわけで、英語圏への留学を目標にするという学生 が多いのは当然である。ただ、英語圏への留学や研修は決して安価ではなく、予算次第で 長期間滞在はできず、期待されるような成果が見込めないこともしばしばである。一方、 フィリピンのような英語を公用語とするアジアの国は、英語圏のような体験はできないに せよ、短期間に安価で英語力の獲得が可能であり、効率的なのかもしれない。特に初級英 語学習者にとっては、たとえ短期間で英語力が大幅に向上しなくても、自信や充実感を得 て再び留学したい意欲を掻き立てられ、次へのステップを踏める方がベターであるとも言 える。その意味で、フィリピンのような国への短期研修は今後さらに見直されるべきなの かもしれない。 前述したように、現在フィリピンやマレーシアなどのアジアの国々で英語を学ぼうとす. -8-.

(9) る傾向は年々強まっている。学生のうちにアジアの国々で英語が使われている現状に触れ、 実際に現地の人たちと英語でコミュニケーションを取るという経験をすることは、学生た ちの将来に大いに意味があるような気がしてならない。しかし、まだまだ課題も多く、学 生がアジアの国々へ留学や研修に赴く環境が十分に整備されているとは決して言えない。 高等教育機関に進む学生たちは決して経済的に恵まれた者ばかりではない。これまで筆 者自身が関わってきた学生たちの中にも経済的な理由から、希望していた留学を断念した 学生が多数いた。そのような学生たちに少しでも成長のチャンスを提供したいと思い、よ り良い留学や語学研修のあり方についてこれまで考えを巡らしてきた。 本研究でフィリピンでの短期語学研修の効果を理解しようとする試みが、今後の留学や 語学研修のより良い環境づくりに向けた一助になれば良いと考える。 注 1 差得点の群間検定結果は、混合計画の二元配置分散分析における交互作用と結果が同じ になることが知られている。 参考文献 Kuramashi, Y. (2018). Developing a language program in the Philippines. Bulletin of. Baiko Gakuin University, 51, 13-26.. Murrell, H., Kuramashi, Y., & Mizuta, A. (2015). Outside the classroom: A study of students‘ attitudes toward the learning environments on campus and their effects on learning achievements. Baiko Studies Language and Culture, 6, 81-94.. 倉増泰弘. (2014).「セブ島における語学留学プログラムの構築」『梅光学院大学論集』,. 47, 43-58.. 竹野純一郎, 福田衣里, 梅原嘉介, 佐生武彦, 小野山和男, 大橋典晶, 森年ポール, クリス チャン・バロウズ, 佐々木公之, & 藤代昇丈. (2016).「フィリピンでの英語教育 (1)-. セブ島での語学短期留学を通して」『中国学園紀要』, 15, 131-140.. 竹野純一郎, 藤代昇丈, & 伊藤(福田)衣里. (2017).「フィリピンでの英語教育 (2)-セブ島 での語学短期留学を通して」『中国学園紀要』, 16, 237-246.. 独立行政法人日本学生支援機構. (2016a).『平成 28 年度協定等に基づく日本人学生留学 状況調査結果』Retrieved from https://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_s/2017/index.html (2018 年5 月 20 日閲覧) 独立行政法人日本学生支援機構. (2016b).『平成 28 年度協定等に基づかない日本人学生 留学状況(在籍大学等把握分)』Retrieved from https://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_s/2017/ref17_01.html (2018 年5月 20 日閲覧) 廣森友人. (2017).『何が海外留学を成功に導くのか?―留学の効果を最大化する 3 つのヒ ント―』デザインエッグ株式会社. 室井美稚子・室井明(2017).「フィリピンのセブ島における語学研修の一考察-- 高校生が 事前学習に ICT を使って」『清泉女学院大学人間学部研究紀要』, 14, 61-67. 文部科学省. (2017)「日本人の海外留学状況」Retrieved from http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/__icsFiles/afieldfile/2017/12/27/13. -9-.

(10) 45878_01.pdf (2018 年5月 20 日閲覧) 渡邉尚孝, 久保田眞吾, 倉増泰弘. (2017).「短期海外留学の教育効果に関する質的研究― 異文化体験の学習過程を示す記述を中心として―」『子ども未来学研究』, 12, 39-51.. - 10 -.

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参照

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