57 第 10 回大会開会の挨拶:スポーツマネジメントが拓く未来 おはようございます。只今ご紹介に預かりました早稲田大学の原田と申します。今日は日曜日の 朝早くから 10 回大会にご参加いただき、ありがとうございます。少し時間を頂戴して、私から開 会の挨拶を兼ねて『スポーツマネジメントが拓く未来~これまでの 10 年、これからの 10 年~』と いうテーマで少しお話をさせていただきます。 第 1 回大会は 2009 年 1 月 30 日に行われまして、今回が第 10 回大会となります。この 10 年の中 で、日本におけるスポーツを取り巻く環境がかなり大きく変化しました。その中核である 2015 年 にできましたスポーツ庁、今日は鈴木長官をお招きしておりますが、その流れの中で、スポーツマ ネジメントに対する期待、あるいはスポーツマネジメントが担う役割がさらに重要なものになりつ つあります。少し日本のスポーツ体制を、短い開会の挨拶なのですが、振り返りたいと思います。 戦後すぐ、もう日本はなにもない時代、スポーツの担い手の中心に行政がなりました。行政が施 設を建設し、そして企業が競技スポーツを育てた、そういった時代が長く続きました。当時の学校 体育と社会体育は完全に分離されており、戦後のスポーツ振興の法的根拠は社会教育法だけになり ます。これは学校教育法に基づく、学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少 年および成人に対して行われる組織的な教育活動、あくまで教育の一環としてのスポーツが中心で
スポーツマネジメントが拓く未来
―これまでの 10 年、これからの 10 年―
開会の挨拶
原田宗彦氏
(早稲田大学教授、JASM 会長) 日本スポーツマネジメント学会 第10回大会スポーツマネジメント研究 第 12 巻第2号 58 ありました。ですのでスポーツの法的位置付けは、社会教育法のみとなっております。当時体育管 理学会というものが設立され、学校体育をどう運営するかあるいは学校の運動会など様々なイベン ト等を効率よく効果的にやるかという研究が行われていました。 その後 50 年代後半から日本は高度経済成長に突入します。そうなりますと、自治体あるいは行 政と企業に加えて、コミュニティの重要性が叫ばれるようになります。ただ当時は経済最優先の時 代ですので、働く、あるいは稼ぐというのが日本の最大の重要課題でした。1961 年にスポーツ振 興法というスポーツの独自法が制定されます。当時は労働の長時間化とコミュニティの崩壊、お父 さんは土曜日になると寝てるだけ、ほとんどコミュニティの活動には参加しない、そういう時期が 長く続きました。ですので人間の連帯を回復する手段として、コミュニティスポーツが強調されま した。自治体コミュニティ、企業のトリニティ、三位一体がここで成立することになります。70 年代にはすでにいま議論しているように、運動部活動を学校と切り離して、17 時以降は会費を取っ てクラブにしようというような動きが、すでに 70 年代には出たのですが、学校安全法、保険を適 用するには学校の授業のなかでやったほうが高いお金が保障されるということもあり、これはそう そうになくなったようなアイディアですが、今またこれを議論されているというのは時代の流れを 感じます。1978 年には体育管理学会が体育経営学会に名称変更しております。現在は体育・スポー ツ経営学会ということで学会が存在しています。ここにあるコミュニティというのは、住民主体の 地域スポーツブランドです。まだこの当時は受益者負担という考えすらなかった時代になります。 成熟国家、生涯スポーツの時代、80 年代から 90 年代は、Sports for All 概念が導入されました。 労働対余暇、職場対地域などから、生活全般領域へのスポーツライフの浸透を目指す、ここで学校 体育と社会体育の壁は完全に取り払われました。注目すべきは、individual、個人が出てくる。自 己の高揚を最大化するために行動するスポーツ消費者という概念が明確になって参ります。楽しみ や他の便益、ベネフィットを得ることを目的として運動やスポーツに参加(観戦を含む)したり、 それに関する情報を得るために時間・カネ・個人的エネルギーを投資する人。このスポーツ消費者 が登場して以来、我々の研究対象は非常に広範にわたるようになるわけです。こういった第 4 の担 い手が登場したということになります。つまり個人=スポーツ消費者。 では 21 世紀に入って、何が起きているかといいますと、市場主導型社会のスポーツ体制という ことで、スポーツマネジメントの時代が到来したと考えております。スポーツがサービス材や経験 材として市場で自由に取引される、そういう時代を迎えました。ただスポーツビジネスというのは、 market driven、すなわち市場主導型のビジネスです。ですので、需要がないところにビジネスは発 生しません。スポーツのプロフィット化にマネジメントは不可欠になって参ります。ものづくり・ ことづくりという言葉がありますが、ことづくりがあってものづくりが生まれる、すなわち大きな マラソン大会、そのためにシューズが売れるということになります。あるいはサッカーの大会があ る、だからサッカーシューズが売れる。ことづくりが主導するものづくり、この両局がうまく機能 しているというのが現代社会です。ただその価値を最大化するには、スポーツのマネジメントとい うのが不可欠になります。見逃せないのが、このボランタリー社会の進展ということで、住民一人 一人の主体的な参加によって支えられる成熟した社会ができた。したがって個人が個人の責任でス ポーツに参加し、必要に応じて金銭の授受を行うという社会ができました。さらにプロスポーツや スポーツイベントが、住民にアイデンティティを提供できる、現代社会に必要なコンテンツになり つつあります。J リーグもしかり、B リーグもしかり、あるいは東京マラソン、あるいは○○マラ ソン、そういった地域住民のアイデンティティを喚起するようなスポーツコンテンツというのは、 さらに重要になってくると考えられます。
59 第 10 回大会開会の挨拶:スポーツマネジメントが拓く未来 では今後スポーツマネジメント学会はどこへ向かうのか、課題は山積しています。例えば超高齢 化、人口減少社会のなかで、スポーツ界のビジネスエコシステムをどう構築するかというのが重要 な課題になります。これまで、特に社会体育の時代はやはり行政が主導してスポーツ界を導いて、 そこからコミュニティスポーツが生まれ、生涯スポーツへ繋がりましたが、スポーツマネジメント の時代というのは、自立したエコシステムというのが必要になるわけですね。サービスの提供者、 顧客、競合他社、行政機関などが関与するエコシステムとして、今後の生き残りをかけてマネジメ ント技術を駆使してシステム自体を進化させる必要がある。ビジネスエコシステムという概念は、 90年代後半から出まして、ハーバードビジネスレビューでも盛んに言われておりますが、スポー ツ界にもこういった自立した・独立した生態系が必要と考えます。2020 年に開かれるオリンピッ クは、今レガシーの議論が若干しぼんでいます。しかしこれは非常に重要で、残された施設をホワ イトエレファン化しないために、ビジネスエコシステムの構築が重要になります。例えば新国立競 技場、どうやって生態系を自立させるかというのは、議論が今途中で止まっている状況ですので、 こういったところも今後の喫緊の課題ではないかと考えられます。これは一つの案なのですが、ス ポーツ庁さんと一緒に地域スポーツを振興させる事業体を考える委員会を行い、その延長線上に出 てきた地域スポーツコミッションの発展形による地方創生ということで、インナーとアウター、内 側と外側です。インナーは今ある地域資源を最大活用して、地域から収入を得ようとします。ス ポーツ教室や健康サポート事業、命名権、解放等々指導者派遣、いろいろなやり方があります。ア ウターは域外から人を呼び込んで、収入を得ようとします。施設運営、イベント誘致・開催・支援、 合宿誘致、企業協賛金等々、スポーツツーリズム的な発想で行います。この内と外でいかにビジネ スエコシステムを構築するか、そのためにはスポーツマネジメントだけではなく、パークマネジメ ント・ディスティネーションマネジメントの 3 つのマネジメントを上手く動かす。その先にスポー ツで稼ぐ地域戦略というのが展開されるのではないかなと期待しております。その担い手は、スポー ツによる地域活性化を担う事業体として、地域スポーツコミッションあるいは官民連携によるイン フラ整備、こういったものがさらに重要になってきます。1 つご紹介させていただきたいのが、ス ポーツマネジメント教育における、ビジネスエコシステムの事例ということで、ノンディグリー社 会人教育というのに早稲田大学は取り組みました。この後お話を頂く長谷川先生、ビジネススクー ルと一緒に提携しまして、こういったノンディグリーの社会人教育のプログラムを早稲田大学では スタートさせました。最初は本当にマーケットがあるのか、25 回の授業で 60 万円という、月曜の 夜に集まるだけのコースなのですが、これが今非常に人気を博しております。これが一つのビジネ スエコシステムの事例になりますが、こういった新しいマーケットも出現しているということにな ります。海外から注目を浴びておりまして、ニューヨーク大学が東京でスポーツ MBA を開講する という噂も聞いておりますが、こういった学習意欲、学生の数は減りますが、社会人の数は減りま せんので、そういうマーケットに着目する必要は今後もあると考えられます。 日本スポーツマネジメント学会は、アカデミック・スチューデンツ・ビジネスということで、こ の間を取り持つ仕事をしております。Academic to Student・Student to Business とこちらに書いてあ りますが、研究者の交流の場、まさに今日がそのなかに入りますが、またはカリキュラム研究、今 日のシンポジウムのテーマにもなっております。あるいは共同研究、研究委託。それから Business to Businessということで、スポーツビジネスの交流の場。これはセミナー等を通じて、ここでビジ ネスの方もたくさんいらっしゃいますので、そういう交流の場を作る。あとはスチューデントセミ ナー、昨日も 2 つのスチューデントセミナーが行われ、学生の皆さんが参加され、多くの知見を蓄 えられたのではないかと思います。
スポーツマネジメント研究 第 12 巻第2号 60 我々の規約と、会社でいえば定款にあたりますが、スポーツマネジメント実践分野として、この 1から 10 まで書いてあります。時間の都合上全部はご紹介できませんが、ただ今後これに加えて 新しいスポーツの現象が起きています。例えばスポーツガバナンス。2009 年の時代にはもちろん 言葉はありましたが、あまり注目はされていない。あるいはノンメガスポーツイベント、どうして もオリンピックやワールドカップといったメガスポーツに注目がいきますが、地域の持続的発展を 考えた場合こういったサステナブルなノンメガスポーツが重要だということで、研究が盛んに行わ れています。あるいは今後大きな話題になるであろう eSports。2026 年の名古屋のアジア大会では、 もうすでに eSports をやることがほぼ決まっているとは思います。ではどの会場で、どのように行 うのかというノウハウの蓄積も必要になり、観客は普通のスポーツをみるのと eSports みるのでは 何が違うのといった研究も行われております。あとはオンラインゲーム、スポーツとテクノロジー、 特に 5G の時代を迎えますと、通信量が一気に飛躍しますので、次世代の高速通信とスポーツとい うのも興味深いテーマです。さらにスポーツボランティア、スポーツと CSR、スポーツと CSV、 スポーツと国際展開、SNS 等々、社会で新たに起きる現象に寄り添って研究分野を確立していく 必要があると考えられます。 最後のスライドになりますが、これからの 10 年、私はスポーツの触媒的価値がさらに注目を浴 びると考えております。スポーツイベントによって交流の機会やアイデンティティが生まれる、そ して地域が豊かになるというような研究が重要になり、スポーツを通して社会的課題を解決する、 特に貧困の問題・高齢化・人口減・都市消滅等々です。特にこの貧困の問題というのは、例えば今 沖縄は貧困率が日本で一番であります。非常に大きな社会的課題になっており、沖縄の子どもたち にどうやって無料でスポーツ用品を届けるかというような研究も行われています。スポーツの振興 からスポーツを活用した街づくりと地域活性化ということで、こういったスポーツの都市戦略、こ れは日本だけでなく世界的な都市でも同じような研究が行われております。スポーツによる国際交 流からスポーツを用いた多面的な国際展開へということで、こちらもスポーツ庁が主導して、様々 な議論が展開されております。 日本スポーツマネジメント学会で対応する現象の多様化ということで、今後も時代に寄り添って、 様々な社会的課題に資する研究が、今後 10 年の間に蓄積していくと非常に素晴らしいのではない かと考える次第です。 今日、明日と 2 日間長い学会にはなりますが、皆様の積極的なご参加を期待して、何かこういう Business to Business・Business to Customer の中から、新しい知見が生まれ、非常にいい縁、ネットワー クが生まれることを祈念しつつ、開会の挨拶とさせていただきます。どうもご清聴ありがとうござ いました。