事故・災害に起因する原子炉規制案に対する近大原研の対応 - 今後の原子炉管理に役立つことを祈って -
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(2) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 1.はじめに. のであり、施設本来の活動を制約し、ひいては施設. 人間は過去の経験に学び、未来を切り開いてゆく. の存続そのものを危うくしてしまうおそれのある場. 能力を持っている。人類がさまざまな困難な状況を. 合さえある。. 乗り越えて生き延び、今日の文明を形成したのは、. 規制は全国一律に実施されるものであるが、原子. その能力を発揮して来たからであって、これからも、. 力施設の場合、施設ごとに規模、性格は異なり、規. あらゆる面でその能力を研ぎ澄ましてより良い世界. 制の実効性と規制によって受ける影響の程度は施設. を構築してゆかなければならない。. ごとに異なる。ただし、施設の数はそれほど多くな. 原子力施設に直接関連するものであれば勿論、直. い。したがって、規制当局は規制を見直し、その結. 接関連しないものであっても、事故や災害が起こっ. 果として新たな規制を導入しようとする場合には、. た際に、その事故や災害が起こった原因と影響を精. 規制を受ける側の意見を個々によく聴くことが望ま. 査し、そこから汲み取れる教訓を将来の安全に生か. しい。当局は導入しようとしている規制の目的と内. して行こうとすることは、原子力に携わる者にとっ. 容を十分に説明し、施設側は当局の意図を十分に理. て常に大切なことである。事故に至らなくても施設. 解したうえで、導入されようとする規制について自. で生じた大小さまざまなトラブルの事象を集積・共. 由に意見を申し述べることが大切である。しかしな. 有し、それを次の安全保持活動のために役立てる努. がら、そうした当局と施設側の対話が成立すること. 力も必要で、原子力分野においてもすでにさまざま. は必ずしも多くはない。当局がパブリックコメント. な活動がなされている。. を求める場合も、方針はかなり固まってしまってい. 事故や災害を契機に施設に対する規制が強化され. て、寄せられる意見が生かされることは少ない。. ることが往々にしてある。規制強化の措置は法令の. 以下に記述するのは、規制当局と規制を受ける側. 改正をもって行われることもあれば、行政指導とし. の対話が成立した稀有な事例である。. て行われることもある。規制当局は国民の生命・財 産を守る責任があり、その責任を全うするために、. 2.研究炉の運転責任者に対する資格制度の導入. 懸念される事項があればそれに果敢に対応すること. 1979 年 3 月 28 日の未明、アメリカ、ペンシルベ. が常に求められている。したがって、同様の事故や. ニア州のスリーマイルアイランド原子力発電所の 2. 災害が起こらないように、規制のあり方を見直し、. 号炉で世界中を震撼させる事故が起こった。この事. 必要なら規制を強化しようと考えるのは当然のこと. 故(TMI事故)は、本来は開けておかなければな. である。. らない弁が閉じられたまま運転されていたといった. しかしながら、真に実効性のある規制の体系を構. 施設管理上の問題に加えて、突発した異常事態の中. 築することはなかなか難しいことである。同様の事. で、運転員が原子炉施設の状態を正しく把握するこ. 故・災害が起こらないようにするための規制の見直. とができず、誤った操作をしてしまったために、事. しの場合、規制当局は目的をその一点に絞り、規制. 故を収束させるどころか拡大させてしまったという. 措置の実施を急ぐことが多い。その結果、導入しよ. ものであった。事故の教訓として、特に、人的要因. うとしている規制が、規制を受ける側にどのような. (ヒューマンファクタ)の重要性が指摘され原子炉. 影響を及ぼすかの配慮が欠けるきらいがある。関係. 運転員の知識・技能の向上が図られることになった。. 者から見て、導入しようとしている規制が過剰反応. TMI事故後、わが国では、実用発電用原子炉の. ではないかと思われる場合がある。良かれと思って. 運転責任者については通商産業大臣が指定する者の. する規制が、対象とする施設によっては無意味なも. 認定を受けた者をあてることになった。そうした規. - 14 -.
(3) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. 制の方向から、いずれ試験研究用及び研究開発用原. 現実の問題として、国家試験的なものを受験してま. 子炉(研究炉等)についても何らかの動きがあるも. で運転責任者になって原子炉を利用しようという研. のと予測されていた。1984 年 6 月になって科学技. 究者はほとんど居なくなってしまうであろうと危惧. 術庁原子力安全局原子炉規制課長から近畿大学原子. された。そこで、資格制度の導入には反対という立. 力研究所長あてに資料 1 − 1 に示すような調査依. 場で回答書を作成することにした。しかしながら、. 頼があった。. 近畿大学の特性からということではなく、より一般. この調査依頼について、当時の原子炉主任技術者・. 的立場から研究炉等に資格制度は馴染まないという. 管理室長から原子炉管理班長をしていた筆者に検討. ことで論理を展開した。論点は次の二つである。. 依頼があった。そこで、資料 1 − 2 に示すような. 1.多様な研究炉等の運転責任者に画一的な基準. 回答書を作成し、原子炉主任技術者・管理室長の了 解を得て所長名で原子炉規制課長に提出した。. での試験、認定制度は馴染まない。 2.各事業所の特殊性を考慮しなければならない. 調査の骨子は、研究炉等の運転責任者に対して資. 事項は、安全性の面でも各事業所に任せたほう. 格制度を導入することについての意見聴取で、実用. が実効があがる場合がある。本件はまさにそう. 発電用原子炉においてと同様に研究炉等において. した事項に相当する。. も、運転責任者は大臣が告示で定めるところにより. おそらく、調査依頼を受けた他の研究炉等からも. 指定する者の認定を受けた者としたいとの監督官庁. 同様に否定的ないし消極的な回答があったものと考. の意向が読み取れるものであった。. えられ、研究炉等の運転責任者に対する資格制度の. 近畿大学原子炉の場合、運転責任者は、原子炉を. 導入は見送られて今日に至っている。. 運転・利用する上で必要な基本的な知識・技能と異. TMI事故後、近畿大学原子力研究所では、運転. 常事態における対処方法を修得していればよく、必. 責任者と補助運転者(運転責任者を補佐して運転を. ずしも原子炉のことを隅々まで把握した原子炉の専. 行う者)の認定のための教育・訓練を一層充実させ、. 門家である必要はないことにしている。原子炉を利. 運転責任者と補助運転者の役割をより明確にした。. 用した研究を常に革新的に、効率よく推進するため. また、その後も運転記録の記載方法を数次にわたり. には、多様な分野の研究者が運転責任者になれるよ. 改善するなど、より安全な運転を志向する努力を継. うにしておいた方がよいという面がある。運転責任. 続しつつ今日に至っている。. 者はそのような性格の者であっても、運転には常に 原子炉の運転に習熟した者が付き添い、さらに、制. 3.航空機からの原子炉施設視認用の灯火の設置. 御室の近傍には日頃から原子炉の保守点検に携わ. 1988 年 6 月 25 日午前 10 時 10 分頃、岩国基地か. り、原子炉の安全についての充分な知識・技能を持. ら沖縄の普天間基地に向かっていた米軍ヘリコプタ. つ管理室員が控えているので異常事態にも直ちに対. −が四国電力(株)伊方原子力発電所付近に墜落し、. 応できる体制が取られていて、安全上の問題はない。. 乗員 7 名全員が死亡するという事故が起きた。当時、. ただし、このような考え方で原子炉の運転管理を行. 昼間だったが濃霧のため視界が悪く、低空飛行をし. うことができるのは、近畿大学炉が極めて安全性の. ていて誤って山に衝突した可能性が高いと見られて. 高い極低出力炉であるからであって、中規模以上の. いる。. 炉にこうした考え方を適用することは難しい。. この事故を契機に、それまでもときどき議論され. 上述の近畿大学原子炉の性格に照らして、運転責. ることのあった原子炉施設への航空機の墜落の可能. 任者に対する資格制度の導入は相容れないもので、. 性を低くするための灯火の設置が本格的に検討され. - 15 -.
(4) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. るようになった。電力各社においては、共通研究と. 病院等の公共施設、電気、水道等のライフライン及. して実施した技術的な検討結果に基づき、各原子力. び鉄道、高速道路等の交通施設の耐震性が見直され. 発電所にかなり大規模な灯火設備を設置する方向で. ることとなった。同時に、原子力施設の耐震性にも. 事態が進行していた。. 改めて目が向けられることになり、各施設及び規制. そうした情勢の中で、1990 年 5 月、原子炉規制. 当局において検討が開始され、さまざまな対策が採. 課から資料 2 − 1 に示すような調査依頼があった。. られることになった。. その骨子は、研究炉にも航空機から容易に視認でき. そのような情勢の中で、その年の 10 月、原子炉. るようなかなり強力な灯火を設置する方向での検討. 規制課の担当官から、近畿大学原子炉の地震につ. を依頼するものであった。灯火設備の設置及び維持. いてのスクラム条件を 100 ガルから 25 ガルにする. 管理にはかなり多額の経費がかかること、近畿大学. 方向で検討してほしいとの依頼を受けた。その理由. 原子炉の周辺環境から勘案して強力な灯火の点灯は. は、他の研究炉のスクラム条件に比べて 100 ガルが. 光公害を発生させる可能性が高いことから、灯火の. 目立って大きく、説明がしにくい、他の研究炉のス. 設置はそのプラス面よりもマイナス面が大きいと判. クラム条件とレベルを揃えるとすれば 25 ガルが妥. 断された。そこで、資料 2 − 2 に示すような回答. 当な値とのことであった。. 書を作成し、原子炉主任技術者名で提出した。. 近畿大学原子炉に設置されている地震計は、単純. この回答書の場合は、近畿大学炉とその周辺環境. で壊れにくい構造のもので、振動を与えた時の動作. の特徴を前面に出して論理を展開した。. の仕方を目視で確認できるため地震計としての作動. 主要な論点は次の四つである。. 機構を説明しやすく、教育的価値の高いものである。. 1.人工稠密地域への灯火の設置は周辺環境に与. その代わり、作動条件を変えるといった柔軟性はな. える影響が大きく、施設の存続そのものを危う. い。スクラム条件を変えるためには地震計を別のも. くするおそれがある。. のに交換しなければならない。ところが、作動条件. 2.灯火の設置は財政上極めて困難。. が可変の最近の地震計はブラックボックス化してい. 3.灯火の設置は、あたかも、過度に危険な施設. て、そうした機器への変更は教育的価値を大幅に削. がそこに存在しているかのような印象を、四六. ぐことになる。そもそも、スクラム条件を変更しな. 時中周辺に対して与え続けることになる。. ければならない積極的理由が見当たらない。. 4.灯火の設置によって、万一の場合に施設への. そこで、資料 3 に示すような回答書を作成し、原. 墜落が避けられたとしても、結果として別の地. 子炉主任技術者名で提出した。この回答書の場合は、. 域で人的、物的被害が生じたとすれば灯火の設. 近畿大学炉と使用中の地震計のもつ特徴を説明し、. 置そのものが批判の対象となる。. その教育的価値を強調する論理を展開した。規制当. おそらく、他の研究炉からも設置に消極的ないし. 局の理解が得られたものと考えられ、地震計の作動. 否定的な回答があったものと考えられ、航空機から. 条件についての再度の検討依頼はなく今日に至って. の視認を目的とした灯火の設置は研究炉には義務付. いる。. けられることなく今日に至っている。. 阪神・淡路大震災の後、近畿大学原子力研究所で は、施設・設備の健全性の点検を実施した。また、. 4.地震に係るスクラム作動条件の変更. 震度4以上の地震が発生した場合の点検マニュアル. 1995 年 1 月 17 日 5 時 46 分、阪神・淡路大震災. を整備し、定期的に建屋の耐震診断を行うなどの地. が発生、これを契機に、住宅の耐震性は勿論、学校、. 震対策を実施し、さらに一般的な高経年化対策を講. - 16 -.
(5) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. ずることにより施設・設備の健全性の確保に努めて. 和の追求と安全の確保は永遠で必須の課題である。. いる。. 原子力施設の運用に携わる者は、施設の管理を的確 に行い、それが市民にも規制当局にも理解されるよ 5.おわりに. うにさまざまな機会を捉えて発信することが大切で. 規制当局がある意図をもって施設側に検討を依頼. ある。また、その施設を、誰が、どのような目的で、. し、施設側がその意図を受け入れがたいとの立場で. また、どのような方法で運用・活用しているかが常. 回答し、その回答を規制当局が理解して当初の計画. に外部から見えるようにしておくことも極めて重要. を撤回した事例を三つあげた。このようなことは極. である。原子力の安全確保もその発展も、一人ひと. めて珍しいことで、筆者の長い研究炉管理の経験の. りの市民が構成する社会の理解があってはじめて達. 中で指を折って数えられる程度の数しかない。多く. 成されるものであると考える。. の場合、施設側が受け入れがたいという趣旨の回答 をしても、一定の方針の下に規制は実施される。規 制当局に、規制される側の見解を認めてもらうのは 容易なことではない。 規制する側と規制される側が良い緊張関係を保っ て原子力安全を希求してゆくためには両者の対話が 欠かせない。良好な対話が成立するためにはいくつ かの条件が整っていなければならない。対話には双 方がお互いの立場を尊重する態度が求められる。 規制を受ける側は、日頃から法令を遵守すること は勿論、自ら構築した指針に基づき必要かつ十分な 安全管理を行い、その事実を常に自信をもって説明 できるようにしておかなければならない。さらに、 さまざまな分野で起こる事故、トラブル、災害等の 情報を分析し、そこから得られる教訓を自らの施設 に生かせる場合は、規制当局からの指示を待つまで もなく、安全管理の改善に役立てるべきである。規 制当局からの検討依頼に対しては、その意図を十分 理解した上で、率直に意見を開示するのがよい。規 制する側には、個々の施設の特徴を把握し、その施 設がどのような考え方で管理されているかを理解し たうえでの指導・監督が期待される。さらに、上述 の例に見られるように、施設側からの声を聴いて一 旦意図した規制方針を撤回するといった柔軟性も持 つべきである。 市民の原子力に注ぐ目は依然として厳しいものが ある。原子力基本法がその基本方針に掲げている平. - 17 -.
(6) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 資料 1 − 1 運転体制についての調査(依頼)(1984). 昭和59年6月25日 近畿大学原子力研究所長 殿 科学技術庁原子力安全局 原子炉規制課長. 運転体制に係る調査について. 拝啓 時下益々御清祥のこととお慶び申し上げます。 さて、当庁におきましては、現在 試験研究用及び研究開発用原子炉の運転体制の充実、運転 責任者の資格制度(別紙1参照)に関し、検討を行っているところであります。 つきましては、上記検討に資するため、各事業所の状況について調査を行いたく、御協力方よ ろしくお願いいたします。 調査内容は、別紙2のとおりとし、昭和59年7月15日までに御回答下さいますようお願い いたします。 なお、記載にあたっては、別紙3の記載例を参考にしていただければ幸いです。 敬 具. 別紙1. 運転責任者の資格制度について. TMI事故の経験に鑑み、実用原子力発電所では、「わが国の安全確保対策に反映させるべき事 項」(昭和56年7月23日原子力安全委員会決定)において、運転員に係る事項として「運転員 の長期養成計画」及び「運転員の誤操作防止対策」の検討が為されたところであります。 また、その後においても原電敦賀事故、アルゼンチンの臨界実験装置(RA−2)における人 身事故の発生があり、研究炉等においてもこれらの経験を踏まえて運転員の資質については、設 置者の努力等により、その向上、確保が図られてきております。 しかしながら、運転員の資質確保については、設置者の自主的な努力によるほか、国がこれら 制度を設け責任体制の確保を確実なものにしておくことが、原子炉の安全確保上必要との強い意 見が出されているところでもあります。 このため、当庁においては、研究炉等においても、実用発電用原子炉で定めているのと同程度 の内容の運転責任者の資格制度に係る検討を進めてまいりたいと考えています。. (注)実用発電用原子炉における運転責任者についての定めについて 実用発電用原子炉における運転責任者については、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する 規則」の一部改正(昭和55年12月25日付一部改正、昭和57年6月1日施行)を行い、同. - 18 -.
(7) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. 規則第12条第1項第3号に所要の定めがあります。. 実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(抜粋). (原子炉の運転) 第12条 法35条第1項の規定により、原子炉設置者は、次の各号に掲げる原子炉の運転に関 する措置を講じなければならない。 ⑴ 原子炉の運転に必要な知識を有する者に運転を行わせること。 ⑵ 原子炉の運転に必要な構成人員がそろっているときでなければ運転を行わせないこと。 ⑶ 前号の構成人員のうち運転責任者は、通商産業大臣が告示で定めるところにより指定する者 の認定を受けた者とすること。. 別紙2(省略) 別紙3(省略). - 19 -.
(8) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 資料 1 − 2 運転体制についての調査(回答)(1984). 昭和59年7月13日 科学技術庁原子力安全局 原子炉規制課長 殿 近畿大学原子力研究所長. 運転体制に係る調査について(回答). 昭和59年6月25日付で御依頼のありました標記の件につきまして下記のように回答いたしま す。. 1.組織・人員(事業所の原子炉の運転に関する組織・人員についての詳細) ⑴ 近畿大学原子力研究所原子炉施設の保安に関する組織を図1(別紙1) 〔保安規定図1を掲載〕 に示す。 原子炉の運転は、上記保安に関する組織の支援を受けて、「運転責任者」1名および「補 助運転者」1名以上によって行われる。運転責任者および補助運転者は、「保安規定」およ び「原子炉運転者に関する規定(別紙2)」にもとづき、運転要員(資格認定または承認を 受けた者)の内から、運転のつど、管理室長が指名する。 運転責任者と補助運転者を「運転者」という。運転者の大部分は大学の教員(教授、助教授、 講師、助手)であって、原子炉の運転が主たる職務のいわゆる運転員ではない。また、図1 に示される保安に関する組織のメンバ−が運転者になることもある。 ⑵ 近畿大学原子力研究所所員総数:15名(所長1、副所長1、原子炉主任技術者・管理室長1、 管理室員8、その他4) ⑶ 原子炉施設の保安に係る人員:9人(原子炉主任技術者・管理室長1、管理室員8) ⑷ 原子炉の運転を直接行う人員(運転要員総数) イ) 運転責任者の資格認定を受けた者(運転責任者または補助運転者になる資格を有する) : 所員10名、その他7名 ロ) 運転補助者の資格認定を受けた者(補助運転者になる資格を有する):所員0名、その 他40名(原子炉の運転に関する訓練を受けた近畿大学理工学部原子炉工学科4年生2 名をもって補助運転者1名分に充当することができることとされているが、その者の数 を含む). 2.勤務体制(事業所の勤務体制についての詳細) 原子炉の運転は日勤のみで行うこととしており、制御室にあって直接運転を行う者の1つの単位 構成は次のとおりである。 運転責任者1名、補助運転者1名以上、合計2名以上 ただし、原子炉運転中は常時図1に示される原子炉施設の保安に関する組織が機能しており、各. - 20 -.
(9) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. 組織構成員は保安規定に定めるところにしたがって直接的または間接的に原子炉の運転を支援して いる。. 3.職務内容(事業所の組織の職務内容についての詳細) 図1に示される組織の職務内容は保安規定により次のように定められている。〔保安規定第6条 (職務)及び第10条(原子炉主任技術者の職務)を抜粋・掲載〕. 4.資格要件等の定め ⑴ 事業所における原子炉の運転に携る者の資格用件(登用の条件)等についての定め(内規等) の有無・・・有 名称:原子炉運転者に関する規定(別紙2) 原子炉運転責任者資格認定に関する規定(別紙3) 原子炉運転責任者に対する教育訓練のカリキュラム(別紙4). ⑵ 定めのある場合にはその内容 イ) 原子炉運転責任者 申請のあった者に対して次の項目について、各々定められた時間以上教育・訓練を実施 し、原子炉に関する充分な知識と能力を有すると判断した者について管理室長が認定する。 (別途、年度毎に当該年度の運転責任者の登録を管理室長が承認する)〔項目と時間数を示 す表を添付〕 ロ) 原子炉運転補助者 年度毎に、申請のあった者に対して保安教育を実施し、原子炉に関する知識と能力を有 すると判断した者について管理室長が承認する。. ⑶ 現在、運転を担当している人員の実際の経歴(概略) 〔原子炉運転責任者17名について、入所歴、運転歴及び研究歴を年数で示し、学歴を加え た表を添付〕. ⑷ 原子炉主任技術者の職名及び経歴(概略) 〔入所歴、運転歴及び研究歴を年数で示し、学歴及び資格取得年を加えた表を添付〕. 5.事業所における運転責任者 ⑴ 運転責任者(運転実務を行う組織またはグル−プの責任者、班制度の場合の班長クラス)に 該当する職責者の職務名・・・運転責任者. ⑵ 運転を適切に行ってゆくための所要運転責任者数(若干の余裕人数を含めて可) 近畿大学原子炉の場合、各研究室または原子炉を利用する研究グル−プ(共同利用を含む). - 21 -.
(10) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 内に運転責任者の資格認定を受けたものが1名または複数名いる場合が多い。原子炉の利用 の形態として1研究室または1研究グル−プが1日のマシンタイムを専有するのが通例なの で、当該研究室または研究グル−プの内からその日の運転責任者を推薦し、その者を管理室 長が運転責任者として指名することが多い。したがって、運転を適切に行ってゆくための所 要運転者数は研究室または研究グル−プの数にも依存し、運転を行うことを目的として作ら れた、いわゆる「運転班」の班長、有資格者の数と同じように考えることはできない。. ⑶ 資格制度を設けた場合の所要有資格者数(試験制度とする場合の受験者予想人数) 資格制 度の導入に反対であり、受験者数等を予測することはできない。. 6.運転責任者の資格制度導入に関する意見(運転責任者に対して国家資格等の資格制度を導入す ることに関し、事業所の忌憚のない意見をお聞かせ下さい) ⑴ 制度導入についての賛否およびその理由 賛否:国家機関等が画一的な試験を行い、その成績によって資格の認定を行おうとする制度 であれば導入に反対。さらに、指定認定機関等を設けてこれが実施する研修等の結果 にもとづき認定する制度にも反対である。. 理由:試験研究の用に供する原子炉等には、動力炉の原型炉、材料試験炉、パルス炉、汎用 型研究炉、極低出力研究・教育訓練用炉、臨界集合体と多種多様なものが存在する。 これらの原子炉を安全に運転するための知識・技能は炉毎に異なったものであって、 共通する事項はそれほど多くはない。 資格認定の手段を試験の成績に求めることとした場合において、試験の範囲を上記 のすべての炉に共通する事項に限ることにすれば、不十分な審査により認定すること になり、他方、すべての炉の安全確保のための知識・技能を網羅的に試験の範囲とす ることにすれば、特定の炉のみの運転責任者を志す圧倒的多数の者に不当な義務を課 すことになる。 運転責任者とは特定の原子炉について、これを安全・有効に運転するための必要に して充分な知識を有する者であるべきであるという立場に立てば、その資格認定のた めの要件、すなわち、知識、技能、資質等のレベル、内容は炉毎に異なり、画一的な 審査基準は具体的に設定しにくいと考えられる。 原子炉等規制法は、法の制定目的を達成するために必要な事項であっても各事業所 の特殊性を考慮しなければならない事項については法令によって一律にこれを規制す ることをせず、各事業所の保安規定に規定・遵守させ、または、これを原子炉主任技 術者の裁量に委ねることにしている。このことは「そうせざるをえない」からではな く、そうすることがより高度の安全性確保の方策であるとの積極的な意味をもって採 用されたシステムであると考察される。各原子炉の運転責任者の認定はまさにそうし た各事業所毎の特殊性を考慮しなければならない事項のひとつである。. - 22 -.
(11) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. これまで、我が国の試験研究の用に供する原子炉等を設置している各事業所におい ては、運転責任者の資格認定の方法を保安規定またはこれに準ずる内規に規定し、原 子炉主任技術者の監督の下にこれを的確に運用し、安全確保の実効をあげて来ている ので、この基本的原則を変更すべきではないと考える。. ⑵ 制度運用に当っての意見要望 「運転責任者資格の認定は各事業所の主体性に委ねる」との基本的原則に立脚したとして も、制度および運用の改善、認定方法のある程度の斉一化の方策は考えられる。 例えば、原子力安全委員会が「原子炉運転責任者の資格認定の指針」といったものを作成し、 この指針にもとづき、各事業所の体制が整備されるよう監督官庁が指導監督を行うことは可 能であると考えられる。. ⑶ その他 運転責任者資格の認定は各事業所の主体性に委ねるとしても、監督官庁が各事業所におけ る現状を把握しておく必要があるとのことであれば、認定または認定取り消しのつど、各事 業所がその旨を届け出るようにすることは差し支えない。. 別紙1−4、その他添付書類(省略). - 23 -.
(12) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 資料 2 − 1 航空機から視認用灯火の研究炉等への設置について(検討依頼)(1990) . 原子力施設における灯火の設置について(検討依頼). 平成2年5月10日. 科学技術庁原子炉規制課 . 1. 経緯 ⑴ 昭和 63 年6月、米軍ヘリコプタ−が四国電力(株)伊方発電所付近に墜落 ⑵ このため、航空機から原子力発電所を容易に視認できるための補助的手段として、原子力発電 所に特有の灯火の設置について電力各社が共通研究として実施。本年3月に検討を終了。. 2. 電力各社の検討結果 照明関係の専門家による検討会、伊方発電所での試験、電中研での霧室での実験の結果、灯火を設 置することの有効性が確認された。. 3. 設置に要するコスト 詳細な検討は行っていないが、仮に上記の検討による灯火を設置するとした場合、初期投資約 3500 万円、年間の運用コスト約 3-400 万円程度が必要になると考えられる。. 4. 今後の見通し ⑴ 原子力施設上空の航空機の飛行については、施設付近上空の飛行をできる限り避けさせるため に、施設の場所等を航空路誌 (AIP : Aeronautical Information Publication) に掲載し、航空関係 者に周知させている。 (具体的には、原子力安全委員会に安全審査を諮問しなければならない施設、 すなわち、加工、動力炉、研究炉、臨界実験装置、再処理施設等が掲載されている。) ⑵ 今般検討されている原子力施設への灯火の設置は、原子力施設の位置を周知する方法として、 AIP による周知を補足し、原子力施設上空の飛行規制に従い、操縦士がより十分な余裕を持って 確実に施設上空の飛行を回避するための補助的手段としてとらえるべきものと考え、現在、灯火 設置についての法的義務づけはない。 ⑶ しかしながら、63 年6月の米軍機墜落事故を契機に、電力各社は原子力発電所に灯火を設置す ることが望ましいと考えており、今般の研究結果を踏まえ、今後順次各施設に灯火を設置するこ とを予定している。 ⑷ 原子力発電所に灯火が設置されることとなった場合、昨今の原子力を巡る諸情勢にかんがみれ ば、原子力発電所以外の他の原子力施設においても、原子力発電所にならい何らかの措置を講ず べきであるという議論が今後起こってくることが十分予想されるため、原子力発電所以外の原子 力施設においても、今後原子力発電所と同様、灯火を設置する等により、航空機操縦士が施設の. - 24 -.
(13) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. 所在を容易に周知できるような措置を講じることを求められる可能性が強い。(現在、運輸省航 空局からも、航空機操縦士に施設の所在を容易に周知させる観点から、各原子力施設に灯火を設 置できないかとの非公式な打診がきている。). 5. 検討事項 以上のような現況にかんがみ、当課としては、今後本件に関し、原子力発電所以外の原子力施設に ついても灯火設置が必要か否かについての検討を進めていきたいと考えています。つきましては、今 後の検討の際の参考とするため、以下の諸点について貴施設の現状等を踏まえ、検討をしていただき、 検討結果を御多忙中恐縮ながら5月末日までに当課あて提出下さるようお願いします。. 検討項目 ① 施設に灯火を設置することについての地元からの要望の有無 ② 原子力発電所が設置を検討しているものと同程度の灯火の設置を行うことの可能性 ③ ②が不可能な場合、その理由及び他の考えられる代替手段 ④ その他本件に対する問題点等. - 25 -.
(14) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 資料 2 − 2 航空機から視認用灯火の研究炉等への設置について(回答)(1990). 平成2年5月30日 科学技術庁原子力安全局 原子炉規制課 御中 近畿大学原子力研究所 近畿大学原子炉主任技術者. 原子力施設における灯火の設置について(回答). 拝復 平素は、近畿大学原子炉施設の安全管理について種々ご高配を賜り、深く感謝致しており ます。 さて、5月10日付けの文書で検討依頼のありました標記の件について、下記のとおり回答させ て頂きます。当施設及びその周辺環境の事情を十分ご賢察頂き、適切なご配慮を賜るようお願い申 し上げます。 . 敬 具. 記. ① 施設に灯火を設置することについての地元からの要望の有無・・・無し. ② 原子力発電所が設置を検討しているものと同程度の灯火の設置を行うことの可能性 ・・・無し. ③ ②が不可能な場合、その理由及び他の考えられる代替手段・・・ ⑴ 設置すべき積極的理由が認められない 近畿大学原子炉は出力1Wの教育・研究用原子炉で、平日は、通常朝9時から夕方5時まで 運転を行っている。原子炉は、一定加速度以上の機械的振動、電源喪失等により直ちに緊急停 止する機構を備えており、運転中に航空機が炉本体の至近距離に墜落した場合は、炉心構造物 が損傷を受ける前に連鎖反応が停止する。また、炉本体を直撃するように墜落した場合は、炉 心構造物の変形、減速材の喪失等により停止する。 炉心に内蔵する放射能は、8時間連続運転の直後、運転停止1時間後および運転停止 16 時 間後において、それぞれ 3.7 × 1011Bq(10Ci)、3.0 × 1010Bq(0.8Ci) および 3.7 × 109Bq(0.1Ci) と 見積もられる。これらは、一般の RI 施設の放射性同位元素の貯蔵量またはそれ以下であって、 万万一の航空機の墜落の際にも、施設周辺に放射性物質が飛散することにより甚大な災害を引 き起こすとは考えられない。 したがって、⑵以下に記述する種々の問題を残しながら、現時点で灯火を設置すべき積極的 な意味・理由が認められない。 . - 26 -.
(15) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. ⑵ 灯火の設置が周辺環境に影響を及ぼすおそれがある 近畿大学原子炉の周辺は人口の稠密な住宅・商業地域であって、最近は高層の集合住宅も増 えて来つつある。このような周辺環境を有する場所に、現在検討が進められているような灯火 を設置すれば、昼夜を問わず、雲の量、高さ、霧、雨等、種々の気象条件に応じて、周辺環境 にさまざまな影響を及ぼすおそれがあると考えられる。 それらの影響に対する住民の反応は多様であろうが、日頃原子力施設の存在そのものに心理 的緊張感を強いられている住民にとっては耐えがたいものとなることが予見される。そうした 住民の反応は、総体的には、原子炉施設の存続自体を否定し、その閉鎖を求める方向に作用す ることが十分に予測される。. ⑶ 灯火の設置は財政上極めて困難であると考えられる 灯火の設置に伴う初期投資およびその後の運用コストは、設置者に対し、多大の財政上の負 担を強いることになる。このような、施設の安全と直接関係のない経費の膨張は、一般論として、 設置者に原子炉施設の維持・存続に対する意欲を失わせることになる可能性がある。. ④ その他本件に対する問題点等・・・ ⑴ 灯火の設置は、原子炉施設の存在を地域の中で不必要に際立たせることになり、あたかも、 過度に危険な施設がそこに存在しているかのような印象を、四六時中周辺に対して与え続ける ことになる。原子力に対する国民の正しい理解が得られるよう、各方面で努力がなされている ときに、灯火の設置は、それにもとることになるのではないかと危惧される。. ⑵ 灯火の設置によって、万一の場合に原子炉施設に対する墜落が避けられたとしても、それに 隣接する区域の住宅密集地帯、病院、保育所、学校、鉄道等に航空機が墜落し、結果的に大き な災害を引き起こしたとすれば、原子炉施設のみに多大の投資をして墜落防止の措置をしてい たという原子炉設置者及び規制当局の姿勢に対する批判が生じることが考えられる。そうした 批判に耐えられる論理が展開できるか疑問である。. ⑶ 首都圏、近畿圏等、我が国の広域的に市街化した地域において、航空機の墜落に対して安全 な場所などどこにも存在しない。地上には、墜落を避けなければならない施設・区域が密集し つつ拡散していると言っても過言でない。空中においても航空機の過密化は進みつつある。他 の航空機との衝突の防止、高層の建造物との衝突の防止等従来からの注意義務に加えて、特定 の地点の上空は、これを必ず避けて通過しなければならないという厳しい飛行条件を課すこと は、操縦士に対して、さらに過大な負担を強いることになる。したがって、市街地においては、 他の条件をそのままに、施設上空飛行禁止の規制のみを強化することは、結果的に航空機と地 上の安全を逆に損なうおそれがあると考えられる。. - 27 -.
(16) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. 資料 3 地震に係るスクラム作動条件について(変更検討依頼に対する回答)(1995). 平成7年10月20日 科学技術庁原子力安全局 原子炉規制課 担当官殿 近畿大学原子力研究所 近畿大学原子炉原子炉主任技術者 拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。 平素は近畿大学原子炉について種々ご高配を賜り深く感謝致しております。 さて、このほど、近畿大学原子炉のスクラム作動条件(保安規定21条関係)のうち、地震につ いての条件を「100ガル以上」から「25ガル以上」に変更できないか、また、新たに縦揺れ用 の地震計を設置し、そのスクラム作動条件を「25ガル以上」に設定できないか検討するようにと のご指示をいただきました。この件について、下記のように当方の見解をまとめさせていただきま した。ご理解くださるようお願い申し上げます。 敬 具 記 1.近畿大学原子炉の特徴 大学に設置された研究及び教育訓練用原子炉である。研究面では、本学教員のみならず全国の大 学等の研究者の理工、農、薬、医学的基礎研究に活用されている。教育面では、本学理工学部・薬 学部学生及び大阪大学、神戸商船大学、名古屋大学、九州大学等他大学の学生の原子炉運転実習及 び実験に、また、中学・高校教員のための原子炉実験・研修に活用されている。国内の他の研究用 原子炉と比較して、教育面での利用の比重が高い。 最大出力1Wの極低出力炉で、冷却系統施設及び冷却材を持たない。燃料タンク内には燃料要素 と軽水が入っているが、この軽水は減速材としての役割をはたしている。原子炉を最大出力で何 時間運転しても、そのことによって燃料要素及び減速材の温度が変化することはない。燃料要素及 び減速材の温度は、原子炉の運転の有無にかかわらず、原子炉室の気温にほぼ等しく、10℃から 30℃の間にある。燃料タンクが損傷を受け、減速材が失われると反応度が低下し、制御棒の挿入 の有無にかかわらず原子炉は未臨界となる。 最大過剰反応度が0.5%Δk/k以下に制限されていて、制御棒の機能がすべて喪失しても即 発臨界になることはない。 極低出力炉であるところから、内蔵する放射性物質の量は原子炉としては極めて小さい。長時間 の運転継続後であってもその量は数百GBqを超えない。. 2.保安規定でスクラム作動条件が100ガルと定められている根拠 原子炉設置変更許可申請書(昭和48年5月1日)添付書類10.1.3.5、地震の項は次のよ うに記載されている。 「本原子炉本体は、日本建築基準法に従って、地震の際生ずる水平および垂直荷重に耐えるよう. - 28 -.
(17) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. に設計されており、安全性を考慮して水平震度300ガル、垂直震度最低限±150ガルにとって 設計されている。原子炉格納施設およびその他の附属施設も、建築基準法に従って耐震構造に設計 されており、水平震度200ガル、垂直震度±200ガル以上の耐震性をもたせてある。なお原子 炉の基礎は、水平震度300ガル、垂直震度±300ガル以上の耐震性をもたせてある。 また人体が感知できる地震に対しては手動でスクラムを行うことができ、スクラムに要する時間 が0.5sec以下であるので、時間的にも十分余裕がある。なお別に加速度型地震計が遮蔽タン クの側壁に設けられてあり、100ガルをこえる地震の際には自動的にスクラムとなるように、ス クラム信号を供給する。」. 3.設置されている地震計の構造と特徴 P5に、原子炉設置変更許可申請書(昭和48年5月1日)添付図第8−3−2図「原子炉断面 図」を示す。地震計は遮蔽タンクの側壁の一部であるジャンクション函に固定されている。P6に、 地震計の写真を示す。地震計本体に水平方向には固定され、垂直方向には自由に動くことの出来る 分銅Aの下向きの針と地震計本体から吊り下げられた分銅Bの上向きの針が通常は一定の圧力で接 していて、一定の大きさ以上の加速度(東西南北・水平面内の方向に依存しない)を受けると慣性 により分銅Bが分銅Aからずれることになり、接点が外れ、信号を発生する。スクラム作動条件は 「100ガル以上」であるが、毎年の校正によると50ガル程度でスクラムすることが確認されて いる。このような構造であるため、スクラム作動条件を任意の値に設定しなおすことは出来ない。 地震計からの信号がスクラム母線に到達した場合、スクラムの動作が始まるように設計されてい て、0.5秒以内に、2本の安全棒と1本のシム安全棒、すなわち計3本の制御棒が下限に達する。 3本のうち1本が挿入されれば原子炉は停止する。 本地震計の特徴は、構造が極めて単純で堅牢、作動状態を目視することが出来、動作原理を理解 しやすいところにある。多くの原子炉施設において、地震計は密閉容器に収納されていて、その内 部を見ることが出来ない。それに対して、近畿大学原子炉では、地震計の作動する様子を見ること が可能である。運転実習を行う学生や研修生には、運転開始前点検時に、その作動する様子を見せ、 原子炉の緊急停止システムへの理解を図ることにしている。多くの機器がブラックボックス化して いる時代にこうした機器の存在は貴重であると考えている。 4.地震計の点検校正等について 1) 自主点検の頻度: ⑴ 毎日の運転開始前点検のなかで、地震計を作動させ、スクラム信号の発生を確認している。 ⑵ 毎月の自主点検のなかで、スクラム信号が発生してから3本の制御棒が下限に到達するま での時間が、いずれも0.5秒以内であることを確認している。 2) 校正の頻度及びその概要: ⑴ 構成の頻度:毎年1回。 ⑵ 校正の概要:①振り子の先端に吊るした鋼球を降り下ろし、地震計の分銅Bに真横から当 て、地震計が作動する降り下ろし角度を読み取る。. - 29 -.
(18) 鶴田:事故・災 害 に 起 因 す る 原 子 炉 規 制 案 に 対 す る 近 大 原 研 の 対 応. ②分銅Bと同じ形状・質量の分銅に上記降り下ろし角度から鋼球を振り下ろ し、分銅に着けた圧電式振動計で加速度を読み取る。 3) 定期検査における検査の概要:上述の校正により、スクラム信号を発する加速度が100 ガル未満であることを確認する。また、スクラム信号発生から3本の制御棒が下限に到達す るまでの時間が、いずれも0.5秒以内であることを確認する。. 5.兵庫県南部地震の際の地震計の作動状況等 平成7年1月17日早朝の地震発生時、原子炉は停止中であった。地震発生時、地震計が作動し、 スクラム信号が母線に到達したことが制御コンソ−ルの表示ランプから確認された。その後の点検 の結果、原子炉施設には異常・損傷の無いことを確認した。 近畿大学原子炉から東に約4kmの、ほぼ同じ地盤条件の場所における観測結果によると、地表 面での最大加速度は、南北方向で152ガル、東西方向で145ガル、上下方向で101ガルであっ た1)。その他、近郊の数地点で観測された震度を勘案して、この地震による近畿大学原子炉におけ る震度は5(強震)(80∼250ガル)であったと考えられる。この程度の地震で、原子炉施設 はなんら損傷を受けず、かつ、地震計が作動し、スクラム信号を発したことは、それまでに予測さ れていたとおりであって、これらのことが実地に検証された意義は大きいと考えている。. 6.現状の地震計を含む緊急停止システムとスクラム作動条件の妥当性について 原子炉施設が損傷を受ける可能性のある地震に対しては自動的にスクラム信号が発生するように しておき、原子炉施設が何らかの損傷を被る前に制御棒の挿入を完了する、という考え方から見て、 現状の近畿大学原子炉の地震に対する緊急停止システム及びスクラム作動条件は、原子炉設置以来 これまで34年間適切・有効であったし、現在もその妥当性を失っていないと判断される。 兵庫県南部地震の際の各地点での上下動の最大加速度と水平動の最大加速度の比は、一部の軟 弱地盤の例を除き、概ね2分の1を下回るとの報告2)があるところから、近畿大学原子炉の場合、 50ガル程度(現実には25ガル程度)を超える上下動の地震に対してはスクラムすることが予測 され、縦揺れ用地震計及びそのスクラム系を新設・付加しなければならない必然性は小さいと判断 される。. 7.スクラム作動条件を25ガルに変更することの問題点 現用の地震計は、信号発生設定値が固定されている型式であるところから、スクラム作動条件を 「25ガル以上」にするためには、地震計を、より感度が高く、信号発生設定値可変型の別の形態 のものに交換しなければならない。その交換により、地震計を「ブラックボックス化」してしまう ことになり、地震を含む緊急停止システムの教育上の効果が大きく損なわれることになる。 近畿大学原子炉の場合、原子炉本体と原子炉格納施設その他の施設は別の基準で設計がなされて いるので、地震計を制御室等に置かず、原子炉本体に固定するという考え方には合理性があると考 えられる。こうした条件の下で、地震計の感度を鋭敏にすると、運転中の地震計(原子炉本体)の 周囲での振動の抑制に注意を払わなければならないことになるが、それは実験上の自由度を損なう. - 30 -.
(19) Vol. 46(2009). 近畿大学原子力研究所年報. ことになりかねない。 近畿大学原子炉の炉心上部は、重さ1∼2トンの何枚かのコンクリ−ト製の上蓋で放射線遮蔽を 行っている。炉心に照射物や放射線検出器を装着する場合、学生や見学者に炉心を見せ、解説する 場合等、クレ−ンを使ってこの上蓋の吊り上げ、吊り下ろし作業を行う必要がある。地震計の感度 を鋭敏にすると、上蓋の吊り上げ、吊り下ろし作業のたびに地震計スクラムが作動したり設定値を シフトさせたりするおそれがある。 一般に、機器の感度を高め、警報設定値を厳しくすると、誤警報が発生しやすくなり、ハ−ド面、 ソフト面双方から機器の信頼性を減少させてしまうことがある。また、機器の維持管理のための労 力と費用が増大する。したがって、不必要に機器の感度を高め、警報設定値を厳しくすることは避 けるべきである。 動力炉の場合、炉の緊急停止は電力供給上の不安定要因となり、大規模な停電への発展のおそれ もある。したがって、不必要なスクラムは出来るだけ避けるべきである。研究炉の場合も、不必要 なスクラムの発生は出来るだけ避けるべきであることに変わりはない。地震に限らず、種々のスク ラム機能の各々の作動条件は、原子炉の運転目的、型、構造、制御システム、出力、温度、内蔵す る放射能、スクラムの及ぼす影響等さまざまな角度から検討し、炉毎に最適な値を導き出すべきも のであって、すべての研究炉に一律な値が適用できると言った性質のものではないと考える。 地震計を性能の異なるものに交換し、新たに垂直成分のスクラム系を付加するためには、機器の 購入費・工事費のみならず、変更の許可、設計及び工事の認可、使用前検査等の手続きと経費が必 要である。設置者は厳しい社会環境と経済状態のなかで原子炉施設の維持管理に日夜努力している。 研究・教育上の卓越した要請がある場合と安全上不可欠な場合を除き、設置者に特別の負担を掛け ることは極力避けたいと考えている。. 8.まとめ 設置変更申請書に記載された耐震についての考え方並びに地震についての緊急停止システム及び スクラム作動条件は、兵庫県南部地震の際の施設の健全性及びシステムの挙動並びにその後に得ら れた知見から見て、妥当なものと考えられる。また、近畿大学原子炉の場合、スクラム作動条件を 25ガルにすることにはいくつかの問題がある。したがって、現状において、地震についての緊急 停止システム及びスクラム作動条件を変更する必要はないと考えられる。 1) 日本建築学会兵庫県南部地震災害調査緊急報告会 (1995.2.10)( 大阪 ) 要旨集p14. 2) 原子力安全委員会、平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会報告書 (1995.9.29). 添付図及び写真(省略). - 31 -.
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