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「夜はやさし」とアメリカン・ドリ-ムの崩壊

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Academic year: 2021

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(1)『夜 は や さ し』 と ア メ リカ ン ・ ドリー ム の 崩 壊. 岡. 本. 紀. 元. (1) F偉 大なるギ ャツ ビィ』rttθ Gπ α″Gα なのりが 出版 され た1925年 か ら ,1931年. 最 終 的 にア メ リカに弓1揚 げて くる迄 の 6年 間 とい うもの, ス コ ッ ト・ フ ィ ッ ツジェラル ド (F.ScOtt Fitzgerald,1894-1940)の 一 家 は,世 界中の何処 に も 安 住 の 地 が無 い か の よ うに,ア メ リカとヨー ロ ッパ との 間 をせ わ しな く往 復 し 続 け た。その間 1000の パー テ ィ と 0の 作品 とい う言葉 で表現 され る様 な乱脈 な 生 活 は,オ 能 の枯 渇 に対す る怯 え,そ れ をま ぎらす ため の 過度 の 飲 酒 ,そ の 一 方 で嫌 応 な しに 襲 う財政 的逼 迫 とい うさま ざまな悪 条件 を彼 に強 い た 。彼 は1920年 の 文壇 デ ビュー 以 来築 い て きた一 流 の 人気作 家 としての地位保 全 と 経 済的条件 の 改善 とい う二つ の 大 きな問題 を解 決す る必要 に迫 られ て い たが. ,. さ しあた り後 者 の要 求 を満 たす こ とが急務 であ った。 そ こで 彼 は大衆 雑 誌 に 凡百 の 短 篇 を次 々 と発表 したわけ であ るが ,真 面 目な長 篇作家 た らん とす る 意気込 み に反 して,『 偉 大 な る ギ ャ ツ ビ ィ』 に 続 くべ き長 篇 は遂 に書 くこ と が 出来 なか った 。年収 は常 に 2万 ドルか ら 3万 ドル に近 か ったが,借 金 の 返 済 と浪 費三 味 の 生 活 の ため に,出 費 が いつ も収 入 を上 まわ り,1931年 に 帰 国 した時 には,無 一文 に近 か った とい う。 彼が 1925年 か ら1932年 迄 の 間 に 発表 した短 篇 の数 は56に も及んだが ,大 半 の 作 品は批評 家 の 読 まな い Fサ タデ ィ ・ イ ヴ ニ ン グ・ ポス ト』 誌 (動 θ助 ノ %rdaν Eυ θ πグ 響. R扇 )に 掲載 され た為 ,彼.

(2) 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊. 6θ. の 評価 は衰 える一 方 で,1925年 以 前 の 状態 に戻 るこ とは 2度 と無か った 。 フ ィ ッツ ジェ ラル ドの 衰 退 と符合 す るか の よ うに,繁 栄 を誇 った20年 代 も 凋 落 の 色 を見せ 始 め ,1929年 の瓦 壊 に至 る。 彼 の 生 活は,不 況 の30年 代 に 入 るやっ まず妻 のゼ ル ダ (Zelda)が 1930年 に精神 障害 の 発作 を起 し,以 後 1934 年 に 回復 の 見込 無 し と診 断 され る迄 ,療 養 所 に 出 入 りす る状 態 を続 け ,娘 の ス コテ ィ (ScOtty)の 養 育 と 自分 自身 の不 節制 ,そ れに よる健康 の 衰 えな ど の 諸 条件 が重 な って,ま さに時代 の 様相 と軌 を一 に した か の よ うな暗 い 日々 が 続 くよ うに な る。 Lθ αttθ γ と称 す る, 自己 の 生 活 記 録 の1932年 か ら33年 に か け て の 部分 には,こ の 頃 の 暗 くや りきれ な い生 活状 態 が 赤裸 々に示 され て い る。 即 ち,「 女 中 との トラ ブ ル (1932年 9月 ・・ ・ 酒量増す 。物事 うま くゆか ず (12月. 0ヘ ミン グウェ イ と喧嘩 (2月 ・・・ 車 の 故障 (5月. )・. )・. )・. ・ 0ノ イ ローゼ 気味 (11月. ・・ 妻 と喧嘩 (1933年 1月. )。. ・ ・病 気 (6月 )。. )・. ・・ 友 人 の 家 で泥酔 (7月. )。. ). ・. ・・ エ ドマ ン ド・ ウ ィル ソン と喧嘩 (3月. 借 家 が 火事 ,母 か ら最初 の 借 金 (8月 1月. )・. )・. ). ・・. ・・ ゼ ル ダ病 状 悪化 ,入 院 (1934年. ・ ・ ゼ ル ダ不 在 の ため 1人 で外 食 (2月. )」. 1)と い っ た 有 様 で あ る。. フ ィ ッツ ジェラ ル ドは ,「 僕 は 時 代 の 崩 壊 の 一 部 だ」 と語 った こ とが あ る が ,こ れ は 自己 の個 人的事 実 が ,社 会 の 歴 史的事 実 につ なが って い るこ とを 意識 して い た こ とを示 す もの であ り,そ の ため ,20年 代 後半 以 降 の作 品には 自己批判 や 自責 ,悔 恨 に満 ちた ものが 多 くな って ゆ く。 F偉 大 な る ギ ャ ツ ビ い ィ』 に於 て示 され た よ うに,ア メ リカ ン・ ドリー ムの 崩壊 をギ ャ ツ ビ ィ と う主 人公一個 人か らア メ リカ人全体 の 歴 史的視 野 に まで高め てみせ た態度 は 影 をひ そめ , 自分 自身 の 乱脈 な生 活 を悔 い,失 われ て しま った青 春 の 思 い 出 や 作家 として の 成功 のめ くるめ く日々へ の 追憶 を,今 は空 しい20年 代 に対 す る郷 愁 と重 ね合せ て ,そ の 中 に沈潜 す る とい う態度 へ と変 って い ったの であ. 1)Lイ ン γ(出 納簿 )は ,現 在複刻 された ものは 出版 されて いな い。 弓1用 文 は筆者が プ リ ンス トン大学 で複写 したフ ィ ッツジェラル ド手書 きの 原稿 ,1932年 ∼1933年 の部分 に よる。.

(3) 岡 本 紀 元. 69. っ た 。 1931年 に 書 か れ た「 ジ ャ ズ 時 代 の こだ ま」ぐ`Echoes of the Jazz Age"). や 1932年 の 「失 われ しわが町 」・ぐ`My Lost City")な どのエ ッセ ィは,い ずれ も,失 われ た時代や ,青 春 の 夢 を育 んだ ニ ュー ヨー クな どの 変 貌 に つ い ての もの であ る と考 え られ る。 彼 の 短 篇 の 中 で も最 も優 れ た もの の ひ とつ と数 え られ る「バ ビ ロ ン再 訪 」ぐ`Babylon Revisited",1930)に 於 て も主 人公 のチ ャー リ ィ 0ウ ェ ィル ズ (Charlie wJes)は. , 3年 前 の 金 と快 楽 に 明け暮 れ. て人 間性 の 真実 を見失 った生 活 を振 り返 り,放 蕩 の 意味一―「 稀 薄 な 空 気 の 中 に 消 え失せ るこ と,有 か ら無 をつ くり出す こ と」 の 意味 を初 め て納得 す る のだが , もはや青 春 を後 に した 自分 としては,過 去 へ の 哀惜 の 中 に生 きるの では な く,現 実 を直視 し,そ の 中 に あ る悲 しみ に堪 えて ゆ くしか な い のだ と い うこ とを悟 るの であ った 。 この よ うに,フ ィ ッツ ジエ ラル ドに とって夢 の 崩壊 あ る い は霧消 は,た と えそれが 20年 代 とい う華や か で空 ろな時代 に求め たア メ リカ人全体 の 夢 の 消 滅 につ なが るのだ として も, まず何 よ りも, 自分 自身 の 人生 を振 り返 って生 じる感慨 又は感 傷 に基 くもの であ ろ う。個 人的感慨 を根底 とした過去 へ の郷 愁 は,崩 壊 を もた ら した精 神 的不毛 の 原 因 を,個 人的領域 の 中 に求 め よ うと す る動 き とな って 表 面化 した と考 え られ るの であ る。 1925年 以来,様 々に構 想 を変 えて書 き継 がれ,書 き改め られ て きた下 書 き を集大成 して,『 偉 大 な る ギ ャ ツ ビ ィ』 発表後 9年 月 に して よ うや く完成 さ れ た 『夜 はや さ し』(■ πttγ お ″ 力θ Stまノ )に 認 め られ る夢 の 崩壊 は,主 人公 の デ ィッ ク・ ダ イヴ ァー (Dick Diver)と い う 1個 の 人間 の 内部 に まず そ の要 因 を認め るこ とが 出来 るの であ る。 ここでは,夢 の 崩壊 が ,主 人公 の 人格 の 崩壊 とほぼ そ の 意味 を同 じうす る。即 ち,デ ィ ックが 作 品 の 中 で倉1造 す る 自 己 を中心 と した世 界 そ の ものが,ひ とつ の 夢 が 実現 され た姿 であ り,そ の世 、 界 の 崩壊 が 夢 の破壊 に つ なが り,同 時 に 中′ 己 的 人物 た るデ ィ ックの破 滅 に つ なが ってゆ くと考 え られ る。 この 物語 の 時 間的範 囲 が 1917年 か ら1930年 迄 の 間 に な って い るこ と,デ ィ ックの崩 壊 の き ざ しが ,作 中では 1925年 とな って.

(4) 7θ. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊. い るこ とな どか ら見 て も,ア メ リカの20年 代 とい う一つ の 時代 に生 きるア メ リカ人全体 の理 想 の 崩 れ ゆ く姿 を,一 人の 人物 が創造 しよ う とす る理 想 的世 界 の 崩壊 ,そ れ も,そ の 人物 自身 の 内面世 界が変 貌す る過程 に凝縮 させ て描 い て い る と見 なす こ とも出来 よ う。 るこ との 多 い作家 であ ったが フ ィ ッツ ジェ ラル ドは 自己 を作 中 に投影 させい. ,. デ ィ ック・ ダ イヴ ァー とい う人物 は, まさに,生 気 を失 な った 自分 自身 を想 定 した作 者 自身 が描 かれた もので あ る こ とは, この作 品か ら 2年 後 の1936年 に. 『エ スクワ ィア』誌 的 励り に連載 されたエ ッセ イ 3部 作 で,あ か らさまに分析 されてい るフ ィッツジェラル ドの失意 と崩壊 の過程 を,デ ィックのそれ と比較 してみ るとよ くわか る。 デ ィ ック崩壊 を招 いた精神的なゆるみは,フ ィ ッツ ジェラル ド自身の それ と同 じく,熱 意 と活力の衰退 に原因が求め られ るわけ であるが,フ ィ ッツジェラル ドは,前 記のエ ッセイの 中で,そ の状態 を,恐 怖や同情 の対象 と自分 自身 との 区別 が守れな くなった, と表現 して い る。 チ ャー ルズ, E・ シェイ ン (Charles E.Shain)は この状7兄について,「 それは. ,. ,詩 の 中で,《 失意》(dejeCtiOn)を 単 なる 喜 びの消失 と呼んでい るのに よ く似て い る。喜 びが,頻 ぱんに使われす ぎた 能力 として, 自分 自身の 中か ら遠 のいてゆ く過程 を,彼 は 『私 自身の天性 か コール リッジ (S.To COleridge)が. 2) ら自然の 人間 らしさがすべ て』 いつの 間にか遠 ざかってゆ くと描写 している」. と解説す るが,人 間か ら「 自然の 人間 らしさ」 が,抜 け落 ちて い った結果. ,. 精神的不毛 と秩序 の崩壊 が起 り,空 虚 な うわべ の きらびやか さとい う表皮 の み を残 して,理 想に託 した夢 が滅びて しまったのだ, とフ ィ ッツジェラル ド が 言 いたか った とすれば,デ ィック・ ダイヴァーの崩壊は,ア メ リカ人全体 の 国民的な理想にかかわるアメ リカ ン・ ドリームの喪失 に通ず るものだ とは言 えないだろ うか。『偉大なるギャツビ ィ』 の語 り手ニ ック・ キャラウェイ (Nick. Carraway)は ,ア メ リカ人の夢 が 中西部 の何処 かに残 って い るとの希望 を抱 いて,西 に帰 って い ったが,『 夜はや さし』の終章で描かれ る,ニ ュー ヨー ク υ (UniV,Of Minnesota Pr,1961),p.43. 2)Charles E.Shain,F Sε θ″ Fグ 姥gc%α ι.

(5) 岡. 本. 紀. 元. 州 の 田合 町 を点 々 としなが ら,魂 の 暗闇 をさまよう,デ ィッ ク 。ダイヴァーの 失意 の 姿 には,暗 黒 の30年 代 の現 実 の 中 で,失 なわれ たア メ リカ ン・ ドリー ム を手探 りで空 し く求め る,そ の 後 の ニ ックの 姿 が重 な り合 って くるの であ る。. (2) 信仰心 の 抜 け落 ちた後 の い わゆ る成功 の 夢 とは,個 人 の 利益 追求 の欲望 に つ なが る ものにはか な らず ,わ け て も,20世 紀初頭 以後 の 成功 物語 には,フ ラ ン ク リン (Benjamin Franklin)以 来 ,ア ル ジャー神 話 に至 る迄 に 見 られ る 美徳 との結 びつ きは消 え,利 己的 で非情 とも言 え る意志 の 強 さが成功 に至 る 鍵 とな って い る。 だが ,フ ィ ッツ ジェラル ドの 作 品 の 主 人公 た ちには,単 な る富 の 獲得 そ の もの を 目的 とす る夢 は存在 しな い。彼等 に於 て,作 者 の 共感 を得 て い るのは,ひ たむ きな情 熱 であ り,強 烈 な理 想主義 であ る。換 言す れ ば ,「 人生 の希望 に対 す る高感度 の 感受性 」3)を 持 ち,勇 気や 礼儀正 しさを備 え,名 誉 を重 んず る人間 た ちであ る。 フ ィ ッツ ジェラル ド自身, 自分 の価値 観 をささえる信 念 とは,「 秩 序 へ の 熱 烈 な信 仰 ,動 機や 結果 を顧慮 せ ず ,技 4)な の だ と述 べ て い る 術 と勤勉 は どん な世 界 で も通用す るのだ とい う気持 」 が ,彼 に と り,秩 序や ,勤 勉 ,そ して想像 力 な どは,そ の基 本 的 な倫理 観 を 形成す る要素 であ る。. (『. 偉 大 な るギャ ツ ビ ィ』 で, デ イ ジ イ・ ブ キ ャナ ン. (Daisy Buchanan)や ジョーダン・ベ イカー (JOrdan Baker)等 のこ とを無神 経 な人間だ とい うニ ックの批 判 は,彼 女等 に於 て想像 力 の 欠如 を認め て い るに ほか な らぬ 。) フ ィ ッツ ジェ ラル ドの この よ うな倫理観 は ニ ックや デ ィ ックに投影 されて い るの は明 白であ り,世 俗 的成功や 富 の 蓄積 ばか りを 目的 とす るの では な い 3)『 偉大なるギャッビー』 ,第 1章 4)「 崩t表 」(“ The crack― Up")よ. ))。.

(6) 72. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊. 理 想主義 的主 人公 を創 り上 げて い るの であ る。 しか しなが ら,「 有 産 階 級 に は不 信 の 念 を抱 きなが ら も,彼 等 の 身軽 さ と. 5)上 に ,実 生 活 では経 済. 優雅 な生 活 とを手 に 入れ る金 の ため に働 き続 け た」. 観 念 がゼ ロに 等 し く,売 れ っ子 作家 として羽振 りを きかせ て い た20年 代 前半 には,無 造作 に札 び らを き って無軌 道 な毎 日を過 ご して い た フ ィ ッツ ジェラ ル ドに対 して,一 般 大 衆 は,富 に対 す る限 りな い願望 に生 きる人物 とい う印 象 を抱 い て い た として も当然 の こ とで あ った ろ う。 だが ,デ ィ ック同 様 ,い ささか分 裂 症 気味 な ところが あ った とは言 え,彼 の 本質 は,そ ればか りでは あ った筈 が な く,実 は極 め て保 守 的 で 旧 い体 質 を兼 ね備 えて い たの であ る。 彼 は 人が考 え うる限 りの 良 き生 活 を実 際 にお こな うこ とを夢 見 た人間 だ った とい う。 彼 は ギャ ツ ビイ と同 じよ うに,「 人生 の 希 望 に 対 す る高感度 の 感受 性 」 を備 えて い た し,金 持 は そ うで な い者 には望 め な い良 き生 活 をす る機会 に 恵 まれ て い る とい う考 えの 持 ち主 で もあ った 。 そ の 結果 ,富 に よ って得 ら れ る機 会 を充分 に 活用 で きな い金持 に 対す る強 い軽蔑 の 念一― 彼 自身 に言 わ. 6)が 生 れ た 。 この 類 い の せ れば ,金 持 に対 す る 「農 民 の 心 に くすぶ る憎 悪 」 有 閑階級 に対 して,『 夜 はや さ し』 と い う作 品は手 厳 しい批判 を加 えて い る の であ る。更 に も うひ とつ の 結 果 として,デ ィ ックの よ うに,金 持達 の 中 に い て,そ の よ うな機 会 を見 出す こ との で きる知 的 で敏 感 な人物 に対す る作者 の傾倒 ぶ りが挙 げ られ る。 だが 結局 ,フ ィ ッツ ジェ ラル ドは,(殊 に 30年 代 に於 て は )有 閑階級 の 想 像 力 を欠 く残 忍 さ と,彼 等 の 生 活 の 無秩序 さは,常 にデ ィ ッ クの よ うな人間 を打 ち負か して しま うの だ と感 ず るに至 る の だ った 。 『夜 は や さ し』 は. ,. デ ィ ックの 最盛期 にお い て,理 想 的生 活が実現 した有様 が どれ程 美 し く素 晴 しい もの で あ るか を読 者 に示す が ,結 局 ,そ の よ うな生 活 を求 め る想像 力 と 感受性 を持 つ 人間が ,有 閑階 級 の 中 で生 きの び るこ とは不 可能 な のだ, とい 5)「 崩壊」 エ ッセイ 3部 作 中の「貼 り合せ 」(“ PaSung lt Together")よ り。. 6). 同. 上.

(7) 岡 本 紀 元. 73. うこ とを読 者 は思 い知 らされ るこ とにな る。 次章 では,実 際 に作 品 の 内容 に 即 して考 察 してみ た い 。. (3) この物語は ロー ズマ リイ 0ホ イ ト (Rosemary Hoyt)と い う若 い 映画女優 が リヴ ィエ ラ海岸 にある保養地 に到着す る ところか ら始 まるg)彼 女は浜辺に ′ 降 りて い って国籍離脱者 たちの一群 に会 い,そ の 中心に い るデ ィックに心 ひ か れ る。彼女 がデ ィ ックの うちに認めた ものは,彼 の持 つ思 いや りの心,優 雅 な気品,鋭 敏 な感受性 な どであ り,ま たさらにはそれ らの背後 にある強烈 な活力である。「彼女 は (デ ィ ックの 声 の底に )厳 しさ,自 制 ,自 己訓練 と い った もの を感 じとった」 (p。 19)の であ り,そ の声 には「 自分 を大切 に扱 って くれそ うな ところ,そ の うち自分 のために まった く新 しい世 界を開 いて. ,. 素晴 しい可能1生 を次 々に展開 して くれるだろ うと思わせ る ところがあ った」. (p.16)の である。 デ ィ ックが妻 のエ コル (Nicde)の ために,ま た彼等二 人 の 囲 りに集 まる人々 ぐ℃xpatriateゞ り のために準備 す る 1日 は,「 古 い文明世 界の 1日 に似て いて,手 許 にある材料か ら最大 の効果 を挙 げ,ひ とつの行事 か ら次 の行事へ の移 り行 きに十分な価値 を持 たせ るために,問 合 が とってあ った」 (p.21)。 そ の よ うなデ ィ ックの態度 か ら生 まれ るあ らゆる行為 の背後 には,常 に熱意 と無私 の感情が存在 してお り,そ のため ロー ズマ リイは うっ とりとせずには い られなか った。 こ うして創造 され るデ ィ ックの世 界につ いて,作 者 は次の よ うに描写す る。. しば ら くの 間 だ け で もデ ィ ッ ク ・ ダ イ ヴ ァ ー の世 界 に 入 れ て も ら. 7)出 版 された『夜はや さ し』 には 2通 りの版が あるが,こ こでは初 版本 に依 るこ ととす る。 なお引用 は スク リブナー社発行の 1962年 度版か らの ものであ り,引 用文末尾に頁 数 のみ を示す こ ととす る。.

(8) 74. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドームの崩壊 うことは,素 晴 しい体験 だった。 人々は 自分 たちの運 命が とくに誇 るに ` 足るものであるこ とをデ ィ ックが認め, 自分 たち を特別扱 い して くれる のだ と信 じた。彼 はこまやかな心遣 い と丁重 さで,た ちまち人々 1人. 1. 人の心 を把むのだが,そ の働 きかけが極めて素 早 くまた直感的 だったの で,結 果が生 じては じめてそれ に思 い当るとい う具合 だった。O O・ 人 々が 彼の世 界に完全に賛意 を表 してい るか ぎり,彼 の 念頭には彼等 を楽 しませ ることしかない。(pp.27-8). 彼 の 創 る世 界は,今 では失 われ て しまった美 と徳 と充 足 とが完全 に備 わ っ た理 想世 界な の であ る。 デ ィ ックの 夢 は, 自らの ため に,ま た理 想 を失 な っ て国外 に流 浪す る国籍 離脱者 た ちの ため に,い わば ア メ リカ ン 0ド リー ムの 世 界 を創造す るこ とに あ った と考 え られ よ う。 ギャ ツ ビ ィが従事 実現 した月ヽ した 「 父 な る神 の御 業」8)が ,大 仕 掛 けで,け ばけば しい俗 悪 の 美 しさに輝 く 世 界 を創 り上 げ るこ とだ った とす れば ,そ して,そ の世 界に群 が る,星 に集 まる蛾 の よ うな人間 ど もか らギャ ツ ビ ィが 超 然 として い たな らば,デ ィ ック・ ダ イ ヴ ァー の 従事 したそれは, まさに彼等 の ため に理 想世 界 を提供 し,彼 等 を楽 しませ ,彼 等 が 見失 った本 然 の 自己の 姿 を取 り戻 させ てや るこ とだ った の では な い だ ろ うか。 この よ うな世 界 の 主宰者 た るこ とこそ,デ ィ ックの「 自 己につ い ての理 想概 念」ぐ`platOnic concepdon of himser")9)だ ったのである。 あ る意味 で,デ ィ ック・ ダイヴ ァー は,失 われ たア メ リカの 夢 を中西部 に求 め て帰 って い った ニ ック 0キ ャラ ウェ イの そ の 後 の 姿 だ と言 え るか もしれ な い 。 中西部 に求め て得 られ な い夢 を,夢 の 失 われ たア メ リカをさまよい 出 た 流 浪者 た ちの ため に, 自ら演 出者 とな って 創造 してや ろ うとす るニ ックの 姿 が ,デ ィ ックの上 に二重 写 しとな って浮ん で くるの であ る。 デ ィ ックの周 りに群 が る人 々は,金 持 であ るが故 に本来 の 自己 を失 って い 8)『 偉大 なるキャツビ ィ』 ,第. 9). 同. 上. 6章 。.

(9) 岡. 本. 紀. 元. 75. る連 中 ばか りで あ る。金 を所 有 して いれば ,貧 しい者 には望 む べ くもな い 自 由 と完壁 さ とを備 え た理 想 的 な生 活 の 姿 を持 ち得 るに もかか わ らず。 然 るに 彼等 は金持 であ る とい う唯 それ だけ の理 由 で,本 来 の 姿 を失 って い るのだ 。 何故 か 。世 界全体 が そ うだか らだ 。 この よ うな世 界 にお い て,彼 等 に手 を差 しのべ ,刺 激 を与 えて, 自らの あ るべ き本 然 の 姿 を思 い 出 させ るこ とに よ り ,. 彼等 に活気 を取 り戻 させ よ うとデ ィ ックは願 ったの で あ る。 デ ィ ックの 非現 実 的 な夢 の世 界 は,例 えば晩 さん会 の 席上 ,一 瞬 食卓 が 機 械仕 掛 け の 舞踏 台 の よ うに空 に向 って少 しせ り上 った よ うに思 え,そ して. ,. ダイヴ ァー 夫妻 が 突 然 ,暖 か み と輝 きを増 し,心 を開 きは じめ た 。 ま るで それ は 自分 た ちが大切 に され て い るこ とを,既 に何 とな く確 信 し. ,. 丁重 に扱 われ て いい気分 に な って い た客 た ちに と り入 って,彼 等 が完全 に 後 に した世 界 に置 き忘 れ て未練 を残 して い る物 を何 で も償 ってや ろ う として い るか の よ うで あ った 。束 の 間 ,夫 妻 は食卓 に つ い て い るす べ て の 人達 に対 して,そ の ひ と りひ と りに,そ して全体 に語 りか け て友 情 と 愛 を約 束 して い るか に 見 え た 。 そ して そ の 瞬 間,二 人に向け られ た一 同 の顔 は,ク リスマ ス ・ ツ リー を見 つ め る貧 し い 子 供 た ち の 顔 に 似 て い た 。 (p.91). の で あ る。 この ようなデ ィックに ニ ック・ キャラウ ェ ィの姿 が重 な る と先 に述 べ たが ,こ の二 人には,主 として生 来 の 資質 とい う点 で共通す る ものが あ る。 即 ち,デ 子で ィ ックは ,ニ ュー ヨー ク州 バ ッフ ァ ロー の 上 品 だが 貧 しい教 会 牧 師 の 慮、. ,. そ の古 風 で堅苦 しい物 腰 と,「『 よ き本能』 とか礼儀 正 しさ,勇 気 」(p.221)と 呼 ばれ る美徳 とか は父親譲 りだ った とい う点 であ る。彼 は イエ ー ル 大学 に進 み ,ロ ー ズ奨学金 の受 給者 とな り,ジ ョンズ ・ ホプ キ ンズ大学 で,そ してチ ュー リッヒで,精 神病 理 学者 として の教 育 を受 け ,第 一 次 大戦 後 人生 に つ い.

(10) 76. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊. て楽 天的 な夢 を描 きなが ら,医 師 として世 界的名声 を得 た い とい う理 想 に燃 えて い た 。 しか るに,父 親 に犯 され た こ とか ら精神 分裂症 患者 とな って い る ニ コル と出逢 い,治 療 を施 して い る うちに,彼 女 に慕 われ る よ うに な り,か つ , 自分 の 方 で も彼女 の 美 しさに魅 せ られ て しま う。彼女 と結婚 す れば終生 の 重 荷 とな るで あ ろ うこ とを医師 と充分 に 承知 を して い るに もかか わ らず. ,. また,彼 は ニ コル を治養 して もら うため に ウ ォ レン家 が 雇 った 医者 な のだ と 言 わんばか りの姉 のベ ィ ビー (Baby)の 尊 大 な態度 に もかか わ らず,彼 は ニ コル との 結婚 を決意 して しま う。 この こ とは,デ ィ ックの1生 格 の 中 に あ る抑 えの 利 か な い寛大 さ, とい うひ とつ の 弱点 を示 して い る。 (そ う言 え ば ,ニ ック 0キ ャラ ウェ イの性 格 の 最 大 の 特徴 も寛大 さ とい う点 であ った し,彼 は この ため しば しば窮地 に陥 った と告 白 もして い る。)彼 は 「 よ い 人間 で あ り 「 (p.133) た い,親 切 であ りた い,勇 敢 で賢明であ りた い・・・ また愛 された い と願 う人間 であ る。 この 愛 され た い とい う願 望 は,「 長 年 の 妥 協 的生 活 の た め に曖 味 に な った本 来 の 自分 た ちの 姿 を皆 に と り戻 してや った」(p.52)と い う彼 の積 極 的 な姿勢 とは裏 腹 なあ る弱 さ として彼 の 中 に 存在す る。. 例 の,人 を喜 ばせ た い とい う宿 命的 な癖 ,あ の 強烈 な魅 力 が い っぺ ん に よみが え って きて 「僕 を使 って くれ 」 と叫 び声 をあげ るの だ 。 。・・ 愛 され る, とい うこ とはず っ と昔 か ら, 多分 自分 が 減 びゆ く一 族 の 最 後 の希望 だ と自覚 した そ の 瞬 間 か ら,彼 の 習性 に な って い たか らだ。0… 何 よ りもまず 勇敢 で親切 であ りた い と望 み つつ も,そ れ に もま して愛 さ れ るこ とを一 層強 く望 んだ のだ 。今迄 もそ うだ った 。 これか らもそ の と う りだ ろ う。(p.302). と考 え るデ ィ ックは,医 師兼夫 として ニ コル に 対 し,ま た,夢 が一 時 的 に 実 現 した世 界 の 主宰者 として,群 が る蛾 の群 に対 し,光 を周囲 に 投 げか け つつ 我 身 を溶 か してゆ く蝋燭 の よ うな役害1を 演 じ,そ の 活 力 が 衰 えて ゆ く因 をつ.

(11) 岡. 本. 紀. 77. 元. くの である。 その上,デ ィ ックは 自分 の使命 を継続 してゆ く上に必要 な美徳 その ものに 対 して も懐疑的になる。言 い換 えれば, 自分 自身の強 さその ものにつ いて. ,. その裏面 にある弱 さを感 じとって い るのである。彼 は 「 自分 の礼儀正 しさは 心 のごまか しだ」(p。 164)と 言 い, 自らそれ をしば しば利用 しつつ 軽蔑 した と語 って い る。 とい うの も,彼 に 言 わせ ると,そ の ような礼儀正 しさは. ,. 我儘 は不愉快 である とた しなめ る心 ではな く,我 儘 は不愉快 に見え る とい う 反発だ ったか らである。 また彼は こ うも言 う。「ネL儀 正 しい とい う こ とは. ,. すべ ての 人が とて もか弱 いか ら,そ っととり扱 ってや らねばな らな い とい う 事実 を承認す ることだ」(p.177)と 。 そ うして,他 人の顔色にばか り気 をと られた り,人 の虚栄心 を満 た してや ることにばか り汲 々 として生 きて いれば. ,. その他 人の 中に尊敬すべ き点 を見分けることが 出来な くなって しまう,と し ,. 「礼儀正 しい人が 多す ぎる」(p.177)と 断定 す る。 これ は彼 自身の使命観 に つ いての深刻 な懐疑であ り, 自らの うちに何 か うさん臭 い もの をか ぎつ け よ うとす る心 の動 きである。 この ように,現 実世 界 と隔離 した夢 (=理 想 )の 世 界 を創 りあげようとす るデ ィ ックの願 い, とい うよ り,そ の ようなデ ィ ックによって達成 されたか に見え る夢 の世 界には,種 々の崩壊 の可能1生 が秘め られて いたのである。 し か も,そ の世 界が保 って い るバ ランスは,外 部 か らの刺激 に よって簡単 に崩 れ,デ ィ ックの内奥にある活力 も徐 々に涸渇 し始め る危険性 を内包 して いた。 その刺激 とは,一 口で言 うと,現 実 か ら吹 き込む隙間風 の ような ものである。 その刺激 のひ とつ が, ロー ズマ リィ とい うデ ィ ックと共通す る美徳 を備 えた ヽ 理想主義者なのである。蛾 に対 して超然 としていたギャツビィとは異な り,「 ′ 由 のごまか し」 たる礼儀によって彼等 をや さしくとり扱 っていたデ ィックの前に. ,. 蛾な らぬ現実 の健康 な美 しさを持 つ ロー ズマ リィが登場す ると,彼 の眼は蛾 か らは離れて しまう。夢 は覚 醒へ と動 き出そ うとす る。.

(12) 7θ. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊 彼女 (ロ ー ズマ リィ)の 素 朴 さは, ダ イ ヴ ァー夫妻 の 金 のかか った無 邪 気 さに心 の 底 か らの 反応 を示 して い たが ,実 は それが複雑 であ り,邪 心 の 無 い もの では な い こ とに気 づ かず , ・・ ・ また無邪 気 そ うな態度. ,. 子供部 屋 の よ うな平和 と善 意 と素 朴 な美徳 の 強調 も神 々 との懸命 なや り と りを した結果 で あ って,彼 女 には思 い もつ かぬ 苦 闘 を経 て得 られ た も の で あ るこ とに彼女 は気 づ か なか った 。 丁度 この頃の ダ イ ヴ ァー夫妻 は. ,. 外面 的 には まさに最 も富め る階級 の代 表者 だ ったが ,実 際 には彼 女 には まるでわか らないある質的な変化がすでに始 まっていたの であ る。 (pp.21-2). デ ィ ックは皆 の仲 間 に 入 って ラ ンチ テー ブルにつ い た ロー ズマ リィを じっ と見 つ め ,「 長 い 間 に 僕 の 逢 っ た女性 の うちで本 当に花 の 開 くよ うな感 じの 人は あなただけ です 」 (p.22)と 語 かけ るのだ った。 この よ うな心 の揺 れ は. ,. 彼 が 保 ち続 けて きた 自己抑制 が破 綻 を きたす 最初 の徴候 であ る とい える。 隙 間風 の 2番 目は,宿 泊 した ホテル で生 じた殺 人事件 に ま きこまれ て,ニ コル が 発作 を起 こ した こ とか ら,夫 妻 の 間 の 隠 され た真実 を知 った ロー ズマ リィが デ ィ ックの許 を去 る とい う事 件 であ り,更 にデ ィ ッ クに とって の 最大 の衝 激 は,彼 の 分 身 (alter ego)と もい うべ き親友 の 作 曲家 ,エ ィブ ・ ノー ス. (Abe North)が ア メ リカに帰 国 した後 ,仕 事 の行 きづ ま りか らア ル 中 とな り ,. 挙 句 の 呆 てに ニ ュー ヨー クの も ぐり酒場 で殴殺 され た とい う知 らせ を耳 に し た 時 に訪 れ る。 とどめ を刺す よ うにデ ィ ックに届 い たの は,父 の 言卜 報 であ っ た 。 これ らの容赦 な い現 実世 界 の侵 入に よってデ ィ ックの 夢 の世 界は瓦解 の 一 途 を辿 らざる を得 な い 。 父 の 葬儀 の ため 帰 国 して郷 里 の バ ヽ ソフ ァ ロー に戻 った 彼は,次 の よ うに想 い,祈 る。. もはや ,こ の土 地 との 繋 りは無 くな り,再 び ここに立 ち戻 るこ とは あ る ま い と思 えた。彼 は 固 い土 の 上 に膝 まづ い た 。 ここに眠 る人 々 を彼 は す べ て知 って い た 。青 く輝 く眼 を持 った 彼等 の 日焼け した顔 ,や せ た激.

(13) 岡. 本. 紀. 79. 元. 情的な身体 ,17世 紀 の森林 の間に包 まれて新 しい土か ら生れた魂 ,そ れ らのすべ て を彼は知 って いた。 「 さような らお父 さん。 さよ うな ら,祖 先 の 人たちよ」(pp.204-5). この祈 りは,今 やア メ リカか ら永久に失われ た旧き良 き時代 の秩序 に対す る 訣別 の言葉であ り,ア メ リカ ン 0ド リームの消滅 を悼む心 の表われであろう。 デ ィ ックをとり巻 く人々の群 は散 り,彼 の創 った夢 の世 界 もまた砕け散 っ た。彼 自身は 自らの秩序 の保持 に希望 を残す が,結 局,「 活 力 の 損傷 」 の傷 口か ら,彼 の精神的エ ネル ギー が少 しづつ したた り落 ちて,遂 には一滴 も残 ることが無 くなって しまう。友 人のエ ドマ ン ド・ ウ ィル ソンに宛 てた作者 の 手紙で述べ られて い るデ ィ ックにつ いての説明によると,彼 は単なる「失敗 10)ChOmme epuisё ") 者」 ぐhomme manquё ")で はな く,「 精魂尽 き果て し者」 だ とある。 一方,妻 のエ コル はデ ィ ックの活力が衰 えてゆ くの と反比例 して回復 して ゆ く。彼女が完治す るのはデ ィックが完全に消耗 した時である。彼女には もは や 医者 は要 らない。「 ドクター ・ ダイヴァーにはお暇が 出た」(p.302)の であ る。彼 は 自分か ら身 を弓│き , 妻 を トミイ・バ ーバ ン (Tommy Barban)に ゆ だねて,か って, 自分 が夢 の世 界 をうち立てたア ンテ ィヴを後に し,身 ひ と つ でアメ リカに去 る。 アメ リカか らニ コル宛 に時 々彼 の便 りが来 るものの. ,. ニ ュー ヨー ク州 の 田合町 を点 々 として生 きて い るらしい ことしか分 らない。 彼 の生 きる場所は,「 完全 に光 を失 った魂 の暗夜 の 中」 で,「 毎 日毎 日が常 に 夜 中の 3時 」11)な ので ある。 そこは完全な静寂に包まれ てお り,何 の問題 も な く,た だ 自分 の 虐、 す る音ばか りが聞えるのである。夢 の死 減 した世 界であ り,行 き暮れた魂 をや さしく包む夜 の間があるのみである。 10)エ ドマ ン ド・ ウ ィル ソン宛て の手紙 ,1934年 3月. 12日 付。Edmund. ι επ″― ψ (A New Direction Paper book,1956),p.278 `Handb With Care")よ り。 11)「 崩壊」 エ ッセ イ中の 「取扱注意」ぐ. Wilson(ed.),動 θ.

(14) θθ. 『夜はや さし』 とア メリカン・ ドリームの崩壊. (4) η磁渉 の フィッツジェラル ドをモデルに した小説,『 夢や ぶ られて』rttθ Dな θ を書 いたバ ッ ド・ シュルバー グ (Budd SChulberg)は , フ ィ ッツジェ ラル ド の死後 に書 いた「ハ リウッ ドにおけ るフ ィ ッツジェラル ド」 とい う文章 で. ,. 「20年 代 が死 滅 した 時,フ ィ ッツジエラル ドの 中の何かが死んだのだ」 と述 ヽ ノ く t,. 私達 の世 代 は,フ ィ ッツ ジェ ラル ドを 1個 の 作家 として よ りもむ しろ. 1つ の 時代 として考 えて い た。 そ して1929年 の 大恐慌 に よ り伊達 男や フ ラ ッパ ー た ちが失業青年 や低 賃金 で働 く職 業婦 人に変 貌 しは じめ た 時. ,. 私 た ちは意識 して, 多少 は喧嘩 腰 で フ ィ ッツ ジェラル ドに背 を向け たの だ 。O O O彼 を死 ん だ と思 った者 もい た。 私 が彼 を死 んだ と思 ったのは. ,. 彼が そ の価値 を掘 り起 し,そ して また彼 の 価値 を も掘 り起 した時代 が死 ん で しまった こ とに そ の 原 因 が あ る。12). と語 って,ひ とつ の 時代 とひ と りの 作家 の 滅亡 を悼 んだが ,フ ィ ッツ ジェラ ル ドは単 に20年 代 の 繁栄 にあ こが れ ,そ の 時代 の 盛衰 を具 現 して い たの では な い。彼 の夢 はその華 か さに旧時代 のモ ラル を裏打 ち した い と希 求 した ところ にあ った 。 彼 の持 つ 旧 い体 質 と現 実 の 生 きざま との ギャ ップに彼の悲 劇 が 存 在 して い た と言 え る し, また この こ とは,20年 代 とい う停 い一 夜 の夢 の 如 き 時代 に伝 統 的 なア メ リカ ン・ ドリー ムが 実現 したか にア メ リカ人が錯覚 した 悲劇性 に も通 ず る もの と言 え よ う。 1934年 ,『 夜 はや さ し』 が 発 表 され た 直 後 に この 作 品 を読 んだヘ ミン グウ ェ イ は,こ の 時 には,そ れが安 っぽ い告 白調 で 自己憐 lftlに 満 ちた もの であ る 12)引 用は野崎孝訳 『夢やぶ られて』 (早 川書房 )「 あとがき」による。.

(15) 岡. 本. 紀. 元. θf. と難 し,フ ィ ッツ ジェ ラル ドに手紙 を書 い て,「 個 人 的 な 悲劇 な ど忘 れ た ま え。 000傷 つ い ちまった ら,そ れ を利用す るのだ 。 もて あそぶ の では な い。 ・・ ・ 僕 等 は皆 作家 なんだぜ 。僕 等 の仕事 は 書 くこ とだ 」13)と 忠告 した 。 フ ヽしな 亡 ィ ッツ ジェラル ドの 友 人の エ ドマ ン ド・ ウ ィル ソン も彼 の告 白調 を感 ′ か った 。 この 作 品が ,そ して,そ の 後 に発表 され た「 崩壊 」 の エ ッセ イ 3部 作 が ,放 縦 な告 白な どでは な く,魂 と時 代 へ の 探求 であ る と自負 してお り ,. 自己の 絶望 的 な状 態 をさ らけ 出 して,何 らか の 形 で悔 ′ 1麦 の 情 を表 わす こ とは. ,. 彼 に と り必然的 な手段 で しか な い こ とを 自覚 して い た フ ィ ッツ ジェ ラル ドは. ,. 当然 これ ら友 人達 の 非難 に深 く傷 つ け られ たのだが ,絶 望 の 淵 に沈 んだ彼は. ,. この あか らさまな 自己分析 が一 種 の カ タル シ ス とな って,結 局 ,ひ とつ の 境 地 に 到達 す るこ とに な る。「 崩 壊 」 エ ッセ イ の一 つ ,「 は り合せ 」ぐ`PaSing lt. Together")の 中で彼 は「 とうとう私 は一 人の 作実 とな った」 と語 り,図 らず 。 ン グウェ イの 忠告 した姿勢 に な り至 った 自分 を客観 的 に眺め るの であ もヘ ミ った 。処 女作 の F楽 園 の こち ら側 』 (1動 な. Sググ θグ. 2数 ガおの 1920)を 執 筆 し. て い た1910年 代 の 後半 以 来 ,彼 に とって書 くこ とは,い わば 夢 の実現 の ため の 手段 であ り続 け た 。 一切 の夢 が 消 え失せ た今 ,一 個 の 作家 に た ち戻 って ひ たす ら書 くこ と以 外 に 残 され た道 は な い の だ った 。 け でけばけば し く俗 悪 な美 で覆 われ て い た とは言 え, ともか くも20 大仕書卜 年 代 とい う時 代 はア メ リカ人に夢 を もた ら した 。 だが30年 代 以 後 ,ア メ リカ ン・ ドリー ムは 実現 の 可能 1生 をア メ リカ人に対 して遂 に示 唆 し得 なか った。 カー ター 前大統領 は1976年 の就任演説でア メ リカ ン・ ドリーム の 復 活 を謳 い上 げ たが ,無 残 な結果 は周知 の 通 りであ る。未完 に終 った 『最 後 の 大君』 rittθ Lα S′. り の 中で,フ ィ ッツ ジェ ラル ドが試み たのは,現 代 ア メ リカ文 化 恥 cοθ. の 象徴 とも言 え るハ リウ ッ ドにお い て過去 の 栄光 と秩 序 を守 ろ うとして破 滅 す るモ ンロー ・ ス ター (Monroe stahr)へ の共感 と,彼 を圧 迫す る現 代文 明に 対 す る批 判 であ ったのだが , シェ イ ンが 言 うよ うに,彼 が 「ア メ リカ人の典 13)Arthur Mizener, 7物 θfb/Sidc 6/fbttα グ なι(Houghton Minlin co Boston,1965),p.264.

(16) θ2. 『夜はやさし』 とアメリカン・ ドリームの崩壊. 型 を創造」14)し ょ ぅとしたの だ とす れば ,モ ン ロー とは,ま さに 旧秩序 に基 くア メ リカ ン 。 ドリー ムの 実現 に挑 ん で破 れ る最 後 のア メ リカ人 の典 型 であ る と言 え よ うし,そ の 意味 で,フ ィ ッツ ジェ ラル ドと共 にア メ リカ ン・ ドリ tの 如 く消滅 し去 ったの であ る。 ー ム も暗夜 の光. 14)Shain, p 45.

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