トランジスタ時計の駆動電流について
相羽三良
高橋稔
(昭和43年9月12日受理)On the Driving Current of a Transistor Clock
SaburoAIBA MinoruTAKAHASHI Synopsis In this report, the circuit of a transistor clock is analized. Agraphical method of determining the driving current is developed. An ordinary circuit and a circuit having a stabilizing diode are compared. It is shown theo・ retically and experimentally that the driving current in the latter circuit is much less affected by the change of voltage of the dry cell than that in the former circuit. 1. 緒 言 1953年にMarius Lavetにより特許出願されたトラソ ジスタ時計はその後急速に発達普及し,クPックでは従 来のゼソマイ時計を駆逐する勢となった。 トランジスタ時計の特徴は乾電池1個で1年以上動 き,かつ精度が良いこと,接点式電磁時計のような機械的 接点の劣化がなく半永久的寿命を持つことなどである。 トランジスタ・クロックの問題の一つは電池の電圧の 低下による歩度の変化をできるだけ小さくすることであ る。 筆者らは東京トランジスタ工業(株)時計事業部の協 力を得てこの点に関する研究を行ない,一つの成果を得 たのでここに報告する。 2.回路および構造 本実験で使用したトランジスタ・クロックは東京トラ ンジスタ工業(株)製のテンプ式のものである。写真一1 は機械部分の概観を,また写真一2は回路部品,コイルお よびテンプを示す。 図一1は基本回路を,また図一2は電池の電圧低下が歩 度に及ぼす影響を少なくするために1個のツェナー・ダ イオードを挿入した回路を示す。 図一3は発電コイル,駆動コイルおよびテンプに取付け た永久磁石を示す。 この時計では駆動トルクを大きくするためにこのよう な3対の磁石を用いてある。 写真一1実験したトランジスタ時計の機械部分概観 写真一・ 2左:回路部品,コイル 右:永久磁石を取付けたテンプ 5
L, ∫「、, L2 Ll:発電コイル, L2:駆動コイル, C:発振防1卜用 コソデンサ,Eo:1.5V乾電池 図一1基本回路 rlt・|生帯 N ZD 図一2安定化ダイオードを用いた回路 S 一一
¥一一
N Llr性帯 十 12.5 E、, 写真一3 感度:0.1mA/cm,掃引時間:10ms/cm 基本回路を用いた場合のベース電流波形 20 N N Uilt.!liiカコイノレ /ζEsll’コイノレ 写真一4 (a) 図一3 (b) (a)テンプに取付けられた磁石 (b)発電コイルおよび駆動コイル3.実 験結 果
安定化ダイオードを用いない場合と用いた場合につ き,各部の電流波形をシンクロスコープで測定し,写真 に撮った。また電池の電圧を1.6V∼1.2Vの範囲で変化 させて,駆動電流のピークの値の変化を測定し,かつ歩 度の変化を歩度計により測定した。 写真一3および写真一4はそれぞれ安定化ダイオードを 用いない場合の ベース電流ibの波形および駆動コイ ルの電流i2の波形を示す。また写真一5∼写真一7は安 定化ダイオードを用いた場合のib, i2およびダイォー ドを通る電流idの波形を示す。電流波形はすべて10Ω の抵抗を入れ,その両端の電圧として取出した。 感度:1mA/cm,掃引時間:10ms/cm 基本回路を用いた場合の駆動電流破形 写真一5 感度:0.1mA/cm,掃引時間:10ms/cm 安定化ダイオードを用いた場合のベース電流波形 写真一6 感度:1mA/cm,掃引時間:10ms/cm 安定化ダイオードを用いた場合の駆動電流波形トランジスタ時計の駆動電流にっいて 感度:0.1mA/cm,掃引時間:10ms/cm 写真一7 安定化ダイオードを用いた場合のダイオ ードを流れる電流波形 上:発電コイル,下:駆動コイル 写真一8感度:0.5V/cm,掃引時間:10ms/cm 磁石の磁束によりコイルに誘起される起電力 1回の片振れごとに二つの山が現われるのはテンプに 3対の磁石を取り付けた構造による。ここでは主として 2番目に現われる主要な電流波形について考察する。 写真一8は発電コイルおよび駆動コイルに誘起される 起電力の波形を示す。これはコイルの両端を切り,テソ プを自由に振らせてコイル両端の電圧をシソクロスコー プで撮ったものである。 図一8および図一4は電池の電圧と駆動電流の最大値お よび歩度との関係を,安定化ダイオードを用いない場合 と用いた場合につき示している。これよりダイオードを 用いることにより電池の電圧の変化による駆動電流およ び歩度の変化が非常に小さくなることがわかる。
4.理
論 ダイオードを用いない場合には,立上りの短時間を除 き駆動電流の持続時間の大部分において,エミッタ,コ レクタ間の電圧はほとんど0となり飽和の状態にあるこ とが実験的に確かめられた。またその際エミッタ,ベー ス間の電圧降下はほぼ一定である。 したがってこの飽和の状態における等価回路として, 図一5の回路を採ることができる。そこで Es E, sec/day l50 0 一50 一一n00 1.2 1,3 1.4 L5 1.6V Eθ a:安定化ダイオードを用いた場合 b:基本回路の場合 図一4電池の電圧と歩度との関係 R, R2 図一5 トランジスタの飽和時における等価回路 E、, bJ., L,:発電コイルのインダクタソス L2:駆動コイルのインダクタンス M:相互インダクタンス Rl:発電コイルの抵抗 R2:駆動コイルの抵抗 ii:発電コイルを流れる電流 i2:駆動コイルを流れる電流 とすれば,次の方程式を得る。ただしこの方程式は,飽 和状態に達する時刻をt=0にとり,飽和状態から活性 状態に移るt・・= ti<π/ωなるある時刻tlまで成立つよ 五普+R,i−M晋i−−E・+E・si・(・・t+・i)/。) 弗+磁一嘘一莇一E・・i・(t・t+e・)/ ここにE。は電池の電圧,Esはエミッタ,べ一ス間 の一・定の電圧,E,, E2はそれぞれマグネットの磁束に より発電コイルおよび駆動コイルに誘起される起電力の 最大値を表わす。 ただしこれらの起電力を近似的に正弦波とみなしてあ る(写真一8参照)。θ1,θ2は飽和状態に達するまでの時 間による位相のずれを表わす。 (1)をt=0でi1=ii。, i2=i2。なる初期条件のもとに 解くとil−一登+・11si・(t・t+all)+・・2si・(ω∫+α・2) 十Ae一λ1t十Be−’λ2t i・一曇+・21・i・(ω・+α21)+・22si・(ω7+・・22)
旦詰与ゲ・L品蒜玲ぷ
ここに一λi,一λ2は振動数方程式 (LIL2−M2)λ2−(LIR2+L,R,)λ+RIR,=0 の根 一λ1,2= (2) (3) 一(L,R2十L2R1)±∼ノ(LIR2十L2R,)2−4R,R2(L,L2−M2) 2(L,L2−M2) を表わし,また ∫11=Wω2L22+R22 E1/D ∫12=一ωME2/D I2、=ωME1/D I22=一㎡ω2L12+R,2E,/D ここに D= / / (4) (5) V{(M2−L,L、)ω2+R,R、}・+(R、L,+R,L,)・ω・ A,B,α、1,α12,α21,α22等も容易に求めることがで きる。 これらの式にLi, L2, M, R,, R2,ωの測定値 L,=2.46×ユO一2H, L2 ・=2.08×10−2H M=1.55×10−2H R,=670Ω, R2=280Ω tO ==2.2×102 rad/s を代入して計算すると 一Zi=−1.04×104, 一ノし2=−6.63×104 111≒E,/R、, 112≒0, α11≒θ1 12、≒0, 122≒−E2/R2, α22≒θ2 となり,A, Bを含む項も無視できる。したがって .Eo−E2 sin(ωτ十θ2) Z2:=一 一一 R2 となり,写真一4の波形とよく一致する。 すなわち電流を求めるのに,コイルの役割としては磁 石の磁束による起電力だけを考えればよく,L1, L,, M は無視してもよいことがわかる。 L,,L2, Mは電流波形の立上りおよび立下り部分にお いて最も大きな影響を持つはずであるが,ここでもかり に(1)式の右辺のE、,E2を0とおいた方程式のt=0で ii=i2ニ0なる初期条件を満足する解を考えると,それ はexp(一λit)とexp(一λ2t)の項の和で表わされるか ら,時定数は10−4秒程度で電流持続時間(10−2秒程 度)に対し無視できる。したがってLl, L2, Mはこの 部分に対しても無視できることがわかる。実際にはこの 立上り部分はトランジスタの活性領域に対応しているの で,電流の変化は上記の場合より緩かであり,コイルの インダクタンスの影響はさらに少ない。 このようにインダクタンスを無視してよいことがわか ったので,電流波形全体を次のようにトラソジスタの特 性曲線から,図式解法により求めることができる。 ダイオードを用いない場合には,エミッタとベースお よびコレクタの間の電圧をそれぞれ一el,−e2とすると二1憲二謬砥 ll;}
が成立つ。これら両式とトランジスタの特性を表わす 図一6および図一7を用いれば,任意のEo, E,, E2に対 応するiiおよびi2を図式解法で求めることができる。 図一6および図一7において,ibはべ一ス電流, i,はコ レクタ電流を表わし,i,=i2,また発振防止用コンデン サCの容量を小さいとして無視すれば,ib=iiである。 図式解法としては,たとえばE、,e2をパラメータと して任意に与え,(6)の直線をib∼e、のグラフに重ねて 画き交点を求める。これよりel, iiが求まる。 このelに対応する図一7のic∼e2の曲線上であらか じめ与えたe2に対応する点を求めればi2が求まる。s;A −一/lii
1 0 icmA
6 5 4 3 2 1 一〇.2∼−O.8 一〇.1 −O.2 −O,3V e。b el:エミツタ,ベース間の電圧 e2:エミツタ,コレクタ間の電圧 ib:ベース電流 図一6 トランジスタ(2SB176)の特性 el −O.20V 0 −O.2 −O.4 −O.6V e2 ic:コレクタ電流 図一7 トランジスタ(2SB176)の特性 一〇.19 一〇.18 −0.17 −0.16 一〇.14 一一一Z.10トランジスタ時計の駆動電流にっいて id mA 5 4 3 2 1 0 0.4 0.8 1.2V e3 図一8 ツェナー・ダイオードの特性 したがって(7)式よりE。−E,を求めることができる。 この手続きを繰返せば,Eiをパラメータとして, E。−E2とi2の関係を求めることができる。 安定化ダイオードを用いる場合には駆動電流のピーク 時にもe2は一般に無視できるほど小さくならず,飽和 の状態にはならない。しかしこの場合にも前述の考察に より,L,, L2, Mを無視することができる。したがっ て回路の式 一el=E,一(ib+id)Rl r (8) ∫ −e2 :Eo−E2−(tc−Zd)R2 (9)