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森林河川から流出する溶存有機炭素負荷量を推定する数理モデルの開発 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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氏 名 江端 一徳 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工農博乙第3号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年9月27日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第2項該当 専 攻 名 工学専攻 環境社会システム学コース 学 位 論 文 題 目 森林河川から流出する溶存有機炭素負荷量を推定する数理モデ ルの開発 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 西田 継 教 授 坂本 康 教 授 風間 ふたば 教 授 舛谷 敬一 准教授 石平 博 山梨大学名誉教 授 新藤 順子

学位論文内容の要旨

世界では地球温暖化対策が喫緊の課題となっている。森林は海洋に次ぐ炭素貯蔵量を保 持しており、炭素循環を正しく評価するためには、炭素が森林から河川を経由し海域へと 移動する過程の理解が不可欠である。また、河川水中での炭素は水生生物のエネルギー源 であるが、同時に、河川の自浄作用を超えた過剰な流入は有機汚濁を発生させる原因とも なり得る。このように、森林河川から流出する炭素は、地球および地域のどちらのスケー ルの環境問題にも深く関与している。とりわけ溶存有機炭素(DOC)は、環境水に含まれ る炭素の主要成分であり、炭素循環全体で重要な役割を果たしている。 汚染物質の流出負荷量を推定するために一般的に用いられる方法として、流量回帰法(LQ 法)がある。しかし、観測データから得られた回帰式の時空間的なばらつきが大き過ぎる ために、上記のような物質循環の解析に適用することは難しかった。一方、対象物質の環 境中での動きを定式化した、プロセスベースの数値モデルが提案されている。しかし、こ れまでの開発されたモデルは、適用が小流域に限定されている、計算構造が複雑でモデル パラメータの決定が困難である、DOC が発生する土壌とその移動を支配する水文学的要因 の結合が十分でないなどの問題を残していた。また、いずれのDOC モデルも年内変動や経 年変化を表現するにとどまっており、日本のようなアジアモンスーン地域での短期間(イ

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ベントスケール)に降雨流出が卓越する現象を表現できていない。そこで、本研究では、 山梨県の瑞牆山試験流域の上流と下流の 2 地点で取得したデータを用いて、イベントスケ ールに対応し、且つ汎用性のあるDOC 流出負荷量推定モデルを開発することを目的とした (手法の詳細は第3 章に記述)。 第 4 章では、長期観測データをもとに、各種環境水中の DOC 濃度の時系列変化の傾向、 空間分布、水文学的要因の影響を検討した。土壌水のDOC は表層に多く分布し、また、土 壌水と河川水のDOC 濃度は湿地帯において高く、降雨と気温に影響を受けて季節変化して いることが確認された。一方で、これらの濃度について明瞭な経年変化は認めらなかった。 このようなDOC 濃度の空間分布と時系列変化は、流域内の湿潤状態に支配されていると考 えられた。 第5 章では、既往研究で開発された修正型 TOPMODEL を用いて DOC 流出に関わる水文 プロセスを表現し、各種水文量の計算を行った。河川流量について、両地点とも平水時と 出水時のどちらの期間もおいて良好な結果を得ることができた。修正型TOPMODEL から得 られた根群域貯留不足量を用いて土壌水の流速を導出し、さらに、中間流成分をDOC 流出 寄与域を通過した水と見なして、以降のDOC 濃度および負荷量の計算を行った。 第6 章では、土壌中での DOC の動態(土壌プロセス)を移流・拡散方程式で表現した物 理モデルを構築した。11 年間の長期にわたり、土壌水中 DOC の濃度変動を再現し、実測値 と計算値の誤差を 2 倍以内にとどめることができた。特に、降雨に合わせて変動する土壌 の乾湿サイクルを表現することができたことから、降雨流出という短い時間スケールにお けるDOC の河川流出を解析する見通しを得た。 第7 章では、第 5 章および第 6 章の結果を統合し、対象流域における DOC の河川流出負 荷量を推定した。本モデルによる推定精度を検証するために、十分な密度を持つ観測値を 用いて各年毎に作成した流量回帰式から時間負荷量を計算し、実測ベースの負荷量とした。 実測ベース負荷量とモデル推定値との誤差は、平水時では両地点で 2 倍以内、出水時では 上流地点で3 倍以内、下流地点で 2 倍以内であり、過去に行われた森林河川における水質 モデルの研究の中でも高い精度であると評価された。また、出水時の DOC 流出負荷量は 20-40%の高流量期間に年間総負荷量のおよそ半分が流出しており、その傾向は上流で顕著 なことがわかった。モデル解析によって森林河川のDOC 流出に対する高流量期間の寄与が 定量的に示されたのは、本研究が初めてである。 第8 章では、DOC の安定同位体比を用いた混合比解析により、出水時の DOC 流出経路の 変化を定量化し、本研究で開発したモデルで推定した流出寄与域の変化との整合性を検証 した。同位体混合比解析における土壌表層からの流出は、上流が下流に比べて多く、これ

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はモデル解析におけるDOC 流出寄与域からの負荷量の関係と整合していた。 以上より、本論文で開発したプロセスベースの数理モデルは、土壌中のDOC 濃度変化と 降雨に伴うDOC 流出寄与域の変化を組み合わせることで、森林河川における DOC 負荷量 の推定を発展させるものであり、その成果は地球炭素循環の解明と水環境の保全に貢献す ると結論付けた。

論文審査結果の要旨

論文公聴会は、審査委員のほか、約30 名の研究者、学生が出席して行われた。プレゼ ンテーションでは、研究内容を良く整理し、本研究で開発した手法とその適用結果を分 かりやすく説明した。質疑では、主に、開発したモデルの新規性・独自性や、適用可能 性などに関する質問と回答がなされた。これに引き続く論文審査委員会における審査で は、以下のような点が新たな研究成果であり、当該分野において学術的に高く評価でき る功績であると結論付けた。 ・地形と雨量を基本的な入力情報として森林河川から流出する溶存有機炭素(DOC)の 量を推定できる新たな数値モデルを開発した。特に、森林帯におけるDOC の流出寄与 域の概念を導入することで、地形が支配するDOC の潜在量と水文現象が支配する DOC の輸送過程を計算的に結合し、比較的少ないパラメータ調整により時空間的に変動す る河川流出量を合理的に推定する手法を提案した点に高い新規性が認められる。 ・過去に提案された素過程モデルは季節スケールの変動を表現するのが限界であったが、 本研究では降雨流出が発生する短い時間スケールに合わせて、土壌の湿潤・乾燥のサ イクルと流域全体での水文学的変化を良好に再現した。山梨県の瑞牆試験流域で取得 した10 年強の長期観測データを用いて検証を行っていること、計算された DOC 流出 寄与域の変動が安定同位体比による解析結果と整合していたこと、および、国内の他 流域への適用結果は地形的特徴で説明が可能であったことから、本モデルは従来モデ ルにない高い頑健性と信頼性を有していると評価できる。 ・累加河川流量と累加DOC 流出量の関係を解析することで、年間の 3 割程度の洪水期間 にDOC の半量が流出する現象を数値モデルにより初めて可視化した。この結果は、夏 雨型で降雨強度の強弱が顕著なアジアモンスーンの森林流域における DOC 流出量の 評価と管理に対して、重要な方向性を示している。 以上に基づき、同審査委員は全員一致で、本論文の学術的貢献度が高く、博士論文と して十分な水準にあると判断した。

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公聴会に引き続き、口頭による学力等の評価が行われた。一連のより専門的な質疑応 答を通して、論文申請者が関連する研究領域で求められる水文水質観測、統計解析、数 値計算などについて深い知識を得ており、方法論と結果についても客観的に評価できて いることが確認された。 以上のことから、本審査委員会は論文提出者が博士(工学)の学位に相応しい科学的 思考能力と技術的能力、理解力、対話能力および文章力を備えているものと判断した。

参照

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