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科学的な思考力・判断力・表現力を高める理科学習の展開
-理科授業における小・中連携のありかたに関する研究- 太田 聡 1.はじめに 中央教育審議会初等中等教育分科会の資料「小中 連携,一貫教育に関する主な意見等の整理」に述べ られているように,小学校から中学校への進学にお いて,新しい環境での学習や生活へ移行する段階で, 不登校等の生徒指導上の諸問題につながっていく事 態等(いわゆる中 ギャップ)に直面し,小学校か ら中学校への接続を円滑化する必要性から,小・中 連携を推進していこうとする動きは,全国的に見ら れるようになってきている。 小・中連携の実施は,少子化の進行や地域コミュ ニティの弱体化,核家族化の進行など,児童・生徒 の人間関係が固定化しやすいなかで,組織的・継続 的に連携の目的を明確にして取り組み,成果を上げ ることが期待されている。 特に,理科教育に関する視点では,全国学力・学 習状況調査で明らかにされた根本的な課題として, 児童・生徒の自然体験のような直接的体験の不足や, 理科学習への関心・意欲の低下,知識や技能を活用 し物事を多面的・多角的に捉える力の不足などに対 する指導改善の必要性が示されている 。 これらのことから,小・中学校間の接続の改善に 向けた理科指導の工夫の共有化を図り,各校種にお ける科学的な思考力・判断力・表現力の育成に向け, 理科としての連携の柱の充実を目指し,本研究主題 を設定した。 本研究では,本校と隣接する滋賀大学教育学部附 属小学校と連携し,科学的な思考力・判断力・表現 力を高める授業改善のありかたを模索するとともに, 授業実践事例をもとに検証する。 本小・中学校は,同一施設内に校舎が隣接してい るだけでなく,校舎内部でも物理的に接続している。 小・中連携,一貫教育を実施している小・中学校の 校地・校舎の配置は全国的に見ると多様である中, 文部科学省による実態調査によれば「同一施設内に 小学校と中学校を設置しているもの」は全国で小・ 中学校で,およそ 校程度存在すると示されてい る。小・中連携を実施している小・中学校のほとん どが校地・校舎が互いに離れた場所にある学校同士 である点からすると,本校での小・中連携に向けた 立地環境は恵まれているといえる。 とはいえ,各校種での日課や授業の1単位時間が 根本的に異なることから,小・中連携を継続的に実 施する過程で,小・中学校の教員同士の移動や指導 に関する意思疎通に向けた時間確保などの課題があ る。授業交流の計画・実施・振返り・改善に関する 教員同士の打合せなどを頻繁に実施することは運用 上困難であると予想できた。 そこで,本年度はまず,各校種における科学的な 思考力・判断力・表現力の育成の基本となる,探究 的な理科授業に向けた「型」(課題把握→予想→意 見交流→観察・実験の計画→観察・実験→結果に基 づく考察→意見交流→まとめ→活用の一連の授業設 計)を,年度当初に小・中学校間で共有するととも 本論の要旨 空間概念を扱う学習では,実物や具体物に触れさせた観察・実験を取り入れようとするものの,いか にして学習課題を把握させ,実際の現象を,モデルや文章と結びつけて構築させるかが課題となってい た。本研究では,理科授業における小・中連携を通して,空間概念を円滑に接続することを意図したモデ ル操作の実体験を取り入れ,視点の切り替えを促す工夫改善を行った。また,獲得した空間概念を活用 し,生徒自身による説明の場面が生じるような授業改善の在り方を模索した。 「月の運動と見え方」の授業実践において,ディジタルペンなどを活用し,思考過程の可視化を図る とともに,生徒自身の空間概念に関するノートへの記述や,説明による判断場面の検証を試みた。また, 予想に反する事実の提示を通して生徒の判断をゆさぶり,本質的な問いに導く実践事例の開発を行った。 本稿は,小・中学校の教員が互いの立場から連携し,空間認識に関する指導を,系統的・継続的に行 うことで,生徒の思考力・判断力・表現力の質の向上を目指した取組の一例について述べる。 キーワード 科学的な思考力・判断力・表現力,論理的思考,思考過程,ディジタルペン,小・中連携 — 46 —理科 に,小・中学校の理科授業で,児童・生徒が直接的 に触れて扱う効果的な教具・教材の共有化を進め, 各校種での教育目標に即した新たな教材開発および 指導・評価の改善を目指した。 2.研究仮説 ○焦点化した学習課題を設定し,モデルなどを用い た観察・実験を通して,視点の明確化を促し,生徒 の思考過程を可視化・共有化すれば,科学的思考力 ・判断力・表現力の向上が実現できるであろう。 ○中学校理科における探究的授業の「型」を小学校 と共有し,小・中学校共通の教材・教具を活用した 授業実践の工夫・改善を行うことで,児童・生徒が 抱える学習上の不安を軽減し,科学に関する一貫し た資質,能力,態度を効果的に育成できるであろう。 3.研究方法 次の3つの内容について研究を進めた。 モデルを活用した教具・教材の開発と授業実践 科学的思考力・判断力・表現力を伸ばす方策 授業研究の分析 4.研究内容 モデルを活用した教具・教材の開発と授業実践 ①「月の運動と見え方」に関して 「月の運動と見え方」の学習は,理科学習指導要領 における4つの柱のうち,地学的領域に含まれる 「地球」分野の「地球の周辺」に関する学習内容の 中核を担う重要な部分である。 生徒は,小学4年生で「月の形と動き」,6年生で 「月の位置や形と太陽の位置」や「月の表面の様子」 の学習を通して,月の形の見え方が太陽と月の位置関 係によって変わることについて学習している。さらに 中学3年生では,すでに,天体の動きと地球の自転・ 公転や,地球から見た恒星の方角と見え方の関係性に ついて学習している。 本単元では,月に興味・関心を持たせるともに,地 球から見える月が約1ヶ月周期で満ち欠けし,同じ時刻 に見える位置が毎日移り変わっていく現象や規則性を,月 が地球の周りを公転していることと関連付け,科学的にと らえさせることがねらいである。 そのため,月の見え方の特徴を見いださせ,太陽・月・ 地球の位置関係と,月の運動とを関連付けて考察させる学 習活動が重要である。また,月は,地球に物理的に最も 身近な存在であり古来より人間生活に密接に関わっ てきた天体でもある。実際,地球上の数々の自然現象 潮の満ち引きやサンゴの産卵などや,我々の生活や 文化にも大きく影響をおよぼしていることから,広大 な宇宙空間と,日常の空間とを結びつけ,生徒の空間認識 の礎を育成する重要な単元であると考えている。 本単元を指導する際,小・中学校における指導の大 きな違いは,児童・生徒の発達段階の差異により,小 学校では「地球上での天体の見え方の視点」で学習を 展開するのに対し,中学校では観察者の視点位置 を移動させ「宇宙空間での太陽・月・地球の天体の位 置関係を,俯瞰するような視点」へと,視野を拡大し 地球上の視点と切り替えて学習を展開する点である。 空間認識を充分に身につけていない生徒が多くい るなか,小・中学校の指導をつなぐ役割は,活用する 教具や教材の工夫・改善を通して,これらの視点の移 動に関するギャップを埋めることにあると考えた。 そこで,本年度はモデルを活用し,空間概念の接続 の円滑化を扱う教具・教材を開発するとともに,デ ィジタルペンなどを活用した思考過程の追跡を意図 した授業研究を実施し,授業研究を行う中で,小・ 中連携の可能性を模索した。 ②指導計画とねらい 本研究は,指導計画表1に沿って進めた。 特に,第2時の「月の運動と見え方」に関する研 究授業を中心に,一連の学習展開を工夫し,授業改 善を行うこととした。 表1 指導計画 時 ■学習課題/□学習のまとめ (・学習内容) ねらい ■地球から見て,月の表面は「もちをつく ウサギ」に見えるというが,裏側が見え ないのはどうしてか? ・地球から見える月の表面の模様に関心を 持ち,視点を宇宙空間に置くことで,月 の自転と公転の特徴について説明する。 □月の公転周期と自転周期が同じために, 月は地球に表側しか見せない。 月 は 地 球 の 衛 星として,地球の 周 り を 同 じ 面 を 向 け て 公 転 し て いることを,月と 地 球 の モ デ ル を 用 い て 理 解 さ せ る。 ■「菜の花や月は東に日は西に」このとき 見えていた月の形を説明しよう。 ・月と地球のモデルを用いて,条件にあう 地球から見える月の形を推測し,天体モ デルによる検証実験を通して,満月や満 ち欠けをする条件を整理し説明する。 □地球から太陽は西に見え,満月として東 に見ることができる。 太陽・月・地球 の位置関係と,月 の 運 動 と を 関 連 付 け て 月 の 見 え 方を考察させる。 ③「天体」に関する研究授業実践で目指したもの 筆者は,前単元より第 1図のような,実際に手 で扱える大きさの地球に 見立てた球,具体的な地上 の人形モデルなどを活用 し,地球上での見え方や, 方向感覚の基礎を養うた めに工夫した。 第1図 地球上での方向 感覚の基礎を養うモデル — 47 —
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理科 中学校では,天体の学習に関して,生徒自身に越えさせ なければならない課題がある。それは,小学校の既習事項 である地球上の月の形の見え方 と,中学校で扱う太陽・月・地球 の空間的な位置関係とを結びつ け,生徒の視点をいったん地球の 外側に出して推論しなければな らないという課題である。 その際,モデルを活用させる わけだが,各天体の相互の位置 関係について,3次元空間で生 じている事象を2次元平面と 関連付けさせたり,2次元を3 次元に変換して捉えさせたり することが困難である点に留 意して指導に当たる必要があ る。 そのため,使用するモデルは, 地球上での方向感覚を維持し つつ,太陽・月・地球の位置関係 をX天の北極方向からの俯瞰,Y 天の赤道方向からの俯瞰,Z地球 上での月の見え方の3つの視点 間を自由に,しかも連続的に結び つける工夫を要した。 そこで,各天体の位置関係を 観察可能なモデルとして,次の ように視点移動のための環境 Ⅰ~Ⅲを用意した。 Ⅰ:太陽としての光源と月・地 球を同一公転面上に乗せた回 転台を活用した装置・・・地 球を俯瞰するX・Y間の視点に実際に移動し,各 天体の位置関係の観察が可能 Ⅱ:X・Yの各視点から,Zの視点に随時移動可能な 小型カメラの活用・・・地球を俯瞰するX・Yの視点 から地上のZの視点へと移動し実際にどのように 見えているか,リアルタイムに確認することが可能 Ⅲ:Zの地球上での月の見え方を掲示・・・地球上での見え 方を確認することが可能 このように,観察者としての生徒の視点を,擬似的 に宇宙空間内で移動させ,太陽・月・地球の位置関係 を俯瞰できる環境を構築し,考察させることが大切で ある。具体的なモデルや,視点移動のための環境を活用 することで,各天体の位置と地球上から見える月の形との 関係を,それぞれの視点に切り分け,視覚的な情報の共有 を行うことで,具体的な2次元平面上での図示や,3次元 空間での説明を促すことをねらいとした。 ④第2時「月の運動と見え方」に関する研究授業実 践の学習過程 ⑤校内研究との関連 論理的思考を促す具体的な方策として,研究授業 では,次のA・Bの観点から研究を行った。前項 ④の学習過程でも,次の判・ゆ・ツの記号を用いた。 A学習課題設定の工夫 D学習者に関わるもの判断判 ・生徒の意見を吟味する過程で,論理的な思考を深 めさせるために,観察・実験の視点の明確化を行う。 ・結論を理由と事実をもとに生徒自身に説明させる。 D理科教材に関わるもの課題 ・月を観測した当時の情報をもとに,月が地球の周 りを公転していることと,月の満ち欠けとを関連付 けさせながら,モデルや図の利用を通して太陽・月 ・地球の位置関係を考察させ,月の形を説明させる。 D指導方法に関わるものゆさぶりゆ ・学習課題に関して,持論を述べさせるだけでなく, — 48 —
理科 他者の意見を聞く,見る,話し合うなどの学習活動 を行わせること通して,習得方法の複線化を行う。 ・生徒の視点の切りかえを促す発問や言葉がけなど を通して,思考のゆさぶりを行う。 B思考ツール等の活用思考ツール・,&7ツ E思考ツールマトリックス表・考察Yチャー トを利用する。 ・月の見え方に関する予想・根拠,観察結果などを 整理させる。 ・観察・実験結果を踏まえて,月の見え方を判断し た基準を議論させる。 ・視点の明確化による,論理的思考の場面を仕組む。 E実物投影機やタブレットで,モデル実験の様子 を撮影し,スクリーンに投影する。 ・観察・実験の手順や,モデル実験装置を示す。 ・観察・実験を行う際に注意して観察する部分観察 の視点がどこであるかを,生徒自身に示させる。 E空間認識を補うために,天の北極側からの視 点,地球側からの視点,太陽側からの視点を切り分 け,' 天体シミュレーションソフト国立天文台 0LWDNDを併用して,学びを確かにする。 ・観察・実験を通して見出された結果・根拠を全員 で確認し,学習課題に正対する結論を共有させる。 ⑥小・中連携との関連 小・中連携を促す具体的な留意点として,主に次 のような視点を小・中の教員間で共有し,授業研究 を行った。 ○モデルやカメラを使って,室内で宇宙空間をイメ ージしやすくするための空間を再現する。 ○根拠をもった説明ができるように,考えをノート に記述させ,発表を促すようにする。 ○自分の考えを説明する際には,黒板やモデルなど を活用し,具体物を提示することなどで相手にわか りやすく伝えさせるような工夫をする。 ○授業の基本型として,課題に対して根拠をもとに した予想を立てさせる。結果をまとめる段階では, 整理しやすい表などを活用させる。考察の段階では 観察・実験の視点を共通理解させ,学習課題に正対 し,観察・実験での気づきと結果から導き出される 事実・論拠・結論を引き出す指導に留意する。その 際,思考ツールなどを活用し,思考の流れや考察の 手続きを明解なものにする。 ○ディジタルペンなどの,&7を活用し,観察・実験の 視点の明確化や,観察結果や意見などの共有化,思 考の途中段階での学習情報の把握をはかる。 科学的思考力・判断力・表現力を伸ばす方策 ①身近な教具の活用 宇宙空間からの視点を疑似体験するための準備と して,回転テレビ台,ピンポン球,小型地球儀,照明 器具,書画カメラ,視点移動の切り替えが可能な移動 式の小型カメラまたはタブレットを用いて,月の見 え方の観察結果の比較を行わせた。その際,ノートに X天の北極方向からの俯瞰,Y天の赤道方向からの俯瞰, Z地球上での月の見え方に関する考えや結果の記録が残 せるように配慮した第2図。 検証実験の際には,予想に反する結果を示し,違和 感を持たせることで,月食や日食の存在,月の公転軌 道の傾きの存在に気づかせるような展開を行った。 X天の北極方向からの俯瞰Z地球上での月の見え方 Y天の赤道方向からの俯瞰 視点移動用カメラ 第2図 宇宙空間からの視点X・Yと地球上の視点Z を疑似体験するための装置とノート記述 ②ディジタルペンと ,&7 活用スタンダードモデル 本研究を推進するにあたり,鉛筆などと同様の筆記 感覚を有するディジタルペン第3図を生徒の記述 場面に用いて,学習情報の記録・分析に活用した。 第3図 ディジタルペンの授業での活用 — 49 —
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理科 ディジタルペンの長所は,タブレット端末などとは 異なり,紙面上に直接筆記させることから,生徒にと って機器の取り扱いに起因する「思考の分断」を生じ させることが少ない。また,指導者の意図に応じて, 生徒の記述内容に基づいて発言を促したり,生徒の思 考過程を瞬時に共有したりすることが可能となる。 さらに指導者にとっては,授業中の学習情報の把握 だけでなく,授業後にそれぞれの生徒の記述内容や記 述した順序を振り返り,思考過程の分析や指導改善を 図るための道具としての可能性も秘めている。 いっぽう短所としては,生徒がディジタルペンを用 いることで,紙面上での訂正や色分けなどが容易にで きないため,記述場面で少し慎重になる恐れがあると いう点がある。 また,ディジタルペンを全生徒数分確保するとな ると,導入費用が高額になる点も否めない。このこと から,グループ数での導入か,または,筆者が平成 年 年度から開発に着手 し,平成 年 年度滋賀大学教育学部プロジェクトにおいて 汎用的に導入した,,&7 活用スタンダードモデル安 価なタブレットと変換装置の組合せによる,低コス トで高セキュアなネットワーク構築モデルとの併 用が現実的だと考えている。附属小学校の理科室に おいても,この考えに即した小・中共通の ,&7 整備 を進め,新たな理科室環境や授業づくりに向けた合 同の理科教員研究会を定期的に実施した第4図。 第4図 小・中合同研究会 これら ,&7 の特性を活かし,生徒自身の意見や生徒 同士の意見,根拠・事実の共有などを図るとともに, 生徒自身の記述内容や発言が中心となり,学習を展開 できるような授業改善の工夫に関して議論を重ねた。 ③具体的な小・中連携の取り組み 研究内容と実施時期は以下の通りである。 ○小・中学校両校での理科授業の参観および,小学 校での試行的な中学校教員によるティームティーチ ングを通して,発達段階に応じた探究的な理科学習 の指導内容・指導方法・共通教具に関する意見交換 を定期的に行う。 ○共通して研究する単元を絞り込み,小・中学校に おける授業改善の視点を明確にし,共通理解をする ために授業研究会を行う。 ○小・中学校両校での理科授業参観およびティーム ティーチングの機会を増やし,新たな単元の指導内 容・指導方法・共通教具の研究に関して,意見交換 を定期的に行う。 ○小・中学校において,中・長期的な視点で一貫指 導が可能な単元の共通教材を新たに開発し,授業研 究会を行う。 表2 小・中合同研究会の計画 今年度は,表2の計画に沿って,計 回の小・中 合同研究会を実施した。 これらの研究会をふまえて,小・中学校の学習指 導における共通点・相違点の具体的な比較や検討を 行うことができた。 月の運動と見え方の授業をたたき台とし,小・中 学校間の互いの授業参観を通して,両校の立場に視 野を広げ,扱うべき学習内容,各段階で身に付けさ せるべきスキルなど,小・中学校の9年間を見通し 広い視野に立った系統的な学習指導のありかたに関 して,議論することが可能となった。 例えば,月の満ち欠けを扱う小・中学校の授業後 のノート記述第5図に関する考察を次に述べる。 小学生 中学生 第5図 月の満ち欠けに関する生徒のノート比較 学期 月 内 容 前 1 4 ・小・中連携研究会① ・交流授業における児童・生徒調査① 5 6 7 2 8 ・小・中連携研究会② ・交流授業における児童・生徒調査② ・授業研究会(小・中合同授業公開およ び授業研究会) 9 10 後 11 12 3 1 ・小・中連携研究会③ ・研究成果のまとめ作成 2 3 — 50 —
理科 第2図と第5図より,小・中学校ともに,月の満 ち欠けを問う学習課題の導入は,地球上から始まっ ている。しかしながら,小学校においても,中学校 での学習のように宇宙空間を俯瞰する視点は欠かせ ないことが読み取れる。 小学校段階においても,先に述べたX天の北極方向 からの俯瞰,Y天の赤道方向からの俯瞰,Z地球上での 月の見え方に関して,視点移動のための環境Ⅰ~Ⅲを,共 通して整備することが空間認識を育成するうえで効果的 であることが示唆される。 中学校では,第5図の中学生の記述のように,X天の 北極方向からの俯瞰だけでは満月となる説明がつかない ことを足がかりとして,新たな疑問を生じさせ,月食や日 食などが起こるしくみと関連付けながら生徒自身に考察 させると,さらに宇宙空間の広がりについて科学的な概念 形成を行うことができる。 授業研究の分析 研究実践授業の第2時「月の運動と見え方」につ いて,①課題意識の形成,②帰納的推論・演繹的推 論による仮説形成,③科学事象の理解,④科学事象 への興味・関心,⑤学習後の充実感の5つの観点に 基づく生徒の意識調査を表3に示す。質問紙調査は, 1学級の生徒 名を対象として実施した。質問項目 は,4段階評価(肯定を4,否定を1)とし,評価 の数値は学級の平均値を表した。 表3 学習についての質問紙結果 観点 質問項目 評価 ① 課題意識 本時の課題を意識した ② 仮説形成 しっかりと考えることができた 友達の意見をよく聞いた ねらいを持って実験した ③ 科学事象 実験で明らかになったことを, 筋道立てて説明することができた の理解 モデルを使うことで,理解が深 まった ④ 科学事象 への興味 これからの授業への期待が高まった ・関心 ⑤ 学習後の 充実感 授業を終えての充実度 この調査結果から読み取れることは,観点①~③ の値から,生徒は授業に対して課題意識を持ち,他 者の意見も参考にしながら,授業に臨んでいたこと が伺える。また,具体例やモデルを用いた観察・実 験により協働的な学習プロセスを経て仮説形成や, 理解が促された傾向を示している。 しかし,「実験で明らかになったことを筋道立て て説明することができた」という質問に対して肯定 的に回答した割合が,他の質問項目に比べ低かった ことから,今後も継続して論理的思考を促す方策を 改善し,説明や発表を促す場面を充実していきたい。 次に,授業に関する生徒の記述式回答を示す。 <級友に学んだこと> ・自分と異なる視点,考え方。説明の仕方。 <新たな発見や気づき> ・月の満ち欠けの様子と,そのしくみ。 ・上弦の月などの名前があること。 ・級友の意見と自分の意見を表にまとめることで, 相違点が分かりやすかった。 <授業内容> ・月の満ち欠けの位置が変わることがよく分かった。 <モデルを用いた実験> ・天体の動きを視覚的に捉えられた。 ・動きについて,理由も含めてしっかり理解できた。 ・月の満ち欠けについては小学校でやっていたけれ ど,なぜそうなるのか中学校の授業でよく分かった。 ・満ち欠けについて理解し,他の人に説明できた。 5.成果と課題 小・中連携を通して,教員が互いの立場から連携 し,空間認識の向上に関する指導を,系統的・継続 的に行うスタートラインに立つことができた。しか し,モデルを用いた授業を行ったとはいえ,「月の どの部分が照らされているか考えるのが難しかっ た」と回答する生徒もおり,空間認識の育成に向け た教具・教材の工夫改善の余地はあると考えている。 今後の課題としては小・中学校で共通して活用可 能な教具・教材をさらに開発することや,論理的思 考の視点から,記述内容の経時的な変化の分析を進 める研究を通して,生徒自身が学習課題に正対する まとめを筋道立て導き出せるような,理科学習の指 導のありかたを,今後もさらに追究していきたい。 参考文献 小中連携,一貫教育に関する主な意見等の整理 中央教育審議会初等中等教育分科会資料 中学校指導要領解説理科編文部科学省 太田聡科学的思考力・判断力・表現力を高める 理科学習の展開本校紀要第 集SS 本研究の一部は,平成 年 年度下中記念財 団下中科学研究助成金の研究助成および,平成 年 年度深尾理工教育振興財団研究助成金 の研究助成を受けて行った。 — 51 —