書評
守屋國光編『特別支援教育総論:
歴史,心理・生理・病理,教育課
程・指導法,検査法
』
Review of General Theory of Special Educational Needs:History,
Psychology/Physiology/Pathology, Curriculum/ Teaching Methods,
Testing Methods by Kunimitsu Moriya
矢野 正
Tadashi YANO
要旨(Abstract) 本書は,教職科目の「特別支援教育」に関する学術専門書である。自我発達研究者で,大阪教育大学特別支援教 育講座で長年教鞭をとられ,附属特別支援学校校長も歴任された守屋國光大阪教育大学名誉教授・大阪総合保育大 学名誉教授,学術博士(大阪市立大学)が,改めて体系化し直し,教職科目「特別支援教育」に用いることのでき るテキストとして,この度,教育界に広く刊行されたものである。 執筆陣は,超豪華キャストで構成され,守屋國光(桃山学院教育大学教授),山本晃(大阪教育大学教授),金森 裕治(大阪教育大学教授),中村貴志(福岡教育大学教授),杉田律子(兵庫大学短期大学部准教授),西山健(大阪 教育大学教授),井坂行男(大阪教育大学教授),福山恵美子(芦屋大学准教授),藤田裕司(大阪教育大学教授), 吉田昌義(聖学院大学教授),武部綾子(筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭),小田浩伸(大阪大谷大学教授), 徳永亜希雄(横浜国立大学教授),行本舞子(神戸市立福池小学校教諭),平賀健太郎(大阪教育大学准教授),横田 雅史(帝京平成大学教授),上村逸子(元大阪教育大学教授),小坂美鶴(川崎医療福祉大学教授),山下光(大阪教 育大学教授),小西善朗(甲賀市立甲南中部小学校校長),高田昭夫(大阪総合保育大学准教授),須田正信(大阪教 育大学特任教授),富永光昭(大阪教育大学教授),氏間和仁(広島大学准教授)の各氏(カッコ内は,出版当時の 所属)である。 このように優れた特別支援のプロパーの布陣で構成され,各章の執筆が専門分野別にそれぞれになされている。 キーワード:特別支援教育,歴史,心理・生理・病理,教育課程・指導法,検査法Key words:Special Needs Education, History, Psychology / Physiology / Pathology, Curriculum / Teaching Methods, Inspection Methods Ⅰ.はじめに まえがきには,このようにある。「障害児教育に関しては,2007 年 4 月から,障害の程度等に応じ特別の場で指導 を行う「特殊教育」に代わり,障害のある幼児児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う 「特別支援教育」が開始されました。」そして,「特別支援教育とは,従来の特殊教育の対象の障害(視覚障害,聴覚 177
障害,知的障害,肢体不自由,病弱・身体虚弱,言語障害,情緒障害等)だけでなく,LD(学習障害),ADHD(注意欠 陥多動性障害),高機能自閉症等の発達障害も含めて,障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けて,その一人 ひとりの教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な指導 及び必要な支援を行うものであり,共生社会の実現のための重要な基盤を形成するものであります。」と述べられてい る。 さらに,「特別支援教育は,障害者権利条約の理念を踏まえ,共生社会の実現に向けて,「合理的配慮」等の概念の 検討を進め,就学先の決定の仕組みを改めるなど,特殊教育時代の枠組みの多くを外して本来目指していた「インク ルーシブ教育システム」の構築に取り掛かり始めております。」その「インクルーシブ教育システムを構築し有効に機 能させていくためには,特別支援教育に直接携わる教員は当然のことながら,すべての教員が,特別支援教育に関す る一定の知識や技能を有している必要があります。また,保護者,関係機関ならびに地域社会の理解と協力が不可欠 です。」とある。 そのうえで,「本書は,特別支援教育の全容を理解しやすくするために,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不自 由,病弱・身体虚弱,言語障害,発達障害,情緒障害,重複障害のそれぞれの障害ごとに,その歴史,心理・生理・ 病理,教育課程・指導法,検査法を体系的にまとめてみたものであります。」と述べられている。 このように本書は,「特別支援教育」の全体像を初心者や初学者でも学習できるような概論書として,また,障害種 別の学習や領域別の学習を進めていくための入門書として,さらには,教育実践家や研究者のための指針や資料とな る文献などとして,多様な活用が可能なものになっている。本書の頁数からしてもそれは明らかであろう。 そこで,本学が特別支援学校教員免許状の取得及び教職課程の設置が正式に文科省から認可され,2020(令和2) 年度より可能となったことから,今後の特別支援教育の発展のためにも,本書の紹介をこの度,掲載させていただく こととした。 Ⅱ.本書の内容 本書の内容を,「目次」に従って,少しレビューしたい。以下のように,「特別支援教育」分野のすべてをカバーす る内容で,各章が網羅・構成されている。 まえがき 序論 特別支援教育の基礎知識 第1章 共生社会と特別支援教育 第2章 障害児の生理と病理 Ⅰ 視覚障害教育 第3章 視覚障害教育の歴史 第4章 視覚障害者の心理・生理・病理 第5章 視覚障害教育の教育課程・指導法 Ⅱ 聴覚障害教育 第6章 聴覚障害教育の歴史 第7章 聴覚障害教育の心理と支援 178 矢 野 正
第8章 聴覚障害教育の教育課程・指導法 Ⅲ 知的障害教育 第9章 知的障害教育の歴史 第10章 知的障害の原因・分類・特性・心理 第11章 知的障害教育の教育課程・指導法 Ⅳ 肢体不自由教育 第12章 肢体不自由教育の歴史 第13章 肢体不自由児の心理及び発達と実態把握 第14章 肢体不自由教育の教育課程・指導法 Ⅴ 病弱教育 第15章 病弱教育の歴史 第16章 病弱児の心理及び発達と実態把握 第17章 病弱教育の教育課程・指導法 Ⅵ 言語障害教育 第18章 言語障害教育の歴史 第19章 言語障害の原因・分類・特性・心理 第20章 言語障害児の指導 Ⅶ 発達障害教育 第21章 発達障害教育の歴史 第22章 発達障害者の心理・生理・病理 第23章 発達障害児の指導 Ⅷ 情緒障害教育 第24章 情緒障害教育の歴史 第25章 情緒障害の原因・分類・特性・心理 第26章 情緒障害教育の教育課程・指導法 Ⅸ 重複障害教育 第27章 重複障害教育の歴史 第28章 重複障害の原因・分類・特性・心理 第29章 重複障害教育の教育課程・指導法 Ⅹ 検査法 第30章 生理学的検査法 第31章 視覚検査法 第32章 聴覚検査法 第33章 言語検査法 第34章 発達・知能検査法 索引 179 書評 守屋國光編『特別支援教育総論:歴史,心理・生理・病理,教育課程・指導法,検査法』
Ⅲ.おわりに 以上,本書の目次からその内容を紹介・レビューしてきたが,この膨大かつ貴重な資料の編集に携わられた守屋國 光先生は,特別支援教育以前の教育界全体の問題を大いに憂いておられるご様子であられる。「教育は,充実した教育 内容・方法・環境だけでなく,豊饒で健全な教育風土を必要としています。これまでの教育では教育内容・方法・環 境の充実化がもっぱら優先されてきましたが,これからの時代の教育には,教育風土の健全化を図っていく必要があ り,特別支援教育にふさわしい教育風土を醸成していかなければならない」と切に願い,その重要性こそを強く説い ていらっしゃる。 また,「我が国の障害児教育は,セグリゲーション(分離)の時代から,インテグレーション(統合)の時代を経て, インクルージョン(包容)の時代に歩みを進めたところであります。これから構築されていくインクルーシブ教育シ ステムでは,競争原理による教育風土では十分に機能することは難しく,共生原理による教育風土を必要としていま す。」と,日本の社会全体や教育そのものの在り方にも警鐘を鳴らしておられるのである。 「特別支援教育の使命は,共生社会の実現を目指して,インクルーシブ教育システムにより障害のある子どもたち の「生きる力」を育んでいくと同時に,基盤となる教育風土を,「競争一辺倒の教育風土」から「競争〈共生の教育風 土」に修正していくことにあると思います。」と,このことについても,第 1 章で少しだけ触れられてはいるが,守屋 國光先生は残りの人生をかけての「研究テーマ」と考えていらっしゃるご覚悟でもあられるご様子である。 繰り返しになるが,守屋國光先生を師と仰ぐ筆者は,いくつかの小学校での担任教諭の経験もあり,かつ日本 LD 学 会の会員で,特別支援教育士(S.E.N.S)の資格を併せ持っており,小学校の教育現場では「特別支援教育コーディネ ーター」を仰せつかってきた。守屋國光先生からこの本を頂戴したときに,さっそく目を通し熟読してみた。なんと も見事であり,難解な文章を平易に置き換えられており,その素晴らしい内容や構成に,障がいをもつ子どもの指導 や支援に困ったときには,いつでもページをめくり参照することができるものとなっている。本学でも 2019(令和元) 年に,特別支援学校免許状の教職課程が正式に文部科学省に認められた。特別支援学校教諭一種免許状を目指す皆さ んには,ぜひ,本書を手に取っていただきたいと心から切に願うばかりである。
最後に,2020(令和2)年 7 月の現在は,Post Corona や With Corona が叫ばれ、学校をはじめとして社会全体が 「新しい生活様式」への変革が迫られている。Facebook でも,「7 日間ブックカバーチャレンジ」バトン手渡しペー ジが人気を博している。「読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を 1 日 1 冊、7 日間 投稿する」というものが大きく展開されているのである。ここで言う「7 日間ブックカバーチャレンジ」のルールに は,FB 友達にバトンを渡す選択肢の他に,この FB グループにバトンを預ける選択肢も奨励されている。 ①「本についての説明はナシで表紙画像だけアップ」するというもの。 ②その都度 1 人の FB 友達を招待しこのチャレンジへの参加をお願いする、あるいはこのバトン手渡しページに投 稿をシェアしてバトンは手渡しページに預ける。というものである。 みなさんも、ぜひとも with corona の時代を楽しんでください。原典や学術刊行書というものは,知識や学問の世 界を広げてくれますから。 (書誌情報:風間書房,平 27 年 10 月 27 日初版発行,B5 判,全 498 頁,ソフトカバー,税別 3,960 円,ISBN 978-4759920499) 180 矢 野 正